SANGYO EISEIGAKU ZASSHI
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Brief Report
Development of a Smoking Room Reducing Tobacco Smoke Leakage as a Provisional Measure until a Total Ban on Smoking
Jun Ojima
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2014 Volume 56 Issue 3 Pages 83-86

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はじめに

我が国における受動喫煙による健康被害は現在も深刻な状況にあり,国立がん研究センターの報告(2010年)では,毎年約6,800人が受動喫煙を原因とする肺がんや心臓病等で死亡し,その半数以上が職場での受動喫煙によるものと推計している1).職場における喫煙対策に対しては,平成8年に厚生労働省により「職場における喫煙対策のためのガイドライン」が策定され,以来その推進が図られてきたが,平成15年に見直しが行われた新ガイドラインでは,受動喫煙を確実に防止する観点から,可能な限り非喫煙場所にたばこの煙が漏れない喫煙室(一定の要件を満たす喫煙室)の設置が推奨されることになった.これにより,喫煙室には非喫煙場所との境界において風速0.2 m/s以上の流入気流を確保することが求められるようになり,自席や同じ室内にある喫煙コーナーでの喫煙が容認されていた見直し前と比べ受動喫煙のリスクは減じたが,依然として喫煙室から漏れ出すたばこ煙の抑制は困難であることが指摘されている2,3,4).このたばこ煙の漏出は,主にドアの開閉や室外へ退出する喫煙者の動きに随伴して起きるもので,単純に喫煙室内の換気量を増大させる(=境界での流入気流風速を増大させる)ことによってもある程度の抑制は可能だが,設備上の問題を生じ,さらに空調コスト面での大きな負担増を伴うため,現実的には厳しい場合が多いと思われる.そこで当研究では,簡易な装置と比較的少量の気流によってたばこ煙の漏出を抑制する装置を考案しその効果を検証したので,以下に結果を記す.

装置および実験方法

当研究では,まず実際に使用中の喫煙室の出入り口から室外へ漏出するたばこ煙の濃度を測定し,また疑似たばこ煙の漏出状況をビデオ撮影するなどして漏出煙の動態を把握し,それらを踏まえ,漏出を抑制する装置を付設した喫煙室を試作してその効果を調べることにした.

喫煙者の退出に伴うたばこ煙の漏出については,既に先行研究3, 4)において報告されているが,著者自身が漏出の状況等を仔細に観察する意図もあり,今回,実在する以下の2ヶ所の喫煙室において漏出するたばこ煙の観察および濃度測定を行った.

・喫煙室A;気積18.6 m3 (2.3 m×2.7 m×3.0 m),定員3名,天井換気扇(排気風量不明)1台設置

・喫煙室B;気積19.6 m3 (2.6 m×2.9 m×2.6 m),定員5名,壁面に有圧換気扇(排気風量780 m3/h)1台設置

室外への漏洩煙のビデオ撮影は,喫煙室を模したプレハブチャンバーにて行った.スモークマシーン(ポータースモークPS-2001,ダイニチ工業株式会社製)によって疑似たばこ煙(スモーク)をプレハブチャンバー内に充満させ,このチャンバーから実験者が退出する姿を録画した.この時,ドア開口部におけるチャンバー内への流入気流を排風機のインバーター制御により0.2–0.4 m/sの範囲で段階的に変化させて漏出の有無と境界部(ドア開口部)における気流風速との関係を観察した.

こうして得た測定および観察結果を参考に漏出抑制装置付きの喫煙室(Fig. 1)を試作して,その漏出抑制効果を実験により検証した.試作した喫煙室の本体は気積が約12 m3(W 1.8 m×D 3.6 m×H 1.4-2 m)のビニール張り簡易チャンバーで,排気用の主換気扇(産業用有圧換気扇 EWF-20YSA,660 m3/h;三菱電機株式会社製)と補助換気扇(ヒュームフード用ファンユニット,804 m3/h;アズワン株式会社製)を,それぞれ室奥部の左右両壁面に設けてある.人の出入り口となるドア(0.75 m×1.85 m)の中央部には風量約1,400 m3/hの送風ファン(Box Fan ; LASKO製)をはめ込み,ドア枠上部の中央位置には人間の接近を感知する赤外線センサースイッチ(Beruf SWT-500 ; 株式会社ミツトモ製作所製)を取り付け,補助換気扇とドアの送風ファンの ON/OFF 制御をこのセンサースイッチで行うよう配線した.これにより,喫煙室からの退出者がドアを開ける直前に補助換気扇とドアのファンが同時起動し,退出してドアを閉じた約10–20秒後に自動で同時停止する仕組み(=ドア開放時に退出者が随伴するたばこ煙をドアのファンからの送風によって室内へ押し戻す仕組み)とした.実験時には,試作喫煙室内の中央部に立てたスタンド上に同時着火させた3本の紙巻きたばこを置いてたばこ煙の発生源とし,このたばこ煙の充満する喫煙室から実験者が退出する動作を行って,ドア開口部から漏出するたばこ煙の濃度を測定した.漏出煙の測定点は,事前にビデオ撮影した漏出画像の観察結果を基に,試作喫煙室ドアの脇,高さ90 cmの位置に定めた.

Fig. 1.

General view of the experimental smoking room and the leakage prevention system.

たばこ煙の濃度測定には,データーログ機能内蔵のデジタル粉じん計LD-2およびLD-3K(いずれも柴田科学株式会社製)を使用し,約10 μm以下の浮遊粉じん(respirable suspended particle : RSP)濃度をたばこ煙濃度として測定した.また,漏れの評価にはバックグランド補正したピーク値を用いた.なお,たばこ煙の質量濃度変換係数はそれぞれ0.8および0.0008 mg/m3/cpm とした5).気流速度の測定には,携帯型風速計アネモマスター(Model 6035-00,日本カノマックス株式会社製)を用いた.

統計学的解析:漏出たばこ煙濃度の測定データを処理する際にはt検定を行い,そのときの有意水準は0.05とした.

実験結果

実在する喫煙室AおよびBにおいて,喫煙者の退出に伴ってドアから漏出するたばこ煙の濃度をドア脇で測定した結果,ドア開放から約10秒後までの間におけるピーク値として,前者では0.18 mg/m3,後者では0.63 mg/m3が記録された.Figure 2には,喫煙室AおよびBからたばこ煙が漏出した直後の濃度の推移を図示する.これより,喫煙者がドアを通過した1–2秒後に顕著な漏出が起きることが判明した.なお,両喫煙室での退出時のドア開口部における流入気流の速度はそれぞれ0.13 m/s,0.1 m/sで,前述の新ガイドラインが求める風速(0.2 m/s)に満たなかった.

Fig. 2.

 Leakage of tobacco smoke from the smoking rooms.

Figure 3 は,プレハブチャンバーのドア開口部における室内流入気流を0.2 m/sおよび0.4 m/sとした場合の疑似たばこ煙の流れをビデオ撮影した際の画像である.画像で確認したところ,室を退出する人体に随伴する煙の漏出を視認上完全に消失させるには,0.4 m/s以上の流入気流が必要であった.また,煙が漏出する場合,退出者の腰部後方付近(地上高90–100 cm)において顕著な様子が観察された.

Fig. 3.

 Observation of the leakage of imitation tobacco smoke.

(a) inflow velocity into the room = 0.2 m/s. (b) inflow velocity into the room = 0.4 m/s.

試作した漏出抑制装置付きの喫煙室のドア脇に粉じん計を置き,実験者が退出した直後の粉じん濃度を測定した結果をTable 1に示す.なお,この際の粉じん計の設置高さは,煙の漏出が最も著しいと予想される高さ(地上高90 cm)に合わせたものである.実験の結果,漏出抑制装置を停止させた状態では,ドア開口部で0.22 m/sの流入気流が得られていたものの,漏出たばこ煙濃度は平均0.0155 mg/m3(ピーク値)であることが確認された.一方,漏出抑制装置を作動させて同様の測定を行ったところ,漏出たばこ煙の濃度は平均0.0084 mg/m3(ピーク値)となり,装置停止時の約54%に低減した.両平均値の差は,t 検定により統計的に有意と認められた(p<0.05).

Table 1. Dust concentration with the leakage prevention system (door fan and auxiliary exhaust fan) on and off

考察とまとめ

喫煙室からの排気を,ダクトを介さず換気扇から直に外気へ排出する場合,屋外の風向き次第で換気扇の能力が大きく削がれる場合がある.今回測定を行った喫煙室Bがそれに該当し,本来なら新ガイドラインの要件(0.2 m/s)を満たし得る性能の有圧換気扇を設置していたにも係らず,北側の外壁面に取り付けられていたため,吹きつける北西季節風の影響を直接受け,調査時にはドア開口部で,最大でも0.1 m/s程度の気流しか得られていなかった.有圧換気扇は屋内外に多少の静圧差があっても排風量が低下しないように設計されているが,屋外の季節風には抗すべくもなく強風時には著しい能力低下を来たし,その結果,ドア開放時にたばこ煙の漏出を招いていたものと思われる.

新ガイドラインが求める風速0.2 m/sは,出入り口からの漏出の無いことが先行実験により確認された風速値であり,プッシュプル型換気装置に規定される一様流の平均風速値とも一致するため採用された値であるが,喫煙者が退出する際の気流の乱れは考慮していない.今回ビデオ撮影した疑似たばこ煙の観察結果から推測すると,流入気流により漏出煙を抑制するには0.2 m/sでは不十分であり,少なくともこの2倍の風速が必要と思われる.風速を2倍とするには,換気扇の台数を2倍かそれ以上に増やす必要があり,排風量増大に伴う空調への負担増(余分な電力消費)によって相応の不経済を生じる.

本報で試作した漏出抑制装置は,喫煙者が退出するごく短い時間にのみ,ドアに取り付けたファンと補助換気扇を作動させる簡易な構造なので,総額10万円程度の費用で必要な装置類を調達でき,付設や稼働に要する負担を抑えつつ漏出煙を半減させる利点がある.しかし実験結果が示すように,送・排気のような工学的対策でたばこ煙の漏出を完全に遮断することは困難なことから,受動喫煙を確実に防止するには,最終的に全面禁煙化が必要と言える.本報で紹介する装置は,我が国で全面禁煙化が実現し,喫煙室が廃止されるまでの過渡的措置として提案したい.

References
  • 1)  一般社団法人日本生活習慣病予防協会.受動喫煙で年間6800人が死亡.厚労省研究班.[Online]. 2010 [cited 2013 Aug 7]; Available from: URL: http://www.seikatsusyukanbyo.com/calendar/2010/001496.php
  • 2)  大和 浩.解説 職場の喫煙対策,今回の改正の変更点.産衛誌 2012; 54 臨時増刊号:210.
  • 3)  大和 浩.職場の喫煙対策の現状と未来.産業医学レビュー 2013; 25: 219–38.
  • 4)  大和 浩.職場の受動喫煙対策に関わる労働安全衛生法の改正の動きと職場での喫煙対策の取り組み.労働衛生工学 2013; 52: 31–6.
  • 5)  独立行政法人 労働者健康福祉機構 高知産業保健推進連絡事務所.デジタル粉じん計による粉じん測定操作について~LD-3K. [Online]. 2012 [cited 2013 Aug 16]; Available from: URL: http://www.kochisanpo.jp/rental/use_of_ld-3k.html
 
© 2014 by the Japan Society for Occupational Health
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