Journal of Innovation Management
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Print ISSN : 1349-2233
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Consumer Engagement Behaviors on Facebook Pages: How Likes and Comments are Different
Toshie Takeuchi
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2020 Volume 17 Pages 59-88

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要旨

ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)、特にFacebookの台頭によって、ブランドはこのデジタル空間で消費者と関わりを持つようになった。Facebookページは、従来のコミュニケーション・チャネルと統合できる追加的なものであり、マーケターにとって、Facebookページをどのように活用して消費者を引き込み、ブランドとの関係を強化することができるかは重要課題である。しかしながら、Facebookページにおける消費者エンゲージメント行動に関する学術的研究はあまり行われていない。そこで本研究では、1,094人のFacebookユーザーを対象としたアンケート調査を通じて、Facebookページ独自の特性(例えば、便益、信頼、コミットメント、相互作用、ブランド・ロイヤルティ)が消費者エンゲージメント行動に影響を与えるかどうか、また、どのように影響するのかを検討する。消費者エンゲージメント行動は、Facebookページに対する「いいね」意図、コメント意図、シェア意図で測定した。分析の結果、次の知見が得られた。

「いいね」意図:快楽的便益、信頼、コミットメント、推奨、「いいね」経験がプラスの影響を及ぼしている。快楽的便益は「いいね」意図に対してのみ有意である。

コメント意図:社会的便益、相互作用、コミットメント、推奨がプラスの効果を生んでいる。社会的便益はコメント意図に対してのみ有意(10%水準)である。「いいね」経験は有意ではなく、コメント経験がプラスに働いている。また、男性の方が女性より大きな影響を与えている。

シェア意図:信頼、相互作用、コミットメント、推奨が有意な予測因子である。また、コメント経験もプラスの影響を与えている。

Abstract

With the rise of social media, particularly Facebook, brands have started engaging with consumers in this digital space. Facebook pages have become an additional communication channel that could be integrated with the traditional ones, and a key challenge for marketers is how Facebook pages can be leveraged to engage consumers and enhance their relationship with brands. However, little academic research has been done on consumer engagement behaviors on Facebook pages. Through a questionnaire survey of 1,094 Facebook users, this study investigates whether and how the unique characteristics (such as benefits, trust, commitment, interactivity and brand loyalty) of Facebook pages affect consumer engagement behaviors. Consumer engagement behaviors are measured by intention to “like”, comment on and share Facebook pages. The findings of the empirical analysis are as follows:

“Like” intention: Hedonic benefit, trust, commitment, recommendation, and “like” experience have a positive influence on “like” intention. Hedonic benefit is significant only for “like” intention.

Comment intention: Social benefit, interactivity, commitment and recommendation have a positive effect. Social benefit is significant only for comment intention. “Like” experience is not significant and comment experience has a positive influence. In addition, men have a greater influence than women.

Share intention: Trust, interactivity, commitment, and recommendation are significant predictors. Comment experience also has a positive effect.

1.  はじめに

総務省が公表している「平成30年版 情報通信白書」1によると、消費者は、個人間のつながりの創出や維持のためというよりも、情報入手とその消費の場としてのメリットを感じてソーシャルメディアを活用しており、情報収集や暇つぶしの手段という受け身の利用である。また、同白書では、SNSの利用状況をアメリカ、イギリス、ドイツと比較している。これら3ヵ国ではFacebook利用者が多く、Facebookに頻繁に書き込みをする割合はアメリカ45.7%、イギリス34.9%、ドイツ25.9%と高いのに対して、日本は5.5%と低い。しかしながら、一見受け身に見える日本の消費者も、低関与学習モデルで説明されるTVCMを受動的に視聴する消費者とは異なるだろう。なぜならば、Facebookの閲覧を開始するのは消費者自身だからである。したがって、情報共有やメッセージの発信という形で貢献することなく、単に閲覧して有効な情報を利用するだけという受動的な消費者も、コメントを書かないまでも「いいね」を押す可能性はあると推測される。

一方、情報提供をする企業側に目を向けると、SNSの普及に伴い、マーケティングにおける情報提供やコミュニケーションが大幅に変更された。企業のマーケティング担当者は、ソーシャルメディアを「ブランドをプロモーションするための新しいマーケティングツール」として認識し、SNSを利用してブランド・コミュニティを作成し、ブランドと消費者とのリレーションシップを形成する新しいコミュニケーション・チャネルとして活用している。これらは従来のコミュニケーション手法に代替するものではなく、従来の手法と補完しあい、統合可能な新たなチャネルである。その利点は、地理的に制限されることなく通信でき、消費者に対するマーケティングを個人レベルで強化するために使用できる点にある。また、参加メンバーからのコメントを通じて、あるいは会話を観察することによって、企業は消費者をより深く理解できるようになる。さらに、「いいね」やシェアによって、投稿に対する態度が表明されるため、企業はダイレクトな反応を把握できる点も利点である。しかしながら、投稿に対してなぜ「いいね」を押すのか、どのような相互作用効果が働いてコメントを書く気持ちになるのか等については、ほとんど解明されていない。

一般的には高い人気を得ているSNSではあるが、企業によるブランド・コミュニティはまだ高い期待レベルには達していない。能動的な消費者が多いアメリカ、イギリス、ドイツに比して、積極的にコミュニティ活動に参加する消費者が少ない日本の現状に鑑みると、能動的な消費者、すわなち、ファンを増やすこと、また、ファンとの関係性を維持・強化することは、企業が展開するFacebookページにとって重要課題である。そこで本研究では、なぜ「いいね」を押すのか、コメントを書くのか、シェアするのかという理由を解明することを目的とし、3つのエンゲージメント行動を促す要因とその差異を検証する。

2.  エンゲージメントの概念化とその実証に関する先行研究

本研究で分析対象とするFacebookページを含め、ブランドページは特定のブランドに対して興味を持つ消費者が集まるネットワーク上のブランド・コミュニティである。Muniz and O'Guinn(2001)は、ブランド・コミュニティを「ブランドのユーザー間で構造化された社会的関係に基づく、地理的に特化していない特殊なコミュニティ」と定義している。インターネットの進展に伴い、ネットワーク上に多数のブランド・コミュニティが創出され、メンバーによる交流が活性化された(Algesheimer, Dholakia, & Herrmann, 2005)。中でもFacebookページは、オープンアクセスという特徴があり、多くのファンを獲得でき、情報拡散の点でも有効である(Sicillia, Palazón, & López, 2016竹内, 2019)。Facebookページは、企業にとってコミュニケーション活動に効果的なツールであるだけでなく、顧客と密接な関係を築くことでブランド価値を向上させることができ(Lee, Xiong, & Hu, 2012Zhang, Zhao, & Tan, 2008竹内, 2016竹内, 2018)、単なるコミュニケーション以上の効果、すなわち、リレーションシップやロイヤルティ形成という意味で重要なマーケティングツールである。

以下では、マーケティングの分野で注視されるようになったエンゲージメントという概念を整理し、Facebookページにおける消費者のエンゲージメントを把握することの重要性を検討する。あわせて、「いいね」を押す、コメントを書く、投稿内容をシェアするというエンゲージメント行動がなぜ重要なのか、その理由を論じた上で、そうした行動を促す要因を解明することを目的とした本研究に関連する先行研究について整理する。

2.1  エンゲージメントの概念化

Brodie et al.(2011)によれば、エンゲージメントは社会学、政治学、心理学、教育心理学、社会学、組織行動などの分野に由来し、特定の学問分野内でそれぞれ概念化されている。表1Brodie et al.(2011)Hollebeek(2011b)Lujja and Ö zata(2017)を参考に、マーケティング分野におけるエンゲージメントの概要を一覧にしたものである。マーケティング分野に限定しても、顧客エンゲージメント(Patterson, Yu, & De Ruyter, 20062)、顧客エンゲージメント行動(Van Doorn et al., 2010)、顧客ブランドエンゲージメント(Hollebeek, 2011a, 2011b)、消費者エンゲージメント(Vivek, 2009)、エンゲージメント(Higgins & Scholer, 2009)などが提案されている。これらの研究の多くは、消費者個人内の心理に焦点を当てているが、Van Doorn et al.(2010)は、組織の立場から特定の顧客エンゲージメント行動の効果を検討し、企業中心の視点といえる。本研究では、Facebookページというブランド・コミュニティにおけるエンゲージメントを検討することを目的としており、これと関係の深いエンゲージメントを中心に先行研究を精査する。

表1 マーケティング分野におけるエンゲージメントの定義
著者名(発表年) リサーチ・タイプ コンセプト 定義 測定次元
Avnet and Higgins(2006) 概念的 エンゲージメント 人々が方向を維持する方法で目標を追求するときのほうが、目標との対立や混乱を招くような方法で目標を追求するときよりも、その目標追求へのエンゲージメントを強く経験する。自分の目標追求の方法が自分の方向に合うとき、活動に対するより強い評価的な反応を経験する。 多次元(推定):1.認知的、2.感情的、3.行動的
Higgins(2006) 概念的 エンゲージメント 何かに関与し、占有され、興味を持つこと。 多次元(推定):1.認知的、2.感情的、3.行動的
Bowden(2009) 概念的 顧客エンゲージメント サービスブランドの新規顧客に対して顧客ロイヤルティが形成される基礎となるメカニズム、およびサービスブランドのリピート購入顧客に対してロイヤルティが維持されるメカニズムをモデル化する心理的プロセス。 (測定次元についての言及なし)
Van Doorn et al.(2010) 概念的 顧客エンゲージメント行動 動機付けの要因に起因する、購入を超えたブランドまたは企業に対する顧客の行動の現れ・兆候。 多次元:1.誘意性、2.形式、3.範囲、4.性質、5.顧客の目標
Brodie et al.(2011) 概念的 顧客エンゲージメント 対象となるブランドとのリレーションシップにおける主体/客体とのインタラクティブで共創的な顧客体験により発生する動機付けの状態。 多次元:1.認知的、2.感情的、3.行動的
Hollebeek(2011a) 概念的 顧客ブランドエンゲージメント ブランドとの相互作用における認知、感情、行動の特定のレベルによって特徴付けられる、個々の顧客の動機付け、ブランド関連、文脈に依存する心の状態のレベル。 多次元:1.認知的、2.感情的、3.行動的
Algesheimer et al.(2005) 実証的:定量的 ブランド・コミュニティ・エンゲージメント コミュニティメンバーと交流/協力する消費者の本質的な動機付けを介したブランド・コミュニティと同一性を持つことによるプラスの影響。 多次元:1.功利主義的、2.快楽的、3.社会的
Patterson et al.(2006) 実証的:定量的 顧客エンゲージメント サービス組織との関係における顧客の身体的、認知的、感情的なレベル。 多次元:1.活力、2.献身、3.没頭、4.相互作用
Sprott, Czellar and Spangenberg(2009) 実証的:定量的 自己概念におけるブランドエンゲージメント 重要なブランドを自分の見方の一部として含める傾向がある消費者の傾向を表す個人差。 一次元(感情的)

(出所)筆者作成。

表1 マーケティング分野におけるエンゲージメントの定義(続き)
著者名(発表年) リサーチ・タイプ コンセプト 定義 測定次元
Calder, Malthouse and Schädel(2009) 実証的:定量的 オンラインエンゲージメント さまざまな種類の「経験」の1次構造に現れる2次構造。(web)サイトが自分の生活にどのように適合するかに関する消費者の信念。 多次元:1.刺激とインスピレーション、2.社会的促進、3.一時的、4.自尊心と市民意識、5.本質的な楽しみ、6.功利主義、7.参加と交流、8.コミュニティ
Vivek(2009) 実証的:定性的・定量的 消費者エンゲージメント 消費者の参加の強さ、組織の提供物や組織化された活動とのつながり。 多次元:1.認知、2.熱意、3.相互作用、4.アクティビティ、5.特別な経験
Abdul-Ghani, Hyde and Marshall(2010) 実証的:定性的 エンゲージメント 消費者との接続が必要である(例:特定のメディアと)。 多次元:1.功利主義的、2.快楽的、3.社会的
Calder and Malthouse(2010) 実証的:定量的 メディアエンゲージメント 動機付けになる経験。特定のメディアに接続される。 多次元:1.移動、2.苛立ち、3.プロモーション、4.拒否
Gambetti and Graffigna(2010) 実証的:定量的 エンゲージメント 特定の定義ではなく、次のマーケティングに基礎を置いたサブフォームが確認される:消費者、顧客、ブランド、広告、メディア。 サブフォームの次元:1.ソフト(関係性)、2.実務的(経営上)
Phillips and McQuarrie(2010) 実証的:定性的 広告エンゲージメント 「エンゲージメントの本質」は説得への手段である。 多次元:消費者は次の目的で広告にエンゲージする。1.没頭、2.感情、3.識別、4.行動
Hollebeek(2011b) 実証的:定性的 顧客ブランドエンゲージメント 特定のブランドとの相互作用に対する顧客の認知的、感情的、行動的投資のレベル。 多次元:1.認知的、2.感情的、3.行動的
Brodie et al.(2013) 実証的:定性的 消費者エンゲージメント 仮想ブランド・コミュニティにおける消費者エンゲージメントは消費者とブランド、あるいは他のメンバーとの特定の相互作用のある経験を含む。関係性のある交換プロセスで中心的な役割を果たす。 多次元:1.認知的、2.感情的、3.行動的
Hollebeek et al.(2014) 実証的:定量的 消費者ブランドエンゲージメント 特定の消費者とブランドとの相互作用の最中に生じる、またはそれに関連する、消費者を積極的に引きつける認知、感情、行動的なブランド関連の活動。 多次元:1.認知処理、2.感情、3.活性化

(出所)筆者作成。

Brodie et al.(2013)は、ブランド・コミュニティ研究の文脈で「エンゲージメント」という用語が広範に使用されているにもかかわらず、この用語の根底にある理論的な意味と基盤は必ずしも解明されていないと指摘している。表1で、マーケティング分野におけるエンゲージメントの定義をすべて網羅できたわけではないが、表1を見ただけでも確かに統一的な見解があるとはいえないことがわかる。ブランド・コミュニティ内でのエンゲージメントの初期の定義の1つとして、Algesheimer et al.(2005)を挙げることができる。Algesheimerらは、エンゲージメントとは、コミュニティメンバーと交流し、協力する消費者の本質的な動機を介したブランド・コミュニティと同一性を持つことによるプラスの影響と定義し、エンゲージメントは同一化3から正の影響を受け、規範的な圧力、メンバー継続意図、推奨意図、参加意図に正の影響を与えることを実証している。

Vivek(2009)は、消費者エンゲージメントに着目し、消費者の参加の強さと、組織の提供物や組織化された活動とのつながりと定義した。Van Doorn et al.(2010)は、動機付けの要因に起因し、購入を超えたブランドや企業に焦点を当てた顧客の行動の現れ・兆候としている。エンゲージメントは、企業またはブランドと顧客との関係の強さの測定値としても使用でき、ブランドに対する自信、誠実さ、誇り、情熱の感情が含まれる(McEwen, 2004)。これらは一例であり、エンゲージメントはさまざまな見解から定義されているが、プロセスとして、行動の兆候・現れとして、または心理的な状態として分類できる(Lujja et al., 2017)。Bowden(2009)は、プロセスとしてのエンゲージメントに着目し、エンゲージメントをロイヤルティの形成につながる心理的プロセスと仮定している。前述のVan Doorn et al.(2010)は、購入行動を超えたブランドまたは企業に対する顧客の行動の兆候と定義した。心理状態と定義したのはPatterson et al.(2006)である。社会心理学や組織行動を含むさまざまな学問領域を利用し、エンゲージメントを活力、献身、没頭、および相互作用を特徴とする心理的状態と主張している。さらにBrodie et al.(2013)は、消費者とブランド、コミュニティの他のメンバーとの間で生じる特定のインタラクティブな体験を含むとしている。これらの見解に対して、心理的な状態といった内面やプロセス、行動の兆候から生じる結果として、具体的なエンゲージメント行動を起こすのではないかという疑問が生じる。Chauhan and Pillai(2013)は、ソーシャルメディアへの顧客エンゲージメントは、各チャネルの機能が大幅に異なるため、Facebookページの場合であれば、行動の兆候は「いいね」とコメントという機能によって発生すると論じている。しかしながら、「いいね」やコメントは、行動の兆候というよりもむしろ「エンゲージメント行動」として捉えるほうが妥当ではないかと考える。「いいね」やコメントに着目した研究の詳細については後述することとし、次にエンゲージメントの実証研究について論じる。

2.2  エンゲージメントの測定尺度の開発と実証研究

エンゲージメントの定義も研究により異なるため、その測定尺度についても一般化されているわけではない。So, King, and Sparks(2012)は、ホテルと航空会社の顧客の調査結果に基づいて、同一化、熱意、注意、没頭、および相互作用の5因子25項目のスケール尺度開発と検証を行った。従来のエンゲージメントの研究は探索的であり、実証的研究が欠如しているという問題意識から尺度開発に取り組んだHollebeek, Glynn, and Brodie(2014)は、3つの異なるソーシャルメディアからデータを収集し、認知処理(3項目)、感情(4項目)、活性化(3項目)の3因子計10項目の尺度を提案している。Hollebeekらの尺度を用いて旅行の意思決定に関する実証研究を行ったHarrigan et al.(2018)は、この尺度が観光分野での適合性が高く、自分とブランドのつながり、ブランドの使用意向に対して大きな影響を与えることを見出している。Baldus, Voorhees, and Calantone(2015)は、ブランドに対する影響、ブランドへの情熱、つながり、意見交換・共有、快楽的報酬、功利的報酬、自己表現、最新の情報などの次元を含め、独立変数として11次元の動機を設定し、33項目の尺度に絞り込んでいる。Schivinski, Christodoulides, and Dabrowski(2016)は、コンテンツの消費(5項目)、貢献(6項目)、作成(6項目)の3次元計17項目を導出している。Dessart, Veloutsou, and Morgan-Thomas(2015)は、エンゲージメントの3次元(認知、感情、行動)を特定した上で、感情では熱意、楽しみ、行動では共有、学習、保証、認知では注意、没頭の下位概念を導出して、概念的な枠組みに統合した。この成果に基づいたDessart, Veloutsou, and Morgan-Thomas(2016)は22項目の測定尺度を開発し、検証している。Harrigan et al.(2017)は、前述のSo et al.(2012)が提案した25項目をベースに再検討とロイヤルティへの影響を分析した。その結果、同一化、没頭、相互作用の3因子11項目に整理され、ロイヤルティへの影響を明らかにしている。

Chauhan et al.(2013)が指摘するように、ソーシャルメディアごとに機能が異なり、対象となる製品カテゴリーによっても評価次元が異なるので、一般化したり、統一見解を出したりすること自体が困難である。したがって、ここで主張したいのは、どの尺度が妥当なのかという問題よりむしろ、この数年、多くの研究者がエンゲージメントに焦点を当て、さまざまな角度、アプローチで研究を進めている点である。測定尺度の開発はその端緒といえるが、SNSの台頭により、エンゲージメントという概念が重要なテーマとして位置づけられるようになったのである。このような状況下にあることを前提に、いくつかの実証的研究を概観する。

Vivek(2009)は、開発した消費者エンゲージメントの測定尺度の妥当性を検証する目的で、製品の使用状況(Apple製品)、小売サービス(ショッピング)、活用状況(Second Life)を対象に、消費者エンゲージメントが本質的価値、付帯的な非本質的価値、企業とのつながり、グッドウィル、購入意向、感情的コミットメントなど、他のマーケティング成果とどのように関連するかを分析している。その結果、消費者エンゲージメントは企業とのつながり、グッドウィルに直接影響を与えていること、これらの関係は非本質的(付帯的)価値と本質的価値によって部分的に媒介されること、また、製品の使用状況においては感情的コミットメントに直接影響を与えることなどを明らかにしている。

Laroche et al.(2012)は、ブランド・コミュニティがブランドの信頼とロイヤルティだけでなく、コミュニティの主要な要素と価値創造の実践に与える影響を検討した。その結果、ブランド・コミュニティは共有意識、共有儀式や伝統、社会への義務にプラスの効果があること、これら3つの主要な要素は価値創造の実践、すなわち、ソーシャルネットワーキング、コミュニティ・エンゲージメント、印象の管理、ブランドの使用に対してプラスの効果があることが明らかになった。ブランド・コミュニティは、ブランドの使用と印象の管理に対する実践を通じて、ブランドの信頼やロイヤルティを高めることができるが、ソーシャルネットワーキングとエンゲージメントによる信頼やロイヤルティに対する有意な影響を見出すことはできなかった。Larocheらはブランド・コミュニティ全体を扱っているのに対して、Habibi, Laroche, and Richard(2014)は、ブランド・コミュニティの構成要素をブランド、製品、企業、および他の消費者の4つに分類して、各要素がいかにブランドへの信頼に影響するかを検討した。その結果、他の消費者以外の3要素は信頼に対してプラスの影響を、一方、他の消費者は負の影響を与えること、また、エンゲージメントの高低で消費者を分類して分析を行い、その違いも明らかにした。

Lujja et al.(2017)は、行動的、認知的および感情的エンゲージメントの3つの側面からブランドへのロイヤルティ、満足、信頼、コミットメントに対する影響を検証している。その結果、ブランド・ロイヤルティには感情的および行動的エンゲージメント、満足には感情的エンゲージメント、コミットメントには認知的および行動的エンゲージメント、信頼には行動的および感情的エンゲージメントがそれぞれ重要な予測因子であることを見出している。Islam and Rahman(2017)は、Facebookページの独自性(情報品質、システム品質、相互作用性、報酬)による顧客エンゲージメントへの影響と、結果として生じるブランド・ロイヤルティへの効果を検討した。その結果、各特性が顧客エンゲージメントにプラスの影響を与え、中でも情報品質と相互作用性の影響が強いこと、また、顧客エンゲージメントはロイヤルティに大きなプラスの影響を及ぼすことが明らかになった。

これらの研究では、時間の経過を忘れるほど夢中になったり、没頭したり、楽しんだりする消費者という側面に焦点を当てており、このような状態の消費者が投稿に対して起こす具体的な行動、すなわち、「いいね」を押す、コメントを書く、シェアするといった点については言及していない。Facebookページの特徴は、ブランドと参加メンバー、あるいは、メンバー同士で意見や情報を交換できる点にあり、自ら発信する消費者の存在が無視できないほど大きくなっている。筆者自身の経験を振り返ってみても、コミュニティに対するエンゲージメントが形成され、思わず「いいね」を押したり、時間を要するのもいとわずにコメントを書いたり、友人にも伝えたいと思ってシェアしたり、エンゲージメント行動を起こすこともある。それにもかかわらず、なぜその点に着目しないのかという疑問が生じる。そこで以下では、なぜ「いいね」やコメント、シェアが重要なのか、また、これらに焦点を当てた先行研究について論じる。

2.3  「いいね」、コメント、シェアに着目した先行研究

Facebookページでは、消費者は「いいね」を押す、コメントを書く、シェアするという行動を簡単に取ることができる。今ではそれが当然のことのように普及しているが、従来の企業と消費者間のコミュニケーションでは、このような双方向、多方向のコミュニケーションを取ることは困難であった。「いいね」を押すだけでなく、コメントを書き込む、シェアするという行動を取る消費者は、積極的にコミュニティ活動に参加する能動的な消費者である。冒頭述べた通り、まだ日本ではそのような能動的な消費者は少ないものの、「いいね」を押すだけであれば気軽にできると考える受動的な消費者はかなり多いと推測される。一方、能動的な消費者は、ブランドとの関係を自ら開始するだけでなく、ブランドからの発信にも反応するファンであり、企業としてはその関係を維持、強化する必要がある。しかしながら、なぜ「いいね」を押すのか、コメントを書くのか、シェアするのかといった理由については必ずしも解明されていない。この点に着目した研究を詳しく見ておきたい。

ゲームブランドのFacebookページを対象としたGummerus et al.(2012)は、コミュニティ・エンゲージメント行動(メッセージを読む、「いいね」を押す、コメントを書く)と取引エンゲージメント行動(プレイする、お金を費やす)に分け、社会的便益、娯楽的便益、経済的便益を媒介とした満足度とロイヤルティ(他者への推奨)に対する影響を検討した。その結果、エンゲージメント行動は、受け取る便益に大きな影響を及ぼすこと、満足度に対するコミュニティ・エンゲージメント行動の影響は、社会的便益と娯楽的便益によって部分的に媒介されるのに対し、満足度に対する取引エンゲージメント行動の効果は完全に媒介されることが明らかになった。また、ロイヤルティに対するコミュニティ・エンゲージメント行動の影響は、娯楽的便益によって媒介されることも見出している。しかしながら、行動を予測のための説明変数とするのは因果の方向性が逆ではないかと考える。

Pletikosa and Michahelles(2013)は、食品と飲料カテゴリーを対象に、Facebookページへの「いいね」、コメント、シェアをエンゲージメント変数として、コンテンツやメディアのタイプ、投稿タイミングからの影響を負の2項回帰モデルを用いて検証している。その結果、コンテンツのタイプに関して、「いいね」では、エンターテインメント性の高い投稿が最もエンゲージメントレベルが高く、次いでブランド関連の情報を含む投稿が高いことを見出している。また、コメントでは、エンターテインメント、情報、報酬の順にエンゲージメントが高いことが検証された。メディアのタイプに関しては、相互作用性が高くなるほどエンゲージメントレベルが低くなるという仮説が、「いいね」とコメントの場合、支持された。投稿タイミングに関しては、コメントにおいてのみ、平日の投稿はエンゲージメントレベルが高いことが支持され、ピーク時間に関しては「いいね」では棄却され、コメントでは効果なしという結果が得られた。

インドの高等教育機関のFacebookページを対象に分析したChauhan et al.(2013)は、「いいね」とコメントを従属変数とし、コンテンツのタイプ(テキスト、画像、ビデオ、URL、また、それらの組合せ)、投稿日、投稿頻度、メッセージの関連性(大学に関する内容、卒業生ニュース、学生ニュースなど)を要因として多変量分散分析を実施した。その結果、コンテンツのタイプ、投稿頻度は、「いいね」の数とコメント数に影響を与えるが、投稿日とメッセージの関連性については影響がないことが検証された。

Facebookページにおけるコミュニケーション効果を測る代理指標として「いいね」、コメント、シェア数を用いて検証したDe Vries, Gensler, and Leeflang(2012)Kwok and Yu(2013)に依拠し、Su, Reynolds, and Sun(2015)は、ホテルのFacebookページを対象に実証分析を行った。まずコンテンツ分析によりテーマ、メディア、特性および時間に関連する14の要因を抽出した上で、切片に変量効果を仮定したマルチレベルモデルを用いて分析している。その結果、サービス内容や属性に関する投稿は、Facebookページの魅力を薄めること、ユーモラスな手法で表現された賞および割引情報を含む投稿、あるいは「いいね」の要求で終わる投稿は、「いいね」の数が多いことを見出している。さらに、質問で終わる投稿はより多くのコメントを得る可能性があるが、逆に「いいね」の数に悪影響を及ぼすこと、写真のある投稿や環境に関連した内容を含む投稿は、シェアされる可能性が高くなることが明らかになった。

Gummerus et al.(2012)以外の3つの先行研究は、「いいね」やコメントが投稿内容やメディアのタイプ、投稿タイミングなどのどの要因によって増えるのかを分析し、大変興味深い結果を得ており、企業・ブランドの実務に貢献するという意味で有意義である。しかしながら、メンバーがどのような動機で参加しているのか、また、その心理的な変化、例えば、信頼、コミットメントなどの観点からFacebookページをどのように評価しているのか、過去の「いいね」経験やコメント経験は影響するのかどうかなど、いわゆる情報を受け取る消費者の特性については明らかになっていない。前述の多くの先行研究では、エンゲージメントを説明変数とし、ロイヤルティやリレーションシップ形成に及ぼす影響を検討している。しかしながら、「いいね」やコメント、シェアをエンゲージメント変数とする場合、投稿に対して信頼したり、自分の生活の一部として重要だと感じたり、他のメンバーと情報交換したいという気持ちから、エンゲージメント行動に至るのではないかと考える。言い換えると、エンゲージメントが原因、つまり、先行要因として働くのではなく、投稿を見たり、読んだりすることによって、何らかの反応が起こり、その結果として、エンゲージメント行動としての「いいね」、コメント、シェアが発生すると仮定できる。そこで本研究では、消費者エンゲージメントとは、投稿内容に対する反応によって生じる、消費者の「いいね」・コメント・シェア行動、あるいは、「いいね」・コメント・シェア意図と定義する。

3.  消費者エンゲージメント行動を発生させる要因

3.1  参加動機に関する便益について

Facebookページを含め、ブランドページを成功させるためには新メンバーの参加が必要である(Sicillia et al., 2016)。なぜ人々はブランドとの関係を始めよう、参加しようと思うのか、その参加動機や目的の解明は重要であるが、Sicillia et al.(2016)によれば、この観点からの研究はまだ検討の余地がある。快楽的および功利主義的動機の2つに分類した研究(Babin, Darden, & Griffin, 1994McAlexander, Schouten, & Koenig, 2002Pöyry, Parvinen, & Malmivaara, 2013)では、快楽的動機を内因性、功利主義的動機を外因性として区別している。Pentina, Prybutok, and Zhang(2008)は、仮想コミュニティにおける購買行動の動機を2つに分類し、①参加する主な動機としての取引目的、情報探索、②社会的志向の動機としての社会との一体化、エンターテインメント、ステータスの強化、計5項目を挙げている。Sung et al.(2010)はエンターテインメント、情報、インセンティブ、利便性の4つを探索動機とし、対人的な効用とブランドへの好感度を含め、6つの動機を用いてブランド・コミュニティ利用について検証している。Kuo and Feng(2013)は、コミュニティに対するコミットメントやロイヤルティへの影響を実証するために、知覚便益として学習的便益、社会的便益、自己評価的便益、快楽的便益の4つを用いている。Park and Kim(2014)は、Top10の学術雑誌、インターネットで検索されたオンライン消費者コミュニティに関する記事とワーキングペーパーを対象に包括的にレビューを行った結果、社会的便益、情報的便益、快楽的便益を抽出した。さらに、業界誌、ソーシャルコマースとFacebookマーケティングに関する業界レポートをレビューして、クーポン、プロモーション情報、無料サンプルの受信などの経済的便益も特定した。Jung, Kim, and Kim(2014)で用いているのは、社会的便益と情報的便益の2分類である。機能的、社会・心理的、快楽的、金銭的便益の4次元に分類した研究(Kang, Tang, & Fiore, 2014)では、コミュニティへの参加に対して、社会・心理的、快楽的便益はプラスの影響を及ぼし、機能的、金銭的便益の影響はないと結論づけている。

上記の通り、便益の分類には、共通する次元や表現は異なるものの、内容的には同義の次元もあることが判明した。このような現状を踏まえ、竹内(2019)では、Facebookページを販売促進のためのプロモーションの場ではなく、コミュニケーションのプラットフォームとして活用すべきと主張し、快楽的動機、情報探索動機、社会的動機の3次元で捉えている。そこで、本研究においてもこの考え方を踏襲し、参加動機となる知覚便益を快楽的便益、情報探索便益、社会的便益の3次元で構成する。

3.2  Facebookページに対するリレーションシップ、ロイヤルティについて

Berry(1983)が導入したといわれるリレーションシップという概念は、マーケティング分野におけるパラダイムシフトを起こした(竹内, 2014)。リレーションシップに関する研究は、国内外を問わずいろいろなアプローチで展開されているが、以下では信頼、相互作用、コミットメントの観点から、ブランドページにおけるリレーションシップ形成に関する先行研究を確認する。なお、これらの3変数は相互に関連があり、同一モデル内で検証されることが多いため、先行研究の知見と成果は混在する形でのレビューとなる。また、その結果として形成されるロイヤルティについても、研究の枠組みによっては同時に言及する。

まずそれぞれの定義を確認する。Morgan and Hunt(1994)は、信頼とは「あるグループが交換相手の信頼性と完全性に自信を持っている場合に存在する」と定義している。Gefen(2000)によれば、信頼は対人交流の基本原則であり、相互作用が繰り返されることによって徐々に培われる。Pitta, Franzak, and Fowler(2006)Ha and Perks(2005)は、ブランドが消費時に期待どおりに機能するという消費者の信念であるとしている。したがって、信頼はリスクに対する認識を減らし、ブランドや製品の性能に対する認識を高める上で不可欠な要素である(Ha et al., 2005)。

Jang et al.(2008)は、相互作用を「コミュニティのメンバー間およびメンバーとコミュニティの主催者間の情報交換の程度」と定義し、情報交換や対人交流の活性度、問合せや応答の速度、主催者とメンバーとの交流によって測定されると論じている。Facebookページは、いわゆるマス媒体による一方通行のコミュニケーションではなく、企業とメンバー、あるいはメンバー間での相互作用が生まれ、基本的には双方向のコミュニケーションという形式になる。

コミットメントとは、Morgan et al.(1994)によると、「交換パートナーが、相手との継続的な関係がそれを維持するための最大限の努力を保証するほど重要であると信じること」である。つまり、コミットした当事者は、関係が無期限に持続することを保証するために関係に取り組む価値があると信じている。また、行為や活動の方向性を継続することへの意思であり、リレーションシップを維持したいという願望でもある(Hocutt, 1998)。

Jacoby and Chestnut(1978)において、ブランド・ロイヤルティは、①偏向的な(すなわち、ランダムではない)、②行動的反応(購買)であり、③経時的に現れ、④特定の意思決定ユニットによる、⑤一連のブランドの中から特定の1つ、あるいは複数の代替ブランドに対する、⑥心理的(意思決定、評価の)プロセスの関数であると定義されている。要するに、ブランド・ロイヤルティとはブランドに対する消費者の忠誠心であり、継続してそのブランドを購買するといった行動として現れる。しかしながら、本研究で対象とするネットワーク上で展開されるFacebookページにおいては、②行動的反応を購買に限定する必要はないと考える。例えば、当該ページをたびたび閲覧したいといった再訪意図は、購買の文脈に置き換えると再購買に相当する。また、情報を拡散したい、好意的なクチコミを広げたいといった推奨意図の形成という形でロイヤルティが示されることもあるからである。実証分析については後述するが、Lin and Lu(2011)では、Facebookページ閲覧への継続意図を構成する1項目として友人への推奨を、また、Algesheimer et al.(2005)は友人や親戚への推奨意図を挙げ、Park et al.(2014)においても、友人や親戚へのクチコミ・推奨という観点からロイヤルティを捉えている。

次に、実証分析の観点から先行研究を概観する。Hur, Ahn, and Kim(2011)は、ブランド・コミュニティに対する感情と信頼によるコミットメントへの影響を実証分析した。その結果、信頼、感情のいずれもコミットメントに正の影響を及ぼし、コミットメントが媒介となり、ロイヤルティ(再購買意図、クチコミ)に影響すること、コミットメントは、改善提案などの建設的な苦情よりもクチコミに強い効果を持っていることが明らかになった。社会資本の観点から検討したLin et al.(2011)は、社会的相互作用(構造的次元)を先行要因とし、共有された価値観(認知的次元)と信頼(関係性の次元)にプラスの影響があること、また、共有された価値観と信頼を媒介とした継続使用意図への間接効果のみならず、社会的相互作用からの直接効果があることを見出している。

信頼とコミットメント、態度的ロイヤルティの関係をモデル化したAurier and De Lanauze(2012)は、食品カテゴリーのナショナルブランドを対象に実証分析を行った。その結果、信頼と感情的コミットメントは態度的ロイヤルティに直接影響を及ぼすとともに、信頼は感情的コミットメントにも影響していることが明らかになった。レストランのFacebookページを対象に、Facebookページへの参加度と信頼、コミットメントに対する価格プロモーションの効果を分析したKang, Tang, and Fiore(2015)は、積極的な参加メンバーは、ブランドを信頼できると感じ、コミットメントを高めること、積極的な参加と信頼の間には価格プロモーションの緩和効果があること、特に、積極的な参加は、価格プロモーションに関心の低いメンバーに信頼を生み出すことを見出している。

動機に関する先行研究として既述したKuo et al.(2013)は、コミュニティの相互作用特性として、相互作用、製品情報のシェア、コミュニティへのエンゲージメントの3因子を設定している。分析の結果、相互作用は社会的便益と快楽的動機に、コミュニティへのエンゲージメントは4つの便益、すなわち、学習的便益、社会的便益、自己評価的便益、快楽的便益にプラスの影響があること、また、学習的便益、社会的便益、快楽的便益の3因子はコミットメントに、さらに、競合ブランドに対する反ブランド・ロイヤルティにポジティブな効果をもたらすことが明らかになった。Kim et al.(2008)は、社会的アイデンティティ理論と相互作用理論に依拠し、オンライン・コミュニティへのコミットメントによるブランド・コミットメントへの効果を検証し、コミュニティのアクティブユーザーは非メンバーよりブランドへのコミットメントが強いことを見出している。

社会的支援とwebサイトの品質に着目したLiang, Li, and Turban(2011)は、リレーションシップ品質を信頼、満足、コミットメントの2次因子と仮定している。分析の結果、社会的支援、webサイトの品質は、友人との情報共有意図と継続意図に直接効果があるのみならず、リレーションシップ品質を媒介とした間接効果があることも明らかにした。

ブランドへの愛着4の媒介効果に着目したZhou et al.(2012)は、コミュニティとブランドの両面から、同一化によるコミットメントへの影響について検討した。その結果、コミュニティへのコミットメントからブランドへのコミットメントの直接効果は有意ではなかったが、ブランドへの愛着を経由した間接効果があることを実証している。この研究成果に基づき、Zhang et al.(2013)は、コミュニティへのコミットメントを継続的、感情的、規範的コミットメントの3因子に分類し、ブランドへのコミットメントへの影響を分析した。その結果、ブランドへの愛着は、継続的コミットメントとブランドへのコミットメント間で、また、規範的コミットメントとブランドへのコミットメント間で間接効果を発揮すること、ブランドへの愛着が感情的コミットメントとブランドへのコミットメント間で部分的な媒介効果を発揮することが判明した。Zheng et al.(2015)は、Facebookページへの知覚コスト、知覚便益を先行要因としてコミットメントとブランド・ロイヤルティへの影響を検討し、知覚コストによる参加度、プロモーションへの影響はないが、知覚便益からはプラスの影響があり、それがコミットメントやロイヤルティに正の効果をもたらすと結論づけている。

上記の通り、ブランド・コミュニティを対象としたリレーションシップやロイヤルティに関する研究は多数存在する。実務的にも長期的なファンづくりとリレーションシップの形成は、企業が取り組むべき優先課題である(竹内, 2018)。しかしながら、実際のFacebookページの運営を観察してみると、販売促進プロモーションやキャンペーン告知を高頻度に投稿しているケースも散見される。売上げへの貢献の重要性を否定するわけではないが、それよりもむしろ、企業のFacebookページ担当者を含め、参加している人々が楽しく、そして、対等に会話できる環境が必要ではないか、それによって、「いいね」もコメントも増え、情報共有が活発になるのではないかと考える。上記のリレーションシップとロイヤルティに関する先行研究では、信頼、相互作用、コミットメント、ロイヤルティを独立した変数ではなく、これら変数間で因果関係を仮定して、モデルを構築し、実証分析を行っている。しかしながら、「いいね」、コメント、シェアといったエンゲージメント行動が、消費者のいかなる動機、どのような反応からもたらされるのかを検討することを目的とした本研究では、エンゲージメント行動の3変数をそれぞれ従属変数とするモデルを構築し、動機、リレーションシップやロイヤルティの各変数がいかなる影響を及ぼしているのかを検証するため、説明変数間で因果関係を仮定せずにモデルに組み込むこととする。

3.3  考慮すべきその他の変数について

本研究では、その他の変数として、CSRの観点からの企業ブランド連想、性別、過去の経験を取り上げる。その理由や背景は以下の通りである。

Brown and Dacin(1997)は、企業ブランドへの連想に関する先駆的な研究である。製品への認識に影響を与える企業ブランドの連想として、製品を生産する企業の能力(CA)と企業の社会的責任(CSR)を提案した。その後、この知見に基づき、CAとCSRに着目した研究が行われている(例えば、Sen & Bhattacharya, 2001Gürhan-Canli & Batra, 2004Berens, Van Riel, & Van Bruggen, 2005Xiea & Peng, 2011)。本研究では、Facebookページを分析対象としており、Xiea et al.(2011)が提案しているCSR連想のうち、倫理的CSR(信頼できる情報の公開、公正な競争の遵守、消費者への公平な対応)が関連性が高いと考える。そこでCSRを変数として扱うこととする。

前述のIslam et al.(2017)は、Facebookページの独自性、顧客エンゲージメント、ブランド・ロイヤルティへの効果を検討するとともに、多母集団の同時分析を用いて男女の違いを検証したが、男女間で有意な差異は見られず、オンライン環境での性差が減少していると結論づけている。しかしながら、竹内(2018)は、男性の場合、社会的動機が価値・目的の共有による同一化に大きな影響を及ぼし、リレーションシップ形成の経路も男女間で異なることを実証している。この結果の違いについては推論の域を出ないが、Islam et al.(2017)は学生を、一方、竹内(2018)は20~50代の男女を対象としているために生じた可能性がある。そこで本研究では、改めて男女の違いを検討するため、モデル内に性別の変数を明示的に取り込むこととする。

竹内・西尾(1996)によれば、広告支出や広告投下量(GRP)が売上げ、シェアに及ぼす影響を検証する際、「残存率」や「広告ストック」という変数を入れることにより、その残存効果が実証されている。また、広告想起の残存効果について検討した竹内(2010)では、広告想起継続率という変数を用い、前期の効果を組み込んでいる。そこで本研究においても、「いいね」やコメントの過去の経験による影響が残存すると仮定し、経験をモデルに取り込む変数とする。

4.  仮説の設定

前述のSu et al.(2015)によれば、製品属性に関する投稿は魅力に乏しく、楽しい内容の投稿は「いいね」がより多く押される。質問を投げかける投稿はコメントを得やすいが、逆に「いいね」には悪影響を及ぼす。写真のある投稿や環境に関連した内容を含む投稿は、シェアされやすい。ここで、質問を投げかけるという点に着目すると、投げかけられた質問に対してはその返答としてコメントを書くという行動になる。これは他のメンバーとの関係強化、参加を通じたネットワークの拡大といった社会的便益に関連すると考えられる。また、美しい写真や考えるべき社会的問題に関する内容であれば、他の人にも伝えたい、意見交換したいという気持ちになる、つまり、相互作用効果が働くと考えられる。このような社会的便益や相互作用に関連した行動、すなわち、コメントとシェアは、竹内(2018)の知見に基づき、男性の場合、女性よりも活発に行うと仮定できる。

リレーションシップ変数のうち、信頼とコミットメントは多くの研究で扱われ、エンゲージメントとも強く関係する変数であり、「いいね」やコメント、シェアに影響を及ぼすといえる。ロイヤルティも信頼、コミットメントと同様に考えることができる。そこで、動機とリレーションシップ、ロイヤルティ、その他の変数に関して以下の仮説を設定する。なお、アンケート調査では将来の行動を聴取することはできず、行動意図として測定することになるため、従属変数をそれぞれ「いいね」意図、コメント意図、シェア意図とする。

〈動機に関する仮説〉

H1-1:快楽的便益は、「いいね」意図に対して正の影響を与える。

H1-2:社会的便益は、コメント意図に対して正の影響を与える。

H1-3:情報探索便益は、「いいね」意図、コメント意図、シェア意図に対して正の影響を与える。

〈リレーションシップ変数に関する仮説〉

H2-1:信頼、コミットメントは「いいね」意図、コメント意図、シェア意図のいずれにも正の影響を与える。

H2-2:相互作用は「いいね」に対しては影響しないが、コメント、シェアに対しては正の影響を与える。

〈ロイヤルティ変数に関する仮説〉

H3:推奨意図は「いいね」意図、コメント意図、シェア意図のいずれにも正の影響を与える。

〈企業ブランド連想・CSRに関する仮説〉

H4:CSRは「いいね」意図、コメント意図、シェア意図のいずれにも正の影響を与える。

〈性別に関する仮説〉

H5:男性の場合、コメント意図とシェア意図に対して正の影響を与える。

〈経験に関する仮説〉

H6:「いいね」経験は「いいね」意図に、コメント経験はコメント意図とシェア意図に正の影響を与える。

本研究では、次式の通り、「いいね」意図、コメント意図、シェア意図を従属変数とした2項ロジスティックモデルを用いて、説明変数による影響を分析し、仮説検証を行う。

  

logp1-p=β0+β1x1+β2x2++βrxr

ここで、pは従属変数(「いいね」意図、コメント意図、シェア意図)の確率である。また、x1, …, xrは説明変数、すなわち、快楽的便益、情報探索便益、社会的便益、信頼、相互作用、コミットメント、推奨、CSR、性別ダミー、「いいね」経験ダミー、コメント経験ダミーであり、β0, β1, …, βrはパラメータである。

5.  調査概要

調査対象は男女20~59歳である(マスコミ・調査会社等の関係者は除外する)。エリアは全国とし、県・ブロック別等の割付はしない。2,400サンプルを目標回答数とし、男女×年代の8グループを均等割り付け(各グループ300名)とする。スクリーニングの段階で、回答者がFacebook、Twitter、Instagram、LINE等のSNSを利用し、Facebookのアカウントを所有していることを確認している。また、企業あるいはブランドのFacebookページへの「いいね」やコメントの経験有無を聴取して、本調査の対象者を絞り込んでいる。スクリーニングの段階で、回答候補のFacebookページが50ブランド提示され、その中から本調査で閲覧するFacebookページを1つ選択した上で、閲覧状況(4段階)、「いいね」やコメントの経験有無(4段階)、当該Facebookページへの評価(7段階リッカート尺度)等を回答するという方式を採った。提示する50ブランドは、Digital Dashboard5で公開されているランキングデータを用い、ファン数、投稿数などを参考に選定した。本調査は2018年12月19日(水)~12月21日(金)に行った。

6.  分析に使用するデータの概要

回収目標2,400サンプルに対して、実際の回収数は2,460サンプルであったが、不正回答も散見された。具体的には、Facebookページの評価に先立って聴取した「調査以前の閲覧状況」の質問において、「見たことがない」、「見たかどうか、覚えていない」と回答しているにもかかわらず、その直後の質問である「いいね」やコメント経験の有無に対して、「有」の回答は不正回答である。また、「いいね」経験、コメント経験を「覚えていない」という回答も分析に供することができない。そこで、それらを削除し、データセットを作成した。分析に用いるデータの概要は以下の通りである(表2)。

表2 分析に使用するブランド名、回答数、性別比率、平均年齢
ブランド名 回答数 性別比率 平均年齢 ブランド名 回答数 性別比率 平均年齢
アディダス 50 0.20 35.92 Tポイント 30 0.30 40.60
Amazon 168 0.23 37.40 アンダーアーマー 14 0.36 40.21
ANA 58 0.24 41.62 ユニクロ 28 0.86 36.00
au 34 0.35 36.88 Y! mobile 7 0.00 34.57
アウディ 12 0.08 35.33 Yahoo! JAPAN 3 0.67 50.00
ファミリーマート 24 0.54 39.83 アサヒビール 5 0.80 43.00
富士フイルム 5 0.40 38.20 カップヌードル 11 0.36 41.45
グリコ 8 0.50 39.25 キリンビール 13 0.46 48.08
H.I.S. 8 0.63 43.25 スターバックスコーヒー 54 0.87 34.94
ハローキティ 5 1.00 35.00 セブン-イレブン 28 0.54 41.71
ホンダ 20 0.10 38.65 ソフトバンク 8 0.38 41.25
JAL 22 0.55 43.91 ハーゲンダッツ 29 0.86 37.28
ケンタッキーフライドチキン 21 0.52 40.05 プレイステーション 11 0.18 34.18
ニコン 8 0.00 48.63 マツダ 11 0.00 44.00
日産 17 0.29 36.53 ユニバーサル・スタジオ 24 0.79 34.96
NTTドコモ 29 0.34 38.52 ローソン 30 0.57 42.73
パナソニック 9 0.56 44.89 楽天市場 91 0.47 38.95
ソニー 12 0.33 41.50 スバル 8 0.00 49.00
東京ディズニーリゾート 52 0.79 35.69 東京駅 17 0.18 36.82
トヨタ 32 0.16 42.59 無印良品 78 0.86 38.79
全体 1094 0.45 38.84

(注)性別比率に関しては、男性0、女性1として算出している。

(出所)筆者作成。

7.  分析結果

7.1  因子分析の結果

質問項目は竹内(2018)竹内(2019)を踏襲し、7段階のリッカート尺度によって測定した。質問の具体的な内容は紙幅の制約上省略する。竹内(2018)竹内(2019)を参照されたい6

ロジスティックモデルに用いる説明変数は、それぞれ複数項目から構成されるため、まず探索的因子分析を行って、因子を抽出した。因子数の確定に際しては、設定した仮説と近い因子構造を抽出できるように、ガットマン基準(Guttman, 1954)ではなく、堀(2005)によるMAPと対角SMC平行分析の挟み込み法等を併用して、精査した7。その結果、因子数は表3に示す通り、快楽的便益(HED)、情報取得便益(INF)、社会的便益(SOC)、信頼(TRU)、相互作用(INT)、コミットメント(COM)、推奨(REC)、CSRの8因子構造となった。また、抽出した因子は固有値1以下のものがあるため、共分散構造分析を行う手続きと同様に、確認的因子分析を行い(モデル適合度はCFI=0.947、TLI=0.939、RMSEA=0.0488)、信頼性と妥当性を検討した。信頼性はクロンバックのαとComposite Reliability(CR)、収束妥当性はAverage Variance Extracted(AVE)、弁別妥当性はAVEの平方根と各因子の相関係数を算出し(表4)、尺度の信頼性と妥当性が確認できた。因子分析の結果に基づき、下位尺度得点を算出し、ロジスティックモデルの説明変数とした。これらの説明変数の他に、「いいね」経験、コメント経験の有無、性別をダミー変数とする。従属変数は「いいね」意図の有無、コメント意図の有無、シェア意図の有無の3変数を用いる。いずれも7段階のリッカート尺度によって測定したデータをロジスティック分析用に2値に変換した。分析にはSPSS PASW Statistics25.0とMplus version8.2を使用した。

表3 探索的因子分析の結果
因子1 因子2 因子3 因子4 因子5 因子6 因子7 因子8 共通性
利用できないと損失 0.942 −0.061 0.043 −0.007 −0.033 −0.017 −0.039 −0.020 0.704
置き換えに長い時間 0.912 −0.063 0.006 −0.074 −0.059 0.072 −0.043 0.024 0.754
関係が重要だ 0.877 −0.022 −0.043 0.050 0.098 −0.052 −0.016 −0.002 0.779
生活の一部だ 0.765 0.088 −0.014 0.010 0.050 −0.070 −0.008 0.070 0.711
大事だ 0.691 0.056 −0.071 0.123 0.015 −0.010 0.099 −0.028 0.673
友人のようだ 0.670 0.040 0.128 −0.006 −0.032 0.036 0.034 0.030 0.688
なじみがある −0.084 0.976 −0.012 −0.020 −0.031 −0.029 −0.089 0.157 0.768
親しみがある 0.015 0.866 0.015 0.018 −0.016 0.005 −0.078 0.020 0.708
好感を持てる −0.037 0.796 −0.025 0.011 −0.005 0.035 0.050 0.019 0.688
楽しい 0.057 0.583 0.040 0.026 0.032 0.026 0.172 −0.153 0.594
リラックスできる 0.283 0.480 0.130 −0.063 0.003 0.063 0.031 −0.106 0.545
関係を強化する −0.033 0.034 0.985 0.042 −0.027 −0.028 0.003 −0.052 0.872
友達を見つける 0.112 −0.047 0.762 −0.056 −0.047 0.027 −0.001 0.043 0.677
ネットワークづくり −0.025 0.050 0.757 0.074 0.155 −0.059 −0.026 0.000 0.711
正直だ 0.003 −0.033 0.019 0.948 −0.038 −0.023 0.010 0.012 0.813
信頼できる −0.026 0.070 −0.039 0.834 0.005 0.005 −0.012 0.024 0.747
約束を守る 0.052 −0.070 0.099 0.764 −0.068 0.093 −0.004 0.006 0.646
情報への信頼がある −0.022 0.146 −0.052 0.473 0.156 0.062 0.009 −0.028 0.512
知識向上できる 0.015 −0.041 0.027 −0.047 0.796 0.062 −0.016 0.031 0.644
詳細情報が得られる 0.014 0.066 0.007 0.021 0.749 −0.025 0.011 0.026 0.686
理解促進できる 0.037 −0.050 0.154 −0.028 0.699 0.065 −0.019 −0.004 0.624
役立つ −0.038 0.203 −0.118 0.087 0.647 −0.073 0.031 −0.011 0.588
顧客を重視する −0.013 0.031 0.010 0.015 −0.013 0.828 0.035 −0.043 0.727
情報を公開する −0.036 0.064 −0.044 0.109 0.060 0.721 −0.037 0.027 0.688
公正な競争を遵守する 0.050 −0.039 −0.014 0.135 0.009 0.691 −0.022 0.024 0.627
友人に話す 0.078 −0.021 0.026 0.070 −0.017 −0.089 0.816 0.056 0.792
お勧め(友人・親戚) 0.186 −0.043 0.010 −0.069 0.040 0.038 0.746 −0.029 0.759
良い評判を広げる 0.110 0.025 −0.012 −0.033 −0.012 0.095 0.744 0.037 0.803
お勧め(他人) 0.172 0.055 −0.005 0.044 0.000 −0.025 0.686 −0.002 0.756
投稿に対応できる 0.118 0.125 0.021 0.063 0.062 −0.038 0.012 0.608 0.659
メンバーを支援する 0.134 −0.056 0.270 −0.022 −0.013 0.025 0.070 0.555 0.763
意見交換できる 0.127 −0.006 0.279 −0.042 −0.021 0.043 0.033 0.476 0.629
固有値 15.578 3.246 1.468 1.233 0.907 0.806 0.767 0.689
累積寄与率 47.631 56.842 60.380 63.445 65.097 66.773 68.506 69.797
因子名 COM HED SOC TRU INF CSR REC INT

(注)因子抽出法:最尤法。回転法:Kaiserの正規化を伴うプロマックス法。

(出所)筆者作成。

表4 クロンバックのα、CR、AVE、相関係数とAVE平方根
α CR AVE HED INF SOC TRU INT COM REC CSR
HED 0.894 0.896 0.794 0.891
INF 0.863 0.865 0.784 0.776 0.885
SOC 0.888 0.893 0.857 0.486 0.597 0.926
TRU 0.882 0.887 0.813 0.694 0.697 0.338 0.901
INT 0.855 0.857 0.815 0.487 0.582 0.386 0.814 0.903
COM 0.933 0.933 0.837 0.609 0.664 0.533 0.791 0.705 0.915
REC 0.931 0.931 0.878 0.683 0.703 0.617 0.728 0.844 0.631 0.937
CSR 0.861 0.862 0.822 0.654 0.671 0.777 0.464 0.580 0.648 0.420 0.907

(注)表頭のHEDからCSRまで、対角線上の数値(太字)はAVEの平方根、それ以外の数値は相関係数である。

(出所)筆者作成。

なお、本研究では40ブランドのFacebookページを対象にしており、ブランド間の異質性について考慮する必要がある。そこで、級内相関係数(ICC)とデザインエフェクト(DE)を算出して確認した。表5に示す通り、SOCではICCが0.1を超え、HEDも0.1に近い数値となった。0.1以上の場合、マルチレベルモデルを適用する水準ではあるが、他の変数についてはブランド間の違いは大きくないと判断できるため、以下の分析ではデータをプールして分析を進める。ICCとDEについては、竹内(2019)を参照されたい。

表5 級内相関係数とデザインエフェクト
ICC DE
HED 0.096 3.453
INF 0.032 1.813
SOC 0.130 4.328
TRU 0.045 2.155
INT 0.023 1.591
COM 0.007 1.189
REC 0.015 1.376
CSR 0.038 1.980

(出所)筆者作成。

7.2  ロジスティック分析の結果

(1)  「いいね」意図の結果

分析に供した「いいね」意図の人数は有419名、無675名である。表6に示す通り、快楽的便益、信頼、コミットメント、推奨がプラスの影響を与えている(有意水準5%)。また、「いいね」経験も有意な影響がある。快楽的便益については、「いいね」に対してのみ有意であり、後述のコメント意図、シェア意図では有意ではない。正判別率を表7にまとめて記載する。「いいね」無では86.8%、有は73.7%、全体でも81.8%と高い水準といえる。

表6 「いいね」意図のロジスティック回帰分析の結果
推定値 標準誤差 Wald 有意確率 オッズ比 オッズ比の95%信頼区間
下限 上限
HED 0.524 0.156 11.266 0.001 1.689 1.244 2.293
INF 0.138 0.155 0.787 0.375 1.148 0.847 1.555
SOC −0.159 0.102 2.398 0.121 0.853 0.698 1.043
TRU 0.596 0.156 14.643 0.000 1.814 1.337 2.461
INT −0.057 0.120 0.226 0.634 0.944 0.746 1.195
COM 0.630 0.142 19.743 0.000 1.877 1.422 2.478
REC 0.672 0.143 22.118 0.000 1.959 1.480 2.592
CSR 0.026 0.128 0.040 0.841 1.026 0.798 1.319
性別(1) 0.174 0.188 0.861 0.354 1.190 0.824 1.720
「いいね」経験(1) 1.033 0.182 32.141 0.000 2.810 1.966 4.017
コメント経験(1) 0.144 0.215 0.446 0.504 1.154 0.757 1.760
定数 −13.534 0.900 226.188 0.000 0.000
−2対数尤度 875.000
Nagelkerke R2 0.560
Hosmer-Lemeshow統計量 0.763

(注)5%水準で有意な変数と推定値を太字で示している。一部10%水準の場合があるが、以下の表でも同様である。

(出所)筆者作成。

表7 正判別率
「いいね」予測 正解の
割合(%)
コメント予測 正解の
割合(%)
シェア予測 正解の
割合(%)
「いいね」 588 89 86.8 コメント 805 49 94.3 シェア 728 63 92.0
110 309 73.7 85 155 64.6 100 203 67.0
全体 81.8 全体 87.8 全体 85.1

(出所)筆者作成。

(2)  コメント意図の結果

コメント意図有240名、無854名のデータを分析に用いた。「いいね」意図とは異なり、信頼では有意な影響が認められなかったが、コミットメント、推奨でプラスの影響がある(表8)。また、「いいね」意図では有意ではなかった社会的便益(有意水準10%)と相互作用がプラスの影響を与えている。さらに、「いいね」経験は有意ではなく、コメント経験がプラスに働いている。性別に関しても違いが見出された。マイナスの影響、すなわち、男性の方がコメント意図に強く影響している。正判別率は、コメント有では64.6%とやや低いものの、無は94.3%、全体では87.8%と高い水準である。

表8 コメント意図のロジスティック回帰分析の結果
推定値 標準誤差 Wald 有意確率 オッズ比 オッズ比の95%信頼区間
下限 上限
HED 0.183 0.192 0.901 0.342 1.200 0.823 1.751
INF 0.058 0.197 0.087 0.768 1.060 0.720 1.561
SOC 0.219 0.128 2.943 0.086 1.245 0.969 1.600
TRU −0.212 0.202 1.107 0.293 0.809 0.545 1.201
INT 0.494 0.149 10.925 0.001 1.639 1.223 2.197
COM 0.412 0.177 5.397 0.020 1.510 1.066 2.137
REC 0.895 0.193 21.595 0.000 2.446 1.677 3.567
CSR 0.225 0.168 1.807 0.179 1.253 0.902 1.741
性別(1) −0.534 0.229 5.426 0.020 0.586 0.374 0.919
「いいね」経験(1) 0.168 0.235 0.511 0.475 1.183 0.746 1.875
コメント経験(1) 0.995 0.226 19.429 0.000 2.706 1.738 4.212
定数 −13.041 1.049 154.442 0.000 0.000
−2対数尤度 620.060
Nagelkerke R2 0.591
Hosmer-Lemeshow統計量 0.271

(注)SOCの推定値は有意水準10%である。

(出所)筆者作成。

(3)  シェア意図の結果

シェア意図有303名、無791名のデータで分析を行った。表9に示す通り、「いいね」とコメントの中間的な結果である。信頼、相互作用、コミットメント、推奨が有意であり、コメント経験もプラスの影響を与えるという結果になった。正判別率はコメント意図と同様に、有では67.0%とやや低いものの、無は92.0%、全体では85.1%と高水準であり、予測精度が高い。

表9 シェア意図のロジスティック回帰分析の結果
推定値 標準誤差 Wald 有意確率 オッズ比 オッズ比の95%信頼区間
下限 上限
HED 0.013 0.173 0.005 0.942 1.013 0.721 1.422
INF 0.115 0.179 0.416 0.519 1.122 0.791 1.593
SOC −0.067 0.112 0.358 0.550 0.935 0.750 1.165
TRU 0.713 0.185 14.893 0.000 2.040 1.420 2.930
INT 0.278 0.132 4.452 0.035 1.320 1.020 1.709
COM 0.923 0.167 30.429 0.000 2.516 1.813 3.493
REC 0.698 0.165 17.826 0.000 2.009 1.453 2.778
CSR −0.033 0.148 0.048 0.826 0.968 0.724 1.294
性別(1) −0.133 0.209 0.408 0.523 0.875 0.581 1.317
「いいね」経験(1) 0.231 0.210 1.208 0.272 1.260 0.834 1.902
コメント経験(1) 0.489 0.224 4.776 0.029 1.631 1.052 2.528
定数 −14.663 1.065 189.565 0.000 0.000
−2対数尤度 713.099
Nagelkerke R2 0.592
Hosmer-Lemeshow統計量 0.710

(出所)筆者作成。

7.3  仮説の検証結果

表10は設定した仮説の内容と分析結果を一覧表にまとめたものである。情報探索便益とCSRに関する仮説は、「いいね」意図、コメント意図、シェア意図ともに棄却されたが、他の仮説は概ね支持された。

表10 設定した仮説の検証結果
「いいね」意図 コメント意図 シェア意図
〈動機に関する仮説〉
H1-1:快楽的便益は「いいね」意図に対して正の影響を与える。 支持
H1-2:社会的便益はコメント意図に対して正の影響を与える。 支持
(10%水準)
H1-3:情報探索便益は「いいね」意図、コメント意図、シェア意図に対して正の影響を与える。 棄却 棄却 棄却
〈リレーションシップ変数に関する仮説〉
H2-1:信頼、コミットメントは「いいね」意図、コメント意図、シェア意図のいずれにも正の影響を与える。 支持 一部支持 支持
H2-2:相互作用は「いいね」意図に対しては影響しないが、コメント意図、シェア意図に対しては正の影響を与える。 支持 支持 支持
〈ロイヤルティ変数に関する仮説〉
H3:推奨意図は「いいね」意図、コメント意図、シェア意図のいずれにも正の影響を与える。 支持 支持 支持
〈企業ブランド連想・CSRに関する仮説〉
H4:CSRは「いいね」意図、コメント意図、シェア意図のいずれにも正の影響を与える。 棄却 棄却 棄却
〈性別に関する仮説〉
H5:男性の場合、コメント意図とシェア意図に対して正の影響を与える。 支持 棄却
〈経験に関する仮説〉
H6:「いいね」経験は「いいね」意図に、コメント経験はコメント意図とシェア意図に正の影響を与える。 支持 支持 支持

(出所)筆者作成。

8.  まとめと今後の課題

SNSを利用する日本の消費者は、Facebookに書き込みをすることが少なく、受け身の利用が多いが、中にはコメントを書いたり、シェアしたり、積極的に活用している能動的な消費者も存在する。新たなコミュニケーション・チャネルとしてFacebookページを活用している企業にとって、単に閲覧して自分に必要な情報を入手するだけの受動的な消費者を能動的な消費者、すなわち、ファンに変え、ファン数を増やすこと、また、すでにコメントを書いたり、シェアしたりしている能動的な消費者との関係性を維持・強化することが、ブランド・コミュニティの成功をもたらすといえる。しかしながら、先行研究では「いいね」やコメントに影響するFacebookページの要素の観点、すなわち、Facebookページを実施している企業側の視点からの分析が多く、投稿に対してなぜ「いいね」を押すのか、どのような相互作用効果が働いてコメントを書く気持ちになるのか等について、Facebookページを利用している消費者の評価を用いた検証はほとんど行われていない。そこで本研究では、「いいね」、コメント、シェア行動を起こす理由を解明すべく、消費者のFacebookページへの参加動機となる知覚便益やFacebookページに対する評価を用いて検証し、消費者とのエンゲージメント形成に影響する要因を明らかにした。分析の結果、得られた知見は以下の通りである。

・「いいね」意図:快楽的便益、信頼、コミットメント、推奨、「いいね」経験がプラスの効果をもたらしている。快楽的便益は「いいね」に対してのみ有意であった。

・コメント意図:「いいね」意図と同様に、コミットメント、推奨でプラスの影響が認められたが、信頼は有意ではなかった。「いいね」意図と異なる点は、社会的便益(10%水準)と相互作用がプラスの影響を与えていることである。また、「いいね」経験は有意ではなく、コメント経験がプラスに働いている。性別に関しても違いが見出された。男性の方が女性よりもコメント意図に影響を及ぼしている。

・シェア意図:「いいね」とコメントの中間的な結果である。信頼、相互作用、コミットメント、推奨が有意であり、コメント経験もプラスの影響を与えている。

「いいね」意図とコメント意図の結果を比較すると、楽しければ、また、慣れ親しんで好感を持っていれば、すなわち、快楽的便益を知覚すれば、「いいね」を押したいと思うのに対して、コメントを書くとなると、関係の強化やネットづくりといった社会的便益、投稿への対応や意見交換といった相互作用が働く必要があるという違いがある。この結果は、当たり前の結果のように見えるが、統計分析の結果として得られたという意味で価値があり、納得性が高く、説得力もある。投稿内容を企画・作成する実務のFacebookページ担当者は、「いいね」数を増やしたいのであれば、エンターテインメント性の高い、楽しい内容を、一方、コメントを書き込んで欲しいのであれば、ネットワークづくりや意見交換を意識した内容を投稿すると期待通りの効果を得られるのではないかと考える。また、社会性や相互作用性を考慮して、男性の場合、女性よりも積極的にコメントを書こうという意欲が高いと仮定した。分析の結果、コメント意図に対する男女差の仮説は支持された。一方、「いいね」意図に関しては、男女差はないだろうと考え、あえて仮説を設定しなかった。こちらも想定通りの結果が得られた。しかしながら、シェア意図には有意差が認められなかった。

これらの結果から類推すると、シェアの場合、コメントを書いても書かなくてもシェアできるので、コメントの書き込みより気軽に、クリック1つで済む「いいね」と近いエンゲージメント行動の可能性がある。前述の通り、調査結果の実数は「いいね」意図有419名、無675名、コメント意図有240名、無854名、シェア意図有303名、無791名であり、ここからも「いいね」の気軽さ、コメントへのハードルの高さがうかがわれる。また、予測変数もシェア意図は「いいね」意図とコメント意図の中間的な結果であった。エンゲージメント行動としてのシェアについて、今後の課題としてさらなる検討が必要であると考える。

企業がFacebookページを展開するに際し、信頼できる情報の公開、公正な競争の遵守、顧客重視の姿勢(倫理的なCSR)といったブランド連想を消費者が持っていることが前提として必要だと考え、仮説を設定したが、この変数は「いいね」、コメント、シェアのいずれに対しても有意にはならなかった。また、必要な情報を入手したいというニーズからSNSを利用しているという総務省の調査報告もあり、先行研究においても情報探索便益が動機となるという知見が得られているため、情報探索便益は「いいね」意図、コメント意図、シェア意図に対して正の影響を与えるという仮説を設定した。しかしながら、いずれも棄却された。これらの結果を製品の品質になぞらえて考えると、CSRや情報探索便益は適合品質に該当するのだろう。つまり、どのFacebookページであろうとも、すべて等しく、約束されたレベルを満たしていることが期待されているのではないかと考える。CSRも情報探索便益も重要ではない、「いいね」、コメントやシェアに影響しないということではなく、当然備えているべき前提条件だとすれば、それによる影響は生じない、その結果、この2変数は有意にならなかったと考察される。この点については推測の域を出ないので、今後さらに精査する必要がある。

最後に今後の課題について言及したい。ブランド・コミュニティにおいて、同一化という概念が重要だという指摘があり(Algesheimer et al., 2005)、実際多くの研究が行われている。Facebookページのメンバーとしての所属意識の高さは、より積極的で能動的な行動を促し、「いいね」のみならずコメントに影響する可能性が高い。本研究では、この変数を明示的に扱わなかったので、今後の課題として検討したい。また、複数のFacebookページに参加している消費者も多数存在する。そのため、いくつものFacebookページから投稿が高頻度で送信されると、忌避感や苛立ち等のネガティブな感情が発生する可能性も高い。ネガティブ効果の観点からもブランド・コミュニティの在り方を検討する必要があると考える。3つ目の課題は、対象とするメディアの拡張である。Facebookページのみならず、Twitter、Instagram等、SNSを活用した企業のコミュニケーション活動に関する研究は、諸外国に比べるとまだ日本ではそれほど活発には行われていない。本研究ではFacebookページのみを取り上げたが、それぞれ特徴や機能が異なるので、メディア間の比較を行い、コミュニケーション効果の差異を検証する必要がある。

付記

本研究は科学研究費補助金(課題番号16K03949)の助成を受けたものである。

1  http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/pdf/n4200000.pdf(アクセス日2019年10月8日)

2  出所はhttp://smib.vuw.ac.nz:8081/WWW/ANZMAC2006/documents/Pattinson_Paul.pdf であるが、削除されているため、Brodie et al.(2011)Hollebeek(2011b)Lujja et al.(2017)の記述を基に記載している。

3  Algesheimer et al.(2005)は、ブランド・コミュニティとの同一化を消費者とコミュニティとの関係の強さと定義している。ブランド・コミュニティのメンバー、あるいはそこに所属しているという消費者の認識である。

4  Park et al.(2010)は、ブランドへの愛着をブランドと自己をつなぐ絆の強さと定義している。

5  https://digital-dashboard.work/index.html(アクセス日2019年10月2日)。なお、このサイトは2019年8月17日以降、更新されていない。

6  CSRの質問内容は初出のため、ここに記載する。①公正な競争の原則を遵守している。②消費者に信頼できる企業情報や製品情報を公開している。この2項目はXiea et al.(2011)に基づいている。③顧客を重視している(筆者作成)。この3項目で構成している。

7  これらの算出は清水裕士氏が提供するフリーの統計分析ソフトHADを用いている。詳細は清水(2016)を参照されたい。

8  Mplusでは、適合度指標としてCFI(Comparative Fit Index)、TLI(Tucker-Lewis Index)が出力される。いずれも0.90以上(より厳しい基準では0.95以上)が望ましく、RMSEA(Root Mean Square Error of Approximation)は0.05以下が良い適合とされる。

参考文献
 
© 2020 The Research Institute for Innovation Management of Hosei University
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