2014 Volume 1 Issue 2 Pages 46-47
2014年4月30日から5月2日にかけて,国際会議The 6th CIRP Conference on Industrial Product-Service Systems 2014(CIRP IPS2 2014)が,カナダのウィンザー大学にて開催された.本国際会議は,国際生産加工アカデミー(CIRP)主催のもと毎年開催されており,今年で6回目を数える.
近年,東アジア諸国の企業における急速な技術発展などに伴い,多くの製品が過酷な価格競争に巻き込まれている.工業先進国における製造業の多くは,製品単体を売ることにより対価を得るビジネスモデルでは,競争力を維持することが難しくなってきている.このような状況を打破する一つの解決策として,顧客に対して物理的な製品の提供のみならず,設計・製造から完成後の管理運営・メンテナンスなどの行為的な製品(サービス)を含めたシステムを提供する製品・サービスシステム(Product-Service System: PSS)の注目が高まりつつある.CIRP IPS2は,PSS研究における主要な学術会議の一つであり,製品とサービスの高度な融合をテーマにPSSを設計・開発するための学術的な知見の蓄積や,ベストプラクティスの収集を目的としている.
初日は,PSS教育に関するビジネスゲームの大会が行われた.本大会では,会議の参加者が実際にビジネスゲームを体験し,ビジネスゲームによるPSSの教育について議論を行った.本大会で行われたビジネスゲームは以下の3種である(括弧内はゲームの開発者).
また,ゲーム大会後には,各ゲームの開発者によるPSS教育に関するパネルディスカッションが行われた.
本会議では,以下の4件のKeynoteが行われた.
これらのKeynoteでは,PSSに関連するIndustry 4.0や,Cyber-Physical Systems,Through-life engineeringに関する技術と,各国のPSS開発事例やプロジェクトの紹介が行われた.また,2日目のKetnote後には,Hoda ElMaraghy教授,Horst Meier教授,Rainer Stark教授,下村芳樹教授によるパネルディスカッションが行われ,PSSの研究動向の紹介と,今後の研究方針に関する議論が行われた.
Parallel sessionは,5月1日から2日の2日にわたり計15種のセッションが行われた.
PSS では,製品の所有権は提供者が保持し,顧客が製品をレンタルやシェアするビジネスモデル(Use oriented PSS)や,提供者と顧客間で合意された成果のみが顧客に受け渡されるビジネスモデル(Result oriented PSS)など,従来の製品売切り型ビジネスとは異なる特徴を持つビジネスモデルが数多く提案されている.そのため,Industrial Applicationsや,New Business Models and Innovation,Risk and Quality ManagementなどセッションにおいてPSSの事例解説や,成功要因やリスクの分析,新たなビジネスモデルの構築方法に関する研究が発表された.また,このようなビジネスモデルを実現するための研究も数多く発表された.例えば,Design Tools and Methodologiesにおいては,製品だけでなくサービスも含めたシステムの設計方法に関する研究が発表された.また,IT and Cyber Technologyにおいては,PSSにおけるIT技術の活用方法が発表された.
PSSにおいて提案されている新たなビジネスモデルは,主に,顧客に対して高い付加価値を実現することや,製品ライフサイクルにおける環境負荷を低減することを目的としている.そのため,Value Creationや,Performance Indicators and Assessment,Industrial Marketingなどのセッションにおいて,PSSにおける顧客の分析方法や,価値の決定方法,および,測定方法に関する研究が発表された.また,SustainabilityやLifecycle Product-Service Managementにおいて,PSSにおける環境負荷の測定方法や,製品・サービスのライフサイクルマネジメントに関する研究が発表された.
6回目となる今回の会議では,前述の従来から行われきた研究発表に加えて,新たにKnowledge Generation, Training and Educationなどのセッションにおいて,PSS教育に関する研究発表が活発に行われた.これらの研究発表では,PSSビジネスへの志向の転換を促すビジネスゲームや,PSS提供に必要な知識や技能の伝承方法に関する研究が紹介された.これらの研究は,今後,PSSを実社会において展開していく上で,重要な役割を担うことが期待される.
本会議において発表された研究成果は,わが国の製造業が直面する種々の問題の解決に対しても,有用な知見を与えるものである.今後は,日本からも大学の研究者だけでなく,民間企業の方々も数多く参加されることを期待したい.
本会議において,2015年のCIRP IPS2は,フランスのSt-Etienneで,2016年はイタリアのBergamoで開催されることが決定した.
〔木見田康治(首都大学東京)〕