Serviceology
Online ISSN : 2423-916X
Print ISSN : 2188-5362
Special Issue: "The Keyword of Creation of Innovation in Public Service"
Key points to create "Platinum Society"
Shingo Tanaka
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2015 Volume 2 Issue 1 Pages 40-43

Details

1. 「プラチナ社会」とは

日本は,エネルギー問題,急激に進む高齢化,少子化とそれに伴う労働力不足等,数々の課題を抱える課題先進国である.これらの課題は日本固有の課題ではなく,近い将来世界も直面する課題となる.

但し,これを「成長するチャンス」と捉えると,未来は明るく見えてくる.これらの課題を日本が世界に先駆けて解決することで新たな経済活動を創造し,課題解決先進国となって世界にそれを示すことが,日本の更なる成長機会となる.

ここで重要なことは,課題解決の突破力は何かである.物量的な豊かさに満ちた市民が求めるのは人生の質,つまり高いQuality of Life (QOL)であり,QOLを高める個人や組織の意志こそが,そうした突破力となる.そうすることで需要が生まれ,新たな産業が興り,経済活動が活発になる.こうして生まれ変わった地域社会を「プラチナ社会」と呼び,そのようなきっかけを作るために,小宮山宏会長(三菱総合研究所理事長,東京大学28代総長)の旗振りのもと,2010年8月に創設されたのがプラチナ構想ネットワーク(以下,当会という)である.

当会では,「プラチナ社会」を①エコロジーで,②資源の心配がなく,③老若男女が参加し,④心もモノも豊かで,⑤雇用がある社会,と定義している.

2. プラチナ構想ネットワークの活動

当会は,自治体首長で構成される自治体会員,企業の経営者等で構成される法人会員,そして学会の有識者等で構成される特別会員という主に3つの会員組織を有し,その数は総勢260名を超える.

当会活動は,主に3つの領域に分けられる.第一は,「プラチナ社会」の目指す「理念の形成普及」の活動である.「プラチナ社会」の実現に向けた取組を発信する「シンポジウム」や後述する「プラチナ大賞」,会員間の自由な意見交換の場として開催する「プラチナ懇談会」等がこの領域の活動である.

第二は,「プラチナ社会」を実現するための「実装フィールドの形成」に向けた活動で,各種人財育成事業等がこの領域の活動である.具体的には,自治体中堅職員を対象に,幅広い課題認識力,解決力等を学ぶ「プラチナ構想スクール」や,次世代を担う中学生を対象に,日本・世界をリードして活躍されている講師陣と直に接することで夢を描き,目標を持って取組んで行く「あすなろの心」を育む「プラチナ未来人財育成塾@会津」等がある.

第三は,様々な地域等で進められている素晴らしい課題解決の取組を「横展開する仕組づくり」の活動である.「プラチナ社会」の実現に向け「健康・医療」や「女性の活躍」,「農業」等のテーマを絞って進める調査・研究を通じて,具体的なアクションに向けた検討等を行う「ワーキンググループ」活動等がこの領域の活動である.

3. プラチナ大賞

イノベーションによる新産業の創出や,アイデア溢れる方策等により社会や地域の課題を解決し,「プラチナ社会」の目指す社会の姿を体現している,又は実現しようとしている全国の自治体や企業等の取組を,「賞」というかたちで称え広く社会に発信することを目的に,2013年7月「プラチナ大賞」を創設した.会員自治体・企業等から広く取組を募集し,外部の有識者等で構成される審査委員会による審査を経て,入賞団体が決定される.2013年7月に第1回,2014年7月に第2回を開催し,毎回多くの応募を頂いている.

また,プラチナ大賞の入賞自治体を「プラチナシティ」と認定し,認定自治体には「プラチナシティ」の称号と,交付するマークを自由に使用して頂くという仕組も2014年度に創設した.

プラチナ大賞の応募分野に縛りはなく,多方面に亘る取組を応募頂いているが,その中から今回は,「超高齢社会への対応」に関連して入賞した取組等にフォーカスする.自治体,地域住民,企業等が協働し,工夫を凝らして公共性の高いサービスを実現しているもので,そこから導き出せる4つのキーポイントとともに紹介する.

3.1 多様性を活用する「仕組づくり」

日本は,少子化の影響で65歳以上の高齢化率が25%,4人に1人が高齢者という状況である.地域では,団塊の世代が大量に定年を迎え,彼らは自分の居場所を求めている.

柏市の豊四季台団地は50年ほど前に造られた旧・日本住宅公団造成の住宅団地で,4,850世帯,約1万人が暮らしているが,建物の老朽化や住民の高齢化が進み,謂わば近未来の日本の縮図とも取れる状況にある.ここで取組まれている「長寿社会のまちづくり」が,2013年の第1回プラチナ大賞で「特別賞」を受賞した.

これは,柏市と東京大学高齢社会総合研究機構,UR都市機構の3者で進める,今後日本の各都市で進行する急激な高齢化に対応したまちづくり事業である.老朽化した団地の建替えと併せて,医療・介護等が必要な高齢者が,住み慣れた地域で継続して生活が出来るように,在宅医療の推進や医療・看護・介護サービスが連携して対応する複合施設を誘致した.

これに加えて注目すべきは,健常な高齢者が,農,食,保育,福祉等の分野で,働きながら地域課題を解決する「生きがい就労」の場を創設したことである.団塊の世代の高齢者が大量に定年退職し,地域に生活の中心をシフトするが,彼らは「会社」という社会の中での自分の立ち位置や役割は分かっていても,「地域社会」での自分の居場所や果たせる役割については見つけられずにいる.しかし,彼らはまだまだ元気だし,時間的にも余裕がある.自分の活躍の場を求めているし,出来れば自分の知識・スキル等を活かして誰かの役に立ちたい,等の多様なニーズを持っている.

豊四季台団地の取組は,これらの健常な高齢者が,自分の意思で働く日数や時間を自由に決められる仕組を作ることで,まだまだ元気な高齢者の多様性を上手く活用している.また,生きがい就労の「場」に高齢者を連れ出すことで,高齢者が社会と繋がり,地域での孤立を防ぐことにも繋がっている.第一のキーポイントは,元気な高齢者の多様性を活用する「仕組づくり」である.

3.2 異質なものを「繋ぐ」

島根県松江市七類港からフェリーで3時間半.日本海に浮かぶ小さな島,海士町では,1950年のピーク時には7,000人いた島の人口が,2010年には2,400人を切るまでになった.高齢化率は40%,若者が少ないため必然的に子供も減少.更に,離島ゆえに,従前は中学校卒業と同時に約4割の生徒が島を離れ,本土の高校へ進学していた.こうした島外の高校への進学と少子化の影響により,1997年度には77人いた隠岐島前高校の入学者数は,2008年度には28人に激減.存続の危機に瀕していた.

人口流出とそれに伴う働き手の不足,島の産業や文化の衰退等,海士町が抱える様々な課題への対応と,統廃合の危機にあった隠岐島前高校の再生を重ね,高校を島の再生を担う未来の人財を育成する場所と位置付けてスタートしたのが「島前高校魅力化プロジェクト」である.この取組は,2013年の第1回プラチナ大賞で「大賞」と「総務大臣賞」を受賞した.

主な取組は「島留学」と「夢ゼミ」.「島留学」とは全国から意欲や能力の高い入学生を受入れること.島国の子供に生じやすい集団の均質化や価値観の同質化,関係性の固定化等から脱却し,多文化の融合や多様な価値観と触れることで,地元生徒への刺激と高校の活性化を図ることを企図してスタート.首都圏や大阪,福岡等,また海外からの入学者も集まっている.島の生徒と島留学して来た生徒が共に高校生活を送ることで,島の生徒は新しいモノの見方や多様な価値観に触れ,また島留学して来た生徒は島の文化や人の温かさ等に触れて,お互いを認め合い刺激しながら学力や人間性を高めていくといった効果が表れている.また,島の高齢者が「島親」となり,世代を超えて交流することで,知の循環や文化の継承も起きている.この結果,2008年度に28名にまで減少していた入学者数は,2012年度には59名まで増加し(内,島前地域外の出身者は23名),V字回復を成し遂げた.

「夢ゼミ」は,地域や高校と連携した公立塾「隠岐國学習センター」にて行われている.通常の学校の復習等の学習支援の他に,将来の夢やキャリアデザインについて考え,発表し,議論することを通じて,地域や社会の担い手(グローカル人材)になるために必要な総合的な力を醸成している.夢ゼミで育った生徒達の実践力や目的意識は高く,大学合格が決まっても変わらずゼミに通い続ける.また,島を出て大学に進学した後も,夢ゼミで描いた自分の将来の目標を達成するために自ら活動し,研究に取組んでいるという.

2008年春,岩手県盛岡市のヤマト運輸盛岡駅前宅急便センターのセンター長(当時)でセールスドライバーの松本まゆみ氏が,いつもの配達先の独居高齢者の孤独死に遭遇した.荷物を配達した時に,いつもならばトラックの音が聞こえると玄関先でニコニコ待っている老婦人だったが,その日は姿を見せずに「そこさ置いていって」という声だけが聞こえた.「何かおかしい」と思いつつも仕事に戻ったその晩に,その老婦人は亡くなった.このことがきっかけとなり,「孤独死をなくしたい」という松本氏の強い意思の元に誕生したサービスが「まごころ宅急便」である.第2回プラチナ大賞で,「大賞」と「総務大臣賞」を受賞した.

岩手県西和賀町でスタートしたこの取組は,「買い物支援」と「見守りサービス」を行うもの.西和賀町は買い物困難者の課題を抱えており,移動販売車が来るのは1週間に一度だけという地域もあった.そこで,ヤマト運輸が社会福祉協議会と検討を重ね,当初に構築したのが①登録された高齢者から社会福祉協議会が電話で買い物の注文を受け,②地元スーパーで商品をピッキング,③それをヤマト運輸が配達し,④その際に高齢者に関して気付いたことを安否確認情報として社会福祉協議会に連絡する,という事業である.

この取組は,2011年3月の東日本大震災の被災地でも導入され,同年8月には岩手県大槌町で「まごころ宅急便」が始まった.その後も釜石市,北上市,大船渡市等で次々と事業を開始した.また,西和賀町ではその後も事業を進化させ,独居高齢者の家に小型端末を設置.ボタンを押すとヤマト運輸のコールセンターに繋がり,コールセンターから社会福祉協議会へ連絡が行くようにした.更に,地元商店街と連携し,散髪,家電修理等の注文をヤマト運輸のコールセンターが取り次ぐ「絆ONE」という生活支援サービスも開始した.

この2つの取組に共通して注目すべきは,異質なものを「繋いで」いる点である.

「島前高校魅力化プロジェクト」では,育って来た環境が全く違う島の高校生と島外の高校生を「繋ぐ」ことで,多様な価値観を理解・共有し,人間性を高めている.また,世代が離れた高齢者と高校生を「繋ぐ」ことで,知の循環が起きて文化の継承に繋がり,更には高校生たちとの接点の中から,高齢者が「生き甲斐や張り合い」をもつようになっている.この「島前高校魅力化プロジェクト」のキーマンとして活躍されたのが,島外から移住して来た岩本悠氏.学生時代に世界の発展途上国を渡り歩いた経験を本にし,その印税でアフガニスタンに学校を建てた等の経歴を持つ.山内道雄町長を始めとした海士町の関係者と,ヨソモノである岩本氏が「繋がる」ことで,海士町に再生の力が生まれた.

「まごころ宅急便」では,「買い物支援」と「見守り」という異質なサービスを「繋ぐ」ことで,過疎地に住む高齢者が地域に住み続けられるようになった.また,宅配荷物の到着時に近隣の高齢者が寄り合い,商品を分け合う「買い物待ちサロン」等も出来,配達料金の負担軽減や,複数人の同時安否確認が可能となっている.これは,高齢者の孤立を防ぐことにも繋がっている.

第二のキーポイントは,異質なものを「繋ぐ」ことで化学反応を起こし,新たな価値を創造することである.

3.3 ビジネスモデル化

前述のヤマト運輸の「まごころ宅急便」の取組でもう1つ注目すべき点は,「見守り」という公共性の高いサービスを,民間企業であるヤマト運輸が主体となって,行政,地域等を巻き込んだ「ビジネスモデル」を構築したことである.検討当初は,社会福祉協議会が要支援の高齢者にクロネコメール便でお知らせを出し,セールスドライバーがそれを手渡しする際に安否確認も行い,状況を社会福祉協議会にFAXして報告するという業務フローで試行した.しかし,採算が合わず,長続きしなかった.そこで,何とかして採算を確保できるビジネスに出来ないかと検討を重ねて,今の「買い物支援」と「見守り」を繋ぐかたちになった.社会的な課題の解決と企業の競争力向上を同時に実現する,正にCSV(Creating Shared Value)の取組である.

地域等で進められている課題解決の取組は沢山あるが,それがサステイナブルな取組とならないのは,公金(補助金)への依存度が高いことが挙げられる.補助金への依存度が高い取組の多くは,補助金がなくなると同時に終わってしまう.第三のキーポイントは,サステイナブルな取組とするために,その事業単体で収益が上がる仕組,すなわち「ビジネスモデル化」することである.「ビジネスモデル化」することが,事業永続性の鍵となる.

3.4 「キーマン」の存在

最後に,当会の「健康・医療ワーキンググループ」にて採り上げた,世界でも類を見ない追跡調査期間と正確なエビデンスを有する「久山町研究」というコホート研究(疫学研究)を紹介する.

福岡市の北東に隣接し,車で20~30分程度走ったところに人口8,300人ほどのまち,久山町がある.ここをフィールドに,1961年,九州大学医学部第二内科が脳卒中の実態解明のためにスタートさせ,今なお清原裕教授(九大大学院医学研究院環境医学)を中心に継続されているのが「久山町研究」である.久山町研究では5年毎に40歳以上の全住民を対象に一斉健診を行い,追跡調査をする.

日本の健診の平均受診率は20%程度だが,久山町の受診率は80%である.住民は亡くなると九州大学による病理解剖にも協力するため,剖検率は75%.町外への転出者も追跡し,追跡率は99%である.

コホート研究は,集団を追跡調査することで,病気の要因と発生の関連を調べる観察的研究である.国内でも幾つかの拠点で同様の研究が進められているが,久山町の研究期間は群を抜いていて,54年にも亘る.国内だけでなく,世界でも類を見ない追跡期間であり,それ自体が大変貴重な価値である.

これらの実績が示す通り,久山町研究には正確且つ膨大なデータが蓄積されている.このデータによって,脳卒中が血圧と関係していることが分かり,血圧を下げれば脳卒中を予防できることが我が国で初めて実証された.また,くも膜下出血はこれまで先天的な脳血管障害だといわれていたが,その発症は加齢と共に増加するため後天的要因の積み重ねであり,環境等を変えれば治療可能であることが世界で初めて分かった.医学的な功績も極めて高い.

では,なぜ久山町ではこのような研究が実現でき,今なお続いているのか.以下の2つの点に注目する.

第一は,九州大学,久山町,地元開業医,住民が,夫々の役割を持ち,相互に支え合う仕組を構築している点である.久山町の一斉健診は,九大大学病院の臨床医と町の保健師が行う.住民が病気になった時の一次診療は町の開業医が行い(住民一人ひとりに主治医がいる),その中でも重篤な患者は大学病院が二次診療を行う.大学での研究結果は町の開業医や住民にもフィードバックし,大学病院の医師が定期的に住民に対し勉強会を実施する等,オープンな研究と,医療教育・サポート体制を充実させている.また久山町政では,コホート研究の環境を整備するため,町の96%を市街化調整区域に指定し,住宅開発や人口の移動を抑えた.歴代町長のイニシアチブの元,本研究を充実させるために,行政も仕組づくり等で協力した.

第二は,前記の仕組が確り機能している点である.各ステークホルダーの連携の枠組は出来ていても,住民が健診に協力してくれない限り,久山町研究は成り立たない.ここで活躍しているのが,保健師の角森輝美氏(久山町ヘルスC&Cセンター 副センター長兼統括保健師)である.久山町の受診率の高さは,保健師の活躍に依るところが非常に大きい.角森氏は一斉健診対象者の殆どの家族構成や属性,体調,置かれている環境等を把握している.健診の通知方法,スケジュール等を工夫し,健診に来ない住民を電話や訪問等でフォローする.健診に来られない事情を考慮し,その事情に合った健診スケジュールを調整したり,場合によっては九大の医師を連れて往診する.住民の健康管理に心血を注ぐことで住民からの信頼を得て,住民と健診を繋いでいる.第四のキーポイントは,高い志と圧倒的な行動力を兼ね備えたキーマンの存在である.時には自己を犠牲にしてまで地域のために東奔西走するキーマンの姿に周りは影響され,協力者となって行くのである.住民に話を聞くと,健診を受診するのは久山町民として当たり前.角森氏は家族の一員と一緒で,体調を崩すと医者に行く前に先ずは角森氏に連絡するという.町の最高齢,101歳の老婦人も,角森氏に会うために喜んで健診に行く.角森氏は現在,後任の育成にも邁進している.

当会では,大学等が地域に於いてコホート研究を進める上で,角森氏のような保健師の役割の重要性に着目し,保健師が住民と行う保健活動について学び,久山モデル保健活動の横展開を図ることを目的に,久山町と協働して「プラチナ保健師スクール@久山」を2014年8月に開講した.

4. 終わりに

成功している課題解決の取組には,これまでに記載したような幾つかの共通要素がある.機能する仕組を作り,異質なものを繋ぐことでイノベーションに繋がる化学反応を起こし,お金が回る仕組,ビジネスモデル化して,それを強力に牽引するキーマンが存在することである.規模の大小により差はあるものの,成功している取組は凡そこれらの要素の一部,又は全部を兼ね備えていると言ってよい.

当会では現在,これらの注目すべき優れた取組を,「知る人ぞ知る」取組にするのではなく,掘り起して収集し,幾つかの成功要素で構造化し,横展開を可能とするような仕組づくりを進めている.

著者紹介

  • 田中 信吾

プラチナ構想ネットワーク事務局長.1993年三井住友銀行入行.法人営業,消費者金融会社設立・運営,ファンドRM,営業店予算・評価,業務企画等に従事,2012年より現職.

 
© 2018 Society for Serviceology
feedback
Top