2022 Volume 64 Issue 1 Pages 12-21
目的:生体時計と社会時間の不一致である社会的ジェットラグ(Social jetlag:以下SJL)は心身の不調を呈することが知られており,「出勤しているにも関わらず,心身の健康上の問題により十分なパフォーマンスを発揮できない状態」であるプレゼンティーズムに関連する可能性が考えられる.しかしながら,日本における成人労働者を対象としたSJLとプレゼンティーズムの関連は十分に検討されていない.本研究の目的は1)製造業成人労働者を対象に仮説「SJLを経験している労働者はプレゼンティーズムによる労働機能障害の程度が高い」の検証2)SJLとプレゼンティーズムとの関連性が働き方と睡眠関連要因を考慮しても成立するかを検証することである.対象と方法:製造業事業所に勤務する成人労働者1,573名を対象に質問紙調査を実施し,1,501名より回答を得た(回答率95.4%).ミュンヘンクロノタイプ質問紙のガイドラインに基づき,回答に不備がある者,休日にアラームを使用する者等,クロノタイプの判定ができない者を除外し最終解析対象は980名(男性80.7%,平均年齢44.4±11.3歳)とした.SJLはミュンヘンクロノタイプ質問紙日本語版,プレゼンティーズムはWFun (Work Functioning Impairment Scale)を用いてプレゼンティーズムによる労働機能障害の程度を測定した.プレゼンティーズムを従属変数とし,独立変数としてSJL,勤務間インターバル,平日の睡眠時間と不眠を順に投入する階層的重回帰分析を行い説明力の変化を確認した.なお,モデル2と3では年齢,性別,職位,職種,雇用形態,勤務型,労働時間制を共変量とした.結果:階層的重回帰分析の結果,SJL単独ではプレゼンティーズムと有意な関連を認めた(β=.066, p=.038)が,労働と睡眠関連項目で調整すると有意性が消失した.最終モデルで労働機能障害と有意な関連を認めた項目は勤務間インターバル(β=-.076, p=.017)と不眠(β=.470, p<.001)であった(調整済みR2=.239).考察と結論:仮説「SJLを経験している労働者はプレゼンティーズムによる労働機能障害の程度が高い」はSJL 単独では検証されたが,勤務間インターバルおよび不眠を考慮した場合,その関連性は消失した.従って,SJLとプレゼンティーズムの直接的な関連は否定された.SJLを経験する労働者には不眠の認識をまず確認し,不眠の認識が確認された場合にはプレゼンティーズムが発生している可能性を考慮するというように2段階でリスクを考えなくてはならないと思われる.
Objectives: Research suggests that misalignment of the biological clock and social time, referred to as social jetlag (SJL), can induce physical and mental disorders. SJL may also be associated with presenteeism (i.e., a state in which workers are unable to perform sufficiently due to mental and physical health problems, even though they are going to work). However, the association between SJL and presenteeism among workers in Japan remains unclear. This study aimed to verify the following hypotheses in a sample of workers in an industrial setting in Japan: “Workers exhibiting SJL have a high degree of work functioning impairment due to presenteeism” and “An association between SJL and presenteeism exists, even when taking work style and sleep-related factor into consideration.” Methods: A self-administered questionnaire survey was conducted with 1,573 workers in the manufacturing industry. Of these, 1,501 participants responded (response rate: 95.4%). Individuals who provided invalid answers or used alarm clocks to wake on work-free days were excluded, according to the Munich Chronotype Questionnaire (MCTQ) guidelines. The final sample comprised 980 participants (80.7% male; average age: 44.4 [SD 11.3] years). SJL was assessed using the MCTQ. Presenteeism was measured using the work functioning impairment scale. Using presenteeism as the dependent variable, we conducted hierarchical multiple regression analyses to compare the explanatory power of the different models. Independent variables were SJL, daily rest period between workdays, weekday sleep duration, and subjective insomnia. Models 2 and 3 were adjusted for age, sex, employment position, occupation, employment status, and working regulations. Results: Multiple regression analyses indicated that SJL was significantly and individually associated with presenteeism (β = .066, p = .038). After adjusting for work- and sleep-related variables (Models 2 and 3), SJL no longer contributed significantly to presenteeism. In the final model, daily rest periods (β = .076, p = .017) and subjective insomnia (β = .470, p < .001) remained significantly associated with presenteeism (adjusted R2 = .239). Conclusions: The hypothesis “Workers experiencing SJL have a high degree of work functioning impairment due to presenteeism” was supported in our univariate analysis. However, after considering the influence of subjective insomnia and daily rest periods, the association disappeared. Therefore, a direct relationship between SJL and presenteeism is not supported. Thus, the risk of presenteeism should be considered in two stages, first confirming the perception of insomnia among workers who experience SJL, and then considering the possibility of presenteeism occurring.
社会的ジェットラグ(Social Jetlag:以下SJL)とは,学校や仕事などに関連した画一的な社会時刻と個人の生体時計の性質の不一致によって心身の不調を呈する状態のことを指す1).本来,睡眠は個人差がある生体時計と睡眠恒常性の相互作用で決定される.しかし我々の多くは学校や仕事,家事などの社会的制約により,平日には内的欲求に応じて寝起きすることが難しく,自然な覚醒時刻よりも早く起床することによる睡眠の前進と睡眠不足を経験している.一方,休日は蓄積した睡眠負債を解消するため,長時間の睡眠と,それによる睡眠の後退が生じる.このような睡眠のタイミングのずれがSJLを引き起こす.
SJLの疫学的な知見として中央ヨーロッパ人を対象とした調査では,SJLの経験なしは13%で,少なくとも1時間が69%,2時間以上のSJLは1/3に認められた2).オーストラリアでは1時間超のSJLは1/33),日本人を対象としたインターネット調査では1時間以上のSJLが約4割に認められた4,5).労働時間に制約のある労働者にとってSJLは慢性的な問題であり,産業化社会で広く認められる公衆衛生学上の問題ととらえられている6).
SJLの健康影響として,身体的不活動の増加7,8),労働適応能力の低下9),抑うつ状態10,11),肥満12)やメタボリックシンドローム5),糖代謝,脂質異常といった内分泌・代謝障害13,14)のリスクが高いと報告されている.また,平日の睡眠負債を解消するため週末は平日より平均して3時間多く睡眠をとり,概日リズムが後退することで翌週前半には眠気と疲労感が増加する15).つまりSJLは心身の健康への様々な影響に加え,睡眠負債を併発している.さらにSJLのある労働者は,SJLのない労働者の2倍体調不良でも出勤するとの報告3)もあることから「出勤しているにも関わらず心身の健康上の問題により十分なパフォーマンスを発揮できない状態」16)と定義されるプレゼンティーズムに関連している可能性が考えられる.
SJLとパフォーマンスの関連は中高生・大学生といった若年層を対象として検討されており,SJLが大きいほど認知検査結果や学業成績は悪化することが明らかになっている17,18).成人を対象とした研究はYongらが,SJLが大きいほど労働適応能力(work ability)は低いと報告している9).この労働適応能力は現在の労働能力を測定し,将来の労働能力の変化を予測する目的で作られたWork Ability Index19)で測られ,仕事の要求を成し遂げる労働者の能力を表す.労働適応能力は加齢による身体能力の低下や心身の健康状態,職場環境,人間関係の影響をうけ,将来の常習欠勤(アブセンティーズム)の予測因子20)とされており労働生産性損失の重要な要素と考えられるがプレゼンティーズムの状態とは異なる.また,日本人成人労働者を対象とした調査ではSJLが大きいとメタボリックシンドローム5)や抑うつ症状11)のリスクが高いことなど健康影響が報告されている.しかし,SJLとプレゼンティーズムの関連を検討した報告は見当たらない.SJLとプレゼンティーズムの関連を検証し,さらに労働時間等の働き方,作業能率や注意力の低下等に関連を認める短時間睡眠21,22)および不眠等の睡眠状況を考慮してもなお,その関連性があるか明らかにすることは,労働パフォーマンスの維持や向上を図るために職場が個人の生体時計に対してどれほど労働時間等の働き方に配慮を必要とするのかの方向性を示すことができ,健康面のみならず健康経営の面からも重要と考える.
そこで本研究は,一製造業に勤務する労働者を対象に1)仮説「SJLを経験している労働者はプレゼンティーズムによる労働機能障害の程度が高い」の検証2)SJLとプレゼンティーズムの関連性が働き方と睡眠関連要因を考慮しても成立するかを検証することとした.
東海地方に本社および4工場を保有する製造業企業A社とグループ企業に勤務する成人労働者1,573名を対象とした.2018年9月18日~2018年12月18日に実施された定期健康診断の受診者に無記名の自記式質問紙調査票を配布した.A社は社内に健診施設を有し,常勤の産業医と看護職複数名を雇用している.長時間労働対策として労働基準法より厳格な時間外労働上限基準を設け,過重労働による健康障害の防止対策を実施している.前年の平均時間外労働時間は245.7時間であった.
2. 調査項目 1) プレゼンティーズム労働機能障害調査票(Work Functioning Impairment Scale: WFun)23)を用いてプレゼンティーズムによる労働機能障害の程度を測定した.本尺度の信頼性と妥当性は検証がされており「社交的に振る舞えなかった」「仕事を中断する回数が増えた」等の7項目について,体調の良い時と比較し現在の仕事に関する状況について「全くない」「月に1回程度」「週に1日程度」「週に2日以上」「ほぼ毎日」の5段階で回答する.合計点数(7~35点)で評価し,点数が高いほどプレゼンティーズムによる労働機能障害の程度が大きいことを示す.本研究におけるCronbachのα係数は.915であった.
2) 睡眠関連項目(1)ミュンヘンクロノタイプ質問紙日本語版(Munich Chronotype Questionnaire-Japanese version,以下MCTQ)24)
MCTQは個人の生まれつき持つ生体時計の特性を反映するクロノタイプ(朝型・夜型)を評価する質問紙で,2003年にRoennebergらが開発した25).自由なスケジュールでとることが可能な休日の睡眠のタイミングをクロノタイプ(個人の生体時計の特性)の指標とする. 睡眠負債の影響を考慮し,正確な生体時計の時刻を推定できる点で優れた尺度であり,生体時計の測定に従来使用されてきた朝型夜型質問紙26)とも有意な相関がある27).日本語版調査票の信頼性と妥当性も検証されている24).「仕事のある日」と「仕事のない日」それぞれの就床・消灯・入眠・覚醒・起床時刻,起床時刻に対する社会的制約の有無を判断するためにアラーム使用および睡眠時間帯が制限される事由を尋ねる項目が含まれる.本研究ではMCTQの定めるアルゴリズムに則り,主に「社会生活上規制のない日の夜間睡眠の中央時刻〔睡眠負債を調整(mid-point of sleep on free days corrected for sleep debt: MSFsc)〕」によりクロノタイプを判定した.MCTQにおいて生体時計でなく強制的に覚醒している者,つまりアラームを使用して目覚める者と自由に睡眠時間を決められないと回答した者はクロノタイプ判定不能のため本研究の解析対象より除外した.SJLは仕事がない日とある日それぞれの睡眠区間の中央時刻の差分値を算出した.睡眠時間は仕事のある日の入眠時刻と覚醒時刻より算出した.
(2)アテネ不眠尺度日本語版
不眠はアテネ不眠尺度日本語版(Japanese version of the Athens Insomnia Scale: AIS-J)28)を用い測定した.アテネ不眠尺度29)は世界保健機構(WHO)が中心となり設立した「睡眠と健康に関するプロジェクト」が作成した国際規格の不眠判定法である.アテネ不眠尺度日本語版28)の信頼性と妥当性は検証されており「寝付き」「中途覚醒」「早朝覚醒」「総睡眠時間」「睡眠の質」「日中の気分」「日中の身体的精神的活動」「日中の眠気」の8項目について過去1カ月間に3回以上経験したものを4件法(0~3点)で回答する.0点は症状なし,点数が大きいほど不眠症状の程度が大きくなる.8項目の合計点数で不眠症状を評価し,4点以上で不眠の疑いありと判定する.本研究におけるCronbachのα係数は.818であった.
3) 労働時間関連項目直近4週間における出社および退社時刻を尋ねた.退社時刻から翌日の出社時刻までの時間を勤務間インターバルとして算出した.調査対象企業では固定労働時間制(8時始業,16時45分終業)とフレックスタイム制,裁量労働制,交替勤務の4種類の労働体制を敷いている.フレックスタイム制は10時15分から15時をコアタイムとする.本研究ではコアタイム開始時刻前とコアタイム終了時刻後の勤務時間を比較し,コアタイム前が30分以上多い場合を朝型,完全に一致もしくは差が30分未満を中間型,コアタイム後が30分以上多い場合を夜型と判定した.固定労働時間制や裁量労働制の対象者も同様の方法で判定した.
4) 疲労感定期健康診断の質問票のうち「睡眠で休養が十分にとれている」を使用した.「いいえ」を「疲労感あり」と判定した.
5) 基本的属性個人属性として性別・年齢,労働関連特性として職位(一般職,管理職)・雇用形態(正規社員,嘱託社員,派遣社員,契約社員)・職種(専門/技術職,生産工程,販売/営業職,事務職)・労働時間制(固定労働時間制,フレックスタイム制,裁量労働制,交替勤務)を尋ねた.また,主観的健康観,治療中の病気の有無を尋ねた.
3. 解析方法まず男女別の特徴を明らかにするために,カテゴリ変数である職位,雇用形態,職種,労働時間制,勤務型,主観的健康観,疲労感,治療中の病気について,カイ二乗検定またはフィッシャーの正確確率検定を行った.連続変数である年齢,クロノタイプ,勤務間インターバル,睡眠時間,不眠(AIS - Jスコア),SJL,プレゼンティーズム(WFunスコア)については,t検定またはマンホイットニーのU検定を行い比較した.
次に性別,職位,雇用形態,職種,労働時間制,勤務型,疲労感,治療中の病気,主観的健康観の項目毎におけるプレゼンティーズム(WFunスコア)をt検定または一元配置分散分析で比較した.一元配置分散分析で有意差が認められた場合,テューキー法で多重比較をした.年齢,勤務間インターバル,睡眠時間,クロノタイプ,不眠,SJLを独立変数として,プレゼンティーズムを従属変数とした単回帰分析を行った.同様にSJLを従属変数とした単回帰分析も行った.
最後にプレゼンティーズムを従属変数とした階層的重回帰分析を行い,プレゼンティーズムに対するSJLの説明力の変化を確認した.独立変数は単回帰分析でプレゼンティーズムとp<.1の関連を示す変数を選択した.さらに多重共線性を考慮するために変数間の相関を確認した.統計解析にはIBM SPSS Statistics 20を使用し両側5%を有意水準とした.
4. 倫理的配慮調査票は無記名自記式とした.調査協力の依頼は健康診断受診時に調査協力の任意性や倫理的配慮について説明文書と口頭で行い,調査票の同意確認欄への記入により同意を得た.調査票は定期健康診断会場で回収し,協力が得られない場合も白紙調査票の提出を求めた.本研究は浜松医科大学臨床研究倫理委員会の承認(研究番号18-101)を得て実施した.
1,501名(回収率95.4%)より調査協力が得られた.本研究で使用する変数に欠損値があった59名,除外基準(入社もしくは休職からの復職後1か月未満,海外駐在勤務者で一時帰国中,睡眠障害または精神疾患で治療中)に該当または未回答の142名を除く1,300名(男性1,011名,女性289名)のクロノタイプを判定した.「仕事のある日」と「仕事のない日」共にアラームを使用して覚醒する,「仕事のない日」に「子供やペットの世話・趣味等で自分の睡眠時間帯を好きに選ぶことができない」かつ「仕事のある日」にアラームで覚醒すると答えたクロノタイプ判定不能の320名は解析対象から除外し,980名(男性791名,女性189名)を最終解析対象とした.
クロノタイプ判定不能の320名(男性220名,女性100名)の平均年齢±標準偏差は男性41.8±8.8歳,女性43.0±10.1歳,職位は一般職87.5%,雇用形態は正規社員91.3%,職種は専門・技術職40.3%であった.解析対象群と比較して判定不能群は男性の平均年齢が有意に若かった(p<.001).雇用形態は全体,男性において正規社員が有意に多く,契約社員が有意に少なかった(p<.001).職位と職種に有意な差は認めなかった.
1. 対象者の基本・労働関連属性の男女比較(表1)対象者の平均年齢±標準偏差は44.4±11.3歳,男性44.6±11.3歳,女性43.4±11.5歳で男女差はなかった.職位は一般職が8割以上を占め,女性は95.8%と男性より有意に高かった.雇用形態は男女共に正規社員(男性87.5%,女性76.7%)が多かった.女性は契約社員の割合が18.0%と男性より多かった.職種は男性では専門・技術職が49.9%と約半数を占めたが,女性は事務職が最も多かった.労働時間制は男性ではフレックスタイム制が58.7%であり,女性より有意に多かった.勤務間インターバルは男性13.2±1.3時間,女性14.1±1.1時間で女性が有意に長かった(p<.001).疲労感がある者の割合は女性が53.4%と有意に多かった.
(n=980) | |||
---|---|---|---|
個人属性 | 男性(n=791) | 女性(n=189) | p値 |
n(%) | n(%) | ||
年齢 | 44.6(11.3), 20–64a | 43.4(11.5), 21–64a | .182b |
職位 | |||
一般職 | 650(82.2) | 181(95.8) | <.001 |
管理職 | 141(17.8) | 8(4.2) | |
雇用形態 | |||
正規社員 | 692(87.5) | 145(76.7) | <.001c |
嘱託社員 | 4(0.5) | 1(0.5) | |
派遣社員 | 5(0.6) | 9(4.8) | |
契約社員 | 90(11.4) | 34(18.0) | |
職種 | |||
専門/技術職 | 395(49.9) | 33(17.5) | <.001 |
生産工程 | 206(26.0) | 60(31.7) | |
販売/営業職 | 55(7.0) | 12(6.3) | |
事務職 | 135(17.1) | 84(44.4) | |
労働時間制 | |||
固定労働時間制 | 319(40.3) | 95(50.3) | .044c |
フレックスタイム制 | 464(58.7) | 93(49.2) | |
裁量労働制 | 8(1.0) | 1(0.5) | |
勤務型 | |||
朝型 | 149(18.8) | 44(23.3) | .213 |
中間型 | 112(14.2) | 31(16.4) | |
夜型 | 530(67.0) | 114(60.3) | |
勤務間インターバル(時間) | 13.2(1.3), 9.0–17.0a | 14.1(1.1), 11.0–17.3a | <.001b |
主観的健康観 | |||
とても健康 | 112(14.2) | 31(16.4) | .387c |
まあ健康 | 568(71.8) | 137(72.5) | |
あまり健康でない | 100(12.6) | 17(9.0) | |
健康でない | 11(1.4) | 4(2.1) | |
疲労感 | |||
なし | 434(54.9) | 88(46.6) | .040 |
あり | 357(45.1) | 101(53.4) | |
治療中の病気 | |||
あり | 158(20.0) | 32(16.9) | .342 |
なし | 633(80.0) | 157(83.1) |
a:平均(標準偏差),範囲
無印:カイ二乗検定,b:t検定,c:フィッシャーの正確確率検定
睡眠時間は男性6.2±0.9時間,女性6.0±0.9時間で男性が有意に長かった(p=.025).クロノタイプ,SJL,不眠スコアに有意な差は認めなかった.SJLの分布は全くない者は全体の15.6%,1時間未満は49.0%,1~2時間未満は28.1%,2時間以上は7.3%であった.男女のSJLの分布には有意差が認められた(p=.027).プレゼンティーズムによる労働機能障害を測るWFunスコアの中央値(四分位範囲)は男性14(10–20),女性13(9–18)で男性が有意に高かった(p=.041).
(n=980) | |||||||
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男性(n=791) | 女性(n=189) | p値 | |||||
平均 | 標準偏差 | 範囲 | 平均 | 標準偏差 | 範囲 | ||
平日の睡眠時間 (時間) | 6.2 | (0.9) | 2.5–9.8 | 6.0 | (0.9) | 2.3–8.5 | .025 |
クロノタイプ(時) | 3.23 | (1.26) | -1.50–9.80 | 3.21 | (1.17) | 0.80–6.50 | .840 |
SJL(時間) | 0.78 | (0.25–1.17) | 0.00–6.48a | 0.63 | (0.25–1.20) | 0.00–3.75a | .242b |
SJLなし | 136c | (17.2) | 17 | (9.0) | .027d | ||
1時間未満 | 374 | (47.3) | 106 | (56.1) | |||
1~2時間未満 | 224 | (28.3) | 51 | (27.0) | |||
2時間以上 | 57 | (7.0) | 15 | (7.9) | |||
AIS-Jスコア | 4.89 | (3.47) | 0–19 | 5.16 | (3.54) | 0–18 | .345 |
WFunスコア | 14 | (10–20) | 7–35a | 13 | (9–18) | 7–35a | .041b |
無印:t検定,a:中央値(四分位範囲)範囲,b:マンホイットニーのU検定,c:N(%),d:カイ二乗検定
SJL: Social Jetlag, AIS-J: Japanese version of the Athens Insomnia Scale, WFun: Work Functioning Impairment Scale
雇用形態によるプレゼンティーズムは多重比較では有意差は認められなかった.勤務型では,夜型は朝型・中間型より有意にプレゼンティーズムによる労働機能障害の程度が高かった(p=.001).疲労感ありは疲労感なしより有意に高かった(p=.000).主観的健康観については「とても健康」「まあ健康」「あまり健康でない」「健康でない」の4段階に有意差を認めた.多重比較の結果「健康でない」が最もプレゼンティーズムによる労働機能障害の程度が高く,次いで「あまり健康でない」「まあ健康」の順に高かった.「とても健康」は最も低かった.
(n=980) | ||||||
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n(%) | WFun§スコア | |||||
平均 | 標準偏差 | p値 | 多重比較 | |||
性別 | 男性 | 791(80.7) | 15.44 | 6.55 | .103 | |
女性 | 189(19.3) | 14.41 | 6.28 | |||
職位 | 一般職 | 831(84.8) | 15.35 | 6.57 | .117 | |
管理職 | 149(15.2) | 14.68 | 6.15 | |||
雇用形態 | ①正規社員 | 837(85.4) | 15.44 | 6.60 | .046a | n.s.b |
②嘱託社員 | 5(0.5) | 10.80 | 2.95 | |||
③派遣社員 | 14(1.4) | 16.07 | 6.35 | |||
④契約社員 | 124(12.7) | 13.98 | 5.84 | |||
職種 | 専門的・技術的 | 428(43.7) | 15.61 | 6.40 | .128a | |
生産工程 | 266(27.1) | 14.52 | 6.25 | |||
販売・営業 | 67(6.8) | 14.70 | 6.66 | |||
事務的 | 219(22.3) | 15.58 | 6.94 | |||
労働時間制 | 通常勤務 | 414(42.2) | 15.15 | 6.65 | .852a | |
フレックスタイム制 | 557(56.8) | 15.30 | 6.38 | |||
裁量労働制 | 9(0.9) | 16.22 | 8.69 | |||
勤務型c | ①朝型 | 193(19.7) | 14.16 | 6.38 | .001a | ③>①・②b |
②中間型 | 143(14.6) | 14.12 | 6.27 | |||
③夜型 | 644(65.7) | 15.82 | 6.54 | |||
疲労感 | なし | 522(53.3) | 13.27 | 5.47 | .000 | |
あり | 458(46.7) | 17.49 | 6.88 | |||
治療中の病気 | あり | 190(19.4) | 15.42 | 6.43 | .846 | |
なし | 790(80.6) | 15.20 | 6.54 | |||
主観的健康観 | ①とても健康 | 143(14.6) | 11.17 | 4.86 | .000a | ④>③>②>①b |
②まあ健康 | 705(71.9) | 15.13 | 6.18 | |||
③あまり健康でない | 117(11.9) | 19.77 | 6.47 | |||
④健康でない | 15(1.5) | 24.20 | 5.80 |
§WFun: Work Functioning Impairment Scale
無印:対応のないt検定,a:one-way ANOVA,b:TukeyのHSD法
c勤務型:【朝型】コアタイム前-コアタイム後≧30分 【中間型】|コアタイム前-コアタイム後|<30分 【夜型】コアタイム後-コアタイム前≧30分
単回帰分析では年齢が若いほど(B=-0.050, p=.007),勤務間インターバルが短いほど(B=-0.732, p<.001),平日の睡眠時間が短いほど(B=-0.860, p<.001)プレゼンティーズムによる労働機能障害の程度が高かった.また,夜型クロノタイプであり(B=0.528, p=.002),不眠の症状があるほど(B=0.893, p<.001),SJLが大きいほど(B=0.568, p=.038)高かった.
(n=980) | |||
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独立変数 | B | 標準誤差 | p値 |
年齢 | -0.050 | 0.018 | .007 |
勤務間インターバル | -0.732 | 0.160 | <.001 |
平日の睡眠時間 | -0.860 | 0.222 | <.001 |
クロノタイプ | 0.528 | 0.167 | .002 |
不眠(AIS-J スコア) | 0.893 | 0.053 | <.001 |
SJL | 0.568 | 0.274 | .038 |
単回帰分析,従属変数:プレゼンティーズム(WFunスコア),B:偏回帰係数
AIS-J: Japanese version of the Athens Insomnia Scale
SJL: Social Jetlag
SJLにおける年齢,労働関連変数,睡眠関連変数の関連検討では,年齢が若いほど(B=-0.023, p<.001),平日の睡眠時間が短いほど(B=-0.097, p<.001),夜型クロノタイプほど(B=0.344, p<.001),不眠の症状があるほど(B=0.032, p<.001)SJLが大きかった.
(n=980) | |||
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独立変数 | B | 標準誤差 | p値 |
年齢 | -0.023 | 0.002 | <.001 |
勤務間インターバル | -0.019 | 0.019 | .320 |
平日の睡眠時間 | -0.097 | 0.026 | <.001 |
クロノタイプ | 0.344 | 0.016 | <.001 |
不眠(AIS-Jスコア) | 0.032 | 0.007 | <.001 |
単回帰分析,従属変数:SJL(Social Jetlag),B:偏回帰係数
AIS-J: Japanese version of the Athens Insomnia Scale
階層的重回帰分析の結果を表6に示した.単回帰分析でプレゼンティーズムとp<.1の関連を示したのは,雇用形態,勤務型,疲労感,主観的健康観,年齢,勤務間インターバル,平日の睡眠時間,クロノタイプ,不眠,SJLであった.変数間の相関を確認した結果,不眠と疲労(r=.59),不眠と主観的健康観(r=.43),SJLとクロノタイプ(r=.56)は相関係数が.4を上回り中程度の相関を認めた.研究の目的に合致するSJLと不眠を独立変数として残し,疲労,主観的健康観,クロノタイプは多重共線性を考慮し除外した.モデル1はプレゼンティーズムを従属変数とし,SJLのみ独立変数とした.モデル2は独立変数として労働関連要因の勤務間インターバルを追加投入した.モデル3では睡眠関連要因として睡眠時間,不眠(AIS - Jスコア)を追加投入した.なおモデル2と3では基本属性および社会経済労働要因である年齢,性別,職位,職種,雇用形態,勤務型,労働時間制を共変量として投入した.
モデル1ではプレゼンティーズムに対しSJLは有意な正の関連(β=.066, p=.038)を認めた(調整済みR2=.003).モデル2ではSJLとプレゼンティーズムの間の有意性は消失し,勤務間インターバルが有意な負の関連(β=-.146, p<.001)を示した(調整済みR2=.027).モデル3では勤務間インターバル(β=-.076, p=.017)と不眠(β=.470, p<.001)が有意な関連を認めた(調整済みR2=.239)がSJLとの有意な関連性は認めなかった.
(n=980) | ||||||
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モデル | B | β | 標準誤差 | p値 | Adjusted R2 | |
1 | SJL | 0.568 | .066 | 0.274 | .038 | .003 |
2 | SJL | 0.399 | .046 | 0.290 | .169 | .027 |
勤務間インターバル | -0.739 | -.146 | 0.176 | <.001 | ||
3 | SJL | -0.185 | -.022 | 0.261 | .479 | .239 |
勤務間インターバル | -0.383 | -.076 | 0.160 | .017 | ||
平日の睡眠時間 | -0.022 | -.003 | 0.209 | .916 | ||
不眠(AIS-Jスコア) | 0.879 | .470 | 0.055 | <.001 |
従属変数:プレゼンティーズム(WFunスコア)
B:偏回帰係数,β:標準化偏回帰係数,Adjusted R2:自由度調整済み決定係数
SJL: Social Jetlag, AIS-J: Japanese version of the Athens Insomnia Scale
調整変数:年齢,性別,職位,職種,雇用形態,勤務型,労働時間制(モデル2,モデル3)
本研究は製造業成人労働者を対象に1)仮説「SJLを経験している労働者はプレゼンティーズムによる労働機能障害の程度が高い」の検証2)SJLとプレゼンティーズムの関連性が,働き方と睡眠関連要因を考慮しても成立するかを検証することを目的とした.以下に主な知見を考察する.
SJL単独ではプレゼンティーズムと関連を認めた.しかし,勤務間インターバルの調整によりその有意性が消失し,SJLは短い勤務間インターバルとの随伴によりプレゼンティーズムと関連することが示された.勤務間インターバルの確保は睡眠や疲労の改善に効果をもたらすと報告されており30),本研究でもSJLとプレゼンティーズムとの関連性の緩和要因となっていることが示された.Ikedaらは勤務間インターバルが長い者は出勤日と休日で睡眠パターンに大きな変化がないが,短い者は睡眠負債とSJLが大きいと報告している31).本研究の対象者では勤務間インターバルとSJL間には有意な関連は見られずIkedaらの知見とは矛盾する結果であった.本研究の対象企業における勤務間インターバルは13~14時間が概ね確保されているため,SJLおよびSJLを経験する者の睡眠に影響が出にくかったと考えられる.
階層的重回帰分析から,モデル1の説明力は0.3%,モデル2では2.7%に過ぎず,プレゼンティーズムにおけるSJLの関連性は小さいことが明らかとなった.一方,モデル3では説明力が23.9%に上昇した.モデル3でプレゼンティーズムと有意な関連を示したのは,不眠と勤務間インターバルであった.つまり,職場のパフォーマンスを維持・向上させるためには,労働者各個人のSJLに配慮して勤務時間の調整などを行うよりも,SJLを経験する労働者が睡眠負債に陥り睡眠の質を低下させることの予防と勤務間インターバルを確保し,労働機能の低下を防ぐことの重要性が示唆された.睡眠時間とプレゼンティーズムによる労働生産性損失はU字型の関連があり,睡眠時間が7~8時間の場合に最も良好とされている32).しかしながら,本研究のモデル3において,睡眠時間ではなく不眠が有意な関連要因であり,絶対的な睡眠時間よりも本人が認識する睡眠の質がプレゼンティーズムに関連することが示された.これらのことからSJLの経験のみではプレゼンティーズムは発生しているとは言えず,SJLを経験する労働者には不眠の認識をまず確認する必要がある.不眠の認識が確認された場合にはプレゼンティーズムが発生している可能性を考慮するというように2段階でプレゼンティーズムのリスクを考えなくてはならないと思われる.
さらに本研究では年齢が若いほど,平日の睡眠時間が短いほど,クロノタイプが夜型なほど,不眠の程度が悪いほど,SJLが大きかった.生体時計の特性上,SJLが生じやすい若年労働者及び家族が皆夜型など遺伝的特徴を持つ労働者には睡眠負債にならないよう特に注意が必要と考えられる.SJLを生じやすい労働者には睡眠について注意喚起を行い,睡眠状況を丁寧に確認し見守ることが職場のパフォーマンスの維持につながる可能性が考えられる.
本研究の結果,SJLと不眠の随伴はプレゼンティーズムによる労働機能障害の程度の高さと有意に関連することが明らかとなったが,最終モデルにおける説明力は23.9%にとどまった.SJLはプレゼンティーズムに関連すると予測したが大きな関連はないと考えられた.しかし,本研究の調査対象は大規模企業とそのグループ企業に勤務する労働者のみを対象としたため,SJLやプレゼンティーズムにつながるような極端なクロノタイプを持つ労働者は,学生時代から社会時刻への適応の難しさにより学業成績や日中のパフォーマンスが低い可能性がありもともと入社していないかもしれない.対象者の同質性が原因となっている可能性が考えられる.
本研究の限界は以下の4点が考えられる.第一に,今回の調査は労働時間管理,労働衛生管理が厳格な企業を対象にし,シフト勤務や夜勤がある不規則な生活スタイルを持つ労働者集団を対象から除外したため,SJLが顕在化しにくかった可能性がある.また,健康情報や保健サービスへのアクセスが容易で健康支援も整っていることからプレゼンティーズムが起こりにくい労働環境であったとも考えられる.第二に,本研究で用いた睡眠関連指標およびプレゼンティーズムの指標は全て対象者の主観的評価に基づいていた.主観的な睡眠と客観的な睡眠には相違(睡眠状態誤認)が存在する33).今後はウエアラブル活動量計を用いるなど,睡眠状況を客観的評価指標で検証することも必要と考える.第三に本研究は労働機能障害の程度をプレゼンティーズムとしてSJLとの関連性を検討した.プレゼンティーズムによる生産性損失は測定方法が確立されておらず,SJLと労働生産性損失との関連は検証していない.第四に,本研究では覚醒にアラームを使う者と交替勤務従事者を対象から除外した結果,多くの対象者が分析対象外となった.除外した休日にも覚醒にアラームを使用している者や交替勤務従事者こそ,睡眠負債が多くSJLが大きい可能性も考えられ今後はそれらの検証も必要である.第五に本研究は横断研究であるために因果関係に言及することはできない.今後は不眠の訴えのあるSJL経験者を対象に,勤務間インターバルの確保と良質な睡眠のプレゼンティーズムの改善効果についてコホート研究又は介入研究により検証する必要がある.
仮説「SJLを経験している労働者はプレゼンティーズムによる労働機能障害の程度が高い」はSJL単独では検証されたが,勤務間インターバルおよび不眠の程度を考慮した場合,その関連性は消失した.従ってSJLがプレゼンティーズムに直接的に関連することは否定された.
本研究の調査にご協力いただいた企業の皆様に心より感謝申し上げます.本研究は日本産業衛生学会産業看護部会の研究活動費助成を受けて行われました.なお,研究の一部は日本産業看護学会第8回学術集会および第93回日本産業衛生学会で発表しました.
利益相反自己申告:申告すべきものなし
資金提供:2019年度日本産業衛生学会産業看護部会研究活動費助成事業