Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
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Case Report Review
A case report on how to use the smoking cessation manual in periodontal treatment: Long-term management of chronic periodontitis case combined with smoking cessation support based on the smoking cessation manual for periodontal practice
Koji Inagaki
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2023 Volume 65 Issue 4 Pages 125-136

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緒言

本邦の成人喫煙率は,2001年男性48.4%,女性14.0%であったが,徐々に減少し,2022年男性25.4%,女性7.7%となり,ほぼ半減してきている1)。しかし,2013年以降,加熱式タバコ(Heated Tobacco Products, HTP)が普及し始め,2016年4月アイコス(IQOS,米フィリップモリスインターナショナル,ニューヨーク,アメリカ),2017年10月グロー(glo,英ブリティッシュアメリカンタバコ,ロンドン,イギリス),2018年7月プルーム・テック(Ploom・TECH,日本たばこ産業,東京,日本),さらに,2020年10月にリル ハイブリッド(lil HYBRID,米フィリップモリスインターナショナル,ニューヨーク,アメリカ)が次々と全国で販売され,年々HTPの種類が増え,使用者が増加している2)。すなわち,HTP喫煙率は,普及し始めた2015年0.2%であったが,2017年3.7%,2019年では11.3%にまで急増してきている3)。また,2019年の調査では,紙巻きタバコに対するHTPの割合は,男性27.2%,女性25.2%を占め,男性6.9%,女性4.8%で両者の併用者が現れ4),さらに,従来からの紙巻きタバコや4種類のいくつかのHTPを併用する多重喫煙者も現れてきているのが現状である5)

歯周治療における禁煙支援の基本的な手順を示すため,日本歯周病学会では,健康サポート委員会からポジション・ペーパーとして,2018年「歯周治療における禁煙支援の手順書6)」を公開した。その後,本邦では,紙巻きタバコに加えて,HTPだけでなく,電子タバコ,無煙タバコ,水タバコが入手可能であることから,5種類のタバコに関する喫煙歴やその蓄積量を加え,禁煙支援 問診票,禁煙支援 評価票7)とその解説8)を改訂し,ホームページに公開してきた。

そこで,本稿では,慢性歯周炎を伴った喫煙患者に対して,改訂した禁煙支援 問診票,禁煙支援 評価票,禁煙支援 再診時問診票を適用した臨床例を呈示し,報告する。

症例

患者:1947年11月生 58歳 男性

初診:2005年12月

主訴:下顎左側臼歯部の歯肉腫脹

1.全身既往歴:28歳時,職場で銅版落下事故に巻き込まれ腰を強打し,腰椎ヘルニアと診断されたが,手術を行い,経過は良好であった。その後,47歳時,左側上肢が挙上困難になり,後膜靭帯骨化症と診断され同部の手術を行った。しかし,55歳頃から,指尖のしびれ感を自覚し,継続していた。さらに,49歳時には,脳梗塞で倒れ,手術を行った。手術直後は右半身麻痺状態であったが,徐々に回復した。また,53歳時には血圧が上昇し(180/120 mmHg),高血圧症にて経過観察中であった。55歳時,通勤途中に右足が動きにくくなり,坐骨神経痛と診断されるも,症状は改善しなかった。その後,56歳時,職場で眩暈と嘔吐に襲われ,搬送されていた。

2.現病歴:10歳頃から口腔清掃時やりんご等の摂食時に歯肉出血を自覚するも放置していたが,35歳頃から年に1度程度,下顎左側臼歯部の歯肉腫脹を自覚するようになった。その後,40歳頃からは,同症状が年2,3回程度になり,48歳時には左側臼歯部での咀嚼が困難になった。52歳時,同部腫脹の頻度が増加し,下顎前歯部の病的移動による空隙を自覚するようになった。58歳時,来科1か月前に同部腫脹がみられ,近在の歯科医院で抗菌薬処方の上,紹介により来科した。

3.喫煙歴:15歳から喫煙を開始し,継続していた。喫煙歴については,本学会の健康サポート委員会から公開している禁煙支援 問診票,禁煙支援 評価票改訂版7)に基づいて評価した。なお,禁煙支援 問診票は,患者了解の下,初診当時を振り返り記入した(図1)。

4.現症:

1)全身所見:身長164 cm,体重60 kg,体格指数BMI 22.3であった。某市民病院にて,ラクナ梗塞,逆流性食道炎の診断下,アスピリン・ダイアルミネートA81錠(バファリン配合錠A81,ライオン),ロキサチジン酢酸エステル塩酸塩徐放カプセル(アルタットカプセル75 mg,あすか製薬)を処方され,服用していた。

2)歯周病所見:歯肉メラニン色素沈着が連続性にみられ,急性炎症も顕著であった(図2)。現在歯数30歯,プラークコントロールレコード(PCR)85.0%,1歯6点計測180部位のプロービングデプス(PD)平均4.5 mm,PD4 mm以上の部位は89部位(49.4%),プロービング時の歯肉出血(BOP)146部位(81.1%),歯周炎症表面積(periodontal inflamed surface area,PISA)2,742.7 mm2で,レントゲン写真上,17,16,15,24,25,27,45,46,47部に,垂直性の歯槽骨吸収がみられた(図3)。また,自覚はないが,口呼吸,クレンチング習癖が認められた。なお,口腔清掃習慣は,1日1回で,夕食後,洗面所,立位で歯ブラシだけを使用していた。

5.診断9):広汎型 重度 喫煙関連歯周炎,二次性咬合性外傷,ステージIII,グレードC

6.病因:

1)全身的因子:喫煙

2)局所因子:プラーク,外傷性咬合,クレンチング

7.治療計画:

1)禁煙支援を含めた歯周基本治療により,炎症性因子と外傷性因子をコントロールする。

2)再評価検査後,歯周外科治療を検討する。

3)矯正治療により,下顎前歯部の空隙歯列の改善を図り,審美的,機能的な咬合を確立する。

4)歯周基本治療,矯正治療後,補綴処置を行う。

5)再評価検査後,サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)に移行する。

8.治療経過:

1)歯周基本治療時の禁煙支援

(1)禁煙支援 問診票(図1)の評価8)

a.喫煙歴の把握:本邦で入手可能な5種類のタバコの喫煙歴を確認する。すなわち,紙巻きタバコ(従来からのタバコ,メビウスやマールボロ等)の他,HTP(アイコス,プルームテック,グロー,リル ハイブリッド等),電子タバコ(myBlu(マイブルー),Juul(ジュール),ビタフル等),無煙タバコ(SNUS(スヌース),VELO(ベロ)等),水タバコ(hookah(シーシャパイプ),shisha(シーシャ)等)である。本症例は,紙巻きタバコの喫煙者であった。

b.身体的ニコチン依存度(Fagerström Test for Nicotine Dependence,FTND)10)の判定(図1禁煙支援 問診票(1)~(6)):ニコチン依存の1つである身体的依存度を判定する。表1に示した配点を合計した点数により,身体的ニコチン依存度の程度が把握できる。一般的に,6点以上(身体的ニコチン依存度が高い)の場合は,禁煙外来への紹介を検討する。6点未満の場合は,歯科医院での禁煙支援への対応が重要になる。本症例は,4点で,軽度の身体的依存度であった(図4)。

c.タバコの銘柄とニコチン量の把握(図1禁煙支援 問診票(7)):タバコの銘柄とニコチン量は,重要な所見ではないが,患者自身に,自分のニコチン量を確認し自覚させる意図がある。

d.喫煙の蓄積量の把握(図1禁煙支援 問診票(8),(9)):喫煙を開始した年齢,定着した年齢とその本数を確認する。患者自身が,思いだして,その経過年数を自覚させる意図がある。また,定着年齢と喫煙本数からブリンクマン指数(Brinkman index)とパックイヤー(pack year)を計算する。なお,HTPのプルームテックはカートリッジ数,無煙タバコは個数,水タバコは回数を記入させる。

喫煙が人体に与える影響は,それまでに吸い込んだタバコ煙の総量と密接に関係する。そこで,1日あたりの平均喫煙本数と喫煙年数をかけあわせたものがブリンクマン指数で,その目安とする。たとえば,1日1箱(20本)のペースで,10年吸い続けた場合のブリンクマン指数は,20(本)×10(年)=200となり,医科の禁煙外来では,35歳以上の保険適用の基準となっている。ブリンクマン指数が400を超えると肺がん,1,200を超えると喉頭がんのリスクが高くなる。たとえ数値が高くても,タバコをすぐにやめるとこれ以上数値は上がらないこと,あきらめないことを伝える。国際的には,パックイヤーが用いられているので,同時に算出する。パックイヤーは,1日に何箱のタバコを何年間吸い続けたかをかけ合わせて計算する。たとえば,1パックイヤーは,1日1箱を1年,または2箱を半年吸った量に相当する。本症例では,ブリンクマン指数15(本)×43(年)=645,パックイヤー15/20 × 43(年)=32.3であった。

e.禁煙経験(図1禁煙支援 問診票(10),(11)):いままでの禁煙経験がある場合は,その回数と最長の禁煙期間およびその方法を確認する。禁煙経験で,いままでの禁煙に対する努力の過程が把握でき,禁煙への行動変容ステージと合わせて,今後の禁煙方法を検討する。本症例は,禁煙経験はなかった。

f.身体的および心理的ニコチン依存度(Tobacco Dependence Screener,TDS)11)の判定(図1禁煙支援 問診票(12)~(21)):WHOの「国際疾病分類第10版」(ICD-10)やアメリカ精神医学会の「精神疾患の分類と診断の手引き」の改訂第3版,第4版(DSM-III-R,DSM-IV)に準拠して,精神医学的な見地からニコチン依存症を診断することを目的として開発された。現在,禁煙外来で保険適用を受ける場合の診断の条件にもなっているので,禁煙外来に紹介する際にも,その点数を伝える。「はい」を1点,「いいえ」を0点として,合計を計算する。10点満点で5点以上の場合,ICD-10診断によるタバコ依存症である可能性が高いと判定し,医科での保険適用の要件の1つになる。したがって,前述のFTNDとTDSが高い場合は,禁煙外来への紹介を考慮する根拠となる。本症例は,「はい」が9項目あり,9点で,ICD-10ニコチン依存症の範疇となった(図5)。

g.禁煙への行動変容ステージ12)の判定(表2)と同居する家族の喫煙状況(図1禁煙支援 問診票(22),(23)):禁煙への行動変容ステージを確認する。全く関心がない無関心期であるのか,すぐに禁煙する予定である準備期であるのかが明白となり,そのステージに合わせた対応が必要になる。また,同居する家族の喫煙状況は,今後の禁煙支援のサポートする際に参考とする。

本症例は,前熟考期(関心期)であり,同居する家族は,非喫煙者で,禁煙支援のサポートの役割を期待できた。前述の本学会の歯周治療における禁煙支援の手順書6)によると,関心期では,「中心は動機づけになり,喫煙によるリスクを,患者ごとの基礎疾患や趣味・関心事に合わせて伝えるとともに,禁煙するとどのようなメリットがあるかについて伝える。患者は,禁煙に対してハードルを自分で高めていたり,禁煙したいけど,したくない(禁煙したら心配である)という両価性の状態にあることを共感し,自信の強化も行う。」と記載されている。

本症例は,47歳時,後膜靭帯骨化症,49歳時,脳梗塞,55歳時,坐骨神経痛等の加療時に,何度も禁煙を促されていた。初診時,禁煙に対して,わかってはいるが,すぐには禁煙しようとは思っていなかった。しかし,前述の手順書6)に基づいた関心期へのアプローチ(表3)により,さんざん,いままでも禁煙を促されていることからも,歯周病治療の機会を機に,やめてみようかなと思いますとチェンジトークをつぶやきながら,当日の治療を終えた。次回,来院時,喫煙状況を確認したところ,2006年1月1日より,禁煙を開始していた。

h.加濃式社会的ニコチン依存度調査票(Kano Test for Social Nicotine Dependence,KTSND)の判定13,14)(図1禁煙支援 問診票(24)~(33)):社会的ニコチン依存度をKTSNDで判定する。社会的ニコチン依存とは,「喫煙を美化,正当化,合理化し,その害を否定することにより,文化性をもつ嗜好として認知する心理状態」と定義されている概念である。KTSNDは,喫煙の美化(嗜好・文化性の主張)(設問25~28),喫煙の合理化・正当化(効用の過大評価)(設問29~31),喫煙・受動喫煙の害の否定(設問24,32,33)を定量化する質問群から成り立ち,喫煙に対する心理的依存の一部を評価する。したがって,KTSNDは単に,喫煙者だけでなく,非喫煙者,前喫煙者,さらに子供まで評価することができる。

KTSNDは,4件法による10問の設問からなり,各設問を0点から3点に点数化し,設問24のみ左から0,1,2,3点,設問25から設問33までが左から3,2,1,0点,合計30点満点で,9点以下が規準範囲になる。点数が高いほど,喫煙の美化,合理化・正当化,喫煙・受動喫煙の害を否定していることになる。禁煙支援に伴い,変化するので,この部分だけは,適宜,評価を繰り返し,暫定規準(治療や指導における目標値)である9点以下をめざす。本症例では,18点で,規準範囲外となった(図6)。

i.歯肉メラニン色素沈着の判定:上下顎前歯唇側の歯肉メラニン色素沈着の判定は,Hedinの分類15)に準じて,3段階(色素沈着なし,孤立した色素沈着,孤立性,帯状で連続した色素沈着,連続性)で判定する。

以上の喫煙に関する問診事項を評価し,禁煙支援 評価票に記入する(図7)。さらに,可能であれば,呼気一酸化炭素(CO)濃度を測定し,禁煙支援 評価票に記入する。なお,呼気一酸化炭素(CO)測定器の配備は禁煙外来の施設条件の一つである。

(2)禁煙支援 評価票(図7

このような過程を経て,患者の喫煙歴に関する詳細が,禁煙支援 評価票に表される。患者への説明,禁煙外来や薬局への紹介時に添付して活用する。

その後の禁煙継続の予後経過は,禁煙支援 再診時問診票に記入し,経過を観察していく(図8)。

最終ゴールは,タバコを止めることであるが,禁煙支援に関わった患者が,「我慢して止めている状態(禁煙)」であるのか,「我慢せず,自然に止めている(タバコが必要ない)状態(卒煙)」であるのかを鑑別することが大切である6,16)。理想的には,喫煙から禁煙の段階を経て,卒煙の域に入る。しかし,症例によっては,喫煙から禁煙の段階を経て,我慢しながら禁煙し続ける場合や,残念ながら,1本の喫煙でも再喫煙に戻ることもある。禁煙も再喫煙も吸いたい気持ちをもっているという点では共通で,それらをもたない「卒煙」が,本来の禁煙支援が目指すべきものである6,16)

禁煙後,患者がいま「禁煙」もしくは「卒煙」のどちらの段階であるのかの判定は,禁煙支援 再診時問診票の(3),(4)により行う。すなわち,他人のタバコの煙(臭い)に関する質問に対して,喫煙を容認する返答(はい)と喫煙を回避する返答(いいえ)にわかれる。前者は,喫煙を容認し,受動喫煙しながら,喫煙欲求を満たしている可能性があり,我慢の「禁煙」と判定する。一方,後者は,喫煙を回避,嫌悪する返答で,「卒煙」と判定する。本症例は,KTSNDは,初診時18点から11点に低下し,喫煙を回避,嫌悪する返答が得られたことから,「卒煙」と判定した(図8)。

2)歯周基本治療からSPT(2008年~)

歯周基本治療開始時,禁煙がスタートし,口腔清掃指導による急性炎症が消退した部位から,ルートプレーニングを繰り返した。歯周基本治療後,2008年よりSPTに移行した。その間やSPT時に,保存困難となった15,24,25,28,46,48部抜歯,その後,16,14を支台歯としたブリッジ,23,26を支台歯としたブリッジ,2021年2月時,31部破折のため抜歯,32,41を支台歯としたブリッジを装着した。なお,下顎右側臼歯部の欠損部は,斬間固定で,経過観察中である。また,クレンチングに対して,咬合調整により早期接触を除去し,舌や頬粘膜の圧痕を確認させ,安静時に口唇を正しく閉鎖するように日常的に意識することを繰り返し指導している。

上下顎前歯部唇側部の連続性の歯肉メラニン色素沈着は,59歳,禁煙1年後から,徐々に消退し,5年後でほぼ消失し(図9),18年後76歳時の歯肉は,健康的な状態が維持されている(図10)。15年後の73歳時までの経過は,健康サポート委員会作成の禁煙支援パンフレット2022「始めよう禁煙!!」17)にも引用されている。17年後(2022年)のSPT時(図11)の口腔内写真,デンタルX線写真および歯周組織検査所見を示した。すなわち,現在歯数23歯,PCR 13.0%,1歯6点計測138部位のPD平均2.8 mm,PD4 mm以上の部位16部位(11.6%),BOP13部位(9.4%),PISA160.4 mm2となった。口腔清掃習慣は,1日2回,歯間ブラシ5分,タフトブラシ3分,歯ブラシ3分の順で,PCRは10%前後を維持している。

図1

禁煙支援 問診票

図2

初診時の口腔内写真(2005年12月)

図3

初診時のデンタルレントゲン写真と歯周組織検査結果(2005年12月)

表1

身体的ニコチン依存度の判定(Fagerström Test for Nicotine Dependence,FTND)

図4

ファガストローム式ニコチン依存度(Fagerström Test for Nicotine Dependence,FTND)の結果

合計4点で,軽度の身体的依存度であった。

図5

身体的および心理的ニコチン依存度(Tobacco Dependence Screener,TDS)の結果

合計9点で,ICD-10ニコチン依存症の範疇となった。

表2

禁煙への行動変容ステージ

表3

関心期への対応例

図6

加濃式社会的ニコチン依存度調査票(Kano Test for Social Nicotine Dependence,KTSND)の判定結果 

合計18点となった。

図7

禁煙支援 評価票

図8

禁煙支援 再診時問診票

KTSNDは,初診時18点から11点に低下していた。

図9

上下顎前歯部の歯肉メラニン色素沈着の推移(9年後まで)

図10

上下顎前歯部の歯肉メラニン色素沈着の推移(18年後まで)

図11

SPT時の口腔内写真,デンタルレントゲン写真および歯周組織検査所見(2022年時,初診から17年後)

考察

慢性歯周炎を伴った喫煙患者に対して,改訂した禁煙支援 問診票,禁煙支援 評価票,禁煙支援 再診時問診票を適用し,歯周基本治療時の早期に,禁煙に成功し,SPTに移行した18年の長期経過を報告した。

歯周治療後の長期予後に影響する因子として,コンプライアンス,喫煙,根分岐部病変,年齢等が関与している6,16,18)。一方,禁煙することで,歯周炎の発症や進行のリスクを下げることが支持されている19,20)。本症例は,長年にわたり禁煙を促されながらも,15歳から58歳までの43年間にわたり,喫煙を継続していた。しかし,禁煙への行動変容ステージは関心期で,すぐには禁煙を考えていなかったにも関わらず,患者の禁煙に対しのハードル,禁煙したいけど,したくないという両価性の状態にあることに共感し,喫煙関連疾患である高血圧症や脳梗塞の再発のリスクを伝えることで,「この際,禁煙してみようと思います。」と宣言し,禁煙に成功し,長期にわたり,禁煙継続することができた症例である。喫煙関連歯周炎に対して,禁煙支援が成功した4年経過症例21)は散見されるが,長期の症例報告は検索する限りではみられない。

本症例は,初診から18年間で,智歯を除いて,5歯喪失した。その内訳は,歯種別では,上顎小臼歯3歯(15部,24部,25部),下顎第1大臼歯1歯(46部),下顎前歯部1歯(31部)で,原因別では,歯周炎の進行4歯(15部,24部,25部,46部),歯根破折1歯(31部)となった。特に,上顎小臼歯は,歯間部の歯根の陥凹が,歯の喪失に関与したと思われた。歯周治療のガイドライン20229)のSPT時のリスクアセスメントに従うと,5 mm以上のPDなし,BOP 9%,骨吸収年齢比0.8,喪失歯数5歯,全身疾患あり,喫煙なしで,6項目中3項目が低リスク,3項目が中等度リスクに該当しているため,今後,慎重にSPTを継続して行っていく必要がある。

なお,本症例報告に際し,口頭と文書にて患者の同意を得た。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
© 2023 by The Japanese Society of Periodontology
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