Serviceology
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Letter to the Editor
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2015 Volume 1 Issue 4 Pages 50-51

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村上フレームワーク再論  当該先記事「村上フレームワークについての議論」 (サービソロジー Vol.1,No.3) Letter to the Editor中島・平田氏の投稿記事 投稿者 村上 輝康〔産業戦略研究所〕

2012年のサービス学会設立というビッグバンを契機にして,サービスについての知の爆発現象がサービス学会の内外で起こりはじめた.やがて多数の知の細胞が形をなし,自己複製を繰り返す中で両性が出現して,桁違いの多様性がもたらされるはずである.すでに本村は,その多様性の良い見取り図(1)を与えてくれている.

中島秀之,平田圭二(以下,中島ら)とのやりとりもその様な,多様性の向上と新たな知の創出の契機にしたいと思って始めたが,本誌Vol.1,No.3の中島らからのLetter to the Editorの,筆者との主張の差違を“欠点”と表現し,サービス価値共創の概念的フレームワークを創出しようとする営為を,学問的フレームワークではない単なる研究管理手段に矮小化する主張は,サービス学という学際的かつ業際的な多様性を旨とする知のコミュニティにおける作法としてはいかがかと思い,再び筆を執った.欠点であるかどうかは,誰かが「決める」のでなく,それぞれの研究者が対等の参加者として入場している知の市場で「決まる」のである.

  • ●   サービス科学のマインドセットをもってサービステクノロジーでリフレーム

    中島らの第一の批判は,筆者の論文にサービスの定義が無かったことと,全体論的でなく要素還元的アプローチをとっているということに向けられている.

    筆者は,このサービス知の疾風怒濤の時代に,サービスを定義するという行為をまだしたくないと思っている.求められれば,サービソロジーVol.1,No.2の筆者の投稿論文に示した,サービス価値共創の概念的フレームワークの3つの価値の再生産サイクルの全体が,サービスの定義であるとしたい.サービスのテクスチュアルな定義が無いと,サービス価値共創の議論ができないとは思わない.ただ,どのようなサービスを対象にしているかは,明確にしておくべきであろう.限定列挙すれば,①産業分類におけるサービス産業の基盤的サービスと本源的サービス,②製造業,建設業,農林水産業におけるサービス実践,③携帯電話のようなサービス製品や情報システㇺ分野のサービスシステムの,コンテキスト非依存(2)なサービス実践部分,という3つのレイヤーがある.

    中島らの定義するサービスが全体論的であるからといって,要素還元的研究やアプローチをサービス学の範疇から排除しようとするロジックは理解できない.サービス価値共創の概念的フレームワーク形成の作業は,常に全体論的な思考に導かれていたと思うが,もしそうでないとしても要素還元的だからといってサービス学の対象からはずすべきという理由は、筆者には見いだすことができない.

    先般の第五回S3FIREフォーラムでは,新井学会長がモデレータとなり「サービス科学は,サービスの科学か」という刺激的な問いかけを行い,学会員でもあるパネリストの間で興味深い議論が展開された.もし筆者に「サービス学は,サービスの学か」と問われれば,即座に「否,サービス学は,サービスイノベーションの学である」と答えるだろう.サービスに係わる学は,サービスの学であるだけでなく,サービスイノベーションをもたらす学であるべき,という信念は,2006年の牛尾委員会(3)以来変わらない.この見解は,常にデザインを重視する中島らとも共有されているものと思っている.

    そして,そのイノベーションは,松波が,いみじくも「マインドセットを持ってリフレームすること」と定義した(4)ところのイノベーションである.筆者は,産業技術総合研究所と日本経済新聞社が2010年から12年まで推進した「日本を元気にする産業技術会議」において「サービステクノロジー」の概念を提案し,その振興をはかるべきことを提言した.サービステクノロジーとは,サービス科学やサービス工学の成果をふまえてサービスに対する深い理解とサービスイノベーションのための手段や方法を統合し,企業,行政・自治体,生活者が簡易に利活用できるソリューションとして体系化された技術である.この概念を使えば,サービス学は,「サービスサイエンスを拠り所とするマインドセットをもって,サービステクノロジーでリフレームするサービスイノベーションの学である」とすることができる.このようなマインドセットの形成は全体論的であるかもしれないが,リフレームされる対象は,要素還元的になる可能性が高い.しかし,サービス学がその黎明期において要素還元的であることが,その対象から排除される理由になるのだろうか.そもそもホロニズムは,近代科学が徹底的に要素還元的アプローチを行い切った果てに生まれてきたものではなかったか.

  • ●   送り手・受け手とサービスイノベーションのマネジメント主体

    ここまで来てこのコラムに許される紙幅が不足してきた.以下,結論だけを示したい.第二の批判は,価値共創フレームワークに関わるもので,いくつかの部分からなっている.第一に,村上フレームワークで,受け手が利用価値,送り手が経験価値という別々の価値を享受するのでは共創にならないという.これについては,すでに批判4への回答で,三面等価のロジックを使って説明した.価値共創は,利用価値,経験価値および交換価値が同時的に生成されるプロセスとして理解いただきたい.

    もうひとつの批判は,「このフレームワークを利用してデザインしようとする主体を,系の外においている」ことに対する批判である.その系の外にいる主体は誰か,という問いかけが行われているが,それはサービスイノベーションを行うマネジメント主体である.ただし,そのマネジメント主体が,同時に送り手であることを排除しない.

    このことと,批判4に関わる,「変容する目標に対して再デザインの役割を担うのが誰か」という議論とは全く別である.筆者は,再デザインという言葉は使っていない.送り手が行うのは,コンテンツとチャネルにおいて何らかの変容を経たt+1期の「再提案」なのである.イノベーションに関わる再デザインと,利用価値の再提案とは,似て非なるものである.

    さらに,このことと中島プロジェクトを村上フレームワークの外側においたのとは,まったく無関係である.すでに批判1への回答に示したように,マッピングは,個々のプロジェクトがサービス科学に対してもたらそうとしている最も重要な革新に着目して行っており,中島プロジェクトの場合その狙いは,FNSによるサービス学方法論そのものの革新であると判断したからである.

  • ●   コンテキストと方法論

    第三の批判は,コンテキストの扱いに関するものである.村上フレームワークでは,サービスのコンテキスト依存性に対する配慮から,一旦,フレームワークを完成させた後,1からnまでのコンテキスト平面を重層させている.それぞれのサービスにそれぞれのコンテキストが対応するこの表現方法は,コンテキストを扱おうとする研究者によって良く理解されていると認識している.S3FIREの京都大学の小林プロジェクトは,これを活用することによって,おもてなしサービスの構造を見事にモデル化し,コンテキスト越えのマネジメントノウハウ獲得の糸口を提示する(5)に至っている.

    中島らは,人工知能や自然言語の世界ですでにコンテキストに対する研究が行われていて,FNSもそれを発展させ深めたものであるという主張を行っているが,サービス学の立場からはそれがどのようにサービスの分野に適用されるのかを知りたいのである.まだ社会的地歩の弱いサービス学の方法論の革新は,実体世界におけるサービスに対する革新的なイノベーション成果を,実証・実践するものであることが望ましいという認識も共有しておきたい.

参考文献
 
© 2018 Society for Serviceology
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