2014 Volume 1 Issue 3 Pages 46-47
2014年7月19日から7月23日にかけて,国際会議5th International Conference on Applied Human Factors and Ergonomics (AHFE) 2014が,ポーランドの古都KrakówのJagiellonian大学で開催された.
同大は,今年創立650周年を迎えたポーランド最古の大学であり,Kraków旧市街の本校には,ここに学んだニコライ=コペルニクスの銅像(写真)が設置されている.なお,今回の会議は,郊外の新キャンパスで開催された.
今回の会議は第5回目にあたり,「人間中心の視点」を軸とする計12の国際会議の共催で,62の国と地域からの1,400人以上が参加.学際的イベントして盛大に開催された.Pre conference tutorials(8件)の後,Opening sessionと,Keynote speechによって本会議が開幕し,口頭発表セッション(198トラック)が,最大19並列で実施された.その他にも,192件のポスター発表や,製品等展示も行われた.
前述12の国際会議は,それぞれがサービス,ソフトウエア,安全,医療,健康,デザイン,交通(陸,海,空),製造,教育,文化等多岐にわたるテーマを主題とする専門会議である.各会議の参加者は,他の会議のセッションにも自由に参加して相互交流できる運営となっていた.また,合同開催によってコストが軽減され,新しいテーマの国際会議が開催しやすくなり,会議の新陳代謝も促進されるという利点も感じられた.
以降,報告者が聴講した講演の中から,興味を引いた海外からの発表の概要を報告する.
最新の脳科学の研究成果を,交通渋滞の発生や森林火災の延焼現象のアナロジーを用いて解説.最後に3つの設問,(1) 正常な脳の活動とは,どのようなものか? ,(2) 最適なインタラクションとは,どのようなものか? ,(3) 子供は犬とずっと遊べるのに,ロボットではそうではないのはなぜか?,を課題として提起し,講演を締めくくった.
報告者は,前述12の国際会議の一つHuman Side of Service Engineering(HSSE)2014にてH22採択のJST国プロ成果の一部を発表,そのため,このHSSEに属する発表を中心に聴講した.
Service Dominant Logic (SDL)に基づく分析として,サービスのイノベーションを実現する為 には, (1)企業,顧客,社員,協業者(actors)が,(2)連携のための仕組み(institutions)を活用して,(3)潜在的な価値を持つ素材(resources)を統合することで,(4)業界ルール(institutions)を書き換えて,新しいエコシステムを作り出す必要があることを指摘した.
成功事例として,子供の職業疑似体験を提供する"KidZania"や,高品質なローカルフードを提供する"Eataly"などの事例が紹介された.両者は広く世界進出を果たしており,そのどちらもが日本(東京)でも,事業を展開している.
クラウド環境に対する同社の立場を紹介.ここでは,(1)巨大な情報インフラと資金を持っていても,必ずしも顧客に価値を提供できる訳ではないことや,(2)もしも自身の固有の強みを生かせないときは,それを制御された形で他者にも開放すべきであることなどが,Apple社や,Google社と同社との比較を添えて主張された.
英国大学に於ける留学生支援サービスでの課題を提示.欧州には有力大学が多数有るため,有名大学でも優秀な学生の確保・維持に苦労しているという現状も紹介された.
同社が考える未来の都市交通サービスシステムを紹介.従来通りの自家用車購入者向けサービスに加え,個人向けや,企業向けのカーシェアリング,個人間カーシェアリング,さらには駐車ソリューションを含む,柔軟な利用形態が提示された.
最後に,(1)顧客を知り,(2)最適化した運用と,(3)動的な開発で,(4)安定した技術改良と革新を行うことが,サービス成功の鍵であるとした.
人間工学に基づくデザインで受賞歴のある同氏が,製品設計の方法を教授.参加者を小チームに分けての議論や,ロールプレー実習を含む,有意義で,かつ楽しめる,参加型のレクチャを展開した.
物性に於ける外圧(stress)と内部歪み(strain)のアナロジーに基づく,作業者負荷の分析モデルを紹介.さらに20世紀からの自動車メーカーに於ける改善の歴史を解説.最新事例として,製品の企画立案から,試作,製造までを同時並列に行うことで,他社がまねの出来ない品質を実現し,大きな世界シェアを持つ自動車ドアメーカーBrose社の事例や,Audi社の超高級車R8の製造方法などが紹介された.
本講義では,2000年以降のドイツ経済躍進の源泉は,(1)実際の製造現場で作業をしている中間層の技術力の嵩上げと,(2)それに伴う個々人のモチベーション向上とにあると分析.これは,同時期にコストダウンのみを進め,今現在,国際競争力の回復に苦戦する日本の製造業にとって示唆に富む知見である.
次回AHFE2015は,2015年7月26日から30日に,米国ラスベガスで開催される.AHFEは,参加者の多様さと学際性の高さから,皆様に参加を推奨出来る会議であった.(http://www.ahfe2015.org/)
〔知野哲朗 (東芝)〕