2024 Volume 36 Issue 1 Pages 61-68
シロイヌナズナ側部根冠領域には小さな ER ボディが恒常的に多数存在する.我々は高圧凍結技法と光 – 電子相関顕微鏡法 (CLEM) を組み合わせた高圧凍結 CLEM 法により,その形態と機能を解析した.ER ボディの主要酵素 β- グルコシダーゼ PYK10 を赤色蛍光タンパク質で標識した形質転換体の根端を解析した結果,PYK10 は側部根冠にある小さい ER ボディに存在し,側部根冠の 2 層目から最外層の細胞にかけては ER ボディと液胞が高頻度で接触し,液胞内に PYK10 が流入,局在していることがわかった.PYK10 はゴルジ体には局在しないことから,側部根冠の ER ボディによって小胞体からゴルジ体を経由せずに,直接液胞へ輸送されていることが示唆された.この過程を明らかにするにあたって,超微形態と蛍光を同時に保持でき,さらに広領域で撮像可能な高圧凍結 CLEM法の開発が要となった.本稿では,高圧凍結 CLEM 法 の詳細と広域撮像,連続切片,免疫金染色と組み合わせた技法,そこから得られた新たな知見を紹介する.
Many small endoplasmic reticulum (ER) bodies are constantly present in the lateral root cap region of Arabidopsis thaliana. We analyzed the morphology and function of these structures by a combined method of high-pressure freezing-freeze substitution (HPF-FS) and correlative light and electron microscopy (CLEM). Analysis of transformed root tips labeled with red fluorescent protein for PYK10, the major enzyme β-glucosidase of ER bodies, revealed that PYK10 is present in small ER bodies in the lateral root cap, and that PYK10 is frequently in contact with ER bodies and vacuoles from the second layer of the lateral root cap to the outer layers, and is influxed into and localized within vacuoles. Since PYK10 is not localized in the Golgi apparatus, it was transported directly from the ER to the vacuole by the ER body of the lateral root cap, without passing through the Golgi apparatus. To clarify this process, it was important to improve HPF-FS method to optimize for CLEM that can retain ultrastructure and fluorescence and can image a wide area. This paper describes the details of the combined method of HPF-FS and CLEM, its combination with immunogold staining and serial section techniques, and the new findings obtained from the method.
共焦点レーザー顕微鏡や蛍光顕微鏡,多様な蛍光タンパク質や蛍光試薬を用いた蛍光ライブイメージングにより, 様々な機能未知タンパク質の細胞内局在や動態が解明されるようになった. 目的タンパク質が局在する細胞内構造の実体が光学顕微鏡(光顕)の分解能で捉えられなかった場合には, 電子顕微鏡(電顕)による微細構造解析が有効である. 電顕下で蛍光タンパク質の細胞内局在を明らかにする方法として,以前は特異的抗体を用いた免疫金染色法が主流であった(佐藤ら 2019). しかしこの方法だけでは,光顕で観察した蛍光タンパク質の局在箇所そのものを直接電顕で観察することは難しい.近年発展を遂げている光-電子相関顕微鏡法(CLEM) は,光顕で観察した同一箇所を電顕で撮像し, 重ね合わせて相関像を得る方法である(豊岡 2016).CLEM法を用いることで,蛍光タンパク質の局在を直接的に示すことが可能となってきている(豊岡2016, Toyooka and Shinozaki-Narikawa 2019, 太田2020, 豊岡ら 2020a, 2020b, 武田-神谷ら 2022).
植物細胞内は, 原形質流動により動物細胞内より何倍も速いスピードで動いている. 植物の細胞内輸送に関わる膜系の動態を電顕で捉えるためには,固定液を時間をかけて浸透させて固定する化学固定法では時間分解能が足りず,瞬時に固定することができる凍結技法が最適である. その技法の一つ,高圧凍結技法はおよそ2100 barの高圧下で液体窒素温度によりミリ秒以内のスピードで凍結することで,氷晶の成長を抑制しながら,200 µm 以内の細胞成分を生きている時に近い状態で急速凍結する方法である (佐藤ら 2019). 加えて,凍結後に-80ºC以下の低温下で固定液を浸透させてから温度を上昇させる凍結置換法は,凍結により物理固定された細胞の形態変化を抑えながら,固定と脱水を行うことができる(Otegui 2021). 筆者らはこれまで本技法により, 植物細胞の細胞内輸送や分泌などに関わる輸送装置を報告してきた (Toyooka et al. 2006, 2009, 2014, 2023). 植物細胞内で活発に動く小胞体やERボディ, ゴルジ体, 液胞など膜系オルガネラを捉えるためには高圧凍結技術が必須である.
シロイヌナズナやダイコンなどアブラナ科の植物には,グルコシノレートという二次代謝産物と, その加水分解酵素であるβ-グルコシダーゼが多量に含まれており,病害虫忌避物質として働くことが知られている(Hayashi et al. 2001, Matsushima et al. 2002). シロイヌナズナのロゼット葉にある特定の表皮細胞や芽生え,根では, 小胞体(ER, Endoplasmic Reticulum)が楕円形(直径 10 µm, 幅 2 µm程度)に膨らんで形成されたERボディと呼ばれるオルガネラにβ-グルコシダーゼが蓄積されていることが知られている.一方のグルコシノレートは液胞に蓄積されており(Nakazaki et al. 2019),傷害や食害によって液胞やERボディが崩壊すると,β-グルコシダーゼとグルコシノレートが混ざり合い, 防虫効果を持つ揮発性成分が生成されることで, 病害虫に対する防御機構が働くことが明らかになっている(Yamada et al. 2011, Basak et al. 2024).
筆者らは,高圧凍結-凍結置換したシロイヌナズナ根端全体の高解像度広域電顕像を取得して解析した際, 根の中でも特に側部根冠と呼ばれる領域に,2~4 µmのERボディ様の構造体が多数存在することを見いだした. ERボディ様構造体が液胞と密着しているような像が多数存在することから, 何らかの物質を液胞へ輸送していることが予想されたが (Toyooka et al. 2015), 何を輸送し, 何のために存在するかは不明であった.その謎を電顕により解明することを目的に,筆者らは高圧凍結技法とCLEMを組み合わせた高圧凍結CLEM法の改良を試みた. 本稿では, Toyookaら (2023)の論文で報告した根端ERボディ解析を例として, 筆者らが開発した高圧凍結CLEM技術の詳細と,広域CLEM解析や連続切片CLEM, 免疫金染色CLEMへの応用について述べる.
根端組織は, 土壌中で最外層の根冠と側部根冠の剥離を繰り返しながら土の中へ伸長する (Fendrych et al. 2014). これまで,根端組織は主に蛍光試薬や蛍光タンパク質を用いて解析されてきたが, 光顕では微細な構造までを捉えることができなかった. 電顕による微細構造解析も行われていたが, 観察範囲は限られており, また常法の化学固定による試料調製法では, 細胞内物質の流出や膜構造の変形などartifactの可能性が考えられた.
我々は2010年頃から, デジタル写真を広域にわたり自動撮影して繋ぎ合わせ,ギガピクセルクラスの広域透過電顕 (TEM) 像を得る手法を開発していた (豊岡ら 2014).そこでシロイヌナズナの芽生え(7-10日目)の根について,電顕試料を高圧凍結-凍結置換法により調製し,樹脂切片から根端全体の高解像度広域TEM像を取得したところ, 側部根冠と呼ばれる領域に2~4 µm のERボディ様構造体が多数存在することを見いだした (Toyooka et al. 2015).さらにERボディ様構造体の根端における分布を可視化するために,根端全体の広域にわたって輪切りおよび縦断切片の高解像度広域TEM像中で印を付けた.その結果ERボディ様構造体は側部根冠にのみ存在し, 液胞と高頻度で接触していた (Toyooka et al. 2015, 2023).このことから, ERボディ様構造体は小胞体から液胞への物質輸送に関与していると考えられたが, その積荷が何であるかは謎であった.
タンパク質のC末端KDEL 小胞体残留シグナルによって特徴づけられるパパイン型システインエンドペプチダーゼ(CysEP-KDEL)は, プログラム細胞死(PCD)が進行している組織で発現し, プレプロ酵素としてERで合成され, リシノソーム, KDEL-tailed protease-accumulating vesicle, ERボディとして知られるER由来のコンパートメントに不活性なプロタンパク質として貯蔵される(Schmid et al. 1999, 2001, Toyooka et al. 2000, Gietl and Schmid 2001). 活性化されると, 成熟したCysEP-KDELはPCDの最終段階で崩壊した組織の細胞質タンパク質を消化し, 成長部位へアミノ酸等を転流する(Greenwood et al. 2005). シロイヌナズナでは3つのCysEP- KDELとしてAtCEP1, 2, 3が存在し, AtCEP1が球状のリシノソーム様構造に局在し, AtCEP1プロモーターは側部根冠細胞と側根形成の過程で活性を示すことが示されている(Hierl et al. 2012). 発芽したケツルアズキ種子の子葉細胞のERボディ様構造体に蓄積するKDEL配列を持つシステインエンドペプチダーゼSH-EPは, ゴルジ体を経由せずタンパク質貯蔵型液胞に輸送される(Toyooka et al. 2000). このSH-EPはAtCEP1とアミノ酸配列で高い相同性を持つ. また, タンパク質貯蔵型液胞が分解型液胞に変化し(Toyooka et al. 2000), デンプン顆粒やその他の細胞内成分が, オートファジーによって分解型液胞に取り込まれる(Toyooka et al. 2001). 近年, シロイヌナズナの根端細胞における細胞内小器官分解が, オートファジーによって促進されることが示された(Goh et al. 2022). 筆者らは, AtCEP1と交差反応するケツルアズキの抗SH-EPモノクローナル抗体を用いて, 野生型シロイヌナズナの根端をホールマウント法による免疫蛍光抗体法により, 共焦点レーザー顕微鏡観察を行った(図 1A). その結果, 側部根冠や根冠の一部でERボディ様のドット状の蛍光と液胞内に蛍光が観察された(図1B-C). さらに, 小胞体残留シグナルHDEL配列をC末端に付けたGFPを35Sプロモーターにより発現させることでERボディ全てをGFPで光らせた形質転換体 (GFPh) を同抗体により免疫蛍光観察を行った結果, 一部の蛍光が共局在を示したが, 全てではなかった. さらにドイツのグループによる蛍光タンパク質を用いたAtCEP1の細胞内局在解析から, AtCEP1が根端の丸い顆粒に存在することが報告された (Höwing et al. 2018). しかしながら, ERボディ様構造体の超微形態観察および蛍光ドットの存在量は,広域電顕観察で見られた数に比べると遥かに少なかった. このことから, ERボディは側部根冠においてAtCEP1の液胞輸送に関わるが, 他の物質輸送にも関わる可能性が予想された.
図1 抗SH-EP抗体による免疫蛍光像.(A) 野生型シロイヌナズナ根端の微分干渉像と蛍光像の重ね合わせ像. (B-C) SH-EPと免疫学的相同性を持つAtCEP2の細胞内局在を示し, 側部根冠細胞において, 液胞とERボディ様のドット状構造に局在を示した. Bars = 25 µm.
Nakazakiら (2019)により, 小胞体残留シグナルKDEL配列を持つβ-グルコシダーゼの一種PYK10が, シロイヌナズナ葉で恒常的に存在するERボディに含まれる主要酵素であることが報告されている.PYK10プロモーター下で赤色蛍光タンパク質TagRFPによりPYK10を標識したGFPh形質転換シロイヌナズナをNakazakiら (2019) から分与頂き, 共焦点レーザー顕微鏡で根端を観察した.その結果,側部根冠に夥しい数のPYK10-TagRFPの小さなドット状構造体が見られ, ERボディのマーカーであるGFPhの蛍光と共局在することを確認した (Toyooka et al. 2023, 図2A-B). 分布とその形状から,広域TEM像で見られたERボディ様構造体と同一である可能性が高いと考えられた.また阻害剤を用いた蛍光レベルの解析から,液胞へPYK10-TagRFPが輸送されている可能性が示唆された. そこで, PYK10-TagRFPを含むERボディが液胞へ輸送されているか否かを, 高圧凍結-凍結置換とCLEMとの組み合わせ法(以降,高圧凍結CLEM法)で解析することにした.
高圧凍結CLEM法の実施にあたっては,近年発展しつつある「切片SEM法」を用いることとした.切片SEM法は,スライドガラス等の基板に載せた樹脂切片を,走査電子顕微鏡 (SEM)の反射電子検出器を用いて撮像することで, 従来のTEMに近い電顕像を得られる新しい手法である(甲賀 2015, 豊岡ら2020a). この方法によりTEM観察用の金属グリッドよりも広い範囲に多くの切片を載せることができ,汎用のTEMでは観察の難しかった準超薄切片も観察に用いることができる(豊岡ら2020b).
図2 GFPhとPYK10-TagRFPが発現したシロイヌナズナ側部根端のCLEM像と免疫金染色CLEM像.(A) GFPhと(B) PYK10-TagRFPが発現したシロイヌナズナ側部根端のライブイメージング像. Bar = 10 µm. (C-G) 100 nm切片厚の超薄切片から検出した蛍光像とその免疫金染色CLEM像. GFPhの蛍光は消失していたため, PYK10-TagRFPでのみCLEMを, 抗GFP抗体により免疫金染色を行なった.Bar = 2 µm.
図3に本研究で開発した高圧凍結CLEM法の実験手順を示した. PYK10-TagRFP形質転換体シロイヌナズナ根 (発芽7日)を先端から1~2 mm の箇所で切断し, 蒸留水を満たした凍結試料キャリア (φ3 mm, flat specimen carrier) に載せ,高圧凍結装置(EM ICE; Leica Microsystems)で凍結した. その後, 我々が常法として行っていた凍結置換法 (佐藤ら2019)に従い, 2%または0.1%グルタルアルデヒドを含む無水アセトンで-80℃で凍結置換 (Cryoporter CS-80C, サイニクス社) 後, LR White樹脂に包埋し, 切片を蛍光観察したが, TagRFP蛍光は消失していた. そこで,凍結置換に用いる固定液の溶媒をアセトンからエタノールに変更し, 2%グルタルアルデヒド(終濃度で1%の水を含む)の条件で凍結置換の後,4ºCまで温度上昇させた.90%エタノールにより洗浄し,LR White樹脂に短時間で置換後,ゼラチンカプセルに包埋し50ºC,12時間で熱重合した. 100 nm の連続切片を作製し, ループ(ピックアップリングL, ステム社)でカバーガラスに載せ, 50ºCで乾かした. このカバーガラスを褪色防止剤 (Fluoro-KEEPER Antifade ナカライテスク, Toyooka and Narikawa-Shinozaki 2019)でマウントし, 35 mmガラスボトムディッシュに置いて, 共焦点レーザー顕微鏡の高感度検出器 (TCS SP8 WLL HyD, Leica Microsystems)を用いて, カバーガラスとガラスボトムディッシュの間の切片の蛍光画像を取得した. その結果, GFPhの蛍光は保てなかったが (図 2C), PYK10-TagRFP蛍光を十分残すことができた (図 2D). その後, カバーガラス上の切片を 0.4%酢酸ウラニル溶液で 10 分間, クエン酸鉛で 1 分間電子染色し, オスミウムコーター(HPC-1SW, 真空デバイス)で導電処理後, FE-SEM(SU8220, 日立ハイテク)の反射電子検出器(BSE)を用いて, TagRFPの蛍光が検出された領域のSEM像を取得した. CLEM像は, 日立ハイテク社と共同開発したMirrorCLEMシステム(豊岡 2020)を用いて蛍光画像と反射電子像(BSE像, 図2E)を重ね合わせた(Toyooka and Shinozaki-Narikawa 2019, Toyooka et al. 2023, 図 2F, 図4). PYK10-TagRFPの蛍光は, 側部根冠細胞内のERボディ様構造体に局在することを確認し(図2F, 4C), 一部のERボディは液胞と接触しており,PYK10-TagRFPは液胞内にも存在していた (Toyooka et al. 2023, 図4D).
図3 高圧凍結CLEMのワークフロー.
CLEMにおける切片SEM法のメリットは, 連続した大きな切片をガラス等の基板の上に載せることで, 相関可能な広域の光顕像と電顕像を得ることができる点である(豊岡ら 2020a, 2020b). PYK10-TagRFP発現シロイヌナズナ根端の全体が収まるよう樹脂ブロックをトリミングし, グリッド線のないカバーガラスに切片を取得することで視野が欠けることなく広領域の連続したCLEM解析が可能である(図4A, B). これまで蛍光像と電顕像の位置アライメントを行うために, グリッド付きカバーガラスに切片を取得してCLEM解析を行なってきたが, 広域や連続でCLEM解析を行うには, 視野を妨げることのない異なる目印でアライメントを行う必要があった. そこで, 我々は先端が二等辺三角錐状に尖ったダイヤモンド針がついたウルトラミクロトームに載台可能なノッチナイフ(マーキングナイフ, シンテック社)を考案し, アライメントに用いることでこの問題を解決した (Goto et al. 投稿中).
側部根冠は, 幹細胞から分裂を繰り返し, 根毛が発生する領域手前から根冠まで根の先端を覆っている. PYK10-TagRFPを含むERボディがどの領域で液胞と融合するのか, 全ての側部根冠でも同じような液胞融合を起こすのか, について広域CLEM解析を行った (Toyooka et al. 2023). PYK10-TagRFPシグナルは, 側部根冠細胞の2層と3層のERボディに多く検出され, 先端の側部根冠の中層ではERボディは液胞と融合していたが, 根毛に近い上部の側部根冠内層では, 液胞内に直径1 μm以上のオートファジックボディとして細胞質や他のオルガネラとともにERボディが存在することから, ミクロオートファジー様の機構で液胞内に取り込まれ分解されることが示唆された (Toyooka et al. 2023). また連続切片CLEM法により, PYK10を含むERボディが二つの小さい液胞と融合しつつある像が示された(図4C, D). 細胞質にPYK10-TagRFPのドット状構造を含む典型的な二重膜のオートファゴソームは観察されなかったことから, PYK10-TagRFPの小胞体から液胞への輸送経路は,マクロオートファジー経路とは無関係である可能性が示された. 加えて,ゴルジ装置やトランスゴルジネットワークではPYK10-TagRFPシグナルは観察されなかった. これらの結果は, 側部根冠先端のERボディは, PCDの前にPYK10を液胞へ直接輸送することに関与する可能性を示している.
図4 PYK10-TagRFP発現シロイヌナズナ根端の連続切片-高圧凍結CLEM像.(A)共焦点レーザー顕微鏡で撮影した根端の連続切片像.カバーガラス上の連続切片(切片厚100 nm)から根端全体をROIで囲い, 蛍光撮影を行った.(B) (A)の蛍光像の1枚にフォーカスし, 側部根冠のFE-SEM像を撮影し重ね合わせたCLEM像.白枠で囲った拡大像をCに示す.Bar = 50 µm. 矢頭はアライメントに用いた蛍光塗料を塗ったノッチナイフの跡. (C) Bの拡大像の連続切片-高圧凍結CLEM像. 数字は連続切片の並び順を示す.(D) Cの005から012まで点線白枠の拡大した連続切片-高圧凍結CLEM像. PYK10-TagRFPを含む一つのERボディが二つの小さい液胞と融合しつつあった. Bars = 2 µm.
高圧凍結CLEM法により, PYK10-TagRFPは切片から蛍光を検出することができたが, HDEL配列を付加したGFPを含むERボディのGFP蛍光は, 様々な高圧凍結CLEM法で検出を試みたが, 蛍光を検出できなかった(図2C). そこで抗GFP抗体を用いた免疫金染色法と高圧凍結CLEMを組み合わせることで, GFPとTagRFPのERボディでの共局在を確認した. 高圧凍結した樹脂包埋切片からTagRFP-PYK10の蛍光を共焦点レーザー顕微鏡により検出したのち, 免疫金染色を行なった. 具体的には, スライドガラス上の切片をブロッキング後, 抗GFPウサギ抗体(ab290, Abcam plc.) で1次抗体反応し, 12 nm金粒子標識した抗ウサギIgG 抗体で2次抗体染色を行なった. 酢酸ウラニル溶液で電子染色後, オスミウムコートしFE-SEMの反射電子検出器を用いてMirrorCLEM撮像した (図2). GFPのシグナルは, PYK10-TagRFPの蛍光が局在するERボディと共局在を示した(図2G). このように高圧凍結CLEMと免疫金染色を組み合わせることで, 蛍光を検出できなかったシグナルでも2つの分子の局在を可視化することが可能である.
高圧凍結CLEMにより, PYK10がERボディに局在し, 液胞に直接輸送されていることを明らかにした. しかし, GFPやTagRFPなどの蛍光タンパク質でラベルしたことで,細胞内局在や細胞内輸送経路が変化した可能性も考えられる. そこで, 抗PYK10抗体 (PHY0983A, PhytoAB Inc.) を用いて, 野生型シロイヌナズナ根端におけるPYK10の細胞内局在について免疫金染色解析を行ない,FE-SEMで観察した. その結果, 側部根冠において, PYK10はERボディに局在し, それらERボディが液胞と融合し, 液胞内にもPYK10が局在することが明らかになった (図5A-D). また, ゴルジ体にPYK10の局在は見られなかったことから, 蛍光タンパク質をタグとした形質転換体でなくとも, 野生型の根端でもPYK10は小胞体からゴルジ体を経由せずERボディにより液胞へ直接輸送されることが明らかにできた.
以上の結果から, シロイヌナズナ側部根冠では内側の細胞からPYK10を含むERボディが形成され始め, ERボディは2層目から最外層の細胞でPYK10の液胞への恒常的な輸送に関与し, そのPYK10と液胞内でグルコシノレートが反応し, 液胞が崩壊することで, 病害虫忌避物質が根圏に放出すると考えられる. これまで, 高塩濃度などの環境ストレスを受けるとERボディと液胞が融合する, 又は, ERボディ内のβ-グルコシダーゼと液胞内のグルコシノレートが物理的損傷により会合すると考えられてきたが, 根の伸長過程で恒常的にβ-グルコシダーゼが液胞へ輸送され, 液胞内グルコシノレートと会合することが初めて明らかになった (Toyooka et al. 2023).
図5 野生型シロイヌナズナ側部根冠におけるPYK10の高圧凍結-凍結置換試料の免疫電顕像.(A-D) 抗PYK10抗体を用いて免疫金染色を行った.PYK10はERボディに局在し, PYK10を含むERボディが液胞に接触, 陥入しており(矢頭),液胞内にも一部ERボディが見られた. V: 液胞, *: ERボディ. Bars = 500 nm (A, B and D), 200 nm (C).
本総説は 2023 年平瀬賞受賞論文 (Toyooka et al. 2023) の背景と,論文では述べることができなかった手法と,含めきれなかった補足データを中心にまとめたものである.平瀬賞選考委員の皆様に深く感謝申し上げます.GFPh および PYK10-TagRFP シロイヌナズナ形質転換体を快くご提供頂いた京都大学 嶋田知生博士,甲南大学 上田晴子博士,西村いくこ博士にお礼申し上げます.ポーランド ヤギェウォ大学 山田健志博士にアドバイスを頂きました.当該論文の共著者,橋本恵博士,若崎眞由美氏,平井優美博士に感謝します .