Sangyo Ikadaigaku Zasshi
Online ISSN : 2759-646X
Current Status and Issues in Perinatal Care for Foreign Pregnant Women
Hikaru TABAKOTANIKentaro TANAKA Shutaro SUGAReiji FUKANO
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2025 Volume 47 Issue 2 Pages 81-87

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Abstract

本邦の外国人居住者の増加に伴い,外国人妊婦の周産期医療への需要が高まっている.今回,北九州市内で分娩取扱いのある全21施設の代表医師を対象に,外国人妊婦の診療に関する問題点を調査し,外国人妊婦への必要な支援を明らかにすることを目的としてアンケート調査を行った.回収率は90.4%(19/21)であった.17施設が外国人妊婦の診療に困難を感じた経験があると回答し,「言語コミュニケーション」の問題が最多であった.外国人診療において実施している工夫として,自動翻訳機やアプリケーションの利用を行っている施設が15施設あった一方で,多数の施設が言語コミュニケーションの点で困ったことがあると回答していた.求められる理想のサービスとしては,自動翻訳機やアプリケーションの利用,医療通訳者の配置が挙げられていたが,前者のみでは不十分であることが考えられたため,医療通訳士など外国人妊婦への更なる言語サポートの充実が求められていることが明らかになった.北九州市の分娩取扱い施設が外国人妊婦の診療に様々な工夫を施しているものの,言語コミュニケーションに関する様々な課題が存在することが明らかになった.全国各地で同様の問題が生じていることが推測されるため,外国人妊婦への診療において,より良い医療提供のために言語コミュニケーションの改善が求められることが示唆された.

Translated Abstract

Demand for perinatal care for foreign pregnant women is increasing with the increase in the number of foreign residents in Japan. With this in mind, we conducted a questionnaire survey among representative physicians at all 21 facilities that perform deliveries in Kitakyushu City, with the aim of investigating problems related to the care of foreign pregnant women and clarifying what support foreign pregnant women need. The response rate was 90.4% (19/21). 17 facilities (90%) responded that they had experienced difficulties in treating foreign pregnant women, with “language communication” being the most common problem. While 15 facilities used automatic translators or online applications in their care of foreign patients, many facilities indicated that they had experienced difficulties in terms of language communication. The ideal services sought included the use of automatic translators and applications, and the assignment of medical interpreters, but since the former alone was considered insufficient, it became clear that further language support for foreign pregnant women, such as medical interpreters, was required. Although each facility handling deliveries in Kitakyushu City is making various efforts to provide medical care for foreign pregnant women, it became clear that there are still various, unresolved issues related to language communication. It is assumed that similar problems occur in other parts of Japan as well, suggesting the need for improved language communication to provide better medical care for foreign pregnant women.

はじめに

Coronavirus disease 2019(COVID-19)パンデミックの影響により,2020年に減少へ転じていた本邦の在留外国人は,2022年以降は増加に転じ,2023年末の在留外国人数は341万人と過去最高を更新した[1].また,COVID-19パンデミック期間は母国での里帰り出産が困難となり,日本での出産を選択する外国人妊婦が増加した[2].厚生労働省の調査によると,2022年の日本での全出生数811,622人のうち18,435人(2.2%)が両親または母親が外国人であり,2011年の全出生数1,050,806人のうち11,418人(1.1%)から増加している[3].人口909,273人を有する政令指定都市である北九州市では,両親または母親が外国人である出生児は,2021年の北九州市の全出生数6,304人のうち122人 (1.9%)であり,2011年の全出生数8,377人のうち87人 (1.0%)と比較して,北九州市の全出生数に占める外国人出生児の割合が全国統計同様に増加している[4].

妊婦健診や分娩時には,詳細な問診,治療内容の説明に加えて分娩様式の決定や,費用の支払い手続きなど様々な課題が存在する[5].これらの課題に対して,外国人妊婦の診療においてガイドラインはなく,各医療機関の対応に委ねられている.産科診療において,各医療機関の外国人診療に対する調査研究は,看護上の問題などに関する既報は散見されるが,医師の診療業務上の問題を含んだ調査研究は極めて限られている[6].北九州市内の分娩取扱い施設に対して,外国人妊婦の診療に関する問題点を調査し,外国人妊婦への必要な支援を明らかにすることを目的として本研究を実施した.

材料および方法

北九州市内で分娩取扱いのある全21施設(産婦人科クリニック14施設,総合病院7施設)の代表医師を対象に,独自に作成した自記式アンケート用紙(Figure 1)を用いた調査を行い,2022年9月にアンケートを送付し,2022年10月にアンケートを回収した.調査項目は,外来での外国人診療の有無,最近1年の外国人患者の診療件数,外国人患者の入院診療の有無,最近1年間の外国人患者の入院診療件数,診療経験のある外国人患者の主言語,外国人診療をする際の問題点,利用している医療通訳,外国人患者の診療における言語コミュニケーションの工夫,診療経験がある外国人患者のうちコミュニケーションが困難と感じる患者の主言語,利用したい言語コミュニケーションサービス,COVID-19感染対策における外国人診療の問題点とした.本研究は産業医科大学病院研究倫理委員会の承認を得て実施した (2022年:UOEHCRB22-027号).

Figure 1. Self-administered questionnaire survey conducted among representative physicians at facilities that perform deliveries in Kitakyushu City.

結果

21施設中19施設から回答が得られた (回答率90.4%).この19施設のうち外来での外国人診療を行っている施設は19施設 (100%),入院での外国人診療を行っている施設は18施設 (94.7%)であった.外来で外国人診療を行っている19施設において,最近一年間の診療人数は1–9人が12施設 (63%),10–19人が3施設 (16%),20–29人が1施設 (5%),30–39人が3施設 (16%)であった.また,入院で外国人診療を行っている18施設において,最近一年間の診療人数は0人が3施設(17%),1–9人が12施設(66%),10–19人が1施設(6%),30人以上が2施設(11%)であった.また,診療経験のある外国人患者の主言語は,ベトナム語,中国語がそれぞれ14施設(74%)と最多で,英語が13施設(68%)であった.コミュニケーションが困難と感じた言語はベトナム語,中国語がそれぞれ8施設 (42%),英語,ネパール語,韓国語がそれぞれ4施設 (21%)であった(Figure 2).17施設(89%)が外国人診療の際に困ったことがあると回答した.困った内容について単一回答を求めたが,6施設が複数回答,1施設が無回答であり,計7施設が無効回答となった.有効回答10施設のうち,「言語コミュニケーション」が9施設(90%),「日本の医療システムを知らない」が1施設(10%)であった(Figure 3A).また,複数回答した6施設のうち全施設が一つは「言語コミュニケーション」と回答した.産科診療において困ったことについては,「言語コミュニケーション」が16施設 (94%),「分娩様式(帝王切開や経膣分娩)の決定」が5施設 (29%)であった (Figure 3B).外国人診療において実施している工夫として,「自動翻訳機やアプリケーションの利用」が15施設 (79%),「身振り手振りや筆談での対応」が11施設 (58%),「通訳可能な知人やボランティアの同伴」が9施設 (47%)であった (Figure 4A).また,あれば利用したい言語コミュニケーションサービスについて単一回答を求めたが,2施設が複数回答,1施設が無回答であり,計3施設が無効回答となった.有効回答16施設のうち,「自動翻訳機やアプリケーションの利用」が7施設 (44%),「医療通訳者の利用」が6施設 (38%),「外国語の問診票や説明書」が2施設 (13%),「受診前の話し合いの場がほしい」が1施設 (6%)であった (Figure 4B).医療通訳者を配置している施設は3施設 (16%)あり,2施設が派遣通訳,1施設が派遣通訳と電話通訳を配置していた.COVID-19関連で外国人診療の際に困ったことがあったと回答した施設は3施設 (16%)で,「入院時のPCR検査の説明」と回答した施設が2施設,「発熱時の対応についての説明」,「陽性発覚後の保健所とのやりとり」で困ったと回答した施設がそれぞれ1施設であった (Figure 5).

Figure 2. The main language of foreign patients with medical experience and the language in which they found it difficult to communicate (multiple answers possible).

Figure 3A. Problems encountered in medical treatment for foreigners (single answer).

Figure 3B. Problems encountered during obstetric treatment (multiple answers possible).

Figure 4A. Ideas implemented in medical treatment of foreigners (multiple answers possible).

Figure 4B. Language communication services you would like to use if they are available (single answer).

Figure 5. Problems encountered in medical treatment of foreigners related to COVID-19 (multiple answers possible).

考察

本調査において,北九州市内の分娩取扱いのある全施設を対象としたアンケート調査を行い,アンケートに回答した全ての施設で外国人妊婦の診療経験があった.そのうち9割が,外国人妊婦の診療に困難を感じた経験があると回答した.外国人妊婦を診療している19施設のうち,15施設が自動翻訳機やアプリケーションを使用していたが,それでも産科診療において言語コミュニケーションの問題を抱えている施設が16施設存在した.また,医療通訳者をすでに配置している施設は,派遣通訳と電話通訳を含めて3施設に留まり,医療通訳者を利用したいと回答した施設は6施設あった.これらの結果から,北九州市内における外国人妊婦の診療には,多くの施設で言語コミュニケーションに関する課題が存在することが示された.

2024年現在,北九州市にある公益財団法人 北九州国際交流協会は,英語,中国語,韓国語を対象に医療通訳士の派遣を行っている.しかし,北九州市の分娩取扱い施設では,ベトナム語,ネパール語,タガログ語の対応にも困難を感じており,これらの言語に対応する医療通訳士の派遣は行われていない.特に北九州市では,在留外国人の中でもベトナム人の増加が著しく,10年前と比し10倍に増加している[7].この状況を鑑みると,英語,中国語,韓国語以外の言語に対しても医療通訳のサービスを拡充させることが望ましい.

また,すでに実施されている自動翻訳機やアプリケーションは簡便に利用できる一方で,社会的・文化的背景や非言語情報を統合することが困難であるため,コミュニケーションエラーが生じる可能性がある[8].さらに,通訳可能な知人やボランティアなどの非訓練通訳者 (アドホック通訳)の同伴は,個人情報保護の点で問題がある[9].周産期診療では母児の合併症,流早産,性感染症,染色体異常など倫理的配慮が必要な情報が含まれるため,インフォームドコンセントの際には,慎重に同伴者を選別する必要がある.また,非医療関係者よる医療内容の翻訳は,誤訳の可能性があるため注意が必要である.誤訳に対する解決策として,医療通訳士の利用が挙げられ,特に医療通訳士の育成と整備は重要な課題であると考えられる.国際臨床医学会は2020年3月に「医療通訳士」認証制度を開始し,2022年1月時点では全国で10言語176名が登録されているが,2024年4月現在は全国で19言語423名に増加している[10].また,医療通訳士が提供するサービスとして,遠隔通訳(ビデオ通訳,ビデオなしの電話通訳)があるが,相手の表情や感情を理解することが難しく,通訳の難易度が高くなるという問題も生じる[8].医療通訳士をすべての外国人診療に利用するには人材の確保,費用の面などから現実的ではないが,妊娠に伴う合併症,染色体異常,性感染症,緊急帝王切開,輸血,新生児のNICUへの入院が必要な場合など専門性の高いインフォームドコンセントが求められる状況では,周産期医療における医療通訳士の必要性は高いと考えられる.今回の調査で診療経験がもっとも多く,半数以上がコミュニケーション困難と感じたベトナム語をはじめとした非英語圏アジア諸国に対する医療通訳士の拡充が必要と考えられた.

結語

北九州市の分娩取扱い施設において,各施設が外国人妊婦の診療に様々な工夫を施しているものの,言語コミュニケーションに関する様々な課題が存在することが明らかになった.全国各地で同様の問題が生じていることが推測され,外国人妊婦への診療において,より良い医療提供のために言語コミュニケーションの改善が求められることが示唆された.現在の各施設での工夫だけでは解決できていない言語コミュニケーションの問題があるため,今後は行政が主体となった対策が必要であると考える.

本研究は令和3年度北九州市小児保健研究会研究事業の一環として行われ,この論文は令和3年度北九州市小児保健研究会調査研究事業研究報告書を改変したものである [11].

データ利用可能性

研究中に生成された,および/または 分析されたデータセットは,個人情報含有のため公開されていないが,合理的な要求に応じて責任著者から入手可能である.

謝辞

今回アンケート調査にご協力して頂きました北九州市内の分娩取扱い施設の皆様に心から御礼申し上げます.(順不同)

産婦人科クリニック14施設(いわさクリニック,末永産婦人科・麻酔科医院,足立クリニック,濱口産婦人科クリニック,幸の鳥医院,みちおかレディースクリニック,ひろた産婦人科クリニック,井上産婦人科医院,本田クリニック,あきた産婦人科クリニック,荒牧産婦人科医院,エンゼル病院,大塚産婦人科クリニック,田中産婦人科医院)

総合病院7施設(産業医科大学病院,JCHO九州病院,小倉医療センター,北九州市立医療センター,北九州総合病院,健和会大手町病院,九州労災病院)

利益相反

なし.

References
  • 1.  法務省:令和5年末現在における在留外国人数について.令和6年3月22日発表 https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00040.html (閲覧日2024年6月5日)
  • 2.  別府佳代子,小山内泰代,高畑華子,明石雅子,田中敬子,杉浦康夫 (2021): COVID-19流行下で当院を受診する外国人妊婦の増加要因と課題の検討.国際臨床医学会雑誌 5 (1): 54–59
  • 3.  厚生労働省-平成23年(2011)人口動態統計(確定数)の概況,厚生労働省-令和3年(2021)人口動態統計(確定数)の概況). https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1a.html (閲覧日2025年4月14日)
  • 4.  e-Stat 政府統計の総合窓口:統計で見る日本:人口動態調査 人口動態統計 確定数 出生:4-32:父母の国籍別にみた年次別出生数及び百分率. https://www.e-stat.go.jp/stat-search/database?page=1&query=%E7%88%B6%E6%AF%8D%E3%81%AE%E5%9B%BD%E7%B1%8D%E5%88%A5%E3%81%AB%E3%81%BF%E3%81%9F%E5%B9%B4%E6%AC%A1%E5%88%A5%E5%87%BA%E7%94%9F%E6%95%B0%E5%8F%8A%E3%81%B3%E7%99%BE%E5%88%86%E7%8E%87&layout=dataset&statdisp_id=0003411621&metadata=1&data=1 (閲覧日2025年4月14日)
  • 5.  二見茜 (2020): 【産婦人科医も知っておきたい旅行医学関連の諸問題~東京オリンピック・パラリンピックに向けて】外国人患者の未収金問題.産科と婦人科 87 (4): 399–405
  • 6.   髙 知恵, 千葉 貴子, 中根 祥子,他 (2024): 大阪府下周産期母子医療センターにおける在留外国人妊産褥婦看護実践の現状と課題.国際保健医療 39 (2): 21–32
  • 7.  北九州市:推計人口及び推計人口異動状況(Excel版) https://www.city.kitakyushu.lg.jp/contents/924_01118.html (閲覧日2024年6月5日)
  • 8.  森田直美 (2020): 【産婦人科医も知っておきたい旅行医学関連の諸問題~東京オリンピック・パラリンピックに向けて】医療通訳の現状と問題点.産科と婦人科 87 (4): 386–391
  • 9.  明石雅子,杉浦康夫 (2021): マイナー言語に対する医療通訳の課題.国際臨床医学会雑誌 4 (1): 22–26
  • 10.  国際臨床医学会:国際臨床医学会ホームページ. http://kokusairinshouigaku.jp/activities/authentication/m-interpreter/auth/auth01.html (閲覧日2024年8月2日)
  • 11.  北九州市小児保健研究会(2021):令和3年度北九州市小児保健研究会調査研究事業研究報告書.https://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/001052667.pdf (閲覧日2025年4月14日)
 
© The University of Occupational and Environmental Health, Japan

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