Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
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Cellular senescence and periodontitis in elderly people
Motozo YamashitaKuniko IkegamiShinya MurakamiMasahide Takedachi
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2025 Volume 67 Issue 3 Pages 103-110

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はじめに

超高齢社会に突入している我が国では,2024年に65歳以上の高齢者は3625万人,総人口に占める高齢化率は29.3%と過去最高を更新し,75歳以上の後期高齢者は2000万人を超えている。2000年以降,平均寿命と健康寿命の間には10年程度の大きな隔たりがあり,短縮ができていない。寿命の延伸とトレードオフして糖尿病,冠動脈疾患,アルツハイマー型認知症等の加齢性の全身疾患を有する高齢者は急速に増加しており(厚生労働省;健康日本21(第二次)),臨床の場において糖尿病などの生活習慣病を合併した重度の歯周病患者を診る機会が多い。来たるべき「人生100年時代」の到来に備えて高齢者の健康寿命の延伸は喫緊の社会課題であり,科学的エビデンスに基づいた老化制御医学の発展と歯科医療の開発が求められる。

本邦においては,歯槽骨の破壊を伴う歯周病患者は約3000万人と推定され,高齢者が歯を喪失する一番の原因となっている(令和4年度歯科疾患実態調査,厚生労働省)。進行した歯周病による歯の喪失や動揺は,咀嚼のみならず発音や審美に影響を及ぼし,生活のQOLに大きく影響する。とりわけ高齢者において咀嚼機能の低下は低栄養につながることから,フレイルとの関連が大きな注目を集めている1)。さらに歯周病による持続的な炎症や口腔細菌叢の変化は,細菌産物や炎症性サイトカインの血行性の伝播,あるいは腸内細菌叢のdysbiosisを介して全身に影響を及ぼし,冠動脈疾患,糖尿病,リウマチ性疾患,さらにはアルツハイマー型認知症などの加齢性の全身疾患の病態リスクを上昇させることが明らかとなっている2,3)。従って歯周病は,高齢者に引き起こされる様々な全身疾患の予防・克服を目指した治療戦略の上で,鍵となる最重要な疾患である。

加齢は,加齢関連疾患においては単一で最大のリスク因子であり,生活習慣病である歯周病においても重要なリスク因子となっている。しかしながら,加齢と歯周病の因果関係についての知見は疫学研究に関する報告が多く,高齢者に特有の歯周病の病態生理についての生物学的な観点からの情報は限られており,高齢者における重度の歯周病に対して有用な治療法や薬物の開発が十分に進んでいない。

私たちはかねてより,歯周病の病因論として歯周組織の老化に注目した研究に取り組んでおり,高齢動物の歯周組織には老化細胞が多数存在することを発見し,その機能解析について報告している。本稿では,歯根膜の細胞レベルの老化,すなわち細胞老化について紹介し,老化細胞が産生する細胞老化随伴分泌SASP(Senescence-Associated Secretory Phenotype)因子が歯周病の病態形成に及ぼす可能性について概説する。

加齢と歯周病

加齢に伴って歯周病の罹患率並びに重篤度は増加する。歯周組織の炎症は,デンタルプラークとそれに対する宿主の過剰な免疫応答を原因とすることから,プラークを除去することで炎症は改善する。その一方で,高齢者の歯周病はプラーク除去を基本とした歯周治療に対して難治性を示すことが散見されるとともに,糖尿病等の生活習慣病を合併した重度の歯周病が多く見られる。

このような病態の背景として,生物学的老化の影響が強く示唆される。高齢者では獲得免疫の低下による易感染性に加えて,長期間の自然免疫の活性化により低いレベルの持続性の炎症,いわゆる慢性炎症が成立している。慢性炎症は老化を規定する12個の要因の一つであり,多くの加齢関連疾患に共通の基盤病態である4)。慢性炎症は,老化を促進させる炎症,インフラマエイジング(炎症老化;inflammaging,inflammationとagingの造語)として注目されており5),歯周組織においても老化を規定する要因の一つと考えられている6)

自然免疫を担うマクロファージ等の細胞は,病原体だけでなく細胞死や組織障害などにより細胞外に放出されるDNAなどの分子(DAMPs;Damage/Danger Associated Molecular Patterns)も認識することで活性化され,非感染の炎症をもたらす。興味深いことに,高齢の歯周病患者の歯肉において,DAMPs受容体であるTLR9の増加が報告されており,DAMPsシグナルが高齢者の歯周組織に非感染性の炎症を引き起こし,炎症性サイトカイン産生や歯槽骨の吸収に関係する可能性が考えられている7)。また,私たちが参画した高齢者の疫学調査(健康長寿研究;SONIC Study)により,70歳以上の高齢者の血清中の高感度hsCRP値とPISA値(歯周炎症表面面積;Periodontal Inflamed Surface Area)との間に有意な相関を認めた8)。これらの研究から,高齢者の歯周組織は基底レベルで慢性炎症の状態にあり,その炎症は全身に影響を及ぼしていることが推察される(図1)。

図1

高齢者の歯周組織の老化病態

加齢に伴って歯周組織には様々な環境ストレスが蓄積している。デンタルプラーク以外にも歯周組織の加齢性の慢性炎症が病態の進行に大きく影響していると推察される。

歯周組織の細胞老化

近年,個体の老化・寿命制御の根底にある分子機構の解明がモデル生物の遺伝子解析により飛躍的に進展したことで,臓器に蓄積した老化細胞が慢性炎症や発癌に関与することが明らかとなり,細胞老化が加齢関連疾患の臓器機能不全の要因として有力視されている9)。細胞老化は,生体内の様々なストレスにより誘導され,DNAダメージに応答して細胞増殖を不可逆的に停止することで癌化を回避する,細胞自律機構の一つである10)。その一方で,老化細胞は炎症性サイトカイン,ケモカイン,マトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)などの因子に加え,microRNA(micRNA)等を含むエクソソームより構成されるSASP因子により周囲の組織に慢性炎症を引き起こし,臓器機能不全の要因となっていることが報告されている11-13)。老化細胞から分泌されるSASP因子は,本来,マクロファージ,T細胞,NK細胞などの免疫細胞をリクルートすることで不要な老化細胞を排除し組織恒常性の維持に寄与するが,加齢に伴い制御機構が変容することで臓器のインフラマエイジングを惹起し,加齢関連疾患の発症や発癌に影響を及ぼすことが明らかとなりつつある。

歯周組織は,臓器へつながる第一関門である口腔において細菌種,酸化ストレス,咬合力,化学刺激,熱刺激などのストレスに曝されていることから,細胞老化が引き起こされる条件は整っている。そこで私たちは,高齢者の歯周組織の慢性炎症が,蓄積した老化細胞に起因する可能性について検討することとした。

歯根膜の細胞老化

歯根膜は,弾性線維性結合組織として咬合力を緩衝するのみならず,歯肉上皮とともに外部からの侵害刺激を遮断する生体バリアーの一つとして機能している。そして創傷や組織傷害に際しては,歯根膜に存在している間葉系幹細胞や前駆細胞が,骨芽細胞やセメント芽細胞等の多様な細胞に分化・増殖することで歯周組織の恒常性を維持するとともに,修復治癒や組織再生にとり中心的な役割を果たしている14)。そこで私たちは,「歯根膜の細胞老化が,高齢者の進行した歯周病における慢性炎症の要因である」,との仮説のもと歯周組織老化の実態解明に取り組むこととした。

高齢マウス(68~104週齢)では,若齢マウスと比較して2倍程度の支持歯槽骨量(CEJから歯槽骨頂までの距離)の減少が観察される。興味深いことに,臼歯の周囲に絹糸を結紮することによる実験的歯周炎を誘導すると,高齢マウスの支持歯槽骨量は若齢マウスに比し,有意に減少する。このことから,高齢マウスは,若齢マウスより歯周病への疾患感受性が高いことが示唆される。代表的な老化細胞マーカーであるSenescence associated(SA)-β-GAl染色を行うと,高齢マウスの歯周組織,とりわけ歯根膜において,SA-β-GAl陽性の老化細胞が数多く観察される(図2A)。そして,細胞周期チェックポイント因子のp16INK4aの発現増加と核膜の裏打ちタンパクであるlamin,長寿遺伝子SIRT1タンパクの発現減少がみられた。実際に,高齢マウスから採取した歯根膜においてp16Il-6 mRNAの発現上昇を認めた(図2B)。これは,歯根膜にp16陽性の老化細胞が増加していることを個体レベルで証明した最初の報告である15)。最近,他のグループから高齢者の歯肉においてもp16陽性細胞とSASP因子の増加が報告されており16,17),高齢者の歯周炎における老化細胞とSASP因子が慢性炎症に及ぼす影響に関係するエビデンスが集まりつつある。

図2

高齢マウスの歯周組織

A 老化細胞の分布

高齢マウスは若齢マウスと比較し,歯根膜のSA-β-GAL活性陽性細胞が増加している。

B 老化細胞のマーカー遺伝子とSASP因子関連遺伝子のmRNA発現

高齢マウス(Aged mice)は若齢マウス(Young mice)と比較し,p16Il6のmRNAの発現が上昇している。

老化歯根膜細胞のSASP

哺乳類の体細胞は,その細胞分裂回数には限界があり,ある一定回数の細胞分裂を経た細胞はアポトーシスあるいは非可逆的な細胞分裂の停止である細胞老化に陥る(ヘイフリック限界)。そこで,歯根膜の老化細胞の細胞機能を検討するためにヒト初代培養歯根膜細胞に継代培養を繰り返し,複製老化によりin vitroで細胞老化を誘導した。歯根膜細胞は継代数(P)20付近から細胞分裂速度が徐々に低下し,P35付近でほぼ細胞分裂を停止した。継代初期の歯根膜細胞は紡錘形を示したが,P35以上の老化歯根膜細胞は細胞骨格アクチン繊維の伸展を伴う肥大形態を示した。細胞周期調節遺伝子である,p16p21p53遺伝子の高い発現とSA-β-Gal活性の上昇を示し,ROS,クロマチンの凝集,SAHF(senescence associated hetero chromatin foci)の出現,γH2AXの増加,ミトコンドリアの形態異常,エクソソームの増加などの細胞老化形質が認められた10)(図3)。これらの特徴は,細胞老化の条件を多数みたすものである。よって歯根膜細胞は,長期間にわたるストレスへの曝露や細胞分裂によるDNAダメージにより細胞老化に陥ることが確認された。さらにP30以上の老化歯根膜細胞では,IL-6,IL-8,MMPs(マトリックス分解酵素),並びにTGF-β,TNF-α,GROα,MIF等のSASP因子の高産生が認められた。加えて,老化歯根膜細胞の培養上清の添加により,正常歯根膜細胞のIL-6発現の増加やRAW264.7細胞の破骨細胞分化の亢進がみられた。歯根膜の老化細胞は,SASP分泌タンパクを介してオートクライン,パラクライン的に自己や周囲の正常細胞や免疫細胞に作用していることが推察される。この際にSASP因子は歯周組織への免疫担当細胞の持続的な浸潤を促進することで慢性炎症を拡大し,MMPsが細胞外基質タンパクを分解・障害することで,組織の脆弱化を引き引き起こし歯周病への感受性を高めていることが示唆される。

図3

老化歯根膜細胞の細胞老化形質

複製老化を誘導した老化ヒト歯根膜細胞は,細胞骨格の異常,硬組織形成能の低下,ROSの集積,クロマチンの凝集,SAHFの出現,DNAダメージの蓄積(γH2AX),ミトコンドリアの異常,エクソソームの産生異常などの形質を示す。

老化歯根膜細胞のSASP誘導の分子機構

細胞老化の誘導には,DNA損傷応答(DNA damage response:DDR)の活性化が重要である。細胞分裂を繰り返したヒトの体細胞は,DNA断端のテロメア短縮部位が露出し,DDRを活性化する。酸化ストレスやがん抑制遺伝子の導入もDDRを活性化し,最終的には,がん抑制経路であるp53-p21経路及びp16-pRB経路にシグナルが伝達され細胞周期が停止される。その一方で,NF-κB(nuclear factor-kappa B)やC/EBP-β(CCAAT/enhancer binding protein-β)の転写因子の活性化によるSASPの誘導が重要である10)。私たちは,RNAシークエンスを用いた老化歯根膜細胞の遺伝子の網羅解析により,歯根膜細胞の細胞老化の制御に関係するいくつかのmicroRNA(miR)と標的遺伝子を同定した。その一つである老化歯根膜細胞において発現が上昇したmiR-34aは,細胞周期の制御因子CDK4/6,アポトーシスを抑制するBCL2,長寿遺伝子SIRT1に対する相補配列をもち,がん抑制遺伝子p53に誘導される19)(図4)。ストレスによりDDRが活性化した老化歯根膜細胞では,p53の下流でmiR-34aが増加することでNAD依存性ヒストン脱アセチル化酵素SIRT1が抑制され,NF-κB炎症性にSASP因子関連遺伝子の転写を調節・制御しているものと考えている。また,タバコの濃縮物で歯肉線維芽細胞をin vitroで長期間刺激することで細胞老化がおこり,miRNA依存性にSASP因子が産生されることを確認した20)。これらの結果から,高齢者の歯周組織では生体内のさまざまなストレスへの曝露が細胞老化を亢進し,蓄積した老化歯根膜細胞や歯肉線維芽細胞の産生するSASP因子が慢性炎症や組織破壊の大きな要因となっているものと考えている。

図4

老化歯根膜細胞が歯周組織の老化に及ぼす影響(作業仮説)

高齢者の歯周組織では生体内のさまざまなストレスへの曝露が細胞老化を亢進し,蓄積した老化歯根膜細胞や歯肉線維芽細胞の産生するSASP因子が慢性炎症をひきおこすことで組織破壊の大きな要因となっているものと考えている。

細胞老化制御に基づいた歯周病治療とその課題

次の大きな課題として,人為的な細胞老化の制御により高齢者の歯周病は改善できるかを検証することが挙げられる。

現在,老化細胞に特異的に細胞死を誘導し体内から除去することを目的とした老化細胞除去(senolytic drug)薬の研究開発が世界的な競争となっている。最初の報告は,2015年のメイヨークリニックのKirklandらによるもので,チロシンキナーゼ阻害剤であるダサチニブとフラボノイドであるケルセチンの投与が老化細胞に細胞死をおこすこと,高齢マウスの病態改善や寿命の延伸が報告されている21)。2016年にp16陽性の老化細胞を遺伝子工学的に排除した高齢マウスでは寿命が延伸したことで細胞老化が個体の老化と関係することが証明され22),同様のモデルでサルコペニアや動脈硬化,肝疾患,白内障などの加齢病態の改善が報告された。糖尿病や冠動脈疾患,関節リウマチなどの他の加齢関連疾患においても老化細胞除去薬の有効性が確認され,アメリカでは30以上の臨床試験が実施中である23)。日本ではSGLT2阻害剤(糖尿病薬)の高脂肪食肥満マウスでの老化細胞除去効果が報告され24),ヒトへの臨床研究が2025年から開始予定となっている。歯科領域においても,最近,ダサチニブとケルセチン投与により,高齢マウスの歯肉の老化病態と骨吸収が部分的に改善したことが報告されている25)

老化細胞のSASPの抑制を目的としたSASP阻害剤(senomorphic薬)の開発も進んでおり,SASP因子の主要転写因子であるNF-κBを標的するラパマイシンやメトホルミンが有用ではないかと考えられている。ラパマイシンはマウスで寿命の延長効果が明らかとなっており25),その投与により高齢マウスの歯槽骨吸収が改善したとの報告26)がある。しかしながら,その強い免疫抑制作用からヒトへの応用に際しては口内炎の発生・感染症の増悪や癌の発症といった副作用が危惧されている。歯周組織の細胞老化を標的とした予防・治療法の開発には,in vivo歯周病実験モデルを用いた老化細胞除去薬の十分な安全性や有効性の検証に加えて,臨床研究による“Clinical Relevance”の確立が必要と考える。

おわりに

現在,塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-2:Fibroblast growth factor-2)を主成分とするリグロスが保険収載の歯周組織再生剤28)として一般臨床に普及し,幹細胞移植療法が臨床応用されるようになっている29)。しかしながら,その対象となる歯周病患者は限られ,高齢者が健康な歯周組織を維持・機能させることは非常に困難である。実際に,令和4年度歯科疾患実態調査では8020達成者(80歳で20本以上の歯が残存)の割合は51.6%と比較的高い水準に到達した一方,4 mm以上の歯周ポケットを有する75歳以上の高齢者の割合は増加している。よって,スケーリング・ルートプレーニングや抗菌薬の投薬からなる従来の歯周病治療に加えて,高齢者に特有の病態生理をふまえた新規概念の治療法の導入が課題と考えている。歯周組織の生物学的老化を治療標的とする,老化細胞除去やSASP阻害に基づく細胞老化療法は,歯周病ならびに加齢性の慢性疾患に対しての包括的な治療戦略の創出につながるものとして期待される。

謝辞

本研究の一部は,日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業,基盤研究(B)(23H03082,23K27772)および基盤研究(C)(22K09963,22K09979)の補助を受けて実施されたものである。

歯周組織の細胞老化に関する一連の研究遂行にあたり,研究に参画いただいた大阪大学大学院歯学研究科 口腔治療学講座の中村友美先生,鈴木美麻先生,西川有彩先生,橋本康樹先生に心より感謝申し上げます。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
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