2014 Volume 56 Issue 5 Pages 152-161
目的:男性看護師においては,首尾一貫感覚(Sense of Coherence,SOC),ストレス反応,SOCとストレス反応との関連を明らかにした研究は見当たらない.本研究では,病院に勤務する男性看護師のSOC,ストレス反応,SOCとストレス反応との関連性を明らかにすることを目的とした.対象と方法:男性看護師51名と女性看護師51名を解析対象者とした.女性看護師は,年齢を±1歳で,有する資格を看護師あるいは看護師と保健師で,勤務部署を「内科系病棟」「外科系病棟」「その他の病棟」の3区分で,男性看護師にマッチさせた.調査項目は,属性,SOC,職業性ストレス簡易調査票,勤労者のためのコーピング特性簡易尺度(Brief Scales for Coping Profile,BSCP)であった.SOCとストレス反応との関連は,心理的あるいは身体的ストレス反応を従属変数として,重回帰分析で検討した.結果:男性看護師の年齢の中央値は27歳で,四分領域は24–30歳であった.臨床経験年数の中央値は4年で,四分領域は2–7年であった.SOCの総得点には,男女間の差が認められなかった.男性の心理的な仕事の負担(質)は女性に比べ少なく,職場環境によるストレスは高かった.ストレス症状では,男性の抑うつ感が強かった.ストレス反応に影響を与える因子では,男性の上司・同僚からの支援度は女性に比べ低かった.BSCPの下位尺度では,男性の「他者への情動発散」と「回避と抑制」は女性に比べ高く,「問題解決のための相談」は低かった.SOCの総得点は男女とも,ストレス要因9因子,影響因子4因子,BSCP6下位尺度,年齢で補正しても,ストレス反応の心理的ストレス反応と身体的ストレス反応に有意な関連を認めた.SOCの下位尺度である処理可能感は,男性においてのみ心理的ストレス反応と身体的ストレス反応に関連性が認められた.結論:SOCは,性差を認めなかった.抑うつ感は男性の方が強かった.SOCの総得点と心理的ストレス反応・身体的ストレス反応との関連性は男女とも同様の傾向を示したが,SOCの下位尺度の関連性には性差を認めた.
ストレス反応は,ストレッサーの認知に基づくストレス対処で軽減できる1, 2).ストレス対処の原動力には,金銭,道具,援助者,制度,組織など直接利用可能な人的・物的な資源と,それらを見つけ出し利用していく個人的な資質がある.この個人的な資質として,首尾一貫感覚(Sense of Coherence,以下,SOCとする)3)が自己効力感と同様に健康教育などで着目されている.SOCは,ある環境のなかでの自己に対する信頼であり,課せられたことの理解(把握可能感覚)・解決への確信(処理可能感覚)・価値あるものとしての意味づけ(有意味感覚)の3つの感覚より成り立つ.SOCを高く保つことができれば,どのような状況に遭遇しても置かれた状況の中で自分のすべきこと,できること,生きがいを見出して前向きに生き,身体的にも,精神的にも,健康を保つことが可能となる4).
看護師は,人々の生命・健康に関わる専門性の高い対人支援サービス提供者であり,数ある職業の中でもストレス反応が多くなりやすい.看護師においても,SOCが高ければ,適切なストレス対処を行い,ストレス反応は低いことが考えられ,吉田ら5)は,病院に勤務する女性看護師を対象に調査を行い,SOCはストレス反応に影響する要因とは独立してストレス反応を少なくする要因であるとしている.看護師のストレス反応は離職要因にもなるため6,7,8),SOCとストレス反応との関連を明らかにすることは人事管理上有用である.
ところで,ストレス反応には男女差がある9)ことから,ストレス反応の疫学的な検討は身体的な疾患と同様,男女別に行われている.平成24年現在,男性看護師の就業者数は63,321人で,平成16年(31,594人)と比較すると倍以上の増加10)がみられている.しかし,看護師の就業者数(1,067,760人)に男性看護師の占める割合は5.9%10, 11)と少ないことから,看護師のストレス反応を検討する際,男性看護師の例は除外されて分析されることが多い5, 7, 12, 13).よって,男性看護師のストレス反応やストレス反応の男女差を検討した研究は少ない.一方,SOCの男女差を見ると,男女差がないとする研究14)とともに,あるとする研究15),それら双方を紹介するもの16)があり,見解の一致は見られていない.平成25年現在,看護師等学校養成所における男性の入学状況は,大学10.7%,短期大学11.0%,専修学校等12.6%である17)ことから,男性看護師の就業は今後増えることが予測されるため,男性看護師においてもSOC,ストレス反応,SOCとストレス反応との関連を明らかにすることは,女性看護師と同様に有用であると考える.しかし,男性看護師において,SOC,ストレス反応,SOCとストレス反応との関連を明らかにした研究は見当たらない.
そこで本研究は,A大学附属病院に勤務する男性看護師を対象に,SOC,ストレス反応,SOCとストレス反応との関連性を明らかにすることとした.
調査対象施設はA大学附属病院で,病床数800床,設置されている地方自治体の中では中核医療機関として地域の病院,診療所と連携を取りながら,高度で専門的な医療を提供する特定機能病院である.調査期間の平成24年に勤務していた看護職員は622名で,質問紙は536名から回収できた(回収率:86.2%).臨床経験年数の記載のないもの,1下位尺度あたり過半数を超える欠損値のあるものは除外した結果,男性看護師54名,女性看護師463名の計517名から有効回答が得られた(有効回答率:83.1%).
本研究では,男性看護師に,年齢(±1歳),有する資格の種類(看護師,あるいは看護師と保健師),勤務部署(「主に内科系の病棟」「主に外科系の病棟」「その他の病棟」の3区分)をマッチングさせて,女性看護師を無作為に抽出した.その結果,男性看護師51名,女性看護師51名となった.マッチングは複数回実施したが,属性・特性に差が見られなかったため,初回の結果を採用した.
なお,女性看護師における検討は,すでに報告5)している.今回は,その際に除外された男性看護師の例をまとめたものである.
2.調査方法調査は,無記名の自記式質問紙法で行った.質問紙調査の配布に先立ち,研究者が対象施設へ赴き,教育担当師長へ研究趣旨を説明し,研究に関し承諾を得た.その後,質問紙を各病棟・外来単位で対象者へ配布した.研究趣旨に同意した対象者は,質問に回答後,添付している返信用封筒に質問紙を厳封し,投函する方法で回収した.
調査期間は,平成24年2月で,人事異動や役割変更などによる影響が少ないと予測される時期に行った.
調査内容は,SOC,職業性ストレス,ストレス対処特性,属性であった.
SOCは,Antonovsky18)が作成した首尾一貫感覚尺度の日本語版SOC-13で測定した19).SOC-13は3下位尺度で構成され,個人のストレス対処能力・健康保持能力の高低を測定するための質問である.下位尺度の「把握可能感」には「あなたは,これまでに,よく知っていると思っていた人の,思わぬ行動に驚かされたことがありますか?」などの5問,「処理可能感」には「あなたは,あてにしていた人にがっかりさせられたことがありますか?」などの4問,「有意味感」には「あなたは,自分のまわりで起こっていることがどうでもいい,という気持ちになることがありますか?」などの4問が設定されており,各問いには指示された回答がある.回答には1から7点,反転項目では7点から1点を付与した.点数が高いと,ストレス対処能力や健康保持能力が高いと評価される.本研究において,13項目を合わせた得点の分布には正規性があり,Cronbachαの信頼性係数は男性看護師0.775,女性看護師0.832であったため,分析にはそれぞれの項目の得点を使用した.
ストレス反応は,職業性ストレス簡易調査票20)で測定した.この調査票は,職場で簡便に使用できる自己記入式のストレス調査票で,ストレス反応だけでなく,仕事上のストレス要因,修飾要因も同時に測定できること,ストレス反応では,心理的反応ばかりでなく身体的反応も測定できること,心理的ストレス反応では,ネガティブな反応だけでなく,ポジティブな反応も評価できること,質問紙の開発過程で行った大規模調査による代表的な職種別と性差の基準値があることから,本研究で用いることにした.調査票は,「ストレスの原因と考えられる因子」17項目,「ストレスによっておこる心身の反応」29項目,「ストレス反応に影響を与える他の因子」11項目で構成されている.「ストレスの原因と考えられる因子」は,「心理的な仕事の負担(量)」「心理的なの仕事の負担(質)」「自覚的な身体的負担」「職場の対人関係上のストレス」「職場環境によるストレス」「仕事の裁量度」「技能の活用度」「自覚的な仕事の適性度」「働きがい」の9つの因子,「ストレスによっておこる心身の反応」は,「活気」「イライラ感」「疲労感」「不安感」「抑うつ感」「身体愁訴」の6つの因子,「ストレス反応に影響を与える他の因子」は,「上司からの支援度」「同僚からの支援度」「家族や友人からの支援度」「仕事や生活の満足度」の4つの因子で構成される.回答は「そうだ」は1点,「まあそうだ」は2点,「ややちがう」は3点,「ちがう」は4点の4件法で測定され,下光ら20)の開発したソフトへデータを入力することで5段階の標準化得点が付与される.点数が高いとストレスに対して良好であることを示すことから,「ストレスの原因と考えられる因子」と「ストレスによっておこる心身の反応」は低く,「ストレス反応に影響を与える他の因子」は高いと評価される.本研究において,57項目を合わせた得点の分布には正規性があり,Cronbachαの信頼性係数は男性看護師0.779,女性看護師0.806であったため,分析にはそれぞれの項目の得点を使用した.
ストレス対処特性は,勤労者のためのコーピング特性簡易尺度(Brief Scales for Coping Profile,以下BSCPとする)21)で測定した.この尺度は,勤労者のコーピング特性を産業精神保健の領域で簡便に測定できるように開発されたものであり,少ない質問項目でコーピング特性をもれなく測定できる利点があること,性別に関係なく測定できること,一般的な職種の勤労者とともに看護師も対象としていることから,本研究で用いることにした.BSCPは,「気分転換」3問,「積極的問題解決」3問,「他者への情動発散」3問,「問題解決のための相談」3問,「視点の転換」3問,「回避と抑制」3問の6下位尺度18問で構成される.各質問に,「よくある」は4点,「ときどきある」は3点,「たまにある」は2点,「ほとんどない」は1点を付与した.点数が高いと,用いることが多いと評価される.本研究において,18項目を合わせた得点の分布には正規性があり,Cronbachαの信頼性係数は男性看護師0.652,女性看護師0.735であったため,分析にはそれぞれの項目の得点を使用した.
属性では,性別,年齢,配偶者の有無,子供の有無,臨床経験年数,役職の有無,勤務部署,資格の種類を尋ねた.
3.解析方法「ストレスによっておこる心身の反応」は,「活気」「イライラ感」「疲労感」「不安感」「抑うつ感」の5因子を合わせて「心理的ストレス反応」とし,「身体愁訴」を「身体的ストレス反応」とした.
属性における出現率の比較には,Fisherの直接確率法を用いた.SOC-13の総得点と3下位尺度,職業性ストレスの3下位尺度とそれぞれの因子,ストレス対処特性の6下位尺度における男女間の平均値の比較にはt-testを用いた.
SOCと心理的あるいは身体的ストレス反応との関連は,ストレス反応に関連する要因が複数あるなかでもSOCが独立して心理的あるいは身体的ストレス反応に関連することを明らかにするために,重回帰分析(強制投入法)で検討した.回帰モデル1では,目的変数を心理的ストレス反応と身体的ストレス反応とし,説明変数をそれぞれSOC-13の総得点,「ストレスの原因と考えられる因子」9因子,「ストレス反応に影響を与える他の因子」4因子,BSCP6下位尺度,年齢とした.回帰モデル2では,目的変数を心理的ストレス反応と身体的ストレス反応とし,説明変数をそれぞれSOC-13の3下位尺度,「ストレスの原因と考えられる因子」9因子,「ストレス反応に影響を与える他の因子」4因子,BSCP6下位尺度,年齢とした.重回帰分析に先立ち,Spearmanの順位相関を求めたところ,家族や友人からの支援度と仕事や生活の満足度との間に強相関(r=0.704)を認めたが,下位尺度を構成する因子であるため,両変数とも用いた.他の変数間には強相関を認めなかった.
解析は,統計解析ソフトSPSS Statistics 19.0(SPSS Inc.)で行った.統計学的有意確率は,5%未満とした.10%未満は有意傾向ありとした.
4.倫理的配慮質問紙は,職業性ストレスに関する結果報告を個別に希望する者以外は無記名であり,本研究に同意しない場合であっても不利益を受けないこと,本調査への参加は自発的意思で行われること,また,入力データの保存・保管の方法などを文書で説明し,質問紙の返送をもって研究対象者から同意を得たものとした.
なお,本研究は,和歌山県立医科大学倫理委員会の承認後開始した.
対象者の属性をTable 1に示す.男性の20歳代は38名(74.5%)であった.年齢の中央値は27歳で,四分領域は24–30歳であった.男性で「配偶者有り」と回答した者は20名(39.2%),「子供有り」は13名(25.5%)であり,いずれの割合も男性が有意に高率であった.
Male | Female | |
(n=51) | (n=51) | |
Age (yr) | ||
21–24 | 15 | 17 |
25–29 | 23 | 21 |
30–39 | 10 | 10 |
40–44 | 3 | 3 |
Marital status | ||
Married* | 20 | 3 |
Single | 31 | 48 |
Child# | ||
Having children* | 13 | 1 |
Childless | 36 | 49 |
Nursing career (yr) | ||
– 4 | 26 | 25 |
5–9 | 18 | 18 |
10–14 | 4 | 5 |
15– | 3 | 3 |
Managerial Position# | ||
Holding an office | 4 | 1 |
No specific office | 47 | 49 |
Work place (Multiple answers) | ||
Internal medicine ward | 6 | 6 |
Surgery ward | 19 | 19 |
Emergency room (ICU, CCU, HCU) | 14 | 15 |
Mixed | 7 | 7 |
Operating room | 5 | 5 |
Others | 6 | 5 |
Qualification (Multiple answers) | ||
Public health nurse | 9 | 9 |
Nurse | 51 | 51 |
Others | 0 | 0 |
# A non-responder was excluded. *p<0.05 (Fisher’s exact test).
男性の臨床経験年数は9年までが44人(86.3%)であった.中央値は4年で,四分領域は2–7年であった.男性で「役職有り」と回答した者は4名(7.8%)で,女性(2.0%)より高率であったが,男女に有意な差はみられなかった.
配属部署(複数回答可)では,主に外科系の病棟(以下,外科系病棟とする)が19名(37.3%)で最も多く,次いで救急病棟(ICU・CCU・HCUを含む)が14名(27.5%)であった.資格の種類(複数回答可)では,保健師の資格を有する者が9名(17.6%)であった.
2.対象者のSOC,職業性ストレス,ストレス対処の特性対象者のSOC,職業性ストレス,ストレス対処の特性をTable 2に示す.SOC,職業性ストレス,BSCPは全ての質問項目に回答が得られた.SOC-13の総得点の平均値は男性52.1点,女性51.7点であり,男女間に差は認められなかった.下位尺度別にみても,有意味感,処理可能感,把握可能感に男女間の差は認められなかった.
Male (n=51) |
Female (n=51) |
||||
Mean | SD | Mean | SD | ||
SOC-13 | |||||
Total scores | 52.1 | 9.5 | 51.7 | 9.5 | |
Sense of comprehensibility | 19.5 | 4.1 | 19.8 | 4.6 | |
Sense of manageability | 16.0 | 3.7 | 15.4 | 3.7 | |
Meaningfulness | 16.6 | 4.4 | 16.5 | 3.3 | |
Stressor | |||||
Quantitative overload | 2.2 | 0.9 | 2.5 | 0.8 | |
Mental demand | 2.3 | 0.9 | 1.7 | 0.8** | |
Subjective physical burden | 1.6 | 0.6 | 1.7 | 0.7 | |
Characteristic job stressors | 3.0 | 1.0 | 3.1 | 0.9 | |
Stress by workplace environment | 2.8 | 0.9 | 3.2 | 1.2* | |
Job control | 2.7 | 1.0 | 2.8 | 0.6 | |
Degree of practical use of skill | 3.0 | 0.7 | 3.0 | 0.6 | |
Job fitness | 2.6 | 0.9 | 2.8 | 0.8 | |
Work worth | 3.3 | 1.1 | 3.4 | 1.1 | |
Stress reaction | |||||
Lack of vigor | 2.6 | 1.2 | 2.4 | 1.1 | |
Irritability | 2.7 | 1.1 | 2.9 | 0.9 | |
Fatigue | 2.4 | 1.0 | 2.7 | 1.0 | |
Anxiety | 2.6 | 1.1 | 2.9 | 1.0 | |
Depressed mood | 2.5 | 1.0 | 3.0 | 1.1* | |
Psychological symptoms | 12.9 | 3.6 | 13.9 | 3.9 | |
Somatic symptoms | 3.0 | 1.2 | 3.3 | 1.2 | |
Influencing factors | |||||
Supervisor support | 3.0 | 1.0 | 3.7 | 0.8*** | |
Coworker support | 3.0 | 1.1 | 3.4 | 1.0* | |
Family support | 3.4 | 1.3 | 3.8 | 1.3 | |
Satisfaction with work life | 2.8 | 0.7 | 2.9 | 0.6 | |
BSCP | |||||
Changing mood | 8.3 | 2.1 | 8.2 | 2.4 | |
Active solution | 8.9 | 1.8 | 9.4 | 2.1 | |
Emotional expression | 5.5 | 2.2 | 4.6 | 1.5* | |
Seeking help for a solution | 8.0 | 2.2 | 9.4 | 2.0** | |
Changing a point of view | 7.8 | 2.2 | 7.5 | 2.1 | |
Avoidance and suppression | 7.5 | 2.1 | 6.2 | 2.2** |
SD: standard deviation *p<0.05, ** p<0.01, *** p<0.001 (t-test).
「ストレスの原因と考えられる因子」の因子別の平均値をみると,男性では自覚的な身体的負担度の値が最も低く,ついで,心理的な仕事の負担(量),心理的な仕事の負担(質)の順に低かった.男性の心理的な仕事の負担(質)の平均値は女性に比べ有意に高く,職場環境によるストレスの値は有意に低かった.
「ストレスによっておこる心身の反応」の因子別の平均値をみると,男性では疲労感の値が最も低く,ついで,抑うつ感の順に低かった.心理的ストレス反応の平均値は12.9(標準偏差:±3.6)点であった.身体的ストレス反応の平均値は3.0(±1.2)点で,心理的ストレス反応を構成する5因子より値が高かった.男性の抑うつ感の平均値は女性に比べ有意に低く,ストレス反応が表れていた.
「ストレス反応に影響を与える他の因子」の因子別の平均値をみると,男性では家族や友人からの支援度の値が最も高く,次いで上司・同僚からの支援度が高かった.男性の上司からの支援度の平均値は女性に比べ有意に低かった.
BSCPの下位尺度別の平均値をみると,男性では積極的問題解決の値が最も高く,ついで,気分転換,問題解決のための相談が高かった.男性の他者への情動発散と,回避と抑制の平均値は女性に比べ有意に高く,問題解決のための相談の値は有意に低かった.
以上のことから,SOCには男女間に差を認められなかったが,ストレス反応,ストレス要因や影響因子といったストレス反応に変化を与えるものや,ストレス対処のし方には,男女間に差が認められた.
3.SOCとストレス反応との関連重回帰分析の結果をみると,説明変数にSOCの総得点を含む場合(Model 1,Table 3),男性の心理的ストレス反応については,SOCの総得点とBSCPの問題解決のための相談が有意な正の説明変数で,身体的ストレス反応については,SOCの総得点と心理的な仕事の負担(質)が有意な正の説明変数で,BSCPの積極的問題解決が有意な負の説明変数であった.一方,女性の心理的ストレス反応については,SOCの総得点以外に有意な説明変数を認めず,身体的ストレス反応については,SOCの総得点が有意な傾向を示し,心理的な仕事の負担(量)が有意な正の説明変数であった.
Male (n=51) | Female (n=51) | |||
Psychological symptoms | Somatic symptoms | Psychological symptoms | Somatic symptoms | |
SOC-13 | ||||
Total scores | 0.480** | 0.544* | 0.505** | 0.376† |
Stressor | ||||
Quantitative overload | 0.224 | –0.341 | 0.169 | 0.473* |
Mental demand | 0.066 | 0.479* | –0.031 | –0.137 |
Subjective physical burden | 0.055 | 0.134 | 0.027 | –0.035 |
Characteristic job stressors | –0.187 | –0.277 | 0.146 | –0.127 |
Stress by workplace environment | –0.015 | –0.071 | 0.003 | 0.077 |
Job control | 0.048 | –0.057 | 0.274† | –0.008 |
Degree of practical use of skill | –0.009 | 0.322† | 0.097 | –0.052 |
Job fitness | 0.023 | –0.009 | 0.081 | –0.050 |
Work worth | 0.057 | 0.027 | –0.095 | –0.070 |
Influencing factors | ||||
Supervisor support | 0.157 | 0.133 | 0.245 | 0.126 |
Coworker support | –0.094 | –0.109 | 0.018 | –0.036 |
Family support | 0.052 | –0.248 | 0.072 | –0.093 |
Satisfaction with work life | 0.048 | 0.041 | –0.166 | 0.079 |
BSCP | ||||
Changing mood | –0.005 | 0.020 | –0.016 | 0.148 |
Active solution | 0.055 | –0.478** | 0.091 | 0.064 |
Emotional expression | –0.267 | 0.037 | –0.01 | –0.210 |
Seeking help for a solution | 0.249* | 0.193 | –0.081 | –0.186 |
Changing a point of view | –0.033 | 0.195 | 0.036 | –0.068 |
Avoidance and suppression | 0.014 | –0.059 | –0.122 | –0.114 |
Age (yr) | –0.081 | 0.116 | –0.220† | –0.042 |
Adjusted R2 value | 0.593 | 0.217 | 0.595 | 0.219 |
†p<0.1, * p<0.05, ** p<0.01.
説明変数にSOCの下位尺度である把握可能感,処理可能感,有意味感を含む場合(Model 2,Table 4),男性の心理的ストレス反応については,処理可能感が有意な傾向を示す説明変数で,身体的ストレス反応については,処理可能感とストレス要因の心理的な仕事の負担(質)が有意な説明変数で,BSCPの積極的問題解決が有意な負の説明変数であった.一方,女性看護師では,心理的ストレス反応に有意な説明変数を認めず,身体的ストレス反応については,心理的な仕事の負担(量)が有意な正の説明変数であった.
Male (n=51) | Female (n=51) | |||
Psychological symptoms | Somatic symptoms | Psychological symptoms | Somatic symptoms | |
SOC-13 | ||||
Sense of comprehensibility | 0.108 | –0.143 | 0.165 | 0.113 |
Sense of manageability | 0.260† | 0.633** | 0.273 | –0.015 |
Meaningfulness | 0.326 | 0.264 | 0.174 | 0.371 |
Stressor | ||||
Quantitative overload | 0.196 | –0.395 | 0.166 | 0.560* |
Mental demand | 0.116 | 0.549* | –0.017 | –0.194 |
Subjective physical burden | 0.054 | 0.126 | 0.022 | 0.021 |
Characteristic job stressors | –0.193 | –0.270 | 0.168 | –0.069 |
Stress by workplace environment | –0.025 | –0.124 | –0.012 | 0.050 |
Job control | 0.033 | –0.055 | 0.237 | –0.016 |
Degree of practical use of skill | –0.036 | 0.277 | 0.098 | –0.031 |
Job fitness | 0.038 | 0.099 | 0.099 | –0.057 |
Work worth | 0.036 | 0.028 | –0.107 | –0.142 |
Influencing factors | ||||
Supervisor support | 0.157 | 0.142 | 0.212 | 0.137 |
Coworker support | –0.133 | –0.204 | 0.040 | 0.041 |
Family support | 0.080 | –0.173 | 0.087 | –0.118 |
Satisfaction with work life | 0.048 | 0.016 | –0.162 | 0.039 |
BSCP | ||||
Changing mood | –0.017 | 0.105 | –0.028 | 0.136 |
Active solution | 0.070 | –0.377* | 0.104 | 0.017 |
Emotional expression | –0.261 | 0.069 | –0.011 | –0.226 |
Seeking help for a solution | 0.232† | 0.168 | –0.094 | –0.156 |
Changing a point of view | –0.057 | 0.212 | 0.048 | –0.061 |
Avoidance and suppression | 0.071 | –0.004 | –0.107 | –0.067 |
Age (yr) | –0.066 | 0.239 | –0.195 | 0.027 |
Adjusted R2 value | 0.576 | 0.331 | 0.570 | 0.188 |
†p<0.1, * p<0.05, ** p<0.01.
男性看護師の年齢は,20–29歳が7割を超えていた.一方,「配偶者有り」と回答した者は4割で,「子供有り」と回答した者は3割で,いずれも女性看護師より高率であった.平成22年国勢調査による,男性看護師の中央値27歳が含まれる一般男性(25–29歳)の有配偶率27.1%22)と比べても多かった.家長としての責任や負担はあるが,パートナーなどから心身の支援を受けやすい状況にあると考える.
男性看護師の経験年数は,9年までが8割を超えていた.対象者は若い年齢層で占められており,職業経験の少ない者が多いと考えられた.さらに,「役職有り」と回答した者は女性看護師より多いが,1割に満たない状況であったこと,勤務部署(複数回答可)では,外科系病棟や救急病棟で働いている者が3–4割であったことから,一般的な看護の知識や技術を活かして勤務が可能な外科系病棟などで,職業経験を得ていたと考える.一方,男性看護師は,女性看護師などスタッフに受け入れてもらえるよう目立つような発言や行動を控えたり,女性患者への援助の気まずさや拒否を受けたりするといった問題や悩みがあると報告23)されていることから,本研究対象者においても,職業経験を得ていく中で同様の問題や悩みを抱えていると考えられる.
2.男性看護師のSOC,職業性ストレス,BSCPの特徴SOCは,松下24)が船舶で勤務する男性看護職員を有する施設および船舶勤務経験者を有する施設の男性看護職員212名,平均年齢39.7(±6.9)歳を対象に行った結果と比較した.本研究の対象者のSOCの総得点は有意に低かった.船舶勤務年数は7.4(±6.1)年で本研究の対象者の臨床経験よりも長く,この経験年数や経験内容,平均年齢の違いより差が生じたと考える.
職業性ストレスは,大野ら25)が21企業・団体に勤務する成人男性10,089名,平均年齢38.4(±10.1)歳を対象に行った結果と比較することにした.ここでは大野らが用いている素点換算票を用い,ストレスの原因と考えられる因子の場合,「そうだ」1点,「まあそうだ」2点,「ややちがう」3点,「ちがう」4点,ストレスによっておこる心身の反応の場合,「ほとんどなかった」1点,「ときどきあった」2点,「しばしばあった」3点,「いつもほとんどあった」4点,ストレス反応に影響を与える他の因子で上司・同僚,家族・友人との状況の場合,「非常に」1点,「かなり」2点,「多少」3点,「全くない」4点,仕事・家庭の満足度の場合,「満足」1点,「まあ満足」2点,「やや不満足」3点,「不満足」4点として得点化し,因子ごとに平均値を求め直した.
男性看護師は,大野ら25)の成人男性に比べ,「ストレスの原因と考えられる因子」では,心理的な仕事の負担(量)・(質),自覚的な身体的負担度の項目平均値が有意に低く,これらのストレス因子は高くなっていた.一方,仕事の裁量度の項目平均値が有意に高く,このストレス因子は低くなっていた.「ストレスによっておこる心身の反応」では,イライラ感,疲労感,不安感,抑うつ感の項目平均値が有意に高く,症状は強く表れていた.「ストレス反応に影響を与える他の因子」では,仕事や生活の満足度の項目平均値が有意に高く,満足度は低かった.男性看護師の特徴として,ストレス要因では心理的な仕事の負担(量)や自覚的な身体的な負担度が高く,ストレス反応ではイライラ感,疲労感,不安感,抑うつ感が多く,仕事や生活の満足度は得られていないが,専門職として,自分で仕事の順番・やり方を決めることや,自分のペースで仕事が行えることは多いと考える.
BSCPは,影山ら26)が1自治体職員の新任管理職研修の受講者146名,平均年齢37.8(±4.1)歳(男性:83%,既婚者:86%)を対象に行った結果と比較した.男性看護師の気分転換,他者への情動発散,回避と抑制は有意に高く,これらのストレス対処方法を多く用いていた.男性看護師は,影山ら26)の対象者と比べ,平均年齢は若く,既婚者は少なく,役職の無いものがほとんどであった.男性看護師はストレスを認知したとき,周囲の人へ感情をぶつけたり,じっと我慢したりと,情動の表出や抑圧といった種々の対処方法を用いて気分転換をはかり,ストレスから気持ちを切り替えようとしていることがうかがえる.
3.男性看護師と女性看護師の比較男性看護師と女性看護師とでSOCを比較した結果は,総得点,3下位尺度ともに差を認めなかった.この結果は,男女差がないとする研究14)と一致していた.
一方,男性看護師の心理的な仕事の負担(質)の得点は有意に高く,女性看護師よりも心理的負担(質)は少なかったが,男性看護師の職場環境によるストレスの得点は有意に低く,女性看護師より職場環境によるストレスが多かった.そして,男性看護師の上司・同僚からの支援度の得点は有意に低く,女性看護師より支援度が少なかった.さらに,男性看護師の抑うつ感の得点は有意に低く,女性看護師よりストレス反応が多かった.職場環境によるストレスの多さは,職場の作業環境の多くが女性仕様であることが考えられる.調査対象者の男性看護師の占める割合は8.7%であっても,平成24年度現在,病院に勤務する男性看護師の割合は7.6%10, 11)と少ないことから,施設の設備が女性中心になっていることは否めない.上司・同僚からの支援度は低かったことから,上司や同僚の多くは女性であり,同性の立場で支援を受けることが困難なことも考えられるが,仕事の質的な負担感が少ないことから,支援を受けるに至らないことも考えられる.いずれにせよ,以上のことから,抑うつ反応が多く表れたのであろう.
このような状況のもと,ストレス発散の方法として他者への情動発散と,回避と抑制の得点が有意に高かったことから,情動や回避・抑制といったストレス対処を多く用いているが,問題解決のための相談の得点が有意に低かったことから,相談によるストレス対処を用いることが少ないと考える.このことは,浦川ら27)が,ストレス対処の方法として,男性は気分転換を用いることが多いが,女性は人と話すといったソーシャルサポートを用いることが多いとした男女の違いに符合する.
以上のことから,ストレス反応,ストレス要因や影響因子といったストレス反応に変化を与えるものや,ストレス対処のし方に差はあるが,自己に対する信頼や課せられたことの理解,解決への確信,価値あるものとしての意味づけといったSOCそのもの,さらにストレス反応に男女の差はないと考える.
4.SOCとストレス反応との関連重回帰分析(強制投入法)において,吉田らによる女性看護師の例5)では,各尺度の項目とともに年齢と役職の有無を説明変数に加えて検討している.しかし,役職の有無は,例数の1割に満たないこと,男女間に差を認めなかったことから,役職の有無は今回説明変数には加えないことにした.また,配偶者有り,子供有りの割合は男女差を認めたが,男性看護師で年齢と配偶者の有無の間には0.715,年齢と子供の有無の間には0.625と強い相関(Spearmanの順位相関)を認めたこと,女性看護師で配偶者有り,子供有りの者が少なかった(5未満)ことから,属性の項目では年齢のみを採用した.すなわち,SOC-13総得点あるいはSOC-13の3下位尺度と「ストレスの原因と考えられる因子」9因子,「ストレス反応に影響を与える他の因子」4因子,BSCP6下位尺度,年齢を説明変数して取り扱った.
男性看護師のSOCとストレス反応との関連では,SOCの総得点と処理可能感がストレス要因の心理的な仕事の負担(質),技能の活用度,BSCPの積極的な問題解決,問題解決のための相談と同様にストレス反応と有意な関連性を示した.一方,女性看護師のSOCとストレス反応との関連については,総得点が心理的な仕事の負担(量)と同様に有意な関連性を示したが,下位3尺度は有意な関連を認めなかった.以上のことは,ストレス要因9因子,影響因子4因子,BSCP6下位尺度,年齢で補正しても,男女ともSOCの総得点は独立してストレス反応に関連する要因であることを示す一方で,SOCの下位尺度の関連性に男女差があることを示している.今回の結果にみられる総得点と下位尺度との違いが,今までのSOCの男女差に見解の一致をみなかった一因になっているのであろう.
今回は,男性看護師のストレス反応を低くする要因として,処理可能感が関連していたことから,処理可能感を高めることでストレス反応を少なくできる可能性がある.処理可能感は人的・物的資源をうまく使いこなす体験から育まれる28)ため,友好的な雰囲気の中で業務に臨めるような職場環境づくりが望まれる.
本研究は,今まで明らかにされていない男性看護師のSOCや,SOCの男女差について言及したものであり,データの蓄積としての価値もあると考える.しかし,本研究の限界として,今回の調査は1大学附属病院に勤務する男性看護師と女性看護師を比較したものであり,男性看護師の数がまだ十分と言えず,調査施設の特徴や対象者の年齢より母集団から適切に抽出された対象者とは言い難いため,結果の一般化には注意が必要である.また,属性で男女間に差がみられた配偶者・子供の有無を補正することができなかった.今後は,同様の調査を他施設の男性看護師に対しても行い,検討する必要がある.
本研究では,A大学附属病院に勤務する男性看護師51名と,年齢,資格と勤務部署をマッチさせた女性看護師51名を対象に,男性看護師のSOCとストレス反応,SOCとストレス反応との関連性を女性看護師と比較検討した結果,以下のことが明らかになった.
1. 男性看護師のSOCは女性看護師と差が認められなかった.
2. ストレス反応の抑うつ感は,男性看護師の方が強く表れていた.
3. 男性看護師のSOCの総得点は,女性看護師の場合と同様にストレス要因9因子,影響因子4因子,BSCP6下位尺度,年齢で補正しても,ストレス反応の心理的ストレス反応と身体的ストレス反応に有意な関連を認めた.
4. SOCの下位尺度(処理可能感)は,男性看護師のみ心理的ストレス反応と身体的ストレス反応に関連性が認められ,女性看護師の場合は,いずれのストレス反応とも関連性が認められなかった.
したがって,男性看護師のSOCの下位尺度とストレス反応との関連性は女性看護師の場合と異なることが示唆された.
COI開示
本研究に関連し,開示すべきCOI関係にある企業などはない.
謝辞:本研究にご理解・ご協力いただいきました看護部長をはじめとして,看護師の皆さまに,深謝いたします.