2015 Volume 1 Issue 4 Pages 68-69
サービス・ドミナント・ロジック(以下,S-Dロジック)研究の現在と今後について議論するシンポジウムが,2014年9月5日に京都大学経営管理大学院で開催された.S-Dロジックが2004年に発表されて以来*1,どのような進化を遂げているかについて確認し,またS-Dロジックを活用した研究成果についても発表された. その後,サービス研究が抱えている課題,そして今後の研究展望について活発な討議が行われた.日本全国から約50名程度の研究者が出席し,盛会のうちに終了した.
まず,最初にS-Dロジックの提案者であるStephen L. Vargo名誉教授(University of Hawaii at Manoa)による基調講演が行われ,S-Dロジックの現在と今後についての話がされた.S-Dロジックで提唱されている基本前提(Foundational Premises)の進化について,そしてVargo教授が最近,とくに力を入れているサービス・エコシステム(Service Ecosystems)について説明があった.サービス・エコシステムとは,さまざまな資源を統合する行為者から成る自己充足型・自己調整型システムであると定義されている*2.そして,それはマイクロ(B2C・B2B・C2Cなどの「交換」)・メゾ(ブランド・市場・業界などの「(サブ)カルチャー」)・マクロ(国家・グローバルなどの「社会」)と3つの層が重なり合って構成される.サービス・エコシステムの考え方で国際マーケティングを捉え直すなど*3,新しい見方を提示する概念として,さまざまな分野へ展開されている.S-Dロジックをさらに発展させる上でも,重要な研究テーマであることが強調された.当日のプレゼンテーション資料は,S-Dロジックのホームページから入手できるので,参考にして頂きたい(http://sdlogic.net/presentations.html).
次に,南知恵子教授(神戸大学)から,S-Dロジックを活用した研究成果について発表があった.南教授は製造業のサービス化をテーマとして取り組んでおり,その現象の理解を深める上で,S-Dロジックが有用であることが話された.具体的な事例として,ダイキン工業株式会社の子会社であるダイキンヨーロッパ社と販売会社であるダイキンエアコンディショニングイタリア社の「ロンバルディ・プロジェクト」(イタリア・ミラノのロンバルディ市庁舎への空調導入プロジェクト)が紹介された.製造業のサービス化においては顧客の使用価値が中核的な役割を担っており,また企業が顧客志向へ転換するためには,他社の資源を獲得して統合する必要があることが指摘された.
そして次に,藤川佳則准教授(一橋大学)から,S-Dロジックを活用した研究成果として,「価値共創志向」プロジェクト,「サービス業のグローバル化」プロジェクト,そして「サービスと即興」プロジェクトが紹介された.(尚,最初の二つのプロジェクトはJST-RISTEXによる問題解決型サービス科学研究開発プログラムの研究成果の一部である.(詳細については,http://www.ristex.jp/servicescience/project/2010/04/から研究開発実施報告書が入手できるので,参考にして頂きたい.)S-Dロジックの中核的な概念である価値共創について,無印良品(株式会社良品計画)および株式会社日本公文教育研究会の事例を通じて,説明がされた.そして,S-Dロジックの更なる発展に向けた今後の研究テーマとして,「価値共創の個人志向性」「価値共創の事後創発プロセス」そして「価値共創の文化差」の三つが挙げられた.
最後に,原良憲教授(京都大学)も参加し,S-Dロジック研究の課題と今後について,ディスカッションが行われた.S-Dロジックは,実務者から概念の難しさが指摘されることも少なくないが,今後の発展に向けては,実務への展開・応用も考慮することの重要性が確認された.
以上,半日とたいへん短い時間であったが,非常に内容の濃い議論がなされ,参加者のS-Dロジックへの理解も深まった.また,Vargo教授に,日本のサービス研究に対する関心を持って頂けた.今後も,海外と日本のサービス学研究者の交流を継続的に実施することが大切であると思われる.
〔鈴木智子(京都大学大学院経営管理研究部)〕