2026 Volume 53 Issue 4 Pages 256-263
【目的】本研究は血栓回収療法を施行した急性期虚血性脳卒中患者におけるせん妄の発症率,リスク因子および改善に関連する因子を検証することを目的とした。【方法】2019~2023年に旭川赤十字病院で治療を受けた247名を対象とした単施設後方視的研究である。解析には,多重ロジスティック回帰分析および重回帰分析を実施した。【結果】せん妄発症率は25.5%であった。解析の結果,年齢,ベンゾジアゼピン系薬剤の使用,夜間不眠が独立したリスク因子として特定された。また,Thrombolysis in Cerebral Infarction (TICI)スコアおよびリハビリテーション(以下,リハ)実施時間が,せん妄の改善に関連する可能性がある因子として抽出された。【結論】血栓回収療法後の急性期虚血性脳卒中患者では,せん妄の発症率は25.5%であり,年齢,ベンゾジアゼピン系薬剤の使用,夜間不眠がせん妄の発症と関連していた。一方,良好な再灌流の達成とリハ実施時間の確保は,せん妄の改善に関連する可能性が示唆された。
Objective: To investigate the incidence, risk factors, and duration-associated factors of delirium after mechanical thrombectomy for acute ischemic stroke.
Methods: This single-center retrospective study included 247 patients who underwent mechanical thrombectomy at our institution between 2019 and 2023. Multivariable logistic and linear regression were performed to identify the risk factors and factors associated with the duration of delirium, respectively.
Results: In this cohort, the incidence of delirium was 25.5%. Older age, benzodiazepine use, and nocturnal insomnia were identified as independent risk factors for delirium. The Thrombolysis in Cerebral Infarction (TICI) score and daily rehabilitation duration were identified as factors that were potentially associated with delirium.
Conclusion: Delirium occurred in 25.5% of patients who underwent mechanical thrombectomy after acute ischemic stroke, and was associated with older age, benzodiazepine use, and nocturnal insomnia. In contrast, successful reperfusion and longer rehabilitation duration were potentially associated with delirium among these patients.
脳卒中は,世界における死因の第2位であり1),日本においては死因の第4位を2),介護が必要な疾患の第2位を占める3)。この脳卒中の病型の一つである虚血性脳卒中(Ischemic Stroke:以下,IS)は,脳卒中全体の74%と大半を占めている4)。
急性期ISにおいて,せん妄の発症率は14.8~23%と少なくない5–9)。せん妄は,機能的転帰や入院期間,退院時転帰先,死亡率などのさまざまなアウトカムに悪影響を及ぼすことが知られている5)8–13)。このため,せん妄の発症リスクが高い患者に対しては,早期から予防的に介入することが重要であり,せん妄が出現した場合には,早期の治療が求められる。
ISにおけるせん妄発症のリスク因子を検討した先行研究では,年齢,既往の脳卒中・心疾患・末梢血管疾患・認知症,脳卒中の重症度,感染症など5)7–9)が報告されている。一方,せん妄治療に関連する因子については,早期離床や認知機能への関与,心理的後遺症のフォローアップなどが推奨されている14)15)。
急性期ISの治療として,血管内にカテーテルを挿入し,血栓を取り除いて血流を再開通させる血栓回収療法が,大血管閉塞患者の第一選択治療として広く受け入れられている。この血栓回収療法は,保存療法と比較し機能的転帰は良好であり,死亡率が軽減するなど,アウトカムに好影響を与えることが報告されている16–20)。
血栓回収療法の治療効果は,Thrombolysis in Cerebral Infarction(以下,TICI)を用いて評価され,TICIスコアが高いほど血流の再灌流が良好であることを示す。そのため,TICIスコアが高い患者はISの影響が最小限に抑えられ,合併症やせん妄の発症リスクも低減する可能性がある。さらに,TICIスコアが高いことに加え,早期離床が行われることで,両者の相互作用により,せん妄予防や改善に相乗効果をもたらす可能性がある。
ISの治療に伴う合併症は,腸や膀胱の機能障害,不眠,肺炎,尿路感染症などが報告21)22)されているのに対し,血栓回収療法では,これらの合併症に加え,カテーテル刺入部合併症や血管攣縮,症候性脳内出血,くも膜下出血,新たな血管領域への塞栓,手術による疼痛やストレスなど,多様な合併症が起こる可能性が示唆されている23–25)。これらの合併症予防のため,術後には短時間だが安静や観察が必要となり,鼠径部穿刺例では股関節運動が制限される。また,収縮期血圧は患者の病態に応じて調整された個別化管理が行われる26)。さらに,手術では麻酔や造影剤の使用を伴うことが多く,これらの薬剤の影響もせん妄発症に影響する可能性がある。このように,血栓回収療法は保存療法とは異なる特徴を有することから,せん妄の発症率やリスク因子,改善に関連する因子も異なると考えられる。
しかし,血栓回収療法を実施した急性期IS患者に限定して,せん妄の発症率やリスク因子に焦点を当てた報告は限られており27),せん妄の改善に関連する因子について検討した研究は見当たらない。さらに,再灌流の達成度を示すTICIスコアや急性期リハビリテーション(以下,リハ)における早期離床といった治療関連因子,ならびにそれらの相互作用がせん妄に与える影響を検討した報告も存在しない。
そこで,本研究では血栓回収療法を実施した急性期IS患者におけるせん妄の発症率やリスク因子,改善に関連する因子を検証することを目的とした。特に,離床の有無とTICIの効果およびその相乗効果に着目した。これらを明らかにすることで,血栓回収療法を行った患者におけるせん妄の予防や改善に関連する因子が明らかとなり,より効果的な介入戦略の構築に寄与することが期待される。
研究デザインは,単施設後方視的研究とした。本研究は旭川赤十字病院倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:第202436-2号)。研究の同意取得は旭川赤十字病院(以下,当院)ホームページにてオプトアウトを行った。
2. 対象者2019年1月から2023年12月にかけて,当院で血栓回収療法を実施した急性期IS患者を対象とし,欠損データがある者,7日間以内に死亡した者を除外した。
3. 研究手順本研究では,当院における発症から1週間の経過,当院退院時のアウトカムについて診療録から収集した。発症から1週間の経過とした理由は,当院の全入院患者の平均在院日数が約11日であり,この在院日数を考慮したためである。
4. 調査項目調査項目は,患者背景,血栓回収療法に関連する臨床指標,服薬状況,リハ開始時の評価結果,リハの実施状況,全身状態の評価,生活状況,アウトカムとした。
患者背景については,年齢,性別,入院時の病巣部位(前方循環系,後方循環系),発症前modified Rankin Scale (mRS),既往の脳卒中の有無,心疾患の有無,末梢血管障害の有無および認知症の有無を調査した。
血栓回収療法に関連する臨床指標ついては,医師が評価した搬送時National Institutes of Health Stroke Scale(以下,NIHSS)およびAlberta Stroke Programme Early CT Score (ASPECTS),TICI,搬送から再開通までの時間を調査した。なお,TICIスコアは2a,2bを含む5段階の尺度であるため,本研究では各段階に1~5の数値を割り当てて順序尺度として取り扱った。
服薬状況については,発症から7日目までのベンゾジアゼピン系薬剤使用の有無(ミダゾラム®[ドルミカム],セルシン®[ジアゼパム],リーゼ®[クロチアゼパム]),向精神薬使用の有無(サイレース®[フルニトラゼパム錠],リスパダール®[リスペリドン]),不眠症治療薬の使用の有無(オレキシン受容体拮抗薬(デエビゴ®[レンボレキサント],ベルソムラ®[スボレキサント]),メラトニン受容体作動薬の使用の有無(ロゼレム®[ラメルテオン])を調査した。
リハ開始時の評価結果については,理学療法士が評価したリハ開始時のJapan Coma Scale(以下,JCS)およびBarthel Index (BI)を調査した。なお,JCSは意識清明を0とした10段階の評価尺度であるため,本研究では各段階に0~9の数値を割り当てて,順序尺度として取り扱った。
リハの実施状況については,発症から7日目までのリハ総実施時間/日および離床の有無,歩行練習の有無を調査した。本研究では,発症から7日以内に離床が実施されたか否かを評価した。離床開始までの日数を指標とした場合,観察期間内に離床へ至らなかった症例が一定数存在するため,これらの症例を除外して解析した場合,せん妄発症リスクの高い重症例が除外され,選択バイアスが生じる可能性がある。そのため,本研究では離床開始時期ではなく,離床の有無を評価項目として採用した。なお,ここでの離床とは,ベッド上での頭部挙上のみではなく,端座位以上の活動(端座位,立位,歩行など)を含むものと定義した。
全身状態の評価については,リハ開始時のC-reactive Protein値,発症から7日目までの感染症の有無を調査した。
生活状況については,発症から7日目までの尿失禁の有無,夜間不眠の有無を調査した。
アウトカムについては,メインアウトカムとして発症から7日目までのせん妄の有無を調査し,サブアウトカムとして,発症から7日間のうちにせん妄が出現した日数を調査した。せん妄については,日本版Intensive Care Delirium Screening Checklist(以下,ICDSC)を用いて看護記録から理学療法士7名が評価した。ICDSCスコア4点以上をせん妄ありと判定した。このICDSCは記録物から後方視的にせん妄評価が可能なツールである28)。
5. 解析せん妄を発症した群(以下,せん妄あり群)とせん妄を発症しなかった群(せん妄なし群)の特徴や患者属性の違いを示すために,質的変数の比較はFisherの正確確率検定を,量的変数の比較は,Shapiro-Wilk検定にて正規分布に従う変数にはt検定を,従わない変数にはMann-Whitney U検定を用い分析した。
せん妄のリスク因子を抽出するため,アウトカムならびに,せん妄発症後に使用される向精神薬および睡眠薬の使用の有無を除いた全変数を独立変数とし,せん妄の有無(せん妄あり:1,せん妄なし:0)を従属変数とした強制投入法による多重ロジスティック回帰分析を実施した。多重ロジスティック回帰分析では,回帰モデルにおけるそれぞれの項目のオッズ比,95%信頼区間(95% Confidence Interval:以下,95%CI),モデル全体の判別的中率を算出し,モデルの適合判定に関してHosmer-Lemeshow検定を用いた。
さらに,せん妄の改善に関連する因子を検討するため,せん妄あり群のみを対象とした分析を行った。本研究では,発症から7日間におけるせん妄出現日数をせん妄改善の指標として用い,せん妄出現日数が少ないほど改善しているものと解釈した。この指標を従属変数として,せん妄のリスク因子として抽出された変数を共変量として投入し,せん妄の改善に関連する可能性がある因子(向精神薬使用の有無,不眠症治療薬使用の有無,リハ実施時間/日,離床の有無,歩行練習実施の有無)を独立変数としたステップワイズ法を用いた重回帰分析を実施した。本解析において,せん妄出現日数を患者ごとに集計した連続変数として扱い,ステップワイズ法による重回帰分析を用いて解析した。
せん妄出現日数は時間的に連続する傾向を有することから,当初はCox比例ハザードモデルの適用を検討した。しかし,1日だけ緩解した後に再度出現するなど断続的な経過を示す症例も認められ,単一のイベント時点を仮定する標準的なCox回帰の前提条件を満たさなかった。また,形式的にはカウントデータとも解釈しうるためPoisson回帰や負の二項回帰も検討したが,せん妄は一度発症すると数日間持続することが多く,事象がランダムかつ独立に発生するという仮定に整合しないことから,これらのモデルの適用は見送った。
なお,重回帰分析においてステップワイズ法を用いた理由は,解析対象をせん妄あり患者に限定したことでサンプルサイズが減少し,モデルの過学習が生じる可能性を考慮したためである。
重回帰分析では,各項目の偏回帰係数,標準偏回帰係数(β),モデルの寄与率および自由度調整済み寄与率を算出した。また,回帰モデルの前提条件として,残差の独立性をDurbin-Watson比にて確認し,正規性をヒストグラムおよび正規P-Pプロットにより視覚的に確認した。さらに,線形性および等分散性については,標準化残差を縦軸,標準化予測値を横軸とした残差プロットにより評価した。
本研究では,離床の有無とTICIのそれぞれの効果に加えて,これらの併用による相乗効果を検証するために,離床の有無とTICIの交互作用項(離床の有無×TICI)を作成し,多重ロジスティック回帰分析および重回帰分析の両モデルに投入した。
なお,多重共線性の影響を考慮するため,多変量解析前にVariance Inflation Factor(以下,VIF)および相関行列を求め,VIFが10以上または相関係数の絶対値が0.7以上の場合,該当する変数を除外し,臨床的に有意義と考えられる変数を採用し検定を行った。特に主効果と交互作用項の間の相関が高くなる可能性があるため,必要に応じて主効果の変数は中心化処理を行った上で交互作用項を作成した。
以上の解析はIBM SPSS Statistics version25.0を用い,有意水準を5%とした。
サンプルサイズは230名以上とした。これは,本研究では,せん妄のリスク因子を多重ロジスティック回帰分析で検証するが,多重ロジスティック回帰分析では,独立変数の数の10倍のサンプルサイズが必要であること29)から,23個の独立変数を調査する本研究においては,230名以上のサンプルサイズが適当であると考えられたためである。
図1に対象患者組み入れまでの流れを示す。2019年1月から2023年12月までに当院に入院し,血栓回収療法を実施した急性期IS患者264名のうち,除外基準に該当した17名を除外し,最終的に247名を解析対象とした。

解析対象者におけるせん妄発症率は25.5%であり,せん妄あり群63名,せん妄なし群184名であった。
表1にせん妄の有無による患者属性の比較結果を示す。せん妄あり群は,せん妄なし群と比較し,年齢は高く(p=0.010),認知症の既往を有する者が多く(p=0.002),尿失禁を認めたものが多く(p=0.045),夜間不眠を認めたものが多かった(p<0.001)。
| 調査項目 | せん妄あり(n=63) | せん妄なし(n=184) | p |
|---|---|---|---|
| 患者背景 | |||
| 年齢(歳) | 81.0 [75.0–85.0] | 78.0 [70.3–84.0] | 0.010 |
| 性別,男:女 | 38 (60.3) : 25 (39.7) | 94 (51.1) : 90 (48.9) | 0.205 |
| 入院時病巣部位,前方循環:後方循環 | 52 (82.5) : 11 (17.5) | 167 (90.8) : 17 (9.2) | 0.760 |
| 発症前mRS | 0.0 [0.0–1.0] | 0.0 [0.0–1.0] | 0.456 |
| 既往の脳卒中,有:無 | 21 (33.3) : 42 (66.7) | 52 (28.3) : 132 (71.7) | 0.446 |
| 既往の心疾患,有:無 | 26 (41.3) : 37 (58.7) | 89 (48.4) : 95 (51.6) | 0.330 |
| 既往の末梢血管障害,有:無 | 2 (3.2) : 61 (96.8) | 13 (7.1) : 171 (92.9) | 0.367 |
| 既往の認知症,有:無 | 12 (19.0) : 51 (81.0) | 11 (6.0) : 173 (94.0) | 0.002 |
| 血栓回収療法に関連する臨床指標 | |||
| 搬送時NIHSS | 18.0 [13.0–22.0] | 18.0 [12.0–23.0] | 0.976 |
| ASPECTS | 8.0 [6.0–9.0] | 8.0 [6.0–9.0] | 0.766 |
| TICI | 4.0 [3.0–5.0] | 4.0 [3.0–5.0] | 0.864 |
| 搬送から再開通までの時間 | 116.0 [96.0–140.0] | 117.5 [91.3–145.0] | 0.932 |
| 服薬状況(発症から7 日目まで) | |||
| ベンゾジアゼピン系薬剤使用,有:無 | 18 (28.6) : 45 (71.4) | 15 (8.2) : 169 (91.8) | <.001 |
| リハ開始時の評価結果 | |||
| JCS | 4.0 [2.0–5.0] | 3.0 [2.0–4.0] | 0.253 |
| BI | 0.0 [0.0–5.0] | 0.0 [0.0–10.0] | 0.145 |
| リハの実施状況(発症から7日目まで) | |||
| リハ総実施時間(分)/日 | 60.0 [40.0–73.3] | 60.0 [43.3–76.7] | 0.468 |
| 離床,有:無 | 57 (90.5) : 6 (9.5) | 157 (85.3) : 27 (14.7) | 0.300 |
| 歩行練習,有:無 | 35 (55.6) : 28 (44.4) | 107 (58.2) : 77 (41.8) | 0.719 |
| 全身状態の評価 | |||
| リハ開始時のCRP値 | 0.747 [0.355–1.561] | 0.611 [0.234–1.607] | 0.322 |
| 感染症,有:無 | 6 (9.5) : 57 (90.5) | 29 (15.8) : 155 (84.2) | 0.221 |
| 生活状況(発症から7日目まで) | |||
| 尿失禁,有:無 | 40 (63.5) : 23 (36.5) | 90 (48.9) : 94 (51.1) | 0.045 |
| 夜間不眠,有:無 | 34 (54.0) : 29 (46.0) | 40 (21.7) : 144 (78.3) | <.001 |
| アウトカム | |||
| せん妄日数 | 2.0 [1.0–4.0] | 0.0 [0.0–0.0] | <.001 |
mRS: modified Rankin Scale, NIHSS: National Institutes of Health Stroke Scale, ASPECTS: Alberta Stroke Program Early CT Score, TICI: Thrombolysis in Cerebral Infarction, JCS: Japan Coma Scale, BI: Barthel Index, CRP: C-reactive Protein.
多変量解析に先立ち,多重共線性の確認を行った。その結果,TICI×離床の有無の交互作用項においてVIFが10を超えており,多重共線性の影響が懸念された。そこで,TICIの中心化処理を行った上で,再度交互作用項を作成したところ,すべてのVIFは1~2程度に収まり,多重共線性の問題は解消されたことが確認された。
3. せん妄発症のリスク因子表2にせん妄発症のリスク因子をロジスティック回帰分析にて検証した結果を示す。ロジスティック回帰分析の結果,年齢(オッズ比1.060,95%CI 1.014–1.108, p=0.010),ベンゾジアゼピン系薬剤の使用の有無(オッズ比7.114,95%CI 2.668–18.971, p<0.001),夜間不眠の有無(オッズ比3.652,95%CI 1.694–7.870, p=0.001)が有意なリスク因子であることが示され,Hosmer-Lemeshow検定はp=0.132と問題はなく,判別的中率は80.2%であった。
| 関連因子 | 偏回帰係数 | p値 | オッズ比 | 95%信頼区間 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 下限 | 上限 | ||||
| 年齢 | 0.058 | 0.010 | 1.060 | 1.014 | 1.108 |
| 性別 | −0.616 | 0.112 | 0.540 | 0.253 | 1.153 |
| 発症前mRS | 0.013 | 0.942 | 1.013 | 0.719 | 1.427 |
| 搬送時NIHSS | −0.034 | 0.276 | 0.967 | 0.910 | 1.027 |
| 病巣部位 | 0.678 | 0.235 | 1.970 | 0.643 | 6.031 |
| ASPECTS | −0.132 | 0.108 | 0.876 | 0.746 | 1.030 |
| TICI | 0.818 | 0.132 | 2.266 | 0.781 | 6.575 |
| 搬送から再開通までの時間 | 0.005 | 0.113 | 1.005 | 0.999 | 1.011 |
| 脳卒中の既往の有無 | 0.531 | 0.192 | 1.700 | 0.766 | 3.774 |
| 心疾患の既往の有無 | −0.488 | 0.190 | 0.614 | 0.296 | 1.274 |
| 末梢血管障害の既往 | −1.092 | 0.259 | 0.336 | 0.050 | 2.234 |
| 認知症の既往の有無 | 0.639 | 0.265 | 1.895 | 0.617 | 5.824 |
| ベンゾジアゼピン系薬剤の使用の有無 | 1.962 | <.001 | 7.114 | 2.668 | 18.971 |
| リハ開始時のCRP値 | 0.001 | 0.778 | 1.001 | 0.997 | 1.004 |
| 感染症の有無 | −1.127 | 0.068 | 0.324 | 0.097 | 1.085 |
| リハ開始時JCS | 0.064 | 0.597 | 1.066 | 0.840 | 1.353 |
| 離床(端座位)の有無 | 0.057 | 0.934 | 1.058 | 0.274 | 4.085 |
| 歩行練習の有無 | 0.128 | 0.779 | 1.136 | 0.467 | 2.767 |
| リハ実施時間(分)/日 | −0.006 | 0.522 | 0.994 | 0.978 | 1.012 |
| リハ開始時BI | −0.004 | 0.754 | 0.996 | 0.974 | 1.019 |
| 尿失禁の有無 | 0.419 | 0.290 | 1.521 | 0.700 | 3.305 |
| 夜間不眠の有無 | 1.295 | 0.001 | 3.652 | 1.694 | 7.870 |
| 離床の有無×TICI | −0.736 | 0.190 | 0.479 | 0.160 | 1.438 |
Hosmer-Lemeshow検定:p=0.132,判別的中率:80.2%.
mRS: modified Rankin Scale, NIHSS: National Institutes of Health Stroke Scale, ASPECTS: Alberta Stroke Program Early CT Score, TICI: Thrombolysis in Cerebral Infarction, CRP: C-reactive Protein, JCS: Japan Coma Scale, BI: Barthel Index.
表3にせん妄の改善に関連する因子を重回帰分析にて検証した結果を示す。この分析では,せん妄発症のリスク因子であった年齢,ベンゾジアゼピン系薬剤の使用の有無,夜間不眠の有無を共変量として投入し,せん妄の改善に関連する可能性が考えられる因子を加えて検討した。その結果,リハ実施時間(β=−0.313, p<0.013),TICI (β=−0.284, p<0.023)が,せん妄の改善に関連する因子として抽出され,自由度調整済R2は0.115であった。残差の独立性については,Durbin-Watson比が1.96であり,自己相関は認められなかった。残差の分布はヒストグラムおよび正規P-Pプロットにおいておおむね正規分布に近い形状を示した。また,標準化残差と標準化予測値を用いた残差プロットでは,残差は0付近にランダムに分布しており,線形性および等分散性が良好に保たれていた。
| 関連因子 | B | β | t値 | p値 |
|---|---|---|---|---|
| TICI | −0.425 | −0.284 | −2.335 | 0.023 |
| リハ実施時間 | −0.026 | −0.313 | −2.565 | 0.013 |
B:偏回帰係数,β:標準偏回帰係数.R2:0.144,自由度調整済R2:0.115.
TICI: Thrombolysis in Cerebral Infarction.
本研究では,血栓回収療法を実施した急性期IS患者における,せん妄の発症率,リスク因子,ならびに改善に関連する因子について検討した。その結果,せん妄の発症率は25.5%であり,リスク因子としては年齢,ベンゾジアゼピン系薬剤の使用の有無,夜間不眠の有無が,改善に関連する因子としてはリハ実施時間およびTICIスコアが抽出された。
急性期ISにおけるせん妄の発症率およびリスク因子に関する先行研究では,発症率は14.8~23.0%と報告されており5–9),リスク因子としては高齢,ベンゾジアゼピン系薬剤の使用,不眠などが挙げられている5)30)。本研究でも,これらと同様の傾向が認められた。
本研究では,血栓回収療法患者はIS全般の患者とは異なる病態背景や治療経過をたどることから,せん妄の発症率やリスク因子も異なる可能性があると仮定して検討を行ったが,当初の仮説とは異なり,先行研究と類似した結果となった。この理由として,本研究の対象患者では血栓回収療法中に全身麻酔が使用されておらず,比較的低侵襲であったことが関係していると考えられる。先行研究においては,血栓回収療法中の全身麻酔がせん妄のリスク因子とされており27),本研究ではそのような侵襲的要因がなかったため,結果として一般的なIS患者と近いリスク因子の傾向となった可能性がある。
せん妄の改善に関連する因子に関する先行研究では,早期離床や環境調整,認知的介入などの非薬物的アプローチの有効性が報告されている14)。一方で,本研究では,リハ実施時間およびTICIスコアがせん妄の持続日数と有意に関連しており,これらは血栓回収療法実施患者に特有の因子であり,先行研究では検証されてこなかった新たな知見といえる。
本研究と先行研究との間で,せん妄の改善に関連する因子に違いがみられた理由の一つとして,血栓回収療法後に特徴的な管理上の特性と,血管内治療に特有の評価指標の影響が考えられる。特にリハ実施時間については,血栓回収療法後には術後の離床制限や安静指示といった管理基準が設けられることが多く,自然な活動量が制限される傾向にある。こうした特性を持つ患者においては,リハが日中の覚醒維持や身体的・認知的刺激を与える主要な非薬物的介入手段となりやすく,実施時間が長いほどその効果が反映された可能性がある。
また,血栓回収療法に特有の評価指標であるTICIについては,本研究において,スコアが高い症例ほどせん妄の持続日数が短い傾向が認められた。TICIスコアは再灌流の達成度を示す指標であり,良好な再灌流が神経学的回復や覚醒状態の早期改善につながることで,せん妄の遷延化を抑制した可能性がある。
一方で,TICIスコアはせん妄発症の独立したリスク因子としては抽出されなかった。本研究対象は搬送時NIHSS中央値が18と重症であり,術直後には再灌流が良好な症例であっても,急性神経症状が強く残存しており,せん妄が発症しやすい状態であった可能性がある。そのため,TICIはせん妄発症そのものよりも,発症後の回復過程を反映した可能性が考えられる。
さらに,本研究では,離床の有無の主効果と,離床の有無とTICIスコアの交互作用についても検討を行ったが,いずれも有意な関連は認められなかった。この理由として,せん妄の有無にかかわらず,ほとんどの症例が離床していたことが挙げられる(せん妄あり群90.5%,せん妄なし群85.3%)。このため,離床自体の主効果がせん妄の有無を分ける決定的な要因とはならず,TICIとの交互作用についても差が出なかったものと考えられる。
しかしながら,本研究により,リハ実施時間と再灌流の程度(TICIスコア)がせん妄の改善に関連する可能性が示唆されたことは,今後の研究や臨床実践において有意義である。
本研究の限界として,第一に,本研究は単施設後方視的研究であるため,一般化可能性および因果関係の解釈に限界があることに加え,アウトカム評価の精度低下を伴う可能性がある。特に,せん妄評価には看護記録を用いた後方視的なICDSCスコア判定を用いており,後方視的評価では感度低下が指摘されていることから31),せん妄を過小評価していた可能性がある。
第二に,せん妄に関連する因子として投入した変数は網羅的ではなく,ルート・モニター類装着状況,リハ実施時間以外の離床や活動量など,せん妄に影響しうる要因を十分に評価できていないため,残余交絡を否定できない。
第三に,本研究の主要関連因子であるリハ総実施時間,TICIスコアおよび夜間不眠の解釈には注意が必要である。リハ総実施時間については,介入内容や目的,強度の違いを区別して検討できていないため,どの介入要素がせん妄改善に寄与したのかを特定することはできない。また,軽症例ほど長時間の介入が可能であった可能性があり,重症度による交絡の影響も考えられる。TICIスコアについては,再開通が得られても脳虚血が進行する症例も存在するため,TICIスコアが必ずしも神経学的回復の程度を直接反映する指標ではない点に留意が必要である。さらに,夜間不眠については発症7日以内で評価しているため,夜間不眠とせん妄との時間的・因果的関係を明確にできていない。
今後の課題としては,多施設共同研究による外的妥当性の検証,前向き研究の実施による因果関係の明確化,およびリアルタイムでの客観的なせん妄評価方法の導入が挙げられる。また,残余交絡を排するため,ルート・モニター類の装着やリハ実施時間以外の活動量など,評価変数をさらに網羅化する必要がある。加えて,リハ実施内容や目的別に定量化し,TICIスコアを補完する血栓回収療法後のNIHSS,夜間不眠とせん妄の時間的経過の追跡により,せん妄に対する有効な介入要素を明らかにする必要がある。
本研究により,血栓回収療法を施行した急性期IS患者におけるせん妄の発症率は25.5%であり,年齢,ベンゾジアゼピン系薬剤の使用,夜間不眠が発症に関連する因子であることが示された。また,リハ実施時間およびTICIスコアは,せん妄の改善に関連する可能性がある因子として抽出された。これらの結果は,血栓回収療法後のせん妄管理における介入方針検討の一助となる可能性がある。
開示すべき利益相反はない。