Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
Online ISSN : 1880-408X
Print ISSN : 0385-0110
ISSN-L : 0385-0110
Original Work
Inhibitory Effect of Cetylpyridinium Chloride on the Activities of Gingipains and the Influence of Salivary Components on its Efficacy
Takuma MorikawaTakuya AritaRika UrakawaYasumitsu Shimizu
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2025 Volume 67 Issue 2 Pages 75-84

Details
要旨

Porphyromonas gingivalisが産生するジンジパインは歯周組織の破壊等に寄与する病原性因子である。塩化セチルピリジニウム(CPC)は,ジンジパインに対する阻害作用が報告されているが,CPCは唾液存在下では殺菌作用が低下することが知られているため,唾液中でCPCのジンジパイン阻害作用が発揮されるか不明である。本研究では,唾液存在下におけるCPCのジンジパイン阻害作用を検証し,その作用に影響を及ぼす因子を検討した。

PBSにCPCを溶解した場合,CPCのジンジパイン阻害作用は確認できたが,唾液を含めた場合ではその作用が認められなかった。そこで唾液中の成分に着目し,金属塩やタンパク質を混合してCPCのジンジパイン阻害作用を検討した。その結果,二価金属塩を混合した場合でのみCPCのジンジパイン阻害作用が低下した。さらに唾液を含めた条件下で,キレート剤を組み合わせてCPCのジンジパイン阻害作用を検討したところ,阻害作用は低下しなかった。以上のことから,唾液中の二価金属塩によりCPCのジンジパイン阻害作用は低下したと考えられた。

CPCに組み合わせたキレート剤は脱灰の起こらない低濃度であることから,これらの組み合わせはジンジパイン活性を阻害する口腔ケア製品の開発につながることが期待できる。

Abstract

Porphyromonas gingivalis produces gingipains, which are virulence factors that can destroy periodontal tissues. While cetylpyridinium chloride (CPC) has been reported to have an inhibitory effect on gingipains, the bactericidal activity of CPC is known to decrease in the presence of saliva, making it unclear if CPC can exert its gingipain-inhibitory effect in saliva. This study was aimed at verifying the inhibitory effect of CPC against gingipains in the presence of saliva and at investigating the factors influencing this effect.

While CPC dissolved in PBS was confirmed to exert its inhibitory effect against gingipains, the compound failed to exert this effect in the presence of saliva. Therefore, focusing on the components of saliva, we examined the inhibitory effect of CPC against gingipains by adding metal salts and proteins to the CPC solution. The results revealed that only the addition of divalent metal salts attenuated the inhibitory effect of CPC against gingipains. Furthermore, addition of chelating agents did not diminish the inhibitory effect of CPC in the presence of saliva. Thus, we concluded that it is the divalent metal salts in saliva that diminish the inhibitory effect of CPC against gingipains.

Since chelating agents are only added at low concentrations to CPC and are therefore unlikely to cause demineralization, their addition to CPC is expected to contribute to the development of oral care products that can inhibit gingipain activity.

緒言

歯周病は,歯周病原細菌の感染が引き起こす炎症性疾患であり,歯肉の炎症や細胞間結合の消失,歯槽骨吸収のような歯周組織の破壊が特徴である。歯周組織の破壊には宿主由来のプロテアーゼだけでなく,歯周ポケット内の嫌気的環境に生息する歯周病原細菌のプロテアーゼも寄与する1)

ジンジパインは歯周病原細菌Porphyromonas gingivalisが産生するプロテアーゼ活性を持つ病原性因子である。ジンジパインには,アルギニン残基のC末端側を切断するArg-gingipain(Rgp)と,リジン残基のC末端側を切断するLys-gingipain(Kgp)が存在する2)。ジンジパインは,歯周炎患者の歯肉溝浸出液から検出されることが報告されており3),歯周組織を構成するタンパク質の分解4),好中球によるP. gingivalisの貪食・消化作用の低下5)P. gingivalisの栄養素の獲得6)などに働き,歯周病進行に寄与する。そのため,ジンジパインは歯周病の治療や予防のためのターゲット分子として研究され,様々な阻害剤の開発が進められている7-9)

塩化セチルピリジニウム(CPC)は,P. gingivalisをはじめとする口腔細菌に対しても優れた殺菌作用を示す10)。さらに,CPCにはジンジパインに対する阻害作用も報告されており11),殺菌から毒素阻害に至るまで歯周病菌に対し,幅広く作用する。一方で,CPCはアニオンやタンパク質,陰イオン型界面活性剤により殺菌作用が低下することが知られている。唾液を添加した条件でもCPCの殺菌作用が低下することが示されており12),ジンジパインに対する阻害作用に対しても唾液による影響がある可能性がある。

そこで本研究では,唾液存在下においてCPCのジンジパイン阻害作用を検証し,その作用に影響を及ぼす唾液因子の特定を試みた。

材料および方法

1. 試薬調製

塩化セチルピリジニウム(CPC),グルコン酸クロルヘキシジン(CHX),イソプロピルメチルフェノール(IPMP),チモール,エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム二水和物(EDTA)は,東京化成工業(Tokyo)から購入した。クエン酸-3Na(クエン酸)は富士フイルム和光純薬(Osaka)から購入した。これらの試薬は10%(v/v)エタノール(Merck,Germany)にて濃度調製した水溶液を試験に供した。

KYT-1(Rgp阻害剤),KYT-36(Kgp阻害剤)はペプチド研究所(Osaka)から購入した。これらの試薬は0.1%(v/v)DMSO(富士フイルム和光純薬,Osaka)にて濃度調製した水溶液を試験に供した。

Phosphate Buffered Saline(PBS),Ca2+とMg2+を含有したPBS(PBS(Ca2+,Mg2+含有)),ムチン(豚の胃由来),アルブミン(牛血清由来)はMerck(Germany)から購入した。PBS(Ca2+,Mg2+含有)は,Ca2+を0.9 mmol/l,Mg2+を0.5 mmol/l含む。ムチンはPBSで0.1%(w/v)水溶液(PBS(ムチン))を調製し,アルブミンはPBSで0.15%(w/v)水溶液(PBS(アルブミン))を調製し,試験に供した。

2. 供試唾液

健康成人5名(男性3名,女性2名,平均年齢34歳)から飲食後1時間以上経過後の安静時唾液を各5 mlずつ採取し,22 Gの針に通して粘度を下げ,唾液中の成分を均一に分散させた。次に,唾液中の細菌による影響を排除するため,1時間のUV照射にて滅菌し,これを試験に供した。

3. 供試菌株および培養

American Type Culture Collectionより入手したP. gingivalis W83を,変法GAMブイヨン(島津ダイアグノスティクス,Tokyo)に植菌し,アネロパック・ケンキ(三菱ガス化学,Tokyo)を用いて嫌気条件下37℃で24時間培養した。1 ml の培養液を新たな10 mlの変法GAMブイヨンに植菌し,アネロパック・ケンキを用いて嫌気条件下37℃で培養した。24時間後,対数増殖期にあたる培養液を22 Gの針に通して菌体を分散させ,試験に使用するP. gingivalis培養液とした。

4. コラーゲンディスクを用いたジンジパイン活性評価

P. gingivalis培養液をPBSでOD600 =0.5に調製し,ここに各試薬の水溶液を等量で混合した。このとき,混合後の各試薬の濃度が,KYT-1,KYT-36は10 μmol/lに,CPC,CHX,IPMP,チモールは0.05%(w/v)になるように予め各試薬の水溶液を調製した。

P. gingivalis培養液と試薬を混合後,これにコラーゲンディスク(高研,Tokyo)を浸漬させて,アネロパック・ケンキを用いて嫌気条件下37℃で4日間反応させた。4日後,コラーゲンディスクを位相差顕微鏡で観察した。観察後,コラーゲンディスクを回収し,蒸留水で洗浄して乾燥させた後の重量を電子天秤で秤量した。コラーゲンディスクが全て消失したときの重量を100%,無処理のコラーゲンディスクの重量を0%として,コラーゲンディスク分解量を相対値で算出した。

5. 唾液・唾液成分存在下におけるコラーゲンディスクを用いたジンジパイン活性評価

P. gingivalis培養液を唾液,PBS(Ca2+,Mg2+含有),PBS(ムチン),PBS(アルブミン)でOD600 =0.5に調製し,ここに各試薬の水溶液を等量で混合した。このとき,混合後の試薬の濃度が,CPCは0.05%(w/v),クエン酸は0.6%(w/v),EDTAは0.02%(w/v)になるように予め各試薬の水溶液を調製した。

P. gingivalis培養液と試薬を混合後,これにコラーゲンディスクを浸漬させて,アネロパック・ケンキを用いて嫌気条件下37℃で4日間反応させた。4日後,コラーゲンディスクを位相差顕微鏡で観察した。観察後,コラーゲンディスクを回収し,蒸留水で洗浄して乾燥させた後の重量を電子天秤で秤量した。

6. 殺菌試験

P. gingivalis培養液をPBSでOD600 =0.5に調製し,ここにCPC,CHX,IPMP,チモールの各試薬の水溶液を等量で混合した。このとき,混合後の各試薬の濃度が0.05%(w/v)になるように予めそれぞれの試薬の水溶液を調製した。

P. gingivalis培養液と試薬を混合後,恒温器内でアネロパック・ケンキを用いて嫌気条件下37℃,1時間反応させた。反応液10 μlをCDC嫌気性菌用5%ヒツジ血液寒天培地(寒天培地)(Becton Dickinson,USA)に播種した。アネロパック・ケンキを用いて嫌気条件下37℃で4日間培養し,寒天培地上に形成されたコロニー数を計測した(検出限界は100 CFU /ml)。

7. 統計解析

統計処理はSPSS Statistics(Ver. 29)を用いて,Kruskal-Wallis testによる分散分析を実施した後,ステップワイズのステップダウン法で群間の検定を実施した(有意差水準5%未満)。

結果

1. コラーゲンディスクを用いたジンジパイン活性評価法の構築

ジンジパイン活性をP. gingivalis処理によるコラーゲンディスクの分解から評価した(図1)。P. gingivalis処理によりコラーゲンディスクは完全に分解されたが,処理をしなかった場合は分解されておらず,P. gingivalisによりコラーゲンディスクが分解されたことを確認した。また,Rgp阻害剤およびKgp阻害剤の処理によりコラーゲンディスクの分解が抑制されたことから,この分解はジンジパインにより起こることが分かり,本評価方法でジンジパインの活性が評価できることを確認した。

図1

P. gingivalisによるコラーゲンディスクの分解とジンジンパイン阻害剤によるその抑制

(a)P. gingivalis処理時のコラーゲンディスク分解量。P. gingivalis処理を100%,P. gingivalis処理なしを0%としたときのコラーゲンディスク分解量を相対値で示した。左からP. gingivalisの処理なし,P. gingivalisのみ処理,P. gingivalisに加えRgp阻害剤を処理,Kgp阻害剤を処理,Rgp阻害剤とKgp阻害剤を同時処理した際の結果を示す。

a,b:それぞれの文字間に対して統計学的な有意差があることを示す(n=3にて1回試験を行い,平均値±標準偏差として示した)。

(b)P. gingivalis処理時のコラーゲンディスクの顕微鏡観察画像。左からP. gingivalisの処理なし,P. gingivalisのみ処理,P. gingivalisに加えRgp阻害剤を処理,Kgp阻害剤を処理,両方の阻害剤を処理した際のコラーゲンディスクの状態を示す(n=3にて2回試験を行い,その代表的なデータを示した)。

2. コラーゲンディスクを用いたCPCのジンジパイン阻害作用の評価

構築した評価方法で,歯磨剤等に配合される殺菌剤であるCPC,CHX,IPMP,チモールのジンジパイン阻害作用を評価した。その結果,CPCでのみコラーゲンディスクの分解が有意に抑制され(図2a),その構造も確認でき(図2b),CPCのジンジパイン阻害作用が認められた。

このとき,評価した素材すべてでP. gingivalisは検出限界以下にまで殺菌されており(図2c),上述のジンジパイン活性の評価に生菌数の違いによる影響はなかった。

図2

P. gingivalisによるコラーゲンディスクの分解とCPCによるその抑制の結果

(a)P. gingivalis処理時のコラーゲンディスク分解量。P. gingivalis処理を100%,P. gingivalis処理なしを0%としたときのコラーゲンディスク分解量を相対値で示した。左からP. gingivalisの処理なし,P. gingivalisのみ処理,P. gingivalisに加え終濃度0.05%(w/v)のCPCを処理,終濃度0.05%(w/v)CHXを処理,終濃度0.05%(w/v)のIPMPを処理,終濃度0.05%(w/v)のチモールを処理した際の結果を示す。

a,b,c:それぞれの文字間に対して統計学的な有意差があることを示す(n=3にて1回試験を行い,平均値±標準偏差として示した)。

(b)P. gingivalis処理時のコラーゲンディスクの顕微鏡観察画像。左からP. gingivalisの処理なし,P. gingivalisのみ処理,Pgingivalisに加え終濃度0.05%のCPC(w/v)を処理,終濃度0.05%(w/v)のCHXを処理,終濃度0.05%(w/v)のIPMPを処理,終濃度0.05%(w/v)のチモールを処理した際のコラーゲンディスクの状態を示す(n=3にて1回試験を行い,そのデータを示した)。

(c)P. gingivalisの殺菌試験結果。左からP. gingivalisのみ処理,P. gingivalisに加え終濃度0.05%(w/v)のCPCを処理,終濃度0.05%(w/v)のCHXを処理,終濃度0.05%(w/v)のIPMPを処理,終濃度0.05%(w/v)のチモールを処理した際の混合液1 mlあたりのコロニー形成数(Colony Forming Unit)を示す(n=3にて1回試験を行い,平均値±標準偏差として示した)。

n.d.:検出限界(102)以下を示す。

3.1. 唾液存在下におけるCPCのジンジパイン阻害作用の評価

CPCのジンジパイン阻害作用を唾液存在下で評価した。その結果,CPCの有無にかかわらず,コラーゲンディスクは分解され(図3),唾液存在下ではCPCのジンジパイン阻害作用は低下した。

このとき,唾液のみ処理した場合では,コラーゲンディスクは分解されなかったことから,コラーゲンディスクの分解に唾液は影響しないことを確認した。

図3

唾液存在下でのP. gingivalisによるコラーゲンディスクの分解とCPC処理の結果

(a)唾液5検体それぞれで調製したP. gingivalis処理時のコラーゲンディスク分解量。P. gingivalis処理を100%,P. gingivalis処理なしを0%としたときのコラーゲンディスク分解量を相対値で示した。左からP. gingivalisの処理なし,P. gingivalisのみ処理,P. gingivalisに加え終濃度0.05%(w/v)のCPCを処理した際の結果を示す。

a,b:それぞれの文字間に対して統計学的な有意差があることを示す(n=5にて1回試験を行い,平均値±標準偏差として示した)。

(b)唾液で調製したP. gingivalis処理時のコラーゲンディスクの顕微鏡観察画像。左からP. gingivalisの処理なし,P. gingivalisのみ処理,P. gingivalisに加え終濃度0.05%(w/v)のCPCを処理した際のコラーゲンディスクの状態を示す(n=5にて1回試験を行い,そのデータを示した)。

3.2. CPCのジンジパイン阻害作用に影響を及ぼす唾液成分の検討

CPCのジンジパイン阻害作用の低下に関与した唾液中の成分を検討するため,唾液中成分として金属イオン(Ca2+,Mg2+)とタンパク質(ムチン,またはアルブミン)を添加した条件で,CPCのジンジパイン阻害作用を評価した。

その結果,タンパク質添加条件では,コラーゲンディスクは分解されず,CPCによるジンジパイン阻害作用は認められた(図4a,b,c,d)。しかし,金属イオン添加条件では,コラーゲンディスクは分解され,CPCによるジンジパイン阻害作用は認められなかった(図4e,f)。このことから,CPCによるジンジパイン阻害作用の低下に金属イオンの関与が示された。

図4

唾液成分存在下でのP. gingivalisによるコラーゲンディスクの分解とCPC処理の結果

(a)PBS(ムチン)で調製したP. gingivalis処理時のコラーゲンディスク分解量。P. gingivalis処理を100%,P. gingivalis処理なしを0%としたときのコラーゲンディスク分解量を相対値で示した。左からP. gingivalisの処理なし,P. gingivalisのみ処理,P. gingivalisに加え0.05%(w/v)の終濃度CPCを処理した際の結果を示す。

a,b,c:それぞれの文字間に対して統計学的な有意差があることを示す(n=3にて1回試験を行い,平均値±標準偏差として示した)。

(b)PBS(ムチン)で調製したP. gingivalis処理時のコラーゲンディスクの顕微鏡観察画像。左からP. gingivalisの処理なし,P. gingivalisのみ処理,P. gingivalisに加え終濃度0.05%(w/v)のCPCを処理した際のコラーゲンディスクの状態を示す(n=3にて2回試験を行い,その代表的なデータを示した)。

(c)PBS(アルブミン)で調製したP. gingivalis処理時のコラーゲンディスク分解量。P. gingivalis処理を100%,P. gingivalis処理なしを0%としたときのコラーゲンディスク分解量を相対値で示した。左からP. gingivalisの処理なし,P. gingivalisのみ処理,P. gingivalisに加え終濃度0.05%(w/v)のCPCを処理した際の結果を示す。

a,b,c:それぞれの文字間に対して統計学的な有意差があることを示す(n=3にて1回試験を行い,平均値±標準偏差として示した)。

(d)PBS(アルブミン)で調製したP. gingivalis処理時のコラーゲンディスクの顕微鏡観察画像。左からP. gingivalisの処理なし,P. gingivalisのみ処理,P. gingivalisに加え終濃度0.05%(w/v)のCPCを処理した際のコラーゲンディスクの状態を示す(n=3にて2回試験を行い,その代表的なデータを示した)。

(e)PBS(Ca2+,Mg2+含有)で調製したP. gingivalis処理時のコラーゲンディスク分解量。P. gingivalis処理を100%,P. gingivalis処理なしを0%としたときのコラーゲンディスク分解量を相対値で示した。左からP. gingivalisの処理なし,P. gingivalisのみ処理,P. gingivalisに加え終濃度0.05%(w/v)のCPCを処理した際の結果を示す。

a,b:それぞれの文字間に対して統計学的な有意差があることを示す(n=3にて1回試験を行い,平均値±標準偏差として示した)。

(f)PBS(Ca2+,Mg2+含有)で調製したP. gingivalis処理時のコラーゲンディスクの顕微鏡観察画像。左からP. gingivalisの処理なし,P. gingivalisのみ処理,P. gingivalisに加え終濃度0.05%(w/v)のCPCを処理した際のコラーゲンディスクの状態を示す(n=3にて2回試験を行い,その代表的なデータを示した)。

3.3. 唾液存在下のキレート剤組み合わせによるCPCのジンジパイン阻害作用の評価

唾液中でのCPCのジンジパイン阻害作用の低下に金属イオンの関与が示されたため,唾液中の金属イオンをキレートした際のCPCのジンジパイン阻害作用を評価した。

その結果,唾液存在下であっても,EDTAやクエン酸により金属イオンがキレートされることで,コラーゲンディスクの分解はCPCにより有意に抑制され(図5a,b),ジンジパインの阻害作用が認められた。このとき,キレート剤単体ではコラーゲンディスクの分解は抑制されず,ジンジパインは阻害されていなかった。

図5

唾液存在下でのP. gingivalisによるコラーゲンディスクの分解と,CPCとキレート剤処理の結果

(a)唾液5検体それぞれで調製したP. gingivalis処理時のコラーゲンディスク分解量。P. gingivalis処理を100%,P. gingivalis処理なしを0%としたときのコラーゲンディスク分解量を相対値で示した。a,b,c:それぞれの文字間に対して統計学的な有意差があることを示す(n=5にて1回試験を行い,平均値±標準偏差として示した,p<0.05)。

(b)唾液で調製したPgingivalis処理時のコラーゲンディスクの顕微鏡観察画像。左からPgingivalisの処理なし,P. gingivalisのみ処理,P. gingivalisに加え終濃度0.05%(w/v)のCPCを処理,P. gingivalisに加え終濃度0.05%(w/v)のCPCと終濃度0.6%(w/v)のクエン酸を処理,P. gingivalisに加え終濃度0.05%(w/v)のCPCと終濃度0.02%のEDTAを処理,P. gingivalisに加え終濃度0.6%(w/v)のクエン酸を処理,P. gingivalisに加え終濃度0.02%(w/v)のEDTAを処理した際のコラーゲンディスクの状態を示す(n=5にて1回試験を行い,そのデータを示した)。

考察

本研究では,ジンジパインに対してCPCの作用を検討した。また,この作用を検討するにあたって,ジンジパイン活性をin vitroで評価する評価系を構築した。

ジンジパイン活性の測定としては,マーカー分子を結合させた合成基質からマーカー分子が切断・遊離することで得られる蛍光や変色を測定する方法が報告されている13,14)。この方法はハイスループットスクリーニングが可能な点では優れている反面,評価する素材や製剤の持つ濁度や自家蛍光,蛍光クエンチング作用等が影響すると活性を測定できず,評価できる素材や製剤が限定される。本試験で評価したCPCも蛍光のクエンチング作用があり,評価できない物質の一つであった。そこで,コラーゲンディスクの分解をアウトプットとしたジンジパインの活性を評価する方法を構築した。この評価方法により,自家蛍光やクエンチング作用といった評価素材や製剤からの影響を受けずに,ジンジパインの活性を評価できるとともに,コラーゲンの分解量による定量的評価と顕鏡観察による定性的評価を同時実施が可能となった(図2a,b)。本評価系によりジンジパイン阻害剤の効果を評価した際,反応1日目ではKgp,Rgpそれぞれの阻害剤でもコラーゲン分解の抑制が観察されたが,翌日にはKgp阻害剤処理群で,さらにその翌日ではRgp阻害剤処理群でも分解が認められ,最終的に両阻害剤を処理した条件でのみコラーゲンディスクの分解の抑制を確認できた(図1a,b)。このことから,ジンジパインの十分な阻害作用を検討するために,培養期間を4日間に設定し,素材の評価を実施した。

CPCは歯磨剤等にも広く利用される殺菌剤であるが,ジンジパインに対する阻害作用も報告されており11),本研究での評価方法においてもその作用を確認した(図2)。しかし,唾液存在下ではその作用の低下が認められたことから(図3),本研究では,CPCの作用の低下の原因となる唾液中の成分の特定を試みた。その結果,Ca2+とMg2+の存在下ではCPCのジンジパイン阻害作用は低下し(図4),唾液中でのCPCのジンジパイン阻害作用の低下は,Ca2+やMg2+の二価金属イオンが原因と考えられた。そこで,これらの金属イオンの除去を目的に脱灰反応が起こらない濃度域で21,22),キレート剤としてEDTAとクエン酸をCPCと共存させたところ,唾液存在下であってもCPCの作用低下は抑制された(図5)。

CPCの殺菌作用は,細菌の表面で膜構造の安定化に寄与している二価金属イオンと置換することで,脂質二重層に挿入されて殺菌作用を開始すると考えられている15)。二価金属イオンに関しては,ジンジパインの構造中にも存在しており16-20),ジンジパイン阻害作用においてもCPCによる二価金属イオンの置換反応が起きていることが想定され,この置換反応によりCPCはジンジパインに結合すると考えられる。さらにCPCの持つ界面活性剤としての作用によりタンパク変性がもたらされ23,24),ジンジパインの活性を阻害したと考えられる。本試験での評価成分の中では,カチオン性であることと界面活性剤であることの両方の特徴を有する物質がCPCのみであったため,他の殺菌剤ではジンジパイン活性の阻害作用がみられなかったと思われる(図2)。

唾液のような二価の金属イオンが大過剰に存在する場合,ジンジパイン中の二価の金属イオンとCPCとの置換反応が競合し,CPCのジンジパインへの結合,その後の変性反応が起こらないと想定される。そのため,CPCは,唾液中で二価の金属イオンによってジンジパインへ結合する頻度が減少し,変性作用を及ぼす機会が少なくなったため,阻害作用が低下したと考えられる。

本研究では,CPCとキレート剤を組み合わせることで,唾液存在下であってもCPCによるジンジパイン阻害作用が発揮されることを見出した。この時,唾液中の金属イオン濃度とキレート剤の安定係数から25-27),使用したクエン酸は唾液中の金属イオンすべてを除去した濃度であったのに対し,EDTAはすべてを除去できる濃度ではないと想定され,金属イオンの供給を完全に断つ必要はないと考えられる。また,本試験でキレート剤として使用したEDTAやクエン酸は脱灰反応が起こらない濃度であり,また,CPCは薬用歯磨剤で通常使用されている濃度である。したがって,本研究で見出したCPCとキレート剤の組み合わせは,ジンジパイン活性を阻害する歯磨剤等の口腔ケア製品の開発につながることが期待できる。

結論

本研究で,CPCのジンジパイン活性阻害作用が唾液存在下で抑制されること,その原因が唾液に含まれるカルシウムやマグネシウムのような二価金属イオンであることを明らかにした。さらに,CPCと濃度0.6%(w/v)のクエン酸,または濃度0.02%(w/v)のEDTAのようなキレート剤を組み合わせることで,口腔内を想定した唾液存在下でもCPCがジンジパイン活性阻害作用を示すことを見出した。

本報告は,第66回春季日本歯周病学会学術大会(2023年5月26-27日,香川)ならびに,第66回秋季日本歯周病学会学術大会(2023年10月13-14日,長崎)にて発表された内容を一部改変したものである。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態は以下の通りです。

研究資金/サンスター株式会社

References
 
© 2025 by The Japanese Society of Periodontology
feedback
Top