2024 Volume 66 Issue 1 Pages 9-16
骨組織は,骨吸収と骨形成のバランスにより調節されている。それらのバランス調節は,互いにあたかも連絡を取り合っているかのようにみえるため,この現象は,骨代謝共役(カップリング)と呼ばれる。骨粗鬆症はこの骨代謝共役が破綻し,骨吸収が骨形成を凌駕するために発症する。骨芽細胞由来の破骨細胞分化因子であるRANKL(receptor activator of NF-κB ligand)とRANKLのデコイ受容体であるオステオプロテゲリン(Osteoprotegerin:OPG)の発見1)により,現在では,RANKL中和抗体が骨粗鬆症・癌の骨転移・関節リウマチ患者の骨びらんなどの治療薬として臨床応用されるに至った。OPG遺伝子欠損マウスは,重度の骨粗鬆症を呈すると共に,歯槽骨吸収が著明に認められ,抗RANKL中和抗体やビスホスホネートを投与すると,歯槽骨の再生が劇的に認められた2-4)。一方,我々の臨床研究の結果から,既存椎体骨折を有する閉経後女性(骨粗鬆症患者)は,骨折無しの女性と比べて1.7倍高く歯を喪失することが明らかとなった5)。また,骨粗鬆症患者では歯周病発症リスクが高く6,7),骨粗鬆症治療薬は,歯周病および顎骨壊死のリスクを軽減できる。さらに,歯周病を有する患者において,骨粗鬆症治療薬による大腿骨密度の上昇が抑制されるという結果が得られた8)。つまり,骨粗鬆症は歯周病の増悪因子であると共に,歯周病が骨粗鬆症の増悪因子である可能性が示された。本稿では,破骨細胞の分化の分子メカニズムと歯周病と骨粗鬆症のクロストークについて概説する。
骨組織は,生涯を通じて形成と吸収が繰り返されているダイナミックな器官である。また,骨組織は血清カルシウム値の恒常性を維持するためのカルシウムの貯蔵庫としても重要な役割を果たしている。つまり,骨形成と骨吸収のバランスを保つことは,正常な骨組織を維持するためだけでなく,健康を維持するための必須条件である。したがって,破骨細胞による骨吸収の亢進は,骨粗鬆症,歯周疾患,関節リウマチをはじめとする多くの代謝性骨疾患にみられる骨の破壊を引き起こす。
破骨細胞は骨組織にのみ存在し,高度に石灰化した骨組織を破壊・吸収する。破骨細胞は,マクロファージ系の造血細胞に由来する9)。しかし,骨吸収という重要な目的のために,マクロファージには認められない形態学的ならびに生化学的に特異な形質を有している。破骨細胞の最も大きな形態的特徴は多核巨細胞であることであるが,これらの多核破骨細胞が骨吸収を行っている部位は,骨基質表面がくぼんだ形状を呈し,ハウシップ窩とよばれている(図1)。
破骨細胞は骨基質に接着すると細胞極性をもつようになり,その細胞膜は明帯,波状縁,血管側細胞膜の3領域に区別される。明帯は骨基質との接着に関与する部位であり,その細胞膜にはビトロネクチン受容体であるインテグリンαvβ3が局在し,オステオポンチンなどを介して骨基質に接着すると考えられている。また,明帯には細胞骨格タンパク質であるアクチンフィラメントが網目状に発達しており,アクチンのドットがリング状に集合しているアクチンリングが観察される(図2)。波状縁は細胞膜が細胞質側に陥入してできるヒダ状の構造で破骨細胞が骨吸収を行う部位である。
甲状腺から分泌されるホルモンであるカルシトニン(骨粗鬆症治療薬)は,生体内において骨吸収を抑制することにより,血清中のカルシウム濃度を一定に保つ役割(恒常性)を果たしている。破骨細胞にカルシトニンを処理すると,速やかにアクチンリングが消失し,骨吸収機能をストップする(図2)。
破骨細胞の形態学的および生化学的特徴
多核破骨細胞は,酸(プロトン)とタンパク分解酵素であるカテプシンKを分泌して骨を吸収する。
破骨細胞のアクチンリング
象牙質切片上で培養した破骨細胞をアクチンで染色すると,アクチンのドットがリング状に細胞周囲に認められ(赤色),破骨細胞の移動方向(右側)に向かって三日月状を呈する。骨吸収抑制に作用するカルシトニンを処理すると,速やかにアクチンリングが消失する。緑色のファイバーは,微小管タンパク質のチュブリンである。
将来,破骨細胞となりうる細胞(マクロファージ系の造血細胞)は全身の至るところに存在するのに,破骨細胞はなぜ骨組織にしか存在しないのであろうか。その疑問に答える鍵は,骨組織にのみ存在する骨芽細胞が握っているのではないかと推察されていたが,その本体は永年不明であった10)。1997年,破骨細胞とその前駆細胞はReceptor activator of NF-κB(RANK)を発現し,骨芽細胞との細胞間接触を介して破骨細胞分化因子であるRANK ligand(RANKL)を認識し,破骨細胞に分化することが明らかとなった(図3)1)。骨芽細胞の細胞膜上におけるRANKL発現は活性型ビタミンD,副甲状腺ホルモン(PTH),プロスタグランジン,インターロイキン1,リポ多糖(LPS)などの骨吸収因子により誘導される(図3)。また,骨芽細胞由来のサイトカインであるマクロファージ刺激因子(M-CSF)が破骨分化に必須である11)。
一方,骨芽細胞が分泌するOPGは,破骨細胞分化因子RANKLのデコイ(おとり)受容体であり,RANKLに結合することで,RANKL-RANKの結合を競争阻害し,破骨細胞の分化と骨吸収機能を強力に阻害する(図3)。OPG遺伝子欠損マウスは,破骨細胞の分化が促進され,骨吸収が著しく亢進し重篤な骨粗鬆症を呈する(図4)2)。OPG遺伝子欠損マウスは骨吸収マーカーのみならず,骨形成のマーカーである血中アルカリホスファターゼ(ALP)活性が正常値の4倍も高い値を示し,組織学的にも骨形成の著しい活性化が認められる3)。このように,OPG遺伝子欠損マウスは,骨吸収とカップルして骨形成も同時に亢進する骨代謝カップリングモデルマウスである2,3)。OPG遺伝子欠損マウスに対して骨吸収阻害薬であるビスホスホネートを投与すると,骨吸収の阻害とカップルして,骨形成の亢進もビスホスホネート投与によって完全に正常化される(図4)3)。以上の実験結果より,骨組織においては,骨吸収と骨形成のカップリング現象がアクティブに行われていることが明らかとなった。
さらに,OPG遺伝子欠損マウスの歯槽骨は著しい破壊が認められ,歯槽骨には酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(Tartrate-Resistant Acid Phosphatase:TRAP)陽性の多核の破骨細胞が多数出現する。しかし,RANKL中和抗体を投与すると,歯槽骨の再生が著明に認められた4)。我々は,骨細胞由来のOPG産生が,骨の石灰化組織の結晶化状態を保っている結果を明らかにしている。この実験結果は,骨細胞由来のオステオプロテゲリンは,その命名の通り,骨(オステオ)を保護(プロテクト)している可能性を示している。
破骨細胞の分化と骨吸収機能を制御する破骨細胞分化因子RANKL
破骨細胞の分化には,骨芽細胞由来のRANKLとM-CSFが必須である。RANKLのデコイ受容体であるOPGは,破骨細胞の分化と骨吸収機能を抑制する。
破骨細胞と骨芽細胞による骨代謝カップリング平衡状態
OPG遺伝子欠損マウスにおいては,骨吸収が骨形成を凌駕し,重篤な骨粗鬆症を呈する。OPG遺伝子欠損マウス(大腿骨)において認められる立方形大型の活性化骨芽細胞(中央赤矢印)は,ビスホスホネート投与により消失する。
ヒトの骨格は,成長期において大きさを増すが,その基本的な形状に著しい変化はない。このような形状を維持して成長する機構を「モデリング」という。しかし,ヒトの骨格は,骨の成長が停止した後も絶えず古い骨から新しい骨に入れ替わっている。その変化は顕微鏡で観察されるレベルであるが,破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成の均衡を保ちながら再構築を繰り返している。そのため,骨は常に一定の骨量を維持する。このように,既存の骨が吸収され,その部位に新しい骨が形成され,元の形状が維持される現象を「リモデリング(改造)」という。
繰り返しになるが,骨組織は,吸収と形成が絶えず繰り返される動的組織で,破骨細胞による骨吸収に続き,骨芽細胞が正確に吸収部位に骨を作る。そのため,骨組織の形と量は生涯維持されている。これがカップリングと呼ばれる現象である。骨粗鬆症や歯周病では,骨代謝共役は破綻し,吸収量が形成量を上回るために骨量は減少する。そのため,これらの疾患では,骨吸収を抑制することが重要な治療法となる。
Wntは骨芽細胞のβ-cateninを活性化して骨形成を促進する。そして,骨細胞はWntを阻害するスクレロスチンを産生する。すなわち,骨細胞は骨芽細胞の増殖や機能を抑制する因子としてスクレロスチン(遺伝子名Sost)を分泌する。メカニカルストレスやPTH投与はスクレロスチンの発現低下とリソソームでのスクレロスチンタンパク質の分解を介して,骨形成を促進する。しがって,抗スクレロスチン抗体は,骨形成を促す骨粗鬆症治療薬として臨床応用されている。
我々は,スクレロスチンの発現調節を介して,骨吸収から骨形成へのカップリングが行われている可能性があると考え,その可能性について検討した。その結果,骨吸収亢進マウス(RANKL-高発現トランスジェニックマウスおよびOPG遺伝子欠損マウス)の脛骨において,対照マウスと比較してスクレロスチン発現が著しく低下していた12)。また,抗RANKL抗体投与により骨吸収は抑制され,両マウスで低下していたスクレロスチン発現は増加した12)。
正常マウス脛骨において,スクレロスチンと破骨細胞のマーカー酵素であるTRAPの二重染色を行うと,スクレロスチン陽性の骨細胞は破骨細胞の近傍には存在しない所見を得た(図5)13)。つまり,破骨細胞が骨細胞のスクレロスチン発現を抑制する可能性が示された。そこで,破骨細胞の分泌するスクレロスチン発現阻害因子を探索した結果,LIF(白血病抑制因子)が骨細胞のスクレロスチン発現を抑制し,骨形成を促進することが明らかとなった12)。
以上の実験結果から,骨代謝カップリングにおける骨細胞由来のスクレロスチンの重要性が明らかとなった。さらに,スクレロスチン欠損マウスは,モデリング依存性骨形成のみならず,リモデリング依存性骨形成においても優位な状態を呈していることが明らかとなり,抗スクレロスチン抗体の骨粗鬆症治療への重要な知見を提供した14)。
骨細胞マーカーであるスクレロスチンと破骨細胞のマーカーである酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ(TRAP)の二重染色
スクレロスチン陽性の骨細胞は破骨細胞の遠隔に存在し,破骨細胞の近傍には存在しない。
歯周病と骨粗鬆症の関係を明らかにするために,閉経後女性歯周病患者の歯周病態と骨粗鬆症所見の関連性が検討されてきている15)。対象は慢性歯周炎の閉経後女性であり,正常群と腰椎骨萎縮群の2群に分けて比較した。評価した口腔内所見は,現在歯数・プロービングデプス・クリニカルアタッチメントレベル・プロービング時の歯肉出血率・歯槽骨吸収率である。その結果,閉経後女性における歯周病の進行と腰椎骨萎縮との関係が示唆され,骨粗鬆症所見に留意して閉経後女性の歯周病治療を行う必要性があると考えられた15)。
顎骨壊死は,ビスホスホネート製剤による発生事例が2003年に初めて経静脈製剤使用の癌患者で報告され,その後2004年に経口製剤使用の骨粗鬆症患者で報告された。当時はビスホスホネート製剤特有の事象と考えられ,BRONJ(Bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaw)と呼ばれていたが,その後,抗RANKL抗体製剤でも顎骨壊死の発生事例が報告されたことから,ARONJ(Anti-resorptive agents-related ONJ)の名称が用いられることになった。更には2023年の最新の日本のポジションペーパーでは,ビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体製剤を主体としながらも,血管新生阻害剤や免疫抑制剤等の多様な薬剤が関連することから,MRONJ(Medication-related ONJ)の名称を用いることとなった。
骨粗鬆症患者におけるARONJの発生については報告により様々であるが,ONJ国際タスクフォースの見解によると,患者10万人年当たりの発生は,経口ビスホスホネート製剤では1.04~69人,静注ビスホスホネート製剤では0~90人,抗RANKL抗体製剤では0~30.2人とされている。また,窒素含有ビスホスホネート製剤治療を受けている骨粗鬆症患者におけるONJの発生率は0.001~0.01%であり,一般人口集団と比べてもほぼ同様かごくわずかに高い程度と推定されていた16)。しかし,最新の広島県呉市の報告では,骨粗鬆症患者におけるONJ発生率は,ビスホスホネート製剤で患者10万人あたり年間135.5人,抗RANKL抗体では10万人あたり年間124.7人と報告されており,双方0.1%の発生率に相当する17)。これはオホーツク医療圏における前向き多施設共同研究の結果と一致する18)。つまり現状は台湾(250/10万人年)に次いで世界第2位のONJ発生率となっているが,日本で医療連携体制が最も整備されている呉市でONJが多い理由は明らかになっていない。ただし日本における顎骨壊死抑制のヒントがここに隠されている。
ARONJの発生メカニズムについては,十分解明されていないが,ARONJが顎骨のみに発生する理由として,顎骨は身体の他の部位の骨と比べ易感染性環境下にあることが深く関与していると考えられている。さらに,歯周病などの炎症がある場合や,抜歯などの侵襲的歯科治療を行う場合は,さらに感染リスクが高くなる。ARONJのリスク因子である歯周病は加齢とともに進行するが,その増悪因子として骨粗鬆症も関係していることが明らかとなってきた19,20)。歯周病の有無と骨粗鬆症リスクの関係を調べた研究結果によると,口腔衛生状態が不良な歯周病患者が骨粗鬆症を有する修正オッズ比は歯周病を有しない患者に比して6.02を示したが,口腔衛生状態が良好に維持されている歯周病患者が骨粗鬆症を有する修正オッズ比は1.29を示した21)(図6)。この結果は,骨粗鬆症患者での歯周病増悪リスクは,口腔内の衛生状態,すなわち局所的因子に左右されることを示している。
我々の研究結果によると,定期的な口腔衛生管理の下で骨粗鬆症治療薬であるビスホスホネート製剤が使用された場合,歯周病(慢性歯周炎)および根尖性歯周炎のリスクが低下することが示された22)。Penoniら23)もビスホスホネート製剤は骨粗鬆症のみならず歯周病を改善すると報告している。歯周病は顎骨壊死のリスク因子とされていることから,骨粗鬆症治療中の顎骨壊死予防のためには,日々の口腔ケアと歯科での定期受診(3か月毎)による感染巣の除去が推奨される。日本骨粗鬆症学会A-TOP試験結果によると,骨吸収抑制薬中止により顎骨壊死頻度は低下せず,むしろ増加傾向にあった24)。顎骨壊死の本態は骨髄炎であり,その後,腐骨形成したものと考えられている。顎骨壊死の発生率は,ドイツやカナダで極めて低いが,これは緊密な医科歯科連携による歯周病を含めた歯科疾患や骨粗鬆症に関する相互教育が背景として関与していると考えられる。一方で上述のように,医療連携体制が十分な日本の地域でも顎骨壊死発生率が高いのは,日本の高齢化率のみならず,高齢者での歯周病等の感染巣の十分な制御ができていない可能性がある。
我々が参加した長野コホート研究(50歳以上女性843名)によると,既存椎体骨折を有する女性患者の補正平均現在歯数は,骨折無しの女性と比較して,有意に低い値を示すことが明らかとなった5)。さらに,その後平均4年間の追跡(655名)調査によると,既存椎体骨折を有する閉経後女性は,骨折無しの女性と比べて1.7倍高く歯を喪失することが明らかとなった(図7)5)。
それでは,なぜ骨粗鬆症患者においてより多く歯を失うのであろうか。韓国における12万人の調査および中国における210万人の観察研究の統合解析によると,骨粗鬆症と診断された患者は骨粗鬆症が無い対照群に比較して,約2倍慢性歯周炎に罹患するという結果が得られている6,7)。また,米国における164万人のデータ解析によると,骨粗鬆症患者は約3.4倍のリスクで根尖性歯周炎を有する25)。
逆に,歯周病は骨粗鬆症の増悪因子なのであろうか。Anbinderら26)は卵巣摘出モデルマウス(骨粗鬆症モデル)と卵巣摘出+歯周病モデルマウスを比較し,後者で大腿骨と下顎骨の骨量が有意に低下したと報告した。台湾における8万人を超える6年追跡調査によると,慢性歯周炎の重症度と相関して骨粗鬆症が発生したという27)。日本骨粗鬆症学会A-TOP研究(閉経後女性3670名)では,歯周病を有する患者において,骨粗鬆症治療薬による大腿骨密度の上昇が抑制されるという結果が得られた8)。以上の研究結果から,歯周病は骨粗鬆症の増悪因子であると結論できる。
歯周病患者における骨粗鬆症リスクの上昇(多項ロジスティック回帰分析,調整因子:年齢・性別・併存疾患)21)
歯周病患者は骨粗鬆症を有するリスクが高いが,良好な口腔衛生状態を維持した場合,歯周病患者が骨粗鬆症を有するリスクは低下する。
長野コホート研究による補正平均現在歯数
既存椎体骨折を有する閉経後女性は,骨折無しの女性と比べて1.7倍高く歯を喪失する。
骨組織はダイナミックに躍動している。すなわち,破骨細胞による骨の吸収と骨芽細胞による骨の形成が絶え間なく繰り返されている。この骨吸収と骨形成のカップリング機構により,力学的なストレスに耐えられる弾力性を有する強固な骨組織が形成される。
骨粗鬆症患者では歯周病発症リスクが高く,骨粗鬆症治療薬は,歯周病の発症を軽減できる。さらに,歯周病を有する患者において,骨粗鬆症治療薬による大腿骨密度の上昇が抑制される。つまり,骨粗鬆症は歯周病の増悪因子であり,歯周病は骨粗鬆症の増悪因子である。
今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。