Abstract
コドモによる交尾妨害は、多くの霊長類で報告がなされているが、パタスモンキー(以下、パタス)ほど常習的な種はいない。飼育下パタスにおける先行研究によれば、コドモオスが交尾中のオスに向けて行うこと、28.6%では妨害の結果交尾が射精に至らないこと、しかし遊び顔で行うためハレムオスは極めて寛容であることが報告されている。そしてその機能として、コドモオスは、交尾妨害を通じてハレムオスの衰えを把握し群れの乗っ取りに繋げるという優位性テスト仮説が提唱されている。交尾季にあたる2023年8~9月に、ガーナ・モレ国立公園に生息するパタスMotel群を対象に交尾妨害のより妥当な機能仮説を探る目的で調査を行った。本群はオトナオス1頭、オトナメス4頭、コドモオス2頭、コドモメス4頭、アカンボウ雌雄各1頭からなる。本群の追跡34日349時間、うちアカンボウを除く全10頭の個体追跡は合計27日120時間であった。2歳半のオスDbは彼の個体追跡中2回の交尾妨害をしたが、その他のコドモ追跡中には、1度も妨害はなかった。アドリブも含め観察されたハレムオスの交尾13回中10回で妨害が起こり、妨害者はすべてDbであった。18回のマウンティング中10回で射精に至らず交尾不成功率は55.5%に達した。また、妨害を受けた10回の交尾のうち2回はその場で威嚇、5回は妨害者に向かって数歩走って前進する追い払いが生起したのだが、条件が良かった観察事例ではむしろ威嚇や追い払いをすることで、交尾が不成功になっており、遊び顔の信号がうまく機能していないためと考えられた。パタスは交尾期に群れ外オスが流入し、交尾妨害をしても劣位信号を発することでハレムオスから共存を許容されることが知られている。以上のことから、コドモオスによる交尾妨害は、将来オトナになった時に共存を許容される振る舞いを学習する機能があるという新たな仮説を提唱する。