Serviceology
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Special Issue : "Human Resource Development in Service Business - Desired Competency and Its Development Strategy - "
The Preface of the Special Issue “Human Resource Development in Service Business -Desired Competency and Its Development Strategy-”
Yoshiki Sakurai
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2016 Volume 2 Issue 4 Pages 2-3

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あらゆる組織において,“ヒト”が重要な(場合によっては最重要の)要素であることは論を待たない.自動化とICT活用が急激に発展しつつあるサービス産業でも,これらの“ヒト”,すなわち人材*1がその成果に果たす役割はいまだなお大きく,人材育成の必要性が叫ばれ続けている.こうした中,2000年代半ば頃から,企業等の人材開発部門では「サービス人材」という言葉が飛び交うようになり,人材育成についての議論が活発化した.本特集における斎藤氏の報告にもあるとおり,サービス現場で高度な専門的技能が必要な「スタッフ人材」は,当時から既に各サービス業界団体で育成が行われており,企業内でも現場に即した教育研修が実施されていたようだ.その一方で,上記「サービス人材」という言葉には新しいサービスの創造を担う人材としての期待が込められていたと理解している.

人材育成では,最初に育成の目標となる人材像「コンピテンシーモデル(Competency Model)」が議論される.コンピテンシーモデルは,その組織が必要とする人材群のコンピテンシーを体系化したものである.*2, *3同モデルは,共通コンピテンシーと専門コンピテンシーの2区分で構成されることが多い.本特集は,上述した「サービス人材」の育成に関する高等教育と企業内研修で実施されている取り組みを踏まえ,同人材の専門コンピテンシーを考察することを目的として企画した.

本特集では,高等教育機関(学)におけるサービス人材育成プログラムと企業内研修(産)の事例を2件ずつ報告していただいた.さらに,産官学連携による経営人材育成を目的とした事例を1件紹介していただいた.

高等教育機関(学)の事例については,2007年および2008年に文科省の「サービス・イノベーション人材育成推進プログラム」で採択された事業の中から,以下の2件を取り上げた.

小坂氏には,北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)で実施されている「iMOSTコース」についてご報告いただいた.同コースは,“価値創造ができる人材”の育成を標榜した社会人教育プログラムである.同コースの特徴の1つとして,「知識経営」と「技術経営」,そして「サービス経営」の3つの領域に関する理論知識を講義で学ぶ点があげられる.即ち,サービス・イノベーションを実現する人材に求められる知識基盤として「知識」「技術」「サービス」の3領域が必要だとしている.また,同コースの社会人学生は,自らが抱える課題を修士論文や博士論文の研究テーマとして設定し取り組み,“製造業のサービス化”や“業務プロセスへのサービス概念応用”といった研究成果に結びつけている.“(サービスの現場経験を有する)社会人学生が価値創造という問題意識を持てば,生活する時空間のすべてがサービス概念の応用の対象になる.”という主張は非常に興味深い.

水野氏には,西武文理大学のサービス経営学部(学部教育)における,“高付加価値を生む,シミュレーション・マインドを持ったミドル・マネジャー”育成を目的としたプログラムについてご報告いただいた.同プログラムの開発段階では,数多くのサービス組織を対象にアンケートやインタビューによる大規模調査を実施し,その結果をプログラムに反映させた.具体的には,サービス組織におけるミドル・マネジャーが自分に与えられていると認識している役割として,「社内関係」「社内管理」「社外関係」の3因子,収益性の高いサービス組織ではこれらに加えて「意思決定」因子が確認されたという注目すべき知見が述べられている.同プログラムはまた,教授方略(Instructional Strategy)の点からも非常に興味深い.まだ社会経験の乏しい学部学生に対して「サービス」を理解させるため,敢えてケースメソッドやPBL(Project Based Learning)などのアクティブラーニング手法を積極的に採用し,かつそれらの実効性を高めるための細部に渡る仕掛けが具体的に紹介されている.

企業内研修(産)の事例については,前田氏と川上氏他に報告いただいた.

前田氏には,注目が集まるサービスのフロントライン人材だけではなく,それを支える多様な専門領域人材の役割遂行とチームワーク醸成の重要性とその人材育成事例についてご報告いただいた.航空運送サービスのようにサービスが高度にシステム化されていく中では,例えば機内食の製造と搭載を分担するケータリング部門の社員にまで,直接コンタクトすることのないお客様の視点に立って最高の価値を創り出すことが求められるという.この「お客様視点」が日常的に伝承される組織風土を構築し徹底することは,一朝一夕にできるものではないだろう.前田氏は,そのために必要なスキルとして,お客様の期待や要望に「気づく」力,利用可能な資源を「判断する」力,そしてそれを「行動へ展開する」力の3つを指摘している.

川上氏他には,サービス人材のスキルとその育成を目的として独自に立ち上げた企業内研修プログラムである「サービスアカデミー」と「サービスハイスクール」をご報告いただいた.いわゆるITシステム企業が2000 年前後からICTサービス事業へ参入することに伴い,それまでの事業で中心となっていたSE(システムエンジニア)とは“異なる”スキル要件として,リスクマネジメントスキル,システム運用の標準化による効率化スキル,そして継続的に顧客ニーズの変化を察知して対応するスキルの3つを取り上げている.また,サービス事業にける変動対応力として,「人材のポートフォリオ管理」と「サービス事業変革マネジメント人材」の重要性を指摘している点にも注目したい.同報告で言及されているとおり,人的リソースが保有し成果に大きく影響するスキルやモチベーションは,短期的かつ容易に獲得または変更することができないという特徴を持つ.従って,必要な時に必要なだけ活用するというわけにはいかないがゆえに,リソースシェアとリソーストランジションが必要と主張する.

最後に,産官学連携による経営人材育成を目的とした事例として,ご自身も深く関与されたサービス産業界で求められる経営人材育成プログラムである「知恵の場」と「サービス・フロンティア・ジャパン経営者フォーラム」について,経緯を含めて斎藤氏にご報告いただいた.斎藤氏は,サービス経営人材に求められるのは「知識」と「知恵」であるとしたうえで,「知恵」修得のために次世代の経営人材を対象とした「志の高い人が切磋琢磨する場」を構築すべく,産官学連携の先頭に立って取り組まれてきた.実施されたプログラムは,優れた経営実績のあるサービス産業経営者の経験を追体験するための「講演」と,その中に含まれる重要な視点や背景となる理論に関する「講義」のカップリングで構成されたものであるが,これはOff -JT(Off the Job Training) でKolbの経験学習則を効果的に適用する方略として極めて妥当なものと言える.

以上,本特集の5報告についてその概要を紹介した.各報告が提示した「サービス人材」コンピテンシーやその育成方略に関する重要な知見と具体的事例は,すぐに活用できるものも多いと思われる.その一方で,より汎化した「サービス人材」コンピテンシーモデルの検討とその育成プログラムの標準化・体系化が今後の課題と考える.

著者紹介

  • 櫻井 良樹

熊本大学非常勤講師,技術経営修士(専門職).情報通信企業にてR&Dや事業ラインを経験した後,人材開発部門に異動して研修の企画開発やeラーニングビジネスに従事.2014年に退職し,現在は各大学との共同研究を中心とした活動を行っている.学会誌「サービソロジー」編集長.

*1  “ヒト”を資源としてとらえる「人材」(Human Resource)という表記に対し,“ヒト”を資産としてとらえる「人財」(Human Capital)という表記も一般的になりつつある.筆者は後者の立場を取るが,本特集ではより一般に浸透している「人材」の表記を主に用いる.

*2  コンピテンシー(Competency)とは,業務で求められる知識(Knowledge),スキル(Skill),態度(Attitude)などの総称である.ISO 29990 におけるCompetency の定義は以下のとおり.

knowledge, understanding, skill or attitude that is observable or measurable, or both observable and measurable, which is applied and mastered in a given work situation and in professional development or in personal development, or in both professional and personal development

*3  コンピテンシーの構成要素を“知識,スキル,能力(KSAs:the Knowledge, Skills, and Abilities)”とする場合もある.

 
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