SANGYO EISEIGAKU ZASSHI
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The Age-job Satisfaction Relationship for Japanese Public School Teachers: A Comparison of Teachers’ Labor Union Members and Professional and Technical Employee Members of Private Company Labor Unions
Ryuji Takahara
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2014 Volume 56 Issue 4 Pages 91-101

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抄録

目的:本研究は日本における公立学校教員の年齢・職務満足関係の特徴を検討したものである.教員や労働者を対象とした年齢・職務満足関係の検証からは,加齢に伴い上昇する直線的な関連や非線形の関連が指摘されているが,同じ文化的背景における教員と労働者を比較している研究は見受けられない.日本の教員の職場環境の特殊性を明らかにするために,本研究では教員の年齢・職務満足関係を労働者と比較した.対象と方法:教員の労働組合員と一般企業における専門職の労働組合員の質問紙調査データを用い,4つの職務満足について階層的重回帰分析を行った.結果:1)教員では,総合的職務満足,給与満足において負の線形関係が示され,人間関係満足,労働時間満足では年齢との有意な関係は示されなかった.2)労働者では,4つの満足全てにおいて50歳前後で上昇に転じるU字型の関係が示された.3)関連の型だけでなく,満足感の水準自体にも違いが確認され,教員は労働者と比較して,内発的な満足感は高いものの,外発的な満足感は低いことが示された.考察:日本における教員の職務満足は,年齢と共に低下する傾向がみられた.結果は,教員の職場環境の特殊性を裏付けるものといえ,この特殊性は高年齢層の教員のバーンアウトを生み出す背景となっている可能性がある.教員の不満へのサポートは高年齢層に手厚く行う必要性と,特に外発的な不満への対応が必要であるということが示唆されたと考えられる.

I.諸 言

本稿は,公立学校教員の職務満足と年齢の関係を,一般企業従業員のそれと比較することによって,教員の職務満足の特徴を明らかにしようとするものである.“教育職員に係る懲戒処分等の状況について”(文部科学省)から,精神疾患休職者は2009年まで17年連続で増加し続けたことが示されているなど,教員の職務環境の苛酷さは休職や離職などのバーンアウト問題にも結び付く深刻な問題であると考えられる.職務満足は,休職やバーンアウトとの強い関連が指摘されており1),精神的健康やQWLに影響する媒介要因と位置づけることができる2).また,近年の産業精神保健領域では,単に不健康を予防,対処するという枠組みからではなく,積極的に仕事に関わっていくポジティヴな側面を捉えるワーク・エンゲイジメント3)のような健康関連指標も注目されており,職務満足との関連も示されている4).職務満足を精神的健康関連指標として捉え,それが教員と一般企業従業員においてどのように異なるのかを調べることは,教員の職務の特殊性を明らかにし,バーンアウト対策やメンタルヘルス推進への一助となると考えられる.

日本の教員の職場環境については,“学級王国”という言葉に表されるような文化の特殊性5)や,諸外国と比較して法定勤務時間は長いものの授業時間は短いといった職務面の特殊性6)など が指摘されている.また,Hatta & Nishiide7)は,日本の小学校教員とホワイトカラー労働者の比較から,教員のストレスが強いことを明らかにしているなど,意識面においても教員の特殊性は示されているが,職務満足においてこうした比較研究は見受けられない.一方,教員の職務満足そのものを扱った研究は数多いが,要因8)や結果9)に関心をおいた研究が代表的である.

ところで,先述の文科省調査 (2010年度) より,教員の精神疾患休職率は,20代0.38%,30代0.60%,40代0.71%,50代0.71%と年代によって比率が異なることが示されている.また,5府県の教職員を対象にした調査10)より,「強い抑うつ感を示す人数の割合」は24歳以下3.9%,25–29歳7.4%,30–34歳8.9%,35–39歳6.6%,40–49歳10.7%,50歳以上8.3%と,こちらも年代によって異なる傾向が示されている.文部科学省の委託調査からも,60歳代を除いて,全般的に年代が高いほど強いストレスを感じる教員の割合が高いことが示されている11).職務満足はストレス反応の低減効果を持つ2)ことが示されていることを考慮に入れると,教員の職務満足も年齢によって異なる可能性があると考えられる.しかし,教員の年齢・職務満足関係を確認している研究で,その関連の型は一貫していない.日本の公立小・中学校教員12)や,トルコの大学教員13)を対象にした調査では,職務満足は年齢と共に高まっている.逆に,英国の大学教員では,教育や研究の満足が加齢と共に低下している14).また,米国の中・高等学校教員では,職務満足は若年層と年配層で高く,中間層で低いというU字型の関連が示されている15)が,カナダの小・中・高等学校教員を対象にした研究では,同じ研究内で職務満足と正の相関を持つことが示されている自己効力感が,勤続年数23年を頂点とした逆U字型となることが示されている16).米国の中学校体育教員17),台湾と中国の大学教員18)を対象にした研究のように,有意な関連がみられなかったという報告もある.

こうした年齢と職務満足の関係の多様性は,一般企業の従業員を対象とした研究でもみられており,主には線形かU字型の関連が指摘されている.1970年代から80年代にかけては線形仮説を支持する研究が比較的多く報告されていたが19),1990年頃からは,U字型仮説を支持する研究が相対的に増加しており20,21,22,23),線形仮説が支持された場合でも,勤続年数によって年齢の影響が有意でなくなるという指摘24)や,関連が薄いことが強調される報告25)があり,お蔵入り問題によるものと解されている23).それ以外でも,給与と昇進の満足の加齢による減少傾向26),上昇,低下,上昇のS字型の関連27),有意な関連がみられないという報告28, 29)などがある.

教員,労働者の両方において年齢・職務満足関係が多様である理由として,コホートの影響27, 30),労働条件27, 30,31,32),価値観や期待の変容27, 31, 32),ライフステージやキャリア発達20, 27),感情23)などによる説明が挙げられているが,これらの要因は年齢・職務満足関係に影響していないか,統制した場合でも年齢と職務満足の関連がみられることが報告されている21, 23, 27, 30).一方,製造業,サービス業,政府機関の組織タイプによって年齢・職務満足関係の強度に違いがあることや32),専門技術職,事務職,技能職,サービスなどの職種によって関連の型が異なる25, 33)という指摘から,従事している仕事の性質によって,年齢と職務満足の関連そのものが異なる可能性が考えられる.しかし,日本において教員と労働者の年齢・職務満足関係を同一の設問で比較した研究はなく,先述の通り,職務満足の記述統計による比較研究さえも見受けられないのが現状である.単に教育現場の特殊性のみに焦点を合わせるのではなく,労働者としての教員の特殊性を他職との比較において実証的に示すことは,一般的な労働者を中心とした研究から示されている産業精神保健の知見の教員への応用可能性についても示唆を含むことになるといえる.そこで本研究では,共通した設問を用いている調査から,日本における教員の年齢・職務満足関係が線形,非線形などのいずれの型となるのかを明らかにし,それを一般企業に勤める専門職労働者のものと比較することを試みた.

II.方 法

教員を対象とした意識調査と,一般労働者を対象とした意識調査から共通する設問のデータを用いて職務満足と年齢との関連についての分析を行った.教員データには,日本教職員組合と社団法人国際経済労働研究所の共同調査である“教員の働きがいに関する意識調査”34)のものを,労働者データには,1991年から現在にかけて継続している公益社団法人国際経済労働研究所:第30回共同意識調査に参加した労働組合のものから45組織を抽出して使用した.それぞれのデータの使用については,関連する組織の許可を得ている.

教員データ

調査対象:日本教職員組合組合員の内,教員12,376名を対象とした.都道府県ごとに小学校教員120名,中学校教員120名,高等学校教員120名,特別支援学校教員10名を無作為抽出した.組合員数が抽出数に満たない場合は,全数を対象とした.

調査時期:2010年11月中旬から2011年1月下旬にかけて調査を行った.

調査方法:無記名式の質問紙調査を行い,回収率は67.2%であった.

分析対象:都道府県・校種ごとの教員組合員の人数比を用いて再抽出を行った1,076件を分析に用いた.

労働者データ

調査対象:全国の労働組合45組織(連合体を含む)の組合員.各組織の業種は,電気機器,輸送用機器,医療機器,精密機器,金属製品,ゴム製品,ガラス・土石製品,化学,建設,食品,医薬品,電気,ガス,情報・通信業,卸売業,小売業,サービス業,銀行などであった.

調査時期:2007年4月から2011年3月までに実施された調査のデータを用いた.

調査方法:無記名式の質問紙調査(一部Web調査)であり,平均回収率は86.7%であった.

分析対象:職務満足に関連する属性として教育水準19),組織タイプ32),職種25, 33)が指摘されていることから,教員とある程度の共通点を持つ集団を抽出することが必要であると考えられたため,職種を “専門・技術・研究”かつ学歴を“短大・高専卒”以上に絞ったデータを用いることにした(それぞれの選択肢は,職種が“営業・販売・サービス”“専門・技術・研究”“事務”“技能・現業”“その他”,学歴が“中学卒”“高校卒”“専門学校卒”“短大・高専卒”“大学卒”“大学院卒”“その他”).業種については,教員に対応する一般的な業種を特定できないことと,一般に職務態度への関連要因としては職種が挙がり業種は挙がらないことから35)限定を行わなかった.

調査時の抽出率は組織によって異なるため,組織人数の5%を再抽出したデータより,上記の絞り込みを行った3,219件を分析に用いた.

尺度

教員調査の質問紙はフェイス項目を含めて約100項目から成り,労働者調査と共通している山下36)の項目から,職務満足に関する10項目を分析に用いた.用いた項目は一般的にいわれる職務満足の全てを網羅しているものではないが,先行研究では全般的な職務満足に関する1項目のみを用いたものや各側面の職務満足を合計した値を用いた検証例もあることから27, 30, 31),一部の職務満足についての知見を得ることはできるものと考える.また,共通するデモグラフィック項目を統制変数として用いた.デモグラフィック項目の記述統計をTable 1に示す.年齢を除いたデモグラフィック項目はカテゴリ変数であるためダミー変数化して分析に用いた.その際,年収と時間外労働については,教員調査と労働者調査でのカテゴリ区分が異なっていたため,共通化できる最大数のカテゴリにまとめなおした上でダミー化した.なお,教員調査,労働者調査ともに,設問はデモグラフィック項目,共通設問,独自設問の順番となっており,共通する部分のレイアウトはほぼ同一であるため,順序効果などによる差異は大きくないと考えられる.

Table 1.  Descriptive statistics of independent and control variables
Teachers Employees
Age
M 44.6 34.8
SD 9.0 7.9
Gender
 Male 45.6 % 90.1 %
Marital status
 Married 76.8 % 56.3 %
 Divorced or widowed 3.8 % 1.5 %
Annual income
 4–5 million yen 13.4 % 14.9 %
 5–6 million yen 18.4 % 17.1 %
 6–7 million yen 20.4 % 15.3 %
 7–8 million yen 24.4 % 13.2 %
 8 million yen and over 11.3 % 23.0 %
Overtime work (per month)
 20–40 hours 27.6 % 42.0 %
 40–60 hours 23.8 % 13.2 %
 60–80 hours 16.5 % 2.5 %
 80 hours and over 16.4 % 1.5 %

III.結 果

因子分析

職務満足に関する項目の共通因子を抽出するために,教員と労働者での多母集団同時分析による検証的因子分析を行い,四つの職務満足の次元を抽出した(Table 2 and 3).配置不変のモデルで充分な適合度が得られたため,教員と労働者で共通した職務満足の指標として,総合的職務満足,人間関係満足,給与満足,労働時間満足を用いて,分析を行うこととした.各職務満足は項目の合計得点を算出した後,標準化を行った上で後の分析に用いた.なお,教員と労働者の抽出率が異なるため,標準化には母集団の規模がより大きい労働者データの平均値と標準偏差を用いた.

Table 2.  Results of confirmatory factor analysis
Variables Path coefficients (α coefficients)
Teachers Employees
Overall job satisfaction (0.889) (0.908)
 I can feel the worthiness of life in my work a). 0.915 0.877
 I enjoy my present work a). 0.926 0.907
 I want to continue my present work a). 0.727 0.785
 On the whole, I am satisfied with my present work a). 0.702 0.807
Satisfaction with relationships (0.835) (0.775)
 Interpersonal relationships in my working place b). 0.874 0.797
 The atmosphere of my working place b). 0.854 0.834
 My co-workers are very helpful a). 0.662 0.578
Satisfaction with pay (0.765) (0.782)
 My salary or wage c). 0.783 0.798
 The level of my salary or wage b). 0.790 0.805
Satisfaction with working hours
 Holidays and working hours b).

n (Teachers)=1,076, n (Employees)=3,219.

GFI = 0.978, AGFI=0.960, χ2 (60)=480.154***, RMSEA=0.057. ***p<0.001.

a)Response keys: 1 (I don’t think so.) –5 (I think so.). b) Response keys: 1 (Dissatisfied.) –5 (Satisfied.). c) Response keys: 1 (Unfair.) –5 (Fair.).

Table 3.  Between-factor correlation
1 2 3
Teachers Employees Teachers Employees Teachers Employees
1. Overall job satisfaction
2. Satisfaction with relationships 0.438 0.577
3. Satisfaction with pay 0.197 0.334 0.244 0.394
4. Satisfaction with working hours 0.282 0.263 0.221 0.314 0.447 0.339

階層的重回帰分析

総合的職務満足,人間関係満足,給与満足,労働時間満足のそれぞれについて,年齢との関係を明らかにするための階層的多項重回帰分析を行った(Table 4 and 5).第1段階では統制のための性別,婚姻状況,給与,労働時間を独立変数としたモデルを作成,第2段階では線形仮説を検証するために年齢を,第3段階ではU字型仮説を検証するために年齢の2乗を,第4段階ではS字型の関連が成立するかを確認するために年齢の3乗を加えた.先行研究では年齢に加えて勤続年数の効果も検証しているもの24, 28)も少なくないが,海外における年齢と勤続年数の相関係数は,0.7520),0.5328),0.5025)と中程度であるのに対し,本研究で用いたデータでは教員0.937 (p<0.001),労働者0.890 (p<0.001) と非常に高く,どちらを用いても同様の結果となったため,より多くの研究で用いられている年齢を使用している.

Table 4.  Results of hierarchical polynomial regression analysis: overall job satisfaction and satisfaction with relationships as explained variables
Overall job satisfaction Satisfaction with relationships
Teachers Employees Teachers Employees
Adj. R2 ΔAdj. R2 Adj. R2 ΔAdj. R2 Adj. R2 ΔAdj. R2 Adj. R2 ΔAdj. R2
Step1 Control 0.014** 0.008*** 0.019*** 0.011***
Step2 Age 0.030*** 0.016*** 0.018*** 0.010*** 0.024*** 0.004* 0.035*** 0.025***
Step3 Age2 0.029*** –0.001 0.024*** 0.006*** 0.023*** –0.001 0.041*** 0.005***
Step4 Age3 0.028*** –0.001 0.024*** 0.000 0.023*** 0.000 0.040*** 0.000
Final Model b b* b b* b b* b b*
Intercept 1.229*** 2.196*** 0.702*** 2.666***
Male –0.032 –0.017 –0.150* –0.045 0.000 0.000 –0.167** –0.050
Married 0.173* 0.076 0.217*** 0.108 0.205* 0.085 0.155*** 0.077
Divorced or widowed 0.164 0.033 0.235 0.029 –0.099 –0.019 –0.012 –0.001
4–5 million yen 0.082 0.029 0.185** 0.066 –0.264* –0.088 0.110 0.039
5–6 million yen –0.087 –0.035 0.157* 0.059 –0.337** –0.128 0.043 0.016
6–7 million yen –0.076 –0.032 0.270*** 0.097 –0.342* –0.135 0.168* 0.061
7–8 million yen –0.023 –0.010 0.348*** 0.118 –0.289* –0.122 0.209* 0.071
8 million yen and over 0.104 0.034 0.386*** 0.162 –0.240 –0.075 0.343*** 0.144
20–40 hours 0.178 0.083 0.063 0.031 0.235* 0.103 –0.026 –0.013
40–60 hours 0.020 0.009 –0.018 –0.006 0.192 0.080 –0.072 –0.024
60–80 hours –0.049 –0.019 –0.273* –0.042 0.038 0.014 –0.305** –0.047
80 hours and over 0.077 0.030 –0.366* –0.044 0.178 0.065 –0.252 –0.031
Age –0.021*** –0.198 –0.115*** –0.904 –0.012* –0.110 –0.121*** –0.955
Age2 0.001*** 0.726 0.001*** 0.692

n (Teachers) = 1,076, n (Employees) = 3,219.

Control: Gender, Marital status, Annual income, and Overtime work.

*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001.

Table 5.  Results of hierarchical polynomial regression analysis: satisfaction with pay and hours as explained variables
Satisfaction with pay Satisfaction with hours
Teachers Employees Teachers Employees
Adj. R2 ΔAdj. R2 Adj. R2 ΔAdj. R2 Adj. R2 ΔAdj. R2 Adj. R2 ΔAdj. R2
Step1 Control 0.044*** 0.029*** 0.068*** 0.102**
Step2 Age 0.051*** 0.007** 0.081*** 0.052*** 0.070*** 0.003 0.114*** 0.012***
Step3 Age2 0.051*** –0.001 0.086*** 0.005*** 0.069*** –0.001 0.118*** 0.004***
Step4 Age3 0.050*** –0.001 0.086*** 0.000 0.069*** –0.001 0.119*** 0.001
Final Model b b* b b* b b* b b*
Intercept 0.146 2.937*** –0.269* 2.167***
Male –0.312*** –0.154 –0.316*** –0.094 0.161** 0.081 –0.106 –0.032
Married 0.048 0.020 –0.031 –0.015 –0.034 –0.014 0.055 0.027
Divorced or widowed –0.147 –0.028 0.165 0.020 –0.028 –0.005 –0.175 –0.021
4–5 million yen 0.045 0.015 0.024 0.009 –0.164** –0.056 0.166** 0.059
5–6 million yen 0.060 0.023 0.332*** 0.125 –0.317* –0.123 0.227*** 0.086
6–7 million yen 0.109 0.043 0.493*** 0.178 –0.279** –0.113 0.335*** 0.121
7–8 million yen –0.039 –0.017 0.788*** 0.267 –0.294 –0.127 0.390*** 0.132
8 million yen and over 0.212 0.066 1.023*** 0.431 –0.188 –0.060 0.511*** 0.215
20–40 hours 0.300** 0.132 –0.004 –0.002 –0.136 –0.061 –0.266*** –0.131
40–60 hours –0.006 –0.002 –0.059 –0.020 –0.436*** –0.187 –0.782*** –0.264
60–80 hours –0.104 –0.038 –0.430*** –0.066 –0.650*** –0.242 –1.327*** –0.205
80 hours and over –0.020 –0.007 –0.113 –0.014 –0.740*** –0.275 –1.532*** –0.186
Age –0.016** –0.138 –0.129*** –1.017 –0.096*** –0.754
Age2 0.001*** 0.652 0.001*** 0.565

n (Teachers) = 1,076, n (Employees) = 3,219.

Control: Gender, Marital status, Annual income, and Overtime work.

*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001.

教員では,総合的職務満足,人間関係満足,給与満足において,年齢によって有意な決定係数の増加が確認されたものの,年齢の2乗および3乗では有意な変化はみられなかった.いずれも回帰係数は負の値を示しており,年齢と共に職務満足が低下する傾向といえる.労働時間満足においては,年齢との有意な関連がみられなかった.統制変数では,総合的職務満足において結婚 (正),人間関係満足において結婚 (正),年収400–800万 (負),1ヶ月の時間外労働20–40時間 (正),給与満足において男性 (負), 時間外労働20–40時間 (正),労働時間満足において男性 (正),年収400–700万 (負),時間外労働40時間以上(負)の関連がみられた.

労働者では,全ての職務満足において,年齢の2乗を加えることによる有意な決定係数の増加が確認され,U字型の関連が示唆された.年齢の3乗では有意な変化はみられなかった.統制変数では,総合的職務満足において男性(負),結婚(正),年収400万以上 (正),時間外労働60時間以上 (負),人間関係満足において男性 (負),結婚 (正),年収600万以上 (正),時間外労働60–80時間 (負),給与満足において男性 (負),年収500万以上 (正),時間外労働60–80時間 (負),労働時間満足において年収400万以上 (正),時間外労働20時間以上 (負) の関連がみられた.

なお,労働者モデルとの比較のため,教員モデルでは校種を統制していないが,統制したモデルについても,それぞれの年齢・職務満足関係は同じ形となった.

極値点の算出

労働者において職務満足が減少傾向から上昇傾向に転換する年齢を求めるため,回帰式より極値点を求めた.二次の回帰式から極値点を求める方法は,以下の式で示されている37)

  

(1)

  

(2)

1次の係数B1.2,2次の係数B2.1,切片B0を持つU字型の回帰式 (1) が与えられた場合,極値点XMは式 (2) を用いて求められる.ここから,労働者における転換点は,総合的職務満足46.7歳,人間関係満足51.7歳,給与満足58.2歳,労働時間満足49.9歳となった.年代ごとの職務満足の標準得点平均値からも,40代から50歳以上にかけて労働者の満足が上昇に転じることが示されている (Fig. 1).また,Fig. 1より,教員は労働者と比較して総合的満足と人間関係満足が高く,給与満足と労働時間満足が低いことも読み取れる.これを裏付けるため,調査(教員調査,労働者調査)と年代(20代,30代,40代,50代) を独立変数とし,その主効果と交互作用を確認するための分散分析を行った.調査の主効果は全てが有意(総合的職務満足: F(1, 4281) = 140.90, p<0.001, 人間関係満足: F(1, 4281)= 44.86, p<0.001, 給与満足: F(1, 4281)= 98.19, p<0.001, 労働時間満足: F(1, 4281)= 336.93, p<0.001)となり,加えて,総合的職務満足,労働時間満足で交互作用が有意(それぞれF(3, 4281)= 5.41, p<0.01, F(3, 4281) = 3.72, p<0.05)となった.交互作用が有意となった二つの職務満足については,単純主効果についての下位検定を行ったところ,教員と労働者間の全ての組み合わせで有意差(総合的職務満足の50代:p<0.05, それ以外: p<0.001)が認められた.

Fig. 1.

 Cross-age trends in job satisfaction of teachers and employees

Overall: Overall job satisfaction. Relationships: Satisfaction with relationships. Pay: Satisfaction with pay. Hours: Satisfaction with hours. (T): Teachers. (E): Employees.

IV.考 察

教員の職務満足では主に年齢と共に減少する線形関係が,労働者では減少傾向が上昇傾向に転じるU字型関係が示された.教員,労働者ともにそれぞれ先行研究で示された型の一つに合致しているが,相互に食い違うものであり,先行研究との比較においても独特な点が示された.

若年層の低下傾向という点では,教員と労働者は一致しているとみることができる.若年層で職務満足が低下する原因としては,先行研究からは就職した仕事への適応の困難さ35)や,仕事が反復的で制限の多いものに思えてくる21)ことなどが挙げられているが,これらをまとめるならば,入職後に要求される責任や業務のレベルと本人のスキルレベルの不一致が明らかになってくることによるものと思われる.こうした低下傾向は,一般的には価値観の変容やキャリア発達など20, 23, 27, 31, 32)を背景とした適応によって上昇に転じるものと考えられる.しかし,本研究では,教員において上昇傾向は確認されず,労働者のU字型の関連については転換点が50歳前後と,過去に指摘されている30代21)ないし40歳前後23)とは異なっていることが示された.つまり,上昇傾向が相対的に弱いという点においては両者とも共通していると考えられる.このことには,いくつかの原因が考えられる.

まず,本分析で用いたサンプルは教員,労働者ともに労働組合員のものであり,管理職が含まれていない.一般に管理職は年齢が上がるほど比率が高くなることと,組合員と比較して職務上の権限や報酬が大きいことから,高年齢層の職務満足を高める要因の1つになると考えられるが,そのデータが含まれていないことにより,教員では上昇傾向がみられず,労働者では転換の年齢が高くなる結果が示されたと考えることができる.次に,日本における雇用状況の特殊性が挙げられる.日本の長期雇用慣行の下では,高年齢層がより良い労働条件を求めて転職することによって職務満足が上昇するという転職仮説31)が成り立ちにくく,上昇傾向を弱めていると考えられる.また,先行研究27)で示されている通り,コホートの影響も考えられる.“学校基本調査”(文部科学省)より算出可能な大学卒の就職率は1970年から90年にかけては7–8割を保っているが,その後急落し,2000年以降は低い年で55%,高くても7割程度となっている.厳しい就職状況の中で勝ち抜いた若年層は,高年齢層と比較して仕事への意欲も高く,職務に満足している可能性が高いと考えられる.

以上の議論より,管理職を対象に含め,コホートの影響を除いた場合には,教員,労働者それぞれの型が変わる可能性は充分に考えられる.しかし,これらの条件は教員と労働者で共通しているものであるため,少なくとも,日本における教員と労働者では,年齢・職務満足関係の型が異なっており,教員は労働者と比較すると年配層における年齢に伴った職務満足の上昇効果がみられにくいといえよう.教員は労働者と比較してストレスが高く7),精神疾患休職率やストレス反応を示す人数の割合が年配層ほど高い10, 11)という先行研究と併せて推察すると,職務における負担などが,キャリア発達などの一般的な正の要因の影響を上回って年配層の職務満足を引き下げている可能性が考えられる.文部科学省の“教職員のメンタルヘルス対策会議”が,中堅以上の教職員に校内の仕事が集まりやすいことがストレスの要因であると考察している11)ことはそれを裏付けているといえよう.

教員と労働者における職務満足は,その型だけでなく,平均の差も非常に際立つものとなった.外発的な労働条件に相当する給与や労働時間の満足が労働者と比較して低く,給与満足は年齢と共に低下するという傾向は,教員の労働環境の苛酷さを物語るものといえる.実際に,年収は700万円以上の層が教員で25.7%,労働者で26.2%とほぼ均等であるのに対し,月の残業時間が40時間以上の層は教員で56.6%,労働者で17.1%と大きく違いがある.教員における残業制度は,給与月額の4%に当たる教職調整額を一律で支給するという,いわゆるみなし残業の仕組みであるが,この4%が勤務の実態にそぐわないのではないかという議論は,2008年11月に設置された“学校・教職員の在り方および教職調整額の見直し等に関する作業部会”(文部科学省)などでも行われている.努力と報酬のバランスが不均衡であることは,職務満足にも影響することが示されていることからも38),このような給与と労働時間のバランスは,教員の外発的な不満に強く関わっているものと考えられる.

一方で,人間関係や総合的な職務に対する教員の満足は労働者に比較すると高く,教員で最も低い50歳以上の層と上昇に転じて比較的高い50歳以上の労働者の比較であっても,教員の方が有意に高いという結果が示された.人間関係満足は研究によっては外発的な満足と位置付けられているが20),外発的要素を雇用者によって与えられるものとする伝統的な定義39)に従うならば外発的満足とはいえない.また,動機づけの研究領域40)では関係性が内発的動機付けの要因として挙がっており,職務満足の要因を外発,内発・文脈,内発・内容の3つに分類している研究39)では周囲からのサポートは内発・文脈的なものに位置付けられているなど,人間関係満足を内発的な側面にも関わっているものと考える研究は少なくない.内発的な側面を含む総合的職務満足や人間関係満足が高く,外発的な報酬への満足が低いことは,相対的に教員の内発的な満足が高いことを示唆する.教員は一般企業の従業員と比較して,内発的な報酬には満足しているものの,外発的な報酬には不満を感じているといえよう.落合2)は,バーンアウトの要因には,献身的で完璧主義的なパーソナリティという個人的要因,過重な負担などの状況・環境的要因,個人が組織に縛られて主体性を失うようになった社会・歴史的要因があることを指摘しているが,仕事そのものには強く満足しつつも,労働条件がその質や量に見合っていないという意識は,外発的な報酬に関わらず仕事へと打ち込む献身性と,その結果生じる過重労働を表しているといえ,職務満足の低下を生じさせる背景となり,教員のバーンアウトや休職などのリスクに関連しているものと考えられる.

以上より,一般の専門職労働者に比較して,教員の不満軽減のためのサポートは高年齢層に手厚く行う必要性と,特に外発的な不満への対応が必要であるということが示唆されたといえよう.外発的な不満は必ずしも物理的な条件のみに依存するわけではない.Weiner41)は,管理的な要因である職務構造への満足が,相対的な給与の衡平性よりも給与満足の分散の多くを説明することを示している.学校や自治体単位での施策により対策可能な側面もあろうかと思われる.

V.本研究の限界に関する検討

本研究の有効性については,いくつかの点で検討が必要である.1つ目の問題として,サンプルの代表性が挙げられる.第30回共同調査(公益社団法人国際経済労働研究所)の対象組織は従業員が原則として全て労働組合に加入しなければならないというユニオン・ショップ制をとっているものがほとんどであり,概ね管理職でない労働者という集団を代表していると考えられるが,加入が自由意志によるオープン・ショップ制をとっている日本教職員組合の組織率は2010年10月時点で26.6%であることが,“教職員の組織する職員団体の実態調査”(文部科学省)より示されている.また,回収率も7割弱と決して高いものではない.回収率については,7割をある程度の基準とする考え方42)に従うと,基準を十分に満たしているとはいえないまでも許容できる範囲にあると考えられるが,調査対象から厳密に母集団を位置づけるならば,本研究のサンプルは日本教職員組合の教員を代表しているに過ぎない.しかし,これらの分析結果が公立学校の教員全体に当てはまるとすれば,教育施策のレベルでの介入なども有効であるといえることになり,意義が大きいと考えられる.そこで,2つの補助的な分析より,本研究の母集団を公立学校教員と考えた場合のサンプルの偏りの可能性を確認した.

まず,全国の教員を母集団とした政府統計と本研究のサンプルにどの程度の差があるのかを性別や年齢の面から検討した.性別については,“平成22年度 学校基本調査”(文部科学省)より,公立学校の管理職を除いた本務教員数を男女別に計算し,校種別に本研究のサンプルとχ2検定を行った.学校基本調査と本研究のサンプルにおける男性教員比率は小学校で32.0%と37.0%(p<0.01),中学校で54.4%と51.9%(p>0.05),高等学校で68.5%と69.2% (p>0.05),特別支援学校で38.8%と43.4% (p>0.05)となる.小学校においてのみ有意に男女比が異なることが確認されたが,小学校は他校種に比べてサンプルサイズが大きいことを考慮に入れると許容範囲の差ではないかと思われ,総合的に考えた場合,性別においては目立ったサンプルの偏りはないと考えられる.年齢については,“平成22年度 学校教員統計調査”(文部科学省)より,公立学校の本務教員の平均年齢を本研究のサンプルの平均年齢と比較した.学校教員統計調査から示されている平均年齢は,管理職を含んでいる上,標準偏差の値が示されていないことから,厳密な比較はできないが,学校教員統計調査と本研究のサンプルにおける平均年齢は,小学校で44.3と44.0,中学校で44.0と44.7,高等学校で45.4と47.3,特別支援学校で42.0と44.4となる.こちらも大きな差はみられていない.

次に,教員の職務満足モデルに都道府県ごとの組織率と回収率を投入して検証することで,サンプルの偏りの影響を確認した.組織率と回収率は,都道府県ごとのばらつきがかなり大きく,組織率が8割以上,回収率が100%の単組もある.そこで,教員において年齢との関連がみられた総合的職務満足,人間関係満足,給与満足の最終モデルに都道府県ごとの組織率と回収率を投入したモデルを検証した.回収率は全てのモデルにおいて非有意であった.組織率は人間関係満足と給与満足において有意な正の関連がみられ(それぞれp<0.001, p<0.01),人間関係満足においては年齢の効果が非有意となった.なお,組織率を投入したモデルに年齢の2乗,3乗を加えたモデルも検証したが,いずれも非有意となった.これより,総合的職務満足と給与満足においては,都道府県別の組合への加入・非加入,調査への回答・非回答によるサンプルの偏りの影響を統制した場合でも負の年齢・職務満足関係が成立することが示唆された.

以上の分析に加え,本研究と同じサンプルを用いた研究43)からは,客観的な指標である都道府県別の公立学校教員休職者数が意識データと関連していることが示されている.こちらも傍証としてサンプルの代表性を補強するものと考えると,本研究で用いたサンプルは,十分とはいえないまでも,公立学校教員に対する許容範囲の代表性を持ち合わせているものと思われる.つまり,本研究の結果は,人間関係満足についての一般化は無理であるが,総合的職務満足と給与満足に関しては,管理職を除いた公立学校教員全般に一般化できる可能性を持っているといえる.ただし,教員と労働者で年齢・職務満足の関連が異なるように,地方や校種などの分類によって,さらに異なる関連が示される可能性も考えられる.日本の教員全体からのサンプリングによる調査などでの詳細な検討が望まれる.

2つ目の問題として,階層的重回帰分析における決定係数の低さが挙げられる.一般に,年齢・職務満足関係は強いものではない.階層的重回帰分析における決定係数の増分から示される独立した年齢の効果は,教員で3%14),専門職労働者で6%20),2%25),2%23)と職務満足の一部の分散を説明するに留まっている.本研究においても総合的職務満足においては教員,労働者共に約2%と同等の値が示されており,年齢は職務満足の主要な決定因ではなく,限られた説明力しか持っていないことが示唆された.加えて,教員の人間関係満足,給与満足,労働時間満足においては年齢の説明力は1%に満たない値となった.このように年齢の職務満足への寄与が少ないことには,年齢と職務満足の関連にはCommon method varianceによるバイアスが働きにくいことが関連していると考えられる.同じ質問紙から得られた自己申告による職務特性と職務満足のように,共通した方法から得られた測定値には重複する分散があることが指摘されており44),抽象的な構成概念ほどこうした影響が大きいとされている45, 46).本研究で用いた年齢と職務満足は同じ質問紙から得られた測定値ではあるが,デモグラフィック変数にはバイアスが働きにくいことが指摘されている44).方法バイアスの影響が大きくないにも関わらず先行研究や本研究で年齢・職務満足関係が有意になっているということは,弱くはあるものの実質的な年齢・職務満足関係が認められることを示唆しているものと考えられる.なお,労働者では給与満足に対する年齢の説明力は約6%とやや高い値であり,Kacmar & Ferris20)による,他の職務満足に比較して給与満足と年齢の関連が強いという指摘と一致した傾向を示した.公務員である教員と比較して,相対的に成果主義的な要素の強い労働者の給与水準は,業績や成果などの本人の属性に帰属されて認知されやすく,こうした認知の違いや給与体系の違いそのものが経験年数と給与満足の関連に関わっているものと考えられる.

Acknowledgment

謝辞:日本教職員組合の野川孝三氏・濵田真由美氏・染谷幹夫氏・栗原健氏に深謝の意を表する.

References
 
© 2014 by the Japan Society for Occupational Health
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