Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
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Dental Hygienist Corner
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2026 Volume 68 Issue 3 Pages 162-167

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はじめに

歯周病は,成人の多くが罹患する慢性の感染性疾患であり,生活習慣病でもある1,2)。歯周治療介入を行い,改善したとしても,その後のプラークコントロールの悪化,生活リズムの乱れやストレスの増加などにより,再発しやすいことも特徴である3)。そのため,長期的な患者の歯周病管理が必要である3)。またそれにより歯周病の状態をコントロールし,患者のQOL向上に寄与する4)。一方で,近年,個別化医療(オーダーメイド医療,テーラーメイド医療)の重要性が指摘されてきており,医科領域を中心にその実践が進んでいる5)。個別化医療は今後の医療提供の重要な方向性の一つと考えられている。一般的に,個別化医療とは,患者個々の遺伝的背景や環境因子,生活習慣などの特性に基づき,最適な治療や予防を提供する医療とされている6)。それを,歯周治療に当てはめてみると,パターン化し,その流れに沿って行うだけの歯周治療ではなく,各患者に適した患者中心の治療ということになるのかもしれない。しかし,「各患者に適した治療」を,どのように考え,実践するかは簡単なものではない。それには,各患者の歯周病の原因となる因子をしっかりと分析・抽出し,さらに患者の背景や生活習慣も加味しなければならず,院内でシステム化あるいはパターン化された歯周治療のみでは,真の個別化医療すなわち患者中心医療を実践することは難しいと思われる。そこには,論理的に考える思考力と客観的な分析力が必要であり,その力を養成する1つの方法として,研究(リサーチ)に携わることは有用であると考える。リサーチは自分と無縁のものとは思わずに,リサーチマインドを持って日々の臨床に取り組むことで,高い論理的思考力と客観的分析力を持つ歯科衛生士を目指して研鑽していただきたい。そして本当の意味で患者に寄り添った歯周治療を実践する「患者にとってかけがえのない支援者」となる歯科衛生士を目指すために,本稿では歯周治療を支えるリサーチマインドについて考察していく。

なぜ歯周治療にリサーチマインドが必要なのか

1. 歯周治療における患者の多様性

歯周治療を実践していると,「この程度の歯周病病態であれば,通常通りの治療で十分改善できる」と感じていた症例なのに,予想通りにならなかったという経験は誰しもあると思われる。実際,臨床においては,病態だけでは説明できない症例が多く,患者には多様性があることを考慮しなければならない7,8)。そういった症例の改善には,プラークや歯石の付着状況や咬合性外傷の有無だけではなく,患者の行動,価値観,社会背景も影響している可能性が高く9),患者の多様性に対応していかなければならない。

2. 患者中心医療とEBM/NBM

このように,患者の行動,価値観,社会背景も含めて観察・整理し,自分たちなりの根拠を持って治療を設計していく必要があり,そのような歯周治療を実践するためには,歯科衛生士としての臨床経験は当然重要となる。しかし,経験だけで方針を決めることは好ましくなく,どのような科学的根拠(エビデンス)が存在するかを調べ,知っておく必要がある。また,どんなに最適な選択肢と思われるものであっても,患者の価値観次第で向き不向きもある。臨床経験のみに依存するのではなく,エビデンスを臨床的専門知識や対象者の価値観や意向とすり合わせる実践アプローチを「科学的根拠に基づく医療(Evidence-Based Medicine)=EBM10)」という。EBMは医療の現場で科学的根拠・専門家の知見・患者(対象者)の価値観を統合し,最適な意思決定を行う手法である11)。一方,患者中心医療とは12),科学的根拠・専門家の知見・患者の価値観という3要素の中でも,「患者の価値観」を医療の意思決定(治療方針)の中心に据えたものであり,現代医療において重要視されてきている。また,患者の価値観や意向を捉えるためには,病気になった経緯,生活環境や自分の価値観など,患者が自身の言葉で語る物語(Narrative)を重視し,病気の治療だけでなく全人的なケアを目指す「物語と対話に基づく医療(Narrative Based Medicine)=NBM13)」という手法が活用される。患者中心医療の実践においては,EBMとNBMの両者の視点を統合することが重要である14)(図1)。

図1

患者中心の歯周治療における意思決定モデル(SackettらのEBM概念を応用)

患者中心の歯周治療における意思決定は,科学的根拠(Evidence),患者の価値観や希望(Values),および臨床経験・専門性(Clinical Expertise)の統合によって行われる。歯科衛生士はこれらの要素を踏まえながら患者と情報を共有し,共有意思決定(Shared Decision Making)を通じて個々の患者に適した治療選択を支援することができる。

3. リサーチマインドの位置づけ

リサーチマインド=「研究する能力」と考えてしまう方も多いのかもしれないが,歯科衛生士におけるリサーチマインドとは,日々の診療の中で生じた疑問(問い)に対し15),科学的根拠を収集・吟味(論文検索等)し,自ら論理的に考え,実践結果(治療成果)を振り返りながら問題解決を図る探究的姿勢である16)。「なぜ」「どうして」「より良くするには」という問いを持ち続ける姿勢とも言い換えることができる。

科学的思考は,実は研究においても,臨床においても基本的な進め方は同様である。すなわち,科学的疑問(研究的または臨床的な問い)を持ち → 情報を収集し → 仮説を設定し →仮説を検証し → その結果を批判的に考察する → そこから導かれた結論を得る。この流れは研究を進める上での典型的なステップだが,臨床家がこの流れに沿って患者・症例を検討・考察すると,科学的な治療の進め方になる。例えば,「なぜこの患者は十分な口腔衛生指導を行ってもプラークコントロールが改善しないのか」という問いを持つ。そこで関連する情報を収集し,原因を仮説として設定し,その仮説を検証しながら支援方法を検討する。この過程は,研究における科学的思考と本質的に共通している。その点を理解した上で,歯科衛生士に求められるリサーチマインドとはどういうことかを考えた場合,「患者・症例の理解を深め,より適切な支援を導くための探究的姿勢」であり,それは患者中心の歯周治療を実践するための基盤となる(図2)。

図2

患者中心の歯周治療を支えるリサーチマインド実践サイクル

歯科衛生士のリサーチマインドの実践とは,日常診療における気づきから問いを立て,情報収集とエビデンスの吟味を行い,その結果を患者個々の状況に応じて実践し,評価する循環的な思考プロセスである。評価から得られた新たな気づきは次の問いへとつながり,このサイクルを継続することが患者中心の歯周治療の実践を支える。

歯周治療で発揮されるリサーチマインド

1. 患者理解を深める

リサーチマインドの意義を,歯周治療の場面での具体例で考えてみる(表1)。表に示したもの以外に日常臨床でしばしば遭遇するのは「なぜこの患者は良くなってきたセルフケアが継続できず改善が不十分となってしまうのだろうか?」や「なぜこの部位は一旦改善したのに,また歯周ポケットが深くなってしまったのだろうか」という疑問を持つことだと思われる。その疑問に対して「しょうがない」と諦めず,セルフケアが持続できる患者や歯周ポケットが再発しなかった患者と何が違うのかを考えてみる17)。つまりその患者に対する理解を深めていくことを実践していくことが,まさにリサーチマインドを持った歯科衛生士としての対応の始まりである。

表1

日常診療における臨床的な問いの具体例

2. 患者ごとの最適な支援を考える

歯周病の治療を目的に来院している患者と言っても,患者ごとの来院動機はさまざまであろう。テレビで歯周病の恐ろしさを知り不安になって来院した患者,他の歯科医院で抜歯と言われなんとか抜かずに治療したくて来院した患者,他の歯科医院で歯周病が進行しているので専門的な歯周治療ができる歯科医院として紹介されて来院した患者,口臭があるので歯周病じゃないかと家族に言われて来院した患者,う蝕による痛みを主訴に来院し,検査の結果として歯周病も認められた患者。これらの患者に同じ動機づけを行っても,おそらく患者への響き方は異なるであろう。初診の時点で,治療に対する“やる気”は患者ごとで違うのは当然である。さらに患者ごとで,仕事や育児の忙しさ,交友関係の複雑さ,経済状況,抱えるストレスなどもまちまちであり,歯周治療へのアドヒアランスが全く異なることになる。そう考えると,歯科衛生士として行うことのできる最適な支援は患者ごとにアレンジが必要ということも,理解しやすい。また,初診患者をこのような考え方で診ている歯科衛生士は,すでにリサーチマインドを持って臨床に挑んでいる“患者に寄り添う支援者”となっていることと思われる。

来院した歯周病患者はこれまでの生活パターンや行動様式の蓄積で,現状の歯周病状態に至っている。そのため,どこが問題かを考え,患者ごとに必要な行動変容を促すというのが,その患者にとって最適な支援の最初のパートとなる。例えば,自分自身で歯周病に気付いた訳ではなく家族や歯科で指摘され,なんとなく,あるいはしかたなく来院した患者の場合,患者は無自覚であり,自分の歯周病に興味もなかったことが想像される。その上で,「なぜこの状態に至ったのだろう?」と疑問を持ち,患者の行動様式を知りたいと感じる。そこでNBMの手法を用いて,患者の口から語られる話を傾聴する13)ことで,これまでどのようにケアしてきたかや口の中の困りごとを感じていない理由などを記録する。このステップで,それ以上の有益な情報として,患者の物事の捉え方,考え方,こだわり,自分/仕事の優先度の具合などが,見えてくることが多い。このようにして見えてくる患者のパーソナリティに合わせた説明内容や行動変容法のアレンジを行うことが,患者ごとの最適な支援の実践である。

3. 診療を改善する

プラークコントロールがすぐに悪化してしまうような患者に遭遇した場合,まずどのような疑問を持つだろうか?この患者は「プラークコントロールの大切さを理解はしているけど,面倒くさくなっちゃうのかな?」のような疑問だろうか?それとも,「本当の意味でプラークコントロールの大切さが理解できてないのだろうか?」「歯周病病態の説明は問題なかっただろうか?」「患者の生活に合わせたやり方を提案できていなかったのだろうか?18)」「PCRの値を下げることばかりを目標にするような説明だったのかな?」「勧めたブラシが使いにくかったのだろうか?」「治療間隔が長すぎたのだろうか?」のようにたくさんの疑問が出てくるだろうか?当然たくさんの疑問点を抽出でき,それら一つひとつに対応しようとする方が,個別化歯周治療の実践につながる。出来るだけ多くの疑問点を抽出した後は,それをどうしていくのが良いかを考える段階となる。そのためには,文献を検索することを重要な選択肢としてお勧めしたい。文献検索エンジンのPubMedや医中誌webを活用し,気になることをキーワードで検索してみるとたくさんの文献がヒットする。その中から気になるものを選び,概要を読むだけでも良い。中には全文が読めるものもあるのでそう言ったものはぜひ読んでみることをお勧めする。近年では,生成AIを活用して関連文献の探索を支援することも可能になっている(ただし,提示された情報の正確性については,必ず原著論文を確認する必要がある)。自分で持った疑問に対して,先輩歯科衛生士や歯科医師に尋ねてみて,その経験からのアドバイスを聞くだけでなく,このように文献検索して,自分で見つけた文献からの情報も取り入れる。その上で,担当している自分だからわかる患者のパーソナリティを加味して,自分なりの1つの答えを導き出して,診療室で実践していく。前回までの対応と,今回の対応は異なる訳であり,次回来院時に患者の状況を確認することで,自分の出した答えは改善方向に向かわせることができたものであったかどうかを検証する。この繰り返しにより,その患者に持った疑問に最適な文献と出会うことができる。また多くの患者で繰り返すことにより,多くの知識が蓄積する。歯科衛生士がリサーチマインドを持って歯周治療臨床を実践するというのは,こういうものであると考える。

歯科衛生士のリサーチマインドを育むために

1. 日常診療における臨床疑問

ここまでで述べたように,診療を流して過ごすのではなく,いろんなところで「なぜだろう」と疑問を持ちながら,臨床を実践することはリサーチマインドを醸成していく10)。著者自身も,患者の口腔衛生指導を指示した際に「なぜこの歯科衛生士あるいは臨床実習生は歯周ポケットが2~3 mmしかない部位のスクラビング法の指導を優先し,歯周ポケットが6 mmもある部位の歯間ブラシの指導を次回に回してしまうことが多いのだろう?」という疑問がきっかけで,自分なりに考え,文献を調べて仮説を立て,検証を行った。その結果,非注意性盲目という現象が深く関わっているという結論に至り,論文19)で報告した経験がある。何気ない臨床疑問が,患者の状態改善に如何に重要か16)を痛感したのを覚えている。

2. 文献に親しむ習慣

文献,殊に英語論文と聞くと,つい敬遠してしまう歯科衛生士も多いかもしれない。しかし現在のインターネットでは,英語文献の要旨であってもクリック一つで簡単に日本語表示に切り替えて読むことができる。最初は全文を読むことよりも,気になっている点を拾い読みしているだけでも構わない。また,日本歯周病学会誌の症例報告の中には,ベストデンタルハイジニスト賞受賞症例があるので,自分の治療の進め方とどう違うのかを考えながら読むのも,リサーチマインドの醸成につながる。大切なことは,文献を調べて読むということに慣れてしまうことである。何よりも,文献に親しむ習慣によって,これまで良くならなかった患者が改善していくという成功体験につながるのは,歯科衛生士としてのやりがいを高めるものである。

3. 学会活動・臨床研究への参加

色々と知識がつき,考え方が広がり始めると,不思議とより多くのことを知りたくなるものである。ぜひ,日本歯周病学会等の学術大会に参加してみるとよい。他の歯科衛生士が何を考え,どんな工夫をして臨床実践しているかを学べ,刺激を受けることも多いだろう。また,自分も抱いたことのあるような疑問に対して,臨床で検証した臨床研究の発表に出会うことができるかもしれない。さらに,自分の臨床疑問を,実際に検証するためのアイデアをもらうことができるかもしれない。学会や研修会への参加は,専門職としての継続的成長や省察的学習を促進し20),歯科衛生士のリサーチマインドの醸成に非常に有益なものと考える。

おわりに

歯周治療臨床でのリサーチマインドとは,研究者だけのものではなく,患者中心医療の実践に不可欠なものである。すなわち,リサーチマインドとは研究論文を書くための能力ではなく,患者一人ひとりを深く理解し,患者中心の歯周治療を実践するための思考様式である。臨床の質を向上させるためにも,これからも日常臨床の中で多くの疑問を持ち,歯科衛生士としてのリサーチマインドを醸成していただきたいと願う。日常臨床で抱く小さな疑問こそが,患者理解を深め,患者中心の歯周治療を実現する第一歩となる。

謝辞

本稿にご協力いただきました,日本歯周病学会歯科衛生士関連委員会委員の皆様に深く感謝いたします。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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© 2026 by The Japanese Society of Periodontology
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