2016 Volume 2 Issue 4 Pages 44-45
文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では,我が国の科学技術イノベーション政策や研究開発戦略の立案・策定の議論に資するデータの収集を目的として,1971年より約5年おきに“科学技術予測調査”(1)を実施している.
今回の「フォーサイト/ホライズン・スキャニングシンポジウム」は2014年から2015年にかけて行われた第10回の科学技術予測調査(以下,予測調査という)の結果について報告するとともに,今後の科学技術およびその予測方法について,関係諸学会の有識者らも交えて協議するためのシンポジウムである.
第10回の予測調査においては,従来の「製造」分野を置き換える形で「サービス化社会」分野を設定しており,“サービス学会”からもご協力をいただいた.その関係から本シンポジウムにも代表者として参加いただき,サービス学の展望などについてコメントをいただいた.
そこで本報では特に「サービス」の観点から本シンポジウムの内容を報告する.
今回のシンポジウムは2015年9月2日文部科学省第2講堂(文部科学省旧庁舎6階)にて開催された.主催はNISTEP,共催は日本機械学会,石油学会,日本エネルギー学会,サービス学会,研究・技術計画学会,信州大学である.
参加者は147名で,内閣府や文部科学省など公的機関からの参加者45名,民間企業49名と行政関係者や企業からの参加者が多いことが特徴的である.
また,1971年から続く“科学技術”の予測調査という性格を反映し,共催学会も機械や石油などとなっており,サービス学会は異色の存在と言える.
講演プログラムについて表1に示す.
表1の講演プログラムの通り,基調講演は政策研究大学院大学の桑原輝隆教授(元NISTEP所長)にお願いし,科学技術予測の発展の軌跡と今後の展開についてご紹介をいただいた.
2.2 セッションI続くセッションIでは,予測調査の実施部署であるNISTEP科学技術動向研究センターのスタッフから,今回調査のフレームや結果と,それらから導かれる将来展望(シナリオ)に付いての紹介が行われた.
ここで予測調査は,(a)社会動向,なかでも一般的な経済分析から漏れるような特徴的な動向を調査する「ビジョン調査」,(b)有識者らの知見に基づいて個別具体的な科学技術トピックの展望を調査する「デルファイ調査(狭義の科学技術予測)」(2,3),(c)ビジョンとデルファイの結果にもとづき“並列して存在するいくつかのあり得る未来像”を描き出す「シナリオプランニング」(4,5) ,という大きく3つの枠組で構成されることが示された後,7つのテーマで構成される「シナリオプランニング」の結果が紹介された.この中では「未来共創型サービス」として,サービス学そのものを取り扱うシナリオも設定されており,予測調査の中で「サービス」取り扱った経緯や意図についても紹介が行われた.
まず「サービス」は暗黙的に各テーマをつなぐ軸としても考慮されており,テーマ横断型で提案される全体シナリオのうち我が国がリーダーシップを取るためのシナリオも暗に「サービス」,特に「価値共創」を意識して設定がなされていること,作成に当たって従来型のプロダクト・イノベーションだけでなく,サービス学で提唱されるサービス・イノベーションの重要性が強く意識されていることが紹介され,「サービス学」分野に対する期待が述べられた.
具体的なシナリオ例としてはわかりやすさの面から,モビリティのクラウド化を通じた異種サービス連携と,観光・防災連携サービスの2種類が示された.
2.3 セッションIIセッションIIでは,それまでの講演を受けて各学会の展望,予測への期待などについてのディスカッションが行われた.
サービス学会からはデルファイ調査「サービス化社会分野」の座長もご担当いただいた持丸総務理事にご登壇いただき,旧来の製造業・サービス業といった枠組みを超えた,「サービス」の重要性やその特徴について紹介いただいた.またデルファイ調査の結果も俯瞰しつつ,今後の科学技術のあり方として実験室に閉じた研究から社会の中に積極的に出て行って主客非分離で行う価値共創型の新しいスタイルへ変容していくことの重要性について指摘いただいた.
あわせてサービス研究の具体的実装例としてJST RISTEXの研究プロジェクトから1.社会のサービスデザインに挑む中島PJ,2.サービスの本質である“価値”の構造形式化に挑む戸谷PJをご紹介いただいた.
IoT(Internet of Things)などの進展により,物理空間と情報空間はますます近接しており,ものづくりにおけるサービス化の重要性が向上しつつある.第5期科学技術基本計画の中間とりまとめ案においても,価値やサービスについて言及がなされている.
このような流れの中で,本シンポジウムでも従来型の科学技術や研究分野に加えて,文理の壁や実験室と実社会の壁などを意識しない新しい科学である「サービス学」の重要性も示唆された.
今後,行政と学会の壁も越えて,我が国の科学技術・イノベーション政策に資する議論にサービス学の知見を活用できるよう,皆様と議論を進められれば幸いである.
〔小柴 等(文部科学省科学技術・学術政策研究所)〕