2026 Volume 53 Issue 2 Pages 89-94
【目的】本研究は,要介護認定高齢者の歩行練習中に振動触覚フィードバックシステムを用いることで,歩行機能に及ぼす効果を検討することを目的とした。【方法】対象は要支援・要介護認定を受けた高齢者10名とし,週2回,4週間の歩行練習を実施した。歩行速度,ケイデンス,ストライド長,日本語版-改定Gait Efficacy Scale,1歩行周期中の障害側の各期の割合を介入前後で評価し解析を実施した。【結果】歩行速度とストライド長が有意に改善し,1歩行周期中の立脚期割合,遊脚期割合,日本語版改定Gait Efficacy Scaleにも有意な変化を認めた。【結論】振動触覚フィードバックシステムを用いた歩行練習は,要介護認定高齢者の歩行機能と歩行に対する自己効力感の改善に有効であることが確認された。しかしながら,対照群との比較は未実施であるため有効性を示すには不十分と考えられる。今後は,無作為化対照試験による検証を実施していきたい。
Objective: This pilot study aimed to investigate the effects of vibrotactile feedback during walking practice on gait function in older adults certified as requiring long-term care or support.
Methods: Participants were 10 older adults certified as requiring support or care. Walking practice using a Vibrotactile Feedback system was conducted twice weekly for 4 weeks. Outcome measures included walking speed, cadence, stride length, the Japanese version of the revised Gait Efficacy Scale, and the proportion of each phase within a single gait cycle. All measures were assessed before and after the intervention.
Results: Walking speed and stride length improved significantly following the intervention. Scores on the Japanese version of the revised Gait Efficacy Scale also increased significantly.
Conclusion: Walking practice incorporating vibrotactile feedback improved gait function and self-efficacy in older adults certified as requiring long-term care or support. Future studies should confirm these findings through a randomized controlled trial.
本邦における高齢者数は年々増加しており,2024年の内閣府の報告では65歳以上の人口は3,623万人となり,高齢化率は29.1%と諸外国と比較して最も高い水準となっている1)。加えて,要介護認定者数も年々増加傾向であり,認定者を状態区分別にみると要支援1から要介護2の認定者が約65.5%を占めていることが報告2)されており,介護度の変化に関する先行研究では在宅介護サービスの利用開始から2年後に36.7%の要介護認定者が重度化している3)と報告されている。したがって,要支援・要介護認定を受けた高齢者(以下,要介護認定高齢者)の介護度の重症化を予防するためにも身体機能を改善させることは重要と言える。
身体機能の中でも歩行機能は,加齢に伴い低下4)し,死亡率・転倒発生率の増加,入院状態への移行等さまざまな有害事象をもたらす5)6)ことが報告されている。要介護認定高齢者においても,日常生活活動能力の低下に関連する運動機能として歩行速度が7)報告されており,歩行機能が低下している要介護認定高齢者の歩行機能の維持・改善に向けた介入の必要性は高いといえる。
歩行動作中などに必要とされる姿勢制御においては,視覚・聴覚・触覚といったさまざまな感覚情報を統合して処理することが重要8)とされている。しかしながら,加齢に伴い感覚受容器数の減少を原因として体性感覚の低下をもたらす8)とされ,その結果として,歩行中の転倒リスクの増大につながっていることが報告されている9)。そして,このような加齢に伴う感覚機能の低下により生じた歩行機能の低下を改善するために,視覚・聴覚・触覚刺激によるフィードバック(Feedback:以下,FB)を用いた介入が効果的であることが報告されている。先行研究では視覚刺激や聴覚刺激を用いた報告10)11)が散見されていたが,振動触覚刺激は,聴覚や視覚からの影響を受けにくく,基本的な機能を妨げることなく追加情報の提供が可能となることから12),振動触覚FBを用いた介入の有効性が報告されてきている。
振動触覚FBを用いた先行研究として,Yasudaら13)は健常高齢者に対し,歩行中に振動触覚FBを行った結果,踵接地時の足関節背屈角度,蹴り出し時の前足部足底圧,ストライド長の改善をもたらしたと報告している。しかしながら,これまでに歩行機能の維持・改善が必要とされる要介護認定高齢者に対する振動触覚FBの効果について検討した報告は見当たらずその効果は明らかでない。また,健常高齢者や脳卒中患者を対象とした先行研究13)14)においても振動触覚FBシステム使用中の即時的な効果検証にとどまっている報告が多く,継続的に介入を行った際の効果については不明である。
そこで本研究は,今後の無作為化対照試験実施に向けて要介護認定高齢者に対する振動触覚FBを用いた歩行練習の実施可能性や治療効果を事前に把握することを目的にパイロットスタディとして検証することを目的とした。
対象は,Hertzog15)が報告しているパイロットスタディに必要とされる対象人数を参考に要支援・要介護認定を受け苑田会ニューロリハビリテーション病院(以下,当院)のデイケアを利用している利用者10名とした。包含基準は,Functional Ambulation Categoriesにて分類3もしくは4に該当する者とした。除外基準は,振動触覚刺激の感知が困難な者,Brunnstrom Stageにおいて下肢stageIII以下の者,改訂長谷川式簡易知能評価スケールが20点未満の者,主疾患に加え歩行に影響及ぼす重篤な併存疾患を有する者とし,今回使用したFBシステムでは,左右同じサイズのシューズの着用が必須であったため,下肢装具を使用している者も除外した。
2. 方法今回,使用機器として振動触覚FBシステムArbre(株式会社レクア社製)を使用した。Arbreは足圧センサーを搭載したインソール付きのシューズ,振動ベルト,タブレットの3点で構成されている(図1)。シューズのインソールには母趾・母指球・小指球・踵の4点に対称的に足圧センサーが搭載されており,振動ベルトは左右の上前腸骨棘と上後腸骨棘の周辺に4つの振動刺激装置を配置し,インソールの足圧情報を感知することにより,振動ベルトが足圧に応じた振動をリアルタイムで対象者に呈示することが可能となる機器である。例として,左側踵接地時に踵骨部のセンサーで感知された足圧情報は即時的に左側の上後腸骨棘周辺の振動刺激装置へ送られ,踵接地の有無や荷重量が対象者に振動触覚刺激としてFBされる。タブレットは,歩行中の足圧情報がリアルタイムで表示されることにより歩容の見える化が可能となり,歩行中の足底圧の測定ができるようになるため,過去のデータを用いた経時的変化の確認や対象者へのFB,治療介入の条件設定に使用可能である。また,タブレット上にて刺激方法のモード変更も可能であり,センサーで一定の足圧を感知した際に振動刺激が行われる「通常モード」,足圧センサーで感知した足圧の強さに対応して振動刺激の強さが変化する「リニアモード」などの対象者に合わせたモード選択ができる機器である。

写真は著者撮影.
介入方法は,先行研究16)の介入時間を参考にし対象者の易疲労性も考慮して,デイケア利用中の90分のうち,理学療法士の付き添いのもと振動触覚FBシステムによる歩行練習を5分間1セットとして4セット,合計20分間実施した。その他の時間は筋力増強練習・自転車エルゴメーターによる有酸素運動を中心に実施した。介入頻度は週2回で,介入期間は4週間実施した。なお,非デイケア利用日については通常通りの生活を行うように依頼し,自宅でのセルフエクササイズ等も介入前と同様に実施するように指導した。歩行練習の前には,接地方法と骨盤帯に伝わる振動が対応していることを認識するために,足底接地と振動の対応関係を書面にて説明した後,振動触覚FBシステムを装着したうえで踵接地からつま先離地までの一連の流れを行い,その際に感じる刺激が対応していることを認識してもらった。歩行練習中はタブレット上にリアルタイムで表示される足圧情報を確認し適宜FBを行いながら実施した。振動触覚FBシステムの刺激条件は,障害側の踵接地時と蹴り出し時に刺激が生じるように設定し,刺激モードは足圧センサーで感知する足圧の強弱に応じて振動刺激の強さも変化する,リニアモードに設定し歩行練習を実施した。
3. 評価項目基本属性として年齢,性別,主病名,発症もしくは受傷から介入開始日までの経過期間,要介護度を診療録の情報より調査した。
歩行機能の評価としては,歩行速度,ケイデンス,ストライド長,1歩行周期中の障害側の各期の割合(立脚期,遊脚期,荷重応答期,片脚支持期,両脚支持期)を測定した。また,地域在住高齢者において,歩行に対する自己効力感は歩行速度などの運動機能や生活空間と有意な相関を示す17)ことが報告されており,その心理的側面の評価を実施することは重要と考えられる。そこで本研究では,歩行に対する自己効力感の評価として,日本語版-改定Gait Efficacy Scale(以下,日本語版mGES)17)を評価した。1歩行周期中の各期の割合の評価には,三次元動作解析装置myo MOTION(ノラクソン社製)を使用し,対象者には15 mの歩行路で最大速度による歩行を実施してもらい,最初の3歩行周期を省いた4歩行周期目から10歩行周期分の平均値を算出した。評価項目の測定は,介入前後の2回実施した。
なお,本研究において三次元動作解析装置は,歩行周期中の各期の割合を評価するために使用したが,関節角度の算出は行わなかった。これは,当院の計測環境において関節角度の算出までを含むセンサーの準備が困難であったこと,対象者の疾患割合が均等でなく,下肢に関節可動域制限を有する者も含まれており,関節角度の評価に対する再現性および信頼性が不十分と判断したことによる。そのため本研究では三次元動作解析装置による歩行周期中の各期の比率の算出を優先して評価した。
4. 統計解析統計解析は,基本属性は記述統計による分析を実施した。歩行機能の評価に対しては,正規性の検定としてShapiro-Wilk検定,等分散性の検定としてF検定を実施し正規性と等分散性を確認した後,各評価項目の介入前後における2群の平均値の比較として対応のあるt検定を実施した。統計解析にはR version 4.1.2を使用し,有意水準は,5%未満とした。
5. 倫理的配慮対象者には,事前に研究目的,研究方法,参加者に起こり得る不利益とその対応等を書面にて説明し同意を得たうえで研究を行った。また,本研究は,苑田会倫理審査委員会の承認(承認番号:第182号)を得て行った。
対象者の基本属性については表1に,介入前後の歩行機能の各評価項目の測定結果は表2に示した。
| 年齢(歳) | 79.3±7.1 | |
| 性別 | 男性(名) | 3 |
| 女性(名) | 7 | |
| 主病名 | 運動器疾患(名) | 7 |
| 脳血管疾患(名) | 3 | |
| 発症/受傷からの経過(月) | 30.3±23.0 | |
| 要介護度 | 要支援2(名) | 4 |
| 要介護1(名) | 4 | |
| 要介護2(名) | 2 | |
| 介入前 | 介入後 | p値 | ||
|---|---|---|---|---|
| 歩行速度(m/秒) | 0.91±0.18 | 1.00±0.15 | p<0.05 | |
| ケイデンス(歩/分) | 119.5±12.8 | 118.4±9.10 | n.s | |
| ストライド長(cm) | 46.0±8.50 | 51.2±5.70 | p<0.05 | |
| 1歩行周期中の割合 | 立脚期(%) | 63.05±2.29 | 61.12±1.66 | p<0.05 |
| 遊脚期(%) | 36.95±2.29 | 38.88±1.66 | p<0.05 | |
| 荷重応答期(%) | 13.32±3.00 | 12.69±2.23 | n.s | |
| 片脚支持期(%) | 37.70±2.89 | 36.95±2.68 | n.s | |
| 両脚支持期(%) | 25.63±4.75 | 24.15±3.54 | n.s | |
| 日本語版-改定Gait Efficacy Scale(点) | 48.9±23.5 | 65.7±20.7 | p<0.05 | |
有意水準:p<0.05.n.s: not significant.
介入前と比較し介入後では,歩行速度(m/秒)は0.91±0.18から1.00±0.15(p=0.010)と有意に速くなり,ストライド長(cm)も46.0±8.50から51.2±5.70(p=0.008)と有意に延長した。1歩行周期中の障害側の各期の割合(%)については,立脚期が63.05±2.29から61.12±1.66(p=0.003)と有意な短縮,遊脚期が36.95±2.29から38.88±1.66(p=0.003)と有意な延長を認めたが,その他については有意差を認めなかった。日本語版mGES(点)については,48.9±23.5から65.7±20.7(p=0.003)と介入後に有意な点数の増大が認められた(表2)。
なお,本研究期間中,全対象者は休みなく継続してデイケアを利用し,介入による有害事象も確認されなかった。
今回,要介護認定高齢者に対する歩行練習中の振動触覚FBの効果について検証した。その結果,歩行速度,ストライド長,1歩行周期中の立脚期割合,遊脚期割合に有意な改善を認め,歩行機能の改善をもたらすことが認められた。また,日本語版mGESにも有意な改善を認め,歩行に対する自己効力感についても改善をもたらすことが認められた。
歩行速度,ストライド長の改善をもたらした要因としては,振動触覚FBシステムを使用した歩行練習によって踵接地時の客観的情報がリアルタイムかつ頻回にFBされたことによって,踵接地時と蹴り出し時の適切な足部の運動の学習が促通され,足関節ロッカー機能が強調されたことによって歩行機能の改善がもたらされたと考えられる。
健常者を対象とした先行研究において適切な足部の動きは歩行中の衝撃吸収に寄与し,身体を前方へ推進させることを可能にする18)と報告されており,歩行機能の改善には踵接地から生じる足関節ロッカー機能が適切に機能することが重要となる。しかしながら,高齢者の歩行の特徴として,若年者と比較して踵接地時の足関節背屈角度や,プッシュオフ時の蹴り出しが減少すると報告19)されている。また,1歩行周期中の足底圧を若中年者と高齢者で比較すると,若中年者は踵接地時と蹴り出しに足底圧が高まり明らかな二峰性を示したのに対し,高齢者では二峰性が示されなかったと報告されている20)。つまりは,高齢者の歩行の特徴として足底全面接地傾向であるため足関節ロッカー機能が働きづらい状態となっていると考えられる。本研究において,踵接地時の足関節背屈角度の評価は未実施であるが本研究の対象者においても先行研究19)と同様に踵接地時の足関節背屈角度は少なく,足底全面接地の傾向を示していたものと推測される。このような状態に対しては,適切な踵接地を学習させることが重要となり,効果的な運動学習を促すためにはリアルタイムかつ頻回なFBが必要であると報告21)されている。今回使用した振動触覚FBシステムは,足底接地時の情報を歩行練習中にリアルタイムかつ頻回にFBすることが可能であったと考えられる。また,健常高齢者を対象にした報告であるがYasuda ら13)は歩行中のリアルタイム振動触覚FBにより,踵接地時の足関節背屈角度,蹴り出し時の前足部足底圧,ストライド長の改善をもたらしたと報告しており,要介護認定高齢者においても同様に踵接地から蹴り出しまでが強調され適切な踵接地に伴う足関節ロッカー機能の運動学習により歩行速度,ストライド長の改善が得られたと考えられる。
1歩行周期中の立脚期割合の減少について,小澤ら22)は歩行速度を増加させる要因として立脚期の短縮を報告しており,本研究においても歩行速度の有意な増加を認めていることから,立脚期割合は歩行速度の増加に伴い減少したものと考えられる。遊脚期割合の増加については,先行研究において健常高齢者の歩行練習中に足底の接地情報を振動触覚としてFBすることでストライド長が有意に延長することが報告されている10)。本研究においてもストライド長の増加を認めており,遊脚期割合はストライド長の増加に伴い増大したものと考えられる。さらに,立脚期割合,遊脚期割合ともに介入前と比較し介入後には一般的に正常と報告されている歩行周期の割合23)に近づいており,効率的な歩行を獲得し歩行機能の改善が得られたものと考えられる。
日本語版mGESについては,地域在住高齢者の歩行速度の増大と正の相関関係にあることが報告17)されており,本研究の結果も歩行速度,日本語版mGESともに有意な改善を認めており先行研究と同様に歩行機能の改善に伴い,歩行に対する自己効力感の改善につながったものと考えられる。加えて,日本語版mGESは生活空間や身体活動量の指標として用いられているlife-space assessmentとも正の相関を示す17)ことが報告されており,本研究の結果から,生活空間の拡大や身体活動量の向上が推測される。要介護認定高齢者においては,生活空間の拡大や身体活動量の増加は要介護度の重症化予防にも関与するため,社会的意義の高い結果であったと考えられる。
本研究の結果,歩行速度はPereraら24)が報告した臨床的に意義のある最小変化量0.05 m/秒を上回る結果が示され,要介護認定高齢者に対する歩行練習中の振動触覚FBシステムの使用は,歩行機能の改善に有効である可能性が示唆された。本研究では,歩行機能と歩行に対する自己効力感の改善を認め,生活空間の拡大や身体活動量の向上が予測されるもののこれらの評価は実施しておらず推測にとどまっている。本研究で得られた平均値と標準偏差に基づき,効果量を算出すると0.54と算出された。今後は,本研究で得られた結果をもとに,実行可能性も考慮したサンプルサイズを設定し,大規模集団での無作為化対照試験を実施することで要介護認定高齢者に対する歩行練習中の振動触覚FBシステムを用いた介入の効果検証を行っていきたいと考える。
本研究では,振動触覚FBシステムを用いた歩行練習が要介護認定高齢者の歩行機能にもたらす影響を検討した。その結果,歩行速度は有意に速くなり,ストライド長も有意に延長した。また,1歩行周期中の立脚期割合,遊脚期割合の有意な変化を認め歩行機能の改善を認めた。さらに,日本語版mGESも有意に改善し歩行に対する自己効力感についても改善を認め,歩行練習中の振動触覚FBシステムの使用に関して一定の効果があることが確認された。今後は,大規模集団での無作為化対照試験を実施し有効性の検証を行っていきたい。
本研究にご協力いただいた対象者様,ご指導をいただいた先生方に深謝する。
開示すべき利益相反はない。