SANGYO EISEIGAKU ZASSHI
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Impact of Visceral Fat Measurements and a Weight Loss Support Web System on Visceral Fat Loss in a Workplace Setting: Insights from a JVALUE2 (Japanese Study of Visceral Adiposity and Lifestyle Information; Utilization and Evaluation)
Hiroko OkazakiSeitaro DohiHiroshi IdeAkitoshi MurataGinjiro MuramatsuDaisuke ItoNaoki SakaneToshihisa MorimotoTakanobu UchidaMitsuhiro KatashimaYoshiko YanagisawaTakeshi Yasumasu
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2014 Volume 56 Issue 5 Pages 109-115

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抄録

目的:職域における保健指導に,内臓脂肪面積の測定(以下,内臓脂肪測定)やウェブでの減量支援を用いることによる減量効果や個人の行動変容に対する効果を検証する.対象と方法:試験参加を希望し,同意したBMI 23以上の181名の社員を試験対象者とした.ランダム化並行比較試験(RCT;Randomized Controlled Trial)を行うために,その対象者を,保健指導に内臓脂肪測定とウェブ支援を併用する群(A群)と,内臓脂肪測定は行わず保健指導にウェブ支援のみ併用する群(B群)と,保健指導も内臓脂肪測定もウェブ支援も行わない群(対照群)(C群)の3群に無作為に割付けた.介入の効果をみるために,介入前と介入終了後の各群の腹囲・体重・BMIの減少量を比較検討した.また,試験開始前と介入終了後に食行動と生活活動についてのアンケートを行い,各群と行動変容の関係をみた.結果: 181名の試験対象者のうち,プロトコルに準じて試験を終了した者は150名であり,継続率は83%であった.3ヶ月間の腹囲・体重・BMIの減少量は,保健指導に内臓脂肪測定とウェブ支援を併用した群で最も大きく,有意な群間差を認めた.また,内臓脂肪測定とウェブ支援を行った群では,食行動の改善度が大きい人が多く,対照群では食行動・生活活動が悪化した人が多かった.考察:職域においてランダム化並行比較試験を行い,有効性を科学的に検証することができた.待機期間(ウェイティングリスト法)を併用する等,実施方法を工夫することにより,実際の産業保健活動を客観的に検証することが可能となり,エビデンスに基づいた活動の選択・実施にもつながると考えられた.

I.はじめに

近年,糖尿病をはじめとする生活習慣病が増加しており,動脈硬化性病変(冠動脈疾患,脳血管疾患)が日本人の死因の上位を占めている.その基盤となる肥満対策は職域におけるヘルスケアにおいて重要な課題のひとつとなっており,特に内臓脂肪の蓄積と冠動脈疾患リスクの増大が注目されている1, 2)

最近は,内臓脂肪の蓄積評価に生体インピーダンス法に基づく非侵襲で簡便な内臓脂肪測定装置が開発・利用され,定期健康診断時測定の有用性が報告されている3).また,保健指導においては個人の行動変容が重要であり,近年ウェブを保健指導に導入し継続的に支援することの有用性が示されている4)

一方,保健指導には,体力測定やフィットネスの実施,講義や体験教室,食事会5),電話6)やITを使ったもの7)等,様々なツールがあるが,ランダム化並行比較試験(RCT;Randomized Controlled Trial)による有用性を検討した報告は少ない.

今回,内臓脂肪蓄積情報を保健指導に導入し,個人の特性に応じた改善行動を提案するウェブベースの減量支援プログラムを活用して,個人の行動変容に対する効果を検証するためのRCTを計画し,有意な減量効果が認められたので報告する.

II.対象と方法

試験を実施した会社は,国内に本社,研究所,6つの工場,2つの分工場,3つの支店をもつ化学会社で,7名の常勤産業医を中心に,関係会社を含めた社員の健康管理を行っている.健康管理対象社員は,計9,010名(男性 7,951名,女性 1,059名)で,そのうち本社を含めた6事業所(計6,072名; 男性 5,439名,女性 633名.うち1,127名が3交代勤務者)において,集団特性に応じたチラシやポスター等の募集媒体を利用し,イントラネットへの掲載や安全衛生委員会でのアナウンス,ポスター掲示等にて参加者を募集し,参加希望社員に対し個別説明を行った.

日本人を含むアジア人種では,他民族と異なり,BMI 23以上から収縮期血圧やHDL-コレステロール,中性脂肪値等に違いがみられたという報告があるため,健康リスクが増えるBMI 23をカットオフとし,健康活動を推奨する報告がある8,9,10)ことより,試験対象をBMI 23以上とした.内臓脂肪測定には,臍近傍と等レベル脊椎近傍との間に流した微弱な電流により発生した側腹部の電圧を測定し,その電圧とウエスト周囲径から生体の組成を推測する生体インピーダンス法を応用した機器(以下,内臓脂肪測定器)2, 3, 11, 12)を用いた.そのため,ペースメーカー等体内に電気的医療機器を装着している人,妊娠中の人など,測定による安全性が不明な人については参加不可とし,書面で試験参加に同意した参加希望者のうち,BMI 23以上の社員を試験対象者(以下,対象者)とした.試験で使用した測定器(内臓脂肪計EW-FA90,医療機器承認番号22500BZX00522000)とCTによる内臓脂肪面積測定値の相関係数はr=0.87であった3)

対象者数の設定は,試験の説明・対応等が可能な常勤産業医のいる各事業所において集められる数とした.

また,本試験は,京都医療センター倫理委員会の承認を得て(承認番号09-34),UMIN CTRに臨床試験登録して実施した(UMIN試験ID:UMIN000006447).

RCTを行うために,事業所ごとに,参加者の誕生日の日付(A; 1–10日生,B; 11–20日生,C; 21–31日生)により無作為に3群に割付けた.

試験は,2009年11月–2011年7月のうちの3ヶ月間(各事業所1回実施,実施期間は事業所毎で異なる)とし,A群には月1回の面談時に内臓脂肪・腹囲・身長・体重測定を行い,B群には月1回の面談時に内臓脂肪測定は行わず,腹囲・身長・体重測定のみを行い,面接では,各事業所の産業保健職が個別に測定・指導介入を行った(Fig. 1).内臓脂肪測定には,前述した内臓脂肪測定器を使用し,機器装着による誤差がないよう,立位・自然呼気位にて各人測定を行った.過去の健康診断の腹囲・体重と比較し,腹囲や体重の変化と内臓脂肪測定結果の変化が矛盾しており測定誤差が疑われるものについては,複数回測定を行い,安定したものを計測値とした.また,事業所間の指導介入の手法を統一するために,面談には共通の指導媒体を使用した.さらにA群・B群に対しては,月1回の対面指導の間も継続して支援できるよう,保健指導者がメールで介入できるシステムを備えた減量支援のウェブサイトを使用した.メールでの介入については,担当者による差をなくすため,担当者からの連絡は積極的に行わず,一週間以上PCあるいはモバイルサイトに一度もログインしていない場合に対して,サイトへのアクセスを促す自動メールを送信した.Fig. 2のようにウェブでは,朝夕の体重・腹囲・歩数や,設定した目標の実行可否等についての記録ができるだけでなく,今の自分の判定となりたい自分を設定することで,推奨行動の提示や目標へステップアップするための情報を得られ,コミュニティの利用も可能である.C群は,対照群として試験開始時と3ヶ月目に腹囲・身長・体重測定のみで試験期間中の介入を行わず,試験期間終了後,希望者に対し3ヶ月間A群と同様の介入を行った.

Fig. 1.

 Assignment and health care services for each group.

Fig. 2.

 Examples of the web-based weight-loss support system.

Fig. 3.

 Comparison of changes in each group.

WC: wait circumference. BW: body weight. BMI: body mass index. #<0.000, ANOVA, ***<0.000, *<0.05 Tukey-test.

介入の効果をみるために,試験開始時(介入前)と3ヶ月目(介入試験後)の各群の腹囲・体重・BMIの減少量を比較検討した.3群間の比較は一元配置分散分析で,Ad hoc analysisはTukey-test(HSD)(SPSS統計パッケージ,Ver19,Chicago, USA)を用いた.

また,各群における行動変容の関係をみるために,すべての試験対象者に,試験開始前と3ヶ月目(介入終了後)の2回,食行動と生活活動について,各10項目の行動変容モデルに基づいたアンケートを行った.食行動と生活活動のアンケート項目は,Fig. 4,5のとおりで,それぞれの項目に対し,やるつもりはない(無関心期),やるつもりはあるが自信がない(関心期),やればできそう(準備期),できている(実効期)の4段階で回答してもらい,「できている」のみを1点とした合計点(各10点満点)を計算した.各人の行動変化をみるために,3ヶ月目と開始時の各合計点の差を改善度とし,各群の改善度の分布を比較した.

Fig. 4.

 Improvement of eating behavior and its’ effect on weight loss (134 males).

III.結 果

本社,研究所,4工場の国内6事業所(計6,808名;男性 5,991名,女性 817名)が本試験に参加した.参加事業所における試験実施年度定期健康診でのBMI 23以上,25以上,26.4以上の割合はそれぞれ47.2%,23.9%,13.8%であった.

参加希望者240名のうち,異動や海外出張で脱落した人,BMI 23以下の者を除く181名を対象者としたが,プロトコルに準じて試験を終了した者は150名(A群;55/68名,B群;50/65名,C群;45/48名)(BMI 25以上 67.3%)であり,継続率は83%であった.本試験では,プロトコルに忠実・厳密な試験を実施するために,1ヶ月を30日とし,前回の測定からの期間30日に1日でも遅れた場合はプロトコル逸脱とみなし,脱落者とした.しかし,参加者にはその事実を伝えず,職域産業医療者の責務として,最後まで保健指導を継続した.実際に3ヶ月間の保健指導を継続できなかった真の脱落者数はA群1名,B群3名,C群0名であった.

対象者の試験開始時の平均年齢は46.4歳,平均腹囲は91.5 cm,平均体重は76.0 kg,平均BMIは26.4 kg/ m2,男女比は164/17(91%/9%)であった.試験終了者のベースライン値はTable 1の通りで,年齢・腹囲・体重・BMIに統計上の有意な群間差は認められなかった.

Table 1.  Initial anthropometric values of 150 completers

3ヶ月間の平均減少量は,A群で腹囲3.1 cm,体重2.4 kg,BMI 0.9 kg/m2,B群で腹囲1.4 cm,体重1.6 kg,BMI 0.5 kg/m2,C群では腹囲–0.6 cm,体重0.5 kg,BMI 0.2 kg/m2と,A群で最も大きく,各減少量において,有意な群間差を認めた(Fig. 3)(ANOVA,ANCOVA,t-test).

各群における食行動の改善度の分布(Fig. 4)をみると,A群においては改善度が大きい人が多く,C群においては改善度が少なく,悪化した人が多かった.生活活動についても,C群にて悪化者が他群より多くみられた(Fig. 5).

Fig. 5.

 Improvement of lifestyle and its’ effect on weight loss (134 males).

IV.考 察

介入群(A群;保健指導+内臓脂肪+ウェブ支援群,もしくはB群;保健指導+ウェブ支援群)では,対照群と比較して食行動・生活活動の行動改善がみられ,腹囲,体重,BMIがすべて減少し,行動改善と減量の同調,介入の有用性が示された.さらに,腹囲,体重,BMIの全てで,保健指導+内臓脂肪測定+ウェブ支援群で減少量が最も大きく,内臓脂肪測定という手法が,保健指導の効果を増幅させる可能性も示唆された.また,待機期間に設定された群の腹囲はわずかだが上昇しており,保健指導等の実施は健診後早期に行うことが適切と考えられた.

先行研究13)を目標に信頼限界95%,脱落率10%として各群110名,合計330名を目安に募集したが,期間内でのリクルート結果は240名であり,プロトコルに忠実にBMI 23以上の者に限定すると一群の人数はさらに少なくなった.

BMIのベースライン値を,最低値(BMI=23),最低値を超え平均値未満まで(23<BMI<26.4),平均値以上(BMI≥26.4)にカテゴリー化し,各サブカテゴリーにおける減少量(平均値±SD)を算出した(Table 2).内臓脂肪を測定したA群はベースライン値に係らず平均的に減少していたが,内臓脂肪を測定しないB群や対照群ではベースライン値が大きい群は減少量も大きかった.

Table 2.  Decreases in BMI (kg/m2) categorized by baseline levels
Category BMI=23 23<BMI<26.4 BMI≥26.4
A group 0.27 (1) –0.8 ± 0.6 (32) –0.9 ± 1.1 (23)
B group 0.27 (1) –0.3 ± 0.6 (28) –0.8 ± 0.7 (22)
C group –0.1 ± 0.6 (30) –0.3 ± 1.0 (15)

今回の試験では,統計学的には有意差は認められたものの,サンプル数が少なく,腹囲・体重ともにA群の平均が一番大きかったために減少量が大きくなった可能性は否めないが,BMI平均値未満(23<BMI<26.4)で比較しても,A群は他の群と比べ減少量が大きく,逆に介入していないC群は,BMI平均値以上においても減少量が少なかったことより,介入による効果はあると考える.また,奥田らのBMI 25以上の男性工場従業員に行ったRCTでは,3ヶ月間の保健指導による介入によりB群と同程度の効果が報告されている14).今回の試験では,BMI 23以上を対象としており,運動の実技指導や栄養士による指導は行っていないが,ウェブ支援を併用することで同程度の効果を得られている.内臓脂肪測定を加えたA群では,腹囲・体重・BMIの減少量・効果はより大きく,減量の保健指導にWeb支援や内臓脂肪測定を追加することは有用と考えられる.さらに精度の高い研究を行うには,サンプルサイズを大きくする必要があり,参加者数確保のために,他企業と協力して実施する等の工夫が必要と思われた.

産業保健分野では,群間比較のために対象者を無作為に分けて介入方法を変えることは,同じ職域で対象によって保健サービスを変えることになり,公平性の観点からそぐわず,職域において検証のための試験を行うことは実質的に困難である.実際に,職域でのRCTの論文は,奥田らの報告14)とPritchardら15)の報告しかなかった.今回は,対照群に対し待機期間を設定して介入を延期(ウェイティングリスト法を併用)し,試験期間終了後に介入する方法をとることで,円滑な群分けにつながり,サービスを受けられない不利益を解消した.

また,保健指導を効率よく実施するためには,検証された確かな手法を採用することが重要である.本試験では,社外に研究統括医師を置き,統括医師が倫理審査を受け,産業医は協力医師として試験に参加した.このように,社外に専門家の協力を受け,事務処理支援組織を社外に設けることにより,高い専門性を確保する一方,事務負担を軽減させることが可能となり,日常業務に支障をきたすことなく実施できた.

今回のように実施方法を工夫することにより,職域においてサービスの異なる群分け試験の実施が可能となり,産業保健現場で実際に行っている健康づくり活動や保健指導等の施策の有効性を科学的に検証することができ,エビデンスに基づいた施策の実施につながると考えられた.また,保健指導等の終了後に,健康行動を維持するための支援として,ウェブを活用することも有用である可能性がある.

References
 
© 2014 by the Japan Society for Occupational Health
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