Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
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Periodontal care by the improvement of lifestyle toward Health Japan 21 (the third term)
Ryuji SakagamiYasunori YoshinagaTakashi KanekoAtsushi Nagai
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2024 Volume 66 Issue 2 Pages 60-66

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1. はじめに

歯周病は歯と歯周組織に付着したバイオフィルムを原因とする炎症性疾患であるが,その発症予防と治療においては口腔環境のみならず生活習慣や全身の健康状態の改善が重要である。本稿では,健康日本21(第三次)1)における歯周病の位置づけ,歯周病の病因論における生活習慣,口腔内環境と腸内環境との関連性,生活習慣病としての歯周病のケアについて概説する。

2. 健康日本21(第三次)における歯周病の位置づけ

2024年度から始まった「二十一世紀における第三次国民健康づくり運動(健康日本21(第三次))」は2035年度までの12年間とされており,2013年度から続いた健康日本21(第二次)の全面改定となった。健康日本21(第三次)では,「全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現に向け,誰一人取り残さない健康づくりの展開(Inclusion)と,より実効性をもつ取組の推進(Implementation)を通じて,国民の健康の増進の総合的な推進を図る」と記されている(図1)。さらに具体的な目標として,健康寿命の延伸と健康格差の縮小,個人の行動と健康状態の改善が揚げられている(図2)。個人の行動と健康状態の改善に関しては,「栄養・食生活,身体活動・運動,休養・睡眠,飲酒,喫煙及び歯・口腔の健康に関する生活習慣の改善(リスクファクターの低減)に加え,これらの生活習慣の定着等による生活習慣病(NCDs:Noncommunicable Diseases)の発症予防及び合併症の発症や症状の進展等の重症化予防に関し,引き続き取組を進める」としている。

生活習慣病(NCDs)には,がん,循環器疾患(脳卒中,心臓病など),糖尿病,COPD(慢性閉塞性肺疾患)の4つが含まれるとされる。健康日本21(第三次)においては,歯周病は生活習慣病(NCDs)として定義されていないものの,「歯周病は糖尿病や循環器疾患等の全身疾患との関連性も指摘されていることから,その予防は生涯を通じての重要な健康課題の一つであるとされ,歯周病を有するものを減少させることにより全身の健康の保持・増進に寄与する」としている。一方で歯周病を生活習慣病の1つとみなすという考えは歯科界においては受け入れられており,2018年に日本歯科医学会から出された「歯周病の診断と治療に関する基本的な考え方」においても,また2022年に日本歯周病学会から出された「歯周治療のガイドライン2022」2)においても「歯周病は生活習慣病として位置づけられる」としている。

図1

健康日本21(第三次)のビジョン 図は1)の厚生労働省ホームページより

図2

健康日本21(第三次)の概念図 図は1)の厚生労働省ホームページより

3. 歯周病の病因論における生活習慣について

歯周病の原因は歯と歯周組織に付着したバイオフィルムであり,細菌に対する生体の炎症反応によって病変が進行する。歯周病のリスク因子は,細菌因子,宿主因子,環境因子の3つのカテゴリーに分類される。環境因子には生活習慣が含まれ3,4),細菌因子には,歯肉縁下の細菌構成が歯周病原菌として関与している5)(図3)。

近年LoosとVan Dykeによって,「総括的な複数因子モデル」が提唱されている6)。このモデルでは,歯周病の原因が歯と歯周組織に付着したバイオフィルムであるとする基本的な考えは変わっていないものの,歯周炎はバランス失調をきたしたバイオフィルムに対する異常な生体反応であり,過剰な反応,過小な反応,消炎しない状態などの異なったプロセスで歯周組織の破壊が生じるとしている。彼らは歯周炎の原因因子を「環境(歯肉縁下細菌叢のバリエーション)」「遺伝・エピジェネティクス」「全身疾患,健康状態」「生活習慣」「その他の因子(咬合など歯に関連する因子)」の5つに分け,この5つの因子の構成比率が患者個人において異なるとしている(図4)。それぞれの因子は,独立して存在するのではなく互いに影響し合う。さらにある原因に対応する結果(病態)はノンリニア(一定に対応しない)であり,それゆえ予測を立てることは非常に難しい。このモデルでは図4下段に示すように,患者ごとに遺伝の因子が優位な例や,生活習慣の因子が優位な例を想定することは可能と考えられる。

図3

歯周病のリスク因子

リスク因子は細菌因子,宿主因子,環境因子の3つに分類されるが,すべてのリスク因子が明瞭に振り分けられるわけではない。図は3,4,5)を参照に改変

図4

総括的な複数因子モデル

すべての歯周炎患者は,5つの因子を多かれ少なかれ有している。図のパイチャートに示すように,「遺伝」の因子が優位な例と,「生活習慣」の因子が優位な例を想定することは可能と考えられる。図は6)を参照に改変(注:因子の構成比率の具体例については原典の記載がないため,読者の理解を助ける目的で執筆者が任意に割り振っている。)

4. 口腔内環境と腸内環境の関連性について

口腔内のバイオフィルムに関しては,近年,口腔内のみならず腸内の細菌叢との関連において考察されるようになっている。

腸内細菌叢を良い細菌叢のバランスに保つことをシンバイオシスsynbiosisとよぶ。逆に,菌種数の減少(腸内細菌の多様性の減少・単純化)や少ないはずの菌種の異常増加,あるいは通常優性菌であるはずの菌種の減少などをディスバイオシスdysbiosisとよぶ。歯周炎においては,歯周ポケット内においてディスバイオシスが生じるが,そこでは「キーストーンkeystone」として働く細菌が増殖することが1つの要因と考えられている。キーストーン細菌は,それ自身は多くは存在しなくても,周囲の細菌に影響を与えることによって細菌叢全体の変化を安定化することができる。例えばPorphyromonas gingivalisは周囲の常在菌の増殖を補助してディスバイオシスを誘導し,炎症を誘発持続させることが歯槽骨破壊につながる7,8)

歯周病における歯周組織破壊には多くの炎症性細胞が関与するが,Th-17細胞はとくに重要な働きをしており,これから放出される炎症性サイトカインが骨芽細胞や歯根膜細胞に作用し,RANKL発現を介して歯槽骨吸収を生じることが示されている9-12)。近年P. gingivalisに感作されたTh-17細胞が口腔内から腸管へ13),逆に腸管から口腔内へ移行すること14)が報告されており,病変進行のメカニズムを口腔免疫に留めず腸管免疫との相互作用にも拡げる見方が出ている。

腸内環境と全身の健康については,例えば腸内のクロストリジウム属細菌は酪酸をはじめとした短鎖脂肪酸を生成し,これが制御性T細胞を誘導することによってTh-17細胞による免疫の暴走を抑えることが分かってきた15)。実際に「潰瘍性大腸炎」や「クローン病」の患者の腸内細菌叢にはクロストリジウム属細菌が極端に少ないために免疫の暴走が生じやすいとの報告がある16)。マウスを用いた動物実験では,クロストリジウム属細菌の腸内への移植によって制御性T細胞の増加を認め,これを自己免疫疾患やアレルギーの治療に結びつけようとする試みがなされている17,18)

ヒトの腸内細菌叢の成立過程は自然分娩であれば産道の通過時にはじまり,その後に各個人にオリジナルの細菌叢が獲得される19)。このため,すでに腸内細菌叢が確立した成人に対しては,細菌叢の構成を変えることは容易ではない。プロバイオティクスprobioticsとは「生きた微生物の適量摂取によって宿主の健康に寄与する」ことである。プロバイオティクスとして経口摂取された菌は腸内環境を改善することによって,消化を助け栄養吸収を容易にし,さらに免疫力を高める効果があるが20,21),効果は一時的で摂取を中止すると細菌叢は元の状態に戻ってしまう。一方,プレバイオティクスprebioticsとは「non-viableな食物の摂取によって細菌叢を調整して宿主の健康に寄与する」ことで,シンバイオティクスsynbioticsとはこの2つを組み合わせたものである。さらに,ポストバイオティクスpostbioticsとは,消化した後に残る「宿主に健康上の利益をもたらす生きていない(死んだ)微生物および/またはその成分」である。プロバイオティクス,プレバイオティクス,シンバイオティクス,ポストバイオティクスの4つ全てが腸内細菌叢を調整し,生活習慣病に影響を与える20,21)

日常的に行う口腔清掃は局所の菌叢を変えるとともに,唾液や食材とともに腸内へ送り込まれる細菌の総数を減らす効果が期待される。口腔内から嚥下された歯周病原菌は腸管内に定着するのか,一定の働きの後に腸管を通過して排泄されるのかは未だ定かではないが,健常人においては口腔内細菌と同じ菌株が便中に見つかっている22)。重度歯周炎患者の唾液には,P. gingivalisが106/mlレベルで含まれているとされ23),恒常的に腸管へと送り込まれる。唾液とともに,または食材とともに嚥下された菌の一部は,胃酸による殺菌を免れて生きたまま腸管に達する。空腹時の胃内はpH1~1.5であるが,食後はpH4~5程度となり,プロトンポンプ阻害薬の服用者ではさらに胃酸の働きが阻害される24)。また,嚥下された菌は胃酸などによって死菌となったとしても,その成分の一部は抗原性を持ったまま腸内に達するため,生菌,死菌とその産生物が提供されることになる。

5. 生活習慣病としての歯周病の発症予防と治療

健康日本21(第三次)では,生活習慣病(NCDs)の発症予防と治療には,「栄養・食生活,身体活動・運動,休養・睡眠,飲酒,喫煙及び歯・口腔の健康に関する生活習慣の改善(リスクファクターの低減)が必要であるとしている。また歯周病はがんを含め,多くの生活習慣病と密接に関わっている25)。歯周病を生活習慣病の1つとして考えると,その発症予防と治療には口腔内のみならず生活習慣へのアプローチが重要である。

栄養と食生活については,糖尿病と歯周病との関連について多くのエビデンスを認める。とくに過度な糖質・脂質の摂取が歯周病を増悪させること,歯周病が糖尿病を悪化させること,歯周治療が糖尿病を改善することは特筆すべきである26)。食材については,プレバイオティクスをもたらす食品の摂取が勧められる。難消化性のオリゴ糖や食物繊維,イヌリン,発酵食品やポリフェノールを含んだ食品は腸内細菌叢を変化させるとともに,代謝性疾患への効果が報告されている。オメガ3脂肪酸の摂取は,血中のHDLレベルを上昇するとともにLDLを下降させ,血流を改善し炎症を抑える。抗酸化作用のある食材は抗炎症作用を有しており,ビタミンC,ビタミンD,ビタミンE,フラボノイド,カロテノイドなどがこれに含まれる。これらを日常的に食材として摂取することで,栄養素としての作用に加えて免疫細胞による過剰な組織破壊の軽減が期待できる27)

さらに患者への食事指導においては,主食・主菜・副菜をそろえて食事のバランスをとること,過剰な塩分を控えることなどが勧められる。老年期においては,低栄養がフレイルを発症させたり,生体の抵抗力を減弱させたりすることから必要タンパク量を確保する必要がある。より効果的に食物を摂取するためには,食べるものをよく噛む習慣,食べる順番,食事の時間,食物の性状,食事の姿勢,食事の楽しさなどを上手に伝えるとよいとされる。

身体活動と運動が歯周病の改善に寄与することは,動物実験や臨床研究などにて報告がなされている28,29)。この背景には運動によって炎症性のバイオマーカーが減少し,酸化ストレスや感染に対する抵抗力が増大することがあると考えられている。十分な休養と睡眠がストレスを軽減して免疫力を高めること,過度な飲酒や喫煙が歯周炎を増悪させることについても多くのエビデンスがある30)。とくに喫煙は歯周病の最大のリスクファクターであるので,歯周治療における禁煙指導は必須である31)

6. おわりに

歯周病の発症と進行は歯と歯周組織に付着したバイオフィルムが主原因であり,修飾する因子の1つとして生活習慣の因子が存在する。したがって,「生活習慣によって生じた歯周病」というような疾患の概念は成立しない。一方で,すでに糖尿病などの生活習慣病に罹患している患者に関しては,生活習慣病の1つの口腔内症状として歯周病が増悪していると考えて疾患を再定義することは可能である。この場合には「生活習慣病関連歯周炎」または「糖尿病関連歯周炎」に類似した診断名が付与できると考えられる。このような診断名を使用することのメリットは,患者の生活習慣の改善に対してこれまで以上に歯科医師が積極的に関与するための拠り所となることである。

歯周病の治療においては,患者が行う毎日の口腔ケアが必須であり,患者自ら健康の増進をはかれるという特徴がある。このことは,患者が生活習慣を変えるきっかけとなるとともに,歯周治療の成功体験は健康観(ヘルスビリーフモデル)を変化させることに役立つ。さらに,定期的なメインテナンス管理は患者の一生涯にわたって続くので,健康日本21(第三次)が追求するライフコースアプローチを踏まえた健康づくりの好ましいモデルになると考えられる。健康日本21(第三次)にて国が掲げる,「誰一人取り残さない健康づくりの展開と,より実効性をもつ取組の推進」のためには,生活習慣病の発症と進行に大きな影響を与えている歯周病への対策が必要不可欠である。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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