2026 Volume 68 Issue 3 Pages 138-146
目的:トラネキサム酸(TXA)とε-アミノカプロン酸(EACA)が,Porphyromonas gingivalisのヒト歯肉上皮細胞(hOK)への感染およびTLR-4/Caspase-4を介する免疫応答に及ぼす影響を評価する。
方法:hOKにPorphyromonas gingivalisを感染させ,TXA/EACA(1,10,100 mM)添加群と比較した。感染はCFSE標識菌を用い蛍光顕微鏡とフローサイトメトリーで評価した。IL-1β/IL-6はqRT-PCR,TLR-4/Caspase-4はウエスタンブロットで解析し,siRNAで機能評価した。各薬剤のMICを測定した。
結果:10 mM TXA/EACAはPorphyromonas gingivalisの上皮感染を阻害し,IL-1β/IL-6発現を抑制した。TLR-4タンパク量に変化はないが,感染に伴うCaspase-4低下は抑制された。siTLR-4はIL-6のみ,siCaspase-4はIL-1β/IL-6誘導を抑制した。MIC(TXA≧254.6 mM,EACA≧304.9 mM)より本効果は抗菌作用ではない。
結論:TXA/EACAはPorphyromonas gingivalisの上皮感染を阻害し,Caspase-4依存的炎症応答を抑制して過剰な免疫応答を防ぐ。これは臨床での出血・炎症改善機序の一端を示唆し,歯周炎の予防・治療的意義を持つ。
Objective: To determine whether the antifibrinolytic agents, tranexamic acid (TXA) and ε-aminocaproic acid (EACA), affect Porphyromonas gingivalis adherence, invasion, and infection of gingival epithelial cells as well as downstream inflammatory responses in vitro, and to assess the involvement of host receptor pathways (TLR-4 and caspase-4).
Methods: Human oral keratinocytes (hOK) were challenged with Porphyromonas gingivalis ATCC 33277. For gene expression and protein analyses, hOK were infected at an MOI of 10 for 6 h in the presence or absence of TXA or EACA (1, 10, 100 mM). Infection assays employed CFSE-labeled Porphyromonas gingivalis at an MOI of 500 for 2 h. Attachment/internalization was evaluated by fluorescence microscopy and flow cytometry. Gene expressions of IL-1β and IL-6 were quantified by qRT-PCR (TaqMan assays). Protein levels of TLR-4 and caspase-4 were compared by Western blot analyses. The functional roles of TLR-4 and caspase-4 were assessed using siRNA knockdown. The antibacterial activities of TXA and EACA were determined by MIC agar dilution. Experiments were performed in triplicate; ANOVA with Tukey's post hoc test was used for the statistical analysis (p < 0.05, p < 0.01, p < 0.001).
Results: TXA and EACA at 10 mM significantly reduced Porphyromonas gingivalis attachment and apparent internalization to hOK. Accordingly, infection-induced IL-1β and IL-6 mRNA expressions were suppressed in the TXA/EACA-treated cells. TXA/EACA treatment resulted in no significant change of the total TLR-4 protein, whereas it prevented the infection-associated decrease in caspase-4. siRNA knockdown of caspase-4 reduced infection-induced IL-1β and IL-6 expressions, whereas siTLR-4 had limited effect. MIC testing indicated no bactericidal activity at the experimental concentrations (MICs: TXA ≥254.6 mM, EACA ≥304.9 mM).
Conclusions: TXA and EACA inhibit Porphyromonas gingivalis infection of gingival epithelial cells and suppress the induction of IL-1β and IL-6. These antifibrinolytic agents have the potential to prevent excessive immune responses by blocking the entry of pathogens into epithelial cells, which may explain the clinically observed improvements in bleeding and inflammation. Furthermore, these findings suggest a potential prophylactic and therapeutic role of TXA/EACA in suppressing the onset and progression of periodontitis.
歯周炎は口腔内微生物叢の不均衡と宿主免疫応答の破綻により惹起される慢性炎症性疾患であり,進行すると歯槽骨吸収により歯の喪失を招く重大な疾患である1)。病態形成には多様な微生物因子と宿主因子の相互作用が関与しており,特にPorphyromonas gingivalis(P. gingivalis)は,病原性の高い菌種として歯周病病変の成立・進展に重要な役割を果たすと考えられている1,2)。P. gingivalisは複数の表面接着分子(fimbriae,Mfa/FimA,gingipainのアドヘジン領域など)を有し,これらにより歯肉上皮や他の宿主細胞表面に付着し,細胞内へ侵入する能力が示されている3-5)。P. gingivalisの歯肉上皮への付着・侵入は,上皮バリアの破綻や局所炎症惹起,さらには組織破壊の増悪へとつながる重要な病態機序と考えられる1-5)。
宿主側のP. gingivalis認識はTLR-4を介する経路のほか,細胞質内に侵入したLPSを感知する非定型インフラマソーム経路が重要である6,7)。ヒトではCaspase-4が細胞質内LPSを感知し非定型インフラマソームを活性化し,ガスダーミンDの切断を介したパイロトーシスや炎症性サイトカイン放出を誘導することが示されていることに加えて7-10),P. gingivalisが歯肉組織および上皮細胞でCaspase-4活性化を伴う炎症応答を引き起こす報告や,Caspase-4を介してIL-1βを産生することも報告されている11-13)。これらの知見を踏まえ,P. gingivalisによる炎症はTLR-4とCaspase-4を含む複数経路の関与する複合的プロセスと理解されるべきである。
トラネキサム酸(TXA)およびε-アミノカプロン酸(EACA)は抗線溶薬としてプラスミノーゲン/プラスミン系を阻害し止血作用を示す。これまでにTXAを含む歯磨剤やマウスリンスは,臨床試験で歯肉出血や炎症指標の改善が報告されており,TXAに加えて殺菌剤を含むマウスリンスのランダム化比較試験ではQHI,GI,BOPの改善が示されている14)。また,TXAを含む歯磨剤でも炎症や出血の改善が報告されている15)。
しかしながら,これらの臨床研究において,TXA/EACAがどのような過程を介して出血や炎症を抑制しているかは,明確でない。特にP. gingivalisの上皮付着・侵入や,感染に伴う宿主内在性受容体/インフラマソーム応答に対するTXA/EACAの影響は解明されていない。
本研究は,ヒト歯肉上皮細胞を用いたin vitro系を通じ,TXAおよびEACAがP. gingivalisの上皮への感染と,感染に伴う炎症性応答に及ぼす影響を評価し,TLR-4とCaspase-4を含む宿主応答経路の関与を検討して,臨床で報告される出血・炎症改善の機序について示唆を得ることを目的とする。
ヒト歯肉上皮細胞(hOK)は,ScienCell Research Laboratory(USA)より入手し,専用培地(Oral Keratinocyte Medium,ScienCell Research Laboratory)で継代培養を行ったのち,Passage 3から5の細胞を,6,24,または96 well plate(AGC TECHNO GLASS,Shizuoka)に播種してコンフルエントになるまで培養した。
Porphyromonas gingivalis(ATCC 33277株)は,アネロコロンビアウサギ血液寒天培地(日本Becton Dickinson,Tokyo)およびATCC Medium 2722を用い,37℃,嫌気条件下で培養した。
トラネキサム酸(TXA)およびε-アミノカプロン酸(EACA)は,KYOWA PHARMA CHEMICAL(Toyama)製品を用い,培地(DMEM,FUJIFILM Wako,Osaka)に溶解し,1,10,100 mMに調製した。
2. 細胞生存率測定96 well plateに播種したhOKに対しP. gingivalis未感染群,P. gingivalis感染群,TXA群,EACA群,およびP. gingivalis感染+各薬剤群を設定した。感染および薬剤条件は,MOI=10,TXAまたはEACA濃度は1,10,100 mMとした。6時間作用させた後,上清を除去してPBSで2回洗浄したのち,DMEMに溶解させたWST-8(Cell Counting Kit-8:CCK-8,DOJINDO LABORATORIES,Kumamoto)を加えて1時間反応させた。吸光度はマイクロプレートリーダー(Sunrise,TECAN,Switzerland)で450 nmを測定した。
3. 感染処理および薬剤添加24 well plateに播種したhOKに対しP. gingivalisをMOI=10で添加し,同時に各薬剤を添加して6時間インキュベートした(37℃,5% CO2)。対照は薬剤非添加の感染群および非感染群とした。
4. 顕微鏡観察による感染アッセイJung YJらの方法16)に基づき実験を行った。即ち,P. gingivalisを10 μM Carboxyfluorescein Succinimidyl Ester(CFSE,DOJINDO LABORATORIES)で30分間染色したのちに,4℃・4000 g・5分間遠心分離して上清を除去しDMEMで再懸濁することで洗浄する操作を2回繰り返し,CFSE染色P. gingivalisを作成した。さらに,菌体に各薬剤を1時間作用させ,同様に洗浄したのちに,6 well plateに播種したhOKに感染(MOI=500)させた。感染2時間後に上清を除去,PBSで2回洗浄した後に,細胞剥離液(0.05% Trypsin-EDTA,Invitrogen,USA)で細胞を剥離し,4%パラホルムアルデヒド(FUJIFILM Wako)で30分間固定して,PBSで2回洗浄した後に,蛍光顕微鏡(オールインワン蛍光顕BZ-X800;KEYENCE,Osaka)で観察した。
5. フローサイトメトリーによる感染アッセイ顕微鏡観察サンプル調製と同様の方法16)で,CFSE染色P. gingivalisをhOKに感染,固定した。フローサイトメトリーによる感染評価はFACS Verse(BD Biosciences,USA)を用い,FITCチャネルにてCFSE蛍光を測定した。ゲーティングは,未感染細胞を用いてForward scatterおよびSide scatterプロット上でデブリやダブレット等を除外し,シングレットhOK細胞集団をゲートした。また,未感染細胞のCFSE蛍光の分布を確認し,感染評価に用いる蛍光指標の基準を設定した。各群それぞれ100,000 eventsを取得し,FACSuite(BD Biosciences)を用いて解析を行った。
6. qRT-PCRTotal RNA抽出キット(RNeasy mini kit,QIAGEN,Germany)を用いて抽出したRNAを,逆転写酵素(High capacity RNA to cDNA,Invitrogen)で逆転写反応を行った。PCR反応混合液(TaqMan Fast Advanced Master Mix,Thermo Fisher Scientific,USA)を用いて,標準プロトコールに従ってqRT-PCRを実施した(95℃で1秒変性,60℃で20秒アニーリング反応を40サイクル)。TaqMan probe(Thermo Fisher Scientific)として,IL-1β(Assay ID:Hs01555410_m1),IL-6(Hs00174131_m1),GAPDH(Hs02786624_g1)を用い,GAPDHで正規化して2-ΔΔCt法で相対発現を算出した。
7. ウエスタンブロット(WB)プロテアーゼインヒビター(Halt Protease Inhibitor Cocktail,Thermo Fisher Scientific)を添加したRIPAバッファー(Thermo Fisher Scientific)を用いて細胞からタンパク質を抽出し,SDS-PAGE後に0.45 μm Pore SizeのPVDF膜(Thermo Fisher Scientific)に転写,1% BSA/TBS-Tを用いて1時間ブロッキングした。一次抗体としてToll-like Receptor 4 Rabbit Monoclonal Antibody(Cell Signaling Technology;CST,USA,#38519),Caspse-4 Rabbit Monoclonal Antibody(CST,#42264),beta-Actin Rabbit Monoclonal Antibody(CST,#5125)を,それぞれ抗体反応バッファー(Can Get Signal Solution 1,TOYOBO,Osaka)を用いて1000倍希釈し,一晩反応させて各タンパク質を標識した。二次抗体にはAnti-rabbit IgG HRP-linked Antibody(CST,#7074)を用い,Can Get Signal Solution 2(TOYOBO)で1000倍希釈し,室温で1時間反応させた。化学発光HRP基質(Pierce ECL Plus Western Blotting Substrate,Thermo Fisher Scientific)で化学発光させ,AMERSHAM IMAGER 600(Cytiva,Sweden)で検出した。
8. siRNAノックダウンsiTLR-4(Ambion,USA,Assay ID:s14195),siCaspase-4(Ambion,s2414),siControl(Ambion,Negative Control NO.1)を,トランスフェクション試薬(Lipofectamine RNAiMAX,Invitrogen)を用い,標準プロトコールに従ってトランスフェクション(48時間)し,ノックダウン効率をqRT-PCR(TLR-4:Hs00152939_m1,Caspase-4:Hs01031951_m1)で確認した。ノックダウン後にP. gingivalisを感染させ,IL-1β/IL-6遺伝子発現をqRT-PCRで評価した。
9. MIC測定TXA/EACAの最低発育阻止濃度(MIC)は,Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)17)に準じ,寒天平板希釈法にて測定した。感受性の判定基準は,薬剤無添加(コントロール)と発育が同じものを3+,コントロールより発育が抑制されているものを2+,1+とし,発育阻止が確認できた場合に-とした。
10. 統計解析データはmean±SDで示した。群間比較は一元配置分散分析(ANOVA)後にTukey多重比較を用い,それぞれp<0.05,p<0.01,p<0.001を有意とした。解析はIBM SPSS Statisticsバージョン31.0.0.0で実施した。
CCK-8によりhOK細胞生存率を評価した(図1)。未感染群に比べ,P. gingivalis感染群では生存率の僅かな低下が認められた。一方,TXA群(図1A)およびEACA群(図1B)では,1–100 mMの範囲で未感染群と比較して生存率に有意な変化は認められなかった。感染+薬剤群では,1 mM TXA(図1A)または1 mM EACA(図1B)で生存率の低下が認められたが,10 mM以上(10,100 mM)では未感染群と同等の生存率が維持され,有意差は認められなかった。これらは薬剤がhOK細胞生存率を低下させる細胞毒性がないことを示す。

TXAおよびEACAがhOK生存率に及ぼす影響(CCK-8)
hOKを未感染,P. gingivalis感染(MOI=10,6時間),薬剤単独(1,10,100 mM),および感染+薬剤群に分け,細胞生存率を評価した。(A)TXA処理群,(B)EACA処理群。*mean±SD,N=6,*p<0.05
CFSE法の蛍光顕微鏡画像およびフローサイトメトリー解析で,10 mM以上のTXA(図2A)およびEACA処理群(図2B)で,感染群に比してMFIが有意に低下した。顕微鏡観察においても,感染群(図3A)に比べて,TXA処理群(図3B)で,細胞表面付着および細胞内蛍光が明瞭に減少した。これらは薬剤がP. gingivalis感染の付着段階を阻害していることを示唆する。

TXAおよびEACAがP. gingivalisのhOK感染に及ぼす影響(フローサイトメトリー)
CFSE標識したP. gingivalis(MOI=500,2時間)をhOKに感染させ,FITCチャネルのMFIを測定した。(A)感染+TXA群,(B)感染+EACA群。*mean±SD,N=3,†p<0.001

P. gingivalisのhOK感染像(蛍光顕微鏡)
CFSE標識したP. gingivalis(緑色,MOI=500,2時間)をhOKに感染させ,4%パラホルムアルデヒド固定後に観察した。(A)感染群,(B)TXA群。*60倍
P. gingivalis感染はIL-1β(図4A),IL-6(図4B)mRNAを上昇させたが,TXA/EACA添加群では,これら誘導が有意に抑制された。

TXAおよびEACAがP. gingivalis感染hOKの炎症性サイトカイン遺伝子発現に及ぼす影響(qRT-PCR)
hOKにP. gingivalis(MOI=10,6時間)を感染させ,同時にTXAまたはEACA(1,10,100 mM)を作用させた。(A)IL-1β,(B)IL-6のmRNA相対発現量を測定した。*mean±SD,N=3,*p<0.05,†p<0.001
WB解析で,P. gingivalis感染に伴って亢進したTLR-4タンパク量は,薬剤処理で顕著に変化しなかった(図5)。一方で,P. gingivalis感染群で観察されたCaspase-4のバンド強度低下は,TXA/EACA群で抑制されていた(図5)。

P. gingivalis感染hOKにおけるTLR4およびCaspase-4タンパク質量に対する薬剤の影響(ウエスタンブロット)
hOKにP. gingivalis(MOI=10,6時間)を感染させ,同時にTXAまたはEACAを作用させた後の細胞ライセートを解析した。TLR4,Caspase-4,および内部標準(β-actin)の代表的な化学発光画像を示す。
siTLR-4によるノックダウン(図6A)は,IL-1βへの影響は限定的であった(図6B)が,IL-6(図6C)に影響を示した。siCaspase-4(図6D)はP. gingivalisによるIL-1β/IL-6の誘導を有意に抑制した(図6E,F)。これらは感染誘導性サイトカインが主にCaspase-4に依存していることを示唆する。

siRNAによるIL-1β/IL-6遺伝子発現変化(qRT-PCR)
hOKに各siRNAを導入後,P. gingivalis(MOI=10,6時間)を感染させた。qRT-PCR法による(A)TLR-4ノックダウン効率の確認,(B)IL-1βおよび(C)IL-6のmRNA相対発現量。同様に(D)Caspase-4ノックダウン効率の確認,(E)IL-1βおよび(F)IL-6のmRNA相対発現量を示す。*mean±SD,N=3,*p<0.05,**p<0.01,†p<0.001
MIC測定の結果,TXAのMICは≧254.6 mM,EACAのMICは≧304.9 mMであり,本研究で検討した10 mM程度では増殖阻止効果はないことから,TXA/EACAによる感染抑制や感染に伴う炎症反応の抑制は,殺菌作用ではなく付着阻害に起因すると考えられる(表1)。

TXAおよびEACAのMIC測定結果
CLSI基準に準じた寒天平板希釈法により測定した。薬剤無添加と同等の発育:3+,発育抑制:2+,1+,完全な発育阻止:-と判定した。
本研究は,ヒト歯肉上皮細胞においてTXAおよびEACAがP. gingivalisの上皮付着を抑制し,それに伴って上皮細胞への感染を減少させ,感染に伴うIL-1β/IL-6の遺伝子発現亢進を抑制したことを示した。これらのTXA/EACAの効果は,TXA/EACA単独処理は1–100 mMで細胞生存率に有意な影響を与えず,感染+薬剤群でも10 mM以上では未感染群と同等の生存率が維持されたことに加えて,薬剤の殺菌作用が観察されないことから,主要な作用はP. gingivalis付着の阻害であると考えられる。さらに,付着阻害によってP. gingivalisが上皮に感染する機会が減少すれば,細胞質内でのLPSの曝露に伴うCaspase-4依存的な非定型インフラマソーム活性化の機会が減り,その下流の炎症性サイトカイン誘導が抑制されたと推察される。本研究でsiCaspase-4によるノックダウンによって,P. gingivalis感染によるIL-1β/IL-6の誘導を抑制したことは,Caspase-4を介する経路が感染に対する免疫応答に寄与していることを示している。これまでに,Caspase-4が細胞質内LPSを感知して非定型インフラマソームを活性化することや8),P. gingivalisによるNLRP3/Caspase-4活性化がIL-1βを産生すること,パイロトーシスを惹起する報告があり11-13),上皮細胞におけるこの経路がP. gingivalis感染応答に関与し得るという本研究の解釈を支持する。
またsiTLR-4がIL-6の誘導を抑制したことは,IL-6産生においてTLR-4経路が寄与していることを示唆する。一方でTXA/EACAはTLR-4の総タンパク質量を変化させなかったため,TXA/EACAによるIL-6抑制をTLR-4依存的であると説明することはできず,やはりTXA/EACAによる付着阻害が上皮細胞質内へのLPS供給を減らし,結果としてCaspase-4経路の活性化を低下させた可能性を支持する。
P. gingivalisは歯肉上皮や結合組織内に侵入して持続感染し,慢性的な炎症と組織破壊を引き起こすことが知られている18)。近年,上皮細胞に侵入したP. gingivalisは,細胞質内のCaspase-4によって感知され,炎症性メディエーターの産生を強力に誘導することで歯周炎の病態形成に深く関与することが示されている13)。さらにLPSとCaspase-4の結合を阻害する物質が非定型インフラマソームの過剰な活性化を抑え,LPS起因の全身性炎症を防ぐ可能性が報告されており,Caspase-4経路の制御が炎症性疾患の抑制に極めて有効であることが裏付けられている19)。
本研究において,TXAおよびEACAはP. gingivalisの上皮細胞への付着・侵入を阻害し,Caspase-4依存的なIL-1βおよびIL-6の遺伝子発現を抑制した。これは,TXA/EACAが細菌感染を上流で防ぐことで細胞質内へのLPS供給を断ち,結果としてCaspase-4を介した過剰な炎症シグナルの引き金を引かせないことを意味する。緒言で述べたとおり,TXAを含む口腔局所製剤は臨床的に歯肉出血や炎症指標を改善することが示されているが14,15),本研究結果はその分子機序の一端を明らかにするものである。すなわち,TXA/EACAを含む製剤の応用は,単なるプラスミン阻害による止血効果にとどまらず,P. gingivalisの上皮内持続感染と,それに伴う慢性炎症のサイクルを遮断し,歯周炎の発症および進行を抑制する有効なアプローチとなる可能性が示唆される。
なお,本研究ではTXAおよびEACAが宿主細胞の遊走や浸潤に及ぼす影響については評価していない。最近の報告では,TXAが宿主細胞表面におけるプラスミン生成を阻害し,細胞周囲のタンパク分解(Pericellular proteolysis)や,それに伴う細胞の剥離・遊走を抑制することが示されている20)。しかし,本研究のin vitro感染モデルは,血清中のフィブロネクチンなどのタンパク質がP. gingivalisの感染評価に影響を与える可能性があるため21,22),無血清条件下で評価を実施した。そのため,培地中に外因性のプラスミノーゲンが含まれておらず,上記プラスミン活性を介した宿主細胞の遊走に対する効果は原理的に確認できない。一方で,実際の歯周組織においては,炎症や出血に伴い組織液中にプラスミノーゲンが豊富に存在する。したがって,生体内でのTXAやEACAの局所応用は,本研究で示された病原菌の直接的な付着・感染阻害,それに伴う免疫応答の抑制に加えて,先行研究で指摘されているプラスミン依存的な過剰な組織破壊や細胞剥離の抑制という効果も発揮する可能性が考えられる。
TXAおよびEACAはin vitroにおけるP. gingivalisの歯肉上皮への細胞付着を抑制し,その結果として細胞内への感染とCaspase-4関連の炎症性遺伝子発現(IL-1β,IL-6)を低下させた。これらの抗線溶薬は,上皮細胞への病原菌の侵入を抑えることで過剰な免疫応答を未然に防ぐ作用を有しており,臨床で観察される出血・炎症改善のメカニズムを説明するとともに,歯周炎の発症および進行を抑制する予防的・治療的意義を持つ可能性が示唆された。
本研究遂行にご協力をいただきました,北海道大学遺伝子病制御研究所分子生体防御分野の髙岡晃教教授,佐藤精一准教授に深く御礼申し上げます。また,貴重なご助言をいただいた,鹿児島大学大学院医歯学総合研究科の野口和行名誉教授に感謝の意を表します。またMIC測定には,株式会社マイクロスカイラボのご協力をいただきました。皆様のご支援に心より感謝いたします。
今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態は以下の通りです。
所属/花王株式会社
研究費/花王株式会社