2025 Volume 47 Issue 2 Pages 99-104
不安定プラークを伴う内頚動脈狭窄症に対し,carotid artery stenting (CAS)を行う場合,proximal protectionが有効である.しかし緊急のステント留置の場合,protectionなしでlesion crossを行わざるを得ない状況がある.症例は80歳男性.左内頚動脈狭窄による脳梗塞で当科入院し,経過中に右麻痺の増悪,意識障害を認めた.magnetic resonance imaging (MRI)にて左内頚動脈狭窄の増悪を認め,緊急でCASを施行.不安定プラークであり狭窄率も高く,lesion crossで遠位塞栓をきたす可能性が高いと判断し,オクリュージョンバルーンを外頚動脈に留置して総頚動脈のバルーンと共に拡張し,proximal protection下にlesion crossを行った.術後新たな脳梗塞の出現は認めず良好な経過を得た.その後本方法は不安定プラークに対してデバイスの準備ができない場合のprotectionとして,2022年4月から2024年3月までの間で9例施行した.この9例で術後diffusion weighted image (DWI)陽性率,症候性脳梗塞の有無を調査したところ,術後DWI陽性は1例(11%)で認めるも症候性脳梗塞は認めなかった.本方法は塞栓性リスクの高い不安定プラークに対するprotection法として,デバイスの準備がない場合のsecond optionとなり得ると考える.
Carotid artery stenting (CAS) is generally performed with proximal protection against soft plaques. In emergency operations, however, lesion crossing must be performed without protection. An 80-year-old man was admitted to our hospital with cerebral infarction caused by left internal carotid artery stenosis. Loss of consciousness and severe right hemiparesis were observed on admission. Magnetic resonance imaging (MRI) revealed worsening of the left internal carotid artery stenosis, and emergency stenting was performed. The stenosis included soft vulnerable plaques in the MRI. Preparation of protective devices is challenging in emergencies; therefore we performed Lesion crossing under proximal protection, using an occlusion balloon to avoid embolic complications. Postoperatively, the patient’s condition improved, and he recovered without cerebral infarction. This method was used in nine subsequent cases between April 2022 and May 2024 for vulnerable plaques in cases where it was difficult to prepare protective devices. In the outcomes of those 9 cases, postoperative diffusion-weighted imaging (DWI) was positive in one case (11%), and there was no symptomatic cerebral infarction in any of the nine cases. We consider this method as a secondary protection option to avoid embolic complications of vulnerable plaques, especially in emergency cases.
内頚動脈狭窄症に対するcarotid artery stenting (CAS)はデバイス,技術の進歩により治療成績は向上している[1, 2].不安定プラークに対するprotection法は一般的にproximal protectionの併用が有効とされているが[3],2021年にPercuSurge Guardwire (Medtronic, Minneapolis, MN, USA)の販売終了に伴い,外頚動脈遮断を伴うproximal protectionを行うにはMo. Ma Ultra(Medtronic, Minneapolis, MN, USA)一択の状況であった.最近ではOptimal wire(東海メディカルプロダクツ,春日井市)も使用可能となったが,緊急でCASを行う場合や,供給の問題でこれらのデバイスの準備は難しい状況がある.リスクの高い不安定プラークの場合,lesion crossを行う際のflow reversalは必要と考えられる.そのため当院ではオクリュージョンバルーンカテーテルを外頚動脈に留置し,総頚動脈と外頚動脈のバルーンでflow reversal下にlesion crossし,CASを施行することがある.この方法はlesion crossの際,確実にflow reversalを行うことが可能である.
今回,この方法を用いて緊急でCASを施行した症例について報告する.また,当院で本方法を用いて治療を行った症例について術後MRI,症候性脳梗塞の有無を調査した.
オクリュージョンバルーンカテーテルを用いたprotection法
総頚動脈に9Fr Optimo(東海メディカルプロダクツ,春日井市)を誘導する.SHOURYU HR(7mm×7mm)(以下,SHOURYU)をmicro-guidewireで外頚動脈に誘導し,分岐部から数cm遠位に留置しinflateする.次に左上肢の正中皮静脈(18Gエラスターによりルート確保)に返血するよう回路を接続し,Optimoをinflate後flow reversalの状態とする.FilterWire EZ(Boston Scientific, Marlborough, MA, USA)でlesion crossを行い,FilterWire EZ (以下,FilterWire)を展開した後にSHOURYUを抜去する.その後はFilterWireによるdistal protectionとflow reversal(外頚動脈側は遮断なし)の状態で,前拡張およびステント留置を行う.
80歳,男性.左内頚動脈狭窄症による脳梗塞で入院.経過中に右麻痺増悪および意識障害を認め,magnetic resonance imaging (MRI)では左大脳半球に新規脳梗塞の出現およびmagnetic resonance angiography (MRA)では左内頚動脈の描出低下を認めた(Figure 1AB).狭窄進行により意識障害をきたしたと考えられ,同日緊急で内頚動脈ステント留置術を施行した.プラークイメージにてplaque muscle ratio(PMR): 2.4の不安定プラークであり(Figure 1C),lesion crossの際の遠位塞栓の可能性が高いと考えられた.緊急であったためMo. Maを用意できず,本方法でprotectionを行いCarotid Wallstent (Boston Scientific, Marlborough, MA, USA)を留置(Figure 2).術後MRIでは新たなDWIで合併症もきたさず,良好な経過を得た(Figure 1D).
本症例の報告に際しては患者本人,家族の同意を得ている.
当院で2022年4月から2024年3月までの間,内頚動脈狭窄症に対してCASを施行した27症例[男性26/女性1例,年齢76.7±5.2歳]のうち,本方法でCASを施行した症例は9例であり,9例中2例が緊急の症例であった.プラーク性状はblack-blood magnetic resonance imaging (BB-MRI)T1強調画像をもとに最狭窄部のプラークおよび胸鎖乳突筋のregion of interest(ROI)を計測し,plaque muscle ratio(PMR)1.5以上を不安定プラークとした.全例について内頚動脈の狭窄率,症候の有無,PMR,ステントの種類を調査した.術翌日のMRIにて,新規diffusion weighted imaging (DWI)陽性の有無,および症候性脳梗塞出現の有無を評価した.
本方法でCASを施行した9症例では,7例が症候性内頚動脈狭窄症であり,残り2例は無症候であった.9例中7例でPMR: 2以上の不安定プラークで,狭窄率の平均は83%であった.術後DWI陽性を1例 (11%)で認めたが,症候性脳梗塞の出現は認めなかった(Table 1).
Case No. | Age/Sex | Symptomatic ICS | NASCET (%) | PMR | Stent | Post operative DWI |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 71/M | + | 86 | 2.3 | CASPER | - |
2 | 80/M | + | 87 | 2.4 | Wallstent | - |
3 | 76/M | - | 77 | 1.6 | PRECISE | - |
4 | 76/M | + | 88 | 2.4 | Wallstent | - |
5 | 70/M | + | 95 | 2.2 | CASPER | - |
6 | 84/M | + | 75 | 2.4 | CASPER | + |
7 | 84/M | + | 84 | 1.7 | PRECISE | - |
8 | 81/M | + | 83 | 2.2 | Wallstent | - |
9 | 86/M | - | 76 | 2.2 | Wallstent | - |
CAS: carotid artery stenting, ICS: Internal carotid artery stenosis, NASCET: North American Symptomatic Carotid Endarterectomy trial, PMR: Plaque muscle ratio, DWI: Diffusion weighted imaging, CASPER: CASPER Rx (TERUMO, Tokyo, Japan), Wallstent: Carotid Wallstent (Boston Scientific, Marlborough, MA, USA), PRECISE: PRECISE PRO RX (KANEKA MEDICAL PRODUCTS, Tokyo, Japan)
本症例では,オクリュージョンバルーンを用いたprotection法によりCASを施行し良好な経過を得ることができた.また本方法で治療を行った9症例についても,術後1例でDWI陽性(DWI陽性率 11%)を認めたが,症候性脳梗塞は認めなかった.
病変が不安定である時,protectionなしでのlesion crossは塞栓症のリスクとなる[4, 5].そのため,塞栓症のリスクが高い場合やlesion crossに難渋しそうな高度狭窄の例ではproximal protectionが必須と考える.次に前拡張以降の行程についてであるが,本来は外頚動脈遮断を伴うproximal protectionがもっとも有効な手段と言える[6].実際,過去の報告では,distal protectionのみでの術後DWI陽性率は42.8%と高く,proximal protectionでは14.3%と低いものであった[6].しかし,本方法では9Frのガイディングカテーテルに,SHOURYUとバルーンやステントが同軸で入らない.そのためlesion cross後にSHOURYUを抜去する必要がある.従って,本方法は,外頚動脈遮断を伴う完全なflow reversalはlesion crossの時のみであり,前拡張以降は外頚動脈遮断なしの不完全なproximal protectionと,distal protectionで行うこととなる.本研究では対象症例のうち7例はPMR: 2以上と術中塞栓症のリスクが高かったが,術後DWI陽性率は11%であった.Haradaらの報告によると,遠位のフィルターデバイスとflow reversal(外頚動脈の遮断を伴う)を用いた方法で施行された52症例のCASの検討で術後DWI陽性率は9.6%であった[7].本方法は遠位のフィルターデバイスおよび外頚動脈遮断を伴うflow reversal下のCASと遜色ない結果と言える.しかし,最近発売されたOptimal wireを外頚動脈に使用する場合,全ての工程で完全なflow reversalを行うことができるため,本方法はあくまで緊急症例やデバイスが十分でない場合に考慮され得る方法(second option)と位置付けられる.
また本方法では次のような留意点がある.外頚動脈に留置するSHOURYUはやや遠位でinflateする必要がある.この理由は,SHOURYUは頭蓋内オクリュージョンバルーンでありMo. Maと比べシャフトは細く柔らかく設計されており,flow reversal 時にSHOURYUが陰圧に耐えることができず総頚動脈へ引き込まれるためである(Figure 3).そのため当院では分岐部より数cm遠位に留置することでflow reversal時の陰圧で総頚動脈まで滑落することを防いでいる(Figure 2).
本研究の制限として,症例数が少なく統計的解析が行えていないこと,後方視的研究であるため選択バイアスの可能性があること,ステントの種類による比較ができていないことが挙げられる.
不安定プラークを有する内頚動脈狭窄症に対して,オクリュージョンバルーンを用いたprotection法はデバイスが準備できない場合,考慮しても良い方法と考える.
なし
研究中に生成された,および分析されたデータセットは,合理的な要求に応じて責任著者から入手可能である.