2025 Volume 52 Issue 3 Pages 142-149
【目的】Barthel Index(以下,BI)悪化確率を意思決定曲線分析(Decision Curve Analysis: 以下,DCA)で評価し,訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)頻度に関する説明モデルの臨床利益(Net Benefit:以下,NB)を検討する。【方法】訪問リハを受けた104名の年齢,性別,Charlson Comorbidity Index, Short Physical Performance Battery, Mini-mental State Examination, BI初期値をもとに,6か月後のBI悪化確率を説明する回帰モデルを作成し,その精度は曲線下面積で評価した。DCAでNBを算出し,週2回と週1回の訪問リハにおけるNBの差を算出した。【結果】回帰モデルの精度は曲線下面積0.86であった。DCAにおいて,BI悪化確率が61%以上では,NBの差が31.1%,81%以上では48.0%と高値であった。【結論】BI悪化確率が高い患者ほど,複数回の訪問リハのNBが高い可能性がある。
Objective: To evaluate the probability of Barthel Index (BI) deterioration through decision curve analysis (DCA) and to examine the net benefit (NB) associated with the frequency of home-based rehabilitation (home rehab) frequency.
Methods: A regression model was developed to predict BI deterioration over 6 months based on age, sex, Charlson Comorbidity Index, Short Physical Performance Battery score, and initial BI score using data from 104 elderly patients receiving home rehab. The predictive accuracy of the model was evaluated using area under the curve (AUC). The NB of once-weekly versus twice-weekly home rehab was calculated using DCA.
Results: The predictive model achieved an AUC of 0.86. DCA showed that for patients with a BI deterioration probability of ≥61% and ≥81%, twice-weekly home rehab increased NB by 31.1% and 48.0%, respectively.
Conclusion: Patients with a higher probability of BI deterioration may derive greater NB from receiving multiple weekly home rehab sessions.
訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)は,在宅で生活する高齢者や障害を持つ患者に対して,生活機能の維持・改善を目的として提供される重要な介護保険サービスである。本邦において,訪問リハの利用者は2022年で13.6万人以上存在し,その数は増加傾向にある1)。これに伴い,訪問リハの効果的な実施が強く求められている。訪問リハは,患者の自立支援を促進し,介護度の改善や再入院確率の軽減に寄与する可能性があるが,その効果は個々の患者によって大きく異なる。また,訪問リハは一般的に介護保険の範囲内で行われることが多く,主治医の意見だけでなく,病状や要介護度,さらに利用者や家族の希望に応じてリハビリ頻度(回数/週)が異なるため,その頻度の選択は経験に基づくことが多い。このため,最適な介入頻度や方法を適切に選択することは,効果的なリハビリ提供において不可欠である。
高齢者や慢性疾患を有する患者は機能障害を有するリスクや入院リスクが高い2–4)。そのため,予後予測は患者の状態を見越し,適切な治療やケアプランを意思決定するうえで極めて重要な役割を果たす。また,人間は一般的に損失回避行動を取る傾向があり,損失のリスクを回避するために,利益を得るよりも強い行動を取ることが知られている5)。この観点から,患者の状態が改善する可能性を説明するよりも,悪化を説明することで適切な介入を促すことが可能になり,悪化の説明能力は治療や予防にとって重要である6)。本邦の訪問リハ現場では,日常生活動作能力を評価するBarthel Index(以下,BI)が使用されることが多く,科学的介護情報システム(Long - term care Information system For Evidence: LIFE)を通じて介護報酬制度にも組み込まれている7)。そして,BIで悪化が見られる場合には,入院リスクや介護負担の増加が懸念されることから,早急な対応が求められる。このため,訪問リハでは,事前に各患者の悪化確率を考慮し,それに基づいて適切な介入頻度を設定することが必要である。
これまでの研究では,患者の健康状態や身体機能の推移を予測するための説明・予測モデルが開発されてきたが8)9),これらの結果をリハビリの具体的な介入意思決定に直接結びつけるための実用的な報告はない。多くの場合,予後予測は中・長期的な視点で行われるため,訪問リハの頻度選択に直結しにくく,日常的なリハビリ現場で活用される機会は限られている。また,予後予測などの説明・予測モデルは予後確率を定量的に評価するが,その確率に応じた具体的な介入のための意思決定の基準が不十分であり,理学療法の臨床転帰を最適化するための説明ツールの使用方法については議論がなされている10)。
Veroneseら11)は,高齢者の予後説明因子に関するシステマティックレビューとメタアナリシスを通じて,予後予測ツールが意思決定に役立つ可能性があることを報告している。しかし,これらの予測ツールが実際の臨床意思決定にどの程度影響を与え,どのような臨床利益が得られるのかについては報告されていない。そこで,意思決定曲線分析(Decision Curve Analysis: 以下,DCA)が重要な役割を果たす12)。DCAは,説明・予測モデルの実際の有用性を評価するためのツールであり,説明・予測モデルに基づく介入の臨床利益を定量的に示すために使用される。この分析手法は,説明・予測モデルを使用して得られる臨床利益と,不必要な介入や介入機会の損失をバランスよく評価できる点で有用である。
本研究の目的は,BI悪化確率に基づいた予後予測を訪問リハの介入頻度の意思決定に結びつける点にあり,DCAを用いて具体的な訪問リハ頻度の提案を行うことである。DCAを導入することにより,異なるBI悪化確率に基づく訪問リハ頻度の最適性を検討し,在宅生活のケアプランを提供するための根拠としてデータを得ることが期待される。
研究デザインはレトロスペクティブ縦断観察研究である。
2. 対象本研究は,2021年4月から2024年11月までの期間に,和歌山県和歌山市の単施設(診療所)において,理学療法士による訪問リハを6か月以上実施した要介護高齢者を対象とした。除外基準は,BIが15点以下で悪化した者(床効果),BIが85点以上で改善した者(天井効果),BIが20点以上改善した者,認知症以外の神経変性疾患を有する者,下肢切断者,終末期状態の者,6か月以内に死亡した者,6か月後に入院していた者とした。
本研究は,BI悪化確率に基づいた訪問リハ頻度の臨床利益についてDCAを用いて検討する。そのため,訪問リハによる改善を主眼とした研究ではなく,BI悪化確率を考慮した訪問リハ頻度の最適性を検討することが主な目的である。したがって,除外基準は,BIの最小可検変化量(Minimal Detectable Change: 以下,MDC)が20点であること13)を考慮し,床効果・天井効果の影響を排除するために設定した。また,BI悪化確率を求めるにあたり,改善した対象を含めるとBI悪化確率が過小評価される可能性があるため,BIが20点以上改善した者を除外した。また,改善と悪化を説明するモデルを同時に扱うと,悪化リスクの高い群と改善群が混在し,BI悪化確率の予測精度が低下するため,研究デザインの整合性を考慮し,本研究では改善者は除外した。
倫理的配慮として,本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,対象者もしくは代諾者には,訪問リハ開始前に口頭および書面での説明と同意を得て実施した。また,大阪医療福祉専門学校の倫理委員会の承認を得た(承認番号:24-44)。
3. 方法1)データ収集と手順対象者の基本情報として,年齢,性別(男性1,女性0),Body Mass Index(BMI),主疾患種別(脳血管疾患,運動器疾患,内部障害,その他),主疾患発症から初期評価までの期間,Charlson Comorbidity Index(以下,CCI)14),生活住環境(自宅,サービス付き高齢者住宅,有料老人ホーム),Mini-mental State Examination(以下,MMSE),要介護度,訪問診療の利用,往診の利用,薬剤師訪問サービスの利用,訪問リハ頻度(週あたりの訪問回数)訪問看護の有無,通所リハビリテーションの有無,ショートステイ利用の有無,補助具(補助具なし/杖/歩行器/車椅子)を取得した。訪問診療とは計画的かつ定期的に医療を提供し,患者の健康状態を管理することが目的で医師が訪問するサービスであり,往診とは患者やその看護・介護に当たる者からの要請に応じて,医師が患者の自宅に赴き,診療を行うものである。
身体機能と情報として,訪問リハ開始時のBI(BI初期値),Short Physical Performance Battery(以下,SPPB)15),最大握力を担当理学療法士が評価した。また,BIは6カ月後にも評価を行った。
BIのMDCは20点と報告されている13)。そのため,20点以上悪化した者を「悪化あり群」,BIの変化が20点未満であった者を「悪化なし群」と定義し,2値化した。SPPBは下肢機能を評価するための標準的なテストであり,以下の3項目で構成される15)。①バランステスト:閉脚立位,セミタンデム立位,タンデム立位をそれぞれ10秒間保持する。②5回椅子立ち上がりテスト:両腕を使わずに椅子から5回連続して立ち上がる際の所要時間を計測する。③歩行速度テスト:4 mの距離を快適速度で歩行する際の所要時間を計測する。各項目を0~4点で評価し,総合スコア(最大12点)を用いて下肢機能を評価した。握力はデジタル握力計を用い,座位で肘を伸展した状態で左右両側を3回測定し,その最大値を記録した。また,グリップは第2指節間関節が90度屈曲位となるように調整した。
対象者基本情報は,医療カルテおよび医療法人明星会介護データベースから取得した。訪問リハプログラムには,関節可動域練習,筋力強化練習,バランス練習,歩行練習,前庭機能練習,日常生活動作練習,屋外歩行練習が含まれていた。
2)データ解析(1)BI悪化確率の説明モデルの作成本研究では,訪問リハを受ける要介護高齢者におけるBI悪化確率を説明するために,3つの回帰モデルを構築した。これらのモデルを作成した理由は,本研究がBI悪化確率の説明精度に重きを置いていること,また臨床における実用性を高めるためには,異なる複雑性を持つ複数の回帰モデルを比較検討する必要性があるためであった。本研究のようにBI悪化確率を求める回帰モデルはその精度と実用性のトレードオフを伴うことが多く,多くの変数を使用して高精度な説明を目指すモデルと変数を絞り,臨床現場での利用可能性を高めた簡便なモデルの両方を検討することが重要である。3つの説明モデルを作成する前に各変数間についてSpearmanの相関係数およびVariance Inflation Factor(以下,VIF)にて関係を確認した。高い相関係数とVIFは多重共線性の確率となり,説明モデルの変数調整に重要である。すべての説明モデルの従属変数はBI悪化の有無(悪化なし0,悪化あり1)である。
a. Comprehensive Model(以下,CM)CMは,最も多くの説明変数を含むモデルであり,数多くの変数に基づいてBI悪化確率を説明することを目指した。具体的にはCCI, SPPB, MMSE, BI初期値,性別,年齢,BMI,握力,要介護度の合計9変数を調整因子としてモデルに組み込んだ。このモデルは,多くの情報を用いてBI悪化確率を説明するため,高い精度を期待するが,多数の変数を要することから,臨床現場での活用にはやや複雑な可能性がある。
b. Parsimonious Model(以下,PM)PMは,CMから多重共線性の疑いがある変数(VIF 5以上)と相関係数が0.7以上の変数を除去し,少数の説明変数でBI悪化確率を説明するために作成する。このモデルは,精度を保ちながらも,変数を減らすことで,より簡便かつ臨床での実用性を高めることを目的としている。
c. Minimalist Model(以下,MM)MMは,最もシンプルなモデルであり,理学療法士が介入する際に最低限必要な変数のみを使用する。このモデルは,変数を最小限に絞ることで,臨床現場で迅速に使用できるように設計されている。モデルが簡単であるため,即時の意思決定支援を提供できるが,精度は他の2つのモデルに比べてやや劣る可能性がある。
上記3つのモデルは,各々の臨床的な実用性と説明精度を比較するために構築された。最も良好な性能を示すモデルを選定するため,全てのモデルに対して1000回のブートストラップサンプリングを行い,推定値のばらつきを補正し,モデルの安定性と信頼性を確保した。また,各モデルの説明精度はReceiver Operatorating Characteristic(以下,ROC)曲線に基づいて評価され,曲線下面積(Area Under the Curve:以下,AUC)を算出した。また,モデルの適合度は,McFadden’s R2で評価を行った。
次に,最も精度の高い説明モデルを選定し,ロジスティック回帰モデルで得られたlogit値からネイピア数(exp)を使用して確率に変換した。複数の回帰モデルで精度が同等であった場合は,より変数の少ないモデルを使用した。これにより,各患者におけるBI悪化確率を算出し,BI悪化確率20%以下,21–40%,41–60%,61–80%,81%以上と5分割(BI悪化確率群)した。
(2)DCADCAの目的は,訪問リハ頻度がBI悪化に対してどのような臨床利益をもたらすかを判断することにある。例えば,患者の状態に応じて介入の頻度を変える必要がある場合に,その説明モデルがどの程度有効であるかを評価することができる。本研究では,構築した3つの説明モデルのうちAUCが最大であったモデルを選定し,各患者における悪化確率により5分割したBI悪化確率群に対してDCAによる説明モデルの臨床利益(Net Benefit: NB)を検証した。
NBは,DCAの中心的な指標であり,説明モデルの臨床利益を定量的に評価することができる。また,介入による利益と誤った分類によるデメリットのバランスを取った指標であり,具体的には,次の数式で定義される16)。
![]() |
Nは総患者数を示し,分析対象となるすべての患者の数を指す。True Positives(以下,TP)とは,予測モデルが「BIが悪化する」と判定し,実際にもBIが悪化した患者の数である。すなわち,説明モデルが正確にリスクを捉え,適切な判断を下せた症例を示す。False Positives(以下,FP)とは,予測モデルが「BIが悪化する」と判定したものの,実際にはBIが維持または改善した患者の数である。pは,どの確率以上を「悪化リスクが高い」と判断するかを決定する基準である。例えばp=60%に設定した場合,モデルがBI悪化確率を60%以上と予測した患者を「悪化する」と判定する。つまり,NBの算出には,TPとFPを正確に判別する必要があるため,本研究での回帰モデルには高い精度が必要であった。NBが低い場合,患者にとってBI悪化に関する介入としては不必要である可能性を意味するため,臨床利益は低いと解釈される。例えば,BI悪化確率20%以下の患者に対する週1回の訪問リハのNBが0%であった場合,介入してもBI悪化に対する臨床利益はないことを示す。また,週2回の訪問リハのNBが70%であった場合,臨床的に有益であることを示す。NBは相対的な指標であるため,訪問リハの頻度による臨床的な利益は,比較対象との差によって評価される。したがって,週2回と週1回のNBの差が小さい場合,頻度を増やすことによる追加的な臨床利益は限定的であることを示し,反対に差が大きい場合は,頻度の増加がより大きな臨床利益をもたらすことを意味する。
データ解析はR 4.01とPython(バージョン3.10)を用いて実施した。また,結果の視覚化にはmatplotlibおよびseabornを用いた。
本研究の解析対象者は104名(悪化あり群41名,悪化なし群63名)であった(図1)。対象者の基本属性を表1に示す。本研究の対象で訪問リハの回数が3回であったものは0名であったため,本研究での訪問リハの頻度は1回もしくは2回が対象となった。
BI: Barthel Index.
項目 | 悪化なし群n=63 | 悪化あり群n=41 |
---|---|---|
年齢 | 82.2 (8.1) | 86.2 (10.1) |
性別:女性[n (%)] | 39 (62) | 26 (63) |
BMI [kg/m2] | 20.6 (4.7) | 18.9 (5.7) |
主疾患種別[n (%)] | ||
脳血管疾患/運動器疾患/内部障害/他 | 2 (3)/26 (41)/22 (35)/13 (21) | 3 (7)/11 (27)/18 (44)/9 (22) |
主疾患発症から初回評価までの期間[月(SD)] | 11.6 (7.9) | 12.6 (10.9) |
CCI[点(SD)] | 2.1 (2.8) | 3.5 (2.0) |
生活住居環境[n (%)] | ||
自宅/サ高住/有料 | 31 (49)/20 (32)/12 (19) | 15 (37)/10 (24)/16 (39) |
MMSE[点(SD)] | 23.6 (7.8) | 20.1 (9.8) |
要介護度[n (%)] | ||
要介護1/2/3/4/5 | 17 (27)/16 (25)/12 (19)/15 (24)/3 (5) | 9 (22)/11 (27)/11 (27)/7 (17)/3 (7) |
訪問診療の利用[n (%)] | ||
なし/月1回/月2回 | 2 (3)/12 (19)/49 (78) | 0 (0)/5 (12)/36 (88) |
往診の利用:あり[n (%)] | 8 (13) | 12 (29) |
薬剤師訪問サービスの利用:あり[n (%)] | 61 (98) | 41 (100) |
訪問リハビリ頻度[週2回(%)/週1回(%)] | 37 (59)/26 (41) | 18 (44)/23 (56) |
訪問看護:あり[n (%)] | 19 (30) | 18 (44) |
通所リハビリ:あり[n (%)] | 5 (8) | 2 (5) |
ショートステイ:あり[n (%)] | 0 (0) | 2 (5) |
補助具[n (%)] | ||
補助具なし/杖/歩行器/車椅子 | 17 (27)/21 (33)/16 (25)/9 (14) | 7 (17)/15 (37)/9 (22)/10 (24) |
BI初期値[点(SD)] | 66.2 (22.1) | 55.2 (19.5) |
SPPB[点(SD)] | 8.4 (3.5) | 4.9 (2.9) |
最大握力[kg (SD)] | ||
男性/女性 | 22.9 (6.9)/14.5(8.8) | 19.8 (8.9)/13.2 (7.6) |
SD: standard deviation(平均値),BMI: Body Mass Index, CCI: Charlson Comorbidity Index, MMSE: Mini-Mental State Examination, BI: Barthel Index, SPPB: Short Physical Performance Battery, 主疾患主別(他:廃用症候群・認知症・うつ・統合失調症),生活住居環境(サ高住:サービス付き高齢者住宅,有料:有料老人ホーム),通所リハビリ:通所リハビリテーション.
CMのAUC(推定値(95%信頼区間))は0.84(0.62–0.94),PMは0.86(0.72–0.99),MMは0.86(0.72–0.99)であった(表2)。PMとMMが最も高い説明精度を示した。そのため,DCAを行うための説明式には変数の少ないMMを用いた。MMによる悪化確率の説明式は以下である。
MMによる悪化確率(P)の説明式:
![]() |
Comprehensive Model (CM) | Parsimonious Model (PM) | Minimalist Model (MM) | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
変数 | Coefficient | OR | Lower | Upper | Coefficient | OR | Lower | Upper | Coefficient | OR | Lower | Upper |
intercept | 6.99 | 1.43 | 2.75 | |||||||||
CCI | 0.49 | 5.01 | 2.65 | 31.22 | 0.66 | 5.95 | 1.01 | 37.80 | 0.59 | 6.05 | 1.01 | 37.82 |
SPPB | −0.31 | 0.45 | 0.17 | 0.76 | −0.25 | 0.35 | 0.17 | 0.76 | −0.23 | 0.41 | 0.17 | 0.76 |
MMSE | −0.23 | 0.42 | 0.23 | 0.88 | −0.14 | 0.62 | 0.49 | 0.96 | −0.12 | 0.32 | 0.49 | 0.96 |
BI初期値 | 0.02 | 0.42 | 0.01 | 0.99 | 0.13 | 0.79 | 0.09 | 1.01 | — | — | — | — |
性別 | 0.76 | 1.65 | 1.01 | 7.01 | 0.48 | 1.91 | 1.01 | 6.88 | — | — | — | — |
年齢 | −0.07 | 1.01 | 0.01 | 2.99 | — | — | — | — | — | — | — | — |
BMI | 0.01 | 1.00 | 0.52 | 2.01 | — | — | — | — | — | — | — | — |
握力 | −0.05 | 1.01 | 0.11 | 2.21 | — | — | — | — | — | — | — | — |
介護度 | 1.05 | 0.89 | 0.34 | 1.63 | — | — | — | — | — | — | — | — |
McFadden’s R2 | 0.45 | 0.36 | 0.34 | |||||||||
AUC (95%CI) | 0.84 (0.62–0.94) | 0.86 (0.72–0.99) | 0.86 (0.72–0.99) |
OR: odds ratio(オッズ比),CCI: Charlson Comorbidity Index, SPPB: Short Physical Performance Battery, MMSE: Mini-Mental State Examination, BI: Barthel Index, BMI: Body Mass Index, AUC: Area Under the Curve, 95%CI: 95% Confidence Interval.
MMによる回帰式によるNB(訪問リハ週2回/訪問リハ週1回)は,BI悪化確率カテゴリーが20%以下では20.0%/16.6%,21–40%では32.4%/13.8%,41–60%では44.4%/25.1%,61–80%では55.5%/24.4%,81%以上では71.4%/23.4%であった。BI悪化確率20%以下では,NBの差は3.4%と非常に小さいが,21–40%以上のBI悪化確率カテゴリーではNBの差は18.6%から48.0%と相対的に大きかった(表3,図2)。
悪化確率 カテゴリー | 訪問リハビリ 週2回 | 訪問リハビリ 週1回 | Net Benefitの差 |
---|---|---|---|
20%以下 | 20.0% | 16.6% | 3.4% |
21–40% | 32.4% | 13.8% | 18.6% |
41–60% | 44.4% | 25.1% | 19.3% |
61–80% | 55.5% | 24.4% | 31.1% |
81%以上 | 71.4% | 23.4% | 48.0% |
表内の数値は,訪問リハビリテーション(訪問リハ)を週2回または週1回行った場合のNet Benefitを表しており,Net Benefitの値が高いほど,訪問リハがBarthel Indexの悪化を抑制することを意味する.またNet Benefitの差が大きい程,週2回の臨床利益が相対的に大きいことを示す.
本研究では,要介護高齢者に対する訪問リハの頻度を,BIの悪化確率に基づいて最適化するため,説明モデルを構築し,DCAを用いてNBを評価した。その結果訪問リハの頻度に関して,従来の経験的な判断や主治医の意見に加え,BI悪化確率とNBを考慮した訪問リハ頻度の調整を行うことが,より適切なケアの提供に寄与する可能性が示された。
本研究で構築された説明モデルのうち,PMとMMは最も高い説明精度を示し(AUC 0.86),次にCMの精度が良好であった(AUC 0.84)。CMは包括的なモデルであり,多数の変数を使用することで精度を担保したが,PMやMMは少数の変数で同等以上の精度を達成した。これは,臨床現場において,少数の変数を用いたモデルが,実用性の観点からも有用であることを示している。回帰モデルではCCI, SPPBが説明因子として特定されており,これらの変数が先行研究と同様にBI悪化確率に対して大きく寄与していることが確認された17)。また本研究では,悪化確率に性差が影響していた。PMモデルでは性別に対するオッズ比が1.91であった。これは女性においてBIがより悪化しやすい傾向を示している。この性差についても,身体機能や持久力は男性の方が良好であるという先行研究と同様の結果となった17)。
本研究は,対象者数が少ないため交差検証をしていない。そのため,説明モデルの過剰学習は慎重に考慮する必要がある。ロジスティック回帰分析の適合度の確認には,McFadden’s R2を求めた。McFadden’s R2は,数値が高いほど適合度が高いとされ,一般的に0.4を超える場合は,過剰適合のリスクがあり,0.8を超える場合は過剰適合の可能性が高いとされている。本研究では,MMでMcFadden’s R2が0.34であり,過剰適合のリスクは低いと考える。
NBを用いたDCAの結果から,訪問リハの頻度を確率に応じて調整することで,高いNBが得られる可能性が確認された。特に悪化確率が21%を超える患者においては,NBの差が大きく,週2回以上の訪問リハはNBが高い結果となった。また,BI悪化確率が高いほどNBの差が大きくなっており,週2回の訪問リハの恩恵をうける可能性が高い。これに対し,悪化確率が20%以下の患者では,NBの差が3.4%であり,相対的に週1回の訪問リハでも,BI悪化に対するNBは小さいことが示された。しかしこれは,改善に対するNBではなく,BI悪化確率に対するNBの差が小さいことを示している。つまり,BI悪化確率が20%以下の患者では,訪問リハ週1回に対して相対的に週2回のNBが小さいことより,週2回の訪問リハにおいて得られるBI悪化に対する臨床利益は小さい可能性がある。本研究では,訪問リハが週1回または2回実施していた対象者のみを分析対象としたが,解析対象者で3回実施していた対象者は0名であり,3回の効果については明確な結論を得ることができなかった。このため,3回以上の訪問リハの有効性については,さらなるデータの蓄積と検証が必要である。
本結果は,従来の訪問リハの頻度が十分に最適化されていない可能性を示唆している。多くの訪問リハでは,主治医の意見や利用者の希望,介護保険の範囲内での経験ベースの意思決定が一般的である。本研究で用いたDCAは,NBに応じた介入頻度の決定を行うためのツールとなり得る可能性がある。また,NBの観点から,訪問リハ頻度を増加させることで相対的に臨床利益が得られる患者(悪化確率21%以上)に対しては,週2回の介入を検討する必要があると考える。
本研究で示された説明モデルおよびDCAに基づくアプローチは,BI悪化確率とNBに応じた介入頻度の決定を科学的根拠に基づいて行うためのツールであり,臨床家の判断を支援する可能性がある。しかし,これを臨床で実際に応用する際には,いくつかの課題が存在する。まず,説明モデルは対象集団に特有のデータに基づいて構築されているため,他の地域での一般化可能性には注意が必要である。特に,本研究は単施設のデータに基づいており,異なる医療機関や介護施設における適用可能性を確認するためには,さらなる外部検証が求められる。また,DCAを用いたアプローチは,NBを最大化するためのツールであるが,臨床現場では患者の希望や家族の状況など,さまざまな要因が介入の意志決定に影響を与える可能性がある。したがって,説明モデルに基づく介入は,他の臨床的判断や社会的要因と併せて総合的に判断されるべきである。本研究で得られた知見はあくまで訪問リハの回数を考慮するためのものであり,理学療法士や医師の経験を排除するものではない。また,本研究では,BI悪化確率の過小評価をさけるため,改善した患者群を除外した。そのため,改善に対するNBを考慮しておらず,臨床で本研究の回帰式を使用する場合はBI悪化確率のみに留まる点も注意が必要である。さらに,本研究のフォローアップ期間は6か月に限られているため,訪問リハのより長期的な効果や,介入頻度が長期的にどのような影響を与えるかについての知見は限られている。今後の研究では,長期的な介入効果を評価するためのプロスペクティブ研究が必要であり,訪問リハの最適な頻度やタイミングをさらに詳細に検討することが重要である。
本研究では,BI悪化確率に基づいた訪問リハの頻度設定のための説明モデルを構築し,DCAを用いて訪問リハ頻度のNBを検討した。その結果,BI悪化確率に応じた訪問リハの頻度調整が,一定の条件下では患者にとってNBが高くなる可能性が示唆された。これは,訪問リハにおける頻度設定の一助になる可能性がある。しかし,本研究は単施設の後方視的研究であり,他の集団への適用には慎重な検討が必要である。
本研究の実施にあたり,星野クリニック在宅リハビリテーションセンターのスタッフ,訪問診療部門,在宅コーディネーター,そして医療法人明星会のケアマネージャーの皆様の尽力に心より感謝申し上げます。皆様の理解と協力があってこそ,本研究を無事に完了することができました。この研究が,訪問リハとケアプランの質向上に少しでも貢献できることを願っています。
開示すべき利益相反はない。