Physical Therapy Japan
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Scoping Review
Gait Analysis Using Acceleration Measured by Wearable Sensors in Patients with Spinal Disease
A Scoping Review
Takasuke Miyazaki Yasufumi TakeshitaSota Araki
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2025 Volume 52 Issue 3 Pages 150-156

Details
要旨

【目的】整形外科領域の脊椎疾患者に対して,ウェアラブルセンサーで計測した加速度を用いた歩行分析に関する研究結果を系統的にマッピングすることと,既存の知見のギャップを特定すること。【方法】医中誌,PubMed, Scopus, Cochrane Libraryの各電子データベースとハンドサーチを用いたスコーピングレビューを行った。言語は日本語と英語とした。【結果】最終的に10編が採用され,主な対象は腰部脊柱管狭窄症であった。加速度波形の振幅や規則性を横断的に評価した報告が多く,疾患群において健常群よりも歩行が不安定であることが横断的にも縦断的にも示されていた。使用されていた指標には,ばらつきがあった。【結論】整形外科領域の脊椎疾患者に対する加速度を用いた歩行分析の情報は少なく,確立された指標はなかった。今後はカットオフ値の算出など,疾患特異性や介入効果を示す最適な指標の探索が必要である。

はじめに

日常生活の基盤をなす移動を行うには,歩行能力の代表的な指標である歩行速度の維持または増加が非常に重要である。術後1年経過した人工股関節置換術後患者では十分な歩行速度の獲得に至らない場合もあり1,整形外科領域においても,歩行速度向上を目的とした運動療法の実施は重要である。歩行速度の低下は,死亡や施設入所,転倒などの様々なリスクとの関連が報告されており2,歩行速度が歩行能力の最も代表的な指標として計測されている。これに対し,近年,測定制約の少ないウェアラブルセンサーが臨床現場やフィールドワークで用いられている37。先行研究では,歩行中の動揺を示すroot mean square(以下,RMS)8や左右の対称性を示すharmonic ratio(以下,HR)9,歩行周期における規則性を示す自己相関係数10やentropy11などが代表的な指標として算出されており,動作の円滑性などを把握するため,ウェアラブルセンサーを用いて計測した加速度から算出した指標を用いて歩行特性を評価する報告が増えている。両側の変形性膝関節症者と健常高齢者の比較において,歩行速度は群間差を認めなかったが,歩行の対称性は変形性膝関節症者における有意な低下を報告している12。そのため,ウェアラブルセンサーで計測した加速度を用いた歩行分析は,歩行速度や歩幅などの時空間的パラメータのみでは把握することのできない,各対象者のより詳細な歩行特性を把握できる可能性があり,非常に重要と考えられる。

これらの指標は,一般的に骨盤や体幹にウェアラブルセンサーを装着し,取得した加速度波形を解析することで算出することができる13。そのため,脊椎の変性や変形などによる腰痛や神経症状などが歩行などの日常生活動作にも影響を及ぼすと考えられる腰部脊柱管狭窄症などの脊椎疾患者に対して,ウェアラブルセンサーを用いた歩行計測は,周術期や術後の脊椎アライメントの変化の影響を把握するためにも特に有用な方法と考えられる。脊椎疾患者への外科的治療後の一般的なアウトカムとして,脊椎アライメントの改善,疼痛軽減や身体機能向上などが報告されている1415。さらに脊椎疾患者に対してウェアラブルセンサーを用いて動作解析を行ったreview16では,臨床スコア(oswestry disability index: 以下,ODI)とウェアラブルセンサーを用いて計測した加速度から算出した指標との関連を検討しているが,活動量が主要評価項目とされていた1719。また,腰部脊柱管狭窄症者の動作解析に関するreview20では,立位での動作解析,歩行速度や歩幅などの時空間的パラメータや歩行中の関節角度などの運動学的な指標を用いた報告が多く含まれており,歩行中の動揺や左右の対称性,歩行周期の規則性といった加速度から算出できる歩行特性を示す指標を用いた報告はほとんどない。

現状として,整形外科領域における脊椎疾患者に対して,ウェアラブルセンサーで計測した加速度を用いた歩行分析に関するデータが不足していると考えられ,エビデンスを蓄積していく必要があると考えられる。しかし,研究結果を系統的に概観(以下,マッピング)した報告や,既存の知見のまだ研究されていない範囲の特定(以下,リサーチギャップ)に関する報告も見当たらないため,リサーチギャップを特定する必要がある。

本研究の目的は,既存の研究における差異や不足をマッピングする手法として用いられるスコーピングレビュー21を行い,現時点での整形外科領域の脊椎疾患者におけるウェアラブルセンサーで計測した加速度を用いた歩行分析に関する研究結果を系統的にマッピングすることと,既存の知見のリサーチギャップを特定することとした。

方法

1. 目的とスコーピングレビューについて

本研究は整形外科領域の脊椎疾患者におけるウェアラブルセンサーで計測した歩行中の加速度の特徴を明らかにするためにスコーピングレビューを実施した。スコーピングレビューとは研究領域の既存の論文を網羅的に調査し,さらなる研究が必要な未解決な部分を明確にする手法である22。スコーピングレビューの実施手順はPreferred Reporting Items for Systematic reviews and Meta-Analyses extension for Scoping Reviews(PRISMA-ScR)の日本語版に従った22

2. データベース

本研究では,医中誌,PubMed, Scopus, Cochrane Libraryを使用して,研究課題に関連する論文を検索した。検索は2024年10月25日に実施され,この期間までに発表された論文を検索した。検索式は#1「trunk OR spine OR thorax OR lumbar」,#2「fracture OR osteoarthritis OR osteoporosis OR “back pain” OR “spinal fusion” OR spondylo* OR “intervertebral disc displacement” OR “spinal stenosis” OR “spinal cord diseases”」,#3「acceleration OR sensor OR accelerometer OR “inertial measurement unit”」,#4「walk OR gait」とし,#1 AND #2 AND #3 AND #4で検索した。

3. スクリーニング

各データベースの検索結果から重複する論文を除外した。事前に定めた包含基準と除外基準に準じて,タイトルと要旨から1次スクリーニングを実施した。次に,2次スクリーニングでは,本文を精読し,基準に合致する適格論文であるかを判断した。スクリーニングで用いた包含基準と除外基準は以下の通りである。

  • 【包含基準】

    • (1)   脊椎疾患者を対象としたもの
    • (2)   歩行中に加速度を計測し,結果を提示しているもの
    • (3)   英語あるいは日本語で書かれたもの

  • 【除外基準】

    • (1)   学会抄録,システマティックレビュー,メタアナリシス
    • (2)   全文が入手できないもの

4. データ抽出

全ての適格論文から,タイトル,著者,発行年,研究デザイン,対象疾患,対象者数,年齢,ウェアラブルセンサーに関する記載(貼付位置,算出した指標,指標の解釈),研究概要を抽出し,要約した。

なお,論文検索,スクリーニング,データ抽出は2名の著者が独立して行い,2名の著者の意見が不一致であった場合は第3の著者が加わり,合議を行い,合意が得られた結果を採用した。

結果

1. 論文選択の過程

図1に論文選択のフローチャートを示す。データベース検索の結果,1283編の論文が抽出された(医中誌87編,PubMed 63編,Scopus 571編,Cochrane Library 562編)。重複した30編の論文を除外し,1253編を1次スクリーニングし,19編が抽出された。これらの本文を精読し,最終的に包含基準に合致した10編2332が採用された(図1表1)。

図1 論文選択のフローチャート

2024.10/25.1次対象:医中誌87+PubMed63+Scopus571+Cochrane Library562, 重複論文30.2次対象:医中誌4+(PubMed+Scopus)15+Cochrane Library0=19, 対象10(医中誌3+PubMed7).

表1 適格論文の特性

著者(発行年)/研究実施地域/研究デザイン対象疾患:対象者数(名),年齢(歳)ウェアラブルセンサーに関する記載研究概要
貼付位置算出した指標指標の解釈
Kinno D, et al. (2021)23日本/観察研究腰部脊柱管狭窄症:32, 68.7±9.7L3LI値が大きいほど,対称性が低下腰部脊柱管狭窄症患者では,術前の6分間歩行中のLIが時間の経過とともに増加傾向であった。術後の6分間歩行中のLIは,術前と比較して低値を示した。LIは,日本整形外科学会腰痛治療成績判定基準の改善率と負の相関を示した。
Abe Y, et al. (2020)24日本/横断研究腰部脊柱管狭窄症:16, 70.4±10.1 
健常高齢者:10, 64.6±12.7
L3LI値が大きいほど,対称性が低下腰部脊柱管狭窄症では,健常高齢者と比較してLIが低値を示した。
Bumann H, et al. (2019)25スイス/コホート研究腰部脊柱管狭窄症:29, 72.5±5.8 
健常者:27, 60.2±10.6
L5RMS値が大きいほど,動揺が増加腰部脊柱管狭窄症患者は,健常者と比較して,骨盤の垂直方向および前後方向のRRMSが低値を示し,骨盤剛性が高いと考えられた。骨盤の垂直方向および前後方向のRRMSは,術後から改善し12カ月後には健常者と有意差を認めなかった。狭窄の重症度と骨盤剛性は相関した。
RRMS
Byrnes SK, et al. (2018)26スイス/横断研究腰部脊柱管狭窄症:19, 73.8±5.3 
健常者:24, 59.9±10.5
骨盤attractor値が大きいほど,規則性が低下attractorのパターンは健常者でもばらつきを認めたが,腰部脊柱管狭窄症患者では約3倍のばらつきを認めた。この傾向は術直後に大きくなり12カ月後には小さくなるものの,依然として健常者よりばらつきが大きかった。
Nagai K, et al. (2013)27日本/観察研究腰部脊柱管狭窄症:11, 72.8±5.5C7L3RMS値が大きいほど,動揺が増加間欠性跛行の出現前後での歩行を比較し,AC, SF, CVは有意な変化を示さなかった。最大歩行距離は,歩行課題開始時の頸部に装着したウェアラブルセンサーから算出したCVと有意に相関した。
AC値が小さいほど,規則性が低下
CV
SF値が大きいほど,歩行周期の頻度が高い
Papadakis NC, et al. (2009)28ギリシャ/横断研究腰部脊柱管狭窄症:35, 50.7±12.9 
健常者:35, 51.1±11.7
L5entropy値が大きいほど,滑らかさが低下腰部脊柱管狭窄症群がコントロール群よりentropyが高値を示した。ROC分析により算出したentropyのカットオフ値は,腰部脊柱管狭窄症の患者と健常者を97.6%の確率で分離した。ODQは,entropyと相関した。
Papadakis NC, et al. (2009)29ギリシャ/コホート研究腰部脊柱管狭窄症:12, 50.0±14.0L5entropy値が大きいほど,滑らかさが低下術後は術前と比較してentropyは低値を示した。12カ月の縦断的な追跡では,entropyは減少傾向となった。
Khattak ZK, et al. (2023)30中国/横断研究頚椎症性脊髄症:10, 63.6±10.7 
健常高齢者:10, 69.4±7.0
L5RMS値が大きいほど,動揺が増加頚椎症性脊髄症患者は健常者と比較して,前後方向および垂直方向の加速度RMSは有意に低値を示した。左右方向,頚椎症性脊髄症患者の加速度RMSRは,健常高齢者よりも有意に高値を示した。HRは,前後方向のみ頚椎症性脊髄症患者が健常高齢者よりも有意に低値を示した。
HR値が小さいほど,対称性が低下
Nishi Y, et al. (2021)31日本/横断研究慢性腰痛:20, 54.1±10.8 
健常者:20, 56.8±9.4
L5SD値が大きいほど,動揺が増加慢性腰痛患者と健常者の2群において,実験室内歩行と日常生活歩行という環境の2要因をふまえたANOVA解析をした結果,体幹加速度のSDの前後方向では環境条件,左右方向では両方の影響を示した。MSEは,左右方向において両方の影響を示した。LyEは,前後方向において両方の影響を示したが,左右方向では全く示さなかった。慢性腰痛患者によるこれらの体幹運動制御の変化は,日常生活環境では疼痛強度,運動恐怖,QOLに関連していたが,実験室環境では関連しなかった。
MSE値が大きいほど,滑らかさが低下
LyE値が大きいほど,安定性が低下
綾部雅章,他. (2014)32日本/横断研究脊椎圧迫骨折:13, 78.1±8.5 
健常高齢者:19, 67.8±4.9
L3加速度の積分値値が大きいほど,動揺が増加脊椎圧迫骨折患者では,健常高齢者と比較して垂直成分における加速度の積分値が低下していた。
加速度と時間の相関係数

平均値±標準偏差。

LI: lissage index, RMS: root mean square, RRMS: relative root mean square, AC: autocorrelation peak, CV: coefficient of variance, SF: stride frequency, ROC: receiver operating characteristic, ODQ: oxford depression questionnaire, HR: harmonic ratio, SD: standard deviation, MSE: multiscale sample entropy, LyE: Lyapunov exponent, ANOVA: analysis of variance, QOL: quality of life.

2. 対象疾患

腰部脊柱管狭窄症を対象とした報告が7編と最も多く2329,頚椎症性脊髄症30,慢性腰痛31,脊椎圧迫骨折32がそれぞれ1編であった。

3. 研究デザイン

健常者との比較を行った横断研究が6編2426283032,対象疾患のみの観察研究が2編2327,多地点を解析したコホート研究が2編2529であった。ランダム化比較試験は含まれなかった。

4. ウェアラブルセンサーの貼付位置

ウェアラブルセンサーの貼付位置は,L5が5編252831,L3が3編232427,詳細位置は不明だが,骨盤に設定したものが1編26であった。腰部脊柱管狭窄症患者を対象とした研究であるが,L3だけでなく,C7にも貼付したものが1編27であった。

5. 加速度の指標

取得した加速度波形の振幅から算出するRMS13を基本として,より高度な数学的計算を要する指標が用いられており,全体として,加速度波形の振幅,規則性と対称性を算出し,評価項目として使用した報告が多かった。歩行中の動揺を示す加速度波形の振幅は,RMSやrelative RMSを用いた報告が3編252730,stride-to-stride standard deviation31,加速度の積分値32を用いた報告がそれぞれ1編であった。規則性は,attractor26,autocorrelation peakとcoefficient of variance27,加速度と時間の相関係数32を用いた報告がそれぞれ1編であった。対称性は,lissage indexを用いたものが2編2324,HRを用いた報告が1編30であった。また,歩行の滑らかさを示すentropyを用いた報告が3編282931,安定性を示すLyapunov exponentを用いた報告が1編31であった。

考察

本研究では,整形外科領域の脊椎疾患者におけるウェアラブルセンサーで計測した加速度を用いた歩行解析に関する論文を適格基準とした検索を行い,10編が対象論文となった。研究開始にあたって立案した研究疑問に関して以下に考察する。

1. 研究の特徴と傾向,研究の特徴から考えられるリサーチギャップ

対象疾患の内訳として,腰部脊柱管狭窄症が7編と最多であり2329,頚椎症性脊髄症30,慢性腰痛31,脊椎圧迫骨折32がそれぞれ1編であった。ウェアラブルセンサーの貼付位置は,腰部(L3またはL5)から骨盤が主であり,骨盤に加えてC7(頚部)にも貼付したものが1編27であった。加速度の指標については,先述した貼付部位から計測した加速度から,規則性と対称性を算出したものが多かった。本研究の対象論文では,健常者との比較において有疾患者の歩行時の体幹動揺の増加,規則性や対称性の低下,術後に体幹動揺は低下するが健常者よりは動揺が大きいこと,腰椎疾患に関する臨床スコアであるODIや日本整形外科学会腰痛治療成績判定基準との関連などが報告されていた2332。センサーの貼付部位に関しては,ヒトの重心移動を反映すると言われている腰部や骨盤に装着するという,先行研究に倣った一般的な方法13が採用されていると考える。また,加速度の指標に関しても,先行研究に準じた方法で算出されている3335

本研究結果から現時点では,ウェアラブルセンサーで計測した加速度から算出した様々な指標を用いることで,整形外科領域における脊椎関連疾患の歩行中の不安定性を検知できていることが明らかとなった。しかし,整形外科領域の脊椎疾患者に対する加速度を用いた歩行分析の情報は少なく,統一した加速度の指標を用いた歩行分析の実施,疾患特異性や介入効果を示す加速度の指標の確立には至っていない。今後,ウェアラブルセンサーで計測した加速度を用いた脊椎疾患者の機能的予後に関する前向きコホート研究などの報告によるエビデンスの蓄積が期待される。

2. 解決すべき課題(リサーチギャップ)・理学療法への示唆

本研究の結果を踏まえ,統一した加速度の指標を用いた歩行分析の実施や最適な指標の探索などの必要性が明らかとなった。評価が統一されていない原因として,加速度の指標の解析と解釈が難しいという面を持ち合わせていること35,単一の指標のみで対象者の歩行特性を捉えることが難しいことなどが考えられる。本研究結果での報告が多い規則性と対称性を考えると,規則性は同側の一歩行周期,対称性は左右の歩行周期における加速度波形の重なりを解析している36。歩行の規則性や対称性を用いた先行研究では,脳卒中患者における歩行自立度と規則性との関連37,両側の変形性膝関節症者では健常高齢者と比較して対称性の低下12,地域在住高齢者においては対称性の低下と転倒3や軽度認知機能低下9との関連などが報告されている。本研究の対象領域である整形外科領域の脊椎疾患者で考えると,下肢の痛みやしびれ,筋力低下などの症状の左右差や重症度,症状の経過に応じて歩行中の規則性や対称性などが変化することが予想される。それぞれの指標の強みを考慮すると,一側性に症状を有する対象者の歩行分析には規則性,両側性に症状を有する対象者には対称性,症状改善に伴い下肢機能の左右差が軽減してきたと考えられる対象者の歩行分析には規則性と対称性の双方を用いることで,より疾患特異的な歩行分析の実施につながると考えられる。このように,加速度の指標を用いた多面的な歩行分析により,各対象者の歩行特性を検討していくことが必要である。さらに,より詳細に動作を把握するためには,センサーの貼付部位に関する検討も必要であると考える。本研究の対象論文の多くは腰部または骨盤にセンサーを貼付して計測しているが,1編のみ頚部にもウェアラブルセンサーを貼付して加速度を算出した結果,最大歩行距離が歩行課題開始時の頚部の動揺と関連していた27。本研究の除外論文の中には,脊椎疾患者の上部体幹に貼付したウェアラブルセンサーを用いて歩行を計測した報告もあったが38,ステップ時間などの時空間的パラメータの規則性を算出しており,加速度に関する指標まで算出されていない。高齢者における歩行中の動揺は腰部よりも頚部で大きいことも報告されており13,外科的治療後の脊椎疾患者に対する歩行中の隣接椎体の動態をウェアラブルセンサーにより検知することは困難と考えるが,頚部と腰部の加速度を比較することで,より鋭敏に歩行中の加速度の特徴を検知できる可能性があると考えられる。今後,各加速度の指標が示す特徴やウェアラブルセンサーの貼付位置を考慮した歩行分析を行い,疾患特異性などを反映した加速度の指標を明らかにしていく必要があると考えられる。

また,縦断的に歩行分析を行い,介入効果を示す指標の特定なども必要である。現状,脊椎疾患者に対してウェアラブルセンサーを用いた報告では,加速度から算出した活動量が主要評価項目とされている報告がある1719。一方,本研究結果で提示した歩行中の加速度の指標を用いて歩行自立などを検討した報告はない。脊椎疾患者への外科的治療後の一般的なアウトカムとして,疼痛軽減や身体機能向上などが示されており1415,外科的治療に伴う症状軽減により歩行自立には至る症例が多いが,術後に残存した疼痛などが活動量低下を招く可能性が考えられるため,活動量の改善を目的としてウェアラブルセンサーが活用されていると考える。しかし,理学療法の効果を確認するためには,介入前後で歩行中の体幹動揺の変化を確認するなど,活動量だけでは確認することのできない歩行特性を確認する必要があると考える。歩行中の動揺を示す指標に関しては,腰部脊柱管狭窄症に対する除圧術後12カ月後には歩行中のRMSが健常者と有意差を認めなくなったと報告している25。また,腰部脊柱管狭窄症者を術前から術後1年まで縦断的に追跡し,健常群と比較すると術後も依然としてattractorが大きい(規則性の低下,動揺の増加)という報告がある26。しかし,規則性を示す指標についての縦断的な報告はなく,本研究結果で提示した加速度の指標におけるカットオフ値やMinimal clinically important difference値の提示には至っておらず,理学療法の介入効果や機能的予後の確認として用いられた報告はない。今後,介入効果を示す指標としての活用などに向けて,加速度の指標のより詳細な縦断的な変化の追跡に取り組む必要がある。

今後は,本研究で活用されていた加速度の指標のカットオフ値やMinimal clinically important difference値の算出,多変量解析による最も鋭敏な加速度の指標の検討などが必要である。ウェアラブルセンサーで計測した加速度を用いた多面的な歩行分析に継続して取り組むことで,統一した加速度の指標を用いた歩行分析の実施,疾患特異性などを反映した指標の確立などにつながり,整形外科領域における歩行分析の質の向上に寄与すると考えられる。

3. 本研究の限界

本研究の限界として,英語と日本語により投稿・出版された論文を対象として検索を実施したため,英語以外の言語で投稿・出版された論文を除外している点がある。また,適格基準を満たすための検索式を作成したが,整形外科疾患は多様な部位における疾患が包括された疾患区分であるため,本研究の検索式が適格論文を十分に網羅できていない可能性も考えられる。また,ウェアラブルセンサーを用いた報告のなかで,本研究の結果は加速度を指標としたものに限定されたものである。

結論

本研究では,整形外科領域の脊椎疾患者におけるウェアラブルセンサーで計測した加速度を用いた歩行分析に関する論文を適格基準とした検索を行い,検索結果を系統的にマッピングした。その結果,10編が対象となり,腰部脊柱管狭窄症を主とした対象に加速度波形の振幅,規則性や対称性を横断的に評価したものが多かった。加速度から算出した様々な指標が用いられており,確立された指標はない現状にあった。今後は加速度の指標を用いた多面的な歩行分析を行い,介入効果や機能的予後を示す指標として活用可能なカットオフ値の算出など,統一した加速度の指標を用いた歩行分析の実施,疾患特異性などを反映した指標の確立が必要である。

利益相反

本研究に関連する利益相反はない。

助成

本研究はJSPS科研費JP24K20500の助成を受けた研究の一部である。

文献
 
© 2025 Japanese Society of Physical Therapy

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