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Conference Report
Social Modeling and Simulations + Econophysics Colloquium 2014
Hideki Takayasu
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2015 Volume 1 Issue 4 Pages 66-67

Details

1. はじめに

この国際会議は,第10回目のEconophysics Colloquiumと第1回目のSocial Modeling and Simulationsのふたつの国際会議が共同開催したものであり,2014年11月4日から6日に,神戸市ポートアイランドのニチイ学館にて開催された.参加者は,174名(うち外国人63名)で,招待講演21件,口頭発表77件,ポスター発表53件が報告され,活発な議論が展開された.国際会議のホームページは,下記のアドレスにある.

http://aph.t.u-tokyo.ac.jp/smsec2014/ja/

2. 国際会議の背景

Econophysics Colloquiumは,ほぼ毎年開催されている経済物理学に関する国際会議であり,ちょうど10回目に当たる今回は,日本が担当となり,東京工業大学の高安美佐子(敬称は省略)がオーガナイザーとなって開催することがおよそ2年に決まった.経済物理学は,社会の高度情報化に伴って様々な形で溜まってきているビッグデータを物理学的な視点から分析し,モデル化する研究を進めている学問分野であり,1990年代の終わりごろから金融市場データや企業財務データの解析から研究が始まった.経済物理学に関する国際会議は,他にも幾つかのシリーズがあり,毎年,3-4回ほど開催されており,研究は年々深まり,また,新たな研究対象も増えている.このような状況を踏まえ,経済物理学の一層の発展のために,社会・経済のシミュレーションという新たな視点を導入することを狙い,今回の国際会議が企画された.

社会現象のシミュレーションとしては,理研のスーパーコンピュータ「京」を使って,自動車の渋滞などを含む交通流を研究するが進められており,その研究の代表者である東京大学および理研AICSの伊藤伸泰,産業技術総合研究所の野田五十樹が,Social Modeling and Simulations に関するオーガナイザーとなり,報告者である高安秀樹が全体をまとめるオーガナイザーとなり,国際会議開催のための準備が始められた.

この国際会議の実行委員会メンバーとして,和泉潔(東京大学),佐野幸恵(筑波大学),佐々木貴宏(Sony CSL),島田尚(東京大学),山田健太(東京大学),吉岡直樹(東京大学)が加わり,開催の1年ほど前から準備が進められた.

この会議に対してアドバイスをする役割を担う科学委員は,世界から31名が選ばれ,そのうち,18名は,招待講演者にも名前を連ねた.

スポンサー企業として,ホットリンク,ソニーコンピュータサイエンス研究所,および,EBS,から資金援助を受け,協賛組織として,立石科学技術振興財団,財団法人神戸国際観光コンベンション協会コンベンション事業部「MEET IN KOBE21」から助成を受けた.また,下記の学会などの協賛を得た.人工知能学会,サービス学会,JAFEE|日本金融・証券計量・工学学会,兵庫県立大学計算科学連携センター,日本物理学会,理化学研究所計算科学研究機構.

3. 国際会議の内容

国際会議は,11月4日から開催であったが,前日3日の午後からレジストレーションを開始し,その日の夕方には,ウェルカムパーティを行った.参加者のおよそ3分の1人が参加し,軽食を取りながら,既に研究に関する議論が始まった.

初日は,6名の招待講演者のプレナリートークで研究発表が始まった.Stanley(米国Boston Univ.)は,金融市場の時系列解析において,市場の状態が切り替わる変化点の検出方法とその応用に関する最新の成果を報告した(写真1).Kaski (フィンランドAalto Univ.)は,携帯電話のデータから利用者間のネットワーク構造を抽出し,その特性に関して報告した.Hu (台湾Academia Sinica)は,物質の相転移現象と類似の現象が人間集団の中でも見られることを様々な事例を挙げて紹介した.

昼休みを挟んで,午後からは,4つの会場に分かれて口頭発表が行われた.Viegas(英国,Imperial College)は,銀行の統廃合のデータから系統樹の構造に関する経験則と数理モデルに関する報告をした.

休憩時間の間に,希望者は,隣接する理化学研究所の京コンピュータの見学を行い,その後,2件の招待講演が報告された.タリス(ブラジル,BPRC)は,物質・生命・社会の様々な現象に観られるベキ分布を普遍的に説明する拡張されたエントロピーに関する自身の理論とその応用の最前線を報告した.

初日の最後は,ドリンクチケット制を取り入れたポスター発表だった.ポスター発表者は,よい質疑をした聴衆にドリンクチケットを配布し,ドリンクチケットを得た人は,会場の一角でビールやソフトドリンクを得ることができる,また,聴衆はベストポスター賞にふさわしいと思う発表に対して無記名の投票をするという相互に評価しあう仕組みによって,議論は非常に熱く盛り上がった(写真2).

2日目は,3件の招待講演で始まった.合原(東京大学)は,カオス動力学を基盤としたデータ解析やモデルに関する話題を紹介し,ある種の癌治療に応用され実績を挙げていることを報告した.

休憩時間を挟んで,4つの会場に分けられ,午後も引き続き,パラレルセッションが続けられた.昼休みの時間は,再び,ポスター発表に使われた.午後の発表の中で,招待講演者のLegara(シンガポール,IHPC)は,シンガポール全体の交通流を観測データに基づいてまるごとシミュレートするプロジェクトに関する成果を報告した.

この日の夕方は,懇親会があり,その前座として,スポンサー企業からのプレゼンがあった.立食形式のパーティでは,和食を中心とした料理がふるまわれ,日本酒を飲み比べながらの談笑に盛り上がる海外からの参加者が多かった.また,この時点でベストポスター賞に関する投票を締め切った.

最終日は,5件の招待講演が行われた.Sornette(スイス,ETH)は,金融市場における暴騰暴落の観測事実とそのモデル化,早期検出方法などに関して報告した.Kim(韓国,Sungkyunkwan Univ.)は,韓国における苗字の分布に関する歴史的地域的特性を分析し,モデル化する研究を紹介した.最後の講演では,Pietronero(イタリア,Univ. Rome)が,国ごとの生産物品や貿易品目のビッグデータから,背後に潜むネットワーク構造とその時間発展をモデル化し,10年程度の時間スケールで,それぞれの国が今後どのような発展をするかを予測する手法が確立されたことを報告した.

全ての講演が終了したのち,ポスター賞の発表が行われ,3名が表彰され,副賞を手にした.最後に,次回のEconophysics Colloquiumがチェコのプラハで2015年9月に開催されることが伝えられた.

3日間の短い国際会議ではあったが,非常に密度が高い議論が交わされ,また,研究者間の密接な交流もできた.若手の海外からの参加者には宿舎を無料で提供するなどの便宜も図ることができ,全体を通して若手の元気な発表や議論が目立つ会議になり,今後のこの分野の発展が期待された.

2015年1月末締め切りでプロシーディングスの原稿を集め,査読の過程を経て,2015年の中ごろには,この国際会議の論文集が公開される予定である.

〔高安秀樹 (ソニーCSL・明治大学)〕

写真1 招待講演の様子
写真2 ポスター発表の様子
 
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