SANGYO EISEIGAKU ZASSHI
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Personal Resilience and Post-traumatic Stress Symptoms of Local Government Employees: Six Months after the 2011 Magnitude 9.0 East Japan Earthquake
Kanami TsunoKazuki OshimaKazumi KubotaNorito Kawakami
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2014 Volume 56 Issue 6 Pages 245-258

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抄録

目的:東日本大震災は東北から関東にかけて甚大な被害をもたらしたが,津波の被害がなかった関東地方の労働者の心理的ストレスについてはあまり注目されていない.自身の被災に加え,震災によって仮庁舎への移動が必要となり,通常業務に加え震災対応に追われた関東地方の自治体職員における困難に立ち向かう力(レジリエンス)と心的外傷後ストレス症状との関連を検討した.対象と方法:関東地方のある自治体において,震災から半年後にあたる2011年9月に全職員2,069名を対象に質問紙調査を実施し,そのうち991名から回答を得た(回収率47.9%).分析対象者は,欠損値のなかった825名(男性607名,女性218名)とした.心的外傷後ストレス症状は出来事インパクト尺度改定版(Impact Event Scale-Revised),レジリエンスはConnor-Davidson Resilience Scaleを用いて測定し高中低の3群に区分した.震災による怪我の有無(家族を含む)と自宅被害の有無をそれぞれ1項目で調査し,いずれかに「はい」と回答した者を「被災あり群」,それ以外を「被災なし群」とした.多重ロジスティック回帰分析を用いて,被災あり群における心的外傷後ストレス症状の有無(IES-R得点25点以上)のオッズ比を,レジリエンス得点の高中低群別に算出した.結果:東日本大震災によって自分ないし家族が怪我をした者は回答者のうち4.6%,自宅に被害があった者は82.3%であり,いずれかの被害があった者は全体の83.3%であった.被災あり群,慢性疾患あり群で有意に心的外傷後ストレス症状を持つ割合が高かった.基本的属性および被災の有無を調整してもレジリエンスと心的外傷後ストレス症状との間に有意な負の関連が見られた(高群に対する低群のオッズ比2.00 [95%信頼区間 1.25–3.18],基本属性,職業特性で調整後).特に被災あり群で,レジリエンスと心的外傷後ストレス症状との間に有意な関係が見られた.結論:東日本大震災で自宅等への被災を受けた自治体職員の中で,レジリエンスが低いほど心的外傷後ストレス症状を持つリスクが高いことが明らかになった.このことから,震災などの自然災害という困難の際にも,レジリエンスが心的外傷後ストレス症状発症を抑える働きをすると考えられる.

I.はじめに

2011年3月11日に発生した東日本大震災(最大震度7,マグニチュード9.0)は,東北地方太平洋沖地震とそれに伴って発生した津波,およびその後の余震により大規模な被害をもたらした.震災などの災害は多くのストレス反応や精神的な問題をもたらすが,なかでも心的外傷後ストレス症状(Post-Traumatic Stress Symptoms:PTSS)との関連が多く報告されている1, 2).PTSSは,極めて重度の精神的トラウマに対するストレス反応だと言われており,症状としては,(1) 思考の侵入(フラッシュバックや夢の形で繰り返しよみがえること),(2) 回避/麻痺症状(出来事に関することを極力回避したり,出来事の記憶の一部を思い出せなくなったり,感情が麻痺したようになること),(3)覚醒亢進症状(リラックスできなかったり,睡眠に障害が出たり,イライラしたり,何事にも必要以上に警戒してしまうこと)の3つにわけられる3).これらの症状は,トラウマへの曝露から時間の経過と共に減少するものの,長期にわたって残ることも指摘されている4, 5)

震災の多い我が国においては,震災とPTSSとの関連についてこれまでに複数の報告がなされている.これらの研究は主に,対象者によって(1) 被災地域の住民を対象にしたもの5,6,7,8),(2) 被災地域の勤労者を対象にしたもの9,10,11,12,13),(3) 災害支援/救援者(ボランティア含む)を対象にしたもの14,15,16,17,18,19,20),の3つに分けることができる.

直井5)は,最大震度7を記録した2004年の新潟中越地震において,中学生以上の旧小国町(現長岡市小国町)住民を対象として震災3ヶ月後と13ヶ月後に調査を行った.それによると,PTSSをスクリーニングする尺度である出来事インパクト尺度改定版(IES-R: Impact Event Scale-Revised)21,22,23,24)の高得点(ハイリスク)者割合(カットオフ値25点以上の者)は3ヶ月半後21.0%,13ヶ月後の時点でも20.8%とほとんど改善しておらず,高得点者割合は依然として高かった.また,家屋の被害が大きい程IES-R得点が高く,仮設住宅に住む者の得点は自宅に住む者に比べ有意に高かった. 最大震度7を記録した1995年の阪神淡路大震災において一般勤労者を対象にした研究11)でも,PTSSのある者の比率は震災直後頃,3ヶ月後頃,1年半後のどの時点においても家屋被害が大きいほど高く,時間経過に伴い減少するものの,震災1年半後にもかなりの比率で残ることを報告している.特に,震災後に元の家屋に住めたかどうかがPTSSの有無に大きく影響していた.同じく阪神淡路大震災を経験した被災地域の製造業の勤労者に対し震災1年後に実施した別の調査9)では,男性の半数,女性の7割がPTSSのうち「強い心理的苦痛」を報告しており,長期にわたって震災のストレスが残ることを明らかにしている.これらの研究から,被災地域の住民と一般勤労者に共通して言えることは,PTSSのある者は震災1年が経過してもかなりの割合で残る,ということである5, 9, 11).また,PTSSのリスク要因または悪化要因としては,家屋の被害が大きい,仮設住宅,高齢,同居家族が少ない,治療中の病気がある,体調が悪い,生活習慣が悪化した,身近に相談する人がいなかった等が共通してあげられている5, 6, 9, 11)

東日本大震災におけるPTSSの発生状況についてもすでに複数の報告がなされているが,災害支援者を対象とした研究が多い14,15,16,17,18,19,20).震災直後に岩手・宮城入りした秋田県の消防職員118名を対象とした研究によると,支援直後であってもIES-R得点は平均5.2点とそれほど高くなく,ハイリスク者は2名のみであったと報告されている14).これは,緊急消防援助隊として派遣された消防職員151名でも(IES-R平均5.0点,ハイリスク者4名)16),被災地に派遣された別の消防官178名を対象にした研究(ハイリスク者なし)19)でも同様の結果であった.同じように,震災直後に被災地に派遣された災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistance Team: DMAT)を対象に震災4ヶ月後に調査したNishiら15)の報告でも,IES-R得点の平均は6.8点とそれほど高くなかった.また同じくDMATを対象に調査した研究18)でも,派遣後1.5ヶ月後にPTSSを持つ者は0名であった.さらに,震災後1,2ヶ月後に被災地(宮城県)に派遣された歯科医療スタッフ22名,並びに検視スタッフとして派遣された歯科医4名を対象にした研究20)においても,派遣後1ヶ月のIES-R得点は平均7.6点とそれほど高くなく,ハイリスク者は1名のみであった.このように,東日本大震災後に派遣された支援スタッフを対象にした研究においては,PTSSのハイリスク者はそれほど多くなかったことが共通して報告されている.

一方で自治体職員は,自らも被災しながら,公務として被害状況の把握と援助,復興作業にあたる必要があり,民間企業の勤労者や住民,他府県からの災害支援者と状況が大きく異なっている特徴があると言える.被災地域の自治体職員に着目して震災後のストレス状況を報告した研究はまだ非常に少ないが,最近いくつか報告が出始めている10,11,12,13).例えば,東日本大震災後の岩手県職員のメンタルヘルス状況を報告した青木10)によると,震災3ヶ月後に,県内の主な被災地である宮古,釜石,大船渡地区における県職員の抑うつ状態が高かったことがわかっている.東日本大震災発生後2ヶ月後および7ヶ月後に宮城県職員を対象として心理的ストレス反応の発生状況を見たFukasawaら12)とSuzukiら13)の報告では,震災2ヶ月後では,職場のコミュニケーションが不足していると感じている職員,住民からの訴えを聞く職員でメンタルヘルス状況が悪く,また7ヶ月後では毎週は休日を取っていない職員,家族が死亡または行方不明になった職員,2ヶ月以上避難所で生活している職員で,メンタルヘルス状況が悪かったと報告している.また,阪神淡路大震災時に活動した兵庫県の消防職員を対象にした調査17)においても,震災当時の勤務が被災地内であった対象者でIES-R得点が有意に高かったと報告されている.このことからも,被害が大きい地域であるほど,自治体職員自体も被災している可能性が高く,また被災が大きくなるほど被災状況の確認作業等の業務量も増え,それがメンタルヘルス状況を悪化させている可能性が考えられる.

東日本大震災は,被害の大きかった岩手県・宮城県・福島県に代表される東北に注目が集まっているが,関東の一部にも大きな被害をもたらした.しかし,津波の被害がなかった関東地方の自治体職員の心理的ストレスについては,これまであまり注目されていない.関東地方で東日本大震災時により液状化被害の大きかった地域の住民を対象とした研究7, 8)によると,震災後7,8ヶ月後のPTSSハイリスク者の割合は全体の14.2%,精神的健康障害のハイリスクとされる対象者は26.4%であったと報告されており,東北に比べ被害の少なかった地域でも,PTSSのハイリスク者が一定数いることが明らかになっている.過去の研究では,比較的被害の少なかった地域10)でも,また被害の少なかった自治体労働者12)でもストレス状況が悪かったという報告もあり,メンタルヘルス支援の必要な地域を見逃さないためにも,状況の把握が必要である.

一方で近年,PTSSの発生を抑える働きのある因子として,レジリエンスが注目されている.レジリエンスとは,健康時の発病抵抗力と,発病後の健康回復力の2つの側面を意味し,前者は困難に直面した時に,それを乗り越える個人の能力24),後者は,心的外傷後にPTSSの慢性化をくいとめる効果25, 26)があるとされている.専門家によってさまざまな定義がされ,レジリエンスの初期研究者の一人であるRutter27)は,レジリエンスを「ストレスや逆境に直面した際に反応するポジティブな柱(英語では“the positive pole of individual differences in people̕s response to stress and adversity”)」と定義し,Bonnano28)はその後「極度の不利な状況に直面しても,正常な平衡状態を維持することができる能力」と定義している.2000年代に入ってからはConnorとDavidson24)がレジリエンスを「困難に直面した際にも,うまく切り抜けたり糧にしたりできるような個人の資質」と定義しており,本研究でもConnorとDavidsonが開発したレジリエンス測定尺度(Connor-Davidson Resilience Scale: CD-RISC)を使用していることから,この定義を用いることした24).レジリエンスは日本語でもそのまま用いられることが多いが,「復元力」,「回復力」,「耐久力」,「たくましさ」などと言い換えることができるとされる29, 30).レジリエンス研究の初期の対象は,貧困や両親の精神疾患など,将来に困難な状況をもたらす可能性の高いハイリスク児を対象にしたものが多かったが31),その後研究対象は大人にも拡大され,近年ではPTSSとの関連で取り上げられることが多くなっている25, 26, 32, 33).レジリエンスはうつ症状とも負の関連(β= –0.26)があることもわかっており34),人生において個人が獲得できる精神的資源(メンタルキャピタル)の1つとされ35) ,ストレス対処能力の測定に用いることが可能であるとされている24)

レジリエンスとPTSSとの関連は,これまでに複数の研究で報告されているが,ベトナム戦争退役軍人25, 26),陸軍予備軍32),イラク戦争に従事した米兵33)を対象にしたものなど,Nishiらの交通事故経験者36)を除いて,いずれも戦争におけるPTSSに着目したものがほとんどである.他方,自然災害である震災時におけるレジリエンスとPTSSとの関連に着目した研究は,インタビューを通してレジリエントな被災者を明らかにしようした質的研究はいくつか見られるものの37, 38),信頼性・妥当性の検証された測定尺度を使用してレジリエンスとPTSSとの関連を検証した研究はほとんどみられない.自然災害である震災時にもレジリエンスがPTSSを抑える効果があるのか検討することは,震災の多い我が国にとって,PTSS防止対策を有効に進めるための資料となると思われる.

これらのことを踏まえ,本研究では関東地方A市の自治体職員を対象として,震災後6ヶ月時点において職員におけるPTSSの割合と有症状者の個人特性や被害状況を明らかにするとともに,困難に立ち向かう力であるレジリエンスが,PTSSとどのように関連しているのかを検討することを目的とした.

II.対象と方法

1. 対象

震災から半年後にあたる2011年9月,関東地方のA市に勤務する全職員2,069名を対象に質問紙調査を実施した.A市では,津波の被害はなかったものの,震度6弱の揺れを観測し,特に市街地では液状化現象による被害が相次ぎ,市役所庁舎の倒壊の危険が出たため自治体職員の半数が仮庁舎での業務を余儀なくされていた.調査にあたっては労働組合を通して返信用封筒,調査票,調査の案内文書一式を配布し,調査票の返信をもって調査への同意を得たとした.回収の際は返信用封筒に厳封された各調査票を組合でいったん回収,厳封された状態のまま大学にまとめて送ってもらい,著者らが開封,データ入力,集計作業を行った.最終的に991名から回答が得られ(回収率47.9%),そのうち本研究で使用する変数に欠損値のなかった825名(男性607名,女性218名)を分析対象とした.

2. 調査票

1)レジリエンス

レジリエンスの測定には,コナー・デビッドソン回復力尺度(Connor-Davidson Resilience Scale: CD-RISC)24, 39)を用いた.CD-RISCはKobasa40),Lyons41),Rutter42)の研究結果から「たくましさ(hardiness)」,「行動志向(action orientation)」,「強い自己効力感/自信(strong self-esteem/confidence)」,「社会的問題解決スキル(social problem solving skills)」等のレジリエンスの要素を取り込み,一般集団や臨床現場での患者を対象に,簡便にレジリエンスが測定できるように開発された尺度である.CD-RISCは25項目から構成されており,「0-まったく当てはまらない」から「4-ほとんどいつも当てはまる」までの5件法で回答する自記式尺度で,得点が高い程レジリエンスが高いことを示す.項目例として「自分の行く手にどんなことが起こっても対応できる」,「ストレスがあるときに,私を助けてくれるような,親しくて安心できる人が一人以上いる」があげられ,この1ヶ月の自分にどの程度当てはまると思われるのかを回答する.日本語版は伊藤ら39)によって作成され,一般成人および大学生を対象に信頼性・妥当性が確認されている.

2)震災に伴うPTSS

震災に伴うPTSSは,IES-R21,22,23)を用いて測定した.IES-RはPTSSの侵入症状,回避症状,過覚醒症状の3症状・計22項目から構成されており,最近1週間についての症状の程度を「0-全くなし」から「4-非常にある」までの5件法で求める自記式尺度である.項目例として「どんなきっかけでも,そのことを思い出すと,そのときの気持がぶりかえしてくる」,「そのことは考えないようにしている」,「神経が敏感になっていて,ちょっとしたことでどきっとしてしまう」等があげられる.本研究では震災におけるPTSSを明確に測定するため,IES-Rの教示文の最初に「震災におけるストレスについてお聞きします」と明記した.IES-RはPTSSのスクリーニングとしても広く使用されており,わが国では工場労働者,阪神・淡路大震災,毒物混入事件,地下鉄サリン事件被害者等を対象に信頼性・妥当性の検証が行われている21).PTSSの高リスク者をスクリーニングする目的で24/25のカットポイントが推奨されているため21),本研究においてもIES-Rの得点が25点以上を「PTSSあり」,24点以下を「PTSSなし」と定義した.

3)震災による被害状況

震災による被害状況を測定する項目として,震災による怪我の有無(家族を含む)(injured (themselves or their family members): yes or no),自宅の家屋被害の有無(house damaged: yes or no),現在避難しているかどうか(living someplace other than in their house (e.g., shelter): yes or no),職場の場所が移動したかどうか(workplace moved to other buildings (e.g., prefab building): yes or no)をそれぞれ1項目で調査した.また,これらのうち,怪我の有無と家屋被害の有無の2つの質問のいずれかに「はい」と回答した群を「被災あり群」(affected),一つも当てはまらなかった群を「被災なし群」(non-affected)とした.

4)基本属性

個人属性として性別,年代(25歳以下,26–35歳,36–45歳,46–55歳,56歳以上),学歴(高卒以下,専門学校/短大卒,大学/大学院卒),婚姻状況(既婚,未婚/離婚/死別),慢性疾患(高血圧,糖尿病,心臓病,脳血管疾患,腰痛等)の有無,職業特性として職種(事務職,技術職,現業/公営企業職,医療/福祉職,消防職,その他),職位(管理職,中間管理職,一般職,その他),交代勤務の有無を調査した.

3.解析方法

まず基本属性・職業特性・被災状況によって,レジリエンスの得点並びにPTSS有無の割合が異なるかを明らかにするために,それぞれχ二乗検定,分散分析を行った.次にCD-RISC合計点の3分位点で対象者を高・中・低群に分け,高群を参照群として,レジリエンスを独立変数,PTSSの有無を従属変数としたロジスティック回帰分析を行った.その際は調整変数として個人属性(性別,年齢,婚姻状況,慢性疾患の有無),職業特性(職種,職位,交代勤務の有無),被災の有無も同時に投入し,各変数におけるPTSSありのオッズ比も同時に算出した.さらに,被災あり群,被災なし群それぞれに分けて,それぞれのレジリエンス低群・中群における,PTSSありのオッズ比を算出した.量-反応関係を検討するため同時に傾向性検定も実施し,最後に交互作用項の検討を行った.なお統計解析にはSPSS 19.0を用い,両側5%を有意水準とした.

4.倫理的配慮

この研究への不参加により個人の不利益および危険性が生じないよう,厳重に配慮を行った.参加者の職場および組合では開封作業を一切行わないこと,東京大学大学院精神保健学分野の研究者のみが開封作業にあたることを調査票の表紙に明記すると共に,個人が特定されない形で集団としての分析を行う旨を文書で説明した.本調査後に追跡調査を行ったため,同一人物が特定できるように職員番号のみ記載をしてもらったが,その職員番号がどの個人を示すのかの人事情報を研究者側は持たず,調査票の照合作業のみにその番号を用いることで同意を得た.研究者側は氏名等の個人情報を持たないため回答者個人に連絡することは不可能であったが,震災後半年で実施した調査であり,心理的ストレスの高い回答者がいる可能性が予測できたことから,職員健康管理室の相談窓口,調査対象自治体が契約している外部専門機関の心の健康相談窓口,組合の窓口,それぞれについて電話番号や受付時間等の案内を調査票の最後に記し,相談を促した.なお本調査の実施にあたって,事前に東京大学大医学部倫理委員会の承認を受けた.

III.結 果

1.対象者の属性と被災状況(Table 1)
Table 1.  Relations between the demographic and occupational characteristics and post-traumatic stress symptoms (PTSS) of local government employees (N=825)

対象者の平均年齢(±標準偏差)は40.8(±11.2)歳で,最も多かった年齢層は26–35歳であった.回答者の約半数が大学あるいは大学院を卒業しており,婚姻状況は既婚が7割,何らかの慢性疾患がある回答者は2割弱いた.職業特性としては,最も多かった職種は事務職で40.1%,次いで消防職26.4%,技術職14.1%,現業・公営事業職11.8%,医療・福祉職5.5%,その他2.2%であった.職位は非管理職である一般職員が78.5%と最も多く,管理職,中間管理職はそれぞれ7.8%,12.4%であった.交代勤務のある回答者は3割であった.東日本大震災による被災状況として,家屋被害があった者が最も多く82.8%,職場の場所がプレハブや公民館等に移転した者は45.8%,一方で怪我をした者(家族を含む)は4.8%,調査時避難している者は0.4%であり,これらのうちいずれかの被害があった回答者は全体の8割を超えていた.

2.PTSSを持つ者の割合:属性別検討

IES-R得点の全体平均(±標準偏差)は13.0(±14.3)点,中央値は8.00点という右に歪んだ分布(逆Jシェイプ)であったが,PTSSあり(IES-R25点以上)に該当した者は全体で2割いた(Table 1).個人属性や職業特性,被災状況別に割合を比較すると,有意差が認められたのは被災の有無,怪我の有無,家屋被害の有無であり,被災なし群ではPTSSありが11.6%であったのに対し,被災あり群では21.8%,同じく怪我なし群では19.4%に対し,怪我あり群では35.0%,家屋被害なし群では11.3%であるのに対し,家屋被害あり群では22.0%と,それぞれ被害がある群でPTSSを持つ者の割合が2倍弱多いという結果が得られた.また,有意傾向ではあるものの,慢性疾患なし群に比べ,慢性疾患あり群ではPTSSを持つ者の割合が高かった(p = 0.055).

3.レジリエンス得点:属性別検討

CD-RISC得点の全体平均(±標準偏差)は48.5(±16.1)点,中央値は49.0点であり,正規分布に近い分布であった.個人属性や職業特性,被災状況別に割合を比較すると,有意差が認められたのは年齢,慢性疾患の有無,PTSSの有無であり,36–45歳と比べて25歳以下,慢性疾患なしの群でレジリエンスの得点が高かった(Table 2).また,有意ではなかったものの,職位別に見ると管理職が最もレジリエンスが高く,管理職,中間管理職,一般職でもない「その他」群でレジリエンス得点が低かった(p = 0.053).一方で,被災状況によってレジリエンスの得点に有意な差は認められなかった.

Table 2.   Relations between the demographic and occupational characteristics and CD-RISC scores among local government employees (N=825)

4.レジリエンスを含む各変数とPTSSとの関連

個人属性,職業特性,被災の有無,そしてレジリエンスとPTSSとの関連を検討したところ,被災の有無,慢性疾患の有無,そしてレジリエンスとがPTSSと有意に関連していた(Table 3).全ての変数を投入した後においても,慢性疾患のある方,被災がある方がPTSSを持つ割合が高く(なし群に対するあり群のオッズ比:それぞれ1.74 [95%信頼区間:1.09–2.78],2.19 [95%信頼区間:1.24–3.87]),レジリエンスが低いほどPTSSをもつ割合が高いという量-反応関係が見られた(高群に対する低群のオッズ比:1.92 [95%信頼区間:1.22–3.00],p for trend = 0.002, Table 4).

Table 3.  Association between demographic and occupational characteristics, affected situation, resilience, and post-traumatic stress symptoms (PTSS): logistic regression analysis (N=825)
Table 4.  Association of resilience with post-traumatic stress symptoms by affected situation: logistic regression analysis (N=825)
Resilience n No. of case (%) Odds ratio (95% CI)
Affected group§
High 225 37 (16.4) 1.00
Moderate 225 46 (20.5) 1.29 (0.79 to 2.11)
Low 237 67 (28.3) 2.10 (1.31 to 3.37)
Test for linear trend p = 0.002
Non-affected group
High 37 3 (8.11) 1.00
Moderate 54 8 (14.8) 6.12 (0.48 to 77.5)
Low 47 5 (10.6) 3.10 (0.25 to 39.1)
Test for linear trend p = 0.435
p for interaction (resilience * affected) p = 0.457 p = 0.391

Post-traumatic stress symptoms: Impact Event Scale-Revised (IES-R) ≥25. Adjusted for gender, age, education, marital status, chronic condition, occupation, employment contract, and shift work. §Affected: experienced injury (themselves or their family members) or house damage due to the earthquake.

次に,被災あり群・なし群に分けて,レジリエンス高群に対する低・中群のPTSS(IES-R得点25点以上)のオッズ比を算出したところ,基本属性,職業特性で調整後も被災あり群で有意な関連が見られ(高群に対する低群のオッズ比:2.10 [95%信頼区間:1.31–3.37]),レジリエンスが低いほどPTSSをもつ割合が高いという量-反応関係が見られた(p for trend = 0.002).一方で,被災なし群では,レジリエンスとPTSSとの間に有意な関連は見られなかった.加えてレジリエンス×被災の交互作用項を検討した解析においても,有意性は確認できなかった(高群に対する低群のオッズ比:1.67 [95%信頼区間:0.34–8.15],基本属性,職業特性で調整後).

IV.考 察

1.関東地方の自治体職員における東日本大震災後のPTSS

先行研究とは曝露度合や母集団,測定時期が異なるため,単純に比較はできないという点があるものの,本調査でのIES-R得点の平均は13点であり,東日本大震災直後に被災地に派遣された災害支援者の平均点が5.0–7.6点14,15,16, 19, 20)だったことと比べると,非常に高い点数である.13点という点数は,むしろ湾岸戦争時にペルシャ湾に派遣された兵士の得点(13.8点)32)に近い.また本研究では,平均点が高かったこともあり,2割もの回答者がPTSSありと判断されるカットオフ値(25点)を超えていた.この割合は,2004年の新潟中越地震(最大震度7)における長岡市民を対象にした調査5)で報告された,震災発生3ヶ月後にPTSSを有していることが疑われる者の割合(21%)と同等であり,また1996年の阪神淡路大震災を経験した勤労者における震災3ヶ月後の「家屋被害なし,あるいは軽微」群のPTSSありの割合(12.9%)11)よりも高い.なお田中井らの調査11)では,「大破・全壊/全焼などで元の住居に住めなくなった」群において,3ヶ月後のPTSS保持者が男性で34.2%,1年半後12.6%,女性においては3ヶ月後30.2%,1年半後18.6%と報告されており,本調査の20%という結果は,男女ともに,この報告における3ヶ月後と1年半後の結果の中間にあたる.新潟中越地震,阪神淡路大震災ともに被害は大きく,多くの死者が出たのに対して,本調査におけるA市では,液状化や家屋の倒壊はあったものの,死者はそれほど多くはなかった.しかしながら,PTSSが疑われる者の割合は,先行研究で報告されている大震災時のものとさほど変わらなかった.これらのことを考えると,震災によって起こるPTSSは,ある程度の大きさの地震になると,被害状況や直接の生命への危険度に関わらず,一定の割合で発症する可能性があると考えられる.このことは,東日本大震災時に液状化被害の大きかった関東地方の地域住民を対象とした研究7, 8)によっても示されており,震災後7,8ヶ月後にPTSDハイリスク者の割合は全体の14.2%と,本研究よりも若干少ないものの,東北と比べ被害の少なかった地域の一般住民にもPTSSを持つ者が一定数いることを明らかにしている.

本研究の方が一般市民7, 8)よりもPTSSありの割合がやや高いことは,1,2ヶ月早く調査を実施していることも考えられるものの,被災地域の自治体職員ならではの特徴が出ている可能性もある.自治体職員は,自らも被災しながらも,公務として被害状況の把握と援助,復興作業にあたらなければならないというのが職務上の大きな特徴としてあげられる.東日本大震災後3ヶ月時点での岩手県職員のメンタルヘルス状況を調査し,県内の主な被災地で県職員の抑うつ状態が高かったと報告した青木10)は,そのさらに1年後も同様の調査を実施し,結果を報告している.それによると,震災から1年2ヶ月後に最も抑うつ状態が高かった地区は比較的被災が小さかった地域であり,その要因として長時間労働が多かったことを指摘している.抑うつ状態が高かった地域では,被災が小さかったことから,他の地区よりかなり早く復興計画が策定され,震災のあった2011年の段階で復興業務が急激に増えたため,1ヶ月の時間外労働が80時間以上の職員が6.8%と,他の地区と比べても有意に割合が多かったことが分かっているのである.さらに,阪神淡路大震災時に活動した兵庫県内の消防隊員を対象にした調査17)によると,PTSSに対して最も高いオッズ比を示していたのは,近親者の喪失でもなく,悲惨な光景に堪えたことでもなく,生命の危険を感じたことでもなく,「住民からの苦情や非難が堪えた」ことであったと報告されている.このように被災地域の自治体職員は,被害が大きければその把握に追われるが,被害が比較的少なくても,復興計画をすぐに策定して業務を進めなければならないのに加え,復興に焦りを感じる住民から非難や苦情も受けなければならず,震災によって心理的負担が大きくかかるという特徴があると言える.これらの傾向は,東日本大震災後の宮城県職員を対象に行われた大規模調査でも同様であり,震災から7ヶ月後にメンタルヘルス状況が悪かった職員のリスク要因として,「毎週休みを取っていないこと」と「住民からの苦情を扱っていたこと」等が明らかになっている13)

本研究では自治体職員のPTSSを測定したため,抑うつ状態を測定した先行研究結果10,11,12,13)を直ちに適応させることはできないが,東日本大震災後に被災地に派遣された災害救援者を対象にした複数の研究ではPTSSがそれほど確認されなかったことからも14,15,16, 19, 20),被災地域の自治体職員のメンタルヘルス問題は注目に値するものである可能性がある.自治体職員と災害救援者との違いを考えると,自治体職員の場合は惨事ストレスへの対応への訓練を受けないなかで災害対応に携わるという特徴もあるため,より震災からのダメージを受けやすい状態である可能性もある.レジリンスに関する研究でも,事前に訓練を受けるなどして「心の準備ができている」場合は逆境を乗り越えることができる可能性が高いと報告されており44, 45),トラウマやストレスケア,災害対応について事前に勉強する機会のある医療職が多数を占める災害救援者とは,明確に異なる立場に置かれていると言えよう.PTSSを測定した消防隊員の調査17)においても,自らも被災しながら支援活動に従事する職員のメンタルヘルス対策の重要性が訴えられていることから,これから復興をさらに進めていくためにも,被災地域の広義の支援者である自治体職員,特に惨事ストレスへの心の準備ができていなかった職員の精神的健康状態にもっと着目する必要があると言える.

PTSSと個人属性,職業特性,被災状況との関連について,有意な関連が認められたのは被害状況と慢性疾患の有無であった.先行研究での報告5, 9, 11)と同様,本研究においても,何らかの被災がある群,怪我をした群(家族を含む),家屋に被害があった群で,PTSSを持つ者の割合が有意に高かった.一方で,職場の場所が移動したこととPTSSの有無とは関連がみられなかった.本調査ではおよそ半数が職場を移動していたが,いずれも元の職場から近い公民館や,震災後に建てたプレハブ庁舎への移動であった.移動理由は元の庁舎がある建物に亀裂などが入り継続利用が危険と判断されたためであり,より安全な場所へ移動したことから,PTSSを強める要因にはならなかった可能性がある.なお本研究では,慢性疾患がある群でPTSSを持つ者の割合が高かった.新潟中越地震において市民を対象とした直井の研究5)でも,治療中の病気がある,あるいは体調が悪いと回答した群でPTSD得点が高かったと報告されており,本研究結果はこれと同様の傾向を示した.しかし,直井の研究5)が一般市民を対象にしていたのに対し,本研究では勤労者を対象としており,職場において調査票を配布した.このことから,本研究の特徴として対象者は65歳未満に限られること,慢性疾患をもっていても仕事ができる健康状態にあることがあげられるため,それでも有意な関連が見られたことは大きい.本研究を実施した関東地方のA市においても,一般住民を対象に調査を行った場合はさらに結果が異なっていたかもしれず,PTSSの有無のハイリスク者を考える上で,震災により家屋の損傷や怪我等の何らかの被害を直接受けたこと,慢性疾患を有していることは,今後も考慮しなければならない点であろう.

2.自治体職員におけるレジリエンスとPTSSとの関連

基本属性,職業特性,被災の有無で調整した後においても,レジリエンスの得点が低いほど,PTSSを持つリスクが高かった.具体的には,レジリエンスが最も低い群では,高い群と比較してPTSSのオッズ比は約2であった.被災の有無で対象者を分けてレジリエンスとPTSSとの関連を検討したところ,被災あり群において,レジリエンスとPTSSとの間に有意な関連が見られた.また,レジリエンスが低いほどPTSSをもつ割合が高いという量―反応関係も確認された.被災なし群では,レジリエンスとPTSSとの間に有意な関連が見られず,レジリエンスと被災有無の交互作用項も有意でなかったが,これは被災なし群の人数が少ないことが理由と考えられる.このため,本研究では被災というイベントに曝露された場合に特異的にレジリエンスとPTSSとの関連が強く出ることは明確には示されなかったと言えるものの,レジリエンスがPTSD発症の予防因子として働くことは,戦争におけるPTSDに着目した複数の研究25, 26, 32, 33)でも明らかになっており,本研究結果からも同様のことを言うことができる.今後,自然災害に曝露した労働者においてレジリエンスが災害特異的な緩衝効果を示すかどうか,さらに検討する必要があると言えよう.

レジリエンスは,逆境時にこそ,その性質を発揮するものであると言われる.そのため,トラウマ的出来事のない日常生活を送っている限りにおいては,個人が持つレジリエンスの高低はそれほど問題になることはない.しかし,ひとたび対応が困難な出来事が発生すると,普段のその人が持つレジリエンスの威力が発揮され,その後のメンタルヘルス状況を異なるものにさせる.本研究で使用したCD-RISCの項目の中には,「問題に直面したときでも,ものごとのユーモアのある面を見るようにしている」や「すべての決定を他者に委ねるよりも,率先して問題を解決するほうを選ぶ」等,ストレス対処法に近いものがある.これが,ストレス対処能力の測定にレジリエンスを用いることが可能であるとされる所以である24).地震,津波,台風,土砂崩れ等の自然災害の多い我が国において,日頃からレジリエンスを高める取り組みをすることは,精神的健康を守る意味でも非常に重要な意味を持つと言える.

レジリエンスを形成する要素には様々なものがあるとされるが30),その中でも大きなものとして,ソーシャルサポートがあげられる29).例えば,本研究で使用したCD-RISCにも「ストレスがあるときに私を助けてくれるような,親しくて安心できる人が一人以上いる」や,「ストレスや危機の中でも,どこに助けをもとめればよいか分かっている」といった項目がある.大人を対象としたトラウマ研究では,周囲からサポートを得ていることと家族が団結していることがレジリエンスの高さと関連があり,同時にそれらがPTSSの発症も抑える,あるいはPTSSからの回復を促進していたと報告されている25, 33, 43).日本においては震災におけるPTSSについてレジリエンスを検討したものはないが,PTSSハイリスク者の要因として,同居家族が少なかったこと,精神的な支えが少なかったこと等もあがっており5, 9),身近に相談できたり頼ったりできる存在の少なさは,自然災害への被災という出来事への反応をより悪化させる可能性があることが示されている.言い換えれば,周囲から支援が得られることはその人の自信に繋がり,「次に何かあっても乗り越えることができる」という感覚,つまりレジリエンスを高めることにつながり,逆境を乗り越える力を与えることにもつながるとも言える.イラク戦争から帰ってきた兵士を対象にした研究33)でも,戦場でのチームリーダーや同僚からのサポート,そして配置後の家族・友人・同僚からのサポートが高い方がPTSDの発症も少ないことが明らかになっている.このことからも,職場におけるソーシャルサポートの体制を整えること,日頃から周りに相談しやすい環境作りを進めることは,レジリエンスの強化,そして何か困難があった際にメンタルヘルス不調になることを防ぐためにも有効である取り組みであると言えるであろう.

レジリエンスに関する研究が始まった当初は,レジリエンスは生まれもったものであると考えられていたが,近年では後天的に獲得可能なものであるという認識が広がっている35).本研究ではレジリエンスとPTSSとの間には強い関連があることが確認され,レジリエンスを高めることで,よりPTSS等のストレスを予防できる可能性があることが示唆された.レジリエンスは自然治癒過程がスムーズに進行することを可能にし,そこで個人が独自の自己治癒を目指すことを可能にするものである30).PTSSに関して,発症後の薬物療法や心理療法について考えるだけでなく,臨床現場の医療心理関係者,労働者の健康を守る立場にいる産業保健スタッフともに,レジリエンスにも注目した予防教育的介入に力を入れる必要性が示されたと言えよう.近年では,レジリエンスを高める取り組みとして,体力作りや認知行動療法なども提唱されている46).職場においても,上司や同僚のサポートを高めることはレジリエンスを高める可能性があり,日頃のメンタルヘルス対策に加えて,各個人がどんな逆境をも乗り越えられるような支援体制作りが求められると言える.

3.本研究の限界

研究の限界として,以下のことが考えられる.まず,回収率が47.9%とあまり高くなかった.PTSSを持つ,あるいはストレス状態が高い人からの回収が少なくなった可能性があり,本結果はPTSSの割合を低めに見積もっている可能性がある.ただ,逆に,PTSSがある,または何らかのストレスを感じている人がより多く回答した可能性も否定できず,この場合はPTSSの割合を過大評価している可能性がある.被災状況については,他の職場のストレス要因に関する調査も同時に行ったため,詳細に聞くことができなかった.本来であれば,家屋被害についても全壊,半壊などの程度を聞いておくべきであったことは本研究における大きな限界点である.田中井11)あるいは直井ら5)の先行研究では,いずれも地震発生後3ヶ月後に初回の調査を行っているのに比べ,本研究の初回調査は震災6ヶ月後であり,PTSSはある程度落ち着いている可能性が大きく,単純に比較はできない点があるため,結果の読み取りには注意が必要である.また,調査対象者はある市の自治体職員のみであるため,サンプリングバイアスが考えられ,結果の一般化には限界がある.次に,IES-R,CD-RISC尺度はどちらも自記式であるため,特にPTSSについては,カットオフ値を超えていてもPTSDの医学的臨床診断に当てはまることとは限らない点に留意する必要がある.また,本調査ではIES-Rの回答箇所に「震災におけるストレスについてお聞きします」と教示文を設けたものの,そこを読み飛ばした回答者に至っては,回答されたPTSSが震災被害によるものであるとは断定できないという限界もある.最後に,本研究は横断研究であるため,震災とPTSSとの間,またレジリエンスとPTSSとの間の因果関係を同定することはできない.レジリエンスとPTSSの研究のほとんどは,トラウマへの曝露後に調査していることが過去の研究29)でも指摘されており,本来であればトラウマへ曝露する前にレジリエンスを測定しておくことが必要である.しかし,発生の予測が難しい自然災害にこの方法を当てはめるのは難しい.まずは縦断研究で因果関係を明らかにすることが必要であり,今後の報告が待たれるところである.

V.結 論

本研究の結果から,震災後半年が経過していても,関東地方の自治体労働者でPTSSを持つ者が2割もいたこと,そしてレジリエンスがPTSS発症を抑える働きをする可能性が示唆された.本研究は比較的被害の少なかった被災地域の自治体職員に着目し,震災によるPTSSが疑われる者の割合とその特性を報告し,またレジリエンスとPTSSの関連を明らかにした点において意義があると考えられる.横断研究でありながらも,東北と比べ被害が比較的少なかった関東地方において,自治体職員に大きなストレスをもたらしていたことを明らかにすることができたことは有意義であろう.メンタルヘルス対策としてレジリンスを高める取り組みは全ての人に必要であるが,地震等の自然災害においては,被災者でありながらも職務として被災者支援をしなければならず,なおかつ災害救援者のように特別な訓練を受けていない自治体労働者のストレス状況にも着目する必要があると共に,こういった労働者に対して優先してレジリエンスを高めるような取り組みが求められる.

Acknowledgment

謝辞:本研究は,日本学術振興会特別研究員奨励費[22・4839]の助成を受けて行われました.なお本論文は,著者の一人である大島一輝の卒業論文「東日本大震災における関東A市のPTSD症状の分析」を発展させ,再解析,並びに加筆を行ったものです.卒業論文作成時にご指導頂きました森俊夫助教(東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野)に,この場をお借りして深く感謝申し上げます.

References
 
© 2014 by the Japan Society for Occupational Health
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