要旨
国立環境研究所では感染症対策という観点からの生物多様性保全研究を推進しており、近年、注目を集めるワンヘルス・アプローチの強化を目指している。これまでに「野生動物検疫施設」において、野生鳥類における鳥インフルエンザ感染調査や野生獣類における豚熱感染調査など、行政的にも重要な課題に対応するとともに、野生動物の新型コロナウイルス感染状況の調査およびダニ媒介性新興感染症SFTSの予防対策にかかる研究など新規なテーマにも取り組んでいる。また、これら家畜伝染病・人獣共通感染症以外にも、爬虫両生類特有の感染症や、昆虫類における感染症問題についても環境科学・生態学的側面からの研究を展開している。これらの研究成果に基づき、ワンヘルス・アプローチの重要性に関する普及啓発にも注力し、環境省を始め、行政機関にも具体な政策を提言している。
はじめに
国立環境研究所では、生物多様性保全研究プログラムの一環として、野生動物感染症に関する研究を推進している。当初は、絶滅危惧種の遺伝資源を凍結保存するために受け入れた各種野生動物検体を対象として、感染症の病原体を持ち込むことを防ぐための検査が主なテーマであったが、その後、鳥インフルエンザや豚熱など深刻な被害をもたらす家畜伝染病や、カエルツボカビおよびイモリツボカビなど野生動物特異的な感染症、ミツバチやマルハナバチなどの昆虫における感染症など、行政的あるいは生態学的に重要な感染症にも取り組むようになっている。本稿では、国立環境研究所における感染症研究の概要および今後の展望について紹介する。
環境試料タイムカプセル棟および野生動物検疫施設
国立環境研究所では、環境試料タイムカプセル棟という施設において、国内の絶滅危惧野生動物種の皮膚などから培養した体細胞、生殖細胞(精子、卵子、受精卵など)および組織を長期保存用タンク(−150°C)の中で凍結保存する事業が2002年より進められている。本事業は絶滅危惧種の細胞・遺伝情報の保全を目的としており、域外保全の一環として位置づけられる。
これまでにトキNipponia nippon、ヤンバルクイナGallirallus okinawae、コウノトリCiconia boyciana、ツシマヤマネコPrionailurus bengalensis euptilurusなどさまざまな危惧種の野生個体が検体として移送されているが、これら検体が感染症の病原体を保有していないかを調査するための施設として「野生動物検疫施設」がタイムカプセル棟に併設されている。
この検疫施設において、施設スタッフの安全性確保の観点から、(1)飛沫やエアロゾルで感染が拡大する可能性があり、細胞培養、各種臓器の冷凍保存などといった作業中にヒトへの感染が懸念される、および(2)野生動物の体表や試料とともに持ち込まれる可能性があるマダニなどの節足動物によって媒介される、という感染リスクを基準として、鳥類ではオウム病、Q熱、ウエストナイル熱、およびインフルエンザを、哺乳類ではQ熱、ブルセラ症、野兎病、およびレプトスピラ病を検査対象としている。これらの感染症の原因となる病原体の遺伝子をリアルタイムPCRやLAMP法といった方法で検出している。
検疫施設の内部は、解剖室、検査室、および病理室と大きく3室に分かれており、Biosafty Level 2に準拠した安全基準を満たすよう設備が整えられている。さらに施設建物内部は常に陰圧に維持され、排気はHEPAフィルターでろ過処理されており、建物内部における病原体の拡散、および外部への病原体の漏出を防いでいる。
鳥インフルエンザの野生鳥類サーベイ
上記の「野生動物検疫施設」の感染症検査に関する能力が環境省より高く評価され、2008年からは野鳥を対象とする鳥インフルエンザウイルス保有状況調査のための遺伝子検査機関としての機能も担っている(Onuma et al. 2017)。本調査のために、毎年、全国から2,000~3,000検体のカモ類の糞便や死亡した野鳥から採取した検体を受け入れている。
鳥インフルエンザウイルスは、細胞の接着に関与するウイルス遺伝子(ヘマグルチニン遺伝子、HA遺伝子)の配列によって、ニワトリGallus gallus domesticusに対する病原性の強度に差異があり(Kawaoka et al. 1988)、ウイルスが発見された場合、野生鳥類および養鶏に対するリスクをいち早く予測するためにも、HA遺伝子の塩基配列情報の決定を行い、高病原性鳥インフルエンザウイルスかどうかを早急に特定する必要がある。2004年以降、国内の野鳥から分離された高病原性鳥インフルエンザウイルスはH5亜型に分類されるものである(Sakoda et al. 2012; Ozawa et al. 2015; Hiono et al. 2017)。
これまでウイルスの配列情報を確定するためには、鶏卵によるウイルス培養が必要とされ、確定までに約10日間の時間を要していたが、国立環境研究所では、二段階PCRによってHA遺伝子の全長を増幅する方法を開発し、病原性決定までの時間を3日間以内にまで短縮することに成功している(Kakogawa et al. 2020)。
高病原性鳥インフルエンザウイルスは、ニワトリに対しては非常に強い病原性を示す一方で、野生鳥類に対する病原性には種差があることが知られている。そこで国立環境研究所では、培養細胞を活用した鳥類への病原性評価手法の開発を試みた(Hagiwara et al. 2020)。現在は、対象種にクマタカNisaetus nipalensis、イヌワシAquila chrysaetos、ハヤブサFalco peregrinus等、個体群サイズの限られた希少野生猛禽類も対象に加え解析を進めている。培養細胞を活用した病原性評価に加え、猛禽類については、生息適地に対するウイルス持ち込み確率の評価などを行なっている(Moriguchi et al. 2016)。
これらの研究結果から、猛禽類はいずれも鳥インフルエンザの感受性が高く、感染した場合、重症化リスクが高いことが示唆されている。一方、生息適地におけるウイルス感染確率は、クマタカでは低いが、オオタカAccipiter gentilisおよびハヤブサについては感染確率が高いエリアが存在することから、ウイルス侵入サーベイランスの徹底が必要とされると結論されている。
豚熱の野生動物サーベイ
2018年に岐阜県の養豚場で豚熱(classical swine fever=CSF)の発生が確認されて以降、日本各地で発生が繰り返されていることが問題となっており(Postel et al. 2019; Shimizu et al. 2021)、2020年より、国立環境研究所の検疫施設は、野生イノシシSus scrofaを対象とする豚熱の保有状況調査のための遺伝子検査機関としての役割も担っている。全国で捕獲されたイノシシの血液サンプルを年間約400検体受け入れ、豚熱ウイルスの検査を行っている。
最近では、豚熱ウイルスの効率的な早期発見技術として、フンや河川水などの環境試料からのウイルスRNA検出技術や、狩猟などで採集される切断尾のスワブ(綿棒で拭って採集されたサンプル)からのウイルスRNA検出技術の開発を進めている。
ダニ媒介性感染症SFTSのリスク管理に関する研究
マダニが媒介する新興感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」は、2012年に山口県において国内初の感染発症事例が確認されて以降、西南日本を中心に感染者数が増加しており、今後、さらにその発生が全国に広がることが懸念されている(本特集引用)。
国立環境研究所では、森林総合研究所および国立感染症研究所と共同でSFTSのリスク評価および管理手法の研究を推進している。これまでにウイルスを媒介するマダニ類を全国から採集して、各種のDNA情報を収集し、マダニの分子同定技術を確立するとともに、国内外におけるマダニの分布動態、特に人為移送の実態について分析を進めている(Morii et al. 2025)。
一方、住宅街の公園や通学路の草むらなど、極身近な緑地でマダニが高密度で発生する事案が増えていることから、マダニ密度を即効的に抑制する緊急防除手法の実装が求められる。そこで、国立環境研究所はアース製薬と共同で、マダニの集団密度を即時に抑制し、低密度を維持するための化学的防除技術の開発を行っている。
これまで国内外において、マダニに対する各種薬剤の薬効を定量評価した事例がなかったため、まず、室内レベルでのマダニ急性毒性試験法を確立し、有効薬剤のスクリーニングを行い、選抜された化合物を用いて、野外試験を実施し、野生マダニ集団に対する防除効果を検証している(Goka et al. 未発表)。これまでに1ヵ月以上マダニ密度を抑制する効果が示される薬剤の選定に至っており、現在、マダニ発生地域での実装を目指している。
新型コロナウイルスの野生動物サーベイ
2019年末以降、全世界に感染拡大して、今もなお、日本を含む世界各国の社会および経済に深刻なダメージを与え続けている新型コロナ感染症ウイルスSARS-CoV-2は、人間のみならず、野生動物および家畜動物にも感染が広がっていることが海外の研究で報告されており、今後、動物体内で進化を繰り返し、新たな変異型ウイルスが人間に感染するスピルバックSpil-backが頻発することが懸念されている(Pickering et al. 2022; Sila et al. 2022)。
我が国においても、近年、シカ、イノシシ、クマなどの野生哺乳類あるいはアライグマProcyon lotorなどの外来哺乳類が人間社会に侵食していることが問題とされており、人からこれら野生動物類への感染が生じているおそれがある。国立環境研究所では、北海道大学と共同で、主に北海道を中心に野生鳥獣類における新型コロナ感染症ウイルスの感染状況に関する調査を進めている(Kovba et al. 2024)。
両生爬虫類感染症に関する研究
1990年代以降、両生類の皮膚に特異的に寄生する真菌の1種カエルツボカビBatrachochytrium dendrobatidis(Bd)が世界中に拡散して、主に中南米やオセアニアを中心として希少両生類が絶滅の危機に陥っていることが問題とされている(Berger et al. 1998; Weldon et al. 2004; Lips et al. 2006)。2006年、日本国内でも、ペットとして飼育されていた南米産ベルツノガエルCeratophrys ornataからBdの発症が確認され、当初は、菌の侵入によって日本の両生類が絶滅するのではないかと危惧された。その後、国立環境研究所を中核とする研究チームが日本全国および海外の菌のDNAサンプルを収集し、分析した結果から、日本の固有種オオサンショウウオAndrias japonicusおよびオキナワシリケンイモリCynops ensicauda ensicaudaが元々の菌の宿主である可能性が高いことが示された。さらに感染実験の結果から、日本のカエル類は本菌に対して抵抗性を保有していることが示唆されている。
これらのデータから我々研究チームは、本菌の起源は日本を含むアジアにあり、日本国内の両生類は本菌との長きに渡る共進化によって本菌に対する抵抗性を獲得していると結論した(Goka et al. 2009; Goka et al. 2021)。その後も海外の研究グループによる世界的カエルツボカビのDNA調査が進められているが、これまでの分析結果からも、アジア地域に本菌の起源があることが示唆されている(O’Hanlon et al. 2018; Byrne et al. 2019)。
食用目的やペット用に様々な両生類が国際移送される過程で菌がアジアから持ち出され、世界各地に拡散させたと考えられており、その歴史は、1900年前後の日本からのブラジル移民開始の時代にまで遡ると考えられている(Rodriguez et al. 2014; Fisher and Garner 2020; Goka et al. 2021)。
一方、カエルツボカビと同属のイモリツボカビB. salamandrivorans(Bsal)が、2010年に発見され、ヨーロッパ固有の有尾両生類ファイヤーサラマンダーSalamandra salamandraの局所集団がBsalによって絶滅していることが報告された(Martel et al. 2013)。ヨーロッパの研究チームがBsalの起源を探る研究プロジェクトに国立環境研究所も協力し、日本のアカハライモリCynops pyrrhogasterからBsalの祖先的系統が発見されたことで、Bsalもアジア地域由来の可能性が高いことが示されている(Martel et al. 2014)。
現在、国立環境研究所では、琉球大学や山形大学などと共同で、カエルツボカビBdおよびイモリツボカビBsalの日本列島内における起源の精査、および両病原菌間における拮抗関係などの相互作用に関する研究を進めている。
近年、爬虫類においてヘビ真菌症という新興感染症が問題になっている。ヘビ真菌症(Snake Fungal Disease, SFD)は、カエルツボカビ症と同様の病原性真菌で、病原菌Ophidiomyces ophiodiicolaによって爬虫類の皮膚が壊死し、重症な場合は死に至る病気とされる。本菌は、1986年にアメリカ東北部で飼育下のヘビから最初の感染が報告されて以来、北米大陸、ヨーロッパの野生のヘビ類においても発見され、世界的な流行が懸念されている。アジアでの報告はこれまでなかったが、2021年に、日本国内において海外産飼育ヘビ集団より発症が確認され、岡山理科大を中心とする研究グループによる感染個体の皮膚病変からの病原菌の分離・培養、および形態観察と遺伝子解析の結果から本菌と同定されている(Takami et al. 2021)。
現在、国立環境研究所では、岡山理科大学および国立科学博物館の研究チームと共同で、ヘビ真菌症のDNA検査技術の開発および遺伝的変異の解析を進めている。
昆虫類の感染症に関する研究
国立環境研究所では、特定外来生物セイヨウオオマルハナバチBombus terrestrisの生態リスク評価の一環として、外来寄生生物の持ち込み状況の調査を行い、海外から輸入されるコロニー内の個体から体内寄生性ダニの1種マルハナバチポリプダニLocustacarus buchneriを検出し、セイヨウオオマルハナバチの野生化に伴って、海外産のダニが在来マルハナバチ集団の間で寄生が広がりつつあることを示した(五箇ほか 2000; Goka et al. 2001; Goka et al. 2006)。
同様に、外国産クワガタムシの輸入に伴って、寄生ダニが持ち込まれるリスクについても評価した。クワガタムシ類の体表には、クワガタナカセと称されるコナダニ類(Coleopterophagus berleseiほか、未記載種を含む複数種)が寄生するが、これらのダニ類は、宿主となるクワガタムシの種および個体群ごとに特異的な系統への分化が分子系統解析によって認められ、クワガタムシの商品移送は、これら寄生ダニの種および遺伝的固有性を撹乱するおそれがあることを示した(Goka et al. 2004; Okabe and Goka 2008; Goka 2022)。
マルハナバチポリプダニやクワガタナカセは寄生生物であって感染症病原体とは異なるが、これらの研究を通して、生物移送に伴う微小生物の随伴移送というリスクが明らかとなった。
近年、家畜ミツバチや野生ハナバチ類の世界的な減少が生物多様性保全上の大きな問題とされているが(IPBES 2016など)、その原因の一つとして感染症の拡大も指摘されている(Manley et al. 2015; Cilia and Forzan 2022)。さらに、感染症拡大を加速させる要因として、農薬の暴露による昆虫類の免疫低下も挙げられている(Collison et al. 2016; Straub et al. 2022)。
国立環境研究所では、全国の養蜂家に協力を仰ぎ、2020年よりニホンミツバチApis cerana japonicaおよそ1,500群を対象に、蜂群の設置場所と生死について調査を実施している(Hisamoto et al. 2024)。このうち、約180群については、虫体・蜂蜜・巣板からサンプリングを行い、病原体の感染および農薬ばく露状況を調査している。これにより、どのような環境条件で農薬にばく露され、病気を発症するか、そしてそれらがどのように蜂群の生死に影響を及ぼすかが明らかになりつつあり、世界的にも他に例を見ない大規模な調査となっている(Sakamoto et al. 未発表)。
ワンヘルス・アプローチと普及啓発
新型コロナのパンデミック以降、にわかにワンヘルス・アプローチの重要性が注目を集めるようになった。ワンヘルスとは、1)人間の健康、2)動物の健康、および3)環境の健全性、という「3つの健康・健全性」は相互に密接に関連しているため、人間社会の持続性を確保するためには三者は欠かすことができないとする概念であり、この概念を基に、人獣共通感染症や薬剤耐性菌等の公衆衛生上の重要課題を、医師、獣医師、および環境分野の研究者等の関係者が緊密な協力関係を構築して解決を図ることがワンヘルス・アプローチとされる。
国立環境研究所弊所においても、これまでの研究成果に基づき、感染症対策としての生物多様性保全という、ワンヘルス・アプローチの概念の普及啓発に力を入れている。
2021年には、JSTムーンショット型研究開発制度ミレニアプログラムにおいて、農研機構動物衛生研究部門と共同で、ワンヘルスに関わる様々な分野の専門家のインタビューコメントに基づいて、ワンヘルス・アプローチを継続・具現化するための研究的・政策的課題を整理した(Andoh et al. 2023)。
また、これまでにNHK BS1スペシャル「ウイルスVS人類~未知なる敵と闘うために~」(2020年3月放映)および「国際共同制作 次のパンデミックを防げ!ウイルスハンターたちの闘い」(2022年12月放映)などの感染症関連番組に取材協力・出演を行い、国立環境研究所からYouTube動画「新型コロナウイルス発生の裏にある“自然からの警告”」を配信するなど、さまざまなメディアを通じて、情報発信を行っている。
さらに、これらの発信を通じて、政策決定者への情報提供に結びつけ、2020年夏に小泉環境大臣(当時)主催の「コロナ後の日本の未来と希望を考える会(別名:五箇勉強会)」(環境省https://www.env.go.jp/press/108141.html)の運営も行った。本勉強会において、「特に今回の新型コロナ災害を受けて、環境省はまず直近のリスク管理課題として、「人獣共通感染症対策」の重点化を急ぐ必要」があること、さらに「自然共生政策の一環として、環境省が主体となって、環境科学・自然生態学・進化生態学の観点から新興感染症発生メカニズムを解明し、さらに、得られた科学的知見に基づき、人間社会と野生生物の世界の間の衝突や干渉を避けるための社会・経済システムを、他省庁を牽引して目指していくことが重要である」ことを提言として発信し、環境省の自然共生政策における感染症対策の重要性をアッピールした(環境省「コロナ後の日本の未来と希望を考える会~気候危機を乗り越え、新しい自然共生を目指す~」https://www.biodic.go.jp/biodiversity/activity/policy/gokaben/files/message.pdf)。
これらの活動の成果として、環境省は2022年度より「野生鳥獣に関する感染症対策としての鳥獣保護管理方針検討業務」を開始し、また厚労省においても、鳥インフルエンザ対策における国立環境研究所の調査施設の意義と重点化について議論を始めている。
今後の展望
環境省および国立環境研究所においても感染症対策にかかる調査・研究業務の歴史は浅く、このコロナ禍において環境研究としての感染症研究の重要性が改めて認識され始めた状態にある。
ワンヘルス・アプローチという行動指針が、生物多様性条約のポスト2020年目標や、我が国における生物多様性新国家戦略においても盛り込まれようとしているが、ワンヘルス・アプローチを実行するためには、環境省、厚生労働省および農林水産省など関連行政機関の連携が不可欠である。
一方で、これら関連省庁間の風通しは、このコロナ禍においても良好であったとは言い難い。今後も感染症の問題は人間社会に繰り返し襲来することを念頭に、ポストコロナの新興感染症対策に向けて、まず、これまでの縦割り的行政システムの改変から始める必要がある。
国立環境研究所においても、今後さまざまな省庁の研究機関や大学、民間組織と密接な共同・連携体制を構築し、感染症の生態学的研究の強化計画を進めている。
謝辞
本稿で紹介した国立環境研究所における感染症関連研究の一部は、以下の助成を受けて実施されている。環境省環境研究総合推進費4-0801、4-1101、4-1401(以上代表:五箇公一)、4-2005(代表:岡部貴美子)、SII-1-2(分担:大沼)、SII-1-3(代表:大沼学)、JSPS科学研究費基盤研究(A)20H00425「ハナバチ保全のための新興疾病の統合的リスク評価」、基盤研究(B)26290074「なぜアカリンダニが増えたのか?—農薬がミツバチ寄生ダニに与える影響の評価—」(以上代表:坂本佳子)。
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