Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
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Clinical considerations for alveolar ridge preservation
Tadahiro Takayama, Takashi Onizawa, Shuichi Sato
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2026 Volume 68 Issue 3 Pages 115-121

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はじめに

抜歯は,歯を長期的に機能面あるいは審美面の観点から適切な状態で保存または修復することが困難となった場合に適応される処置である。歯の喪失は,咀嚼や発音機能に障害を与えるだけでなく,社会生活にも影響を及ぼし,患者のQOLを低下させることが報告されている1)。

抜歯後の治癒過程は,血餅の形成,炎症反応,種々の細胞集団の遊走・増殖・分化,結合組織基質の産生と石灰化,さらに新生組織のモデリングおよびリモデリングを含む一連の生物学的反応から構成される2,3)。骨の治癒過程においては,抜歯窩は必然的に三次元的骨吸収を受け,その結果として硬組織および軟組織に形態学的変化が生じる4)。インプラント治療では,補綴主導型のインプラント埋入プロトコールが遵守されており,抜歯後歯槽堤の硬組織および軟組織の形態は,インプラント治療における外科的および補綴的フェーズの双方において重要な意義を有する5,6)。十分な新生骨形成と抜歯前歯槽骨形態の維持は,理想的な補綴学的位置へのインプラント埋入を可能にする。さらに,抜歯前の軟組織の形態を保持することは,健全なインプラント周囲組織を伴う審美的なインプラント支持型補綴装置を作製するうえで必要不可欠であると考えられている7,8)。また,歯槽堤形態は,固定性および可撤性補綴装置の清掃性や審美性ならびに維持に影響を与える。

抜歯後の組織変化として水平方向および垂直方向の双方に骨量減少を伴うことが示されている9,10)。そのために,抜歯後に生じる歯槽堤吸収を防止または軽減し,さらに抜歯窩内での骨形成を促進することを目的として開発された「歯槽堤保存術(Alveolar Ridge Preservation:ARP)11,12)」は,現代歯科臨床における重要な治療ストラテジーの一つとなっている(図1)。

ARPの目的として以下の3項目が挙げられる。

1)抜歯後の歯槽堤形態変化を最小限に抑えることにより,大規模な追加骨造成や軟組織増大術を行わないインプラント治療を可能にし,さらにブリッジのポンティック部においても歯槽堤形態を最適化することが可能となり補綴物周囲の清掃性を高めること5)。

2)抜歯窩内における新生骨形成を促進し,それがインプラントのオッセオインテグレーションに適したレベルに達すること13)。

3)抜歯窩上部での軟組織治癒を促進し歯槽堤外形を維持すること14)。

代表的なARPの術式として,抜歯窩内に骨移植材を填入後にバリアメンブレンや軟組織移植片を併用し移植材を被覆するソケットシーリング法が現在最も一般的に用いられている15)。

本レビューの目的は,上述したARPの主要目的に関するエビデンスを検討し,抜歯窩の自然治癒と比較した場合にどのような状況でARPが有利な結果をもたらし得るのかを考察することである。

図1

抜歯後の自然治癒と歯槽堤保存術(ARP)を行った場合の残存歯槽堤の変化

A:自然治癒 B:ARP

抜歯後に歯槽堤形態が垂直的および水平的に変化する。この形態変化が抜歯後の補綴治療に影響を及ぼす場合があるため,ARPが抜歯後の治療オプションの1つとなる。

1. 歴史的背景

歯槽堤吸収を抑制する最初の治療法としてroot retention法が行われ,その主目的は可撤性補綴装置の安定性向上である16)。しかしながら,歯根破折,齲蝕,あるいは補綴治療の理由により,root retention法の適応は限定的であった。1980年代半ばに,socket graftingによるARPがroot submergence法の代替治療として提唱された17)。本術式は,「抜歯後に生じた歯槽窩内空隙を生体材料によって充填することでroot retention法で得られる治療効果を模倣し,骨保存を促進できる」という概念に基づいている。さらに,この方法により骨造成術を追加する必要性を軽減し,結果として骨内インプラント埋入を容易にすると考えられた17)。このアプローチは,その概念的合理性および術式の簡便性から経年的に広く普及するに至った18)。過去20年にわたり,さまざまなARPの有効性を検討する研究が実施された19)。これらの研究では,自家骨,骨移植材(同種骨,異種骨,人工骨),自家血液由来製剤,さらには生理活性因子など,多岐にわたる生体材料が用いられた12)。これらの結果には,臨床的評価,エックス線学的評価,ならびに組織学的評価に関する豊富なデータが含まれている。しかし,ARPに関する文献の大部分は,症例報告,症例集積研究,あるいは統計学的検出力が十分でない臨床試験によって構成されているのが現状であり,さらに,適切な対照群として自然治癒による抜歯窩を設定している研究は少ない20)。

2. 抜歯窩の自然治癒

歯槽骨固有層いわゆる「束状骨(bundle bone)」は歯槽窩内側に存在し,その大部分は皮質骨から構成される。束状骨には多数の小孔が存在し,フォルクマン管を介して歯槽骨から歯根膜へ血管および神経が供給されると同時に,歯根膜およびセメント質由来のシャーピー線維を支持している21)。束状骨は歯根膜に依存しているため,抜歯により吸収が生じその結果としてシャーピー線維の消失および歯根膜由来血流の遮断が起こる22)。抜歯後にこの束状骨吸収の結果として歯槽堤に垂直的および水平的の両方向で著明な形態変化が生じることが報告されている23,24)。Van der Weijdenらは抜歯後6か月で,平均として幅径で3.87 mm,高径で1.67 mmの骨吸収が生じること25),また,Tanらは水平的骨吸収29~63%垂直的骨吸収11~22%と報告している26)。これらの形態変化は,垂直方向よりも水平方向でより顕著である。さらに,抜歯窩治癒のパターンおよび程度は,個体間の解剖学的差異によっても影響を受ける。具体的には,抜歯部位(上顎/下顎,前歯部/臼歯部)27-30)や,歯槽突起形態31)が影響因子となり得る。骨吸収パターンには上顎と下顎で差があることが報告されており30,32),一般的には下顎の方が上顎より大きな骨吸収を示す傾向がある33)。最近のシステマティックレビューにおいて,Couso-Queirugaら28)は前歯部と臼歯部を分けて抜歯後歯槽堤の形態変化を解析し,抜歯部位が形態変化の程度に関連することを示した。その結果,両顎における平均水平的骨吸収量は,臼歯部3.61 mm,前歯部2.54 mmであった。また垂直的骨変化については,頬側骨の減少量は,臼歯部1.46 mm,前歯部1.65 mmであった。Chappuisらは薄い頬側骨形態が著明な垂直的骨吸収の重要なリスク因子であることを報告した34)。上顎単根歯における抜歯後8週間では,骨吸収は主に歯槽窩壁の中央頬側部に生じ,頬側骨厚が1.0 mm未満の場合(中央値0.7 mm,範囲0.4~1.0 mm),平均7.5 mmの骨高径減少が認められた。これに対し,頬側骨厚が1.0 mm以上の場合(中央値1.4 mm,範囲1.1~1.7 mm)では,平均骨高径減少はわずか1.1 mmであった。

3. ARPによる残存歯槽堤の変化

過去20年間の多数の臨床研究によって,さまざまな骨移植材を用いたARPプロトコールは,自然治癒と比較して歯槽堤形態の維持により有効であることが示されてきた11,14,35,36)。ただし,ARPを行った場合でも一定の硬組織および軟組織喪失は生じ残存歯槽堤の形態に影響を及ぼす29,36)。

複数のシステマティックレビューおよびメタアナリシス14,29,36-38)によると,ARPは自然治癒の部位と比較して,歯槽堤高径を0.79~1.72 mm,幅径を0.73~2.96 mm減少させることが示されている。興味深いことにMacBethら39)のシステマティックレビューでは,ARPと自然治癒との間で歯槽堤幅径減少量に統計学的有意差は認められなかった。この結果は,ARPが垂直的および水平的の両方向における有意な保存効果を有するとした他の近年のレビューとは対照的であった40)。ただし,それらのレビューでも,ARP後の歯槽堤幅径には非常に大きなばらつきが存在することが示されている29,36)。これらの報告の多くは「特定のARP術式が他の術式より明確に優れていることを示す十分なエビデンスは存在しない」と結論づけている。しかし,Avila-Ortizら29)のシステマティックレビューでは,歯槽堤幅径保存の観点において,骨移植材の単独使用と比較して吸収性コラーゲンメンブレンを併用することに利点があることが示された。報告されている結果のばらつきは,使用された生体材料の多様性や術式および治癒期間の違いによる可能性がある。

局所的因子および全身的因子によって,抜歯後の骨吸収およびリモデリングは影響を受け,その結果として歯槽堤形態変化の程度も異なる。また,これら形態変化の違いや治癒期間は,治療の難易度,費用,治療に介入するタイミング,さらには治療による組織への侵襲程度の影響を受け,最終的にはあらゆる補綴治療の機能的および審美的な結果へ直接影響する2,32)。

以上よりARPは,骨吸収および軟組織ならびに硬組織喪失のリスクが高い症例において検討され,将来的なインプラント治療を容易かつ簡便にしたり,歯支持型固定性補綴装置の審美的結果を改善したりする目的で行われる治療法である。

4. ARPによる新生骨形成

ヒトにおける組織学的研究では,ARP後の硬組織に関する治癒形態は,使用された材料や術式,さらに評価時期によって異なることが報告されている11,41-43)。そのため,抜歯窩内での新生骨形成促進に最適な術式あるいは生体材料が何であるかについては依然として結論が得られていない14)。各種ARPに使用する材料や術式による新生骨形成能および予知性は以下のように要約される。各種骨移植材を単独で使用した場合と比較して,メンブレンを併用した方がより多くの新生骨形成が得られることが示された42,44)。骨移植材を使用せず,コラーゲンメンブレン単独で新生骨形成を評価した先行研究では,治癒3か月時点で45.9%±12.4%の新生骨形成が報告されている45)。また,同システマティックレビューでは「コラーゲンメンブレンと異種骨の併用療法」が最も多く検討されているARP術式であることが示された。しかしながら,特定の骨移植材とメンブレンの組み合わせが他の材料より優れていることは証明できなかった。Maioranaら46)は,新鮮抜歯窩に牛由来骨ミネラルを填入後にブタ由来コラーゲンマトリックスによって抜歯窩入口部を封鎖した。術後の組織形態計測では,新生骨形成16.0%±7.1%,結合組織50.7%±8.4%であった。しかし,いずれの治療法においても自然治癒の抜歯窩と比較すると有意に新生骨形成が得られていたと結論づけている。ARPは自然治癒と比較して歯槽堤形態および概形の保存には有効であるが11,14,29),新生骨形成という点では自然治癒抜歯窩と比較して限定的な効果であった41,42,44)。また,検討された34種類の骨移植材のうち9種類では,自然治癒の抜歯窩と比較して有意に少ない新生骨形成しか得られなかった44)。これには,最も広く研究されている異種骨材料〔脱タンパク牛由来骨ミネラル(DBBM)コラーゲン〕や同種骨材料〔FDBA〕が含まれていた。

ARPにおいて骨移植材を使用する背景には,それらが骨伝導性(osteoconductive)つまり足場として機能し治癒初期段階における血餅安定化を支持するとともに,未分化間葉系細胞を骨芽細胞へ分化誘導する骨誘導性(osteoinductive)を併せ持つというコンセプトがある47)。吸収速度の遅い骨移植材は,長期間その構造を維持し,新生骨あるいは高密度結合組織と接触した状態を保持できるため歯槽堤容積維持には有利となる可能性がある。一方,吸収速度の速い材料は,破骨細胞による吸収で分解されるため48),新生骨形成促進には有利であるが49),機械的強度に劣る可能性がある。Artziら50)およびCarmagnolaら51)は,異種骨を用いたARPでは,9か月時点で30~40%の残存グラフトマトリックスが認められ,その粒子は新生骨に囲まれた状態で存在していたと報告している。

以上より,抜歯窩が本来有する内在的骨再生能と比較した場合,骨移植材は骨治癒を加速させたり新生骨形成量を増加させたりするわけではないと結論づけられる。したがって臨床家は,ARPによる軟組織および硬組織形態維持されるベネフィットと骨形成が阻害されるリスクとのバランスを慎重に評価する必要がある。さらに現時点においては,ARPを行った抜歯窩へ埋入されたインプラントが既存骨へ埋入されたインプラントと比較してインプラント周囲疾患へ罹患しやすいことを示唆するエビデンスは存在しない。

5. ARP後のインプラント治療

インプラント埋入時における追加骨造成の必要性を検討した臨床研究では,ARPを行うことで追加の骨造成を必要とする頻度が減少することが報告されている52-55)。Mardasら5)は,ARPによってインプラント埋入時の追加骨造成の必要性が85%減少したと示唆している。また,Garcia-Sanchezら56)のシステマティックレビューではインプラント埋入前または埋入時に骨移植を必要とする割合が55~100%減少したと報告している。また,上顎大臼歯部におけるARPでは,自然治癒と比較して垂直的骨高径がより良好に維持されるため上顎洞底挙上術の必要性も減少したことが報告されている57)。Jungら58)の前向き研究では,骨造成された歯槽堤へ埋入されたインプラントの生存率が評価され,5年経過時点で97.2%,10年時点で95.2%という高い生存率が示された。これらの数値は,既存骨へ埋入された単独インプラントの報告生存率と同等であった。

以上より,インプラント生存率という観点からは,ARPが自然治癒に対して明確な臨床的ベネフィットを有することを支持するエビデンスは限定的である15)。すなわち,ARPを行った部位へ埋入されたインプラントの生存率,成功率,および辺縁骨レベルは自然治癒の抜歯窩へ埋入されたインプラントと同等であると結論付けられる。

結論

ARPは過去の報告より,臨床的妥当性および安全性が確認された抜歯窩マネージメント法であり,補綴主導型の理想的位置へのインプラント埋入を可能にし,抜歯後に生じる硬組織および軟組織の形態変化を軽減することができる。現在ARPに使用されている多くの骨移植材は,自然治癒と比較して有意な新生骨形成増加を示さないものの,研究結果からはインプラントのオッセオインテグレーション,生存率および成功率に悪影響は認められていない。一方で,ARP後に歯槽堤の軟組織量や軟組織性状を改善する効果は限定的である。骨移植材とバリアメンブレンを併用することが現在最も予知性の高いARPプロトコールと考えられている。しかしながら,どの骨移植材あるいはメンブレンを選択すべきか,またそれらを適用する最適な外科プロトコールについてはまだ確立されてない。

本レビューを通して,ARPは抜歯後に歯槽堤形態の減少を最小限に抑制する術式として有効であり,抜歯後に計画されているすべての補綴処置に対してポジティブに働くと考えられる。とくに機能的のみならず審美的な改善も求められる上顎前歯部に対して行う治療オプションの1つとして推奨される。

また,本文中の各チャプターに記載したARPに関する数値に関して表1にまとめた。

表1

歯槽堤保存術(ARP)に関する各チャプターに記載されている数値のまとめ

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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