2025 Volume 22 Pages 147-173
森林は多くの利益を私たちに提供している。昨今、気候変動が深刻化するなかで、特に自然災害は森林や付随する林道設備等に対して多大な影響を与えるものであり、これとの関連を分析しておくことは、インフラとして重要な役割を担っている林道を考察する上で必須の課題であると考えられる。そのためには自然災害の種類、発生頻度、災害規模などについて過去からの傾向を調べる必要がある。本稿では62年間にわたる自然災害の推移、林道災害復旧工事歳出額などについて調べ、その相関関係を示した。それは降雨量に強い傾向があることが示唆された。また、林野庁の提供資料から、14年間にわたる国有林林道災害リストの林道のほぼ中央位置を割出し、災害発生日の降水量を調べ、その傾向を調査した。その結果、日降水量の合計50mmから150mmに対して、1時間降水量の最大は、特に10mmから35mm付近に集中し、このような要因の降雨イベントから林道災害の危険が高まり、近年の林道災害復旧工事歳出額が大規模化する可能性を示唆している。
Forests provide us with numerous benefits. In recent years, as climate change has become more severe, natural disasters have had a significant impact on forests and forest roads. Analyzing the relationship between these factors is essential when considering forest roads, which are crucial infrastructure. Therefore, it is necessary to examine the type, frequency, and scale of natural disasters from past trends. Looking into the trends in natural disasters over 62 years, a strong correlation is implied between expenditure on forest road recovery projects and volume of rainfall. Additionally, using data provided by the Forestry Agency, the center points of national forest roads listed asdamaged over the past 14 years were plotted and the rainfall in those locations on the days the damage was caused was examined. The results showed that for daily rainfall totals between 50mm and 150mm, maximum hourly rainfall amounts were clustered between 10mm and 35mm. This indicates that such rainfall events increase the risk of major forest road damage and suggest that the expenditure on forest road repair projects may become more significant in coming years.
自然災害は「暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火その他の異常な自然現象により生ずる被害」と定義されている(被災者生活再建支援法2条1号)。近年、顕著な降水や高温の増加傾向は、長期的な地球温暖化の傾向と関係しているという見解が示され、このことは人的被害や人々の生活を支える基盤、いわゆる「インフラ」に大きな影響を及ぼす可能性がある。林業においては、台風による暴風や豪雨、また積雪などの自然災害によって森林は大きなダメージを受け、経営上厳しい損害を被る。その内、林道整備は森林における木材生産能力を高める機能を持っており、森林を健全に維持することに対しても欠かせない事業である。また、林道の存在は、なくてはならない重要な基盤であり、それが故に、その災害復旧を含むメンテナンス工事は避けられないと思われる。
林業経営や森林管理においては、豪雨、台風などの気象災害によって様々な被害がもたらされる。図1は林野庁が作成した2010(平成22)年~2023(令和5)年の林野関係被害の発生状況(12月31日時点)(速報)において示されている近年の林野関係被害の発生状況である。近年では、平成30年7月豪雨に伴う集中豪雨や平成30年北海道胆振東部地震等による甚大な被害が発生している。その状況は、林地荒廃(林地の山腹崩壊)3857カ所、被害額約1965.35億円、治山施設(既存の治山ダムの被害)205箇所、被害額約102.54億円、林道施設等(林道と擁壁の被害)14684箇所、被害額約458.38億円となっている。また、2023(令和5)年の林野関係被害の発生状況は、林地荒廃1283カ所、被害額約490.03億円、治山施設161箇所、被害額約65.33億円、林道施設等10249箇所、被害額約371.90億円となっている。
(出所)林野庁(2023)令和5年林野関係被害の発生状況(12月31日時点)(速報)
(https://www.rinya.maff.go.jp/j/saigai/joho/attach/pdf/index-26.pdf)のデータをもとに筆者作成。
図2は図1の林野関係被害のうち林道施設等(林道と擁壁の被害等)を示したグラフである。これによると林道施設等の発生箇所数は若干の増加傾向にあり、一方で全国的に林道施設等の1箇所あたりの被害額規模は顕著に増大傾向にあり、近年の気候変動に伴う大雨の激化・頻発化等により、林道施設等の構造形態に影響し、被害額が大規模化しつつあると思われる。
(注)破線は回帰直線。
(出所)林野庁WEBサイト 災害情報
(https://www.rinya.maff.go.jp/j/saigai/joho/index.html)のデータをもとに筆者作成。
ここでは、国内全体の林道災害復旧工事歳出額の増加傾向がどの種類の自然災害に特に強く影響を受けているのかについてスクリーニング調査を行い、全国規模で把握することを目的にその関連性を調査した。
自然災害による林道被害に関する先行研究は、地形・林道構造・地質に関する要因について分析を行っている。近藤・神谷(1995)は、赤石山地南部に於いての林道災害危険箇所要因分析を行っており、林道災害への影響は地形に関する要因が最も大きく、林道構造に関する要因、地質に関する要因の順で災害をもたらしているとしている。
井内他(2016)は、奄美大島に於いて、地質、集水面積、斜面形状、縦断勾配、斜面方位の順に高い影響を及ぼすとしている。
また、降雨量について、峰松・南方(1982)は、山形、新潟、富山、石川、福井、福島、岐阜、徳島などの地域に於いて数年の林道路体調査を行い、災害発生の危険は日降水量概ね80mm付近にあり、路面流災害は50mm付近としている。
宗岡他(2021)は、富山県内民有林に於いて、21年間の林道施設災害データ他より最大24時間雨量100mm以上150mm未満及び300mm以上350mmの降雨発生での将来的な豪雨頻度と林道延長の増加に応じた林道施設災害発生箇所数の予測を行っている。
しかし、いずれも特定した地域、または台風や梅雨前線他の災害においての研究が主となっており国内全体についての既往研究はそれほど多くない。そこで本調査では、1960(昭和35)年~2021(令和3)年における62年間の林道災害復旧工事の状況について、毎年、国が歳出した金額とこの期間に該当する自然災害データとを照らし合わせながらその関連性を分析した。加えて、対象の期間は短いが2010(平成22)年~2023(令和5)年における14年間の国内林道災害について、各々の災害発生日の降雨量を調査し、その関連を分析した。筆者はこれらの分析結果が今後の林道災害の傾向を踏まえ、予測方法のひとつになればと考える。
森林に及ぼした自然災害の推移を検証するにあたり、以下のデータを参照した。
民有林について、林野庁発行の各年の森林・林業統計要覧、民有林の気象災害面積より1960(昭和35)年~2021(令和3)年の62年間のデータを集計した。国有林については、国有林野事業統計書よりデータを集計した。林業を経営する上で損害の原因となる自然災害には、風害、水害、雪害、干害、凍害、潮害等がある。その災害の内容は、森林研究・整備機構 森林保険センターのWEBサイトに記載されている。
風害:暴風による幹折れ、根返りなどの損害
水害:暴雨、洪水による埋没、水没、流出などの損害
雪害:大量積雪による幹折れ、根返りなどの損害
干害:乾燥による枯死などの損害
凍害:凍結、寒風などによる枯死などの損害
潮害:潮風、潮水進水などによる枯死などの損害
その他、火災(山火事で受けた損害)や噴火災(火山噴火による焼損、幹折れ、埋没、根返りなどの損害)がある。この火災について、消防白書によると、その多くが焚き火等による人間の不注意などによるものであり、一方、落雷など自然現象によるものは稀なため除外した。また、地震災及び噴火災等については、データ数が少ないため除外した。
図3に62年間の森林に及ぼした自然災害面積を示す。なお、図3の風水害について、民有林と国有林で災害面積の集計方法が異なるため、風害と水害を合わせて風水害とした。
(注1)火災、地震災、噴火災、潮害、雹害はデータ数が少ないため除いてある。
(注2)金額は民有林及び国有林の林道災害復旧工事歳出額を国内企業物価指数で修正(2015=100)。
(出所)林野庁WEBサイト 各年度森林・林業統計要覧
(https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/toukei/youran.html)
財務省WEBサイト 予算・決算データベース 農林水産省所管 国有林野事業特別会計歳入歳出決定計算書(https://www.bb.mof.go.jp/hdocs/bxsselect.html)
政府統計(e-Stat)国内企業物価指数(総平均)2015年基準
(https://dashboard.estat.go.jp/timeSeriesResult?indicatorCode=0703040300000090010)のデータをもとに筆者作成
この図3から林道災害復旧工事額および各種災害面積は年ごとに変動が大きいことがわかる。次節以降でそれらの関係について分析を進めることとする。
民有林林道における林道施設災害復旧事業は、「農林水産業施設災害復旧事業費国庫補助の暫定措置に関する法律」に基づき国庫補助が行われている。対象となる林道は、林地の利用又は保全上必要な公共的施設で、地方公共団体(都道府県、市町村)、森林組合等が維持管理する林道と定義されている。民有林林道災害復旧工事歳出額は、林野庁が発行する各年の「森林・林業統計要覧」資料より、毎年の歳出額を割出した。また、国有林林道災害復旧工事歳出額は、財務省WEBサイト、予算・決算データベースより農林水産省所管 国有林野事業特別会計歳入歳出決定計算書 林道施設等災害復旧事業費から参照した。
図3は62年間の森林に及ぼした自然災害面積とあわせて民・国有林林道災害復旧工事歳出額の推移を示したものである。歳出額(図中縦棒)はこの期間において大きな揺らぎを持っているが、全体的には年数の経過と共に増加している傾向がある。ここで風水害との関連を見ることとする。風水害による災害面積も変動を繰り返しているが、1991年、1993年、1998年、2004年のところにピークが存在する。一方で、歳出額についてもこれらの年にピークをもっていることが見てとれる。すなわち、このことは歳出額が自然災害の規模に関連している可能性があることを示唆している。この点についてさらに詳しく調べる必要がある。
本節では、どのような種類の災害が林道災害復旧工事歳出額に特に強く影響しているのかを調べている。そこで、1976(昭和51)年~2021(令和3)年の46年間の気象データと各自然災害と林道災害復旧工事歳出額の多変量解析を行った。使用したデータは、本稿の最後のところに記されている。
尚、アメダス(AMeDAS:Automated Meteorological Data Acquisition System、自動気象データ収集システム)のデータを含む解析のため、全てのデータを1976(昭和51)年からに設定した。表1、2に解析結果の相関と相関のp値を示した。
工事歳出額 | 100mm/d | 200mm/d | 50mm/h | 80mm/h | 100mm/h | 風水害 | 雪害 | 干害 | 凍害 | 潮害 | 降水量偏差 | 気温偏差 | 台風発生数 | 台風上陸数 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
工事歳出額 | 1 | 0.7026 | 0.5157 | 0.6206 | 0.3896 | 0.3202 | 0.1086 | −0.3492 | −0.3184 | −0.2977 | −0.2064 | 0.3894 | 0.5791 | −0.0414 | 0.3481 |
100mm/d | 0.7026 | 1 | 0.6069 | 0.7917 | 0.513 | 0.3788 | 0.3278 | −0.268 | −0.3955 | −0.3851 | −0.2614 | 0.7392 | 0.4917 | −0.1795 | 0.51 |
200mm/d | 0.5157 | 0.6069 | 1 | 0.5334 | 0.2613 | 0.1429 | 0.249 | −0.1726 | −0.2134 | −0.1526 | −0.1158 | 0.4217 | 0.1596 | −0.0017 | 0.4853 |
50mm/h | 0.6206 | 0.7917 | 0.5334 | 1 | 0.7148 | 0.534 | 0.2641 | −0.3592 | −0.2961 | −0.3543 | −0.2127 | 0.6203 | 0.5823 | −0.2278 | 0.4695 |
80mm/h | 0.3896 | 0.513 | 0.2613 | 0.7148 | 1 | 0.759 | 0.0902 | −0.3053 | −0.4313 | −0.2881 | −0.1744 | 0.4691 | 0.4008 | −0.2447 | 0.1213 |
100mm/h | 0.3202 | 0.3788 | 0.1429 | 0.534 | 0.759 | 1 | 0.0506 | −0.2937 | −0.2962 | −0.2111 | −0.195 | 0.2768 | 0.2869 | −0.1413 | 0.048 |
風水害 | 0.1086 | 0.3278 | 0.249 | 0.2641 | 0.0902 | 0.0506 | 1 | 0.1656 | −0.1188 | 0.0001 | 0.0138 | 0.1631 | 0.0341 | 0.1264 | 0.5195 |
雪害 | −0.3492 | −0.268 | −0.1726 | −0.3592 | −0.3053 | −0.2937 | 0.1656 | 1 | 0.027 | 0.2006 | 0.2122 | −0.0153 | −0.5043 | 0.0753 | −0.2068 |
干害 | −0.3184 | −0.3955 | −0.2134 | −0.2961 | −0.4313 | −0.2962 | −0.1188 | 0.027 | 1 | 0.2303 | 0.3587 | −0.5095 | −0.1321 | 0.3382 | −0.0096 |
凍害 | −0.2977 | −0.3851 | −0.1526 | −0.3543 | −0.2881 | −0.2111 | 0.0001 | 0.2006 | 0.2303 | 1 | −0.0723 | −0.2724 | −0.5032 | 0.1123 | −0.2316 |
潮害 | −0.2064 | −0.2614 | −0.1158 | −0.2127 | −0.1744 | −0.195 | 0.0138 | 0.2122 | 0.3587 | −0.0723 | 1 | −0.1634 | −0.0606 | 0.1596 | 0.0171 |
降水量偏差 | 0.3894 | 0.7392 | 0.4217 | 0.6203 | 0.4691 | 0.2768 | 0.1631 | −0.0153 | −0.5095 | −0.2724 | −0.1634 | 1 | 0.3352 | −0.3189 | 0.3496 |
気温偏差 | 0.5791 | 0.4917 | 0.1596 | 0.5823 | 0.4008 | 0.2869 | 0.0341 | −0.5043 | −0.1321 | −0.5032 | −0.0606 | 0.3352 | 1 | −0.1279 | 0.399 |
台風発生数 | −0.0414 | −0.1795 | −0.0017 | −0.2278 | −0.2447 | −0.1413 | 0.1264 | 0.0753 | 0.3382 | 0.1123 | 0.1596 | −0.3189 | −0.1279 | 1 | 0.3382 |
台風上陸数 | 0.3481 | 0.51 | 0.4853 | 0.4695 | 0.1213 | 0.048 | 0.5195 | −0.2068 | −0.0096 | −0.2316 | 0.0171 | 0.3496 | 0.399 | 0.3382 | 1 |
(注)有意水準はp<.0001、統計ソフトはJMP。
(出所)本稿の最後のところに記した使用したデータをもとに筆者作成。
工事歳出額 | 100mm/d | 200mm/d | 50mm/h | 80mm/h | 100mm/h | 風水害 | 雪害 | 干害 | 凍害 | 潮害 | 降水量偏差 | 気温偏差 | 台風発生数 | 台風上陸数 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
工事歳出額 | <.0001 | <.0001 | 0.0002 | <.0001 | 0.0074 | 0.0301 | 0.4725 | 0.0174 | 0.031 | 0.0445 | 0.1687 | 0.0075 | <.0001 | 0.7847 | 0.0178 |
100mm/d | <.0001 | <.0001 | <.0001 | <.0001 | 0.0003 | 0.0094 | 0.0261 | 0.0717 | 0.0065 | 0.0082 | 0.0793 | <.0001 | 0.0005 | 0.2327 | 0.0003 |
200mm/d | 0.0002 | <.0001 | <.0001 | 0.0001 | 0.0794 | 0.3434 | 0.0952 | 0.2512 | 0.1545 | 0.3112 | 0.4433 | 0.0035 | 0.2893 | 0.9908 | 0.0006 |
50mm/h | <.0001 | <.0001 | 0.0001 | <.0001 | <.0001 | 0.0001 | 0.0762 | 0.0142 | 0.0457 | 0.0157 | 0.1558 | <.0001 | <.0001 | 0.1278 | 0.001 |
80mm/h | 0.0074 | 0.0003 | 0.0794 | <.0001 | <.0001 | <.0001 | 0.551 | 0.0391 | 0.0028 | 0.0522 | 0.2464 | 0.001 | 0.0058 | 0.1012 | 0.4218 |
100mm/h | 0.0301 | 0.0094 | 0.3434 | 0.0001 | <.0001 | <.0001 | 0.7386 | 0.0476 | 0.0456 | 0.159 | 0.1941 | 0.0626 | 0.0532 | 0.3488 | 0.7515 |
風水害 | 0.4725 | 0.0261 | 0.0952 | 0.0762 | 0.551 | 0.7386 | <.0001 | 0.2715 | 0.4317 | 0.9995 | 0.9277 | 0.2788 | 0.8218 | 0.4027 | 0.0002 |
雪害 | 0.0174 | 0.0717 | 0.2512 | 0.0142 | 0.0391 | 0.0476 | 0.2715 | <.0001 | 0.8588 | 0.1813 | 0.1568 | 0.9199 | 0.0004 | 0.6191 | 0.1679 |
干害 | 0.031 | 0.0065 | 0.1545 | 0.0457 | 0.0028 | 0.0456 | 0.4317 | 0.8588 | <.0001 | 0.1236 | 0.0144 | 0.0003 | 0.3815 | 0.0215 | 0.9496 |
凍害 | 0.0445 | 0.0082 | 0.3112 | 0.0157 | 0.0522 | 0.159 | 0.9995 | 0.1813 | 0.1236 | <.0001 | 0.6332 | 0.067 | 0.0004 | 0.4575 | 0.1215 |
潮害 | 0.1687 | 0.0793 | 0.4433 | 0.1558 | 0.2464 | 0.1941 | 0.9277 | 0.1568 | 0.0144 | 0.6332 | <.0001 | 0.278 | 0.689 | 0.2895 | 0.91 |
降水量偏差 | 0.0075 | <.0001 | 0.0035 | <.0001 | 0.001 | 0.0626 | 0.2788 | 0.9199 | 0.0003 | 0.067 | 0.278 | <.0001 | 0.0228 | 0.0308 | 0.0172 |
気温偏差 | <.0001 | 0.0005 | 0.2893 | <.0001 | 0.0058 | 0.0532 | 0.8218 | 0.0004 | 0.3815 | 0.0004 | 0.689 | 0.0228 | <.0001 | 0.397 | 0.006 |
台風発生数 | 0.7847 | 0.2327 | 0.9908 | 0.1278 | 0.1012 | 0.3488 | 0.4027 | 0.6191 | 0.0215 | 0.4575 | 0.2895 | 0.0308 | 0.397 | <.0001 | 0.0215 |
台風上陸数 | 0.0178 | 0.0003 | 0.0006 | 0.001 | 0.4218 | 0.7515 | 0.0002 | 0.1679 | 0.9496 | 0.1215 | 0.91 | 0.0172 | 0.006 | 0.0215 | <.0001 |
(注)有意水準はp<.0001、統計ソフトはJMP。
(出所)本稿の最後のところに記した使用したデータをもとに筆者作成。
表1における1列目は災害の種類(規模)や気象観測の種類を示しており、これらと、2列目の項目に示されている「工事歳出額」民有林・国有林に対する林道災害復旧工事歳出額との相関値がこの列に数値として示されている。例えば、2列目の「100mm/d」という指標のところに0.7026という数値が示されている。この指標は日降水量100mm以上となった年間日数のことであるが、これと歳出額との相関値が0.7026であることを示しているのである。また1列目の「50mm/h」とは1時間降水量が50mmとなった回数のことであり、歳出額との相関値は0.6206となっている。尚、干害、凍害、潮害などに対する相関係数小さい値を示している。すなわち、復旧工事歳出額と日降水量100mm以上は相関性が強いと推測できる。この様子を詳しく見ることとする。
図4は、民・国有林道の林道災害復旧工事歳出額と1時間降水量及び日降水量の関係を示したものである。上段は、工事歳出額の合計と1時間降水量50mm以上あるいは、80mm以上となる降雨の発生回数との関連を示している。また、下段は、日降水量100mm以上あるいは、200mm以上の年間日数との関連性を示したものである。その結果次のことが導き出せる。すなわち、民・国有林道の林道災害復旧工事歳出額と全国(51地点平均)の日降水量100mm以上の年間日数(気象庁)の正の相関が比較的強いことである。また、加えて1時間降水量50mm以上の発生回数(気象庁アメダス)、全国(51地点平均)の日降水量200mm以上の年間日数に対する正の相関がやや強い傾向があることである。
(注)有意水準はp<.0001、統計ソフトはJMP。
(出所)本稿の最後のところに記した使用したデータをもとに筆者作成。
図5は民・国有林道の林道災害復旧工事歳出額と年平均降水量偏差(上記使用したデータ、降水量偏差)の関係を示したものである。この図より、林道災害復旧工事歳出額は、年平均降水量偏差との相関は弱いことがわかる。また、上述した通り、歳出額は日降水量100mm以上の回数に相関が強いことがわかる。このことは、林道災害復旧工事額が年間の降水量の多さそのものに影響されているというよりも、日あたりの降水量が多い集中豪雨の回数によって影響を受けている傾向があることを示している。
(注)有意水準はp<.0001、統計ソフトはJMP。
(出所)本稿の最後のところに記した使用したデータをもとに筆者作成。
図6は全国(51地点平均)における日降水量100mm以上の年間日数の推移を示したものである。この図の中に10年毎の平均値を併せて示している。この平均値を示したのは、長期にわたる傾向を見るためである。この図によると1976(昭和51)年より2023(令和5)年までの48年間は年々増加傾向を持つことが見てとれる。また、今後もこの傾向が続く事が推測出来る。
(注1)棒グラフは各年の年間日数を示す(全国51地点における平均で1地点あたりの値)。
(注2)10年平均の2016年から2023年は8年で表示。
(出所)気象庁WEBサイト 大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化
(https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html)データをもとに筆者作成。
ここでは、国内全体の林道災害復旧工事歳出額の増加傾向がどの種類の自然災害に特に強く影響を受けているのかについてスクリーニング調査を行い、全国規模で把握することを目的にその関連性を調査した。そこで、まず林野庁 国有林部 業務課より、国有林林道災害復旧工事の発生日の状況をとりまとめた2010(平成22)年から2023(令和5)年の14年間のデータを入手した。
尚、林野庁では2009(平成21)年以前のデータは残ってない年もあり、データが残っていても災害発生日が広範囲となっており、詳細の発生日についての確認は難しい状況とのことからこの14年間を対象とすることとした。また、国有林の林道災害復旧工事に限定した理由は、民有林の場合各都道府県及び市町村の管轄のため、林道災害復旧工事の発生日データを入手することは困難であるとともに全国規模で把握するためには、国有林のデータでも方向性を導き出せると判断したためである。
14年間の林道災害データ資料によると合計2409件であるが、災害名に殆どに豪雨、集中豪雨、大雨、梅雨前線、台風と記載されている。このことからも林道災害の主な誘因は、降水量に大きく影響を受けていることが推測できる。なお、対象の林道災害箇所数は、豪雨他降水量以外、それは融雪災害7件、熊本地震6件、東日本大震災6件、地すべり2件、林道の付帯施設の貯木場1件の合計22件である。対象の林道災害の分析は、これを除いた2387件について行う事とした(図7)。
(出所)林野庁からの林道災害資料データをもとに筆者作成。
はじめに、災害発生日の降雨量を調査するため、気象庁のWEBサイト「過去の気象データ・ダウンロード」ページに記載されている1310の地域気象観測所をGoogle Mapsにプロットした。これは、該当林道がどの地域気象観測所の範囲内であるかを調べるためである。
次に災害に遭った林道箇所を調べるにあたり、まず、各森林管理署WEBサイトの「国有林の図面」ページから該当林道を探し出し、Google Mapsにプロットした。なお、各林道のプロット地点は本来であれば災害復旧工事箇所であるが、その工事箇所は全て公表されておらず不明なため林道延長距離の中央位置として設定した(図8)。そして、最寄りの地域気象観測所を割出し、気象庁のWEBサイト「過去の気象データ・ダウンロード」ページから発生日5日から翌日の日降水量及び1時間降水量の最大を調査した。5日前から翌日まで期間の理由は、降水量による林道災害が前日に影響を受けたのかを考慮するため、幅を持たせた。なお、気象庁のデータは、ある日の「日降水量」を当日の0時00分~24時00分の降水量を指すとしている。
(出所)林野庁からの林道災害資料データをもとに筆者作成。
災害発生日について、林野庁からの林道災害データ資料には、発生日が特定されていない箇所数が680件あり、この発生日は2日から最大39日の開きがある。図9は、全体の標本数2387件から680件を差し引いた1707件について、気象庁のデータより災害発生5日前から翌日の日降水量合計を調べ、この期間に於ける最大の日降水量の標本数分布を示した。
(出所)林野庁からの林道災害資料データをもとに筆者作成。
図9によると、1707件の内、1129箇所(66.1%)の「当日」が多いことがわかる。よって、本稿では発生日が特定されていない箇所数が680件については気象庁のデータより該当の期間に於いての日降水量を調べ、最大となる日付を災害当日と設定して調査した。
また、林道被害が起こる日降水量の分布及び被害発生月の分布の推移、地域別及び林道延長距離に対しての災害発生頻度等を調査した。
これにより過去のデータから、ひとつの要因となる降雨量による林道災害の傾向を把握することが可能となると思われる。
本節では、「林道災害と日降水量及び1時間降水量最大の分布」、「林道災害の発生月の推移」、「都道府県別林道災害」の各項目について調査結果を示す。
7.1 林道災害と日降水量合計及び1時間降水量最大の分布林道災害2387件に於いて、図10は災害発生日の日降水量合計の分布を表し、図11は災害発生日の1時間降水量最大の分布を表している。
(出所)林野庁からの林道災害資料データをもとに筆者作成。
(出所)林野庁からの林道災害資料データをもとに筆者作成。
図12によると日降水量の合計50mmから150mm付近に対して、1時間降水量の最大は、特に10mmから35mm付近に集中しているのがわかる。このような要因の降雨イベントから林道災害の危険が高まることを示唆している。
(出所)林野庁からの林道災害資料データをもとに筆者作成。
表3は林野庁からの資料を林道災害名と都道府県別に集計したものである。災害に関する可能性のある自然災害は、6月~9月期豪雨や集中豪雨(938件)、台風による大雨や集中豪雨(828件)による被害で全体の7割以上を占めている。また、北海道、高知県及び宮崎県においては、直近14年間に毎年林道災害が発生している。
年 | 災害名 | 林道災害箇所数 | 林道被害都道府県(数字は林道災害箇所数) |
---|---|---|---|
2010 (平成22) |
5月豪雨 | 5 | 岩手県1、高知県4 |
6、7月梅雨 | 90 | 北海道8、青森県8、秋田県13、岩手県8、福島県1、静岡県1、長野県9、岐阜県5、徳島県1、高知県1、福岡県4、佐賀県2、大分県1、熊本県4、宮崎県18、鹿児島県6 | |
7月豪雨 | 28 | 北海道22、青森県1、秋田県5 | |
8月豪雨 | 57 | 北海道37、青森県16、山形県2、福島県1、三重県1 | |
9月豪雨 | 15 | 青森県8、岩手県1、山形県6 | |
台風9号(9月) | 22 | 神奈川県13、静岡県9 | |
10月豪雨 | 2 | 高知県2 | |
2011 (平成23) |
5月豪雨 | 8 | 長野県7、岐阜県1 |
6、7月梅雨 | 46 | 青森県1、秋田県10、岩手県11、山形県10、熊本県2、鹿児島県12 | |
7月豪雨 | 13 | 北海道12、秋田県1 | |
7月新潟・福島豪雨 | 16 | 福島県8、新潟県6、群馬県2 | |
8月豪雨 | 51 | 北海道8、青森県1、秋田県12、岩手県2、山形県15、岐阜県11、愛知県2 | |
9月豪雨 | 37 | 北海道33、青森県1、秋田県2、岩手県1 | |
台風2号(5月) | 1 | 静岡県1 | |
台風6号(7月) | 21 | 静岡県6、高知県14、徳島県1 | |
台風12号(9月) | 22 | 茨城県4、群馬県2、埼玉県1、奈良県1、三重県6、和歌山県1、島根県2、高知県5 | |
台風15号(9月) | 23 | 福島県2、群馬県1、栃木県4、山梨県4、長野県1、奈良県2、高知県3、宮崎県4、鹿児島県2 | |
2012 (平成24) |
4月豪雨 | 1 | 静岡県1 |
5月豪雨 | 13 | 北海道8、茨城県5 | |
台風4号(6月) | 43 | 神奈川県6、静岡県16、山梨県19、長野県2 | |
6月梅雨 | 15 | 熊本県6、宮崎県6、鹿児島県3 | |
九州北部豪雨(7月) | 13 | 福岡県2、大分県2、熊本県9 | |
7月梅雨 | 21 | 青森県4、秋田県5、徳島県1、高知県11 | |
7、8月豪雨 | 3 | 北海道3 | |
8月豪雨 | 2 | 山形県2 | |
9月豪雨 | 14 | 北海道14 | |
台風17号(9月) | 8 | 長野県6、埼玉県2 | |
10月豪雨 | 2 | 秋田県1、山形県1 | |
2013 (平成25) |
7月梅雨 | 16 | 秋田県2、岩手県4、山形県5、福島県5 |
8月豪雨 | 60 | 北海道5、秋田県37、岩手県18 | |
台風17号(9月) | 6 | 高知県5、鹿児島県1 | |
台風18号(9月) | 3 | 北海道1、福井県1、高知県1 | |
2014 (平成26) |
平成26年6月梅雨前線豪雨災害 | 4 | 秋田県2、高知県2 |
平成26年6月豪雨災害 | 3 | 北海道3 | |
平成26年7月梅雨前線豪雨災害 | 13 | 青森県1、秋田県9、山形県3 | |
平成26年8月豪雨災害 | 74 | 北海道4、青森県27、秋田県30、岐阜県13 | |
平成26年8月台風11号豪雨 | 7 | 宮崎県7 | |
平成26年8月台風11号災害 | 33 | 徳島県1、高知県32 | |
平成26年8月豪雨 | 1 | 福岡県1 | |
平成26年8月広島豪雨 | 2 | 広島県2 | |
平成26年9月豪雨災害 | 17 | 北海道17 | |
平成26年10月台風19号豪雨 | 4 | 宮崎県3、静岡県1 | |
2015 (平成27) |
平成27年4月期集中豪雨 | 1 | 鹿児島県1 |
平成27年6月期集中豪雨 | 3 | 北海道3 | |
平成27年7月期台風11号 | 6 | 茨城県1、愛媛県2、高知県3 | |
平成27年7月期梅雨前線 | 12 | 秋田県10、岩手県2 | |
平成27年7月期集中豪雨 | 32 | 福島県10、群馬県8、熊本県3、鹿児島県11 | |
平成27年8月期集中豪雨 | 3 | 北海道3 | |
平成27年8月期台風15号 | 20 | 愛媛県1、高知県15、大分県1、熊本県1、宮崎県1、鹿児島県1 | |
平成27年9月期集中豪雨 | 4 | 北海道4 | |
平成27年9月期豪雨災害 | 1 | 長野県1 | |
平成27年9月期台風18号 | 52 | 宮城県15、山形県5、福島県8、栃木県16、神奈川県5、福井県1、三重県2 | |
平成27年10月期集中豪雨 | 14 | 北海道10、岐阜県4 | |
平成27年12月期集中豪雨 | 1 | 高知県1 | |
2016 (平成28) |
平成28年6月期梅雨前線 | 7 | 長崎県1、大分県1、熊本県2、宮崎県3 |
平成28年7月期梅雨前線 | 2 | 長野県2 | |
平成28年7月期集中豪雨 | 13 | 北海道13 | |
平成28年8月期集中豪雨 | 4 | 北海道3、福島県1 | |
平成28年8月期台風7号 | 12 | 北海道12 | |
平成28年8月期台風9号 | 12 | 北海道8、茨城県1、東京都1、神奈川県1、静岡県2 | |
平成28年8月期台風10号 | 63 | 北海道6、青森県2、岩手県55 | |
平成28年8月期台風11号 | 30 | 北海道30 | |
平成28年9月期台風12号 | 5 | 高知県5 | |
平成28年9月期集中豪雨 | 2 | 高知県2 | |
平成28年9月期台風13号 | 3 | 群馬県3 | |
平成28年9月期台風16号 | 45 | 長野県1、高知県9、大分県6、宮崎県20、鹿児島県9 | |
平成28年10月期集中豪雨 | 2 | 秋田県2 | |
2017 (平成29) |
平成29年6月期梅雨前線 | 5 | 愛知県1、熊本県4 |
平成29年7月期梅雨前線 | 99 | 青森県1、秋田県51、岩手県2、山形県1、新潟県2、長野県3、富山県2、愛知県1、高知県2、福岡県31、熊本県2、鹿児島県1 | |
平成29年8月期台風5号 | 11 | 群馬県1、神奈川県6、静岡県2、三重県1、宮崎県1 | |
平成29年8月期集中豪雨 | 16 | 青森県1、秋田県11、岩手県1、山形県1、宮城県2 | |
平成29年9月期台風18号 | 49 | 北海道13、愛媛県1、高知県10、大分県12、熊本県3、宮崎県10 | |
平成29年10月期台風21号 | 23 | 福島県1、栃木県4、静岡県1、長野県10、岐阜県2、奈良県1、和歌山県1、香川県2、高知県1 | |
平成29年10月期台風22号 | 17 | 徳島県2、宮崎県12、鹿児島県3 | |
2018 (平成30) |
平成30年3月期集中豪雨 | 2 | 静岡県1、高知県1 |
平成30年4月期集中豪雨 | 2 | 岐阜県1、高知県1 | |
平成30年5月期集中豪雨 | 13 | 青森県3、秋田県8、山形県2 | |
平成30年6月期集中豪雨 | 2 | 北海道2 | |
平成30年6月期梅雨災 | 4 | 熊本県2、鹿児島県2 | |
平成30年7月期集中豪雨 | 112 | 北海道9、静岡県2、長野県9、岐阜県11、福井県1、岡山県5、兵庫県9、鳥取県6、島根県2、広島県8、愛媛県3、徳島県3、高知県17、福岡県13、佐賀県7、熊本県4、鹿児島県3 | |
平成30年8月期集中豪雨 | 44 | 青森県2、秋田県9、山形県32、宮城県1 | |
平成30年8月期台風20号 | 3 | 静岡県1、高知県2 | |
平成30年9月期台風21号 | 9 | 山梨県2、長野県1、和歌山県5、高知県1 | |
平成30年9月期秋雨前線 | 1 | 高知県1 | |
平成30年9月期台風24号 | 52 | 福島県2、愛知県1、三重県2、愛媛県1、高知県1、大分県5、宮崎県27、鹿児島県6 | |
平成30年10月期集中豪雨 | 1 | 北海道1 | |
2019 (令和1) |
5月期集中豪雨災 | 5 | 北海道1、長野県1、宮崎県1、鹿児島県2 |
梅雨豪雨災 | 13 | 群馬県3、岐阜県1、高知県2、宮崎県7 | |
台風5号災(7月) | 1 | 長崎県1 | |
台風6号災(7月) | 1 | 静岡県1 | |
台風8号災(8月) | 2 | 大分県2 | |
8月期集中豪雨災 | 4 | 北海道3、群馬県1 | |
台風10号災(8月) | 11 | 岐阜県2、高知県9 | |
8月の前線に伴う集中豪雨災 | 9 | 福岡県2、佐賀県7 | |
台風15号災(9月) | 2 | 群馬県1、静岡県1 | |
台風17号災(9月) | 5 | 高知県3、宮崎県2 | |
台風18号災(10月) | 1 | 高知県1 | |
台風19号災(10月) | 51 | 青森県1、岩手県7、宮城県15、福島県9、新潟県1、栃木県3、群馬県4、神奈川県1、東京都1、長野県9 | |
2020 (令和2) |
7月期集中豪雨災害 | 115 | 秋田県5、岩手県4、山形県17、福島県7、新潟県1、長野県10、岐阜県7、徳島県1、高知県4、佐賀県1、長崎県1、大分県9、熊本県24、宮崎県14、鹿児島県10 |
8月期集中豪雨災害 | 3 | 北海道3 | |
台風10号災(9月) | 10 | 高知県4、宮崎県6 | |
9月期集中豪雨災害 | 4 | 北海道1、鳥取県3 | |
台風14号災(10月) | 3 | 高知県3 | |
2021 (令和3) |
3月期集中豪雨災害 | 1 | 静岡県1 |
5月期集中豪雨災害 | 4 | 長野県4 | |
7月期集中豪雨災害 | 12 | 秋田県1、静岡県1、高知県5、鹿児島県5 | |
7月29日発生豪雨災害 | 3 | 山形県1、群馬県2 | |
台風第9号災害(8月) | 15 | 青森県15 | |
台風第10号災害(8月) | 1 | 千葉県1 | |
8月期集中豪雨災害 | 41 | 神奈川県2、長野県8、岐阜県4、高知県6、福岡県3、佐賀県4、長崎県1、大分県4、熊本県8、鹿児島県1 | |
8月23日から25日にかけての豪雨災害 | 1 | 秋田県1 | |
台風14号災(9月) | 10 | 高知県1、大分県1、宮崎県8 | |
10月4日発生豪雨災害 | 2 | 北海道2 | |
2022 (令和4) |
6月期集中豪雨災害 | 6 | 北海道3、山形県2、宮城県1 |
台風第4号災害(7月) | 4 | 富山県1、高知県3 | |
7月期集中豪雨災害 | 11 | 北海道1、宮城県9、山梨県1 | |
8月1日の大雨による災害 | 1 | 北海道1 | |
8月3日からの大雨による災害 | 144 | 北海道23、青森県38、秋田県46、岩手県7、山形県13、福島県4、新潟県8、福井県5 | |
台風第14号災害(9月) | 54 | 北海道2、島根県1、愛媛県1、高知県9、大分県5、熊本県3、宮崎県32、鹿児島県1 | |
10月10日からの大雨 | 1 | 北海道1 | |
2023 (令和5) |
5月豪雨 | 7 | 秋田県1、長野県1、岐阜県3、富山県2 |
台風2号(6月) | 10 | 静岡県5、長野県3、和歌山県1、高知県1 | |
6月29日からの大雨 | 36 | 福岡県12、佐賀県6、大分県4、熊本県12、宮崎県2 | |
7月15日からの大雨 | 79 | 青森県1、秋田県72、岩手県5、山形県1 | |
8月3日からの大雨 | 3 | 北海道3 | |
台風6号(8月) | 24 | 高知県5、宮崎県17、鹿児島県2 | |
台風7号(8月) | 16 | 岩手県2、栃木県1、静岡県2、岐阜県2、岡山県3、鳥取県6 | |
8月豪雨 | 2 | 北海道2 | |
9月豪雨 | 7 | 北海道5、新潟県1、栃木県1 | |
台風13号(9月) | 2 | 千葉県2 | |
11月豪雨 | 1 | 高知県1 |
(出所)林野庁からの林道災害資料データをもとに筆者作成。
また、図13によると林道災害は、7月または8月および9月に多く発生している。前述の気象事例に沿って影響していることを示している。
(出所)林野庁からの林道災害資料データをもとに筆者作成。
図14は、気象庁のWEBサイト「過去の気象データ・ダウンロード」ページより14年間の7月から9月の林道災害箇所の該当観測所(427地点)の観測所あたり日降水量合計50mm以上の日数を示したグラフである。林道災害箇所数との相関(r=0.649、p<.0001)は、このグラフによるとやや強い傾向にあることを示している。
(出所)林野庁からの林道災害資料データをもとに筆者作成。
図15は、都道府県別の林道災害箇所数をグラフまた、日本地図にプロットしたものである。次に述べる林道延長距離にも関連するが、東北・北海道また、四国・九州で比較的に多くの林道災害が発生している。災害の多い4つの都道府県について主な気象事例について調査すると、秋田県では、2017(平成29)年7月期梅雨前線による影響で51箇所、2022(令和4)年8月3日からの大雨による災害で46箇所、北海道では、2010(平成22)年8月の豪雨で37箇所、2016(平成28)年の台風第7号、第11号、第9号、第10号及び前線による大雨で58箇所の災害が発生している。
(出所)林野庁からの林道災害資料データをもとに筆者作成。
また、高知県では、2014(平成26年)8月の台風11号災害で32箇所等、毎年6箇所から20箇所以上の災害が発生している。宮崎県では、2022(令和4)年9月の台風第14号災害で32箇所の災害が発生している。地点別に見ると2011(平成23)年7月19日、高知県の魚梁瀬地点では、日降水量851.5mm、同日三重県の宮川地点では、764mmの日降水量を観測している。
図16より、林道延長距離と林道災害箇所数は強い相関(r=0.7735、p<.0001)がある。林道延長距離が延長するに従い林道災害の可能性も増加するが、図17の林道災害1箇所あたりの林道延長距離から、特に山梨県では1.7kmに林道災害が1箇所、神奈川県は、2.7kmに1箇所等、林道災害は短い林道距離で災害が発生している。
(出所)林野庁 森林・林業統計要覧2023 既設林道の現況及び林野庁からの林道災害資料データをもとに筆者作成。
(出所)林野庁 森林・林業統計要覧2023 既設林道の現況及び林野庁からの林道災害資料データをもとに筆者作成。
今回の調査では、2010(平成22)年から2023(令和5)年の14年間のデータを基に全国の林道災害2387件を対象に行った。その結果、林道災害は、日降水量の合計50mmから150mm付近に対して発生していることがわかった。また、その日の1時間降水量の最大は、10mmから35mm付近に集中しており、このような要因の降雨イベントから林道災害の危険が高まることを示唆している。尚、長期変化傾向を確実に把握するためには今後の民有林も含めて林道災害詳細データの積み重ねが必要である。
図18より、林道災害の箇所数は若干減少傾向にあるものの災害1箇所に掛かる工事歳出額は増加傾向にある。このことは林道災害が大規模化する可能性を示唆している。
(注1)林道災害復旧工事歳出額2023年のデータなし。
(注2)破線は回帰直線。
(出所)林野庁からの林道災害資料データをもとに筆者作成。
林野庁では、2022(令和4)年、2023(令和5)年に路網に関する調査等を行っている。これによると、令和4年の報告書では242災害事例において豪雨142箇所、台風96箇所、令和5年の報告書では、254災害事例において豪雨147箇所、台風103箇所であった。被災原因としては、豪雨や台風によるものが多く、降雨による斜面の不安定化や渓流の出水が直接的な原因と考えられるとしている。また、被災延長は令和4年、令和5年いずれも10m~20mが最も多く、対策工は土工、法面保護工、擁壁工の順となっている。災害工事復旧事業費は1億円を超える工事は、いずれも特殊盛土工やアンカー工等コスト高の対策工になるケースが見られるとしている。
林道災害は、地質、地形、構造等相互関連の要因があり、上述した降雨条件に限ることはないが、林道の被害規模が大きいため多額の復旧工事を必要とすることを示唆している。
近年の降雨量について極端な現象を概観する。図19は気象庁WEBサイトに記載のグラフである。これは、観測データを基に作成されている日本の年降水量偏差の経年変化である。棒グラフは長期間にわたって観測を継続している全国の気象観測所のうち51地点のデータを採用している。それは、51地点ごとに年降水量から1991~2020年の30年平均値を差し引いたもの(年降水量の偏差)を算出し、51地点分の偏差を平均した値を日本の年降水量偏差としてグラフ化したものである。気象庁では、日本の年降水量には長期変化傾向は、確認出来ないが、1970年代から2000年代までは年ごとの変動が比較的大きく、2010年代以降に多雨期が見られるとしている。
(出所)気象庁WEBサイト 日本の年降水量偏差の経年変化(1898~2023年)
図20は気象庁WEBサイトに記載されている観測データを基に作成されているものである。棒グラフは全国51地点における平均で1地点あたりの各年の年間日数を示している。折れ線は5年移動平均値、直線は長期変化傾向を示している。
(出所)気象庁WEBサイト「大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化」
統計期間は、アメダスが開始された1976(昭和51)年から2023(令和5)年であり、10年あたり3.1%の増加、信頼水準95%で統計的に有意としている。また、最近10年間(2014~2023年)の平均基準値比(約105%)は、統計期間の最初の10年間(1976~1985年)の平均基準値比(約94%)と比べて約1.1倍に増加していることを示している。つまり、全国の年最大日降水量の基準値との比には増加傾向が現れている。さらに図6より日降水量合計100mmの大雨の年間発生回数は有意に増加しており、より強度の強い雨ほど増加率が大きくなっている。
林業のインフラを担う林道は、今後気候変動により多大な影響を被ることが予測される。将来的に極端な降雨強度の高い豪雨が増加することが見込まれる中、全国の日降水量100mm以上の年間日数増加傾向の原因が温室効果ガスの排出に関係しているとするならば、温室効果ガスが減少されない限りこの傾向は今後も続く事が予測される。同時にこの事は、林道災害復旧工事の年間費用が、この工事実施を前提とする場合には、増加傾向となる事を示唆している。したがって、今後、人工林の二酸化炭素吸収機能の有効性を議論するなかで、林道災害復旧工事等、林道整備における工事の際の二酸化炭素排出量を注視いく必要がある。
本稿で使用したデータの出所は以下の通りである。
・民有林の林道災害復旧工事額:林野庁、各年度の「森林・林業統計要覧」II 森林の整備及び保全、民有林林道災害復旧経過表
・国有林の林道災害復旧工事額:財務省「予算・決算データベース 農林水産省所管 国有林野事業特別会計歳入歳出決定計算書」林道施設等災害復旧事業費、(https://www.bb.mof.go.jp/hdocs/bxsselect.html)
・日降水量100mm以上年間日数:気象庁「全国(51地点平均)日降水量100mm以上の年間日数」
(https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/csv/day100mm_p.csv)
・日降水量200mm以上年間日数:気象庁「全国(51地点平均)日降水量200mm以上の年間日数」
(https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/csv/day200mm_p.csv)
・1時間降水量50mm発生回数:気象庁「全国(アメダス)の1時間降水量50mm以上の年間発生回数」
(https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/csv/amdhour50mm_p.csv)
・1時間降水量80mm発生回数:気象庁「全国(アメダス)の1時間降水量80mm以上の年間発生回数」
(https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/csv/amdhour80mm_p.csv)
・台風発生回数:気象庁「台風の発生数」
(https://www.data.jma.go.jp/yoho/typhoon/statistics/generation/generation.html)
・台風上陸数:気象庁「上陸数」
(https://www.data.jma.go.jp/yoho/typhoon/statistics/ranking/landing.html)
・民有林風害(ha):林野庁、各年度の「森林・林業統計要覧」II 森林の整備及び保全、民有林の気象災害面積
・民有林と国有林の風水害(ha):
民有林:民有林風害と同様
国有林:政府統計(e-Sat)「国有林野事業統計書 国有林野の立木被害累年統計」
・民有林水害(ha):林野庁、各年度の「森林・林業統計要覧」II 森林の整備及び保全、民有林の気象災害面積
・民有林と国有林の雪害(ha):
民有林:民有林風害と同様
国有林:民有林と国有林の風水害(ha)と同様
・民有林干害(ha):民有林風害と同様
・民有林凍害(ha):民有林風害と同様
・民有林潮害(ha):民有林風害と同様
・民有林雹害(ha):民有林風害と同様
・降水量偏差(mm):気象庁「日本の年降水量偏差の経年変化(1898~2021年)」
(https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/list/an_jpn_r.html)
・気温偏差(°C):気象庁「日本の年平均気温偏差の経年変化(1898~2021年)」