Serviceology
Online ISSN : 2423-916X
Print ISSN : 2188-5362
Preface
Expectation on Serviceology from the Viewpoint of Tourism
Yoshiaki Hompo
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2015 Volume 1 Issue 4 Pages 1

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過去数十年もの間,我が国の観光に対する関心度,あるいは我が国全体の政策における観光行政の優先度は永らく低いものであった.これはサービス産業全体が長年軽視されてきた経緯と同様である.

しかしながら,2000年代に入り,サービスの重要性が社会の中で認知されたことと時を同じくして,観光に対する風向きも大きく変わった.2013年の訪日外国人旅行者(インバウンド)数は1,036万人となり,政府が悲願とした目標値1000万人が史上初めて達成された.インバウンドは,国内旅行などの他の観光分野と異なり,国が主導権を握らなければ推進できない分野である.観光立国元年と位置づけられる2003年以降,政府は,2006年12月に観光立国推進基本法の制定,2007年7月に観光立国推進基本計画の閣議決定,2008年10月に観光庁の設置などの観光立国推進の枠組みを整備するとともに,ビジット・ジャパン・キャンペーンと称するインバウンド推進活動を展開してきた.このことにより観光立国への機運が醸成されるとともに,国民の観光への関心も高まった.また,自治体におけるインバウンドへの取組も著しく強化された.これらに呼応してインバウンドに関する企業活動も活発となった.まさに官民一体となったインバウンド振興の努力があったといえよう.

翻って,学についてはどうであろうか.これまでの間,官と学との連携,すなわち観光政策と観光研究との連携が十分に行われてきたかと問われれば,極めて希薄であったと言わざるを得ない.官と学とが互いのニーズを理解し,互いを高め合うような結びつきが弱かったため,社会の動きと学の活動とを連動させるような相乗効果も十分には生まれてこなかった.また,観光学という学際分野を表す言葉もあるが,様々なものが融合した集合体が観光学なのであって,特定のディシプリンだけが集まって組織体を構成することは好ましくない.これまでは社会学的な観点での観光研究が多くを占めていたが,今後は,マーケティングやエンジニアリング等の異分野で培われた知識と経験とを取り込み,より実用性の高い学問分野へと昇華させていく必要があろう.

一方,これらのことは,サービス学に向けた期待そのものでもある.サービス学という学際的名称を掲げる限り,その成否は,文理融合としての成果を如何に創出するかに尽きる.しかしながら,人文社会科学と理工学とが手を携えることはやはり難しく,多くの場合は文理共存の段階に留まり,融合にまで至っていない.文理融合への道は険しいが,例えば皆が共同で取り組むことができる産学連携型の研究テーマに対して文理の双方が加わり,共に研鑽していくことで,新たな価値の創出が可能となるであろう.観光分野は様々なものを包摂できる箱であるから,サービス学会にはこのフィールドを大いに活用して欲しい.そして,文理融合を通じてサービスに関する知識の総合化・体系化を実現した後には,産のみならず官とも協働しながら,物事を動かし,人を動かし,社会を動かすことのできるオーガナイザーとしての役割を担っていくことを期待している.このような学者像は,ともすれば御用学者とこれまで揶揄されてきた.しかし,これこそが,サービス学が目指す“社会のための学術”を体現する,社会貢献者としての学者像ではないだろうか.

著者紹介

  • 本保 芳明

首都大学東京 都市環境科学研究科 観光科学域 教授/初代観光庁長官

 
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