Serviceology
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Conference Report
The 7th CIRP Conference on IndustrialProduct-Service Systems 2015
Yutaro Nemoto
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2015 Volume 2 Issue 2 Pages 64-65

Details

1. はじめに

国際会議The 7th CIRP Conference on Industrial Product-Service Systems 2015(CIRP IPS2 2015)が,2015年5月21日から5月22日にかけて,フランスのEcole des Mines de Saint-Etienneにて開催された(http://ipss2015.emse.fr/).本会議は,国際生産加工アカデミー(CIRP)主催のもと毎年開催されており,今年で7回目となる.

本会議の対象である製品・サービスシステム(Product-Service Systems: PSS)は,物理的製品と行為的製品(サービス)を統合したエコシステムを指し,製造業のサービス化に向けた研究対象として注目が高まりつつある.CIRP IPS2は,PSS研究における主要な学術会議の1つであり,製品とサービスの高度な融合をテーマにPSSを設計・開発するための学術的な知見の蓄積や,ベストプラクティスの収集を目的としている.今回の主題は“Industry transformation for sustainability and business”であり,ビジネスにおけるサステナビリティとイノベーションの統合,およびそれに向けた移行方法を強調したテーマ設定となっていた.

主催側の公表によれば,本会議への論文投稿数は135件であり,そのうち85件が採択・発表された.また参加者数は150名超であった.

2. Associated event

本会議に関連して計4つのイベントが開催された.ここでは,そのうち筆者が参加した3つのイベントについて紹介する.

  • •   IPS2 Spring school

5月18日から5月20日にわたり,若手研究者および実務者に向けたPSSに関する講習会が行われた.本会には,イタリア,ドイツ,スウェーデン,韓国,日本,ブラジルなど世界各国から計 25名が参加した.本会では,産学双方の講師がレクチャを行うだけでなく,ケーススタディやグループワークなどの演習型の講習も実施された(写真1).

写真1 IPS2 Spring schoolの様子

  • •   Games day

会議前日の5月20日には,PSS教育に関するビジネスゲームの大会が行われた.本大会は,2013年にドイツで開催されてから毎年開催されており,今回で3回目になる.本大会では,会議の参加者が実際にビジネスゲームを体験し,ビジネスゲームによるPSSの教育について議論を行った.本大会で行われたビジネスゲームは以下の3種である(括弧内はゲームの開発者).

  • - Integrating product and service dominated logics – A PSS Management Simulation (T. Susse & B. Voigt)
  • - B to green (S. Mayer)
  • - WipSim – Work in Process Simulation (P. Burlat)

例年は大学で開発されたゲームが主であったが,今回は企業で開発されたものも出展された.また,ゲーム大会後には,各ゲームの開発者によるパネルディスカッションが行われ,PSSの実現に必要なマインドセットや,ゲームの開発方法に関する議論がなされた.

  • •   Doctoral workshop

会議翌日の5月23日には,PSSの若手研究者が主催するDoctoral workshopが開催された.今回は,PSS設計ツールの体験を目的として,半日間で顧客分析,コンセプト設計,協業設計に関するグループワークを実施した.

3. Keynote

本会議では,以下の4件のKeynoteが行われた.これらKeynoteの講演者は各々の立場から,PSS開発事例や研究プロジェクトの紹介を行った.

  • - Industrial keynote: Adaptation of various Product-Service offers, for dedicated answers to distinct types of usage (E. Grab, France)
  • - Scientific keynote: Product/Service-Systems as the key to customer insight, product differentiation and increased sustainability performance (T. McAloone, Denmark)
  • - Management science keynote: Making and Sustaining the Shift to Services: Emerging Practice (V. Martinez, UK)
  • - Engineering science keynote: The Japanese New Trends on Product-Service Systems, The Latest Product-Service System Projects from Tokyo (Y. Shimomura, Japan)

例えば,デンマーク工科大学のProf. McAloone(写真2)は,海運業界の企業10社とのPSS研究コミュニティ“PROTEUS”での研究成果について講演した.本コミュニティの研究成果は,7冊のワークブックとしてまとめてられており,本講演ではそれらの内容について大まかな紹介がなされた(次のURLから入手可能:http://www.proteus.dtu.dk/Results/Workbooks).

写真2 Prof. McAlooneのKeynoteの様子

4. Session

本会議では,2日間で計23件のパラレルセッションが構成されていた.写真3はその様子である.

本会議の中心的なテーマである,PSS Design and Engineeringのセッションでは,新たなPSS設計手法や,シミュレーション技術に関して数多くの発表がなされた.さらに特別セッションとしてMass customization,Lean Production,Eco-designをテーマとしたセッションが組まれるなど,汎用的な製品とサービスの統合設計に関する研究だけでなく,様々な目的に応じたPSSの設計・開発を支援する技術に関する研究が進んできていることが伺える.

またPSSは,製品とサービスの統合物のみを指すのではなく,そのビジネスモデルも含む.それゆえ,PSS Case Studies and Lessons from Experienceのセッションでは,PSS型ビジネスの事例解説や成功要因に関する発表がなされた.さらにStrategy, Marketing and Business ModelsやCost Structures and Economic Modelsなどのセッションにおいては,新しいビジネスモデルや契約形態に関する研究が発表された.

新しいビジネスモデルに移行するためには,組織に関する問題が付きまとう.そのため,Organizational Issues and Transition ManagementやOrganizational Competences and Capabilitiesなどのセッションでは.PSS提供に向けた組織の成熟度評価やPSSの実現に必要な知識・スキルに関する研究が数多く発表された.

ビジネスモデルの移行と同様に,本会議における主題として取り上げられていたキーワードがサステナビリティである.元来PSSは,大量生産・大量廃棄の社会構造から脱却するための1手段として研究がなされてきた.本会議においても,Sustainability and PSSのセッションにおいて,製品とサービスの両側面から環境負荷を評価する指標などが多数発表された.

本会議において発表された研究成果は,わが国の製造業が直面する種々の問題の解決に対しても,有用な知見を与えるものである.今後は,日本からも大学の研究者だけでなく,民間企業の方々も数多く参加されることを期待したい.

写真3 Parallel sessionの様子

5. 今後の会議予定

次回のCIRP IPS2はイタリアのBergamoで開催される.会議日程は,2016年6月20~21日であり,Abstract〆切は2015年10月1日である.また2017年は,デンマークのCopenhagenで開催されることが発表された.

〔根本 裕太郎(首都大学東京)〕

 
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