SEISAN KENKYU
Online ISSN : 1881-2058
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Introduction to Special Section
Special Issue on Turbulence Simulation and Flow Design
Ryozo OOKA
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2025 Volume 77 Issue 1 Pages 3

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流体現象は,私たちの生活環境や産業技術,さらには生命現象に至るまで,幅広い分野で重要な役割を果たしています.本特集では,「乱流シミュレーションと流れの設計(TSFD: Turbulence Simulation and Flow Design)」研究グループの最新成果を取り上げ,乱流現象の解明や応用における進展を紹介します.

TSFDグループは,数値シミュレーション技術を基盤に,流体物理学,機械工学,建築工学などの領域から,近年では海洋工学や生体工学,安全工学,環境工学,気象学など,さらに多岐にわたる分野へ活動を広げてきました.本研究グループの前身である乱流シミュレーション研究会(NST: Numerical Simulation of Turbulence)の1980年代の設立以来,計算機の進歩とともに研究の焦点はRANSからLES,DNSへと移り変わり,スーパーコンピュータによる高精度な解析が可能となった現在もなお,革新は続いています.さらに近年ではAI技術との融合によって,応用範囲が広がり,これまで困難とされた複雑現象の解析が可能になりつつあります.

グループ全体の活動としては生産研究の毎年2 月号に掲載させていただいている本特集の発行に加えて,2ヶ月に1 回開催される定例会,毎年3 月に開催されるTSFD シンポジウムがあります.現在のTSFDグループは,基礎系部門の半場藤弘研究室(流体物理学研究室),機械・生体系部門の大島まり研究室(数値流体力学研究室),北澤大輔研究室(海洋生態系工学研究室),長谷川洋介研究室(界面輸送工学研究室),人間・社会系部門の菊本英紀研究室(複雑系環境制御工学研究室)に小生の研究室を加えた合計6研究室から構成されています.

本特集号はグループに所属する研究室の最新の研究成果を集めたものであり,本年度は,以下のような幅広いテーマが取り上げられています.「チャネル乱流における非局所渦拡散率の解析」や「乱流レイリー流れの線形解析」では,乱流現象の基本特性やその非線形性の理解が深められています.また,「MHDチャネル乱流のダイナモ効果の解析」や「恒星角運動量輸送への運動ヘリシティの効果」では,磁気流体力学(MHD)や天文学における流れの役割を明らかにする試みが示されています.さらに,乱流の応用研究として,「濃度拡散異方性モデルとリミッターを用いた大気境界層における汚染物質の拡散解析」では,汚染物質の動態をモデル化する手法が提案されており,都市環境の改善や大気質予測への応用が期待されます.また,「物理情報ニューラルネットワークを用いた平均流速計測に基づく換気流れの再構築」では,機械学習を活用した新たな換気設計手法が議論されています.「単体建物モデル周辺の平均気流におけるドローンの飛行安定性評価」は,都市空間でのドローン運用に関する具体的な知見を提供します.「水循環システムの設計のための半閉鎖型魚養殖生簀内の水流の数値シミュレーション」では,持続可能な水産業の実現を目指した流れの制御に関する研究が取り上げられています.

これらの研究は,数値流体力学(CFD)の発展が支える理論と技術の両面から,実社会に即した問題解決に寄与しています.本特集を通じて,流体現象の基礎的な理解と応用研究がいかに密接に結びつき,社会の課題解決や産業の発展に寄与しているかを感じ取っていただければ幸いです.本特集が新たな知見を提供し,さらなる研究や技術開発の契機となることを願っております.

 
© 2025 Institute of Industrial Science The University of Tokyo
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