2015 Volume 2 Issue 2 Pages 62-63
2015年6月9日から12日にかけて,The 2015 Naples Forum on Serviceが開催された.本学会は,2009年から実施されており,今回で第4回目となる(これまでの詳細については,www.naplesforumonservice.itに紹介されている).サービス・ドミナント・ロジック(以下,S-Dロジック),ネットワーク理論とシステム理論,そしてサービス・サイエンスといった3分野を中心に,サービス研究の現在と今後について議論する学会となっている.世界各国から約150名程度の研究者が出席し,盛会のうちに終了した.
The Naples Forumは,サービス研究が「パラダイム3」に入っていると捉え,研究の進化を促進させることを目的としている.「パラダイム1」(1970年代以前)は,サービスがマーケティングや経営学で研究アジェンダとして認知されていなかった時代を指している.「パラダイム2」(1970年代から2000年代)は,サービス研究が出現・成長し始めた時代である.パラダイム2では,サービスとモノの違いに説いた研究が中心的であった.「パラダイム3」(2000年代以降)は,サービス研究がサービスとモノの違いに関する議論から次のステージへと移行している時代である.パラダイム3の核にあるのは,「複雑さ」の認識である.サービス・システムには多くの行為者(企業と消費者だけでなく)が関与しており,非常に複雑なものである.こうした複雑なシステムを解明していく上では,いくつかの変数の関係を研究するのみでは不十分であり,そのためには多くの研究者の力が必要である.このことを真摯に受け止め,より体系的に研究を進めることを,本学会は呼びかけている.
今回は,冒頭で挙げた3分野に関する研究発表に加え,どの分野にも属さないマーケティング研究も採択した,と主催者から報告があった.実際,セッションテーマは,resource integration, ICT & service, networks, human aspects of service science, service ecosystem, service research, service experience, system & complexity, value proposition, brand, healthcare, S-D logic, service & customer, market & relationships, service innovation, value co-creationなど,多岐にわたっていた.
また本学会は理論研究が多く,概念的な話がされることが多かった(反対に,実証研究が少なかった).さらに基調講演では,Evert Gummensson教授(Stockholm University)より,事例研究の有用性に関する話がされた.サービスの複雑性を捉える上では,複雑さを単純化せざるを得ない実証研究よりも,事例研究が適しているという主張であった(近々,Sageより『Case Theory』が出版されるとのこと).The Naples Forumが事例研究を高く評価していることが伺えた.
本学会のもうひとつの特徴は,サービス研究の第一人者による研究発表の豊富さである.開催中,毎日,基調講演とパネル・ディスカッションがあり,さらには通常セッションでも,大御所の先生方が若手に交じって,研究発表を行っていた.
初日の基調講演では,先に述べたGummesson教授によるCase Theoryの紹介に続き,Stephen L. Vargo教授(University of Hawaii at Manoa)よりS-Dロジックの現状について報告があった(“Institutions and Axioms: Updating and Extending Service-Dominant Logic”).S-Dロジックで提唱されている10の基本前提(Foundational Premises)を4つの原理(Axioms)に集約し,新たに原理を1つ加え,5つの原理として提唱するという内容であった.この進化したS-Dロジックについては,近々,Journal of Academy of Marketing Scienceから論文が発表されるとのことである.
初日の午後には,Jim Spohrer氏(IBM Almaden Research Centre)より基調講演があった(“Boosting the Creativity and Productivity of People in Smart Service Systems”).IBM社のWatsonやApple社のSiriのような認知システムの発展による世の中の変化について,話がされた.今後は,こうした認知システムの基礎研究がさらに加速していくだろうとのことだった.
二日目は,David Ballantyne教授(University of Otago)によるインターネット世界のサービススケープに関する基調講演で始まった(“Understanding Value in Context: The Servicescape in Digital Service-Space”).そして,午後には,サービス研究の発展に向け,さまざまな哲学的見解からの示唆(“Philosophical Foundations for Research and their Implications on Service Research”)や,企業との共同研究(“Contribution in Service Research: Collaborative Theorizing with Managers”)について,パネル・ディスカッションが開催された.
最終日は,Pennie Frow教授(University of Sydney)とAdrian Payne教授(University of New South Wales)による価値研究に関する基調講演で始まり(“Origins and Development of the Value Proposition Concept”),午後には,Christian Gronroos教授(Hanken School of Economics)によるサービス研究の今後に関する基調講演があり(“Service as Business Logic – Research Directions”),最後は,今後のサービス研究のプライオリティに関するパネル・ディスカッションで締めくくられた(“Where should Research on Markets and Service Ecosystems Go Next?”“Priority Research from Now and Until the 2017 Forum”)
以上,非常に充実した内容の学会であり,学びの多い場となった.最後に,本学会は非常にフレンドリーな雰囲気で,先生方がコーヒーブレークやランチ,そしてディナーで,きさくに話しかけてくださったことも記しておきたい.ネットワーキングには最適な学会であった.The Naples Forumは2年後の開催となるが,来年はService System Forum Venice 2016とForum of Markets & Marketing 2016が合同で,6月にベニス(イタリア)で開催されるそうだ(http://www.facebook.com/groups/1642590349309704/).同様の雰囲気になると思われるので,ご参加されることをぜひお勧めしたい.
〔鈴木 智子(京都大学大学院経営管理研究部)〕