2026 Volume 53 Issue 5 Pages 321-328
【目的】本研究は製造業男性労働者における腰痛と,職域で評価可能な身体機能・生活習慣要因との関連を横断的に検討し,職域で実装しやすい腰痛対策の状態把握項目を整理することを目的とした。【方法】男性59名を対象に横断調査を行い,過去1カ月間に業務中の腰痛を週1回以上経験した者を「腰痛あり」と定義した。質問票により生活習慣および作業姿勢を把握し,身体組成,柔軟性(Straight Leg Raising test:以下,SLR, Finger Floor Distance:以下,FFD),筋力(股関節・膝関節・体幹),身体能力(立ち上がりテスト)を評価した。群間比較を行った後,腰痛の有無を従属変数,SLR, 膝関節伸展筋力,運動習慣の有無,立ち上がりテストスコアを説明変数とするロジスティック回帰分析を行った。【結果】腰痛ありの者は25名(42.4%)であった。ロジスティック回帰分析では,SLR(5°増加あたりオッズ比[odds ratio:以下,OR] 0.29, 95%信頼区間[95% confidence interval:以下,95% CI] 0.11–0.77),膝関節伸展筋力(0.1 kgf/kg増加あたりOR 0.95, 95% CI 0.92–0.99),運動習慣あり(OR 0.04, 95% CI 0.01–0.68),立ち上がりテストスコア(1点増加あたりOR 0.30, 95% CI 0.11–0.79)は,いずれも腰痛の有無と関連した。【結論】柔軟性,下肢筋力,運動習慣,立ち上がり能力は腰痛の有無と関連し,職域での腰痛対策における状態把握項目となりうる。ただし,因果関係は不明である。
Objective: To examine the associations of low back pain (LBP) with workplace-feasible physical function measures and lifestyle factors among male manufacturing workers.
Methods: This cross-sectional study included 59 male workers from a pharmaceutical manufacturing plant. LBP was defined as self-reported work-related LBP occurring at least once per week in the past month. Lifestyle factors and work posture were assessed using a questionnaire. Body composition, flexibility (straight leg raise [SLR] test and finger-floor distance [FFD]), muscle strength (hip, knee, and trunk), and physical performance (stand-up test) were also evaluated. After group comparisons, logistic regression analysis was performed with LBP status as the dependent variable and SLR, knee extension strength, exercise habits, and stand-up test scores as explanatory variables.
Results: Twenty-five workers (42.4%) reported experiencing LBP. In the logistic regression model, a greater SLR angle was associated with lower odds of LBP (odds ratio [OR] 0.29 per 5° increase; 95% confidence interval [CI] 0.11–0.77). Greater knee extension strength was associated with lower odds of LBP (OR 0.95 per 0.1 kgf/kg increase; 95% CI 0.92–0.99). Having an exercise habit was associated with lower odds of LBP (OR 0.04; 95% CI 0.01–0.68), and a higher stand-up test score was associated with lower odds of LBP (OR 0.30 per 1-point increase; 95% CI 0.11–0.79).
Conclusion: Flexibility, lower-limb strength, exercise habits, and stand-up test performance were associated with LBP and may be useful workplace-feasible assessment items for planning LBP prevention strategies. Owing to the cross-sectional design, causal relationships could not be inferred.
腰痛は世界的に疾病負担が大きく,障害生存年(Years Lived with Disability: YLD)の主要原因の一つである1)。日本でも就労世代に腰痛は多く,慢性化や就労障害(disabling back pain)に関与する腰痛が一定の割合で報告されている2)。
業務上疾病発生状況等調査では,災害性腰痛が休業4日以上の業務上疾病の多くを占め,職場では継続的な対策が求められている3)。職場における腰痛予防対策指針4)では,作業管理,作業環境管理,健康管理を含む総合的な対策が示されている。同指針では,労災認定上の災害性腰痛に限らず,労働者が業務中に経験する腰痛を把握し,対応することも重要とされている。腰痛は欠勤・休業だけでなく,プレゼンティーズムによる生産性損失としても負担が大きい。国内企業の推計および費用負担に関するシステマティックレビューでは,医療費などの直接費に加え,生産性損失などの間接費が大きいことが示されている5–7)。職域における筋骨格系疼痛は,就労継続や業務パフォーマンスにも影響しうる8)。慢性腰痛では抑うつを合併しやすく,健康関連Quality of Life(QOL)や就労への影響が大きい9)。さらに,腰痛の発生や慢性化には,身体的負荷だけでなく心理社会的要因や生活習慣も関与する9)。
製造業では,荷役・組立・検査などに伴う反復作業,前屈・中腰姿勢,長時間立位が生じやすく,腰部への累積負荷が問題となる。日本の製造業事業所における立位作業者を対象とした横断研究では,1週間のうち48時間以上持続する腰痛の有病率は20%であり,長時間立位が腰痛リスクとなりうることが示唆されている10)。身体活動と腰痛の関連を扱ったシステマティックレビューでは,重量物取扱い,累積負荷,頻回の持ち上げ,体幹屈曲・回旋,不良姿勢などの職業性身体負荷が腰痛と関連する一方,余暇時間の身体活動,スポーツ,運動と腰痛との関連は一貫していない11)。一方,近年のシステマティックレビュー・メタ解析では,中等度の身体活動や余暇時間身体活動が腰痛リスクの低下と関連することも報告されている12)。したがって,職域における腰痛対策では,仕事中の身体負荷と余暇時間の身体活動・運動習慣を区別して評価する必要がある。
また,生活習慣に関する要因も腰痛と関連する。観察研究のメタ解析では,肥満が腰痛および慢性腰痛と関連し13),喫煙も腰痛の有病・発症と関連することが示されている14)。しかし,製造業労働者を対象とした研究は,作業姿勢,作業環境,心理社会的要因に焦点を当てた報告が多く,職域で簡便に実施できる客観的身体機能評価を生活習慣要因と併せて検討した報告は限られている。特に,柔軟性,筋力,立ち上がり能力といった理学療法士が職域で評価しやすい指標を用い,腰痛との関連を多変量解析で整理した研究は少ない。そのため,製造業男性労働者を対象に,職域で実装しやすい評価項目が腰痛の状態把握に有用かを検討する意義がある。
そこで本研究では,製造業に従事する男性労働者を対象に,自己申告に基づく業務中の腰痛の有無と,身体的因子(身体組成,柔軟性,筋力,身体能力)および生活習慣との関連を横断的に検討することを目的とした。本研究は,単一事業所の男性労働者を対象とした横断研究であるが,職域で実施可能な身体機能評価と生活習慣要因を同時に扱う点に特徴がある。本研究の結果は,理学療法士を含む職域支援者が腰痛予防や状態把握に用いる評価項目を検討する際の基礎資料となることが期待される。
本研究は,国内の医薬品製造業に属する単一企業の1事業所に勤務する男性労働者を対象とした横断研究である。対象事業所には,製造工程や倉庫業務などの現場作業に従事する労働者と,品質管理,品質保証,生産管理,総務などの事務・品質関連業務に従事する労働者が含まれていた。対象者全体では,立位・歩行,物品運搬,中腰・前かがみ姿勢を伴う作業と,座位でのPC作業・文書作業が混在していた。勤務形態は日勤を基本とし,一部では交替勤務が行われる場合があった。
2023年5月から6月に,当該事業所に勤務する男性労働者全員(63名)を対象として参加を募集した。参加を希望し,書面で同意が得られた59名を登録した。本研究は,単一事業所で研究期間内に参加可能であった労働者を対象とした横断研究であり,事前のサンプルサイズ計算は実施しなかった。除外基準は,脊椎疾患の既往(手術歴を含む),下肢の整形外科的障害,神経疾患,重篤病変が疑われる症状(外傷後の強い疼痛,発熱,原因不明の体重減少など),下肢への放散痛・しびれを伴う神経根症状,および測定を安全に実施できない状態とした。これらは,測定値や腰痛評価に影響しうる状態として設定した。登録者59名のうち,除外基準に該当する者および欠測者はおらず,全員を解析対象とした。なお,本研究では医師による診断や画像検査に基づく腰痛分類は行わず,除外基準により,測定値や腰痛評価に影響しうる明らかな疾患・症状を可能な範囲で除外した。
2. 調査項目と測定方法腰痛の評価は自己記入式質問票で行い,過去1カ月間に業務中の腰痛を週1回以上経験した者を「腰痛あり」と定義した。本研究における腰痛は,診断名や労災認定に基づく分類ではなく,自己申告に基づく業務中の腰痛として扱った。
腰痛との関連を検討するため,基本属性,生活習慣,作業姿勢,身体組成,身体能力,柔軟性,筋力を評価した。睡眠時間(時間/日)と運動習慣の有無は質問票で聴取した。運動習慣は,「週2日以上,1回30分以上,1年以上継続する運動」を満たす者を「あり」とした15)。不良姿勢継続時間は,作業中に腰椎屈曲・回旋位を保持している時間(時間/日)として聴取し,0.5時間単位で記載させた16)17)。
身体組成は体成分分析装置(伊藤超短波,ITO-InBody)を用いて体脂肪率を測定した。骨格筋指数(Skeletal Muscle Index:以下,SMI,四肢骨格筋量/身長2)18)と除脂肪量指数(Fat-free Mass Index:以下,FFMI,除脂肪量/身長2)19)を算出した。
身体能力は立ち上がりテスト(ロコモ度テスト)20)21)で評価した。測定は原著の方法に準じ,40, 30, 20, 10 cm高の台から反動を用いずに立ち上がり,立位を3秒間保持できるかを判定した。課題は両脚40, 30, 20, 10 cm,片脚40, 30, 20, 10 cmの順に実施し,各条件で練習を1回行った後,本測定を1回実施した。片脚条件では左右とも実施し,左右とも立位を3秒間保持できた場合に達成と判定した。達成した最も難度の高い課題に基づき,0–8点でスコア化した(実施不能=0,両脚40 cm=1, 30 cm=2, 20 cm=3, 10 cm=4,片脚40 cm=5, 30 cm=6, 20 cm=7, 10 cm=8)。
柔軟性はStraight Leg Raising test(以下,SLR)22)およびFinger Floor Distance(以下,FFD)23)で評価した。測定は,事前に手順を標準化した理学療法士1名が実施した。関節可動域の測定は,関節可動域表示ならびに測定法24)に準拠した。SLRは左右各2回測定し,代償運動が出現する前の角度を記録した。各側の平均値を算出し,左右のうち小さい値を代表値とした。FFDは両足を揃えた立位で膝関節伸展位を保持し,体幹をゆっくり前屈させ,上肢を自然下垂させて2回測定した。2回の平均値を代表値とした。示指指尖と床面との鉛直距離をメジャーでcm単位で測定し,床面に到達しない場合を負,床面より下方に到達した場合を正の値として記録した23)。
筋力はハンドヘルドダイナモメーター(酒井医療,Mobie MT-100W)を用い,固定用ベルトを併用して測定した。測定は,事前に手順を標準化した理学療法士1名が実施した。股関節伸展筋力は座位で股関節屈曲位とし25),股関節外転筋力は背臥位で股関節中間位とし26),膝関節伸展筋力は座位で膝関節屈曲位として測定した27)。体幹屈曲筋力28)および体幹伸展筋力29)も座位で測定した。各筋力は3回測定し,平均値を採用した。対象者間の体格差を考慮し,筋力は体重で正規化した(kgf/kg)。
3. データ収集手順データ収集は,勤務時間内に別室で実施した。質問票記入後,身体組成測定,柔軟性評価,筋力測定,立ち上がりテストの順に実施した。疲労の影響を最小化するため,各測定間には適宜休憩を設けた。測定順序は原則として統一し,手順は事前に標準化した。
4. 統計解析群間比較では,年齢,身長,体重などの基本特性を平均±標準偏差で示した。連続変数の分布はShapiro-Wilk検定で確認した。正規分布を仮定できない項目が含まれていたため,基本特性以外の連続変数は中央値[四分位範囲]で示した。腰痛の有無による群間比較にはMann-Whitney U検定を用いた。カテゴリ変数については,セル頻度が小さい項目を含むため,Fisherの正確確率検定を用いた。検定はすべて両側とし,連続変数ではr,カテゴリ変数ではφを効果量として算出した。有意水準は5%とした。群間比較は,腰痛の有無による生活習慣,作業姿勢,身体組成,身体能力,柔軟性,筋力の分布を把握するための補助的解析として実施した。複数の候補因子を広く確認する目的で群間比較を行ったため,多重比較補正は行わず,結果は慎重に解釈した。
ついで,腰痛の有無を従属変数とする二項ロジスティック回帰分析を行った。説明変数は,先行研究および評価項目の特性に基づき,SLR,膝関節伸展筋力,運動習慣の有無,立ち上がりテスト(スコア)の4項目を事前に選定した。これらは,職域で比較的簡便に評価でき,保健指導や運動指導につなげやすい項目である。運動習慣は生活習慣要因として15),SLRは下肢後面の柔軟性を反映する指標として22),膝関節伸展筋力は下肢支持機能を反映する筋力指標として27)30),立ち上がりテストは下肢筋力および身体能力を簡便に評価する指標として20)21)31),それぞれ職域での状態把握に応用しやすいと考えた。これら4項目を強制投入法で投入した。一方,FFD,股関節筋力,SMI, FFMIなど群間比較で差を認めた項目は主解析モデルに投入しなかった。これらの項目は,SLR,膝関節伸展筋力,立ち上がりテストと評価概念が一部重複し,イベント数(腰痛ありの対象者数)に対して投入可能な説明変数数にも制約があるためである。
腰痛あり群の人数は25名であったため,イベント数に対して投入できる説明変数数には制約があった。このため,主解析モデルでは説明変数を4項目に制限した32)。投入変数数の影響を確認するため,3変数モデルによる感度分析も実施した。具体的には,膝関節伸展筋力または立ち上がりテストを除外した2種類のモデルを設定した。一つはSLR,運動習慣の有無,立ち上がりテストを説明変数とするモデルであり,もう一つはSLR,運動習慣の有無,膝関節伸展筋力を説明変数とするモデルである。膝関節伸展筋力と立ち上がりテストは,下肢機能に関する評価概念が一部重複するため,除外対象とした。さらに,年齢は腰痛および身体機能に影響しうる基本属性であるため,主解析モデルに年齢を加えた感度分析を実施した。なお,年齢には腰痛の有無による群間差を認めなかった。解釈性を高めるため,SLRは5°,膝関節伸展筋力は0.1 kgf/kg単位に換算したオッズ比(Odds Ratio:以下,OR)を提示した。
連続変数については,logitに対する線形性をBox-Tidwell検定で確認し,多重共線性は分散拡大係数(Variance Inflation Factor:以下,VIF)で評価した。モデルの適合度はHosmer-Lemeshow検定で確認した。統計解析はPython(version 3.11, Python Software Foundation)を用いた。
5. 倫理的配慮本研究は,医療法人社団いずみ会北星病院倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:2023-01)。研究目的,方法,利益相反,個人情報の取扱い,研究参加が自由意思に基づくこと,不参加による不利益はないことを文書で説明し,参加者から書面で同意を取得した。収集データは匿名化し,研究目的以外には使用しなかった。本研究はヘルシンキ宣言に準拠して実施した。
対象者の基本特性を表1に示す。対象者59名のうち,腰痛ありの者は25名(42.4%)であった。年齢,身長,体重には,腰痛の有無による有意差は認められなかった。業務区分は,製造・倉庫系業務23名(39.0%),品質管理業務17名(28.8%),管理・事務系業務19名(32.2%)であった。
| 項目 | 全体(n=59) | 腰痛あり(n=25) | 腰痛なし(n=34) | p値 |
|---|---|---|---|---|
| 年齢(歳) | 38.5±11.9 | 37.1±12.3 | 39.5±11.6 | 0.300 |
| 身長(cm) | 172.9±6.2 | 172.2±5.8 | 173.3±6.6 | 0.504 |
| 体重(kg) | 65.7±8.0 | 65.5±8.8 | 65.8±7.6 | 0.896 |
値は平均±標準偏差で示す.p値はMann-Whitney U検定により算出した.
群間比較の結果を表2に示す。腰痛あり群は腰痛なし群に比べ,睡眠時間が短く,運動習慣を有する者が少なく,不良姿勢継続時間が長かった(p<0.05)。また,身体組成(SMI, FFMI),身体能力(立ち上がりテスト),柔軟性(SLR, FFD),筋力(股関節伸展・外転,膝関節伸展)に有意差を認めた(p<0.05)。
| 項目 | 腰痛あり(n=25) | 腰痛なし(n=34) | p値 | 効果量 |
|---|---|---|---|---|
| 睡眠時間(時間/日) | 6.0 [5.0–6.0] | 6.0 [5.6–7.0] | 0.045 | r=0.26 |
| 運動習慣の有無 | 有7 (28.0%) | 有19 (55.9%) | 0.039 | φ=0.28 |
| 不良姿勢継続時間(時間/日) | 1.0 [0.0–1.0] | 0.0 [0.0–0.5] | 0.008 | r=0.38 |
| SMI (kg/m2) | 7.07 [6.89–7.43] | 8.35 [8.02–9.10] | <0.001 | r=0.76 |
| FFMI (kg/m2) | 16.71 [15.67–17.26] | 19.28 [18.53–20.49] | <0.001 | r=0.74 |
| 立ち上がりテスト(スコア) | 5.0 [5.0–6.0] | 7.0 [6.0–8.0] | <0.001 | r=0.60 |
| ロコモ該当者数 | 該当3 (12.0%) | 該当0 (0.0%) | 0.071 | φ=0.27 |
| SLR (°) | 80.0 [77.5–87.5] | 87.6 [85.0–90.0] | 0.003 | r=0.44 |
| FFD (cm) | −5.0 [−10.0–0.0] | 3.0 [0.2–9.0] | <0.001 | r=0.61 |
| 股関節伸展筋力(kgf/kg) | 0.30 [0.22–0.34] | 0.39 [0.36–0.45] | <0.001 | r=0.59 |
| 股関節外転筋力(kgf/kg) | 0.28 [0.22–0.30] | 0.39 [0.36–0.43] | <0.001 | r=0.63 |
| 膝関節伸展筋力(kgf/kg) | 0.33 [0.23–0.40] | 0.52 [0.50–0.74] | <0.001 | r=0.68 |
連続変数は中央値[四分位範囲],カテゴリ変数は人数(%)で示す.p値は,連続変数ではMann-Whitney U検定,カテゴリ変数ではFisherの正確確率検定により算出した.効果量は,連続変数ではr,カテゴリ変数ではφを示す.ロコモ該当者数は該当者のみを示す.
二項ロジスティック回帰分析の結果を表3に示す。SLR(5°増加あたりOR 0.29, 95% CI 0.11–0.77),膝関節伸展筋力(0.1 kgf/kg増加あたりOR 0.95, 95% CI 0.92–0.99),運動習慣の有無(OR 0.04, 95% CI 0.01–0.68),立ち上がりテスト(1点増加あたりOR 0.30, 95% CI 0.11–0.79)は,いずれも腰痛の有無と関連した。
| 説明変数 | OR | 95% CI | p値 |
|---|---|---|---|
| SLR(5°増加) | 0.29 | 0.11–0.77 | 0.014 |
| 膝関節伸展筋力(0.1 kgf/kg増加) | 0.95 | 0.92–0.99 | 0.013 |
| 運動習慣の有無 | 0.04 | 0.01–0.68 | 0.027 |
| 立ち上がりテスト(スコア) | 0.30 | 0.11–0.79 | 0.015 |
OR:オッズ比,CI:信頼区間.SLRは5°,膝関節伸展筋力は0.1 kgf/kg,立ち上がりテストは1点増加あたりのORを示す.運動習慣の有無は,運動習慣なしを基準とした運動習慣ありのORを示す.
3変数モデルによる感度分析では,膝関節伸展筋力または立ち上がりテストを除外したいずれのモデルにおいても,各説明変数と腰痛の有無との関連の方向性に大きな変化は認めなかった。
年齢を加えた感度分析では,一部の信頼区間は広がったものの,SLR,膝関節伸展筋力,運動習慣の有無,立ち上がりテストと腰痛の有無との関連の方向性に大きな変化は認めなかった。
連続変数のlogitに対する線形性,多重共線性,モデルの適合度に重大な問題は認めなかった。
4. 結果の要約製造業に従事する男性労働者59名を対象に,腰痛の有無と生活習慣・身体的因子の関連を検討した。二項ロジスティック回帰分析では,柔軟性(SLR),膝関節伸展筋力,運動習慣の有無,立ち上がりテスト(スコア)が,他の投入変数で調整後も腰痛の有無と関連した。
本研究では,製造業に従事する男性労働者を対象に,腰痛と生活習慣・身体的因子との関連を検討した。群間比較では,睡眠時間,運動習慣,不良姿勢継続時間,身体組成,柔軟性,筋力,身体能力など複数の項目に差を認めた。二項ロジスティック回帰分析では,SLR,膝関節伸展筋力,運動習慣の有無,立ち上がりテスト(スコア)が腰痛の有無と関連した。本研究は,製造業男性労働者を対象に,職域で実施可能な身体機能評価と生活習慣要因を併せて評価した点に特徴がある。また,SLR,膝関節伸展筋力,立ち上がりテストのような比較的簡便に評価できる項目が腰痛の有無と関連したことは,職域における腰痛予防や状態把握に用いる評価項目を検討するうえでの基礎資料となる可能性がある。ただし,本研究は横断研究であり,因果関係には言及できない。
2. 生活習慣・作業姿勢と腰痛運動習慣は,他の投入変数で調整後も腰痛の有無と関連し,運動習慣を有する者では腰痛のORが低かった。運動習慣は質問票で把握できる生活習慣要因であり,職域における保健指導や運動指導の対象となりうる。本研究は横断研究であるため因果関係は断定できないが,この結果は余暇活動を含む身体活動が腰痛と関連するという先行報告と一致する11)33)34)。群間比較では,腰痛あり群で睡眠時間が短く,不良姿勢継続時間が長かった。睡眠と腰痛は相互に関連する可能性があり,睡眠時間の短さや睡眠の質の低下は疼痛の増悪や慢性化と関連しうる35)36)。また,作業中の体幹屈曲・回旋位の保持や持ち上げ作業は腰部負荷を増大させる可能性がある16)17)。したがって,不良姿勢継続時間の差は,作業姿勢に伴う腰部負荷の違いを反映している可能性がある。ただし,睡眠時間および不良姿勢継続時間は多変量モデルに投入していない。そのため,これらは腰痛の有無との独立した関連を示すものではなく,群間比較に基づく補足的所見として解釈する必要がある。
3. 柔軟性・筋力・身体能力と腰痛SLRは,他の投入変数で調整後も腰痛の有無と関連した。SLRは下肢後面,主にハムストリングスの柔軟性を反映する指標であり22),職域でも比較的簡便に実施できる柔軟性評価である。骨盤の運動性が制限される状況では,体幹前屈や持ち上げ動作で腰部への相対的負荷が増える可能性がある。また,本研究では,群間比較においてFFDにも差を認めた。FFDは,体幹前屈動作にかかわる腰椎・骨盤・股関節および下肢後面の柔軟性を反映する簡便な指標であり23),SLRと同様に,柔軟性の低下が腰部への負荷配分に関与している可能性がある。ただし,FFDはSLRと概念的に重複する部分があるため,本研究では多変量モデルに投入せず,柔軟性に関する補足的所見として解釈した。
膝関節伸展筋力と立ち上がりテスト(スコア)も腰痛の有無と関連した。膝関節伸展筋力は下肢支持機能を反映する筋力指標である。立ち上がりテストは,下肢筋力および身体能力を簡便に評価できる指標として用いられている20)21)31)。膝関節伸展筋力は,立ち上がり動作や中腰作業で求められる下肢支持能力に関与する。膝関節伸展筋力の低下は,代償的な体幹前屈や腰部伸展モーメントの増大を通じて,腰部負荷を増やしうる。下肢筋力と腰痛の関連は系統的レビューでも報告されている30)。本研究で群間差を認めた股関節伸展筋力および股関節外転筋力も,骨盤・体幹の安定性や作業姿勢の保持に関与している可能性がある。さらに,SMIおよびFFMIにも群間差を認めたことから,腰痛あり群では局所的な筋力だけでなく,全身的な筋量や除脂肪量を含む身体機能の違いが併存していた可能性がある。ただし,股関節筋力,SMI, FFMIは膝関節伸展筋力や立ち上がりテストと関連する身体機能指標である。そのため,イベント数の制約や評価概念の重複を考慮し,本研究ではこれらを多変量モデルに投入しなかった。したがって,これらの項目は腰痛の有無との独立した関連を示すものではなく,腰痛を有する労働者の身体機能特性を示す補足的所見として捉える必要がある。
4. 臨床的意義と応用可能性本研究の結果は,製造業労働者の腰痛対策において,生活習慣(運動)と身体機能(柔軟性,下肢筋力,立ち上がり能力)を併せて把握する意義を示した。腰痛は欠勤・休業だけでなく,プレゼンティーズムを通じた生産性損失や就労継続にも影響しうる5–8)。本研究で腰痛の有無と関連したSLR,膝関節伸展筋力,立ち上がりテスト(スコア),運動習慣の有無は,職域で比較的簡便に評価できる項目である。これらの項目は,理学療法士を含む職域支援者が腰痛予防や状態把握に用いる評価項目候補となりうる。また,これらの項目を用いて労働者の身体機能や生活習慣を把握することは,保健指導,運動指導,作業管理を含む一次予防活動の計画立案に役立つ可能性がある。ただし,本研究では欠勤,休業,プレゼンティーズム,就労継続の状況を直接評価していないため,これらへの影響については推論の範囲にとどまる。
5. 限界と今後の課題本研究にはいくつかの限界がある。第一に,本研究は単一企業の単一事業所に勤務する男性労働者を対象とした横断研究であり,結果の一般化には限界がある。対象者には,立位・歩行や物品運搬を伴う現場作業に従事する労働者だけでなく,座位でのPC作業や文書作業を行う事務・品質関連業務の労働者も含まれていた。そのため,結果を解釈する際には,対象事業所における作業特性の違いを考慮する必要がある。
第二に,腰痛の有無は自己記入式質問票に基づき,「過去1カ月間に業務中の腰痛を週1回以上経験した」と定義した。そのため,疼痛強度や機能障害の程度を反映していない可能性がある。また,医師による診断や画像検査に基づく腰痛の鑑別は行っていないため,対象者の腰痛を非特異的腰痛として厳密に分類することはできない。除外基準により,脊椎疾患の既往,神経根症状,重篤病変が疑われる症状などは可能な範囲で除外したが,未診断の整形外科的疾患を有する対象者が含まれていた可能性は否定できない。さらに,自己申告による分類には想起バイアスや症状解釈の差が影響した可能性もある。
第三に,横断研究であるため,因果関係は不明である。腰痛に伴う疼痛回避や活動制限によって,柔軟性や筋力が低下した可能性,すなわち逆因果も否定できない。また,身体組成(SMI, FFMI)には群間差を認めたが,イベント数の制約により,回帰モデルに投入可能な説明変数数は限られていた。そのため,十分な交絡調整が行えていない可能性がある32)。
第四に,研究期間内に参加可能であった労働者を対象としたため,事前のサンプルサイズ計算は実施していない。腰痛あり群は25名であり,ロジスティック回帰分析に投入可能な説明変数数には制約があった。本研究では,イベント数を踏まえて説明変数数を制限し,膝関節伸展筋力または立ち上がりテスト(スコア)を除外した3変数モデルによる感度分析も実施した。しかし,推定値の不安定性や過学習の可能性を完全には否定できない。年齢についても感度分析を実施したが,年齢を含む交絡因子を十分に調整したモデルを構築するには限界があった。また,勤続年数を取得していないため,就業期間や作業負荷の継続期間が腰痛に及ぼす影響は評価できなかった。
第五に,腰痛の有無による群間比較では,睡眠時間,不良姿勢継続時間,身体組成,FFD,股関節筋力など複数の項目に差を認めたが,これらは候補因子を把握するための補足的所見である。本研究では,イベント数の制約および評価項目間の概念的重複を考慮し,これらの項目をすべて多変量モデルには投入しなかった。そのため,群間比較で差を認めた項目は,腰痛の有無との独立した関連を示すものではなく,今後の検討課題として慎重に解釈する必要がある。また,腰痛は心理社会的因子や業務負荷とも関連することが報告されている8)9)37)が,本研究では心理面の評価を実施していない。今後は,多施設・縦断デザインにより,年齢,勤続年数,職種,作業負荷,心理社会的要因などを含めて検証する必要がある。
本研究では,医薬品製造工場に勤務する男性59名を横断的に調査し,自己申告により過去1カ月間に業務中の腰痛を週1回以上経験した者を腰痛ありと定義した。二項ロジスティック回帰分析の結果,柔軟性(SLR),膝関節伸展筋力,運動習慣の有無,立ち上がりテスト(スコア)が腰痛の有無と関連した。これらは職域で簡便に評価でき,腰痛対策の計画立案時の状態把握項目の候補となりうる。ただし,因果関係は不明であり,今後は交絡を十分に調整した多施設の前向き研究で検証する必要がある。
本研究にご協力いただいた対象者の皆様ならびに調査実施にご協力いただいた事業場の関係者の皆様に深謝する。
本論文に関連して開示すべき利益相反はない。