Physical Therapy Japan
Online ISSN : 2189-602X
Print ISSN : 0289-3770
ISSN-L : 0289-3770
Practical Report
Earthquake Preparedness Workshop for People with Parkinson’s Disease
A Patient-centered, Multi-stakeholder Collaborative Approach
Tatsuya Iwabe Takuo NakamuraTomoko MatsudaMichio Yamashita
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2026 Volume 53 Issue 4 Pages 286-292

Details
要旨

【目的】本報告の目的は,パーキンソン病(Parkinson’s disease:以下,PD)当事者・家族,理学療法士,学生が協働する震災対策交流会の企画・実施を通じて得られた,当事者の経験に根ざした防災課題を整理すること,および参加動機と交流会後の意識変化の特徴を把握することである。【方法】PD当事者・家族,理学療法士,学生の計51名が参加した。講話の後,3テーマについてグループワークを実施し,得られた意見をKJ法による質的分析とKH Coderによるテキストマイニングで整理した。また,質問紙調査により,参加者の立場ごとの参加動機と交流会後の意識変化を比較した。【結果】グループワークからPD特有の防災課題として服薬管理の確保,症状の不可視性に伴う周囲の無理解,ストレスによる症状悪化への対応などが抽出された。質問紙調査では参加動機の質に立場による差異が認められ,交流会後には全群共通して防災意識の向上が自己報告された。【結論】多主体協働型の交流会は,当事者の経験知に基づく防災課題を抽出し,参加者の共通認識の形成に寄与する可能性が示唆された。

はじめに

近年,日本では大規模地震や気象災害が頻発しており,災害時要配慮者への支援体制の構築が喫緊の課題となっている。2018年の北海道胆振東部地震では,日本初の全域停電(ブラックアウト)により約295万戸が最大約45時間にわたり停電し1,在宅で療養する患者が災害時に多くの困難に直面することが明らかとなった。なかでも,継続的な服薬管理や移動支援を要するパーキンソン病(Parkinson’s disease:以下,PD)患者に対する災害時支援は,重要な課題の一つである。

PD患者では,疾患特性そのものが災害時の脆弱性につながりうる2。PDでは抗パーキンソン病薬の定時服用が症状管理の根幹をなし,服薬の中断はwearing-off現象やoff状態の増悪を招く34。また,すくみ足(freezing of gait:以下,FOG)や姿勢保持障害は移動を困難にし2,心理的ストレスは運動症状を悪化させる5。加えて,先行研究では地震後にPD患者の身体症状および精神症状の悪化が報告されている6。また,在宅PD患者は避難や備えに対して不安を抱えており,自力避難の困難さや必要物品の準備など,防災上の課題も指摘されている78。したがって,PD患者の防災対策には疾患特性を踏まえた個別的な検討が求められる。

こうした課題に対し,2021年の災害対策基本法改正により個別避難計画の作成が市町村の努力義務とされ9,難病診療連携拠点病院の設置10や神経難病リエゾンの配置11など,難病患者の災害時支援に関する制度的基盤の整備も進められている。しかし,これらを実効あるものとするには,当事者自身が課題を整理し,具体的な備えを検討する機会が重要である。そこで本実践では,PD当事者(以下,当事者)・家族に加え,運動機能の評価・支援を担う理学療法士12および理学療法学科の学生が参加する震災対策交流会を企画した。本報告の目的は,当事者・家族,理学療法士,学生が協働する震災対策交流会を通じて抽出された当事者の経験に根ざした防災課題を整理し,参加動機と交流会後に自己報告された意識変化の特徴を把握することである。

対象および方法

1. 参加者

本交流会の参加者は,当事者18名,その家族4名,理学療法士8名,および理学療法学科の学生21名の計51名であった。当事者とその家族へは全国パーキンソン病友の会北海道支部を通じて会報誌およびsocial networking service(SNS)にて案内し,自力または介助での移動が可能で話し合いができる者が参加した。理学療法士はPD患者のリハビリテーション経験者を,学生は北海道医療大学リハビリテーション科学部理学療法学科の1・2学年からボランティアとして募集した。全参加者に対して,交流会の冒頭に本交流会の趣旨および実践報告として公表する旨を口頭で説明した。なお,本報告は北海道医療大学リハビリテーション科学部倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:24R239247)。

2. 手続き

本交流会は2024年7月に対面とオンライン(Zoom)のハイブリッド形式で実施した。導入としてレクリエーションおよび外部講師による「自分のための避難行動と避難生活を考える」をテーマとした,特定疾患に限定しない一般的な防災に関する講話(避難の意思決定,4種の備え,避難生活で生じうる健康被害などの概説)を行った後,当事者・家族,理学療法士,学生が混在する複数のグループに分けてグループワークを実施した。理学療法士および学生は支援者としての立場から,専門職または将来の専門職としての視点で各グループで出された意見に多角的な観点を補うために議論に加わった。家族は当事者と共に避難・備えを検討する立場として議論に参加した。ファシリテーターを担当する学生に対しては,事前に進行手順および付箋への記録方法に関する打ち合わせを行った。グループワークでは,「①震災の備えとして必要なこと(以下,震災の備え)」「②避難時に気をつけること(以下,避難時の注意点)」「③避難所の生活で大変になりそうなこと(以下,避難所生活の課題)」の3テーマについて議論を行い,各意見を付箋に1意見1枚の形式で記録した。交流会終了後,全参加者を対象に無記名の質問紙調査を実施した。調査に際し,改めて趣旨を口頭で説明し,回答をもって同意とみなす旨を伝えた上で回答を依頼した。対面参加者には紙媒体で配布し,オンライン参加者にはGoogle Formsにて電子的に回答を収集した。

3. 測定項目

1)グループワークで得られた質的データ

グループワーク中に各グループで出された意見は,ファシリテーターを担当した学生が付箋に記録し,終了後に全付箋を回収して電子テキストデータに転記した。

2)質問紙調査

質問紙は4セクションから構成した。第一に,基本属性として年齢,性別,参加区分などを尋ねた。当事者には罹病期間,就労状況などに加え,主治医から伝達されたHoehn & Yahr重症度分類を自己申告で取得した。第二に,参加動機として「以前から災害対策について興味があった」「避難行動や避難生活がうまく行えるか不安」「実際に避難する時に困ると思う」「備えが必要だが何をすればいいか分からない」「周りの人の備えを知りたい・参考にしたい」「周りの人と一緒に考えたい」「当事者や学生とのかかわりが欲しい」の7項目を複数選択形式で尋ねた。第三に,災害に対する日頃の備えとして「災害対策グッズの有無」「指定避難場所の認知」「連絡手段の有無」「家族との事前相談」「避難の具体的イメージ」「避難訓練への参加経験」の6項目をはい/いいえ形式で尋ねた。第四に,交流会後の意識変化として,情報獲得に関する項目および意識変化に関する9項目を複数選択形式で尋ねた。

4. データ分析

1)質的データの分析

グループワークで得られた付箋の記述内容を対象に,KJ法13の手順を参考に,分析者2名が全記述を熟読の上,内容の類似性に基づいて個々の意見をグルーピングし,中カテゴリー,大カテゴリーへと段階的に集約した。カテゴリーの命名・分類は分析者間の合議により決定した。

2)テキストマイニング

付箋の全記述内容をテキストデータ化し,計量テキスト分析ソフトウェアKH Coder 314を用いて共起ネットワーク分析を実施した。形態素解析エンジンにはMeCabを使用した。抽出語のうち名詞・動詞・形容詞を分析対象とした。語の取捨による恣意性を避けるため,特定語の除外は行わず,該当品詞の語をすべて対象とした。Jaccard係数が0.25以上の単語ペアを線で結び,単語の出現頻度に応じてノードの大きさを調整したネットワーク図を作成した。

3)統計解析

協働の場に集った参加者の出発点を参加動機(分析課題1),協働後の認識の到達点を交流会後の意識変化(分析課題2)として位置づけ,各項目について参加区分による差異をχ2検定で検討した。検定にはモンテカルロ法を適用した。一部の群(家族群n=4)の標本サイズが小さいため,群間差の詳細は各群の選択率に基づき記述的に検討した。統計解析にはR(version 4.3.3)を用い,有意水準は5%とした。

結果

1. 参加者の属性

参加者の属性は,当事者(男性7名,女性11名;平均年齢66.3±8.4歳),家族(男性2名,女性2名;平均年齢72.5±5.3歳),理学療法士(男性6名,女性2名;平均年齢35.8±10.1歳),学生(男性10名,女性11名;平均年齢19.4±0.7歳)であった。当事者のHoehn & Yahr重症度分類は中央値2(範囲:1–4),罹病期間は平均8.7年(範囲:1–24年)であった。就業状況は就業中が5名(27.8%),退職が13名(72.2%)であり,全員が定期的に医療機関へ通院し薬物療法を受けていた。うち8名(44.4%)がリハビリテーションを併用していた。災害対策グッズを「備えている」と回答した者は全体の54.9%(28/51名),当事者・家族に限定すると63.6%(14/22名)であった。指定避難場所を「知っている」と回答した者は全体の64.7%(33/51名)であった。

2. グループワークの質的分析(表1

グループワークで得られた意見について,事前に設定した3テーマに沿って質的分析を行った。

表1 グループワークにおける意見のカテゴリー分類

テーマ大カテゴリー中カテゴリー具体的な意見(一部抜粋)
①震災の備え物品準備医療・衛生用品の備え・1週間分の薬を常に持ち歩く
・病院の診察券,お薬手帳
・洋式の簡易トイレ
・薬のストック,病院に多めに処方してもらう
食料・生活必需品の備蓄・水,すぐに食べられる物の備蓄
・冬の災害時に暖をとるもの,カセットコンロ
人的環境整備地域コミュニティとの連携・隣人との関係性を作る
・地域の活動に参加しておく
周囲への情報共有と協力体制の構築・一人でできないことを周りの人に知ってもらう
・ケアマネージャーにすぐに連絡できるようにする
・ヘルプマークで周囲からのサポートをもらう
事前行動身体能力の維持・向上・床から立ち上がる練習をしておく
・普段から運動習慣をつけておく
情報収集と避難計画・避難所の階段の有無や距離を知っておく
・車椅子でどのくらいかかるか知っておく
②避難時の注意点内的要因 
(個人の意識と準備)
避難計画とリスクの想定・最悪の事態を考えて行動
・防災マップを普段から見ておく
・避難距離を把握しておく
・断水,停電が長引いたときの対応
避難行動の準備・マンション3階だと階段で避難する必要がある
・履きやすい靴や電灯などの用意
・重心を後ろに意識するとすくみにくい
・何歩でどこまで行くなどのイメージが大切
外的要因 
(周囲の環境とつながり)
公的・地域資源の把握・地域包括支援センター,マンションの自治体を知っておく
・自分の名前が町内の名簿に載っているのか知りたい
地域との関係構築・地域のつながりを作り助け合えるようにする
・誰が助けてくれるのか
③避難所生活の課題環境面の課題生活インフラと物資の問題・薬の確保
・電気がなくても食べられる食品の準備
・充電器,充電を満タンにする
避難所の物理的・プライバシーの問題・トイレ,入浴のプライバシー確保
・寝具が合わない
・狭い場所でよりふらつく
精神面の課題環境変化による心身の不調とストレス・不安で症状が強くなる
・慣れない環境で眠れない
・寝具が合わないことで痛みやストレスが出る
症状や特性への無理解と気遣い・見た目では分かってもらえない辛さ
・介助してくれる人への申し訳なさ
・鼾,歯ぎしりでの周囲への迷惑
身体的困難に伴う心理的負担・用意した避難グッズを持って移動ができない
・長時間歩いての避難が難しい
・OFF時間との付き合い方

テーマ①「震災の備え」では,「物品準備」「人的環境整備」「事前行動」の3カテゴリーに集約された。「物品準備」には「医療・衛生用品の備え」と「食料・生活必需品の備蓄」が含まれた。「人的環境整備」には「地域コミュニティとの連携」と「周囲への情報共有と協力体制の構築」が挙げられた。「事前行動」には「身体能力の維持・向上」「情報収集と避難計画」が含まれていた。

テーマ②「避難時の注意点」では,個人の主体的な準備にかかわる「内的要因」と,個人を取り巻く環境や社会関係資本にかかわる「外的要因」の2カテゴリーに大別された。「内的要因」には「避難計画とリスクの想定」と「避難行動の準備」が含まれた。「外的要因」には「公的・地域資源の把握」と「地域との関係構築」が挙げられた。

テーマ③「避難所生活の課題」では,「環境面の課題」と「精神面の課題」の2カテゴリーに集約された。「環境面の課題」には「生活インフラと物資の問題」「避難所の物理的・プライバシーの問題」が含まれた。「精神面の課題」には「環境変化による心身の不調とストレス」「症状や特性への無理解と気遣い」「身体的困難に伴う心理的負担」が挙げられた。

3. テキストマイニングによる意見構造の可視化(図1

共起ネットワーク分析の結果,出現頻度の高い語として「避難」「する」が確認された。また,「自治体」「地域」「センター」「防災」などの地域・行政資源に関する語群,「食品」「水」「備蓄」「必要」「入浴」「環境」などの生活物資・避難生活環境に関する語群が確認された。さらに,「薬」「病院」などの医療・服薬に関する語群,「訓練」「参加」「町内」などの地域活動に関する語群,「自分」「知る」などの自己理解・情報把握に関する語群が確認された。語群間の配置では,生活物資・避難生活環境に関する語群が地域・行政資源および地域活動に関する語群と一部接続していた一方,「薬」「病院」は他の語群とは直接接続せず,独立したまとまりとして示された。

図1 共起ネットワーク分析の結果(名詞・動詞・形容詞)

KH Coder 3を用いて実施した.ノードの大きさは出現頻度,色はサブグラフを表す.Jaccard係数0.25以上の語のペアを線で結んだ.

4. 質問紙調査の結果(表2

1)協働の場に集った参加者の出発点(分析課題1)

参加動機7項目のうち,「以前から災害対策について興味があった」「避難行動や避難生活がうまく行えるか不安」「実際に避難する時に困ると思う」「備えが必要だが何をすればいいか分からない」「周りの人の備えを知りたい・参考にしたい」の5項目で群間に有意差が認められた(いずれもp<.01)。避難への不安や困難の予測に関する2項目は当事者・家族で選択率が高く,学生では選択されなかった。一方,「備えが必要だが何をすればいいか分からない」は学生で最も高く,当事者で最も低かった。「周りの人の備えを知りたい・参考にしたい」は当事者・家族・理学療法士の全員が選択したが,学生では選択されなかった。

表2 質問紙調査の結果

項目当事者 
(n=18)
家族 
(n=4)
理学療法士 
(n=8)
学生 
(n=21)
χ2p値
参加動機以前から災害対策について興味があった12 (66.7)2 (50.0)8 (100)21 (100)13.195.005**
避難行動や避難生活がうまく行えるか不安15 (83.3)3 (75.0)4 (50.0)0 (0)29.597<.001***
実際に避難する時に困ると思う12 (66.7)3 (75.0)0 (0)0 (0)28.121<.001***
備えが必要だが何をすればいいか分からない7 (38.9)2 (50.0)6 (75.0)21 (100)18.354<.001***
周りの人の備えを知りたい・参考にしたい18 (100)4 (100)8 (100)0 (0)51.000<.001***
周りの人と一緒に考えたい18 (100)4 (100)8 (100)21 (100)
当事者や学生とのかかわりが欲しい18 (100)4 (100)8 (100)21 (100)
交流会後の意識変化事前に備える重要性をより強く感じた18 (100)4 (100)8 (100)21 (100)
自分の備えは足りないと感じた18 (100)4 (100)8 (100)21 (100)
学んだことを実行してみたい18 (100)4 (100)8 (100)21 (100)
周りの人と協力することが重要だと思った18 (100)4 (100)8 (100)21 (100)
一人では避難できないと感じた6 (33.3)2 (50.0)0 (0)0 (0)13.195.005**
適切な行動がとれる自信が持てた0 (0)1 (25.0)2 (25.0)0 (0)10.359.021*
避難に対する不安が減った3 (16.7)1 (25.0)0 (0)0 (0)6.036.111
自分の備えは既に十分だと感じた0 (0)0 (0)0 (0)0 (0)
避難に対する不安が強くなった0 (0)0 (0)0 (0)0 (0)

選択人数(%).モンテカルロ法によるχ2検定.*p<.05, **p<.01, ***p<.001.「—」は全群で同一回答のため検定不能.

2)協働を経た参加者の認識の到達点(分析課題2)

交流会後の意識9項目では,「一人では避難できないと感じた」(p=.005)および「適切な行動がとれる自信が持てた」(p=.021)の2項目で群間に有意差が認められた。「一人では避難できないと感じた」は当事者・家族のみで選択され,「適切な行動がとれる自信が持てた」は家族・理学療法士の一部で選択された。一方,「事前に備える重要性をより強く感じた」「自分の備えは足りないと感じた」「学んだことを実行してみたい」「周りの人と協力することが重要だと思った」の4項目は全群で全員が選択しており,統計的検定は実施できなかった。

考察

1. グループワークで抽出されたPD患者の防災課題

テーマ①「震災の備え」の「物品準備」では薬剤備蓄に最も意見が集中した。前述のとおりPDでは服薬中断が症状増悪に直結するため3,災害時における服薬継続の備えは特に重要である。本交流会で当事者から挙げられた薬の携帯やお薬手帳の準備などの提案は,石塚ら8が示した在宅PD患者における服薬関連の備えの重要性を裏づけるものといえる。「人的環境整備」では周囲への情報共有やヘルプマーク活用に関する意見が多く抽出された。PDの症状の不可視性は周囲の無理解を招きうるため15,この視点はPD患者の災害時支援の具体化に重要である。「事前行動」に含まれた運動習慣維持に関する意見は,理学療法士による運動療法12が災害への身体的備えとしても寄与しうることを示唆する。

テーマ②「避難時の注意点」では,「内的要因」として一般的な避難計画(防災マップの確認,避難距離の把握など)に加え,「重心を後ろに意識するとすくみにくい」「何歩でどこまで行くなどのイメージが大切」といったPDの運動特性を踏まえた具体的な対処方略が抽出された。FOGは不安やストレスでも誘発されるため516,こうした身体的対処の知識を事前に整理しておくことは,災害時の避難行動の困難軽減に資すると考えられる。一方,「外的要因」では,「地域包括支援センター,マンションの自治体を知っておく」「自分の名前が町内の名簿に載っているのか知りたい」など,公的・地域資源の把握に関する意見が挙げられた。後者の意見は,避難行動要支援者名簿9などの既存制度に関する情報が当事者に十分に届いていない可能性を示唆するものであり,今後こうした情報を当事者と共有する機会の確保が課題といえる。

テーマ③「避難所生活の課題」では,「環境面の課題」として薬の確保などの物資に関する意見と,「狭い場所でよりふらつく」などの物理的環境に関する意見が挙げられた。前者はテーマ①と共通しており,服薬管理が当事者にとって備えと避難所生活の双方に通じる中心的課題であることが確認された。後者については,福祉避難所の利用や動線上の環境調整など,個別のニーズに応じた対応が求められる。「精神面の課題」では,ストレスがPDの運動症状を悪化させるとの報告5を踏まえると,「不安で症状が強くなる」という意見は避難所生活においても同様の影響が生じうることを示唆している。また,「見た目では分かってもらえない辛さ」などの意見は,PDの不可視性15が集団生活において心理的負担となりうることを示している。さらに,「OFF時間との付き合い方」など,身体的困難に伴う心理的負担も抽出された。これらへの対策として,避難所運営者へのPDの特性に関する情報提供や,個別避難計画9に避難所生活上の配慮事項を事前に記載しておくことが考えられる。

共起ネットワーク分析では,医療・服薬,生活物資・避難生活環境,地域・行政資源,地域活動,自己理解・情報把握に関する語群が確認された。語群間の関係に着目すると,生活物資・避難生活環境に関する語群は地域・行政資源および地域活動に関する語群と一定の接続を示した一方,「薬」「病院」といった医療・服薬に関する語群は相対的に独立していた。これは,生活物資や避難環境の課題が地域資源の活用と結びつけて検討されていた一方で,服薬確保や医療継続は地域支援との関連で十分には語られていなかった可能性を示す。災害時要援護者登録には制度認知,他者からの働きかけ,登録による避難支援の有益性認識が関連することから17,今後は本実践のような交流の場を通じて,当事者から多く挙げられた服薬確保や医療継続を地域支援の枠組みと結びつけて検討することが重要となると考えられる。

2. 協働の場の前提と帰結にみられた本実践の意義

参加動機では,「周りの人と一緒に考えたい」「当事者や学生とのかかわりが欲しい」が全参加者で選択され,協働への志向性が立場を超えて共有されていた。一方,参加動機の選択傾向から,当事者・家族は避難行動そのものへの懸念を,学生は備えに関する知識の不足を主な出発点としていたと考えられる。

交流会後の意識変化では,備えや協力の重要性に関する4項目を全群の全員が選択した。異なる参加動機を有する参加者が,交流会後にこれらの認識を共有したことは,多主体協働型の交流会が立場を超えた共通認識の形成に寄与する可能性を示唆する。ただし,本調査は事前に設定した選択肢に対する事後の自己報告であり,認識共有の形成過程や内容の一致を直接捉えたものではない。一方,避難の実行可能性に関する認識には立場による差異がみられた。当事者・家族の一部が「一人では避難できないと感じた」と回答した背景には,当事者自身の運動症状や,家族が日常的な支援を通して把握している生活上の制約がある可能性がある。これに対し,理学療法士・家族の一部が「適切な行動がとれる自信が持てた」と回答したのは,専門職または身近な支援者として,交流会で得た情報を具体的な支援に結びつけて捉えたためと推察される。これらの差異は,交流会後の認識が参加者の立場や経験にも依存する可能性を示している。

結論

当事者・家族,理学療法士,学生による震災対策交流会から,服薬管理の確保,症状の不可視性に伴う心理的負担,ストレスによる症状悪化など,PD患者に特有の防災課題が抽出された。参加動機には立場による差異がみられた一方,交流会後には備えや協力の重要性に関する認識が全群で共通して選択されており,このような交流会は,当事者の経験に根ざした課題の共有と立場を超えた共通認識の形成を促す実践形式となりうることが示唆された。今後は対象の拡大と継続的な実施を通じて,意識変化が実際の備えや行動変容につながるかを検証する必要がある。

謝辞

交流会に参加したPD当事者・家族,講師,「ともに歩む会」関係者に感謝する。とりわけ吉岡史織奈氏には,運営から本報告の作成に至るまで多大な貢献をいただいた。加えて,本交流会の企画・実施に多大なる尽力をいただいた故・田島直子氏に深く感謝する。

助成

該当なし。

利益相反

本報告に関して開示すべき利益相反はない。

文献
 
© 2026 Japanese Society of Physical Therapy

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
feedback
Top