2014 Volume 1 Issue 2 Pages 44-45
サービス学会の第2回国内大会は,2014年4月28日(月)~ 29日(火・祝)まで,登録者168名の参加を得て,公立はこだて未来大学にて実施された(大会委員長は,公立はこだて未来大学の中島秀之学長).
特別講演が2件,口頭発表が44件,ポスター発表が36件,その他,サービス実践プログラムが5件という内容であった.
なお,2014年4月27日(日)には,大会前日のプレカンファランスワークショップとして,『サービス学におけるグランド・チャレンジ(大きな挑戦)』が,別会場のホテル函館ひろめ荘にて,実施された.この結果については,本号掲載の記事「サービス学におけるグランドチャレンジ」を参照願いたい.
新井会長より,サービス学会のこれまでの歩みと今後の活動についての説明があった.以下に,サービス学会の事業項目を示す.
すでに開始されているもの(国内大会や国際シンポジウム,SIG活動)もあれば,準備中のものもある.特に,国内マガジンとして「サービソロジー」が発刊開始され,年4回のペースで発刊して行くことが成果として報告された.
さらに,英文ジャーナルの発刊も,準備が進んでいることが報告された(図1).
特別講演は,サービス学会の大会にふさわしく,注目すべきサービス実践が2件報告された.
1件目は,十勝バス株式会社の代表取締役社長の野村文吾氏による,以下の講演である.
• 「お客様密着!で地域に貢献する十勝バスの取り組み~40年ぶりの利用者増加の実例~」
地方バスは,地域の重要な足であるが,利用者の減少に悩んでいる.「利用者が減る→バスの路線や便を減らすなど合理化する→ますます利用者が減る」の悪循環をどう断ち切るかは,難しい経営課題である.
野村氏は,停留所付近の住宅を一軒一軒訪問し,なぜバスを利用してもらえないのかを知るところから始めたと言う.住民は,地域の立場からバスの重要性を理解している一方で,生活者の立場からは,「乗り方がわからない」「どこへ行くバスかわからない」等,バスの事業者からすれば,想定外の気付きが得られた.さらに突き詰めると,バスに乗るのはどこかに行きたいからであって,バスに乗りたいわけでは無いと気付いた.詳細は割愛するが,これらの気付きを施策につなることで,ついに利用者はプラスに転じた.
まさに,「現場から始める」サービス実践の成功事例と言えよう.
2件目は,鶴雅グループ,株式会社阿寒グランドホテル代表取締役社長の大西雅由之氏による,以下の講演であった.
• 「宿づくり,街づくり~新しい時代への挑戦~」
北海道は自然が豊かである.しかし,観光資源の魅力にだけ頼っていては,人はやって来ない.国内にも競争相手はたくさんいる.これもまた,難しい経営問題である.
町づくり,地域づくりを含めた,宿を含めたサービスシステムが機能して初めて,宿の観光事業が成立するのであって,その逆ではない.この観点から,大西氏は,地域での活動を強化し,アイヌ文化の発信イベント等,町ぐるみ,地域ぐるみで阿寒のブランドを推進し,成功を収めた.
また鶴雅グループは,「おもてなし経営」にふさわしいサービス品質を保つために,ITをうまく使っている.使っているIT自体は,アンケートシステムやコミュニケーションカメラなど,特別なものでは無いと言う.従業員に「おもてなし経営」を行き渡らせるために,技術を経営ツールとしてうまく役立ている.
本事例もまた,「サービスは人によって成り立つ」,サービス実践の成功事例と言えよう.
口頭発表件数は44件,ポスター発表件数は36件であった.口頭発表は,内9件が,一日目に単独セッションとして,残り35件が,二日目に三並列のセッションとして実施された.ポスターは,一日目の昼間に17件(内1件は企業展示)が,二日目の昼間に19件が実施された(図3).
発表内容は多岐に渡っており,一言で全体を言い表すことは難しい.分野的には,飲食業,観光,看護など,具体的な場をフィールドとするものが目立った.リサーチの方法も,シミュレーション,実験,インタビュー,アンケート,数理的な分析法まで,様々である.サービス学的には,価値共創やサービスデザインのキーワードで語れるものが多かったように思う.
サービス実践プログラムは,サービス学会らしい企画として,国内大会の場を利用して,サービスの実践と実証を行う場を提供するものである.
公募により5件のテーマが実施された.キーワードで粗く捉えれば,3件は観光もしくは交通に関するもの.残り2件は,コミュニティもしくは集合知に関するものであった.
懇親会は,一日目の夜,函館駅すぐ傍の,ロワジールホテル函館にて開催された.参加者は116名で盛況であった.サービス学会第一回国内大会で授与された賞の授賞式などが行われた.
サービス学会第3回国内大会は,2015年4月8日(水)〜9日(木)の予定で,金沢で行われる(大会委員長は,北陸先端科学技術大学院大学の知識科学研究科の小坂満隆教授).会場となる金沢歌劇座は,金沢の中心街にあり,21世紀美術館,兼六園,金沢城がすぐ近くにある.
北陸新幹線が,2015年春に金沢まで開業予定である.金沢駅から金沢歌劇座まではバスを利用することになるが,交通至便である.春の桜のシーズンの金沢に,ぜひ足を運んでいただきたい.
〔神田陽治(北陸先端科学技術大学院大学)〕