SANGYO EISEIGAKU ZASSHI
Online ISSN : 1349-533X
Print ISSN : 1341-0725
ISSN-L : 1341-0725
Topics and Opinions
The scope of application according to foreign skills trainee general insurance ~Two cases of Vietnamese minors, both proved with congenital diseases after entering Japan, were judged on their ability to work~
Yoshitaka Morimatsu Akira TakagiMihoko MoriMichiko HoshikoTatsuya Ishitake
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2020 Volume 62 Issue 2 Pages 83-85

Details
抄録

1. 緒言

健康保険の適用事務所で働く外国人労働者は,その使用者が彼らを健康保険へ加入させる義務がある.また,外国人労働者が就労する当該事業場で健康保険に加入しない場合は,その外国人労働者が居住する市町村の国民健康保険に加入することができる.しかし,いずれの場合も彼らが医療機関を受診する場合,加入した健康保険を用いるため,自己負担が3割発生する.そこで,少しでも多くの収入を得たいと思って来日する彼らは,医療における自己負担金を節約したいがために,受診を控える傾向にあり,その結果,疾患が重篤なレベルとなってようやく受診するといった問題がある.この外国人労働者のうち,近年,外国人技能実習生(以下技能実習生と略す)が急増しており1 「出入国管理及び難民認定法(入管法)」とその省令を根拠法令として実施されてきた技能実習生制度に対して,2017年11月,「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)」が施行された2.技能実習生は協同組合を介した場合,通常の健康保険に加え,使用者が民間医療保険である外国人技能実習生総合保険(以下,実習生保険と略す)へ加入しているため,自己負担3割がこの保険から賄われる.

今回,入国前後の健康診断にて異常を指摘されず,就労開始後に先天性疾患を指摘された未成年のベトナム人2事例を経験した.1例はすでに詳細な報告を行なっている3 が,新たに入国後先天性疾患が判明した事例を経験し,この2事例は診断後の就労可否が分かれた.その判断材料には疾患の状態だけでなく,技能実習生における保険制度が大きく関与したことから,その情報を提供する.

2. 事例

1) 事例1 19歳 女性 建築資材の金属プレス製造作業者

来日前のベトナムにおける健康診断では異常なく,入国後健康診断にて白血球上昇を認めるも無症状のため,「就労可能範囲」との診断にて,実習を開始した.しかし,初回健康診断にて胸部単純レントゲン写真上,異常陰影を指摘され,二次精査の結果,左肺葉外肺分画症と判明した.無症状のため,実習を継続しながら3ヶ月毎の定期受診を行なっていたが,実習生保険の適用である発症日から180日を超えたため,現在は,自己負担にて4ヶ月ごとの外来通院を行っている.

2) 事例2 19歳 女性 建築資材の金属プレス製造作業者

入国前後の健康診断にて異常は指摘されず,実習を開始したが,事業所の新年会で飲酒をした後から頭痛と嘔吐が出現.頭部CT上,脳室内出血を認め緊急入院.精査の結果,脳動静脈奇形と判明した.先天性疾患への加療にかかる費用,および入院中の食事費は実習生保険の適用外であるため,医療費は雇用元が一旦支払い,後日,給与・疾病手当金・高額医療費払戻金でまかなうこととなった.健康保険の本人負担額を超えていた食事費は,組合けんぽから支払われた.ベトナムの家族は日本での治療を希望したが,このまま根治的治療を目的に加療を継続した場合,入院継続と数ヶ月のリハビリ期間が必要となるため技能実習生の身分から外れ,帰国しなければならないこと,治療の際に脳浮腫や再出血の危険性があるため家族に来日してもらい数ヶ月の付き添い(日本滞在)が必要となることから日本における治療は困難と判断.退院と同時に帰国となった.なお,高度医療機器が不要の場合,全日空は日本語の診断書があれば搭乗許可が下りるが,ベトナム航空では英語の診断書が必要で,発症から45日経過していれば航空機搭乗のための診断書提出は不要である.一方,今回帰国時は発症から45日以上経過していたが,退院してそのまま帰国することから,ベトナム航空から英語の診断書を要求された.帰国費用は現地の送出機関が負担したが,帰国後に送出機関より請求されることがあるため,その場合は払わずに日本の協同組合へ連絡するよう伝えられた.ちなみに,医療者が同行する場合,45~50万円の経費がかかる.今後,実習生として再度日本へ戻ることは,帰国後8週間以内に治療・完治すれば可能である.

3. 入国後,技能実習生に先天性疾患が判明した場合について

今回,極めて稀ではあるが,ベトナムから入国した未成年の技能実習生に,先天性疾患を有している2事例を経験した.事例1の肺分画症は,経過観察にて現在も実習を継続しているが,繰り返す細菌性感染や難治性の真菌症を合併したり,喀血,胸痛にて緊急手術となる場合があるため,本邦では無症状でも観血的処置を行い,切除する場合が多い3.しかし,先天性疾患は実習生保険の適応外であり,今後,緊急処置が必要な状態となった場合,その医療費に問題を抱えることとなる.事例2は,脳出血を合併していた脳動静脈奇形であり,緊急入院となった.入院のため実習を休むこととなったが,安静・リハビリ治療を行なった結果,症状は改善し,退院可能となった.実習継続不可となった理由は,再出血の可能性があること,根治的治療を行なった場合の見込み病欠日数が就業規則で定められた日数を超過するため実習生の身分から外れること,そして何よりも日本で治療を受けるには母国から家族が長期にわたって日本に滞在しなくてはならないといった社会的問題も大きかった.

4. まとめ

外国人技能実習生制度では,企業と実習生が雇用契約を締結することで社会保険加入条件を満たし,社会保険へ加入する義務が生じる2.しかし,不慮の事故や疾病に遭遇する事案が毎年見られることから,2013年,法務省ガイドライン「技能実習生の入国・在留管理に関する指針」では,公的保険を補完する民間の傷害保険等に加入することが技能実習生の保護に資するものとされた4.外国人技能実習生総合保険制度はこれに相当し,日本で技能実習生が安心して技能実習を継続し,技能実習実施機関が安定して技能実習を実施できることを目的として開発された制度である.特徴は,補償対象期間が,技能実習生が国籍国等での出国手続きを終了してから帰国手続きを終えるまでとなっていること,国籍国出国から国民健康保険,健康保険等の資格取得までの一定期間(就労前の講習期間)は100%の治療補償が受けられることである.したがって,この制度に加入していれば,出国してから帰国するまで医療費における自己負担が発生しない.支払われる保険金は,障害死亡保険金・疾病死亡保険金,傷害後遺障害保険金,傷害治療費用保険金・疾病治療費用保険金,個人賠償責任保険金,救援者費用等保険金となっているが,妊娠・出産・流産およびこれらによる病気,歯科疾病(ケガによる治療を除く),業務上・通勤途上の疾病(講習中は除く)には保険金が支払われない.今回の事例のような先天性疾患は,「責任期間開始前に発病した病気」に該当し,入国後症状が発現した事例2に要した自己負担は適応外であった.また,事例1においても,「病気の場合は最初の治療日からその日を含めて180日以内に要した費用」が適用され,その後の定期受診にかかる自己負担費用は適応外となっている.

近年,外国人労働者における結核が問題となっている5.技能実習生のかなりの割合が結核蔓延国出身であるが,入国前に母国で健康診断を受け,入国後検診でも結核を除外されてから就労開始となる.しかし,日本で発症する外国人の結核は,入国後5年以上経過してから発症する事例が多く5,結核を発症した場合の治療費は公費負担となる.これに対し,先天性疾患である今回の2事例は,将来的に観血的処置が必要となる場合もあり,その際にかかる医療費は実習生保険で補償されておらず,また治療時におけるサポートが大きな問題となる.

技能実習生総合保険は,これまで自己負担をしたくない外国人労働者による受診控えを解消するためには,有用な制度である.しかし,近年では自己負担がないからと,ごく軽度の感冒様症状でも受診する実習生が問題となってきている.さらに,SNSなどを通じて,当該制度を利用し日本で先進医療を受けられることが知られるようになった結果,なんとか消化管内視鏡を受けたいがため,繰り返し腹痛を訴える実習生もいるという.企業は,37ヶ月22,100円のプランへ加入している場合が多いと言われているが,現在,実習生を雇用している企業の中で,どれくらいの企業が加入しているかのデータは明らかでない.上述した課題が改善された実習生保険制度を全ての事業所が採用することで,技能実習生を雇用する事業者,ならびに日本で技能を学ぶ外国人技能実習生が,安心して雇用者-被雇用者関係を構築できると思われる.

本投稿に際し,通訳を介して事例1,2本人,および協同組合の責任者より文書にて承諾をいただいた.

利益相反

利益相反自己申告:申告すべきものなし

文献
  • 1)  「外国人雇用状況」の届出状況表一覧:厚生労働省報道発表料.[Online].平成30年10月末[Cited 2019 July 17]; Available from: URL: https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000472893.pdf
  • 2)  外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)について:厚生労働省HP[Cited 2019 August 1]; Available from: URL: https://www.moj.go.jp/content/000328210.pdf
  • 3)  森松嘉孝,高城 暁,石竹達也.就労後定期健康診断にて発見された肺分画症から見える外国人労働者を取り巻く現状.労働の科学 2019;74:36–40.
  • 4)  外国人技能実習制度とJITCO:外国人受入れ制度検討分科会(技能実習関連)ヒアリング資料.[Online].2013年12月25日[Cited 2019 July 17]; Available from: URL: http://www.moj.go.jp/content/000119401.pdf
  • 5)  結核研究所疫学情報センター.結核年報 2014(1)結核発生動向概況・外国生まれ結核.結核 2016;91:83–90.
 
© 2020 by the Japan Society for Occupational Health
feedback
Top