Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
Online ISSN : 1880-408X
Print ISSN : 0385-0110
ISSN-L : 0385-0110
Original Work
Changes in the visit intervals and impact on the clinical parameters in patients included in a SPT program during the COVID-19 pandemic
Mizuho Yamazaki-TakaiYumi SaitoShoichi ItoMoe Ogihara-TakedaTsuyoshi KatsumataRyo KobayashiShuta NakagawaTomoko NishinoNamiko Fukuoka-HattoriKota HosonoMai YamasakiYosuke YamazakiYuto TsuruyaArisa YamaguchiYorimasa Ogata
Author information
Keywords: COVID-19, SPT, PRA
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 66 Issue 4 Pages 158-168

Details
要旨

適切な来院間隔によるサポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)の実施は,歯周炎の再発防止と歯周組織の安定の維持に有効である。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延に伴い,歯科医療機関への受診控えが多数生じたことを背景に,本研究では2019年10月~2020年3月と2020年4月以降に実施した歯周病検査値から,プロービング深さ(PD),プロービング時の出血(BOP)割合(FMBS),プラークコントロールレコード(PCR),歯周炎症表面積(PISA),歯周上皮表面積(PESA)を抽出し,予約延期日数との関係を解析した。SPT移行後1年以上継続して来院している対象患者633名中,219名(34.60%)が2020年4月以降の予約を延期した。SPT時のリスクアセスメント(PRA)を参考に,5 mm以上のPD部位数,FMBS,現在歯数(TN)の3つのサブグループを設定し,予約延期群の患者を低・中・高リスクに分類した。PDとFMBSサブグループ双方で高リスクに該当する患者のFMBS,PISAおよびPISA/PESAの変化と,FMBSとTNサブグループ双方で高リスクに該当する患者のPISAの変化は,いずれも予約延期日数と正の相関を認めた。以上の結果から,COVID-19感染拡大下においてSPT患者の予約延期が生じ,歯周組織の安定性に影響を及ぼした可能性が示唆された。

Abstract

Supportive periodontal therapy (SPT) performed by appropriate recall is beneficial for maintaining periodontal tissue stability over the long term and preventing recurrence of periodontitis. Because many people avoided visiting dental clinics during the Coronavirus Diseases 2019 (COVID-19) pandemic, in this study, we extracted data on the probing depth (PD), percentage of bleeding on probing (BOP) (i.e., full-mouth bleeding score; FMBS), plaque control record (PCR), periodontal inflamed surface area (PISA), and periodontal epithelial surface area (PESA) recorded from periodontal examinations performed between October 2019 and March 2020 and compared them with the data recorded after April 2020, to analyze the relationships of the changes with the postponement period. A total of 633 patients who had at least 1 year of regular SPT visits were included in the analysis, and 219 of these patients (34.60%) postponed their SPT appointments after April 2020. We divided the patients who postponed their SPT appointments into risk subgroups according to the periodontal risk assessment (PRA) based on each of the following three parameters: number of PD≥5 mm sites, FMBS, and tooth number (TN). Changes in the FMBS, PISA, and PISA/PESA in patients categorized as high risk according to the PD and FMBS, and in PISA in patients categorized as high risk according to the FMBS and TN were positively correlated with the postponement period. These results suggest that postponements of appointments for SPT during the COVID-19 pandemic may have affected the stability of periodontal tissues in patients with periodontitis.

緒言

歯周病の治療は,歯周基本治療,歯周外科治療,口腔機能回復治療からなる動的治療(active periodontal therapy;APT)の各ステージを経て,再評価検査の結果から治癒または病状安定と判断し,メインテナンスまたはサポーティブペリオドンタルセラピー(supportive periodontal therapy;SPT)に移行する。治癒とは,歯肉に炎症がなく,プロービング深さが4 mm未満かつ歯の動揺が生理的範囲内で,歯周組織が臨床的に健康を回復した状態を表し,治癒した歯周組織を長期間維持し再発を防止するために行う健康管理をメインテナンスという。一方,臨床症状は沈静化したが,歯周組織の一部に病変の進行が休止した4 mm以上の歯周ポケット,根分岐部病変,歯の動揺などが認められる状態を病状安定といい,病状安定の状態を長期に維持させるための治療をSPTという。病状安定の中には全身疾患などで歯周外科治療の実施が制限される場合も含まれる。メインテナンスとSPTのいずれにおいても,歯周病の再発を防ぐために患者のモチベーションを維持向上させ,プラークコントロールを中心とした定期的な歯科受診によって継続管理を行うことが重要である1,2)。複数のシステマティックレビューによれば,長期的にメインテナンスまたはSPTを継続した患者群では,不定期に受診していた患者群に比べ歯の喪失率が有意に低いことが示されている3,4)。また,長期的管理を継続するためには,リコールに応じる患者のコンプライアンスが必要不可欠で,歯科医師の指示によるリコール間隔を遵守した患者群に比較し,推奨された間隔の50%以上延期した群では喪失歯数が有意に高かった5)。メインテナンスまたはSPT期におけるリコール間隔は,患者個々のプラークコントロールの状態やリスク因子など様々な要素を勘案し決定される。LangとTonettiによるSPT時のリスクアセスメント(periodontal risk assessment;PRA)6)では,5 mm以上の歯周ポケット部位数,プロービング時の出血(bleeding on probing;BOP)(+)部位数の割合,臼歯部における最大骨吸収%÷年齢,28歯中の喪失歯数,全身性疾患および遺伝素因の有無,喫煙歴の有無および喫煙本数の6項目から患者を低・中等度・高リスクのいずれかに分類し,これに基づいてSPTの来院間隔および処置内容を設定し,患者個人に合わせたケアプログラムを策定することが推奨されている。適切なSPTの実施は,歯周病の再発や進行を早期に発見し予防するために有用であると考えられる。

2019年12月に中国武漢市で初めて報告された新型コロナウイルス感染症(Coronavirus Diseases 2019;COVID-19)は,世界中に広がり様々な影響を及ぼした。2020年3月11日には世界保健機構(World Health Organization;WHO)によりパンデミックが宣言され7),COVID-19の原因となる重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2;SARS-CoV-2)の蔓延を防ぐべく,世界各地でロックダウンなどによる種々の移動制限措置が実施された。本邦においても2020年1月に国内第1例目となる陽性患者が確認され,その後感染者は増加傾向に転じ,同年3月13日には新型インフルエンザ等対策特別措置法が改正された。これに基づいて4月7日に政府は7都府県を対象に緊急事態宣言を発令し,4月16日にはその対象を全都道府県に拡大した。不要不急の外出自粛とソーシャルディスタンスの確保を求める社会的規制は医療提供体制にも大きな混乱を来し,歯科医療の分野においては,患者が歯科医院を受診すべきかどうかを示す明確な基準やガイドラインなどは存在せず8),各自が判断を迫られることとなった。日本歯科医師会からは2020年5月1日付で国民に対する新聞広告が打ち出され,歯科医療機関において緊急性が少なく延期しても大きな問題がない治療,定期健診,訪問診療などは延期を検討する旨が示されるなど9),様々な社会的アナウンスが患者の受診控えの意識を後押しする一因となった。日本私立歯科大学協会が10~70代の男女1,000人を対象に2020年9月に実施したアンケート調査10)によれば,COVID-19感染拡大下において61.7%の人が「歯科受診や健診を控えたい/できれば控えたい」と回答し,COVID-19への感染リスクを懸念した歯科への受診控えが増加したと考えられる。同調査において,歯科治療では19.8%,歯科定期健診では21.4%の人が2020年2~8月のCOVID-19感染拡大時期に受診を控えたと回答した。特にSPT期にある歯周炎患者は疼痛や腫脹などの急性症状を伴わないため,コロナ禍において患者・歯科医師双方が受診の緊急性がないと判断し,通院の中断や延期をした結果,歯周病の安定に影響を及ぼした例が少なからず存在すると考えられる。実際に,我々が以前に行った研究において日本大学松戸歯学部付属病院歯周科に通院しているSPT患者について解析した結果,COVID-19感染拡大時期を境にSPT患者の通院中断やリコール間隔の延期が認められ,リコール間隔を延期した患者のうち,BOP(+)部位数の割合が25%以上かつ残存歯数が20歯以下の患者群ではPISAの悪化と予約延期日数との間に有意な相関を認めた11)。COVID-19感染拡大以前に行われたAtarbashi-Moghadamらによる研究では,定期的なリコールに応じなかった患者群では,初診時における歯周炎の重症度と再発率との間に正の相関が認められた12)。コロナ禍によるリコール間隔の延期は,特に重度歯周炎の治療後にSPTに移行した患者の歯周組織の状態に影響を及ぼした可能性がある。本研究では,初診時に重度歯周炎に相当するStage IIIおよびIVと診断され,歯周治療後にSPT期に移行した歯周病患者に焦点をあて,COVID-19感染拡大前後のリコール来院時の診療録を解析し,リコール間隔の変化と臨床パラメーターとの関連を解析した。

材料および方法

1. 対象患者

2019年4月から2020年3月に千葉県松戸市にある日本大学松戸歯学部付属病院歯周科に来院したSPT患者3,205名のうち,初診時にStage IIIまたはIVに該当する歯周炎と診断されAPTが完了し,その後少なくとも1年間のSPTによる来院(年間3回以上の来院)がある者を対象とした。1)SPT開始1年未満の患者,2)担当医の判断で治療を終了した患者,3)2020年3月以前または2020年4月以降に来院を中断した患者,4)受診間隔が不定期な患者,および5)臨床データが不十分であった患者は対象から除外した(図1)。本研究は,日本大学松戸歯学部倫理委員会の承認(EC21-21-025-1)を得て実施した。

図1

対象患者および除外基準

2. 臨床パラメーターおよび診療データの収集

第一回目の緊急事態宣言発令によって国民意識が明確に変化した2020年4月を本研究におけるCOVID-19感染拡大前後の境界として設定し,2019年10月から2020年3月にかけて実施した中で最新の歯周病検査を基準として,2020年4月以降の最初に実施した検査と比較を行った(図2)。歯周病検査はすべて日本大学松戸歯学部付属病院歯周科に所属する歯科医師が実施し,プロービング深さ(probing depth;PD)の測定には歯周プローブ(CP11 Color-Coded Probe,Hu-Friedy,USA)を使用した。各検査から平均PD,全顎BOP(+)部位割合(full mouth bleeding score;FMBS),O'Learyのプラークコントロールレコード(plaque control record;PCR),現在歯数(tooth number;TN)を抽出した。Nesseらの方法13)に従い,PDおよびBOPを利用して歯周上皮表面積(periodontal epithelial surface area;PESA),歯周炎症表面積(periodontal inflamed surface area;PISA)およびPISA/PESAを算出した。歯周病検査以外の診療録からSPTの期間,リコール間隔,2020年4月以降の最初の予約の延期の有無,予約が延期された日数についてデータを収集した。初診時の診断名は,エックス線画像上の骨吸収,喪失歯数,PDを用い歯周病の新分類14)におけるStage分類に基づいて診断した。データ収集には電子カルテシステムを使用し,歯周科に所属する計14名の歯科医師が行った。

図2

臨床パラメーターの収集時間

3. 予約延期群の患者におけるサブグループ分類

COVID-19感染拡大後のリコール予約の延期を調査し,予約延期の有無に基づいて,対象患者を2つのグループ(予定通り来院した群と予約延期群)に分類した。さらに,予約延期群の患者について,LangとTonettiによるSPT患者のPRA法6)を参考に下記の3つのサブグループを設定し,ベースライン時の臨床パラメーターに基づいてそれぞれ分類した。

PDサブグループ

1)PD低リスク:5 mm以上PD部位数≤4か所

2)PD中等度リスク:5 mm以上PD部位数5~7か所

3)PD高リスク:5 mm以上PD部位数≥8か所

FMBSサブグループ

1)FMBS低リスク:FMBS<10%

2)FMBS中等度リスク:FMBS 10~25%

3)FMBS高リスク:FMBS>25%

TNサブグループ

1)TN低リスク:TN≥24本

2)TN中等度リスク:TN 21~23本

3)TN高リスク:TN≤20本

PRA法では智歯を除く28歯中の喪失歯数をリスク評価項目として利用しているが,本研究におけるTNサブグループの分類では智歯を含むTNに代替した。

4. 統計分析

統計分析にあたり,すべての連続変数データについてKolmogorov-Smirnov検定を行ったところ正規性は棄却された。患者背景に関するデータおよび臨床パラメーターは,平均±標準偏差と中央値を併記して示し,評価にはFisherの正確検定またはMann-Whitney U検定を用いた。ベースライン時とCOVID-19感染拡大後との臨床パラメーターの変化を比較するためにWilcoxonの符号付順位和検定を行った。Spearmanの順位相関係数を用いて予約延期日数と臨床パラメーターとの相関を解析した。すべての統計解析にはEZR(version 4.1.2;Foundation for Statistical Computing,Austria)15)を使用した。

結果

1. 患者背景

本研究の対象となったSPT患者は合計633名(うち男性236名,女性397名)で,ベースライン時における患者の平均年齢は68.20±10.53歳であった(表1)。対象患者633名中,414名(65.40%)が2020年4月以降初回のリコール時に予定通りに来院し(予定通り来院した群),219名(34.60%)が予約を延期した(予約延期群)(図1)。対象患者全体でのSPT継続平均期間は4.38±3.21年,平均リコール間隔は3.33±0.54か月,TNの平均値は20.53±6.86歯であった。年齢,性別,SPTの期間,SPT間隔,およびTNのいずれの項目においても予定通り来院した群と予約延期群との間に有意差は認めなかった。予約延期群における2020年4月以降のSPT予約延期日数の平均は108.16±91.04日であった(表1)。

表1

患者背景

2. 臨床パラメーター

ベースライン時(検査1)および2020年4月以降初回来院時(検査2)の臨床パラメーターを表2に示した。検査1における全対象患者の平均PDは2.95±0.44 mm,検査2では2.97±0.43 mmであり,有意な増加を認めた(p=0.0105)。PESAとPISAの平均値はそれぞれ検査1では1,194.46±467.47 mm2と169.02±177.42 mm2,検査2では1,202.58±470.06 mm2と177.51±189.89 mm2であり,平均PESAが有意に増加した(p=0.0371)。FMBS,PCR,PISAおよびPISA/PESAの平均値は,検査1・2間で有意差を認めなかった。予定通り来院した群における検査1および2の平均PDは2.95±0.43 mmと2.97±0.43 mmであり有意な増加を認めた(p=0.0396)。予約延期群では検査1に比較し検査2における平均PDの値は増加していたが(それぞれ2.97±0.45,2.98±0.44),統計学的な有意差は示さなかった(p=0.129)。予約通り来院した群と予約延期群との間で検査1および2における各臨床パラメーターを比較した結果,いずれの値についても統計学的有意差は認めなかった。

表2

ベースライン時およびCOVID-19感染拡大後における臨床パラメーター

3. 予約延期日数と臨床パラメーターの変化との相関

リコール予約の延期による臨床パラメーターへの影響を解析するため,予約延期日数と検査1・2間での臨床パラメーターの変化量との相関係数(rs)を算出した(表3)。予約延期群全体において,予約延期日数と各臨床パラメーターの変化量との間に相関は認めなかった。PDサブグループでは,低リスク群(n=133),中等度リスク群(n=26),高リスク群(n=60)のいずれにおいても予約延期日数と臨床パラメーターの変化との間に有意な相関は認められなかった。FMBSサブグループでは,低リスク群(n=121)および中等度リスク群(n=79)では有意な相関は認められなかったが,高リスク群(n=19)では予約延期日数と平均PD(rs=0.502),PESA(rs=0.47)およびPISA(rs=0.467)の変化との間でそれぞれ有意な相関を認めた。TNサブグループでは,低リスク群(n=106)および中等度リスク群(n=27)では有意な相関は認められず,高リスク群(n=86)では予約延期日数と平均PD(rs=0.283),FMBS(rs=0.228),PESA(rs=0.244),PISA(rs=0.216)およびPISA/PESA(rs=0.214)の変化との間に有意な弱い相関を認めた。

PD,FMBSおよびTNサブグループのうち,いずれか2つにおいて高リスク群に属する患者を選出し(図3),予約延期日数と臨床パラメーターの変化との相関分析を行った(表4)。PDおよびFMBSサブグループにおいて高リスク群に属する患者(n=8)では,予約延期日数とFMBS(rs=0.762),PESA(rs=0.833)およびPISA/PESA(rs=0.786)の変化との間に有意な強い相関を認めた。FMBSおよびTNサブグループにおいて高リスク群に属する患者(n=14)では,予約延期日数とPISAの変化との間に有意な相関を認めた(rs=0.56)。

表3

PRA法に基づくサブグループ分類による予約延期日数と臨床パラメーター変化との相関係数

図3

サブグループ分類における高リスク該当患者数

表4

2つのサブグループ分類で高リスクに該当する患者における予約延期日数と臨床パラメーター変化との相関係数

考察

SPTは歯周治療による成果を長期に維持するために必要不可欠であり,約3~4か月間隔のリコールによる継続的な患者教育,指導とプロフェッショナルケアの提供が,歯周組織の安定性確保のために有効であることが報告されている16,17)。コロナ禍において歯科医療機関への受診を控える国民意識が高まったこと10)を考慮し,本研究では,COVID-19感染拡大がSPT期にある歯周炎患者にもたらした影響を調査した。研究対象となったSPT患者633名中219名(34.60%)がCOVID-19感染拡大後にリコール予約を延期した(図1)。さらに,201名のSPT患者が2020年4月以降来院を中断し,データ収集を行った2022年4月までに再来院しなかった。今回,電子カルテシステム上における予約変更履歴の確認時にその理由の評価は実施しなかったが,予約延期または来院中断の主な理由としては当院における診療体制縮小や患者の意思によるものが考えられた。我々の以前の研究では,COVID-19感染拡大後にリコール間隔を延長したSPT患者をFMBSおよびTNに基づいて分類し解析したところ,FMBSが25%以上かつTNが20歯以下の患者群においてPISAと予約延期日数との間に有意な正の相関を認めた11)。本研究では,重度歯周炎に相当するStage IIIおよびIVの患者をPD,FMBSおよびTNの3つのサブグループに分類し,COVID-19感染拡大下でのリコール間隔の延長と臨床パラメーターの変化との相関について解析した結果,PDおよびFMBSサブグループで高リスク群に属しPRA法6)で高リスクに相当する患者群においても,FMBSおよびPISAと予約延期日数との間に有意な相関を認めた(表4)。SPT期の定期受診によって歯の喪失が抑制されることが多くの調査研究で明らかとなっており3-5),18-20),重度歯周炎患者におけるSPT期の不定期な受診間隔は歯周炎の再発リスクとなることが示されている21)。本研究では2020年4月を基準点とし,2022年4月までに再来院した患者を対象に基準点前後での臨床パラメーターの変化について解析を行ったが,コロナ禍における受診控えをきっかけに,来院中断が長期に及んだ症例では,さらなる臨床パラメーターの悪化や歯周炎の再発,あるいは歯の喪失が起きた可能性が考えられる。

COVID-19の原因となるSARS-CoV-2は,主に咳,くしゃみ,唾液から拡散し,エアロゾルを介して口,鼻,あるいは目から感染する22)。COVID-19によるパンデミックの当初,歯科治療時にはエアロゾルと唾液が必然的に存在することから感染リスクが最も高い医療分野の一つであるとされ,感染に対する恐怖や不安から患者は歯科受診を避ける傾向がみられた23,24)。イタリアの研究では,2020年5月時点においてCOVID-19による影響を強く感じている患者の歯科受診予約のキャンセルまたは延期リスクが1.59倍となったことが示された24)。また,米国の研究では,調査対象となった成人の約半数がCOVID-19パンデミックの影響で歯科治療の延期が生じ,感染拡大傾向が強く認められた都市部では,延期の確率が有意に上昇したことが示された25)。ブラジルおよび中国における研究でも,COVID-19パンデミックに関連する歯科受診の有意な減少が報告された26,27)。COVID-19蔓延当初,ドイツのミュンヘン大学病院の保存・歯周科において急性症状に対する緊急性のある歯科治療について調査が行われ,COVID-19に対する認識が患者数の急激な減少を招いたことが報告された28)。このように,COVID-19パンデミックは世界中で歯科受診および治療の進行に影響を及ぼした。歯周組織の状態に焦点を当てた日本での横断研究において,COVID-19パンデミック下での定期的な歯科受診の中断が,歯周炎罹患のオッズ比上昇と関連していたことが報告された29)

LangとTonettiよるPRA法では,①5 mm以上の歯周ポケット部位数≥8か所,②BOP(+)部位数の割合>25%,③臼歯部における最大骨吸収%÷年齢≥1.0,④28歯中の喪失歯数≥8歯,⑤全身性疾患および遺伝素因あり,⑥1日あたり喫煙本数≥20本の6項目中2項目以上に該当する者を高リスク患者とみなし,管理指導を強化する必要があるとしている6)。本研究では,上記のPRA法から①②④の3項目を参考に,予約延期群の患者をPD,FMBS,TNの3項目で分類し,予約延期日数と臨床パラメーターの変化との相関分析を行った。FMBS高リスク群では予約延期日数と平均PD,PESAおよびPISAの変化との間に有意な相関を認め(表3),さらにその中でPD高リスク群にも該当する患者群では予約延期日数とFMBS,PISAおよびPISA/PESAの変化との強い相関が示された(表4)。一方で,PD高リスク群に属する患者全体では予約延期日数といずれの臨床パラメーター変化との間にも相関は認めなかった(表3)。本研究の結果を考慮すると,PRA法において高リスクに分類されるSPT患者の中でも,5 mm以上の深い歯周ポケットを8か所以上有し,口腔全体に占めるBOPの割合が25%を超える患者については特に適切なリコール間隔の設定と遵守が必要となり,管理指導にはより一層の注意が求められることが示唆される。

前述のPRA法6)の評価項目のうち③⑤⑥については,後ろ向き研究の特性上,電子カルテシステムから全対象患者の正確なデータを抽出することが困難であり,本研究では評価することができなかった。⑤の全身性疾患や遺伝素因では,糖尿病やIL-1遺伝子型陽性などが高リスクとされる。特に,これまでに得られた多くの知見から糖尿病の存在は歯周炎発症および悪化のリスクを増加させると考えられ30),日常臨床においても常に顧慮される事項のひとつであるが,本研究の患者分類では評価を実施できなかった。加えて,今回臨床パラメーターの一つとして取り扱ったPISAは歯周組織の炎症部の面積を表す歯周病の臨床指標であり13),その値の変動は2型糖尿病31),認知症32),慢性腎臓病33),肥満34),アテローム性動脈硬化35)など歯周炎を取り巻く種々の全身性疾患と関連を示すことが報告されている。本研究では対象患者の全身性疾患について考慮していないため,その有無がPISAをはじめとする各臨床パラメーターの変化にもたらす影響は不明である。⑥の喫煙歴については,歯周炎の環境因子として歯周組織の状態と密接に関連することが知られており,喫煙者では非喫煙者に比較しBOP(+)割合が低いことが示されている36,37)。加えて,PISAはBOPを鋭敏に反映すること38)や,現在の喫煙量と相関があること39)が報告されている。喫煙歴はSPT患者のリスク評価項目であると同時に臨床パラメーターにも影響する因子であることから,喫煙歴を含めた解析を行った場合には異なる結果が得られる可能性がある。また,喪失歯数について,PRA法では智歯を除く28歯からの喪失歯数を評価の対象としているが,本研究では便宜的に智歯を含む32歯中の残存歯数に代替してTNサブグループを設定し,患者の分類を行った。TN高リスク群に属する患者群では予約延期日数と平均PD,FMBS,PESA,PISAおよびPISA/PESAの変化との間に弱い相関を認めたが(表3),PRA法に忠実な分類を行った場合にはこれらの相関関係にも変化が生じると考えられる。

結論

本研究の結果,PDとFMBSの双方で高リスク群に該当したSPT患者のPISAの悪化はリコール間隔の延期日数と有意に相関することが示された。同様に,FMBSとTNの双方で高リスク群に該当した患者においてもPISAの悪化と予約延期日数は有意に相関していた。COVID-19感染拡大はSPT患者の来院の延期や中断を生じさせ,歯周組織の安定性に影響を及ぼした可能性がある。PRAで高リスクに該当するSPT患者を管理し歯周組織の安定を維持するうえでは,リコール間隔が肝要な点の一つであると考えられ,感染症の蔓延など不慮の事態においても適切なリコール間隔を可及的に遵守したケアプログラムの提供が必要である。

謝辞

本稿を終えるにあたり,本研究にご協力いただいた日本大学松戸歯学部歯周治療学講座の皆様に感謝致します。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
© 2024 by The Japanese Society of Periodontology
feedback
Top