Serviceology
Online ISSN : 2423-916X
Print ISSN : 2188-5362
Report of SIG Activity
SIG for Servitization Research
Masaaki MochimaruKeiko Toya
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2015 Volume 2 Issue 1 Pages 60-61

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1. はじめに

日本の製造業が,製品のコモディティ化とそれに伴う低価格化に苦悩している.一方で,産業,雇用,消費の3側面で「サービス化」は着実に進展しており,製造業においても,高い付加価値と収益性の確保,国際競争力の強化の観点から,ものづくりとサービスを融合させた価値提供ビジネスへの移行が進められつつある.本SIGでは,製造業のサービス化の実態をより本質的に捉えることに重点を置き,企業ヒアリングなどを通じて企業戦略としてのサービス化の実態と阻害要因の整理を進め,企業が目標とするサービス化の状態へ移行する際の阻害要因解決の一助となる研究課題を整理し,「製造業のサービス化研究におけるグランドチャレンジ課題」を取りまとめる活動を行う.

2. SIGの設立経緯と目的

2014年4月に開催されたサービス学会第2回国内大会(函館市)のプレワークショップとして「サービス学におけるグランドチャレンジ」が企画された.これは,サービス学として率先して取り組むべき研究課題を探索し,それを数多くの学会員が挑戦できる学術課題にブレイクダウンするためのものである.本SIGは,この「サービス学におけるグランドチャレンジ」における議論の結果,設立されたSIGである.したがって,本SIGの目的は,

(1)「製造業のサービス化」を実社会で実現するための研究課題を洗い出し,

(2)それを数多くの学会員が挑戦できるような学術課題にブレイクダウンするとともに,その達成度評価指標を定め,

(3)必要に応じて,学会員が容易に課題に挑戦できるよう,データや事例を整備する,

ことである.

3. SIGの構成

製造業のサービス化SIGは,少人数で企業のヒアリングを実際に行う招へい型のSIG-WGと,自由参加のSIG本体の二部構成となっている.SIG-WGは,月1回のペースで会合を開き,企業ヒアリングを通じて製造業のサービス化実態を整理する調査研究を実施している.企業ヒアリングの際には,SIG-WGとしてヒアリング先の企業と秘密保持契約を結び,企業のサービス化事例について経営側面も含めて具体的な情報を提供いただいている.SIG-WGでは,これらの事例をベースに,後述する「製造業のサービス化モデル」を整理しつつある.SIG-WGの取りまとめ結果を,SIG-WGメンバー以外に発信する際には,情報を提供いただいた企業に事前に資料内容の確認と使用承諾を得る.なお,ヒアリング先の企業には,SIG-WGとして取りまとめた「製造業のサービス化モデル」の情報をフィードバックする.SIG本体は隔月開催し,SIG-WGの活動報告とともに,SIGメンバーの研究発表を行い,SIG全体として「製造業のサービス化研究におけるグランドチャレンジ課題」を取りまとめる.

現在,SIG本体のメンバーは16名.委員長はSIG提案者である持丸正明,副委員長は共同提案者である戸谷圭子と事務局を務める産業技術総合研究所の渡辺健太郎氏,会計監査として共同提案者である神戸大学の貝原俊也氏という構成である.SIG-WGは,SIGのサブセットとして座長・持丸,副座長・戸谷以下8名のメンバーで構成されている.SIG,SIG-WGともに,経営系と工学系が混在した構成で,かつ,学術メンバーだけでなく企業メンバーにも参加いただいている.

製造業のサービス化SIGの設置は2014年9月の理事会で承認された.その後,10月からSIGメンバーを募集し,設立メンバーを中心に活動計画を立てた.上記のようにSIG本体と招へい型のSIG-WGの二部構成というプランについて,改めて理事会の承認を得て,2014年11月に正式にスタートした.

4. SIG-WGの活動概況

SIG-WGは,SIG本体に先行して2014年11月から活動をスタートし,2014年度内に6回の会合を持った.SIG-WGでは,製造業のサービス化の実態を本質的に整理するための「製造業のサービス化モデル」を構築することを第一の目標に据えた.たとえば,Olivaらは,モノにサービスを統合して価値基盤を固める第1段階,製品ライフサイクル全体をデザインする第2段階,顧客との継続関係構築に展開する第3a段階,もしくは,顧客側の生産プロセス改善に直接貢献する第3b段階を経て,顧客のプロセスを代行する第4段階に至ると分類している(1).このほかにも,生産されるものがサービス財か物財か,提供されるものがサービス財か物財かで4つの象限に類型化するモデルも提案されている.これらの先行研究を整理しながら,すでにサービス化を実現している製造業に対して実態調査ヒアリングをするための「モデルの仮説形成」と「ヒアリング項目の整理」を進めた.ヒアリング項目としては,企業理念をベースに,サービス化以前の問題意識,サービス化の目的,内容と導入方法,導入の阻害要因などを設定した.複数の企業ヒアリングを通じて,製造業のサービス化の実態を整理し,(a)製造業が自らの状態(サービス化段階)を把握するための尺度開発,(b)状態を変える(サービス化を進める)ための手法や技術の開発と整理をグランドチャレンジの学術課題として取りまとめる計画である.

5 SIG全体での議論

2014年度のSIG全体会議は2015年2月と3月の2回開催であった.2月の会議がキックオフとなり,SIGの設立経緯や目的,先行して活動を始めたSIG-WGの状況報告を行った.その上で,SIG−WGが行う具体的な調査研究の上位の研究課題として,以下の3点が必要であるという議論がなされた:(c)そもそも製造業の定義をどうするか.(d)製造業がサービス化することが「是」であるという大前提ではなく,製造業のサービス化によってもたらされるインパクトとリスクを対社会,対企業,対従業員,対顧客として整理する研究が必要である.(e)製造とサービスが融合して社会問題を解決していく手段において「製造業のサービス化」はひとつの解であり,ほかにも「サービス業が製造業化する」という方策もある.これらの得失や特徴を整理する研究も必要である.

SIG-WGが具体的に進めている4.節の(a)(b)に対し,(c)は前提であり,(d)は目的と影響であり,(e)は目的を達成する方法論の位置付けの議論と言える.SIGでは,これらの上位研究課題も含め,製造業のサービス化研究としての「グランドチャレンジの学術課題」を取りまとめていく計画である.

著者紹介

  • 持丸 正明

国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間情報研究部門部門長.1993 年,慶應義塾大学大学院博士課程生体医工学専攻修了.博士(工学).専門は人間工学.人間の身体特性,行動と感性の計測とモデル化,産業応用研究に従事.

  • 戸谷 圭子

明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科教授.筑波大学大学院経営・政策科学研究科博士課程修了.博士(経営学).専門はサービスマーケティング.サービスにおける共創価値尺度の開発,製造業のサービス化研究に従事.

参考文献
 
© 2018 Society for Serviceology
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