2015 Volume 2 Issue 3 Pages 22-27
下剋上プロジェクトとは,著名な研究者やビジネスパーソンとサービス学に係わる若手研究者との交流を促すことでサービス学全体を盛り上げることを目的としたプロジェクトです.本記事では,下剋上プロジェクトの一環として,サービス学における重要なテーマについて若手研究者が識者にインタビューした内容をご紹介します.今回は,学術界の識者にご協力頂き,「顧客満足」についてインタビューを行いました.本記事では,青山学院大学経営学部の小野譲司教授に対するインタビューをご紹介します.本インタビューでは,小野先生が開発初期から携わってこられ,現在,主査を務められているJCSI(日本版顧客満足度指数)についてお話し頂きました.JCSIは,
といった特徴があります.2009年に本格導入されて以来,毎年,大規模CS調査をベースとした顧客満足度指数が算出されています.
鈴木 JCSIは,米国ミシガン大学が実施しているACSI(American Customer Satisfaction Index)をベースに開発されたと伺っていますが,JCSIとACSIにはどのような違いがあるのかについてお教えください.
小野先生(以下,敬称略) アメリカやヨーロッパのCSIは全産業をカバーしているのに対して,日本の場合は,サービス産業政策の一環として開発されたため,事実上は日本のサービス産業を対象にしています.
また,顧客満足度指数の算出でとても大きな問題となるのが集計レベルです.アメリカのACSIは基本的に企業単位で集計しています.例えば,ACSIではアンハイザー・ブッシュ(Anheuser-Busch)という企業単位で集計していますが,バドワイザー(Budweiser)という個別ブランドの単位では取っていません.その意図するところは,最終的には企業の収益性や株価と対応を取ることにあります.日本の場合,もちろんそれと似た形で作ったのですが,事業部やブランドのレベルに落としています.例えば,イオングループといってもマックスバリュからミニストップまでいろいろなものがありますが,それらを全部まとめて企業単位で集計し,これがイオンのCSIだといっても,日本の経営者にはそれほど響かないようです.顧客満足度の話をするときは,日本の経営者はどちらかというと,株価や企業価値との関連性というよりも,現場のほうに目が向く傾向もあり,どう業務を改善するかに向くようです.それもあって企業単位でCSIを取っていてもあまり意味がないということで,せめてブランドの単位にしていきましょう,ということになりました.結果として,日本版はサービス業に特化し,なおかつ消費者が認識できるブランドないしは事業部のレベルで集計するということになりました.したがって,公式的には,調査対象は約400のブランドないしは企業という言い方をしています(中には,企業名がブランドとなっているケースも多い).
鈴木 日本では2009年から継続的にデータを取っていらっしゃいますが,どんなことが見えてきていますか.
小野 ようやく7年目を迎え,だいぶデータがたまってきました.正直言って,小川先生(法政大学教授,JCSI委員長)も僕も,最初は半信半疑なところがありましたが,結構,業績との関係がこんなにきれいに出るのかというほどきれいに出てくるケースもあるので,それらを統計的に解析するというステージにようやく入ってきたと思います.
鈴木 そのメカニズムも,やはり日本とアメリカでは異なるのでしょうか.
小野 さきほどもお話ししたように,アメリカのCSIは企業レベルなので,従属変数が株価や企業価値など企業レベルの業績指標になってきます.日本の場合は事業部レベルに落としているので,従属変数は客数や営業利益率というところに持っていったほうがいいだろうと考えています.
鈴木 そういった変数とJCSIの相関を見ると,かなり高い相関があるということですね.
小野 海外の先行研究でも概ね関連性はあると言われていますが,もちろん単純に一般化はできません.また,業績の変数といっても,業種によって関連の深い指標が違います.JCSIと業績指標が連動している業種や特定の企業はあるのですが,それが前者から後者への因果関係かどうかについては慎重に見るべきと考えています.単なる傾向値が出ているだけなのかもしれませんし,別の要因によっていくらでも事業業績は変わるので,他の変数をコントロールしたうえでの話です.
もちろん関係がほとんどなさそうな業界もありますが,割とうまく出ている業界のほうが多いので,業績との関係を精査する研究は非常に面白いかなと考えています.今までそんな研究は日本ではなかったので.何となく2つには関係があるように言われていたのですが,アメリカの研究をそのまま引用して,そのように言っていたというのが現状です.
例えば,マクドナルドの顧客満足度は,鶏肉偽装や異物混入事件が明るみになって業績が落ちる以前からその低下の前兆が現れていたので*1,やはり業績動向の先行指標として何かを示唆しているのではないかということです.なおかつ,結局,業績と関係があるということは,顧客満足度というものが単にコールセンターや現場の挨拶とかの話では収まらない経営全体の問題だということを一方では表していると思います.このことは,実務の方々に対してJCSIの業績指標としての位置付けや意義をご説明するときに,インパクトがある事実になっています.
2.2 JCSIの構造鈴木 JCSIは,「顧客期待」「知覚品質」「知覚価値」「顧客満足」「推奨意向」「ロイヤルティ」の6つの因子で構成されていますが,サービス産業でも業界によって違いはありますか.
小野 どのような構造で顧客満足が規定されているかというメカニズムは違います.業界間でも違いはありますし,同一業界でも企業によっても違いがあります.今,約400ブランド・企業を調査していますが(2015年現在),だいぶ違うということが分かってきましたので,僕は,軽はずみにハンバーガーはこうでエアラインはこうでとは言い切れなくなりました.同じ外食業界でも,業態によってどういうパスが利いてくるかとかも違いますし,指標の変動も違います.例えば,カレーやうどんといった割と専門業態の顧客満足度は,時系列で見るとそれほど変化しません.それに対して,ファミレスとかファストフードは競争が激しく,価格訴求をしたり,品ぞろえを変えてみたり,立地条件に多様性が出たりするせいか,客層も多様になり,割と変化が大きくなるようです.客層や地域によってもブレが出やすく,他社の影響も非常に受けやすくなっているようです.こういう傾向があるので,顧客満足度を見るときには,自社がどういうサービスをやったかということだけではなく,他社の動向とか,さらに言うとトップ企業がどう動いたかによって,2,3位以下に影響が来たりすることも考慮する必要があると考えています.
鈴木 なるほど.今,お客さんの多様性の話が出てきましたが,顧客満足は,結局はお客さん1人ひとりの知覚であり,それぞれがこころの中で感じるものなので,個人特性などにすごく影響を受けると思うのですが,JCSIのモデルでは個人特性の影響について,どのように考えていらっしゃるのですか.
小野 JCSIは集計データなので,指標を計算していく段階ではひとまずは個人差には踏み込んでいません.つまり,JCSIを算出するにあたって,過去1年間の利用金額でウェイト付けするなどの調整はしていないということです.方法として難しくありませんが,多岐にわたる調査対象業種に対して,恣意性なく調整することが難しいからです.もちろん,算出されたJCSIや他の主要指標をもとにして,お客さんの男女差や年代差,購買頻度や過去の利用履歴などの個人差があるか,あるいは,JCSIのスコアの違いや因果モデルのパスにどのような違いがあるかという分析はできますし,実務的にも必要です.しかし,インデックスはインデックスとして,同じ形でずっと取っておくわけです.もちろん,企業ごとに分析をするときには,お客さんの構成の変化とその影響についても見ていきます.
鈴木 消費者の特性データも取っていらっしゃるのですか.
小野 いわゆる個人プロフィールに当たるものは,一通り取っています.データサービスをご購入頂いている企業以外には一切公開していませんが*2.いわゆる過去の購入履歴についても,業種ごとに主だった商品・サービスのカテゴリーで利用履歴を聞いています.例えば,コンビニに行ったらどういう商品をよく買っているかとか,外食では,誰といつ利用したかという利用シーンまで尋ねる質問もあります.
鈴木 JCSIの強みの1つは,時系列的にデータを見ることができることだと思いますが,そのためにも,しばらくは今の因子は変えずに進められる予定ですか.
小野 観測変数,つまり,アンケートの質問項目を変えたい部分は多少ありますが,潜在変数の部分,つまり,知覚品質や知覚価値といった構成概念に関しては,基本的に今は変える必要はないと考えています.その他,研究用として測定している感動指数,失望指数,スイッチング・コスト,そしてCSR指数もあります.これらは,企業へのデータサービスの1つとしてフィードバックしていますが,どこかの段階で因果モデルに加えても良いかと考えています.
鈴木 そこは,裏を返せば,知覚品質などは顧客満足にものすごく影響を与えるので,やはり欠かせない因子であるということですよね.
小野 そうですね.とくに今大事なのは,知覚価値でしょうか.知覚価値をコストパフォーマンスで見るという消費者の評価の仕方が,ほとんどの業種で主流になってきているので.これは,ある意味,JCSIを作ったときの狙いどおりなのです.サービスは良いかもしれないけれど,お金に見合っていないという評価をする人がいるはずだと.開発当初からの問題意識として,コストパフォーマンスに対する消費者の意識を盛り込む必要があると考えていました.消費者の視点から見るとやり過ぎなのではないか(過剰サービス,過剰品質),というようなサービスもひょっとしたらあるのではないかと.
例えば,スーパーホテルをはじめとした宿泊特化型のビジネスホテルが典型的な例ですが,このような業態が日本で多く出てきた背景には,おそらく,このモデルでいう知覚価値の要因があると思うのです.シティホテルのサービスは良いけれども,出張で利用している人の中には,実はもっと簡素なサービスのホテルでも良いと感じている人が何割かいる.その人たちの評価をどのようにモデルに反映させていくかということになると,品質だけでなくお金の要素を入れざるを得ない.シティホテルや百貨店といった品質の良さで売ってきたところも,今はお金との天秤で利用者に評価される時代になってきた.こういう動向が,JCSIのモデルでそれなりに適切に記述できているのではないかと思います.
逆に,コストパフォーマンスで評価されていそうな家電量販店みたいな小売業態は,実は消費者は品質でも評価していることも明らかになっています.商品が安く売られているのはデフォルトになっているのです.
鈴木 低価格がデフォルトになってしまっている業界では,知覚価値は顧客満足とはあまり関係がないといえるのでしょうか.
小野 パス係数としてはそれなりにあるので,関係なくはありませんが,顧客満足を規定する決定打ではないようです.むしろ,配送条件や設置,店内での説明や接客など,そういうところのほうが大事になっているようです.デジタル家電はとくに難しいので,なおさらかもしれません.
鈴木 今おっしゃっていたのは,低価格で勝負しているところは,知覚価値が当たり前のものとして捉えられており,他の要因が顧客満足により利いているということですよね.でも,その当たり前になっているものをいじると,デフォルトですから,ビジネスにとってはものすごくダメージがありえますよね.それは,モデルでは,あって当たり前のものだということになりますでしょうか.
小野 はい.今言ったのは業界全体の話で,例えば,ある大手家電量販は,合併して大きくなる以前は,地方の通信販売から始まったので,きめ細かなアフターサービスが非常に良いという定評がありました.データで見る限り,その家電量販の購入者は同社のサービスが優れていると評価しています.つまり,知覚品質が高いことはデフォルトで,次はもっと安くして欲しいと思っているので,逆に,知覚価値から満足へのパスが強くなるということもあります.ヤマダ電機やビックカメラといった低価格訴求をするところとは,同一業界であっても構造が違うわけです.マーケティング研究者として見れば当たり前の話ですが,ブランドによってデフォルトの意味合いが全然違うのでしょう.これはある意味,企業のマーケティング戦略の違いを,顧客レンズを通して写した鏡のようなものです.ですから,業種によっても違うし,企業の戦略の取り方によっても違うのです.
鈴木 ですから,1社1社見ていくことが,すごく大事になってくるということですね.
小野 そういうことですね.
鈴木 それでも,企業戦略の違いがあっても,最終的にJCSIで差が生まれるのには,お客さんからしてみると,全体のバランスでA社のほうがB社より優れているといったことが見えてくるということですね.
小野 そういうことでしょうね.もう1つJCSIですごく大事なのは,これは意外に理解されていないことなのですが,累積的な顧客満足の概念が,1番のカギなのです.
鈴木 累積的な顧客満足の概念とは.
小野 トランザクション・スペシフィック(個別の取引ごとの満足度)ではない,ということです.要するに,今日,丸亀製麺に行って讃岐うどんがおいしかったかどうかという話ではありません.回答者として,調査時点から過去一定の期間内に一定の回数や金額を利用した経験を持つ人をスクリーニングしていることに関わります.アンケートの質問では,過去3カ月を振り返って,「過去○ヶ月間の○○○での経験を振り返って,満足していますか」という聞き方をしています.これが累積的な満足です.今日どうだったかということになると,満足度の評価が様々な状況要因によってブレてしまいます.そのブレをなくすための1つの方法として,過去,あなたの経験を振り返ったときに総じてどうだったかというニュアンスで質問しているのです.業績との連動を見るには,こうした累積的満足度が優れていると考えられています.
トランザクション・スペシフィックの顧客満足度では,様々な要因を集計化することによって排除し,なるべく安定した満足度の指標をつくるということが技術的なコンセプトになっているので,そこがとても大事です.
ですから,逆に言うと,JCSIでは週単位や月単位といった短期的な満足度や業績の変動は,ほとんど説明・予測ができません.しかし,日常的には大して変わっていないように見えるけれども,マクドナルドに対する人々の態度はやっぱり何か変わっているよね,ということはあります.その,やっぱり何か変わっているというところを捉えているのがこのJCSIなのです.
鈴木 JCSIは,一般消費者のデータを取っていらっしゃいますが,それぞれの回答者は,何社について回答しているのですか.
小野 回答者1人につき1社です.当然のことながら,顧客満足度はブランドイメージとは違うので,回答者に利用経験が必要で,JCSIの調査では一定のスクリーニング条件を設けています.例えば,セブン-イレブンに過去3カ月に何回以上行って,500円以上の買い物を2回以上した経験がある,といったような条件を業種ごとに設けて,その条件を満たした人に対して回答依頼をしていきます.スクリーニング条件を少し変えるだけでスコアが変わることも分かっていますので,出現率や調査費用などの観点から,スクリーニング条件を変えるときには慎重に行い,大きな変更になりそうな場合には,前年度に実験をやって,どれくらい変化するかということも見ています.
鈴木 条件を変えるときには,ウェイトバックか何かをされていらっしゃるのですか.
小野 していません.それをやると恣意的になってしまうので.全社に対してウェイトバックをやり切れないため,それは,あえてやっていません.ただ,運営事務局のSPRING(サービス産業生産性協議会)のプレスリリースでは,調査概要の1つとして,条件を変えたことは公表します.
鈴木 1年に何回か取っていらっしゃるのですか.
小野 1業種あたり1回です.
鈴木 1回だけですか.
小野 そう,JCSIは,1回だけです.
鈴木 マクドナルドみたいなケースだと,不祥事などが起きると,影響を受けますよね.
小野 そう言われているのですが,そうでもないのです.調査した時期にもよるのですけれどね.調査した時期がたまたまそういうのに引っ掛かってしまったりすると,多少なりとも影響は出てきます.けれども,翌年になると,評価が戻ってくるので,割とそんなに強い影響はないのかなという感じがしています.
鈴木 全業種,同じ時期にデータを収集されていらっしゃるのですか.
小野 いいえ,全部で6回(2014年度までは5回)に分け,業種ごとに実施しています.1回の調査で約400ブランド・企業分のサンプル,つまり,1ブランド・企業あたり300サンプルなので,12万人も確保できないためです.
2.4 実務へのインプリケーション鈴木 JCSIといった顧客満足モデルの構築は,日本の顧客満足研究にとってはたいへんな意義があったと思いますが,実務へのインプリケーションとしてはいかがですか.
小野 最終的には,JCSIをどう実務に生かすかという話なのですが,実務と言ってもいろいろな実務領域があります.マーケティングなのか,それとも品質管理なのか,現場のオペレーションに関わるようなところなのか.日本のサービス業の場合,顧客満足の課題を現場サイドの狭い問題として取り扱うケースは少ないと思います.一番多いのが顧客接客の領域で,とくに接遇とコールセンターが2大CSコンサルディングの客先だろうと思います.ですので,業種による違いや規模による違いなどを考慮せずに,単に顧客満足度を計っているだけだと,的外れのフィードバックになりかねないと感じています.
JCSIでは,アカデミックアドバイザリーグループは手法の開発・改善を行い,実務への適用に関しては,事務局であるSPRINGがある日本生産性本部をはじめ利用推進パートナーであるインテージ社や日経リサーチなどがクライアントに対してソリューションを提供する,という座組になっています.
鈴木 あと,企業にとっては,JCSIというとランキングのイメージも強いと思いますが.
小野 ランキングはJ.D.パワー*3やマスコミ系でも公表されていますし,ACSIももちろんそういうのを出しています.JCSIの場合,ランキングを出すことに対しては,結構慎重に考えていました.というのは,JCSIは委託事業として経済産業省の予算で開発したので,ランキングを公表すると,国がサービス事業者を格付けしているような印象を与えかねません.一方,開発当時,NOVA問題*4というのがありまして,日本国内には,悪徳とは言わないけれども,チェーン展開をしていながら消費者にとって好ましくないサービスも少なくないという問題意識もありました.ですから,消費者の視点できちんと評価して頂いて,それをきちんと公開できるような仕組みをつくるべきではないかという問題意識から,ランキングを公開するという選択肢もありました.
一般的なランキングを誰がつくっているのかというと,大体,マスコミ系です.日経ビジネスとか東洋経済とかダイヤモンドとか,あとオリコンなんかもそうです.彼らのビジネスモデルは,掲載媒体から広告収入を取ることが目的なので,それらとJCSIとは全く性質が違います.その意味では,J.D.パワーに近いかもしれません.最終的には,各業種で調査対象としたブランド・企業の上位だけを公表し,スコアは伏せるという形にしました.1位から3位までしか公表していませんでしたが,最近は,調査したうちの半分までは掲載するように変更しています.ただし,下位について公表しない方針は変わっていません.
ランキングの公表に関しては,どれを公表するかもそうですが,どのような形で業界の括りを定義するかも非常に難しいのです.携帯電話キャリアやエアラインなどはまだいいのですが,例えば小売業と飲食業は業態区分が難しい業種です.小売業は,コンビニ,百貨店,スーパーまでは良いのですが,専門業態をどのように区切ったら良いのか,品揃えの広さや深さ,顧客サービスの程度など,複雑で悩ましいところです.同じことは,各種の生活関連サービスにも当てはまります.例えば,てもみんやQBハウスのように,特定領域で1社か2社しか大手が存在しないような業界は,ランキングを作成するほどの業界として括れません.
鈴木 今は,小売りに入っているのですか.
小野 今は,生活サービスとしています.消費者向けのサービスということで,生活関連サービスとひと括りにしています.ですから,生活関連サービスの中に,セコムやALSOKが入ることもあるでしょう.銀行,証券,保険,あるいは旅行のようにオンライン専業の業者が次々に出ていたり,セブン銀行のように特定機能だけに特化したものが出てきたりなど,サービスが多様になればなるほど1つの業界としてランキングをつくるのは難しく,終わりのない課題なのかもしれません.
鈴木 いずれにしても,企業にとっては,業界1位というのは意味が大きいですよね.
小野 1位になると広告に使えるので,お客さん向けということもありますし,もう1つは社員向けということが大きいようです.自分たちが顧客サービスで取り組んできたことについて,お客さんからこれだけ評価されたのだという自信を持ってもらうという意味で,結果を現場にフィードバックしたりしているようです.一見,お客さん向けの広告も,実はインナーコミュニケーションの一環としているケースもあるようです.
鈴木 ランキングの順位は,意味があるのでしょうか.
小野 順位自体は,あくまで順序データにしかすぎないので,そこだけ見ていても,マーケティングや品質管理という観点からは,あまり意味はないと思います.ただ,順位間での点数の差には,もちろん意味があります.例えば,宅配便業界は2014年度にはヤマト運輸が1位で2位が日本郵便,そして3位が福山通運です.1位,2位,3位と並べると,もちろん順位なので1位,2位,3位であることには変わりありませんが,JCSIのスコアとしては,ヤマト運輸が77.2で,日本郵便が71.4,福山通運が70.2というように,1位と2位・3位の差が大きく開いていることのほうに意味があります.
鈴木 企業もランキングを気にするのは大事ですけれども,実務に生かすことを考えたときには,そういった点差や構成をきちんと見ることのほうが大切かもしれませんね.
小野 もちろんそうです.順位自体を気になさる方々のお気持ちもありますので,数字が悪い意味で1人歩きしないよう,事務局も慎重に判断しているはずです.
鈴木 最後に,先生の最近のご関心や,今やっていらっしゃるご研究についてお聞かせください.
小野 今は,このJCSIと業績との関係のデータをそろえていること,あとは,カスタマー・エクスペリエンスにも関心を持っています.
鈴木 カスタマー・エクスペリエンスですか.
小野 そうです.JCSIでも,感動指数,失望指数といった顧客の記憶に残る情緒的な経験をデータとして取り続けているので,こうしたデータも活かして,マーケティングやサービス・オペレーションに落とした所で,カスタマー・エクスペリエンスの研究を深められないかと考えています.
鈴木 JCSIについてもいろいろと知る貴重な機会となりました.本日は長時間にわたりありがとうございました.
青山学院大学経営学部マーケティング学科 教授.博士(経営学).専門は,マーケティング,サービスマネジメント.JCSI(日本版顧客満足度指数)アカデミックアドバイザリーグループ主査(サービス産業生産性協議会).主著に『顧客満足(CS)の知識』(日経文庫)日本経済新聞出版社のほか,マーケティング分野での論文多数.
京都大学大学院経営管理研究部特定講師.博士(経営学).専門は,消費者行動論,国際マーケティング.おもてなし経営企業選(経済産業省)H25,H26選考委員.主著に『イノベーションの普及における正当化とフレーミングの役割』(白桃書房)のほか,国内外で,消費者行動論分野ならびにマーケティング分野での論文多数.