SANGYO EISEIGAKU ZASSHI
Online ISSN : 1349-533X
Print ISSN : 1341-0725
ISSN-L : 1341-0725
Originals
Factors associated with unemployment or job change due to the treatment of designated intractable diseases
Kenryo Ohara Mariko SuzukiNaoko NiigataChika ShiraiYasuko IdogutiMachiko Kawahira
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 63 Issue 5 Pages 143-153

Details
抄録

目的:病気を理由とした退職(転職)は,病気の種類や障害の程度,職場の支援など,様々な要因の影響を受ける.指定難病を理由とした退職(転職)防止のため,介入すべき要因を明らかにする.対象と方法:2019年度(7~12月)に枚方市保健所に医療費助成の更新申請を行った全指定難病患者3,210人にアンケート調査を行い,この内,発病時に正社員,契約社員・派遣社員,パート・アルバイトであった20~59歳の539人を分析対象とした.指定難病を理由とした退職(転職)をイベントの発生,調査時に指定難病の理由で退職(転職)していない者を打ち切り例として,発病後就労期間別の退職(転職)者の割合の推移をKaplan-Meier法により求めた.また,対象者の性,発病時年齢,疾患群,日常生活動作(ADL),発病時雇用形態,発病時の会社で経験した支援内容(勤務時間の短縮,時間単位の休暇の取得など),発病時の会社で病気治療に関する解決できない困りごとといった要因と指定難病を理由とした退職との関係について,Coxの比例ハザードモデルを用いて検討を行った.結果:指定難病を理由とした退職(転職)者の割合は19.4%であった.指定難病を理由とした退職(転職)に有意につながりやすい独立した要因は,発病時年齢50歳代(30歳代基準,HR=2.55,95%CI(1.21–5.37)),外出介助必要以上(一人で外出可能基準,2.31(1.13–4.71)),契約社員・派遣社員(正社員基準,2.66(1.20–5.89)),解決できない困りごとあり(困りごとなし基準,4.15(2.43–7.09))であった.経験した会社の支援には,有意に退職(転職)防止につながる支援はなかった.結論:指定難病を理由とした退職(転職)は,発病時年齢,障害の程度,雇用形態,会社での治療上の困難の存在と有意に関連していた.会社による患者支援と退職(転職)との関連は明確では無かったが,会社での治療上の困難を減らすため,支援を拡大する必要がある.仕事と治療の両立支援は,事業者の義務ではない取組であり,支援拡大のためは事業者が取り組みやすい制度の構築が望まれる.

Abstract

Objectives: Unemployment or job change due to treatment for a disease is affected by various factors such as disease type, degree of disability, and workplace patient support. This study aimed to clarify the factors affecting the unemployment/job-change rate among workers who had designated intractable diseases. Methods: A questionnaire survey was administered to 3,210 designated patients with intractable diseases who underwent applications for renewal of medical care subsidies at the Hirakata City Public Health Center during fiscal year 2019 (July–December). Of these patients, 539 workers aged 20–59 years who were employed as regular workers, temporary contract worker/dispatched workers, and part-time workers when they became designated intractable diseases were subjects of the analysis. Unemployment/job-change due to the treatment for a designated intractable disease was treated as an event occurrence, while the absence of unemployment/job-change due to disease at the time of the survey were considered censored cases. The Kaplan–Meier method was used to determine the trend of the unemployment/job-change rate associated with the duration of work. The Cox proportional hazard model was used to examine the relationship between unemployment/job-change and factors such as gender, age at onset, disease groups, activities of daily living, types of employment, experienced workplace supports (e.g., reduced working hours and hourly paid leave), and existence of insoluble medical difficulties at the workplace. Results: The unemployment/job-change rate due to treatment for designated intractable disease was 19.4%. Significantly independent factors of unemployment/job-change were the following: 50s at onset (compared to those in their 30s, HR = 2.55, 95% CI (1.21–5.37)), requiring outing assistance (compared to going out alone, 2.31 (1.13–4.71)), being a temporary contract worker/dispatched worker (compared to a regular worker, 2.66 (1.20–5.89)), existence of insoluble medical difficulties at workplace (4.15 (2.43–7.09)). Experienced workplace support was not a significant factor in preventing unemployment/job-change. Conclusions: Age at onset, degree of disability, form of employment, and existence of insoluble medical difficulties at the workplace were significantly associated with unemployment/job change due to treatment for designated intractable diseases. The relationship between workplace patient supports and unemployment/job-change was not clear, but to reduce medical difficulties in the workplace, workplace supports must be expanded. Given that workplace support is not an obligatory effort for employers, it is necessary to establish a system where employers can easily promote workplace support.

I. はじめに

診断技術や治療方法の進歩により,慢性疾患の治療を受けながら仕事が続けられる可能性が高まる一方で,慢性疾患を抱える労働者の中には,仕事上の理由で適切な治療を受けられなかったり,治療と仕事を両立することが困難となり,離職を余儀なくされたりする事例があるとされる.このため,国は,2016年2月,企業の人材の確保や生産性の向上,さらに社会の活力の維持向上を目的として,慢性疾患を抱える労働者が,適切な治療を受けながら,仕事を続けられるための企業における取組を促進するため「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」(以下,「両立支援ガイドライン」という.2019年4月に「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」に改称)を定め,特に,がん,脳卒中,肝疾患,難病,心疾患,糖尿病の労働者を対象として取組を進めている1,2

これら慢性疾患のうち,難病については,原因不明かつ治療方法未確立の特定疾患に対して,1972年以降,国による医療費助成が行われていたが(制度変更前56疾病対象),2014年5月に「難病の患者に対する医療等に関する法律」が制定され,2015年1月から法律に基づく指定難病に対する医療費助成が行われている(2020年4月現在333疾病対象)3.2018年度末の指定難病の医療費助成者数は912,714人4,このうち就労世代の20~59歳者は378,481人4(全体の41.5%)であり,同年齢人口(H30推計人口総人口61,953千人5)の0.61%を占める.

治療と仕事の両立支援では,病気を抱える労働者の休業期間や病気を理由とした退職者数を,職場の取組によりいかに減らすかが課題である1,2が,どのような取組が有効であるのかについては,よく知られていない.また,病気の労働者の職場復帰に関する研究は,がん患者の報告が多いが,難病患者の報告は少ない6,7,8,9,10.研究内容についても,事業者を対象とした病気の労働者への支援内容に関する報告が多く11,12,患者(またはその家族)を対象とした報告は少ない13

このため,本研究では,保健所の協力を得て,医療費助成の更新申請時に直接,指定難病患者(またはその家族)に対する調査を実施し,指定難病を理由とした退職(転職)防止のために,就労先の事業場や行政機関が介入すべき要因を明らかにすることを目的とした.

II. 対象と方法

1. 対象

2019年度に特定医療費受給者証(指定難病の医療費助成対象者に交付する証明書)の更新申請を行った指定難病の治療を行う枚方市民3,210人を対象とした.

2. 調査票の配布と回収

指定難病の医療費助成に際しては,患者住所地を管轄する保健所への申請が必要であり,随時の新規申請のほか,毎年の更新申請が必要である.枚方市保健所では,特定医療費受給者証を保有するすべての市民に対し,前年度中に更新申請に必要な書類を郵送し,来所または郵送により受け付けている.

2019年度では,7月1日~12月31日を申請期間として,就労に関する調査項目を含む「療養上のおたずね」という調査票を同封し,更新申請書とともに保健所ヘの提出を依頼された.「療養上のおたずね」には,「ご記入いただいた情報は個人情報保護を遵守します.個人情報が特定されない状況で,公的な資料として報告することがあります.」と個人情報保護と調査結果の活用について説明されている.また,就労に関する調査項目では,「差支えのない範囲でご記入ください.」と記載され,回答を強制していない.調査は自記式調査であるが,対象者の来所時に,保健所保健師が必要に応じて,「療養上のおたずね」の内容について聞き取りが行われた.

3. 調査結果の研究利用

「療養上のおたずね」による調査結果は保健所が把握した行政情報であり,これら情報の研究目的の利用は,国の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」14に基づき,倫理審査委員会承認後の約1ヶ月間,枚方市ホームページを利用した情報公開と対象者意思による研究参加拒否の機会の確保を行った.

4. 分析項目

「療養上のおたずね」で把握した情報のうち,氏名,電話番号という個人が特定される情報は削除し,就労に関する調査で得られた結果を主たる分析項目とした.これら分析項目については,発病から調査時までの年数などの数値記入や自由記載の質問を除き,予め準備した選択肢から回答を求める形式であった.

具体的には,基本属性である対象者の性別,調査時年齢(10歳年齢階級で整理)のほか,病名,日常生活動作(介護保険制度の要介護認定で利用されている「障害高齢者の日常生活自立度」15による調査時のADL:ランクJ・A・B・Cの別)),発病から調査時までの年数,病気になった時点と調査時の就労等の状況(正社員,契約社員・派遣社員,パート・アルバイト,自営業,学生,その他 ,就労なしの別),病気が原因の退職(転職)の有無,発病から退職(転職)までの年数,病気になった時点の会社で病気のために経験された会社の支援内容(以下,経験した会社支援),病気になった時点の会社で病気治療に関して解決できない会社での困りごと(以下,解決できない困りごと)の有無とその具体的内容などである.

経験した会社支援は,病気について上司等と相談,業務量の変更,業務内容の変更,在宅勤務,勤務時間の短縮,時差出勤,時間単位の休暇の取得,病気休暇(有給)の取得,1月以上の連続休暇の取得,休息室など会社設備の改良の10項目であり,両立支援ガイドライン1,2に記載された,事業者が病気の労働者に対して行う就業上の措置や治療上配慮する内容が設定された.

病名は,国が示す指定難病の疾病名のほか,厚生労働科学研究費補助金・難治性疾患政策研究事業の報告による疾患群別の分類方法(神経・筋疾患,免疫疾患,消化器疾患など15疾患群)で整理した16.また,複数の指定難病の治療を行う者の病名は,第1病名(最初に申請のあった病名)を採用した.

また,調査時年齢から,発病から調査時までの年数を減じた数字を,発病時年齢として定義し,10歳年齢階級により整理した.解決できない困りごとの具体的内容は,症状による業務影響,職場理解の課題,職場制度の課題,退職勧奨・解雇,職場相談なし,職場環境の課題,その他の7項目に分類し,整理した.

5. 分析方法

本研究での退職(転職)は,会社組織からの退職(転職)を想定し,分析対象者を,病気になった時点の雇用者(正社員,契約社員・派遣社員,パート・アルバイト)とし,また,定年による影響を排除するため,調査時年齢が20~59歳の者に限定することとした.

分析に当たっては,病気を原因とした退職(転職)をイベントの発生,調査時に病気が原因で退職(転職)していない者を打ち切り例として,発病後就労期間別の退職(転職)者の割合の推移をKaplan-Meier法により求め,個人属性別の退職(転職)割合曲線の比較にlog-rank testを用いた.発病後就労期間については,病気が原因による退職(転職)ありの者は発病から退職(転職)までの年数,それ以外の者は発病から調査時までの年数とした.なお,結果参照に当たっては,退職(転職)者の割合は,病気を原因とした者の割合であり,病気以外を原因とした者は含まれていないことに留意が必要である.

一方,対象者の性,発病時年齢階級,疾患群,日常生活動作(ADL),発病時雇用形態,経験した会社支援や解決できない困りごとといった要因と病気による退職(転職)イベントとの関係の検討には,Coxの比例ハザードモデルによるハザード比(HR)とその95%信頼区間(95%CI)を用いた.

具体的には,先ず各要因を説明変数とした単変量解析を行い,次いで単変量解析で有意に関連性の認められた要因と患者の性,発病時年齢階級,疾患群,日常生活動作(ADL),発病時雇用形態を説明変数としたモデルにより多変量解析(強制投入法)を行った.

なお,統計解析にはIBM SPSS Statistics バージョン25を用い,p値が0.05未満の場合に帰無仮説を棄却した.本研究は,日本産業衛生学会倫理審査委員会の承認(2020年6月9日付け)を得て実施した.

III. 結果

1. 分析対象者の属性

2019年度(7月1日~12月31日)に特定医療費受給者証の更新申請を行った指定難病患者は3,210人であり,その9割以上が来所による申請であり,郵送による申請は少数であった.「療養上のおたずね」は3,194人から回収された(回収率99.5%).また,研究参加拒否の意思を申し出た者はおらず,有効回答者数は3,194人であった.

調査時に20~59歳の者は1,204人(有効回答者の37.7%)であり,このうち,病気になった時点(発病時)の就労状況は,正社員,契約社員・派遣社員,パート・アルバイトが673人(55.9%),自営業37人(3.1%),学生159人(13.2%),その他41人(3.4%),就労なしが190人(15.8%),未記入が104人(8.6%)であった.一方,調査時の就労状況は,それぞれ692人(57.5%),39人(3.2%),21人(1.7%),26人(2.2%),286人(23.8%),140人(11.6%)と,発病時と比較して,就労なし者の割合が増加していた.正社員,契約社員・派遣社員,パート・アルバイト,自営業,その他の者を就労者と定義した場合,調査時の就労者数は757人であり,就労率は62.9%(20~59歳),性別では男性73.2%,女性54.7%であった.

退職(転職)状況の推移の分析には,発病時に正社員,契約社員・派遣社員,パート・アルバイトであった者673人のうち,日常生活動作(ADL)と発病後就労期間のデータが無い者を除いた539人を分析対象者とした.

分析対象者539人の内訳は,表1のとおり,女性283人(52.5%),男性256人(47.5%)と女性が多かった.調査時年齢は,50歳代が240人(44.5%)と最も多く,40歳代185人(34.3%),30歳代86人(16.0%),20歳代28人(5.2%)の順であり,発病時年齢は,30歳代が181人(33.6%)と最も多く,29歳以下150人(27.8%),40歳代146人(27.1%),50歳代62人(11.5%)の順であった.

表1. 分析対象とした指定難病患者539人の属性
性別男性25647.5
女性28352.5
調査時年齢20歳代285.2
30歳代8616.0
40歳代18534.3
50歳代24044.5
発病時年齢29歳以下15027.8
30歳代18133.6
40歳代14627.1
50歳代6211.5
疾患群*神経・筋疾患7313.5
免疫疾患11821.9
消化器疾患20137.3
その他疾患群14727.3
日常生活動作(ADL)**ランクJ50794.1
(一人で外出可能)
ランクA~C325.9
(外出介助必要以上)
発病時雇用形態正社員35666.0
契約社員・派遣社員336.1
パート・アルバイト15027.8
*  :難病の患者に対する医療等に関する法律(平成26年法律第50号)に基づき指定される指定難病の疾病名により分類したもの.

**  :厚生労働省「障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準」の活用について(平成3年11月19日老健第102-2号)による.

疾患群別では,消化器疾患201人(37.3%),免疫疾患118人(21.9%),神経・筋疾患73人(13.5%),その他疾患群147人(27.3%)であった.病名別では,潰瘍性大腸炎140人(30.1%),全身性エリテマトーデス54人(10.0%),クローン病51人(9.5%),多発性硬化症・視神経脊髄炎18人(3.3%),パーキンソン病16人(3.0%)などであった.

調査時の日常生活動作(ADL)は,ランクJ(一人で外出可能)が507人(94.1%)と全体の9割を超えており,ランクA~C(外出介助必要以上)が32人(5.9%)であった(ランクA~Cの者が少数であったためひとくくりとした).発病時の雇用形態は,正社員が356人(66.0%)と最も多く,パート・アルバイト150人(27.8%),契約社員・派遣社員33人(6.1%)であった.

病気が原因で退職(転職)したと回答したものは73人(13.5%)であった.対象者の発病から調査時までの期間は平均10.1(SD8.0)年,病気を理由とした退職(転職)者の発病から退職(転職)までの期間は平均2.7(SD4.4)年であった.

経験した会社支援については,経験者の多い順に,病気について上司等と相談302人(56.0%),病気休暇(有給)の取得152人(28.2%),1月以上の連続休暇の取得103人(19.1%),業務内容の変更91人(16.9%),業務量の変更85人(15.8%),勤務時間の短縮66人(12.2%),時差出勤25人(4.6%),時間単位の休暇の取得20人(3.7%),在宅勤務6人(1.1%),休息室など会社設備の改良4人(0.7%)であった.

また,解決できない困りごとのあった者は67人(12.4%)であった.解決できない困りごとの具体的内容は59人から回答があり,症状による業務影響17人(28.8%),職場理解の課題16人(27.1%),職場制度の課題13人(22.0%),退職勧奨・解雇4人(6.8%),職場相談なし3人(5.1%),職場環境の課題2人(3.4%),その他4人(6.8%)であった.

2. 病気を原因とする退職(転職)割合の推移

図1に539人の発病後就労期間に伴う病気を原因とする退職(転職)イベントの発生割合の推移を示す.病気を原因とする退職(転職)割合は,就労期間に伴い上昇しているが,発病後10年までの増加が大きく,その後はなだらかに増加し,最終的な退職(転職)割合は19.4%であった.

図1.

Kaplan-Meier法を用いた指定難病患者539人の累積病気退職(転職)率の推移曲線

図2では,対象者の属性別の退職(転職)割合曲線を示す.性別では,女性の退職(転職)割合が,男性に比べ有意に高率に推移しており(p<.05),最終的な退職(転職)割合は,女性30.0%,男性9.8%であった(図2-1).

図2.

指定難病患者の属性別の累積病気退職(転職)率の推移曲線

発病時年齢階級別では,50歳代の退職(転職)割合が30歳代,40歳代に比べ有意に高率に推移しており(p<.05),最終的な退職(転職)割合は,50歳台23.8%,29歳以下21.3%,30歳代19.3%,40歳代12.5%であった(図2-2).

疾患群別では,神経・筋疾患と免疫疾患の退職(転職)割合が,消化器疾患に比べ有意に高率に推移していた(p<.05).最終的な退職(転職)割合は,神経・筋疾患30.3%,免疫疾患22.9%に対して,その他疾患群19.5%,消化器疾患13.5%であった(図2-3).

日常生活動作(ADL)別では,ランクA~C(外出介助必要以上)の退職(転職)割合が,ランクJ(一人で外出可能)に比べ有意に高率に推移していた(p<.05).最終的な退職(転職)割合は,ランクA~C40.5%,ランクJ18.2%であった.

発病時雇用形態別では,契約社員・派遣社員の退職(転職)割合が,正社員に比べ有意に高率に推移していた(p<.05).最終的な退職(転職)割合は,契約社員・派遣社員30.0%,パート・アルバイト20.4%,正社員17.1%であった(図2-4).

3. 経験した会社支援や解決できない困りごとと退職(転職)割合の関連

表2に,性,発病時年齢階級,疾患群,日常生活動作(ADL),発病時雇用形態,経験した会社支援,解決できない困りごとの回答別の退職(転職)割合と,病気を原因とする退職(転職)イベントのHR(95%CI)を示す(経験した会社支援のうち,在宅勤務と休息室などの会社設備の改良は,支援経験者数が少ないため分析対象から除外した).

表2. 指定難病が原因の退職(転職)と個人属性や業務要因との関連性(N=539)
病気退職
(転職)なし
(N=466,86.5%)
病気退職
(転職)あり
(N=73,13.5%)
model 1
単変量
ハザード比(HR)
(95%信頼区間)
model 2
多変量調整**
ハザード比(HR)
(95%信頼区間)
性別男性234(91.4%)22(8.6%)1.01.0
女性232(82.0%)51(18.0%)2.26(1.37–3.73)*1.75(0.96–3.18)
発病時年齢29歳以下123(82.0%)27(18.0%)1.70(0.94–3.07)1.69(0.91–3.13)
30歳代162(89.5%)19(10.5%)1.01.0
40歳代131(89.7%)15(10.3%)1.11(0.57–2.20)1.23(0.62–2.45)
50歳代50(80.6%)12(19.4%)2.74(1.32–5.70)*2.55(1.21–5.37)*
疾患群神経・筋疾患53(72.6%)20(27.4%)2.51(1.30–4.85)*1.64(0.80–3.36)
免疫疾患97(82.2%)21(17.8%)1.78(0.93–3.41)1.45(0.73–2.90)
消化器疾患185(92.0%)16(8.0%)0.68(0.34–1.37)0.79(0.38–1.64)
その他疾患群131(89.1%)16(10.9%)1.01.0
日常生活動作(ADL)ランクJ
(一人で外出可能)
446(88.0%)61(12.0%)1.01.0
ランクA~C
(外出介助必要)
20(62.5%)12(37.5%)3.12(1.68–5.80)*2.31(1.13–4.71)*
発病時雇用形態正社員316(88.8%)40(11.2%)1.01.0
契約社員・派遣社員24(72.7%)9(27.3%)2.84(1.38–5.86)*2.66(1.20–5.89)*
パート・アルバイト126(84.0%)24(16.0%)1.55(0.93–2.57)1.20(0.65–2.21)
【会社で経験した支援内容】
病気について
上司等と相談
なし201(84.8%)36(15.2%)1.0
あり265(87.7%)37(12.3%)0.82(0.52–1.30)
業務量の変更なし394(86.8%)60(13.2%)1.0
あり72(84.7%)13(15.3%)1.15(0.63–2.09)
業務内容の変更なし392(87.5%)56(12.5%)1.0
あり74(81.3%)17(18.7%)1.47(0.85–2.53)
在宅勤務***なし463(86.9%)70(13.1%)
あり3(50.0%)3(50.0%)
勤務時間の短縮なし407(86.0%)66(14.0%)1.0
あり59(89.4%)7(10.6%)0.75(0.34–1.64)
時差出勤なし445(86.6%)69(13.4%)1.0
あり21(84.0%)4(16.0%)1.32(0.48–3.61)
時間単位の休暇の取得なし448(86.3%)71(13.7%)1.0
あり18(90.0%)2(10.0%)0.73(0.18–2.97)
病気休暇(有給)の取得なし333(86.0%)54(14.0%)1.0
あり133(87.5%)19(12.5%)0.89(0.52–1.49)
1月以上の連続休暇の取得なし383(87.8%)53(12.2%)1.0
あり83(80.6%)20(19.4%)1.67(0.99–2.79)
休息室など会社設備の改良***なし462(86.4%)73(13.6%)
あり4(100.0%)0(0.0%)
会社で病気治療に関して解決できない困りごとなし352(91.0%)35(9.0%)1.01.0
あり42(62.7%)25(37.3%)4.88(2.92–8.15)*4.15(2.43–7.09)*
未記入72(84.7%)13(15.3%)1.71(0.91–3.23)1.42(0.74–2.73)
*  :p<.05(COXの比例ハザードモデル<強制投入法>による.)

**  :会社で経験した支援や解決できない困りごとは,単変量解析で有意に関連性の認められた項目を多変量解析の説明変数として投入した.

***  :支援経験者数が少ないので,単変量・多変量解析の対象から除外した.

model 1 は単変量解析によるHRと95%CI,model 2は経験した会社支援や解決できない困りごとの内,単変量解析で有意に関連性の認められた項目と労働者の性,発病時年齢階級,疾患群,ADL,発病時雇用形態を説明変数とした多変量解析(強制投入法)による調整HRと95%CIを示す.HRが1を下回っている場合は,基準とした項目に比べ退職(転職)につながりにくいことを,逆に1を上回っている場合には基準とした項目に比べ退職(転職)につながりやすいことを意味する.

結果,単変量解析では,女性(男性基準),発病時年齢50歳代(30歳代基準),神経・筋疾患(その他疾患群基準),ADLランクA~C(ランクJ基準),契約社員・派遣社員(正社員基準),解決できない困りごとあり(困りごとなし基準)のHRが有意に1を上回っていた.パート・アルバイト(正社員基準),経験した会社の支援あり(支援なし基準)では有意な差は見られなかった.

多変量解析では,発病時年齢50歳代(30歳代基準),ADLランクA~C(ランクJ基準),契約社員・派遣社員(正社員基準),解決できない困りごとあり(困りごとなし基準)の調整HRが有意に1を上回っていた.性別,疾患群では有意な差は見られなかった.

IV. 考察

難病患者の就労状況については,難病制度が日本特有の制度であり,患者数も比較的少ないことから,報告は少ない6,7,8,9,10.先行研究での難病患者の就労率は,55.9%(全年齢対象)6,54.2%(17~65歳対象)8,51.6%(15~64歳対象)9,40.3%(全年齢対象)10であり,本研究の62.9%(20~59歳対象)は,無職者の多い60歳以上者を対象から除外していることを考慮すれば,許容できる数字と考えられる.

病気を理由とした退職者数を減らすことは,仕事と治療の両立支援の大きな目標であり1,2,難病を理由とした退職者の割合は先行研究でも報告がある.具体的には,最近10年間の難病に関する離職者が31.6%(18~74歳対象)8,特定疾患(難病)の罹患が失業理由であった者が21.0%(全年齢対象)10であり,本研究の退職(転職)率19.4%(20~59歳)は,対象者の年齢構成を考慮すれば,許容できる数字と考えられる.なお,今回,退職(転職)をひとつのイベントとして分析を行ったが,これは調査段階で退職と転職を区別せず把握されたことによる.転職は退職を経ることから,このことが結果に影響を及ぼすものではないが,就労継続性の検討を行う際には区別することが必要である.

今回,指定難病を理由とした退職(転職)に有意につながりやすい独立した要因は,発病時年齢50歳以上,外出介助必要以上(ADLランクA~C),発病時に契約社員・派遣社員,解決できない困りごとありであり,性,疾患群,経験した会社の支援は有意な要因とは言えなかった.

発病後の職場復帰や勤務継続につながる要因については,近年,がんや脳卒中患者を対象とした報告が多い17,18,19,20,21,22,23,24が,難病患者全般を対象とした報告は見当たらない.勤労世代に患者の多い炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病),全身性エリテマトーデス,多発性硬化症といった個別の難病では,性,年齢,症状等との関連性の報告はある25,26,27が,職場の支援など業務との関連性の報告は少ない28.難病患者の職場復帰等の先行研究が少ないことを踏まえ,本研究ではがんや脳卒中患者の先行研究も参考にし,結果の考察を行う.

2000~2015年に出版された,がん患者を対象とした43研究の文献研究18では,がん生存者の職場復帰に影響するリスクファクターとして,社会人口統計要因(高年齢,低教育,低収入),疾病治療関連要因(部位,進行がん,化学療法等,疲労・疼痛・うつ症状),業務関連要因(低職位,民間企業,厳しい仕事,同僚・事業者の支援),個人的主観的要因(仕事の意義)を上げている.本研究では,性別と発病時年齢を「個人要因」,疾患群と日常生活動作(ADL)を「疾病要因」,発病時雇用形態と経験した会社の支援や解決できない困りごとを「業務要因」と分類し,検討を行う.

まず,個人要因では,発病時年齢50歳代(30歳代基準)が有意に退職(転職)につながりやすい要因であった.また,多変量解析では有意とならなかったが,29歳以下の退職(転職)HRが高い状況にあった.概ね50歳以上の高年齢者ほど勤務継続につながりにくいとの報告は,がん17,18,19,20や脳卒中21,22,23,24患者でも見られるが,一部報告ではこれに加え,20歳代の若年者についても勤務継続につながりにくいとの報告20,24もあり,今回の結果とも一致している.50歳代の指定難病患者が退職(転職)につながりやすい理由は,本人の体力低下や定年までの期間が短いこと,早期退職制度の普及などが影響している可能性があるが,今後詳細な研究が必要である.難病では,がんや脳卒中とは異なり,29歳以下の発病も比較的多いことから,若年者の退職(転職)対策を検討する必要性が考慮される.

今回,女性であること(男性基準)は,単変量解析では有意に退職(転職)につながりやすい要因であったが,多変量解析では有意な要因とは言えなかった.女性が勤務継続につながりにくいとの報告は,脳卒中患者で多いが21,22,23,がん患者では結果が一定しておらず18,19,20,病気により異なる可能性がある.一方,日本では,がん29,脳卒中30や腎移植後31の患者で,女性が勤務継続につながりにくいとの報告があり,地域性により異なる可能性もある.結果検討には更なる研究が必要である.

次に,疾病要因であるが,日常生活動作(ADL)で外出介助必要以上の状態は,有意に退職(転職)につながりやすかった(一人で外出可能が基準).先行研究では,「障害なし」又は「日常の活動はできる」難病患者の就労率は6割以上(全年齢対象)であるが,それ以上のADL障害(すべての日常生活がひとりでできる訳ではないより重度)の患者の就労率は2割以下と極端に低下するとの報告10がある.

疾患群では,神経・筋疾患と免疫疾患の退職(転職)HRが高く(その他疾患群が基準),消化器疾患で低かったが,多変量解析では有意差は見られなかった.神経・筋疾患の多くは運動機能の障害,免疫疾患では発熱や全身疲労等の多彩な障害,消化器疾患の多くを占める炎症性腸疾患では排便機能の障害が主たる症状であるが,これら症状による業務への影響の程度が異なることが,退職(転職)の差につながっている可能性がある.先行研究でも,就労者率は神経系(神経・筋疾患),膠原病系(免疫疾患)で低く,消化器系(消化器疾患)で高いとされ6,本研究結果とも合致している.

業務要因では,まず,発病時雇用形態が契約社員・派遣社員であったこと(正社員基準)は有意に退職(転職)につながりやすい要因であり,パート・アルバイトであったことは有意な要因とは言えなかった.アメリカの乳がん患者に対する研究では,フルタイム/パートタイムといった患者の診断時の雇用形態の違いと診断後4年間の失業に関連性はなく32,その他がん患者に対する文献研究17,18,19でも雇用形態と勤務継続の関連性の報告はない.一方,がん患者に対する日本の研究では,非正規雇用者(契約労働者,派遣労働者,パート,アルバイト等)は有意に職場復帰につながりにくいとの報告29,33があり,結果は一定していない.

その上,今回の結果では,契約社員・派遣社員とパート・アルバイトの退職(転職)状況の差が明らかとなった.契約社員・派遣社員とパート・アルバイトの退職差については,これまで同様の報告は見当たらないが,15日以上の病気休暇リスクが,有期契約社員で正社員より高く,パートで低いが,その理由をそれぞれ不安定な雇用による心理的ストレスと勤務時間の短さによるストレスの少なさを指摘するスウェーデンの報告34がある.非正規雇用者の文献研究では,正規雇用者が非正規雇用者より病欠取得の頻度が高いとする報告が多く,正規雇用者の休暇・休業制度が非正規雇用者より優遇されている可能性や,非正規雇用者が立場上休みにくい状況にある可能性を指摘している35.日本の契約社員・派遣社員とパート・アルバイトの指定難病を理由とした退職(転職)状況が異なる理由については,勤務時間の違いや正社員との制度の違いによる可能性があるが,結果検討には更なる研究が必要である.働き方改革推進の一環として,いわゆるパートタイム・有期雇用労働法が改正され,2020年4月から(中小企業では2021年度から),正社員と非正規雇用者間の不合理な待遇差が禁止され,非正規雇用者への正社員同等の病気休暇や病気休職の付与が事業主に課されることとなった36.病気休暇や病気休職は,法律によらない事業者任意の取組であるが,同じ職場での待遇差の解消による病気退職(転職)の減少を期待したい.

次に,経験した会社の支援であるが,両立支援ガイドライン1,2では,事業者が取組む内容として「就業上の措置(就業場所の変更,作業の転換(業務内容の変更),労働時間の短縮など)」,「治療に対する配慮(時間単位の年次有給休暇,病気休暇,時差出勤,短時間勤務,在宅勤務,試し出勤の各制度)」,「労働者本人の申出しやすい環境整備」を上げており,本研究では,このうち10項目の支援について分析を行ったが,いずれも有意に退職(転職)防止につながる支援とは言えなかった.ただ,支援内容を個別にみると,病気について上司等との相談,勤務時間の短縮,時間単位の休暇の取得,病気休暇(有給)の取得では退職(転職)HRが1を下回っており(支援なし基準),逆に業務量の変更,業務内容の変更,時差出勤,1月以上の連続休暇の取得では退職(転職)HRが1を上回っており,対象者の病状との関連を考慮する必要があるが,退職(転職)防止につながりやすい支援とそうとは言えない支援のある可能性がある.

がん患者に対する事業者や同僚による支援は,勤務継続につながる要因との報告がある17,18.アメリカの乳がん患者に対する研究では,病気休暇や柔軟なスケジュールを利用できる仕事に従事していることを雇用支援と定義し,雇用支援が無いことが,診断後4年間の失業と有意に関連する独立した要因であったと報告している32.また,ブラジルの乳がん患者に対する研究では,病気診断後の事業者による職場調整(workplace adjustment)が,24ヶ月後の勤務継続に有意に関連する独立した要因であったと報告している37.これら報告では職場支援の内容が明確ではなく,がん患者と難病患者とは病状経過が異なることから,難病患者への職場支援の効果については,対象者の状況や支援の内容や程度を含めて,詳細な研究が必要である.

経験した会社の支援に関して,今回,病気について上司等と相談した者は56.0%であった.難病患者を対象とした先行研究との比較では,病名を事業主に告知した就労者の割合62.2%(全年齢対象)6,職場の管理者に病気罹患の報告をした就業者の割合66.7%(全年齢対象)10よりやや少ないものの,4割以上の者が上司等と相談していない.両立支援ガイドライン1,2では,両立支援は私傷病に関わるものであり,労働者本人から事業者への支援を求める申出による取組開始が基本とされている.今回の結果では,有意ではなかったが,上司等と相談した者は,相談していない者より退職(転職)者の割合は低く,対象者の状況によっては退職(転職)防止につながる可能性がある.一方,先行研究では,病気の職場への申出はメリットよりデメリットが多いと考えている労働者が少なくない11との報告がある.まずは,職場への申出により不利益が生じないことを労働者に理解される職場環境整備が必要であろう.

会社で病気治療に関して解決できない困りごとのあったことは,有意に退職(転職)につながる要因であった(困りごとなし基準).解決できない困りごとの具体的内容は,症状による業務影響,職場理解の課題,職場制度の課題に関することが多かった.このうち,症状による業務影響や職場制度の課題については,前述の疾病要因,雇用形態,会社の支援とも関連する内容であるが,それ以外の課題として,職場理解の課題が多く上げられていた.両立支援ガイドライン1,2では,両立支援を行うための環境整備として,事業者による基本方針等の表明と労働者への周知,研修等による両立支援に関する意識啓発,相談窓口等の明確化,両立支援に関する制度・体制等の整備の4項目を上げている.職場理解の課題の訴えが多かったことを踏まえ,研修等による上司や同僚に対する意識啓発を更に進める必要性が考慮された.本研究では,職場理解の課題解決につながると考えられる支援の検討がなされていないため,今後はこの点を含めた検討が必要である.

今回の結果では,会社で解決できない困りごとのあることが有意に退職(転職)につながりやすい要因であった一方,会社による種々の支援が必ずしも退職(転職)防止につながっていなかった.これは,難病の症状が重く,会社支援の効果が上がらなかった場合もあるのだろうが,経験者の少ない支援もみられることから,支援必要な者に適切な支援が提供されていなかった可能性がある.2018年の国の調査38によると,仕事と治療を両立できるような取組のある事業所(10人以上雇用)は55.8%とされる.しかし,その内訳として,90.5%は「通院や体調等の状況に合わせた配慮,措置の検討」をされているが,具体的な取組としては「相談窓口の明確化」23.1%,「両立支援に関する制度の整備」28.0%,「労働者,管理監督者等に対する意識啓発(研修等)」12.3%と実施率は低い.また,別の国の調査39では,病気休暇制度のある企業割合(30人以上雇用)は25.7%(有給無給を含む)に過ぎない.先行研究11でも,企業(規模10人以上)での両立支援の取組は,「就業配慮に関する相談窓口」30.6%,「時間単位の年次有給休暇」26.2%,「短時間勤務」51.8%,「在宅勤務,テレワーク」14.5%等であり,企業規模により差はあるものの,全体として実施率は低く,実施率の向上が今後の課題である.さらに,両立支援ガイドライン1,2では,就業上の措置や治療に対する配慮の内容は,事業者が主治医や産業医等への意見聴取結果を踏まえ,実施するとされる.これまで事業者との接点の少なかった医師との連携により,支援必要な患者に適切な支援を進めることも検討課題である.2016年4月から,いわゆる障害者差別解消法が施行され,難病患者を含めた障害者に対する合理的配慮が事業者の努力義務とされた40.合理的配慮の考え方には,両立支援の内容も含まれることから,事業者による更なる取組実施に期待したい.

本研究の限界は,第1に,人口40万人の単一地方自治体での調査結果であり,全国を代表する結果とはいえない.第2に,調査では保健所保健師による聞き取りが一部で実施されたものの,基本的には自記式調査であり,情報バイアスの問題がある.特に,調査対象者は発病から長期間を経過した者もおり,正確な情報把握ができていない可能性がある.また,会社の退職(転職)経験の情報は,対象者によっては回答を望まない情報であり,実際の退職(転職)者数は今回の結果より多い可能性がある.第3に,今回の分析対象者には,発病が数十年以上前の者も最近の者も含まれており,この間の会社の支援状況などの労働環境の変化は考慮に入れていない.その他,単一地方自治体での横断調査の結果分析であるため,過去の他自治体への転出者,症状悪化による死亡者,症状軽快や制度変更に伴う対象からの離脱者の状況は結果に加味されていないことがあげられる.

このような限界があるものの,本研究では保健所での医療費助成の更新申請時に併せて調査が実施されたため,高い回収率をもって指定難病患者の状況を把握できた.指定難病患者に対する調査は,疾病別患者団体の協力を得て実施されることもあるが7,8,9,保健所の協力を得た調査6,10では,より効率的な情報把握が可能となる.保健所は医療費助成の窓口として指定難病患者とのかかわりが強く,患者への就労支援を行いやすい立場にある.保健所を指定難病患者の就労支援の窓口として位置づけ,患者情報を無理なく収集できるシステムの構築が望まれる.

指定難病を理由とした退職(転職)は,発病時年齢,障害の程度,雇用形態,会社での治療上の困難の存在と有意に関連していた.会社による患者支援と退職(転職)との関連は明確では無かったが,会社での治療上の困難を減らすため,支援を拡大する必要がある.仕事と治療の両立支援は,事業者の義務ではない取組であり,支援拡大のためは事業者が取り組みやすい制度の構築が望まれる.

謝辞

調査に協力いただきました市内指定難病患者の皆様をはじめ,データ入力に尽力をいただきました保健所職員の皆様に感謝いたします.

利益相反

利益相反自己申告:申告すべきものなし

文献
 
© 2021 by the Japan Society for Occupational Health
feedback
Top