Serviceology
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The Fujitsu Special Session Report In ICServ2014
Tatsuhiko ShibazakiHidehiro Takeda
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2015 Volume 1 Issue 4 Pages 52-55

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1. はじめに

2014年9月14日(日)〜 9月16日(火)にかけて慶応大学日吉キャンパスにてサービス学会第二回国際大会(ICServ2014)が開催され,120名を超える参加者が集まった.海外の研究者も交え活発な議論が展開され,最終日となる16日には,学会に対し,産業界からのメッセージとして富士通株式会社主催の特別セッションが行われた.特別セッションは,富士通株式会社グローバルマーケティング本部ポートフォリオ戦略統括部長の高重吉邦氏による「つながる世界で実現するヒューマンセントリックイノベーション」と題した特別講演と,「これからの時代に求められるサービスデザインとヒューマンセントリックイノベーション」をテーマとするパネルディスカッションで構成された.

パネルディスカッションは富士通の高重氏のほか,サービス学会長の新井民夫氏とSan Jose州立大学のStephen Kwan氏を交えて実施された.

学会最終日,かつ平日ということもあり,外国人研究者4,5名を含む50名程度と,前二日と比較すると参加は多少少なめではあったが、質疑も含め活発な意見交換の場となり,来年米国・西海岸で開催が予定されているICServ2015に向けた先行議論の場となった.

2. 特別セッション

2.1 特別講演

「つながる世界で実現するヒューマンセントリックイノベーション」と題して行われた特別講演では,あらゆるものがネットワークでつながっていく新たな世界が出現しつつあるという話から始まった.(1)ある調査会社によれば,人や情報に加え,車やエアコンなど多種多様なモノが,2013 年時点で100億個近くインターネットにつながっている.それが2020年には500億個にも増加すると予測されていることを紹介し,これからの世界はあらゆるモノがつながる「ハイパーコネクテッド・ワールド」となると紹介した.

写真1 講演する富士通の高重氏

また,テクノロジーの利用環境が高度化,かつ低コスト化しているため,誰でもイノベーションを起こせる時代になってきていることを紹介した.そして,このような世界では人々が境界線を超えて恊働・共創し,それによってビジネスや社会において価値を生み出す方法が変わるとともに,新たなリスクや不確実性も生じてくると述べた.

このような時代に未来を切り拓いていく鍵となるのが「人」であり,人の創造性が競争優位性を生み出す源泉になっていくと高重氏は指摘した.さらに人を中心に考えたヒューマンセントリックなICTの活用がこれからのイノベーションには重要であると述べた.

図1 Human centric paradigm(発表資料より)

新たな時代におけるイノベーション創出には,「人をつなぎ,力づけ(Human Empowerment)」「大量の情報から知を創出し(Creative Intelligence)」「ICTと多様なモノを繋げて価値創出を行うインフラを整備する(Connected Infrastructure)」という3つの視点が重要であると指摘した.

そしてHuman Centric Innovationは,「人・情報・インフラ」の3つの経営資源を組み合わせることによってイノベーションを生み出す新たなアプローチであることを紹介した.

具体的には,社内システムやウェブ,センサーからの多様な情報を知覚(Sense),分析(Analyze)して新たな知見を生み出し、その知見によってプロセスを最適化(Optimize)し,行動(Act)に結び付けていくサイクルを廻して人の行動・判断をエンパワーしていくことにより,企業のビジネスモデル革新・競争力強化を実現していくことができると述べた.

顧客事例の紹介をとおして,富士通が教育やヘルスケア,食や環境などの様々な領域で培った技術やノウハウを活用し,多くのお客様やパートナーたちとエコシステムを作りながら価値共創に努めていることを紹介した.

図2 Human Centric Innovation(発表資料より)

そして最後に,富士通が掲げるビジョン「Human Centric Intelligent Society」を紹介し,(2)富士通はエコシステムの中で,一人ひとりの人のためのより大きな価値をお客様・パートナーと共創していく活動を通じて,より安全で豊かな持続可能な世界を実現していきたいとまとめた.

図3 Summary(発表資料より)

2.2 パネルディスカッション

富士通の高重氏による特別講演が終了した後は,高重氏が述べたこれからの潮流を踏まえ,それを深めるべくパネルディスカッションが開催された.

テーマは「これからの時代に求められるサービスデザインとヒューマンセントリックイノベーション」で,モデレーターをサービス学会長の新井民夫氏が務め,San Jose州立大学のStephen Kwan氏と富士通の高重氏がパネラーとして登壇した.国内外の研究者,産業界の実践者が意見交換を行うという国際色ある多様なメンバーによるパネルディスカッションが実現した.

写真2 新井会長,Kwan氏,高重氏

ディスカッションは大きく以下のテーマについて行われた.

  • (1)Human Centric InnovationとService Designの違い
  • (2)どうすればHuman Centric Innovationを起こすことができるか

(1)については,高重氏が特別講演で紹介した「ハイパーコネクテッド」な世界についての認識を3者で共有したうえで,なぜこれからHuman Centric/Human Centeredなアプローチが重要になるのかが議論された.

これまで製造業は,材料調達から製造,そして提供までモノのライフサイクルで考えて管理されてきた.これからの社会では,製品を購入する消費者までを含めた一連のシステムとして考える必要がある.

マーケティングから販売,最後はリサイクルまでのサービス全体のシステムを考えるためには,そこに介在する人を中心に考えていかなければならない.そのような中で,新たな価値を創出していくことがサービスにおけるHuman Centric Innovationであり,サービスサイエンスやサービスデザインはサービスサイクルを考える一連の視点を提供できるのではないかという見解がみられた.

(2) については,さまざま議論のなかで価値共創やイノベーションのためのエコシステムをつくることが重要であるとの指摘があった.その際,サービスのフローを捉え,データやそこからの洞察を蓄積・共有出来る仕組みが重要.またサービスの利用者の動きを含めてシステムとして捉える視点が重要であること.

さらには,イノベーションを起こすための環境が低コストで調達できるようになってきているため,お客様も含めた社内外の多様なプロフェッショナルでチームを組み,プロトタイピングを繰り返すことについての重要性が言及された.

写真3 パネルディスカッションの風景

3. 価値共創の場としての学会

特別セッション全体を通し,参加者からは「さまざまな価値共創事例を取り上げており,これからの未来を予感させてくれる様なセッションだった」という声をきくことが出来た.セッション終了後も,内外の研究者数名が登壇者を囲み意見交換をするなど,活発な議論の場となった.セッションを企画した富士通にとっても自社ビジネスのビジョンや方向性を確認するよい機会となった.

写真4 パネルセッション後に意見交換する高重氏

富士通はこれまで,企業のビジネスを支える情報システムを企画から運用・保守までを請け負うシステムインテグレーションとよばれるビジネスを柱としてきた.このサービス提供形態では,富士通は企業の情報化を担う情報システム部門を顧客として要件を整理し,システム化に臨むこととなる.

しかし,高重氏が特別講演で指摘するように企業を取り巻く社会状況はテクノロジーの進展により大きく変化し,ICTの役割は企業における情報システム部門に留まらず,企業活動を支える経営部門や事業部門とも密接に関連するようになっている.

あらゆるモノがつながる時代においてはサービスや製品を提供するビジネスプロセスがICTに支えられるだけでなく,サービスや製品そのものがICTと融合していく.そのような環境において富士通は今後,生活者と顧客である企業の経営や事業までを視野に入れたサービスを実現していかなくてはならない.

多様なステークホルダーがおり,明確な要求が存在しない領域だからこそ新たなコミュニティーの構築や共創というアプローチが重要であると考えている.

図4 お客様のICTに対する期待の拡大

富士通は,これまでオープン・サービス・イノベーションの取り組みとして<あしたのコミュニティーラボ>をサービス学会においても紹介してきた.(3)これはオウンドメディアを活用した,共創による新たなサービス創出に向けた社会と企業,生活者をつなぐ実験的な取り組み事例である.

今回ICServ2014での特別セッションをとおして,富士通が掲げるサービスビジョンや実践する事例について,サービス学の視点から様々なフィードバックを得ることが出来た.

学会という“場(ba)”においても,企業が社会動向を含めサービスビジネスのビジョンやそれを実践する事例を紹介し,サービス学に取り組む研究者がそれを建設的に分析,フィードバックするループが立ち上がりつつある.

サービスビジネスを実践する企業とサービスを研究する大学とが交流を深め,互いを尊重し切磋琢磨出来る様な「共創の場」「コミュニティーの醸成」をサービス学会に期待するとともに自ら実践者として先導していきたい.

著者紹介

  • 柴崎 辰彦

1987年富士通株式会社に入社.様々な新規ビジネスの立ち上げに従事後,現在は3万人のSE戦略立案業務に従事.著書は,CRMビジネスでの経験を活かしソーシャルメディアにおけるサービスサイエンスの活用について紹介した「勝負は,お客様が買う前に決める」.現在,オープン・サービス・イノベーションを実践する「あしたのコミュニティーラボ」の代表も務める.

  • 武田 英裕

2001年株式会社富士通ラーニングメディアに入社.システムエンジニアに対する技術トレーニング業務に従事.2012年より富士通株式会社に転籍.新たなサービス創出業務に従事.富士通のオープン・サービス・イノベーションを実践するオウンドメディアである「あしたのコミュニティーラボ」の企画・運営を務める.

参考文献
  • (1)  高重吉邦:“Human Centric Innovation in the era of hyperconnectivity”,ICServ2014特別セッション講演
  • (2)  富士通株式会社:“Fujitsu Technology and Service Vision2014”, http://jp.fujitsu.com/vision/2014/
  • (3)  柴崎辰彦:“オープン・サービス・イノベーション実践における「場」の重要性”,第2回サービス学会国内大会論文集
 
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