Serviceology
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Special Issue : "Servitization in Manufacturing -Business Trend-"
The Round-table Talk about Servitization in Manufacturing Industry
Kentaro WatanabeShintaro Tanno
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2016 Volume 3 Issue 1 Pages 24-32

Details

1. はじめに

「製造業のサービス化」特集の第2弾である本号において,企業視点から見たサービス化を採り上げる.著者らは,製造業の現場でサービス化に取り組んでいる実務家による座談会を企画,開催した.さらに,この座談会の模様をビデオに記録し,複数の若手研究者が,ビデオを見ながら意見交換する「メタ座談会」を行った.

座談会は,2015年9月20日,都内にて開催された.司会は,下村芳樹氏(首都大学東京)と戸谷圭子氏(明治大学大学院)が担当し,実務家として,五十嵐芳実氏(日立メディコ),伊藤宏幸氏(ダイキン工業),中根林太郎氏(東芝テック),細野繁氏(NEC)の4名が参加された.座談会が始まった直後は,全員,緊張した面持ちであったが,徐々に和やかな雰囲気へ変わるとともに多くの話題で盛り上がった.

一方,「メタ座談会」は,2015年12月20日,同じく都内で開催された.司会を筆者の1人である渡辺健太郎が担当し,菊池一夫氏(明治大学),木見田康治氏(首都大学東京),藤井信忠氏(神戸大学)の3名,ならびに同じく筆者の1人である丹野愼太郎がメンバーとして参加して実施した.なお,ビデオでは伝え切れない雰囲気や補足説明が必要であったことから,戸谷圭子氏と持丸正明氏(産業技術総合研究所)にもオブザーバーとして参加していただいた.実務家とは異なる視点からの発言が多く,座談会とは異なる雰囲気での盛り上がりを見せた.メタ座談会終了後,筆者らは,サービス化に関する実務家側,研究者側双方の意見を比較,分析した.

座談会,「メタ座談会」とも,示唆に富む内容が多く,限りある誌面では全てを記しきれないため,今回は,特にメタ座談会後の分析で重要と考えた部分を採り上げる.テーマ毎に,左段に座談会の実務家の会話を,右段にメタ座談会での研究者の会話を記載している.是非とも各々の視点の違いを感じながら読み進めて頂きたい.

2. 座談会の内容

2.1 サービスはただのコストか,プロフィットを生み出すものか

伊藤氏(以下敬称略) 我々に限れば,サービスは付帯的な業務です.営業は,製品寿命が来るまでに次の自社製品に変えるアプローチを顧客にかけます.その時に,営業側からすると営業でがんばったから売れた,研究や開発設計側からすると新しい機能とか新しい能力・性能の向上で売れた,となる.(どちらにしても)製品には保証期間が必ずあるので,サービスはあってもなくても良かったのではないか,となる.サービス自体を開発するコストは,誰の負担になるかが最大の問題なのです.

下村氏(以下敬称略) 昔は確かにそういう認識だったのですよね.だから,サービスを設計部門で設計するなどということは,極めて何を奇異なことを言っているのだという雰囲気がありましたよね.

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菊池氏(以下敬称略) 経営者の認識として,サービス部門をプロフィットセンターとして捉えられるかどうかが課題だと思います.結局は,上の人の理解とコミットがないと,なかなか立ち上がりづらいのではないかなと思いますね.

木見田氏(以下敬称略) 現状のマーケットが対象でも,プロフィットセンターに変え得る可能性はあるのですけど,それをやろうとしないメーカー側のマインドの強さは,やはりありますね.PSS(Product-Service Systems:製品とサービスを一体としたビジネス形態)として設計をする時,一番懸念することは,それによってモノが売れなくなる可能性です.もしかしたら,サービスでその収益をカバー出来るのかもしれないのですが,やはりそこが踏み切れない.

2.2 サービス体制とリモート化

伊藤 従来型のメンテナンスサービスの設計の場合,配管がぎっしり詰まっていて,「こんなところに手が入らない」というような問題を,例えば3D-CADで解消しました.サービスは人が行かなきゃいけない,という問題認識から,遠隔で何か出来るのではないのかというような話になってきています.しかし,弊社の事情だと,リモートでやるにはいろいろ障壁があるわけです.一番は通信インフラとの関係です.お客様に,このために敢えて1本電話引いてください,と言わなきゃいけない.お客様にとっては,そこでもうバリアが生じるわけです.お客様の認識として「うちで買った物でしょ」っていう感覚があるものだから.例えば,「(お客様自身で工場が稼働していない時にメンテナンスをしようと思っても,)事前に故障の兆候に気が付かないと出来ませんよね.営業中に壊れれば,すぐ修理に行ったとしてもその半日間は,止まっている状態になってしまいます.ご迷惑掛けませんか?(ですからリモートメンテナンスを入れてくださいませんか?)」ということを(例えば営業担当者が)言います.しかしそれは非常に表面的なことなのです.実際には,故障が集中する時期はわかっています.するとその時期に,我々のサービスマンが大量に必要となってしまいます.これを平準化するために,リモートで少しずつばらけさせる.そうすると,サービスレベルは一定にしながら人件費を下げられるというメリットがある.賢いお客様はそれに気付いているので,「なんでうちが費用を払わなあかんねん」となる.

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菊池 この「リモート化したい」というのは,サービスを平準化したいというか,サービスの供給バランスを安定させて,均質なサービスを提供したいっていうことで,一種予防的な考え方になってくると思います.

木見田 発電システム関係の方にインタビューした時も,お客様の環境で発電機が止まっちゃいけないっていうのがありましたけど,止まるか止まらないかというので(お客様が契約している,発電機の運用に関する)保険料が高くなるそうですよ.その保険料を下げるために,メーカー側と長期間のサービス契約をして,信頼性を上げることで保険料を下げるようです.

菊池 温泉のお湯を汲みあげる会社があるのですが,採用時には必ず工場に配属させるそうです.営業も,元々,工場部門から配属されますし,メンテナンスサービスには,営業の人も調達の人も行くのですよ.全員が工場の経験をしているので,そこでの知識が生かせるのです.機械が壊れても営業マンが行ってすぐ直せる体制がとれているっていうのは,中小企業なりの面白い考えだなと.知識のシェアリングですね.

2.3 サービスの下位互換性

伊藤 リモート監視等のサービスの設計をしていくと,下位互換性が問題になります.「どのぐらい昔のマシンでも新しいサービスを受けられますか?」っていうことです.(昔の製品は)プロセッサーも大した性能はないし,メモリーだってもうギリギリ.そこに押し込める作業が結構大変なのです.

下村 ライフサイクル的に,古い物を使うとコストが高くつくということはベンチマークが出ていますが,それでもやっぱり(新製品への置き換えを提案することは)難しいのですか?

伊藤 難しいです.それと,買い換えで我々の製品が選ばれる保証も無いですから,それが一番大きいです.お客様1社でうちの機械をたくさん持っていますので,古いモノも新しいモノもあります.我々の場合,群でもってお客様を丸抱えしていかないといけないのです.使用頻度に応じて,例えば「この機械に関してはあまり使用頻度も高くないので,13年前の物ですけど,これだったら別に今変えなくても大丈夫です.よくメンテナンスすればあと5年ぐらい使えるのではないですか」という提案もします.

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菊池 お客様が機器を大切にずっと使い続けたいと思うと,古い機器がずっと残ってしまうというので,それに対応しなきゃいけないというのは大変ですね.

木見田 ビジネスモデルの形態にもよると思うのですよね.1社1社のお客様が所有していて,稼働率があまり高くないのを,シェアして稼働率を上げていけば期間として短くなりますよね.そうやって「使い倒す」という言い方をすると,理解が得られやすいですね.でもそうすると部分的なリースとか,例えば電気自動車ですけど,バッテリーが圧倒的にその他のハードに比べて消耗が激しいので,そこだけUse-Oriented*1にする,みたいなPSSもあります.製品(車体全体)を買うのですが,バッテリーだけはリースになっているとか.

渡辺 そこまでいくと,まさに製品とサービスを一体でデザインしていかないといけない,という話になりますね.

2.4 サービス=タダという商慣習

細野氏(以下敬称略) 2007年頃を振り返ってみると,社内の議論では当時サービスっていうとタダ.「サービスしてよ」みたいな,そのサービス(という認識が主流を占めていました).

下村 今も言われることありますけど.

細野 そんな時代でした.(社内においてさえ)サービスの話が出来る相手が限られていたのです.システムを作るところ,SIを実施するところには,なかなか繋がらなかった.弊社の場合,サービスっていうと運用サービスだったのです.

下村 その頃,もっとサービスをしていかなきゃいけないというイメージみたいなものはあったのですか?

細野 世の中的にサービスが大事だ,しかし,それをIT企業に置き換えたら何なのかというところは,きちんと定義出来てなかったですね.

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木見田 サービスがタダという話に関連して,システム屋さんがインテグレートして渡し,お金をもらうというビジネスモデルですけれど,だんだん,業務を分析してどういうシステムが必要かっていうところに(価値の)比重が大きくなってきた.ただ,昔はそこ(業務分析)に対してのお金を,お客様は払ってはいなかったわけですよね.

渡辺 結構,商慣習って大きいですよね.一度,契約を結んでしまうとそれを変えるのがすごく難しい.

丹野 サービスはタダというのは,そういう昔の付き合いのところに非常に多い気はしますね.

2.5 箱売りと利用料ビジネス

下村 88年頃だと,コンピュータを売っただけじゃ上手くいかなくて,後のことを面倒見なきゃいけないという状態だったようです.顧客側が,サービスプロバイダの力を借りなければ使いこなせない状況があったにも関わらず,随分後になるまでサービス志向という話にならなかったというのが,とても不思議です.

細野 私の認識ですけども,当時,そういう大きなハードウエアを顧客へ入れて,人を配置して,回していたっていう時期がありました.その後,ダウンサイジング化が進み,ハードウエアがモジュール化されて安くなりました.その流れで,最初は人を含めて全部でビジネスとして成り立っていたものが,だんだんと手離れが良くなっていき,今度はハードでお金を儲けるようになりました.その後だんだんと人手がかからなくなってきたところがソフトウエアとして提供されるようになってきました.結果として,ソフトウエアやハードウエアという製品中心のビジネスに変わってきたっていうところがあるのかなと思います.

中根氏(以下敬称略) 今も昔も,製造業は基本的に箱売りです.サービスのように利用料をもらうとか,ライセンスやメンテナンス費としてもらうとか,無形のサービスに対しての支払いという形を取ろうとすると,今でも日本の製造業には障壁があるのです.

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木見田 ここで出てくるサービスという言葉が,Goods-Dominantなサービスなのですよね.「サービスを開発する」とか「売る」とかのサービスは,すごくGoods-Dominantなサービスを対象としていて,サービスという言葉の注目は高まっているけど,SD(Service-Dominant)ロジックの発想にはまだいってない.スマイルカーブ上の上流(左端)にある「ここのコンサルティングをがんばります」っていう話で,設計しているものはビジネスとしてはGoods-Dominantなのですよね.文脈価値,コンテクストと言われる人は増えてきたのですけど,でも根本的なやり方が変わっていかないと,なにか限界がありますよね.

2.6 サービスの社内評価

細野 やっぱり物売りっていいますか,社内でSIを実施するというのは,工数ベースでカウントされていて,それでビジネスが成り立っている.(モノとサービスでは)売り方も違うし,何よりも社内評価の仕組みがない.

戸谷氏(以下敬称略) 工数というお話があったのですけれども,クラウドだと,開発の時だけではなくて使い続けることでもフィーをもらいますよね.

細野 その部分のフィーって,最初の売り上げがわかりづらくカウント出来ないですよね.SIの場合,このくらいのビジネスボリュームでいくらの案件を取ってきたとか,これだけの工数が掛かるからとかがわかる.でも,例えばクラウドのサービスの場合だと,どれだけのお客様がどのくらいの期間利用するかの見込みがわからない.今までと同じ枠組みで評価されたら,全然モチベーション上がらないですよね.

下村 でもサービスの場合は,今までのモノを売る時みたいな,分かりやすい指標はおそらく当てはまらないですよね.収益方法も時間軸も違うから.

細野 そうなので,堅実なビジネスは残したまま.

中根 今,仰っていたところがビジネススタートアップの時の本質的な課題だと思います.社内承認を回さないと予算化も出来ないし開発費も出ない.ヒト,モノ,カネが付かないわけです.もう1つは,例えば,リアル店舗とECのオムニチャンネルと色々なところで言われていますけども,実は双方ともあまり協力しないのです.同じチェーン店でも,店舗の売り上げがECに持っていかれたら困るのです.そういう意味では,間接的効果が除外されがちです.

五十嵐氏(以下敬称略) 我々の場合,サービスは独立採算みたいな形になっています.売り上げ,受注,損益の予算をそれぞれが持って毎月活動をして,それで評価の一指標としています.

戸谷 そこに社内コンフリクトは無いのですか?

五十嵐 無いかというと多分あって,営業部門は新しい装置にリプレイスしたい.サービス部門はバージョンアップして,自分達の受注にしたいというのは確かにあります.ただ,その時には,同じ事務所の中で話し合って「じゃ,このお客様はこちらの提案がご要望と合致しているでしょう」と,ある程度決めますが最終的にはお客様次第です.

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木見田 これは社内評価に絡むと思いますが,以前,サービス設計のワークショップをした時,色々フィードバックもらっていく中で見えてきたことは,製品のエンジニアは,問題がクリアでそれを満たす要件がしっかりしてないとやっぱり製品設計は出来ない.サービスのオペレーションで起こり得る事後創発みたいなことが出来ないのです.要件がきちんとあって,そこをクリアして,初めて世に出せるわけです.

渡辺 PL(製造物責任)はかなり影響が大きいですよね.

戸谷 製造物だとそういうリスクが皆気になってPLとか法律とか規制されているから,安全を確保するってことですよね.でもサービスだって安全を確保するってことはすごく求められていて,規制もすごく厳しいのですね.

持丸氏(以下敬称略) 多分,製品の方は出した人がその後uncontrollableだと思っているってことでしょ.

戸谷 uncontrollableじゃないようにすれば良いわけですよね.

持丸 それがまさしくサービスで,製品とサービスが一体化となって,その後もオペレーションが出来るようになっていくと製品も最初にガチガチに作る必要はない.PLのために作った社内の仕組みがPL以上に過剰に働いているような気がしますけどね.

木見田 (メーカーは)手離れが悪いことに対して過剰な反応を示しますよね.手離れが悪いということは,言い方をかえると製品を出した後も(お客様と)お付き合いがある.そこでお金を取る,あるいは何かしらの情報を収集するって考え方もあるわけじゃないですか.製品を出した後のインタラクションを持つことに対して,ネガティブな感情が強いですよね.

2.7 サービス契約の戦略

下村 偏見かもしれませんけど,機械も部品も高いですよね.駄目になるとすごくコストが高くなるから,いかにそうならないうちに(予防メンテナンスを行う)というのは,顧客にとっても大事じゃないかなと思いますが.

五十嵐 そうですね.例えば,ある装置の部品だとかなり高額なものもあります.ただ,それを使うことでお客様は収入を得られるので,壊れても直さないといけない.

戸谷 1回いくら,という契約の仕方はしないのですか.

五十嵐 それで,使用1回当たりいくら頂きますというサービスを作りました.従量課金と似ていますけど,例えば,装置1回の使用で,お客様に1万円の収入があるとします.そのうち何千円分かを保守の方に頂きますっていうようなことです.

戸谷 機器の売り切りか,そのサービス契約に切り替えるのは,全社的な意思決定ですか?

五十嵐 基本的にお客様の選択です.ただ,安価な装置というのは,なかなか保守契約が難しいです.

下村 お金はいくらでもありますというユーザーばかりじゃないですよね.あまり予算が無くて,価格が怖くて導入出来ないようなところが,顧客になり得たのではないかと思うのですが,その辺りはどうですか?

五十嵐 お客様も最初は,装置を入れても,こなす仕事量が少なくて収入がない.その時には,この契約の導入で最初の基本料を払って,その後,仕事が増え,収入が増えて,保守料も増えてくるっていうようにします.最初のところは少なくて済むっていうのは確かにあると思います.装置がないと仕事が来ないので.

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菊池 この機器の事例について,例えばサービスを提供すればするほど儲からなくなるというような,サービスのトラップがあると思います.お客さんによるメニュー化と言いますか,お客さんが選択する価格のパターンを提示した時にどういう組み合わせで一番利益があがるとか,そういうことを試算しないとサービストラップに陥ってしまうのではないかと思うのですが.

持丸 分析可能な形でデータが蓄積されているのかが気になりますよね.

藤井氏(以下敬称略) それはそうですよね.データがデータになってないという状況はありうるのだけれども,営業担当やエンジニアの中に知見が貯まっていて,それを使いながら予測をしてそうですよね.

2.8 サービス拠点の重要性

伊藤 異なる用途の自社製品をリモート監視するサービスをやっていますが,緊急性を要する製品の場合,サービスが出来るところしかハードウエアが置けないのです.あるところに拠点を作ったら何分でどこまで行けるとか,「橋を越える時に渋滞する」とかを考慮してサービス設計するわけです.だけど,何日もかかってメンテナンスに行くようなところだと,実はハードウエアの提供が出来ないというようなことになってしまう.今はそういう混然一体とした使い方もありますよね.

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藤井 拠点整備の話になると,アフターサービスのサプライチェーンという考え方が出てくると思います.全国展開するほど拠点の整備が必要なので,サービス人材の配置,育成が必要ですし,その時にどのようなアフターサービスプログラムを提供するかを考えないといけない.保守点検を標準化していくことが鍵になってくるのかなと思いますね.

木見田 その点については,ヨーロッパでインタビューしたことがあります.アフターサービスの相当な部分をお客様にやらせるのですよ.それは,やっぱり拠点整備が大変で,日本のような小さい島国と違って北欧とかだと出来ません.お客様に対してのメンテナンス勉強会を開いてトレーニングする.面白かったのは,そうやってお客様をトレーニングすると,お客様が色々わかってくるので,サービス料が減るどころか,色々な新しいもの(ビジネス,要望)が出てくるそうです.拠点を整備して提供者側が全部やるっていう日本のやり方と違うなと思いました.

戸谷 いいですね.まさに価値共創ですね.

2.9 想定しない使われ方

伊藤 色々なところで失敗しながら,サービスマンが行って,「なんでこれと同じことばっかり起きるのかな」というようなところから始まって,それがフィードバックされてモノに反映させていくということをやりますよね.だから,サービスに教えられることは実は多い.だってお客様はそんなことを意識していないから.

戸谷 そうですね.

伊藤 (機械が)止まったという事実だけがあって,お客様は「じゃあ,何とかしろ」って言うだけですよね.お客様の声を聞いたから全てが出来るわけじゃない.やはりサービスは,本当にエンジニアと結び付いています.そこが上手くリンケージするともっといいなと思う.

下村 そうなのですよね.設計側にちゃんとフィードバックされるようになって,モノとサービスの次の付加価値向上に繋がっていることが重要なのです.

伊藤 市場のシェアを取っていると,我々が想定もしないような場所で使われるので,他社がまだ知らない領域を知っているわけです.この領域で得られた知識をちゃんと製品の設計に転換している.だから逆に,社内でサービス軽視の問題が出てくるわけです.付加価値を全部そこにフィードバックしてしまうから.

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木見田 他社が知らない部分まで見えてくる,色々と広がってくるっていうのは,まさに製品とサービスの好循環を生む例だと思います.そのソリューションが,全部プロダクトにインプリメント出来てしまっているので,結果としてビジネスモデルも変わらないし,収益構造も変わらない.それが製品重視につながっていると思います.サービスをやっていることで色々な情報が得られるにも関わらず,何を設計するかが依然としてプロダクトであるので,Goods-Dominantのビジネスモデルから変わらない.

菊池 サービス業がお客様のことを良くわかっていて,その問題を解決するための商品を提供するという,トータルとしてのPSSの事例もあります.製品に落とし込むところと,逆にサービス業が製品を提供するっていう逆のパターンもありますよね.

木見田 それはすごく大事で,サービスカンパニーだとやりやすいです.製品ありきではなくてちゃんと作っている.メーカーは,プロダクトになんだかんだいっても落とし込まなきゃいけないところが難しい.ユーザーニーズをすごく分析した上で,それを満たすと同時に,自分達の強いところでやらなきゃいけないっていうところの難しさがあります.

2.10 顧客を育てるというマインド

下村 どうしてアグリゲーター(エネルギー管理)をやらないのですか?

伊藤 経営的には大きな不安要素ですから.やろうと思うと責任を持たなきゃいけなくなるという意味で損益の振れ幅が大きいということです.うちがいいって言ったけど,お客様が言うことを聞いてないとか.「実は動いてないじゃないか.おまえのところで払え」とかに繋がってくる.

下村 ペナルティーが出る.そういう顧客がいるっていうのは,結構不確実性としては大きいですよね.

戸谷 ビル全体の管理っていう話だと,学生がよくアズビルさんの例を話してくるのですけれど,何が強くて取れるのですか?

伊藤 彼らはギャランティーです.我々はワランティ―で,やはりそこまでは出来ないのです.やっぱり物売りの会社で,工場で作って,それを顧客に使ってもらう商売なので.顧客の中に入り込んでまで,なかなかソリューション提供出来ない.

下村 技術的には出来ますよね.

伊藤 出来ます.その領域に入っていこうと思うと,それなりに覚悟しなきゃいけないと思います.

下村 新しい市場というか,価値を得るためには顧客のプロセスに入っていくことが極めて有効だって皆さんご存じなのだけど,そこに対する不安というか危険性をすごく意識されているのですよね.

伊藤 そう.やっぱり基本は物を売りたい.その上で,サービスで付加価値を付けてなるべくエンドユーザーというか,そういうところに近づきたい.

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木見田 技術あるいは会社として出来ることと,強いことは違いますね.

渡辺 個人的に感じるのは,顧客に責任を取らせないっていうのは,一種の商習慣なのかなって思います.

木見田 単なる役割分担じゃなくて,ある程度顧客を育てるというマインドが,提供者側に必要だと思います.顧客を育てることによって,マーケットは広がっていきますから.その点が,提供者側,受給者側双方に足りないですよね.単にリスクを押し付ける議論になっていて,「ここを分担すれば次のものが出てくるのだ」っていう発想がないですね.

持丸 「成功モデルみたいなものを1つ作って」って良く言うのですけど,これだけ色々な業界に成功モデルがある中で,上手く育っていかない原因はどこにあるのですかね?

木見田 PSSの話をしていると,成功モデル自体の最終像はあるのですけど,そこまでのプロセスが全然整理されてないのだと思います.

藤井 結果を共有するだけじゃダメということですよね.

木見田 プロセスの分析もそうですし,あるいはプロセスを設計出来るような方法もすごく必要だと思います.

2.11 データ活用とその課題

戸谷 顧客データの活用については,何かされていますか?

中根 1つはお店の中だけの話から,アウトストア,例えばECサイト,ダイレクトメールなどに繋げていきましょうというのがあります.もう1つは,その辺の情報を使ってフィードフォワードをしましょうみたいな話です.

下村 あるいは店舗って考え方じゃなくて,商品開発者の方にフィードバックする.

中根 もちろんそうですね.だけど実情はそんなに簡単じゃない.顧客データ自体の扱いが非常に難しいです.

戸谷 強いところは,データベースもソリューションもソフトウエアもコンサル部隊も全部持っていますよね.御社でもグループでやればそういうことが可能かなと思うのですけど.

中根 難しいのは,多分小回りが利かなくなるっていうのがあります.グループ内でも色々な分野があって,連携はするのですけど,いざ事業になった時にその管理をどうするかの話が出てきます.利益はどこ,コストはどこが払うのとか,そういう話が出てくるのでなかなか難しいです.

伊藤 よく,機械に監視カメラを付けて,人の在不在のデータからサービスに繋げられないかと言われる.そこまでやってはいないですけど,実は今でもリモートで取るデータのうちの数パーセントしか利用していないのです.実は行動パターンを全部知ることも出来る.あえてやってないし,やり切れていないです.

下村 そこはテクニカルな問題と倫理上の問題がありますよね.

伊藤 それはすごく大きいです.倫理上の問題というのは,逆に言うと責任問題になるので.

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菊池 ヒアリングをしていると,IoT化するというのは色々な企業が言われていますし,実際にされているところもあるのですけど,データを解釈してそれを基に提案していかないといけない.単にデータを送られただけだと,顧客の情報処理能力が必ずしも高くない場合は,ジレンマを生むっていうようなことが起こり得ます.

木見田 解釈するにも,何が顧客に対する価値かということを理解していないと提案が出来ない.データを生でとっている一方,顧客を知ってないとそこを繋ぐ提案が出来ない.そういう人材は圧倒的に少ないというのは,どの企業も仰っていますね.

藤井 日本人はデータを出すことを嫌がりますよね.Industrie 4.0もIndustrial InternetもIoTも結局インフラです.成功例を出すとか,顧客や社会の教育というか,合意形成みたいなものを上手くする必要はあると思います

3. 若手研究者からの提言

最後に,研究者から,今後の製造業のサービス化研究に向けて次のような提言がなされた.

菊池氏は2つの点について語った.1つ目は,日本の製造業におけるサービス化のパスのあり方で,パスの違いによって財務結果への反映がどのような形となるのか,言い換えるとビジネスとして成功,失敗となるのかを注視すべきだということであった.2つ目は,サービスの価格設定のあり方である.サービス化を進める上では,顧客の知覚するサービスについての価格設定が重要であり,研究の必要性を感じているとのことであった.

木見田氏は,サービスを設計する際の評価方法やシミュレーション方法の必要性を述べた.今は,明快なサービス設計の方法論が確立されていないことが問題で,その結果,現場の実務家が設計したサービスについて,経営層が納得しづらいのではないかと指摘した.

藤井氏は,サービスの提供プロセスの更なる理解,そして,このプロセスとサービスユーザーの個人の主観的な評価,あるいは集団としての評価との結び付きをフレームとして考える必要性を語った.サービスを利用する顧客の評価は主観的であるがゆえに,顧客の教育をサービスのプロセスに織り込むことが大事だということである.

渡辺は,日本人の強みであるはずのAdaptability(適応性・順応性)が,サービス化においては生かし切れていない点,Servitizationを研究する上では,各国間の産業的,あるいは文化的な違いや背景をより理解する必要性を述べた.

オブザーバーとして参加頂いた戸谷氏,持丸氏からは,更なる研究の必要性について助言があった.

最後に,サービス学会を通じて,より活発な議論がなされること,新たなプロジェクトが立ち上がる期待を語り,メタ座談会を締めくくった.

4. おわりに

本座談会は,限られた企業数,参加人数で実施されたにも関わらず,製造業のサービス化というテーマが有する多様な側面,例えば商慣習,ビジネスモデル,社内評価,顧客の役割,技術の役割等が論じられ,一参加者としても大変興味深い場となった.各企業で実際にサービス化に取り組んでこられた実務家の方々の実体験を素材とし,異なる分野の研究者がそれぞれの専門・観点を持ち寄って議論を行う.このような産学連携・異分野連携による取り組みは,今後,サービス学の発展に資する取り組みの1つの形になりうるのではないか考えている.今回,座談会と「メタ座談会」を通じて提起された製造業のサービス化の抱える課題や必要な取り組みについて,今後更なる研究が行われることを期待したい.

最後に,本座談会に参加頂いた実務家,研究者の皆様,並びに座談会および本稿執筆の機会を頂いた先生方に感謝申し上げたい.

著者紹介

  • 渡辺 健太郎

産業技術総合研究所人工知能研究センター所属.工学博士.2005年東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻修士課程修了.民間企業勤務を経て,2012年首都大学東京大学院システムデザイン研究科博士後期課程修了の後,現職.専門は設計工学,サービス工学.サービス設計方法論,並びに支援技術の研究に従事.

  • 丹野 愼太郎

1978年7月1日生まれ.2001年同志社大学工学部物質化学工学科卒業,2013年同志社大学大学院ビジネス研究科修了(経営学修士).産業ガスメーカーで営業に従事,関連会社役員を経て,2014年12月に産業技術総合研究所入所.現在,製造業のサービス化における研究等に従事.

*1  PSSの形態のひとつ.シェアリングやリースなど,製品そのものでは無く,製品機能の使用権をサービス提供する.製品の所有権は提供者にある.

 
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