Journal of Innovation Management
Online ISSN : 2433-6971
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The Mechanism of Logistics Cluster Formation: A Theoretical Framework Based on Systematic Literature Review
Ruixue Li
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2023 Volume 20 Pages 101-134

Details
要旨

経済のグローバル化に伴いロジスティクス・クラスターは重要性を増しており、世界各地でロジスティクス・クラスター創成を目指すプロジェクトが数多く推進されている。何がロジスティクス・クラスター創成の成否を決めるのか。この問題は政策の立案と実行および企業の経営にとって重要な研究課題であるにもかかわらず、十分な研究蓄積ができておらず、理論の構築は政策の実践より遥かに遅れている。本研究ではこのギャップを埋めるべく、システマティック・リテラチャー・レビュー手法に依拠し、ここ20年間に刊行されたロジスティクス・クラスターに関わる208篇の英文査読論文に散在する関連知見を体系的にレビュー・分析することを通して、ロジスティクス・クラスター形成のメカニズムを構成する命題を導出する。

Abstract

Although the benefits of logistics clusters in a globalizing economy are well documented in the literature and projects aimed at creating logistics clusters are under way all over the world, there has been insufficient research to afford a detailed understanding of the mechanisms that determine the success or failure of creating a logistics cluster. Policy practice has leapt ahead of theory. The paper addresses these gaps, using a systematic literature review methodology. Through systematic review and analysis of related insights from 208 peer-reviewed articles published in leading academic journals in English over the last 20 years, propositions that constitute the mechanism of logistics cluster formation takes shape.

1.  はじめに

高度な輸送システムとロジスティクス・サービスは、地域の産業発展に必要不可欠なファクターである(Song et al., 2011Li & Ni, 2013Lindsey et al., 2014Munnich & Iacono, 2016)。Krugman(1990)の「中心‐周辺モデル(Core-periphery model)」が示唆するように、輸送サービスとそのコストは中心都市への産業集積をもたらす要因に含まれる。しかし、ロジスティクスは単に他の産業集積のサポーティング・セクターにとどまらず、それ自身の集積も多くの地域で形成され、所在地域の発展を牽引する役割を果たす存在になっている(Sheffi, 2012aRivera et al., 2014)。ハーバード・ビジネス・スクールが2006年に実施したクラスター・マッピング・プロジェクトでは、ネバダ州とケンタッキー州の輸送とロジスティクス・クラスターが初めて独立する産業集積として全米41の産業クラスターにリストアップされた(Porter, 2007)。以降、ロジスティクス・クラスターは次第に産業集積の一種として認知され、政策立案者および研究者から注目を集めるようになった(Rivera et al., 2016Hylton & Ross, 2018)。

ロジスティクス・クラスターとは、特定のエリアに共同立地するとともにしばしば互いに競争かつ協働・協調の関係を結ぶ物流企業や荷主企業の物流施設、物流企業に補完サービス(輸送機器の修理、IT、金融、荷役・包装の機材、コンサルタント、人材の教育と派遣、研究開発など)を提供する企業、物流がオペレーションズの大きな割合を占め競争力を左右する企業(卸売、ECなど)の集まりである(Sheffi, 2012aChhetri et al., 2014Rivera et al., 2016Subramanian et al., 2016Hylton & Ross, 2018)。ほかの産業集積と同様、特定領域における企業や組織の地理的集中と相互作用がロジスティクス・クラスターの特徴に含まれる。

ロジスティクス・クラスターは産業集積の一種であるだけに、それに関する研究は当然、従来のインダストリー・クラスターやアグロメレーションに関わる知見を引き継いだ。1990年代から産業クラスター研究のブームが沸き起こり、豊富な研究蓄積が生まれた(Porter, 19941998Sabel, 1989Amin & Thrift, 1992Storper, 1995Malmberg, 1996Baptista, 1998Bianchi, 1998Hanson, 2000Waits, 2000Yeung, 2000)。その結果、特定産業の地理的集積が地域経済の繁栄と競争力をもたらすというドクトリンが広く信奉されるようになり、とりわけ、生産性向上やイノベーション促進、新規創業の活性化などに大いに寄与するものとされる(Saxenian, 1994McEvily & Zaheer, 1999Malmberg & Maskell, 2002Porter, 20032007Tallman et al., 2004Bell, 2005Snowdon & Stonehouse, 2006Delgado et al., 2010)。産業クラスターと企業のパフォーマンスとの相関関係を疑問視する一部の研究者も存在するものの(Appold, 1995Harrison et al., 1996Gertler & DiGiovanna, 1997Beaudry & Breschi, 2003Morgan, 2004Kukalis, 2010McDonald et al., 2007)、クラスターが地域産業および企業の競争優位獲得やイノベーションの生成にポジティブな効果をもたらすという認識は広く支持されている。

ロジスティクス・クラスターについては、上記の産業クラスターの諸利点に加えて、輸送密度の経済、雇用の維持と拡大、物流アセットのシェアリング、共同物流の促進、付加価値サービスの開発と提供といったメリットが強調された(Sheffi, 2012a2012b;van den Heuvel et al., 2014;Ceran, 2014Cvahte et al., 2015Rivera et al., 2014Rivera et al., 2016Abushaikha, 2018)。先進国ではロジスティクス・クラスターは製造業クラスターのように海外へ移転される恐れが少なく、雇用の維持に貢献することと伝統的な製造セクターの代わりに地域経済を支える新しい成長軸になり得ることが、その要件として重視されている(Chhetri et al., 2014Kumar et al., 2017Hylton & Ross, 2018Mangan et al., 2008Sheffi, 2012bSpengpeihl, 2011)。新興国においては、ロジスティクス・クラスターと製造業のクラスターとの相乗効果がとりわけ期待されている(Sheffi, 2012aLindsey et al., 2014Hooi Lean et al., 2014Dai & Yang, 2013Chhetri et al., 2014, Abushaikha et al., 2020)。

ロジスティクス・クラスターに関する既存研究がロジスティクス・クラスターのメリットやアドバンテージの解明に集中している一方、形成メカニズムの探求に焦点をあてる研究は少ない。交通の要所で物流の集積は自然発生的に生成してくると考えられがちではあるが、実際、現代のロジスティクス・クラスターの大半は政府や大手企業の明確な目的と能動的な行動によって戦略的に創成されたもので、自然発生的なケースは寧ろ稀である(Chang, 2003Kasarda, 2008Mangan et al., 2008Porter, 2007Lindsay and Kasarda, 2011)。

地域経済の活性化と企業経営のパフォーマンス改善に多大な利点を与えうるということで、世界各地でロジスティクス・クラスターの創成プロジェクトが相次いで推進されている(Hamed Al-Wahaibi, 2019)。これらのプロジェクトはたいてい大型輸送ターミナルとロジスティクス・パークの整備、新規輸送サービス創設への補助、企業誘致のための優遇税制などを含む一連の政策の制定と施行の下で進められる。ロジスティクスの生産プロセスは労働集約的かつ垂直非統合であるがゆえに、理論的には立地の集中(Locational convergence)が発生しやすい(Scott, 1983)。しかし、実際に成功裏に創成されたロジスティクス・クラスターのプロジェクトもあれば、挫折するところも少なからず見受けられる。

アメリカのノースカロライナ州のキンストンで、キンストン・リージョナル・ジェットポートをベースに国際物流の集積を目指して、1980年代からグローバル・トランスパークのプロジェクトが進められていったが、20年以上経過した2008年頃にも入居企業は14社しかなく、雇用総数は数百人程度にとどまった(Maltby, 2011)。アメリカのルイジアナ州のミシシッピ下流港湾クラスター(the Lower Mississippi Port Cluster, LMPC)の不振も典型例の一つである(de Langen & Visser, 2005)。イタリアの25の貨物村(Freight village, FV)を調査したMonios(2016)によれば、同国北部にあるFVは総じて順調に発展したのに対して、南部のFVは低迷が続き、多大な困難に直面しているという。

ロジスティクス・クラスターの生成に影響する要因は何か。何がロジスティクス・クラスター創成の成否を決めるのか。政策の立案と実行および企業の実務にとってロジスティクス・クラスター形成の規定要因を解明することは重要な研究課題であるにもかかわらず、十分な研究蓄積ができておらず、理論の構築は政策の実践より遥かに遅れている(Benneworth & Henry, 2004)。本研究ではこのギャップを埋めるべく、ロジスティクス・クラスターに関わる先行文献に散在する関連知見を体系的にレビュー・分析することを通して、ロジスティクス・クラスター形成のメカニズムを構成する命題を導出し、今後の命題の検証と修正に備える。

本稿の構成は以下の通りである。次節では研究方法と研究プロセスを説明する。続く第3節では、文献レビューから導出する命題を説明する。第4節では、本研究の知見がもたらす理論的貢献と実務的示唆を検討する。最後に本研究の限界と後続研究の課題を述べておく。

2.  研究方法

本研究はロジスティクス・クラスターの形成メカニズムを解明するために、システマティック・リテラチャー・レビューの手法を採用する。この手法は特定の研究課題に関する既存知見を包括的に調査・評価することにおいて妥当性が認められる(Tranfield et al., 2003)。本研究では、ロジスティクス・クラスターに関わる既存文献に対して網羅的にレビューするとともに、産業集積と経済地理の関連知見も視野に入れて、ロジスティクス・クラスターの生成を規定する要因を命題として整理し、今後の検証研究に繋げることを狙う。

システマティック・リテラチャー・レビューの全プロセスは計画(planning)、検索(searching)、フィルタリング(filtering)、スクリーニング(screening)、抽出(extracting)、総合(synthesizing)の6つのフェーズからなる(Sheffi et al., 2019)。問題意識とリサーチ・クエスチョンを明確化するのは計画段階の作業である(第1節の記述を参照されたい)。以下は残りの5つのプロセスの作業を簡潔に説明する。

検索の段階では、オックスフォード大学ボドリアン図書館の文献検索システムを利用して、ロジスティクス、サプライチェーン・マネジメント、輸送、立地、ビジネス・マネジメント、政策、経済、物流計画などの分野における関連文献を手広く検索した。同図書館の検索システムは1600以上のデータベースを契約しており、EBSCO、JSTOR、Emerald、Wiley、Science Direct、ABI/INFORM Global、ProQuestなど社会科学系の文献を豊富に収録する有力データベースを含むため、本研究にとって妥当な検索ツールである。検索に先立って、文献の題名・要約・本文に含まれるコンセプトを選定して検索ワーズの行列を構築した(表1)。

表1 検索用のコンセプト
Main concept Alternative 1 Alternative 2
Concept 1 Logistic* OR Transport*
and
Concept 2 Cluster* OR Agglomeration OR Hub

(出所)筆者作成

本研究のキーワードの一つである形成メカニズム(formation mechanism)もコンセプトに盛り込んで検索してみたところ、該当する文献は殆ど見つからなかった。ロジスティクス・クラスターの形成メカニズムに焦点を当てて真正面から取り組む研究はまだ少ないことが反映された検索結果だと思われる。従って、ロジスティクス・クラスターの幅広い既存研究から形成プロセスや形成要因などに関わる知見を拾い集めるために、formation mechanismに絞らず、下記の行列で検索を行った。

(Logistic* OR transport*) AND (cluster* OR agglomeration OR hub)

その結果、3952篇を含むロング・リストを得た。

続くフィルタリングの段階では、(1)文献の質が担保される査読付き(peer-reviewed)のジャーナルに掲載された英文論文、(2)過去20年間に刊行された論文、(3)Transportation, business, economics, logistics, clusters, clustering, supply chain management, management, policy, industries, industrial location, economic geographyに関連する文献、という基準を設けて文献の取捨選択を行い、その結果、1689篇が残った。

スクリーニングの段階では、まずリストにある文献の重複を解消した。そして、ジャーナル・スクリーニングを行った。生命科学、数学、物理学、地質学、エンジニアリング、コンピューティング、材料学などの分野のジャーナルをすべて除外し、この時点で874篇が残った。さらに、旅客輸送や観光客対応のハブ、災害発生時の人道支援ロジスティクスのクラスター(Humanitarian logistics clusters)、ヘルス・ケア・クラスターを取り扱う文献を取り除いた。これらの文献は本研究の課題から離れており、有益な知見を提供できる見込みが低いからである。最後に、残りの709篇の論文のタイトルとアブストラクトを1篇ずつ読み、本研究の課題との関連性有無をチェックする、いわゆる「題名・アブストラクトのスクリーニング」をRefWorks上で行った。題名とアブストラクトだけで判断が困難な論文については、本文の導入と結論の部分を読んで確認した。これにより146篇を含むショットリストが得られた。

また、ロジスティクス・クラスターと深い関連性のある概念として、物流団地や貨物村(FV)が挙げられる。従って、次のコンセプト行列を構築して、上記と同様なプロセスと基準で検索・フィルタリング・スクリーニングを行い、790篇から19篇に絞り込んだ。

(Freight OR logistic* OR distribution) AND (village OR park OR district)

両方を合わせて、165篇の論文を含むレビュー対象の文献リストが得られた。なお、ロジスティクス・クラスターは産業集積の一種であるため、産業集積の既存研究におけるクラスター生成要因に関する知見もレビューの対象に含まれるべきと考えた。従って、上記の165篇の論文で2回以上引用された産業集積に関する文献を43篇選出し、文献リストに加えた。これにより、208篇の最終リストが確立できた。

抽出と総合のフェーズでは、質的研究支援ソフトのNVivo(2021年バージョン)を活用した。まず、最終リストに含まれる論文を1篇ずつ読み、クラスターの生成理由やダイナミクスに関わる知見をピックアップしてできるだけ詳細にノートする。そして、作成されたノーツをNVivoに取り込んだ後、コーディングとカテゴライズを繰り返した。この反復作業を通して、クラスターの生成理由にかかわる主要なコンセプト群とサブコンセプト群を浮かび上がらせた。そのうえで、それぞれのコンセプトをめぐる因果関係と相関関係を整理し、後述する通りPR1からPR4までの4つの命題を導出した。そして、導出した命題を統合フレームワークにまとめ上げ、それを関連文献に戻しながら、命題とフレームワークの妥当性をチェックした。最後に、本研究で得た命題が政策立案や企業経営に与えうる示唆を検討した。

3.  ロジスティクス・クラスター形成のメカニズム

3.1  LCの形成とグローバル・サプライチェーン

物流企業と物流関連施設の集約的立地であるロジスティクス・クラスターの生成は2種類の分散化に深く関わると多くの経済地理学の研究者から指摘される。一つはサプライチェーンのグローバル分散であり、もう一つはロジスティクス・スプロールである。この2種類の分散化は単独ないし相互作用しながら、物流集積地のロジスティクス・ランドスケイプをもたらす。言い換えれば、グローバリゼーションと都市化の進展によって、空間的ロジスティクス・クラスター(Spatial logistics clusters)が大規模な貿易都市の周縁部で生成しているという、一見して逆説的な現象が見受けられる。これらのロジスティクス・クラスターは地域経済と企業経営においてますます重要な役割を果たすようになってきた(Amin & Thrift, 1992Chhetri et al., 2014Closs et al., 2014)。

Waldheim & Berger(2008)は北米における産業配置(Industries configurations)の移り変わりを事例に、産業の地理的配置は20世紀初頭の中央集中化と20世紀中葉の脱中央化を経て、20世紀後半以降、国際的な分散化の傾向が強まった結果、グローバルに広がるサプライチェーンと複雑な国際貿易のネットワークを形成していったと結論づける。サプライチェーンのグローバル分散に伴って、高度な物流サービスへの需要が増加し、物流効率化への要請も強まった(Bolumole et al., 2015Verhetsel et al., 2015)。そこで、ロジスティクス上の問題のソリューションとして登場したのは、ロジスティクス・ハブとハブ&スポークの輸送システムである(Amrani, 2007Chong et al., 2006)。即ち、多国籍企業の拠点が多く立地し、国際貿易が盛んに行われる地域におけるゲートウェイ都市にあるロジスティクス・ハブに貨物が集まり、ハブで貨物のコンソリデーションを行うことで効率的な国際物流が実現されるのである。そして、大型の港湾や空港、インターモーダル・ターミナルといった中枢輸送ノードを内包するロジスティクス・ハブに、ありとあらゆる種類の物流サービスを提供する企業と施設が次々と集まった結果、ロジスティクス・ランドスケイプが現れる(Cidell, 2010)。ロジスティクス・ランドスケイプとは、商品の輸送・貯蔵・配達などのロジスティクス活動を提供するための大規模な産業エリアであり、グローバル・サプライチェーン上の新しい産業形態である(Waldheim & Berger, 2008)。大型輸送ノードをベースとする集積形態のロジスティクス・ランドスケイプは20世紀後半以降もっとも重要な経済地理学上の事象であるとWaldheim & Berger(2008)は強調する。

ロジスティクス・ランドスケイプに関連する概念として、グローバル・ロジスティクス・シティがある。グローバル・ロジスティクス・シティはいわゆる地域のゲートウェイとして、地域経済とグローバル市場を連結するための導管(Conduits)の役割を演じる(Pettit & Beresford, 2009Nam & Song, 2011Zhang & Lam, 2013Wang & Cheng, 2015Zhang & Lam, 2017Chhetri et al., 2018)。もともとはゲートウェイ都市の幹線道路、海港、空港などを含む統合的な空間システムを指すが(Simmonds & Hack, 2000)、今はグローバル・サプライチェーンにおける物流集積地の役割を分析するためのコンセプトとして捉えられる(O’Connor, 2010)。即ち、グローバル・ロジスティクス・シティ内で物流ハブが形成されると、ハブ&スポーク方式でロジスティクス・ネットワークの空間的再組織と再構成が発生してくる。それによって、より太い物流(Larger conveyances)と高い稼働率を実現し、グローバリゼーションのもたらした物流の非効率性を緩和するのである(Rivera et al., 2016)。とりわけ、多国籍企業のグローバル・サプライチェーン戦略と海運企業のハブ&スポーク・ネットワーク戦略が相互作用した結果、ハブの広域的な後背地にある生産拠点から世界各地への流通効率が著しく改善される(Jacobs & Notteboom, 2011Wang & Wang, 2011Wang & Cheng, 2015)。域内後背地および域外への連結効率が高いほど、ロジスティクス・ハブのグローバル競争力が強まるため(Chhetri et al., 2018)、グローバル・ロジスティクス・シティにより多くの物流施設が設立されるにつれて、ロジスティクス・ランドスケイプは膨らんでくる。ちなみに、O’Connor(2010)はグローバル・ロジスティクス・シティとその広域な後背地を含めた概念として、グローバル・シティ・リージョン(GCR)のコンセプトを提示し、グローバル・サプライチェーンに深くかかわる地域における大型輸送ノードへの物流活動の集中化を指摘した。

グローバル・ロジスティクス・シティ内でハブ機能を実際に担うのは大型の港湾や空港、鉄道貨物ターミナルなどの中枢輸送ノードとそれらに隣接する大規模なロジスティクス・パークである(Beresford et al., 2004)。中枢輸送ノードとロジスティクス・パークは、スポーク方式で後背地の輸送ターミナルから貨物を吸い上げるとともに、基幹輸送ルートで他地域のハブと連結する(Notteboom & Rodrigue, 2005)。これによって、中枢輸送ノードをハブとする地域内輸送ネットワークの一体化ができあがる。このことはNotteboom and Rodrigue(2005)の提示した「港湾の地域化(Port regionalization)」のコンセプトに含まれ、サプライチェーンのグローバリゼーションに対応する中で生まれる国際物流の新形態である(Notteboom & Rodrigue, 2005Rodrigue & Notteboom, 2010Raimbault et al., 2016)。国際物流の需要が旺盛な地域では、港湾の地域化が進展するにつれて、中枢輸送ノードとそれに隣接するロジスティクス・パークは次第に肥大化し、ロジスティクス・プラットフォームとして物流の需要と供給を惹きつけるようになった。1990年代からヨーロッパの主要港湾で開発されたDistriparksやDistricentersなどのランドロード・テナント・モデルは典型的な例と言える(Pettit & Beresford, 2009)。こうして生まれた物流の集積は輸送ノード・ベースのロジスティクス・クラスターである(Beresford et al., 2004李, 201420162018李・金, 2017金・李, 20182019Li, 2020)。

輸送ノード・ベース型のロジスティクス・クラスターは当初の物流インフラやアセットのシェアリングを目的に企業のロジスティクス・オペレーションズを集約させるものであるが、次第にサプライチェーンの強化に寄与する付加価値サービスの提供へと機能が拡大していく(Amrani, 2007Rimiene & Grundey, 2007Pettit & Beresford, 2009Sheffi, 2012avon der Gracht & Darkow, 2015Li, 2020)。この点はReichhart & Holweg(2008)の指摘する自動車部品企業のクラスターにおける「空間的統合とインフラ」と「ローカル付加価値」という役割に類似する。Beresford et al.(2004)は輸送ノードが従来のポート機能に加えて、付加価値活動やサービスの生産・提供を行う場にもなるという現象をワークポートのコンセプトで説明を試みた。クラスターに入居する物流センター施設はグローバル・サプライチェーンの効率性に寄与すべく、保管、入荷、荷役、混載、バンニング、デバンニング、出荷などの従来の倉庫機能に加えて、在庫統制、ラベリング、小分け、トラッキング、ベンダー・マネジメント、リワーク、アッセンブリ、顧客サービスなどの付加価値サービスを提供するようになっている(Rimiene & Grundey, 2007)。Sheffi(2012a)で取り上げたメンフィス、ルイビル、インディアナポリス、シンガポール、ザラゴーサなどのロジスティクス・クラスターはいずれも、大型空港の隣に大規模なロジスティクス・パークがあり、その中で様々な付加価値サービスを提供する物流企業群が存在する。こうした輸送ノードとそれらに隣接するロジスティクス・パークはもはやグローバル・バリューチェーンの重要なコンポーネントとなっている(Robinson, 2002Gereffi & Fernandez-Stark, 2011Pettit & Beresford, 2009)。

多様多種なロジスティクス・パークは、グローバル・バリューチェーンが広がる中で都市の分解(Disembedding)と再領域化(Reterritorialization)のプロセスが生み出した結果だとHesse(2010)は指摘する。臨港保税区や輸送加工区、エアロトロポリスはグローバル・バリューチェーンにおける位置性(Positionality)と接近性(Accessibility)を調整して創出された新たなオペレーションズの場(Place)である。国際貿易が複雑さを増す中、都市はモノの流れを引き付け、管理し、再方向付けするなど、戦略的な機能設定と位置付けを行うことが、ロジスティクス・シティおよびその中の物流集積の形成につながる(Hesse, 2010Sheffi, 2012avon der Gracht & Garkow, 2015)。これが原因で、生産のオフショアリングが進んだ先進国では貿易指向型(Trade-oriented)のロジスティクス・クラスターが多いのに対して、中国などの新興国・途上国では製造指向型(Manufacturing-oriented)のロジスティクス・クラスターが多く存在する結果が生まれた(Chhetri et al., 2014Rocha & Perobelli, 2020)。

グローバル・サプライチェーンの地理的分散化に加えて、もう一つの分散化―ロジスティクス・スプロール―もロジスティクス・クラスターの形成に大きく貢献する。ロジスティクス・スプロールとは、物流施設と物流機能が都市部の郊外に移転する現象をいう(Dablanc & Browne, 2020Sakai et al., 2015Aljohani & Thompson, 2016Robichet & Nierat, 2021)。市街中心地の交通整流化、土地利用の効率化、流通の近代化などを目的とし、都市計画や土地利用計画の重要な一環として政策的に行われるロジスティクス・スプロールが多い。その結果、中心都市の郊外に、とりわけ交通利便性がよくて土地コストが相対的に低廉なエリアでは大規模な物流団地が整備され、そこに物流企業の立地集積が進んだ(Woudsma et al., 2008Cidell, 2011Leigh & Hoelzel, 2012Allen et al., 2012Holl & Mariotti, 2017)。北米のロジスティクス・パーク、欧州の貨物村(FV)あるいは物流村(Logistics village, LV)、中国の物流園区、日本の流通業務団地は典型的な例である(Aljohani & Thompson, 2016李・行本, 2006Senna et al., 2021)。こうして、物流施設が都市の外縁へと分散するスプロール現象はかえって、物流の集積につながったのである。

グローバル・サプライチェーンの分散化とロジスティクス・スプロールという分散化は重なり合って物流の集積につながるケースも多々ある。He et al.(2019)は2005年から2015年までの物流統計データの解析を通して、中国長江デルタ地域における主要都市でロジスティクス・スプロールとロジスティクス・クラスターが同時に進展していったことを明らかにした。即ち、中国長江デルタのようなグローバル・サプライチェーンに深く参加している地域では、少数のゲートウェイ都市に貿易と国際物流が集中する傾向が顕著に見られる(Picard & Tabuchi, 2010Bolumole et al., 2015)。Rocha & Perobelli(2020)の予測したブラジルにおける物流セクターの長期的な空間分布もこの傾向に合致する。アメリカのロサンゼルス/ロングビーチや韓国の釜山がそれぞれの国の外航コンテナの約6割、約8割を占めるのも、この傾向を端的に示している1。これらの都市は物流の集中傾向に対応すべく、より大きな輸送ノードのインフラを整備するとともに、臨港エリアや中心都市の郊外に大規模な物流団地を造成し、物流関連施設の立地を促すなどロジスティクス・スプロールの戦略を進めていった。釜山港とその臨港物流団地は好例である。釜山市街地から約25キロ離れたエリアで韓国政府によって強力に進められた大規模な釜山新港と臨港物流団地のプロジェクトはアジア有数の国際物流ハブに結実した(Chang, 2003李・金, 2017)。中国の上海洋山新港や青島新港も同様な戦略で壮大なロジスティクス・ランドスケイプの形成に成功している(李・劉, 2007Wang & Ducruet, 2012)。こうしたロジスティクス・ハブの形成はまた貨物の集約と物流施設の共同立地を惹きつける。このような、グローバル・サプライチェーンの分散化とロジスティクス・スプロールが重なり合い相互作用しながら、ロジスティクス・クラスターの形成につながったケースは世界の主要な経済圏で多く見られる(Hayes, 2006Cidell, 2010He et al., 2019)。

グローバル競争時代に入ってから、技術や競争における条件の変化は伝統的な立地の役割を減退させる一方、クラスターは国や地域、都市の経済発展と産業振興にとってかえって重要となる(Porter, 19982000)。この経済地理学のパラドックスはロジスティクス産業ではより顕著に表れる。サプライチェーンがグローバル範囲に分散配置すればするほど、ロジスティクス活動にとっては立地の重要性は寧ろさらに増す結果となる(Bolumole et al., 2015)。グローバル・バリューチェーンの広がりは必然的に物流の複雑性と非効率性を増幅させるが、各地域のゲートウェイの物流ハブで貨物のコンソリデーション、アセットのシェアリング、付加価値サービスの提供、幹線輸送の高稼働率を実現することが問題解決のソリューションとして目指されるようになる(van Hoek & van Dierdonck, 2000Reichhart & Holweg, 2008Sheffi, 2012aRivera et al., 2016)。そして、多国籍企業は総合的なロジスティクスとサプライチェーン・ネットワークのプランニングという視点からディストリビューション・センターなどの物流施設を物流ハブに近接して立地させることを選好するようになる(Hesse & Rodrigue, 2004Melo et al., 2009)。こうして、種々の要因が結合した結果、大型輸送ノードに隣接するロジスティクス・パークへの企業集積が出来上がってくるのである。

一方、グローバル・サプライチェーンに十分に参加していない地域の港湾都市では、サプライチェーンのケイパビリティの欠如および不十分な域内物流需要などが原因でロジスティクス・ハブの造成を図っても失敗する可能性が高い(Closs et al., 2014Zhang et al., 2017)。那覇にある沖縄国際物流拠点産業集積地のプロジェクトは発足して10年が経過したにもかかわらず、入居企業数が少なくクラスターには程遠い2。1992年からスタートした中国の海南省の洋浦港経済開発区は一握りの大型国有企業の投資案件を除けば、企業の集積が一向に進まない(王, 2020)。沖縄と海南島の両地域の共通点として、グローバル・サプライチェーンとの関わりが薄いことが挙げられる。

そこで、以上の先行研究の知見から次の命題が得られる。

PR1:グローバル・サプライチェーンに深く関与している地域におけるゲートウェイ都市では、ロジスティクス・クラスターが形成される可能性が高い。

3.2  LCの形成と政府の役割

産業クラスターの形成と発展に対する政府の役割については多くの議論がなされている。Porter(19982007)は公共政策が産業集積を成功裏に推進することにおいて重要な役割を果たすと指摘し、インフラなどの経済基盤の整備や法規制による競争環境の維持・改善に取り組むことがクラスターへの民間投資を喚起する上で不可欠な条件であると強調する。企業立地の意思決定と集積内のビジネス・リンケージ形成に大きなインパクトを与える公共財・準公共財の提供およびアップグレードが政府の果たさなければならない責務に含まれる(Porter, 1998Snowdon & Stonehouse, 2006)。大きなポテンシャルをもつ萌芽的クラスターがクリティカル・マスに到達するためには、政府は環境的条件、例えば、科学技術の基盤や政治的サポートなど、の整備に努めなければならないとMenzel & Fornahl(2010)は力説した。

もっとも、PorterもMenzel & Fornahlも政府がクラスター形成の主役を担うべきと主張しているわけではない。むしろ、政府のすべきことは民間セクターに協力して、良質な公共財・準公共財を提供するといった環境整備を通して、既存のクラスターあるいは生成中のクラスターを強化することである(Porter, 1998)。実際、政府の選定や指定などによって進められたクラスター創成プロジェクトはカギとなる条件の欠如ゆえにクリティカル・マスに到達できず、潜在性を発揮できないまま失敗したケースが多くあるという(Rosenfeld, 1997)。政府の積極的な介入は地域の独特なサプライチェーンのケイパビリティの活用に焦点を絞るべきだとCloss et al.(2014)は指摘する。

しかし、一般の産業クラスターと比べて、ロジスティクス・クラスターは政府により大きな役割を求めざるを得ない(Gumenyuk & Orlov, 2014Nežerenko & Koppel, 20152017Zhu & Hein, 2019)。大半のロジスティクス・クラスターは港湾や空港、鉄道貨物駅などのモード・チェンジ・ターミナルをベースに形成・発展するもので、いわゆる輸送ノード・ベース型である(Bowen, 2008Petti & Beresford, 2009Sheffi, 2010李, 201420162018aRivera et al., 2016)。商業集積ベース型と称されるタイプのロジスティクス・クラスターも存在するが、その形成過程においても政府は輸送インフラの企画・建設など相応の基盤整備に役割を果たさなければならない(李, 20172018b)。企業は物流施設の立地の意思決定に際して、常に輸送の利便性を最重要な要素の一つとしている(Credit, 2019Dablanc & Browne, 2020)。

ロジスティクス・ハブにとっては、港湾や空港などの輸送インフラは公共財以上の存在であり、クラスターのベーシックな構成部分である。この部分への戦略的な投資は政治的モチベーションから決定的に影響されることが多い(Hamed Al-Wahaibi, 2019)。また、こうしたインフラの整備はしばしば複数の行政区域を跨ぐため、ロジスティクス・ネットワークの広域化と既存の地域行政体制との葛藤にしばしば悩まされる。それだけに、政府の強力な調整力が不可欠となる(Cidell, 2011Bolumole et al., 2015)。アジア・パシフィック地域のロジスティクス・ハブとして企画・整備された上海洋山港は典型的な事例である。同港は上海港の新港として企画されたが、隣省の浙江省に属する島(洋山島)で建設されている。中央政府の強いリーダーシップと地方政府間の円滑な連携がなければ実現不可能であった(Wang & Ducruet, 2012)。

輸送システムへの公的投資が交通利便性および集積潜在性の向上につながることはCredit(2019)の研究で解明されている。Liu et al.(2018)は中国各地の統計データを用いて分析した結果、ロジスティクス・クラスターの発達度とそれぞれの地域における物流インフラへの公的投資額および政府の積極的な物流振興政策とは明確な相関関係が存在することを明らかにした。港湾などのインフラ投資の多元化が進展している今日でも、政策に基づく政府の投資活動は民間投資の方向を誘発・誘導する役割を果たす、いわゆるソフトな効果をあげている(Jian et al., 2017)。また、公共の物流ノードの形成プロセスにおいては、政府企画・企業主導のモデル(Government-planned, enterprise-led development model)が集約的かつ効率的な開発に成功した例が多いことがLi et al.(2017)の調査で明らかになった。

輸送インフラに加えて、物流団地の企画・造成と企業誘致のための優遇策も公的部門の積極的な行動に負うところが大きい。欧州諸国のFVの大半は混載率向上と市街地交通量減少を狙う政策の下、政府主導で整備が進められたものである(Kapros et al., 2005Woudsma et al., 2008Higgins et al., 2012Rodrigue & Notteboom, 2010Monios, 2016Baydar et al., 2019)。ドイツ政府は物流産業を10の卓越クラスター(Spitzenclusters)を構築する産業の一つに選び、同国の産業中心地域でEffizienz Cluster Logistik Ruhrと呼ばれるロジスティクス・クラスター創成のプロジェクトを推進している(Keller et al., 2015)。日本では、流通業務市街地の整備に関する法律に基づいて整備された26箇所の流通業務団地は欧州のFVとほぼ同様な狙いであった(李・行本, 2006)。中国の中央政府は全土で29の第1級ハブと70の第2級ハブからなるロジスティクス・ハブのネットワークの整備を積極的に進め、各地の地方政府の主導で整備されるものと合わせて、1000箇所以上にのぼる物流団地を企画・造成し、物流集積の形成・発展に余念がない(李, 2014Huang et al., 2017Lu et al., 2018He et al., 2019)。Sheffi(2012a)で取り上げられたスペインのザラゴーサのロジスティクス・プラットフォーム(PLAZA)やシンガポール空港ロジスティクス・パーク(ALPS)、アメリカのデトロイト・エアロトロポリス・ロジスティクス・ハブ、アラビア首長国のドバイのロジスティクス・シティなどはいずれも政府のイニシアティブと投資で推進されたという。

民間企業の主導で開発される物流団地も公的セクターからのサポートや政府の優遇政策が欠かせない。輸送ターミナルや物流センターは典型的な土地消費型の施設で、面積当たりの収益性が比較的に低いため、物流団地の開発と運営にあたり、特恵的な土地政策が重要な意味を有する(Heitz & Beziat, 2016Verhetsel et al., 2015)。それ故に、プロロジスやCacheロジスティクスなどの大手物流不動産事業者が世界各地で手掛けている数々のロジスティクス・パークを含めて、物流団地の開発は常に政府の土地利用の計画や政策が絡んでくる(Dablanc & Browne, 2020van den Heuvel et al., 2014)。政策だけではなく、一定比率の公的資金による投資が民間主導の物流団地事業の成功に寄与することはTsamboulas & Kapros(2003)の検証研究によって明らかにされた。Jurásková & Macurová,(2013)の調査によると、2000年以降、チェコで数々の新規ロジスティクス・パークが民間企業によって開発されたが、すべて政府の手厚い支援を受けているという。アメリカとEUではロジスティクス・ハブの多くは多元的なガバナンス・モデルを採用しており、それらの成功事例に共通した点として、政府機関と民間組織などの協働的な仕組みで公的セクターの政策立案能力や信用力と民間セクターの専門知識を相補完的に結合することが挙げられる(Fawcett et al., 2011)。

ロジスティクス・クラスターの創成には、立地特殊な価値および地域のサプライチェーン・ケイパビリティを踏まえた積極的な政府介入と首尾一貫したロジスティクス・ハブ戦略が有効であるとCloss et al.(2014)は指摘する。Waits(2000)によれば、クラスターは3つのレイヤーに分けることができる。インフラや教育・研究機関、投資機関などを含む重要な経済的基盤(Essential economic foundations)はサード・レイヤーであり、コアのレイヤーであるリーディング企業とセカンド・レイヤーである専門的企業群と比べて、ベーシックなサード・レイヤーの整備は政府の役割に依存するところが大きいという。de Langen and Visser(2005)はアメリカのミシシッピ下流港湾クラスター(LMPC)の失敗事例からの教訓を踏まえて、港湾ベースのクラスターでは、教育訓練、イノベーション、マーケティング・プロモーション、後背地へのアクセス、国際化という5つの重要な集団的行動と呼ばれる領域に対して、政府が積極的に投資しなければクラスター形成に必要な基盤形成は困難になると結論づけた。

要するに、ロジスティクス・クラスターにとって、政府はレギュレーターであると同時に、ファシリテーターであり、インベスターでなければならない(Hayes, 2006Heitz & Beziat, 2016)。そこで、次の命題が導出できる。

PR2:ロジスティクス・クラスターの形成過程において、政府はインフラや競争条件などの基盤整備を通して、重要かつ不可欠な役割を果たす。

3.3  LCの形成と中核的物流サービス

クラスターの形成には何らかのコアが必要とされる。しかし、何がコアたるものかについては見解が分かれている。Waits(2000)はクラスターが3つのレイヤーから構成され、コアのレイヤーに位置するのは数少ないリーディング企業であると主張する。Malmberg & Maskell(2002)もクラスター形成過程における大企業のリーディングの役割を認める。彼らの主張はメンフィス、ルイビル、リエージュ、ライプツィヒのロジスティクス・クラスターはそれぞれ、世界的な大手物流企業であるFedEx, UPS, TNT, DHLを核に形成しているという事実から裏付けられた。Menzel & Fornahl(2010)はコアたる企業をクラスターの「中心」(Focal point)と呼び、この「中心」から多くのスピンオフが発生したり、大勢のスタートアップを周りに惹きつけたりして、集積の形成につながるという。成功したクラスターの初期においては、技術のゲートキーパーとして活躍するリーディング企業がローカル企業にとって技術習得の重要なソースとなることをGiuliani(2007)は発見した。

クラスターの形成を企業立地に関する意思決定の集合的プロセスとみるVicenteとSuireは、技術革新の方向性を示すファッション・リーダーとしてのパイオニア企業がコアの役割を演じると強調する(Vicente & Suire, 2007Suire & Vicente, 2009)。クラスター形成初期において、企業の立地決定には大きなリスクを伴うため、シンボリックな投資を模倣することで立地の不確実性を克服し合理性を得ようとする企業が多く現れてくる(Appold, 2005)。即ち、パイオニア企業の行った先駆的な投資活動がシグナルとなり、追随者に対して情報的効果(Informational effect)と立地の外部性をもたらし、企業の共同立地を促すのである(Suire & Vicente, 2009)。このことは一種のバンドワゴン効果とも言える(Leibenstein, 1950)。

情報的効果はパイオニア企業の意図したものとは限らないが、クラスターの初期段階において立地の意思決定の外部性と模倣行為といった社会的相互作用が集積の生成を牽引する。そして、クリティカル・マスに到達した段階になると、情報的効果が下がり、代わりにネットワーク効果や知識スピルオーバーの効果が集積の成長と拡大に貢献するのである(Vicente & Suire, 2007Suire & Vicente, 2009)。

先駆的な企業がコアとなって、企業の共同立地を惹起しクラスターの形成につながるという上記の諸見解は、企業の地理的近接性と空間的集積、企業間の相互作用を含むクラスターの側面に着目するものである。これに対して、Langen(2002)は経済活動の専門化というクラスターのもう一つの側面にフォーカスする。クラスター内では多様な経済主体がネットワークを形成し、経済活動間の相互依存の関係が存在すると多くの研究者は強調するが(Porter, 2007Kadokawa, 2011a, bLei & Huang, 2014Subramanian et al., 2016Kumar et al., 2017)、Langenは域内のほかの経済活動の存在に強く依存しない専門的経済活動がクラスターのコアになると指摘する。一般に、コアたる経済活動の輸出比率が高いという。

Langen(2002)の言う「専門的経済活動」とは、あるブレークスルーのイノベーションから生まれた事業を指す。ブレークスルーのイノベーションは、一つか僅かの企業によって開発されるもので、Langenの考え方はパイオニア企業をコアとする見解とは矛盾しない。Menzel & Fornahl(2010)も指摘したように、形成しつつあるクラスターの特徴の一つは、新しい技術経路に関する長期的なビジョンを示す企業が存在することである。このような企業とその企業の実現したブレークスルーのイノベーション、そして、そのイノベーションから生まれた製品・サービスが生成中のクラスターのコアとなるのである。

Rosenfeld(1997)は潜在的なクラスターがクリティカル・マスに到達し、ポテンシャルを発揮できるようになるためには、カギとなる条件(Key conditions)がなければならないと指摘する。Sheffi(2012b)も類似する見解を示した。ロジスティクス・クラスターが「集積が集積を呼ぶ」よう自己増強の好循環(Self-reinforcing positive loop)の成長軌道に乗る前に、初期のシード投資が肝心になるとSheffiは強調する。

RosenfeldもSheffiもカギとなる条件や初期のシード投資が何を指すかについて踏み込んだ議論を展開していなかったが、李(2014)Kumar et al.(2017)はカギとなる輸送活動の創設と定着がロジスティクス・クラスターの形成にとって欠かせない条件であり、コアであると論じる。ロジスティクス・クラスターはカギとなる輸送活動を中核に膨らみ、そして進化していく。例えば、メンフィス、釜山、ザラゴーサのロジスティクス・クラスターは、それぞれ全米翌日宅配、国際海上コンテナのトランジット輸送、国際空運快送サービスのような中核的輸送サービスが発達したうえで形成されてきた(Shefii, 2012a;李・金, 2017)。中国の重慶や成都、鄭州などの内陸主要都市では、ユーラシア横断鉄道コンテナ定期輸送サービス(中欧班列)が創設され、同サービスの発着ターミナルを囲むエリアでロジスティクス・クラスターを形成しつつある(李, 20142018a金・李, 20182019Li, 2020)。ドバイをグローバル・ロジスティクス・シティの地位に押し上げたのは、DPワールドが巧みに開拓した世界主要地域に連結する外航コンテナ定期航路網である(Jacobs, 2007)。

そこで、次の命題が導出できる。

PR3:中核的輸送サービスはロジスティクス・クラスターのコアであり、その創設と定着がクラスターの形成にとってカギとなる条件である。

3.4  LCの形成と企業間関係

クラスターは現象としては特定のエリアにおける企業の共同立地と見受けられるが、決してそれだけではない。クラスターは企業の空間的集中(Spatial concentration)であると同時に特定産業領域の集中(Sectoral concentration)でもあり(Schmitz & Nadvi, 1999)、共同立地後に組織横断的なリンケージと相互補完性が生じ、それによってシナジーを生み出すことこそがクラスターの特徴である(Rosenfeld, 1997Porter, 1998van den Heuvel et al., 2016)。クラスターを非公式にリンクし合う独立企業の集合として捉えたPorter(1998)は効率性、有効性、柔軟性といった点でクラスターは優位性を有する強固な組織形態であると主張する。地理的近接性(Geographic proximity)は企業間の協業と提携を促進し、とりわけ同じロジスティクス・パークに立地する企業同士がより粘着(Sticky)するため(Anderson & Weitz, 1992Battezzati & Magnani, 2000van den Heuvel et al., 2014Rivera et al., 2016Abushaikha, 2018Sheffi et al., 2019Verbeek, 1999)、シナジー効果の生成において重要な要素である企業間の相互接続性(Interconnectedness)が生まれる可能性が高まる(Porter, 1998)。欧州のFVは市街地の交通整流化やモーダルシフト、土地利用の見直しなどの外部効果に加えて、物流アセットのシェアリング、オペレーションの共同化といった内部効果も期待される(Woudsma et al., 2008)。実際、Schmoltzi & Marcus Wallenburg(2011)の調査によれば、FV立地を選好するドイツの物流企業の約6割が組織的に水平的協業を行っているという。

クラスターの研究者はミクロ経済学、ビジネス経済学、地域科学、イノベーションなど異なる理論的バックグラウンドをもつが、クラスター内の企業を相互接続の経済主体と捉える点では共通する(Schmitz & Nadvi, 1999)。しかし、Giuliani(2007)が指摘したように、クラスター内にあること自体が必然的に相互接続を実現するわけではない。潜在的なクラスターと本格的なクラスター(Working clusters)の違いは、企業が相互接続・相互依存の関係を自覚して活用することができているか否かである(Rosenfeld, 1997)。潜在的なクラスターでは、企業の地理的集中が発生しているものの、企業間の協業が少なく、マネジャー同士の交流も欠如している。日本の地方都市にある流通業務団地が好例である。李・行本(2006)の調査によると、地方の流通業務団地には域外から進出してきた大手企業の物流拠点と営業拠点がひしめき、事業所間のリンケージが希薄な状態に留まっている。従って、これらの団地は数多くの物流関連企業が集まっているものの、ロジスティクス・クラスターには至っていない。製造業のクラスターを研究したHenderson(2003)Neffke et al.(2012)は製造企業の集まる工業団地でも同様な事象を発見した。一方、アタランタ、ザラゴーサ、シンガポール、ロッテルダム、メンフィスなどのロジスティクス・パーク内では、アセットのシェアリングや共同輸配送など様々なコラボレーションが入居企業間で盛んに行われ、参加企業のコストとリスクの削減と競争力強化に大いに寄与し(Sheffi, 2012aJanasová et al., 2017Sheffi et al., 2019)、物流サービスの安定性と信頼性の向上にもつながった(Cvahte et al., 2015)。こうしたコラボレーションに必要な共同価値の提案と実現を可能にした数々のビジネスモデルがロジスティクス・クラスター内で開発・模倣されているという(Petersson & Södgren, 2014)。

クラスター企業の相互接続は業務上の提携や共同化に加えて、技術的関連性(Technological relatedness)も含まれる(Boschma & Fornahl, 2011Potter & Watts, 2014)。技術的関連性は企業間の産業的類似性(Industrial similarity)によるところが大きいが、地理的近接は技術の関連性を促進する(Cottineau & Arcaute, 2020)。また、技術関連性は水平的協業だけではなく、垂直的協業にも寄与する。特に大企業はクラスター内で数多くの中小規模サプライヤーを開拓する場合において、知識のスピルオーバーとともに垂直的協業が自ずと形成されていく(Malmberg & Maskell, 2002Rosenthal & Strange, 2004DeWitt et al., 2006Sheffi, 2010)。このような現象はロジスティクス・クラスターにおいても見られる。例えば、重慶のロジスティクス・クラスターでは、新しい国際基幹輸送モードとしてユーラシア大陸横断鉄道コンテナ定期輸送サービスを開発した物流企業は、「中欧班列」と名付け運営開始して以降、多くの国際フォワーダーやパッケージング専門事業者、コンテナ・リース事業者との間で、集配荷、保温耐震の包装材の開発、コンテナの回収と保全などを巡り知識・情報の共有に基づく協業を進め、垂直的なネットワークを構築した(李, 2016Huang et al., 2020Zhao et al., 2018)。

クラスターは同じセクターの企業と施設の共同立地を意味するローカリゼーション(Localization)のプロセスのほかに、多様なセクターの経済組織が混在する都市化(Urbanization)のプロセスを中心に展開する可能性もあり、どちらのプロセスが企業間の相互接続とイノベーションをより促進することができるかについては、クラスターの研究者および政策立案者の間で見解が分かれ論争があった(Harrison et al., 1996Neffke et al., 2012)。多くのロジスティクス・クラスターにはロジスティクスのセクターに属する企業と施設が共同立地する一方、各々の物流企業と物流施設は様々なユーザー産業に特化する個性的なロジスティクス・サービスを営み、多様なセクターのサプライチェーンに属するという特徴がある(Li et al., 2017)。こうしたロジスティクス・クラスターはローカリゼーションと都市化の両方の側面を持ち合わせ、企業間の相互接続と知識共有に有利な条件を与えるため、大きなシナジーが期待できるのである(van den Heuvel et al., 2016)。

企業間の相互接続・相互依存はクラスター形成後に観察される属性や関係性であり、クラスター生成の要素ではないことに留意する必要がある(Feldman & Francis, 2004Motoyama, 2008)。クラスターの生成メカニズムを解明するためには、企業間の相互接続性を規定する要素を探らなければならない。

Rosenfeld(1997)が流れや動き(Current or motion)の側面からクラスターにおける企業間の相互接続・相互依存を考察することが重要だと指摘する。多くのクラスター研究は、企業数や雇用数、地理的範囲といったスケールの側面に偏重するため、ソーシャル・エコロジーとビジネス・エコシステムに根差す関係性の解明は不十分である。情報フロー、技術やスキルの変化、イノベーションの発生、人員や資本の流入と流出などを含むクラスターの流れや動きを明らかにすれば、相互接続性の成り立ちも浮き彫りになると、Rosenfeldは強調する。

Rosenfeldはクラスター内のエコシステム全般に目を向けようとするのに対して、Feldman & Francis(2004)は起業家の役割に焦点を絞る。クラスターの形成過程を複雑かつ自己組織のプロセスと捉えるFeldman & Francisは大規模なプロジェクトだけではなく、小規模なスタートアップやスピンオフも大きなインパクトがあることを発見した。ファッション・リーダーの大企業からのスピンオフを含めて、小規模のスタートアップはパイオニア企業の示す技術の方向性を強く意識し、専門的なリソースの活用を心得る(Suire & Vicente, 2009Menzel & Fornahl, 2010)。まさにRosenfeld(1997)の言うように、こうした小規模なスタートアップ群はコストとリスクをできるだけ軽減するために、相互依存関係を自覚しそれを活用して行動するとともに、継続的な情報流通に役立つネットワークを積極的に作り上げるのである。また、地理的に近接する企業の従業員同士のインフォーマルなコンタクトやネットワークは知識の共有と拡散のための重要なチャネルとなり、これを通して企業間の相互信頼が生まれ、業務提携が検討・実施されるなど、継続的な情報流通の中で能動的な協働と共同行動(Proactive collaboration and joint action)を意識的に追及する(Schmitz & Nadvi, 1999Porter, 2000Dahl & Pedersen, 2004)。

即ち、スタートアップ企業は創業当初から、クラスター内のパイオニア企業をはじめ、様々な企業や機関を経営資源のソースとして活用すると同時に、自らもクラスターに必要な資源の開発と提供に貢献する。起業家はこのように複合的かつ相互的に適応する中で、クラスターの最重要な特徴である相互接続・相互依存の関係を構築していく(Feldman et al., 2005)。それ故に、起業家と起業家精神がクラスター形成過程の肝心な要素(Critical elements)に含まれるのである(Delgado et al., 2010)。

このことは、重慶などの国際鉄道ターミナルをベースに形成したロジスティクス・クラスターの事例からも裏付けられる。ユーラシア大陸横断の鉄道コンテナ定期輸送サービス(中欧班列)が創設された後、数多くの中小フォワーダーが雨後の筍の如く創業され、貨物の集荷や混載、通関、保税保管、様々な付加価値サービスなどを互いに競争かつ協力しながら手掛けている。このような専門サービスの企業群はいわゆるロジスティクス・クラスターのセカンド・レイヤーを構成し、コア・レイヤーであるリーディング企業と相互補完・相互依存しながら、クラスターの企業集合を構成する(Waits, 2000)。数多くのフォワーダーによって広域的に開拓された様々な商材が輸送需要の波動を平準化する効果をもたらし、域内大手企業の提供するベースカーゴとともに中欧班列の定着と成長に大きく寄与している。フォワーディングに加えて、保税保管、越境電子商取引向けのブロックトレインの運行、ミルクラン集荷とのシームレス連結、検品・小分け・タグ付け・アッセンブリー・修理といった付加価値サービスなど、数々の物流企業の提供する多種多様な関連サービスは中欧班列の魅力を高め、利用の幅を広めていった。中欧班列のサービスに依拠にしながら創業した中小規模の物流企業と中欧班列のプラットフォーム企業などの大手物流企業との組み合わせが立地上の魅力を生み出し、ますます多くの物流企業および荷主企業を呼び込む効果をもたらした(李, 2018a)。

そこで、次の命題を導出できる。

PR4:旺盛な起業とサービスのイノベーションは企業間の相互接続・相互依存をもたらし、LC形成を決定づける。

4.  インプリケーション

本研究はシステマティックな文献レビューを通して、4つの命題を導き出した。下記の概念図(図1)はこの4つの命題を統合し、ロジスティクス・クラスターのライフサイクルにリンクするフレームワークを示している。図の左側にある4つの重なる輪は4つのファクターを表す。一番外側の輪はロジスティクス・クラスター形成に影響する主な環境要因を示し、グローバル・サプライチェーンへの大規模な参加と地域のゲートウェイ都市への国際物流の集約、都市部のロジスティクス・スプロールが含まれる。2番目の輪はロジスティクス・クラスター形成のベースとして、大型輸送ノードやロジスティクス・パークなどのインフラ、優遇的な土地政策・企業誘致政策と関連法制度の制定と執行など、ロジスティクス・クラスター形成に必要なビジネス基盤を整備することを含む。こうした基盤の整備には政府が大きな役割を果たす。中央の輪(以下、4番のファクター)はロジスティクス・クラスターのコアであり、少数のリーディング企業とそれらの企業によって開発・運営される中核的輸送サービスを示す。それを囲む輪(以下、3番のファクター)はリーディング企業からのスピンオフなどから生成するスタートアップ企業群とそれらによって開発される様々なロジスティクス・サービスである。旺盛な起業活動とサービスのイノベーションはこの企業群の出現と企業間の相互接続・相互依存の関係をもたらすのである。

図1 ロジスティクス・クラスターの形成メカニズム

(出所)筆者作成。

1番のファクター(グローバル・サプライチェーンへの参加)と2番のファクター(政府による基盤整備)は相互に作用する関係にある。即ち、グローバル・サプライチェーンへの大規模な参加は必然的に物量の増大を引き起こし、物流インフラ等の基盤整備を要請する。物量増大とロジスティクス・スプロールに対応するインフラ整備はゲートウェイ都市の機能強化につながり、さらなる物量の集約を喚起するのである。

3番のファクター(旺盛な起業活動とサービスのイノベーション)と4番のファクター(リーディング企業による中核的輸送サービスの創設)は緊密に絡み合う。多くのスタートアップ企業はリーディング企業からのスピンオフあるいはリーディング企業の追随・模倣により誕生し、中核的輸送サービスに依拠して事業を展開する。そして、スタートアップ企業の開発する多様なサービスがリーディング企業の中核的サービスの定着と成長に大いに寄与する。こうした企業群はリーディング企業を含めて相互接続・相互依存の関係を結び、クラスターの形成を特徴づける。

4つの命題を統合してまとめて言えば次の通りになる。グローバル・サプライチェーンに大規模で参加する地域におけるゲートウェイ都市で、政府はロジスティクス・クラスター創成を明確な目標に掲げ輸送ノードやロジスティクス・パークなどのインフラと関連政策を含むビジネス基盤の整備を行い、リーディング企業は中核的輸送サービスを創設する。そして、この中核的輸送サービスに依拠ないし補完する事業を興すスタートアップ企業が叢生し、相互依存しながら活発な起業活動とサービスのイノベーションが起きた時に、共同立地の物流関連企業数はクリティカル・マスに順調に到達し、集積が集積を呼ぶような自己増強の好循環のメカニズムが働き始める。そうなれば、ロジスティクス・クラスターは生成プロセスを終え、生成段階から成長段階に移行するのである。

本研究には主として2点の理論的貢献がある。

1つ目として、4つの命題の導出がロジスティクス・クラスターの生成メカニズムを解明するための重要なステップであり、ロジスティクス・クラスターのライフサイクル理論において欠落する部分を補うことに寄与し、クラスターのダイナミクス理論をより豊かにすることに貢献している。

産業や製品と同様、産業クラスターにもライフサイクルがあり、クラスターの生成は最初のステージで、成長、成熟、衰退のステージがそれに続く(Rosenfeld, 2002Sheffi, 2012aWang et al., 2014)。クラスターの成長と衰退のメカニズムに関しては多くの研究が見受けられる一方(Marshall, 1920Porter, 1998Martin & Sunley, 2006Menzel & Fornahl, 2010Boschma & Fornahl, 2011Neffke et al., 2012Wang et al., 2014)、クラスター生成の要因に関する探究は少ない。研究の少なさの理由については、萌芽段階にあるクラスター(Emerging cluster)には企業も雇用も数少ないがゆえに、萌芽開始の時期や成長段階への脱皮をならしめた要素を特定するのが困難だと、Menzel & Fornahl(2010)は説明している。

クラスターのダイナミクスに関するRosenfeld(2002)の考察はクラスター生成要因に言及する数少ない研究の一つである。Rosenfeldはイノベーションとクラスターのダイナミクスとの関係性に着目し、画期的なイノベーションあるいは内部投資(Internal investments)がクラスターの生成につながることを発見した。そして、模倣者や競合の参入が増えるにつれて、クラスターは成長期に入る。やがて企業間の技術的格差は次第に縮まってくると、コストベースの競争が主流になり、クラスターは成熟期に突入するという。Rosenfeldのまとめたクラスターのダイナミクスでは、企業間の技術的差異(Technological heterogeneity)とその収斂が進化を引き起こす主な要因とされる。

少数企業によるイノベーションや内部投資はクラスター生成初期において重要な役割を果たすが、この段階では企業はクラスターの形成を明確に意図しないことが多いという(Rosenfeld, 19972002)。実際、起源を特定の歴史的状況や偶然な機会に求めることができるクラスターは少なくないと多くの研究者から指摘されている(Porter, 1994, 1998Rosenfeld, 1997Martin & Sunley, 2006)。アメリカのオマハ市のテレマーケティングのクラスターは、冷戦時に核攻撃に備えるために整備されたアメリカ戦略空軍の光ファイバー通信網とその整備過程で育った関連業者群がなければ、生まれなかったであろう(Sheffi, 2012a)。シリコンバレーやボストンのバイオ・クラスターなどのハイテク産業集積のいずれも域内の大学と研究機関の研究成果にルーツがあった(Porter, 1998)。「第3のイタリア」と呼ばれるイタリアの小規模企業の集積を考察したBianchi(1998)はクラスターの発祥・衰退・変化(Genesis, Decline, and Transformation)のプロセスを具体的な歴史的文脈から探求すべきだと主張する。

萌芽したクラスターはクリティカル・マスに到達し、クラスター内の企業業績の伸び率がクラスター外の企業のそれより上回るようになれば、成長のステージに入り、「集積が集積を呼ぶ」と言われるような自己増強の好循環が始まる(Young, 1928Menzel & Fornahl, 2010Sheffi, 2012a, b)。これはクラスターが本格的に形成したタイミングと言える。

しかし、クラスターの生成理由を少数企業による画期的なイノベーションや内部投資に求めるRosenfeldの説は、ITやバイオなどのハイテク産業集積を事例に導出した結論であり、ロジスティクス・クラスターの形成に対して部分的な説明力しか有しない。物流サービスのイノベーションはロジスティクス・クラスター形成にも重要であるものの、ITなどのハイテク産業ほどのインパクトはなかろう。それに、地域内に大きな物流需要や適切な物流インフラが存在しなければ画期的な物流サービスが開発されたとしても物流活動の集積が生まれる可能性は高くなかろう。

Zhang & Lam(2013)では、海事クラスターがフィジカルのオペレーションズからグローバル/リージョンカルナの高度な海事サービスへと進化するプロセスを分析したものの、進化をもたらすメカニズムについて触れていない。Sheffi(2012a)は集積の経済に基づく自己増強の好循環の論理でロジスティクス・クラスターのダイナミクスを説明している。即ち、ロジスティクス・クラスターはいったん形成されると、荷主は低廉なコストで良質かつ多様な物流サービスを享受できるため、ますます多くの荷主と物量をクラスターに惹き付ける。荷主と物量が増えれば増えるほど、より多くの物流企業をクラスターに呼び込み、サービスのさらなる改良・改善とコストの削減につながる(Sheffi, 2012a)。しかし、こうした自己増強の好循環はすでに形成されたロジスティクス・クラスターの発展・拡大のメカニズムを説明するものではあるが、クラスター生成のメカニズムではない。

要するに、既存のクラスターのダイナミクス研究では、クラスターの生成をライフサイクルの最初ステージと捉えるものの、生成メカニズムについて究明されていない(Malmberg & Maskell, 2002)。自己増強の好循環というクラスターの成長段階のメカニズムは多くの研究者から指摘されているのに対して、クラスターの生成を規定する要因に関心を寄せる研究者は少ない(Lorenzen, 2005Boschma & Fornahl, 2011Menzel & Fornahl, 2010)。それ故に、Hylton & Ross(2018)はロジスティクス・クラスターの生成メカニズムの研究を呼び掛けている。

本研究はHylton & Ross(2018)の呼びかけに応えるべく、システマティック・リテラチャー・レビューの手法を援用し既存研究の関連知見を総合的に整理することによって、ロジスティクス・クラスター形成メカニズム理論を構成する命題を導出してみた。これらの命題は今後の実証研究で検証と修正を行わなければならないが、本研究および後続研究の知見はロジスティクス・クラスターのダイナミクス理論を補完するパーツになるものと考えられる。

2つ目の理論的貢献はロジスティクス・クラスター形成における地理的属性(Geographical attributes)の役割と意味を再検討することである。

一般に、特定のエリアの恵まれた地理的条件、例えば、交通の要所や中心的な地理位置、巨大消費市場との近さ、悪天候の少ない場所などがロジスティクス・クラスターの生成をもたらす最重要な要素とされる(Sheffi, 2012a)。こうした地理的属性は「地理的カリスマ性」(Geographic charisma)となって、物流企業および荷主企業の物流施設の共同立地を呼び込む効果があると認識される(Applod, 2005Vicente & Suire, 2007)。そして、空間的近接が如何なる要素よりも関係性の構築に寄与するという地理学の第1法則(First law of geography)によれば、共同立地が必然的に企業間ネットワークの構築など相互接続・相互依存を引き起こし、クラスターの形成に結び付くものと考えられてきた(Ullman, 1958Tobler, 1970Petersson & Södgren, 2014Lei & Huang, 2014Chhetri et al., 2018)。このように共同立地によって生まれる企業間のリンケージは柔軟性や効率性などの点で強固な組織形態になるとPorter(1998)は主張する。かかる主張は新経済地理学を打ち立てたクルーグマンの「中核-周辺モデル」の示唆する地理的近接の優位性にも通ずる(Krugman, 1990)。地理的好条件と企業の共同立地は輸送密度の経済(Economies of transport density)を通して、集積の経済を惹き起こし、よってさらなる企業の立地を招くというような循環的因果関係(Circular causation)が成り立つ(Mori & Nishikimi, 2002)。また、既存の産業クラスターで打ち立てられた地域の良好なブランディングとイメージも地理的好条件に含まれ、新しいクラスターであるロジスティクス・クラスターの創成にポジティブな影響を与えるという(Hafeez et al., 2016)。

地理的近接性と相互接続性いうクラスターの2大特徴はいずれも地理的カリスマ性から規定されるという考え方は、地理的カリスマ性を所与や自然賦存として捉えている。しかし、本研究で導出した命題は、地理的カリスマ性が所与としての有利な自然条件だけではなく、戦略的取り組みと複合的要素の相互作用の結果であることを示唆する。即ち、グローバル・サプライチェーンに深く関わっている地域におけるゲートウェイという位置、当該地域におけるサプライチェーンのケイパビリティ、政府によるインフラや関連制度などの基盤整備、中核的輸送サービスの創設と運営、旺盛な起業とサービスのイノベーションなど、これらの諸要素の組み合わせこそが、企業立地にとっての魅力となり、地理的カリスマ性を生み出すのである。実際、地理的好条件に恵まれながら、ロジスティクス・クラスターの創成に失敗したケースが少なくない。前述したアメリカのLMPCはミシシッピ川流域、アメリカ南部、メキシコ湾を含む広域の中心的な位置にあり、良港としての自然条件も揃えているにもかかわらず、国際物流のハブにはならず、港の貨物取扱量すら大幅に衰退していった。インフラ整備や教育、イノベーションへの投資の欠如が持続的な低迷をもたらした主因とされる(de Langen & Visser, 2005)。エジプトのポート・サイドの不振も好例である。スエズ運河の地中海出口側にあるポート・サイドは、アラビア半島と北アフリカを含む広域を潜在的な後背地として抱え、アジア欧州航路のほぼ中間地点という絶好な地理的位置に恵まれるため、早く「地中海のシンガポール」になると期待されたが、政府は果たすべき役割を十分に果たさなかったため、物流の集積が生成できず、同地域のドバイの後塵を拝す状況である(Sheffi, 2012a)。

政策の立案・実行とビジネスの実務に対する本研究の示唆は主として以下の4点が挙げられる。

第1に、ロジスティクス・クラスター創成プロジェクトを企画する際には、当該地域のグローバル・サプライチェーンへのかかわり度合いを考慮することが重要である。大規模かつ深くグローバル・サプライチェーンに組み込まれれば、域内に大きな物流需要が存在することを意味する。そして、この物流需要に対応する中核的輸送サービスの創設が要請される。逆に、グローバル・サプライチェーンへの参加度合いが希薄で、域外からのトランジット需要だけを頼りにしてロジスティクス・クラスターを創成しようとすれば、頓挫する確率が高くなる。先述した沖縄国際物流集積地の低迷をもたらす一因はここにあると考えられる。

第2に、政府はロジスティクス・クラスター形成を明確な戦略的目標に掲げ、インターモーダル・ノードやロジスティクス・パークなどロジスティクス・クラスターのベースとなるインフラの整備、並びに様々な公共財・準公共財、関連制度の整備に積極的に取り組み、レギュレーターおよびインベスターの役割を果たさなければならない。域内の国際物流需要というプルの力と政府による基盤整備のプッシュの力の組み合わせで、ロジスティクス・クラスターのプラットフォームを準備することが重要である。

第3に、リーディング企業による中核的輸送サービスの創設を支援するとともに、域内のスタートアップ創業および補完サービス・付加価値サービスの開発と提供を奨励することが必要である。リーディング企業はメンフィスにおけるフェデックスやルイビルにおけるUPSのような物流企業の場合もあれば、ザラゴーサにおけるインディデックスや重慶におけるヒューレット・パッカード、鄭州におけるフォッコスコンのような大手荷主企業の場合もある。複数の企業がほぼ同時に中核的輸送サービスの創設に関わることもある。しかし、これらのリーディング企業の存在だけでは、立地の魅力が十分に高まらないし、中核的輸送サービスの安定的な運営も困難になりかねない。中核的輸送サービスを運営する少数の大手物流企業と補完サービス・付加価値サービスを営む中小零細型物流企業群の組み合わせ、ベースカーゴを提供する少数の大手荷主企業と小口雑多の貨物を提供する中小規模の荷主企業群の組み合わせ、そして、規格的な中核的輸送サービスと個性的で柔軟な補完サービス・付加価値サービスの組み合わせ、こうした組み合わせが中核的輸送サービスの定着と拡大、そして立地の魅力を決定づける。

第4に、ロジスティクス・クラスターの創成を狙う政府は、政策のパッケージを立案し実行することが必要である。パッケージは、グローバル・サプライチェーンへの参加、物流インフラなどの基盤整備、中核的輸送サービスの創設、補完サービス・付加価値サービスの開発と提供など相互関連・相互補強できるような一連政策を含まなければならない。そのうちの一つか二つだけに偏るような政策では、地理的カリスマ性を醸成する効果が期待できない。中国の重慶市政府は、ヒューレット・パッカードなど大手パソコン・メーカーを誘致し、世界的なパソコン生産基地になるような輸出産業振興政策を実行するとともに、鉄道コンテナ・センター駅の拡充と同駅を囲む大型物流園区の整備を進め、欧州と中央アジアに通ずる国際鉄道コンテナ定期輸送(中欧班列)の創設を全面的に後押しした。さらに、各種フォワーディングや通関、梱包、小分け、保税保管、キッティングなどの補完サービス・付加価値サービスの創業と団地入居を奨励する政策を取り入れた。一連の政策が功を奏して、中欧班列をコアとする一大ロジスティクス・クラスターを形成してきた(李, 2014)。

5.  本研究の限界と今後の研究

本研究の命題は既存文献に対する体系的なレビューに基づいて導出されたものであるが、いくつかの点で限界があると言わざるを得ない。

まず、文献レビュー対象の範囲を限定したことに起因する限界がある。本研究は主として英文の査読付き刊行論文をレビューしているため、一部の日本語の文献と中国語の文献も渉猟しているものの、それ以外の言語で発表された関連知見を反映させることができていない。査読付きの論文に絞ることで、抽象化できていない重要な事象を見落としてしまった可能性が高い。とりわけ、ロジスティクス・クラスターの実践が理論より遥かに進展しているため、学術誌よりも有力なビジネス誌や業界誌に豊富な事象が掲載されているものと考えられる。今後ビジネス誌や業界紙を含めてより手広く文献を収集したうえで、テキスト・マイニングの手法を援用して、本研究の命題の補完と修正を行う必要がある。

次に、先述したように、今日のロジスティクス・クラスターは自然発生的に形成したものというよりも、戦略的な取り組みの産物と言えるケースが殆どである。従って、本研究では地域のゲートウェイをロジスティクス・クラスター形成の前提条件に置くものの、自然条件の影響をあえて強調していない。天然良港や主要貿易ルートの要所といった恵まれた賦存が輸送ハブの好条件となるのは自明の論理であり、一般の常識の域に含まれる。この点は当然否定できない。しかし、各地域のゲートウェイ都市の多くが好ましい自然条件に恵まれる一方で、不利な自然条件にもかかわらずロジスティクス・クラスターを成功裏に造成したケースもある。外洋で作られたため、台風や高波など悪天候にしばしば襲われるが、一大物流集積地として順調に台頭している上海の洋山港と臨港物流園区はその一例と言えよう。さらに、地球温暖化の影響による北極航路の登場が例示するように、自然条件の変化も大きなインパクトを与えるものと考えられる。本研究ではロジスティクス・クラスター形成に対する自然条件による影響や制約という視点からは関連の先行研究を整理する作業に及んでいない。

第3に、急成長を遂げている越境Eコマースは国際貿易、グローバル・サプライチェーン、グローバル・ロジスティクスの構造とプラクティスを大きく変えようとしている。こうした変化はロジスティクス・クラスターの形成と発展に如何なるインパクトを与えるかが新しい研究課題として注目され始めている(Giuffrida et al., 2017)。今後、越境ECとロジスティクス・クラスターとの関係性を取り上げる研究は増えてくるものと予想されるため、関連知見の収集と分析で本研究の命題の補完と修正を続けていくべきである。

第4に、グローバル・サプライチェーンに組み込まれることがロジスティクス・クラスターの生成をもたらす環境的要因であるという本研究で得られた命題は、ドメスティック市場向けのロジスティクス・クラスターの形成に対して説明力を有しない恐れがあるという問題がある。とりわけ、中国やアメリカ、インドのような巨大な国内市場を擁する国々では、それぞれの国内貿易だけでも大きなロジスティクス・クラスターの形成が可能になるものと考えられる。李(2017)で報告されている臨沂のロジスティクス・クラスターは典型的なケースと言える。この問題の本質は、従来のロジスティクス・クラスター研究が国際的な産業立地や国際物流といった文脈を引き継いでいることにより生じた研究知見と実態のギャップであろう。そもそも、ロジスティクス・クラスターの形成は多元的経路が存在する可能性が高い。即ち、グローバル・サプライチェーンに組み込まれることがロジスティクス・クラスター形成の十分条件に含まれるが、必要条件ではないかもしれない。

本研究は先行文献の体系的なレビューから命題を導出して、既存研究と今後の検証研究に繋げるブリッジ的な役割を果たすものである。従って、本稿はロジスティクス・クラスターの形成メカニズムを解明するための重要なステップであるものの、理論の飽和は今後検証と修正を重ねることに委ねなければならない。今後、業界誌・ビジネス誌の掲載記事や非査読付き論文などへとレビューの範囲を広げるとともに、ECや自然条件、国内貿易などの視点を取り入れ、丹念に命題の精緻化を図る必要がある。その上で、具体的な成功事例と失敗事例を理論的サンプルとして選び、プロセス・トレーシングの手法と質的比較分析手法(fsQCR)の組み合わせを用いて命題の検証を行うステップに入る。ロジスティクス・クラスターの既存研究はLQ(Location Quotient)、HCLQ(Horizontal Cluster Location Quotient)、LED(Logistics Employment Density)、LEP(Logistics Establishments’ Participation)などの指標やCluster-Mapping手法を使って、雇用や企業数、集積の分布などを定量的に測定・評価することが多いが、こうした手法は形成後のロジスティクス・クラスターの規模や生産性を測定することに有効である一方、形成要因と形成プロセスの解明には役立たない(Jing & Cai, 2009;Rivera et al., 2014Bolumole et al., 2015Liu et al., 2018Rocha & Probelli, 2020Kumar et al., 2020)。ロジスティクスの研究は具体的な状況と文脈に根差すものでなければならないため、現実世界の理解につながる事例研究の手法は妥当性が認められる(Abushaikha, 2018)。ロジスティクス・クラスター形成に関わる因果関係に接近するために、文献に対する分析と踏み込んだインタビュー・観察のサイクルを繰り返すことが必要である(Mello & Flint, 2009)。

1  ロサンゼルス港湾局(https://www.portoflosangeles.org/)、ロングビーチ港湾局(https://polb.com/)、釜山港湾公社(https://www.busanpa.com/eng/Main.do)のオフィシャルサイトを参照されたい。

参考文献
 
© 2023 The Research Institute for Innovation Management of Hosei University
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