Physical Therapy Japan
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Research Reports (Original Article)
Competencies That Physical Therapists Involved in Postgraduate Education Should Possess as Instructors
The Ideal Instructor Based on Learners’ Perceptions
Shinichiro MORII , Yuka URUSHIBARA-MIYACHI, Osamu NOMURA, Takuya SAIKI
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2026 Volume 53 Issue 5 Pages 337-346

Details
要旨

【目的】わが国の理学療法教育で卒後教育現場の指導者に求められるコンピテンシーは明らかでない。本研究は,学習者の認識から指導者が備えるべきコンピテンシーを明らかにすることを目的とした。【方法】学習者のオンラインフォーカスグループの逐語録を作成し,modified grounded theory approachで分析した。【結果】21のコンピテンシーと7つのカテゴリー,3つのコア・カテゴリーを特定した。コア・カテゴリーで説明される良い指導者像は,〈共感的態度〉を基盤とした〈理学療法士としての模範〉と〈学びの伴走者〉であり,カテゴリーでは[学習者への寄り添い]が学習者支援における学習者と指導者の関係性の特徴であった。【結論】卒後教育における理学療法士指導者には模範性に加え,学習者に寄り添い学びを支える伴走者の役割が求められることが示唆された。特に共感的態度は両者を支える基盤であり,指導者の重要なコンピテンシーとなる可能性がある。

Abstract

Objective: The competencies required of instructors in postgraduate educational settings have not yet been clearly defined in physical therapy education in Japan. This study aimed to identify the competencies that such instructors should possess based on learners’ perceptions.

Methods: Online focus groups with learners were transcribed and analyzed using a modified grounded theory approach.

Results: We identified 21 competencies, seven categories, and three core categories. Within the core categories, the ideal instructor was characterized as a “role model for physical therapists” and a “learning companion,” grounded in an “empathetic attitude.” Within this category, “being attuned to the learner” emerged as a defining characteristic of the learner–instructor relationship in providing support.

Conclusion: In addition to serving as role models, physical therapy instructors in postgraduate education are expected to act as companions who support learners throughout their learning process. In particular, an empathetic attitude underpins both roles and may represent a key competency for instructors.

はじめに

わが国では,1965年に「理学療法士(physical therapist:以下,PT)及び作業療法士法」が制定されてからPTはその職域を拡大しながら増え続け,国家試験合格者数はこの十数年ほどの間は毎年1万人程度となっている1)。2025年3月末時点で養成校数は277校であり,日本理学療法士協会(Japanese Physical Therapy Association:以下,JPTA)会員数は14万人を超える1)が,近年における養成校数の増加に対して国家試験合格率が低下傾向にあるなど,養成の質の低下が指摘されている2)。また,指定規則改正を踏まえて2019年に改訂された理学療法学教育モデル・コア・カリキュラムの中で,卒前教育の到達目標は「ある程度の助言を受けながら基本的な理学療法を実施できるとともに自ら学ぶ力を育てる」とある3)。つまり,PTは養成校を卒業した時点では自立しておらず,卒後教育によって自立レベルへと引き上げ,その後の生涯学習につなげるといった流れが重要であることを意味している。

大住は,卒後教育の質は指導者により大きく異なる可能性があり,指導する側の教育を行い,ある一定の基準で卒後教育が実施されるようにする必要があると述べている4)。また,芳野らは,多くの施設では新人指導に対してある程度積極的に取り組んではいるものの,指導者の任命が主観的であったり,明確な基準が設定されていないことを指摘している5)。加えて,卒後教育を担う指導者の経験年数が浅い6)ことや指導者ごとの教育内容の違い4),経験のみに基づく指導5)が問題視されている。つまり,卒後教育に携わる指導者の質が十分に保証されていないことが,卒後教育の課題の一つとなっている。その解決にはまず,指導者としてどのような能力が求められるのかを明らかにする必要がある。しかし,そのような能力像や,指導者育成プログラムについてJPTAが明示したものは存在しない。

能力像を描く概念として,医療者教育における21世紀の潮流となってきたのが,コンピテンシー基盤型教育(competency-based education:以下,CBE)である。医学教育においては,1994年にSpadyによって「コンピテンシーを修得するためにプログラムや指導,評価は設計されるもの」と紹介された7)。コンピテンシーとは,知識,スキル,価値観,態度などの複数の要素が統合されたものであり,修得を確実にするために評価することが可能なものと定義される8)。そして,CBEは教育の成果に焦点を当てることでプログラムに透明性を持たせ,学習者のみならず利害関係者への説明責任を果たすものである9)。したがって,指導者育成の文脈においても,指導者として修得が求められるコンピテンシーの明確化と,それを基準としたプログラムの設計や実施は,社会に対する指導者の質の担保,ひいては卒後教育の質保証に必要である10)。

指導者のコンピテンシーについては,これまでに包括的なフレームワークがいくつか提唱されてきた11–14)が,各職種の領域固有性15)についてまでは言及されていない。また,文化の違い16)や,学習者と指導者双方の認識17)18)によって描き出される指導者のコンピテンシーが異なることが明らかとなっている。つまり,主体となる文脈の違いによって異なる側面が描き出される可能性があるため,学習者と指導者双方の認識によって指導者のコンピテンシーを明らかにすることが重要である。

理学療法教育分野においても指導者のコンピテンシーが注目され19),海外で行われた研究が散見される20)21)。そのような中,Myersらは修正デルファイ法によって理学療法分野における臨床指導者の24のコンピテンシーと3つの領域を明らかにし,教育理論や成人学習理論などに基づいた教育の重要性を示唆している22)。一方で,学習者と指導者の認識の差も指摘されており23),Alexandersらは,理学療法学生の認識から理想的な指導者を明らかにし,親しみやすさの重要性を強調した24)。つまり,指導者には学習者の認識を理解し支援することによって,学習者の自己主導型学習を促すといった姿勢が必要不可欠である。しかし,現在のところ卒後教育の文脈で学習者の認識から指導者のコンピテンシーを明らかにする研究は十分に行われておらず,わが国においては存在しない。

本研究の目的は,卒後教育に携わるPTが指導者として備えるべきコンピテンシーを学習者の認識によって明らかにすることである。

対象および方法

本研究は,学習者に対してフォーカスグループ(focus group:以下,FG)を行う質的研究とした。コンピテンシーを学習者と指導者の関係や文脈の中で相対的に形成される複数の存在とみなし,学習者の経験に基づく認識から良い指導者像を明らかにすることで,指導者が備えるべきコンピテンシーとしての理論生成を目指した。よって,この立場を社会構成主義パラダイムとして位置づけた25)。

対象は,三重県内の病院や診療所,介護老人保健施設など(養成校を除く)に勤務しているPT,かつ,実務経験が1~3年で指導者からの指導を受けた経験があるPTを選定基準とし,入職後,担当指導者による指導を継続的(入職後おおむね3カ月以上)に受けていない者,もしくは何かしらの理由で担当指導者が不在となった者を除外基準とした。なお,今回は学習者を対象とするため,わが国での卒後教育においてPTが独力で自立し理学療法業務を行えるようになるまでに必要な期間をおおむね3年程度とする先行研究5)を参考に,選定基準を設定した。卒後教育の現場で日常業務や臨床の指導などを行う担当指導者を任命している施設の中から著者の知人やその知人の紹介によって参加者を募集し,本研究について口頭もしくは書面で説明の上,参加への同意を得た。

データ収集は,オンライン会議システムを用いて参加者に対して60分程度のFGを実施し,事前に許可を得た上で録音・録画を行った。FGでは,参加者間の相互作用によってより自然な発言を引き出すことを目指すが,参加者間の影響から一部の意見が強調されたり,発言しにくい参加者の視点が十分に表出されなかったりする可能性があり,すべての参加者から十分に豊かなデータを収集するためのガイドが必要となる。そこで,インタビューガイドの作成における5段階プロセス26)と文献レビューを参考に予備的なインタビューガイドを作成し,参加者と同質の集団にプレテストを行った上で修正したものをインタビューガイド(表1)とした。

表1 インタビューガイド

1自己紹介(著者)と挨拶
2個人情報等の取扱いと守秘義務録音・録画,インタビューノート作成への同意確認
3目的本研究の目的の説明
4参加者アイスブレイクを兼ねて,参加者の自己紹介
5質問内容「今から皆さんに対していくつか質問をさせていただきますが,本研究で扱う指導者とは,日常業務や臨床場面で皆さんに対しての教育を主に担当している理学療法士の先輩をイメージしていただければと思います.それでは,皆さんがこれまでに卒後教育で指導者から受けてきた指導を思い返してみてください.」 

〈main question〉 
「これまでに,皆さんが指導者に対して良い指導者と感じた場面があったら,その指導者はどのような人であったか教えていただけますか.ただし,名前は伏せてください.」 

〈sub-questions〉 
①「良い指導者には理学療法士としてどのような特徴がありましたか.」 
②「良い指導者には教育者としてどのような特徴がありましたか.」 
③「良い指導者にはヒトとしてどのような特徴がありましたか.」 
④「何か他に,言い残したことはありませんか.」
6クロージング

FG進行のガイドとして作成した.質問内容や順番は,参加者が自然に発言しやすいよう,適宜調整することとした.

FGによって収集したデータは,録音・録画データから逐語録を作成した後に意味のあるデータを抜き出し,modified grounded theory approach(以下,M-GTA)27)にて分析した。本研究では,学習者が卒後教育で指導者からの指導を受けた経験という文脈を保ちつつ,データ分析の過程でそれぞれの影響関係を踏まえて理論生成ができるM-GTAを選択した。分析は,分析ワークシートの作成,各概念を関連づけたカテゴリーと結果図の生成,ストーリーラインの作成という手順で行い,概念生成の完成度とカテゴリー間の関係を示す結果図およびストーリーラインのレベルから理論的飽和化を判断した27)。

本研究の第一著者は,卒後教育現場で実務経験を積んだPTであり,参加者への問いかけや著者の主体的解釈において,第一著者自身が持つ,良い指導者像についての認識が影響する可能性が考えられた。そこで,データ収集や分析の際には,収集したデータに対する第一著者の解釈を記述することで省察し,研究方法を熟知した共同著者による定期的な確認を受けながら分析を行った28)。

FGの際には,「良い指導者の特徴」について問うことをmain questionとしたが,より具体的に参加者の想起や発言を促すきっかけとなる感受概念として,sub-questionsにSutkinらのレビューにおける3つのドメイン(ヒト・PT・教育者)12)を理論的枠組みとして活用した。また,データ分析の段階においてもこれら3つのドメインを演繹的に活用することで解釈主義的な理論生成を目指した29)。

本研究は,岐阜大学大学院医学系研究科医学研究等倫理審査委員会にて一括審査,承認され,各共同研究機関の長の許可を得た上で実施した(許可番号:許可2024-317)。

結果

同意が得られた参加者は21名で,4~5名からなるFGを5回実施した(2025年4月~7月,FGの参加者特性を表2に示す)。4回目のFG以降,新たなコンピテンシー(概念)が特定されなかったため分析ワークシートによる概念生成と結果図およびストーリーラインの完成度を考慮し,5回目のFGをもって飽和化と判断した。FGによって抽出されたテクストから21のコンピテンシー,7つのカテゴリー,3つのコア・カテゴリーが特定された。Sutkinらのレビューにおける3つのドメイン12)を参考に,21のコンピテンシーをヒトとしての特徴(3),PTとしての特徴(5),教育者としての特徴(13)に分類した(表3)。以下,3つのコア・カテゴリーごとに,それぞれのカテゴリーとそれに含まれるコンピテンシーについて述べる。また,「斜体」はFGによって収集したデータの引用である。

表2 FGの参加者特性

FGn男:女平均年齢
(歳±SD)
平均実務期間
(カ月±SD)
FG実施時までの経験領域主な対象疾患
(FG実施時)
154 : 124.8±2.914.4±5.4回復期脳血管疾患,運動器疾患
243 : 123.8±0.522.0±6.0回復期,生活期脳血管疾患,運動器疾患,廃用症候群,内部障害
341 : 323.5±0.620.0±6.9亜急性期,回復期,療養,通所,訪問脳血管疾患,運動器疾患,廃用症候群,進行性疾患
441 : 323.5±0.620.0±6.9亜急性期,回復期,療養,通所,訪問,外来脳血管疾患,運動器疾患
543 : 123.8±0.521.0±6.9回復期,小児脳血管疾患,運動器疾患,廃用症候群,小児疾患

参加者の所属施設は,いずれも回復期リハビリテーション病棟を保有しており,数十名規模のPTが在籍していた.卒後教育において,ジョブローテーションの実施時期や頻度については,参加者や施設間で異なる状況であった.

 

表3 〈コア・カテゴリー〉,[カテゴリー],【コンピテンシー】

〈コア・カテゴリー〉[カテゴリー]【コンピテンシー】
〈共感的態度
;ヒトとしての特徴〉
[他者への思いやり]【相手を尊重し相手の目線に立ってコミュニケーションする】
【他者の意見を取り入れながら前向きに物事を進める】
【自律することで周囲に気配りができる余裕を持つ】
〈理学療法士としての模範
;理学療法士としての特徴〉
[患者中心視点と多職種協働]【患者の声に耳を傾け良い関係性を構築する】
【患者のための多職種協働において役割を果たす】
[確かな臨床能力と向上心]【理学療法を進める上で必要な情報を理解し聞き取る】
【幅広い知識や技術と臨床経験に基づき結果を出す】
【理学療法士としての自己研鑽を継続する】
〈学びの伴走者
;教育者としての特徴〉
[学習者への寄り添い]【学習者に寄り添い相談しやすい雰囲気を作る】
【学習者からの依頼や相談に速やかに対応する】
[学習者の状況把握とフィードバック]【学習者の能力や理解度を一緒に確認し整理する】
【学習者を肯定しつつ課題を具体的にフィードバックする】
【学習者とともに業務の進捗を管理しフォローする】
【学習者の困りごとに気づき学習者と関わる】
[学習者にとっての模範と柔軟な指導]【学習者の成長や能力に応じて指導量を調整する】
【学習者の課題に応じて指導方法を使い分ける】
【学習者に手本を示し具体的なアドバイスをする】
【社会人としての礼儀やマナーを指導する】
[学習者の動機づけと主体性の促進]【学習者の考えを聞く機会を持ちながら学習者の主体性を促す】
【成長に対する称賛や成功体験を通して学習者を動機づける】
【業務を任せて学習者の自立心を促す】

[カテゴリー]は,複数の【コンピテンシー】(概念)を共通点でまとめた,より上位の概念である.〈コア・カテゴリー〉は,複数のカテゴリーをまとめた中心的な概念である.

1. コア・カテゴリー:〈共感的態度;ヒトとしての特徴〉

1) カテゴリー:[他者への思いやり]

相手の意見をしっかりと聞き,他者を理解しようとする態度や,そのための心の余裕を持つことの重要性を意味する。

a) 【相手を尊重し相手の目線に立ってコミュニケーションする】

学習者は,患者や利用者,同僚など相手の特徴を捉えながら,相手と同じ目線で双方向のコミュニケーションが行える人は尊敬できると認識していた。また,相手を理解しようとする気持ちは,患者や他職種,学習者との信頼関係に影響する重要な特徴と認識していた。

「思いやりの気持ちがあるからこそ…すごい信用してくれるし,なんか頼られる」(FG2)

b) 【他者の意見を取り入れながら前向きに物事を進める】

他者の意見を参考にしながら失敗があっても明るく前向きに,次につなげていこうと考えられる姿勢を特徴と捉えていた。

「年下でも年上でも意見を聞いて次につなげていける人」(FG5)

c) 【自律することで周囲に気配りができる余裕を持つ】

効率よく業務を行うことやプライベートを充実させることで心に余裕を持ち,周囲に気配りできる指導者を見習いたいと感じていた。

「それだけ自分に余裕があったら,そういう周りもしっかり見えてるのかな」(FG3)

2. コア・カテゴリー:〈PTとしての模範;PTとしての特徴〉

1) カテゴリー:[患者中心視点と多職種協働]

患者の意見をしっかりと聞き,関係性を築くことや,患者のために多職種と協働することの重要性を意味する。

a) 【患者の声に耳を傾け良い関係性を構築する】

患者の表情や言動を確認しながら話を聞き,患者との距離を縮めて関係性を構築できることは良いPTとしての特徴であり,介入を進める上で重要な態度と認識していた。

「関係性を築いていくっていうとこからこう始められているっていう方はすごくこういいなあと思います」(FG5)

b) 【患者のための多職種協働において役割を果たす】

患者のために献身的に行動し,多職種と協働することができるPTを尊敬していた。連携する相手には患者家族や外部関係者も含んでおり,相手の属性や親和性にかかわらずコミュニケーションをとることが重要と考えていた。

「患者さんのためにできることは何でもするぞって」(FG2)

2) カテゴリー:[確かな臨床能力と向上心]

理学療法を進める上で必要な情報を収集する力に加えて,知識や技術を兼ね備えており,継続的に研鑽することの重要性を意味する。

a) 【理学療法を進める上で必要な情報を理解し聞き取る】

理学療法を進める上で必要な情報を理解し,深く細かなところまで聞き取ることができる点を自身と指導者の違いとして認識していた。特に,病前や退院後,生活面など患者にとって必要な情報を収集するといった点で重要性を認識していた。

「先輩とかだとやっぱ…もっと深く細かいところまで…聞かなければいけない情報を知ってるので」(FG1)

b) 【幅広い知識や技術と臨床経験に基づき結果を出す】

実践で結果を出せることが良いPTとしての特徴であり,必要な知識などは関わる領域によって異なるため,幅広い知識や技術,臨床経験が必要であると認識していた。

「技術的な面とか,やっぱり知識も幅広く持ってるのもそうなんですけど,患者さんからもやっぱりこの人はいいよっていう声は聞こえてくる」(FG3)

c) 【PTとしての自己研鑽を継続する】

PTとしての自己研鑽を継続する姿を,学習者は尊敬の対象とみなしていた。自己研鑽が臨床能力を基盤として支えているだけでなく,自己研鑽に励む指導者の指導は説得力を増し,患者の反応にも差異が生じると認識していた。

「いい指導者と思う方は,自己研鑽,すごく頑張ってる印象があって…しっかり勉強して知識蓄えているので…説得力がありますし」(FG4)

3. コア・カテゴリー:〈学びの伴走者;教育者としての特徴〉

1) カテゴリー:[学習者への寄り添い]

学習者が安心感を持てるような雰囲気作りや,学習者への指導を優先して行う姿勢の重要性を意味する。

a) 【学習者に寄り添い相談しやすい雰囲気を作る】

どんな時でも学習者に寄り添いながら指導者が進んで学習者への声かけなどを行い,すぐに相談しやすい雰囲気を作ることは,学習者の安心感や指導者に対する信頼構築につながると考えていた。些細なコミュニケーションをきっかけに指導者からの支援につながることもあり,学習者にとっての相談しやすい雰囲気や関わりは,指導者からの支援につながるきっかけとして重要な位置づけと認識していた。

「頼りになるというか,もう安心して相談できる先生っていうところが」(FG1)

b) 【学習者からの依頼や相談に速やかに対応する】

学習者への指導を後回しにすることなく優先して依頼や相談に対応してほしいと考えていた。

「わからないことを聞いた時に,まあ早く対処していただいたり」(FG1)

2) カテゴリー:[学習者の状況把握とフィードバック]

学習者の置かれた状況を学習者とともに確認し,学習者が課題を理解しやすいようにフィードバックすることの重要性を意味する。

a) 【学習者の能力や理解度を一緒に確認し整理する】

学習者の能力や理解度を一緒に確認して整理するために関わる機会を定期的に持ってほしいと望んでいた。

「こちらに現状把握というか,今最近どうっていうのは聞いてもらえた方が…まあ定期的には聞いてほしい」(FG1)

b) 【学習者を肯定しつつ課題を具体的にフィードバックする】

学習者を否定することなく,学習者が課題を理解しやすい形で具体的にフィードバックしてほしいと考えていた。間違いを正しく指摘されることを求めていたが,支持的なフィードバックを併せて求めたいと認識していた。

「ダメなところだけじゃなくて,こういういいところもあるけど,こういう課題があるよねって」(FG3)

c) 【学習者とともに業務の進捗を管理しフォローする】

業務の進捗を一緒に管理し,学習者が処理しきれない時には支援できる指導者を求めていた。また,業務負担によって体調面に影響がないかなどの確認も支援の内容に含んで考えていた。

「書類期限の漏れがないように,まあ一緒に管理してもらったり」(FG1)

d) 【学習者の困りごとに気づき学習者と関わる】

広い視野を持ち学習者の状況に気を配りながら,困りごとを把握して関わってもらいたいと考えていた。患者介入で指導者が学習者の代行をするタイミングは,学習者の困りごとに関与する良い機会と認識していた。

「なんかこうあたふたしたりしてるとこう気づいて声かけてくれる」(FG2)

3) カテゴリー:[学習者にとっての模範と柔軟な指導]

社会人としての手本を示し,学習者の能力に応じてさまざまな方法を使い分けながら,PTとしての指導を行うことの重要性を意味する。

a) 【学習者の成長や能力に応じて指導量を調整する】

学習者が自分でできることが増えた際には,学習者との距離を取ったりしながら関わりを調整できる指導者を求めていた。一方で,指導者にまだ教えてもらう関係性でいたいといった学習者の葛藤を感じていた。

「自分のできることに合わせた距離感っていうのをしてもらえるが,一番いいのかなというふうには思います」(FG1)

b) 【学習者の課題に応じて指導方法を使い分ける】

学習者の課題に応じてon-the-job trainingやoff-the-job training(以下,Off-JT)といった指導方法を使い分けて対応することができる指導者を求めていた。

「なんかその臨床時間の中だと,やっぱり時間が結構制限されててでなんか…いろんなこう柔軟に教えてもらえるのがOff-JTで結構あったので」(FG2)

c) 【学習者に手本を示し具体的なアドバイスをする】

学習者に対して手本を示し,時には学習者の立場に沿った形で具体的な指導やアドバイスを行える指導者を求めていた。

「コツとかを具体的に教えてくださりました」(FG4)

d) 【社会人としての礼儀やマナーを指導する】

社会人としての礼儀やマナーについては養成校で指導を受けるが,社会人としての経験が乏しい中で,言葉遣いや名刺交換などについて社会人になってから改めて学ばせてくれる指導者に感謝していた。

「言葉遣いとかちょっと気をつけたりとかっていうなかなか自分では気づけないところを指摘していただいた時とかはすごく参考になった」(FG3)

4) カテゴリー:[学習者の動機づけと主体性の促進]

学習者を成長や成功体験によって動機づけ,学習者の主体性を促すための関わりを持つことの重要性を意味する。

a) 【学習者の考えを聞く機会を持ちながら学習者の主体性を促す】

学習者が主体性を持って考える力を養うことができるように,学習者の考えを聞く機会を設けながら必要に応じて指摘する指導者を求めていた。

「私たちのまず意見を聞いてから,その後にここが足りないとか教えてくれる指導者のがいいのかなと思うようになりました」(FG4)

b) 【成長に対する称賛や成功体験を通して学習者を動機づける】

学習者は,成長に対しての称賛を求めており,成功体験を通して動機づけを高めていた。指導者からの指示がなくても主体的に業務を遂行できるようになることで,学習者は自らの成長や自立を感じていた。

「たくさん褒めてくれるのがいいです」(FG2)

c) 【業務を任せて学習者の自立心を促す】

学習者を信頼し業務を任せることで,学習者が自ら考えて行動できるように促してほしいと考えていた。

「自立が早かったんで,なんかそれで逆にこう自分で考えないといけないなとか」(FG2)

4. 結果図(図1)

各コンピテンシーを関連づけ特定された7つのカテゴリーと3つのコア・カテゴリーを用いて関係性を構造化し,学習者の認識から明らかとなった良い指導者像の結果図を生成した。

図1 結果図

〈コア・カテゴリー〉と[カテゴリー]を用いて,学習者の認識から明らかとなった良い指導者像を表している.図中の実線矢印は,同一の〈コア・カテゴリー〉内における他[カテゴリー]への影響を,点線矢印は異なる〈コア・カテゴリー〉間での他[カテゴリー]への影響を示している.また,双方向の実線矢印は,[カテゴリー]間での双方向性の影響を示している.

5. ストーリーライン

養成校を卒業して間もないPTの認識によって明らかとなった良い指導者像とは,〈共感的態度〉を基盤とした〈PTとしての模範〉であり,〈学びの伴走者〉である。[患者中心視点と多職種協働]と[確かな臨床能力と向上心]を兼ね備えた指導者は,学習者にとって尊敬や信頼の対象であり,[他者への思いやり]は患者や他職種,学習者との信頼関係を構築する上で欠かすことができない。また,[学習者への寄り添い]は,指導やフィードバックなどの学習者支援を行う際に,学習者の心理的安全性を保証する。

考察

本研究は,卒後教育に携わるPTが指導者として備えるべきコンピテンシーを学習者の認識から特定し,良い指導者像を明らかにした,わが国で初めての質的研究である。本研究において明らかとなった良い指導者像は,〈共感的態度〉が〈PTとしての模範〉と〈学びの伴走者〉の基盤となっており,21のコンピテンシーが抽出された。

その中でも,【学習者に寄り添い相談しやすい雰囲気を作る】は,学習者が指導者からの指導やフィードバックなどを受ける際の心理的安全性を保証する上で学習者が重要視していたコンピテンシーの一つであった。Alexandersらは,指導者に対する親しみやすさが学生と指導者の信頼関係につながりフィードバックの質を向上させると述べており24),Telioらは,学習者と指導者の信頼関係が基盤となってより効果的なフィードバックなどの支援につながることを示唆している30)。これらの先行研究に続けて,本研究で特定された[学習者への寄り添い]は[学習者の動機づけと主体性の促進],[学習者の状況把握とフィードバック],[学習者にとっての模範と柔軟な指導]の基盤として,より効果的な学習者支援を可能にするための重要な教育者としての特徴だと明らかにできた。

また,学習者は,指導者から進んで学習者との関係性に働きかけることを求めていた一方で,自らの成長に応じて指導者から自立したいとの葛藤も抱いており,学習者の状況を把握しながら学習者の成長に応じて関わることが指導者には求められることが示唆された。

Sutkinらのレビューでは,指導者を真に卓越させる要素は,医学知識や学習目標設定といった認知的スキル習得よりも,関係性に基づく非認知的スキルに依存していると述べており12),本研究では,[他者への思いやり]や[学習者への寄り添い]といった関係性構築に関わる非認知スキルがより具体的に抽出される結果となった。一方で,Myersらは修正デルファイ法によって指導者のコンピテンシーを明らかにしているが,学習者中心性について,学習者と指導者の関係性構築よりも教育理論や成人学習理論などに基づいた教育者としての特徴を強調している22)。これは,本研究が学習者の認識に基づいた結果であるのに対し,Myersらは指導者を対象としている22)ことや,理学療法教育体制の異なる米国と日本の文脈差が影響した可能性がある。

また,本研究において指導者が備えるべきコンピテンシーとして知識や技能の習得に関わる認知的スキルと同様に,学習者と指導者の関係性構築に関わる非認知スキルも重要視される結果となったが,これには参加者の特性が影響した可能性が考えられる。前述のとおり,指導者は教育理論や成人学習理論に基づく指導方法についての認識を持つ傾向がある22)のに対して,学習者は学びにおける指導者との関係性に関心があり,今回対象とした卒前教育から卒後教育への移行期における学習者は,その傾向がより顕著に現れた可能性がある。この点については,参加者の実務経験年数が増えるにつれて認識も変化する可能性があるが,追加の研究によって明らかにする必要性がある。

本研究で対象とした学習者の学ぶ環境は,卒前教育から卒後教育といった新たな環境への変化に伴いストレスの多い移行期にあり,この時期には自己主導的に学ぶ方法の修得が求められる31)。また,成人学習理論によれば,人間は成熟するにつれて指導者依存型から自己主導型へと自己概念が変容するといわれている32)。一方で,本研究で対象とした学習者は,自己主導的な学びに加えて,安心して学べる環境を求めていた。つまり,これは,マズローの欲求階層説33)における欠乏欲求として,学習者の所属の欲求,安心と安全の欲求に該当し,[他者への思いやり]や[学習者への寄り添い],[学習者の状況把握とフィードバック]といったカテゴリーに表現されている。また,学習者の動機づけにおいて学習者は指導者からの称賛を求めており,[学習者の動機づけと主体性の促進]が,承認の欲求に該当する。マズローの欲求階層説によると,自己実現の欲求(成長欲求)の基盤には欠乏欲求があり,まずは,これが満たされていることが重要とされる33)。卒前教育から卒後教育への移行期における学習者は自己主導的な学びを願望しつつも,まずは,欠乏欲求を満たしてもらう環境づくりを指導者に求めており,これが指導者の備えるべきコンピテンシーとして結果に影響した可能性がある。

本研究の結果は,良い指導者像に関する先行研究で指摘されてきた,学習者と指導者の間における信頼関係の構築を含む非認知的スキルの重要性12)24)30)を支持するものであった。さらに本研究は,学習者から求められる指導者像が,学習者を取り巻く環境にも影響されるという指導者のコンピテンシーの文脈依存性という新たな知見を提供しうる。

一方で,本研究においてはいくつかの限界が存在する。参加者のサンプリングバイアスとして参加者の地域性や経験領域,疾患などの偏りが存在したため,参加者が異なることで新たなコンピテンシーが抽出される可能性がある。さらに,指導者のコンピテンシーを検討するにあたっては,学習者の認識だけではなく指導者自身の視点など多角的な視点を含める必要があり,この点については引き続き,質的研究によって明らかにする必要がある。

結論

卒後教育に携わるPTが指導者として備えるべきコンピテンシーを明らかにするために,学習者に対してのFGを行い,21のコンピテンシーが抽出された。学習者の認識によって明らかとなった良い指導者像は,〈共感的態度〉が〈PTとしての模範〉と〈学びの伴走者〉の基盤となっており,[学習者への寄り添い]は学習者支援における学習者の心理的安全性を確保する上で欠かすことのできない教育者としての特徴であることが示唆された。

本研究結果は,卒後教育に携わるPTが指導者として備えるべきコンピテンシーをわが国において初めて明らかにした研究であり,指導者育成プログラムの開発に資するものである。

謝辞

本研究にご協力いただいた参加者および関係者の皆様,本論文の執筆にあたりご指導・ご助言を賜った皆様に深く感謝の意を表する。また,岐阜大学医学教育開発研究センターの藤井梨恵子氏には,本研究の実施にあたり研究運営などにご尽力いただいた。ここに重ねて深謝する。

助成

本研究の実施にあたり,外部からの研究助成は受けていない。

利益相反

本論文に関して,開示すべき利益相反はない。

文献
 
© 2026 Japanese Society of Physical Therapy

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https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
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