Serviceology
Online ISSN : 2423-916X
Print ISSN : 2188-5362
Report of SIG Activity
Systems approach for Service Design
Takashi TanizakiNobutada FujiiTakeshi Shimmura
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2016 Volume 3 Issue 1 Pages 46-47

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1. はじめに

2013年4月から,サービスデザインの方法論について1回/Qの頻度で議論している本SIGでは,設計・生産・提供するプロセスをサービスの観点から捉え直し,サービスドミナントな製品・サービスをデザインするための方法論を,システム理論を軸に模索している(1)

前回報告(2)以降の活動状況について報告する.

2. 活動状況

図1に前回の報告で提案したサービスプロセスモデルの概要を示す.サービス生産・提供者は,消費者からの需要情報と,内部モデルである消費者モデルを参照しながら,自身の資源制約を満たすサービスの質・量を決定し,生産・提供を行う.一方,消費者は自身の状態・ニーズと,内部モデルである提供者モデルを参照し需要情報を生産・提供者に伝え,提供されたサービスを消費する.サービスの提供プロセスを繰り返し,前回の経験をもとに,消費者モデル,提供者モデルが構築・修正されていく.このモデルを構築するのがサービスデザインであるが,その難しさは,内部モデルの精緻化と変化への適応性と考えられる.サービス生産・提供者は消費者を観測し内部モデルを構築するが,その内部モデルには必ず「解釈」が伴う.この解釈は,あくまで生産・提供者の主観であるため扱いが困難となる.いわゆる熟練者は解釈が優れているものと考えられる.これらをシステム的な手法によって補完することができればサービス生産・提供のサポートシステムとなり得ると考えられる.

図1 サービスプロセスモデルの概要

前回の報告以降,いくつかの企業および大学からサービスプロセスデザインに対する取り組みについて話題提供いただき,上記サービスプロセスモデルについて議論している.

A社では,消費者が必要なサービスを適時・適量提供するために,需要予測結果に基づきサービス材料を発注すると共に,労働投入量を決定し,サービスの生産・提供を行っている.その際,需要予測の精度を向上するために,POSデータを用いた消費者のカテゴリ分析と重回帰分析を用いて需要予測のモデルを構築している.この例は,消費者の内部モデルとして需要予測を導入し,その内部モデルを参照することで消費者の需要に合致したサービス提供の精度向上を狙っていると考えることができる.

B社では,商品提供後のアフターサービスを充実することで,事業拡大を検討している.そのために,事業分野ごとの実績データを業界・関係性・利用形態別にセグメント分析し,その結果から顧客・売上・サービスメニューを軸に戦略・戦術を検討し,行動指針を導出することを模索中である.さらに営業マンの顧客への配分を考える際に,資源配分問題としてモデル化することを検討中である.上記は消費者の内部モデルとして数学モデルを導入し,営業マンの配置最適化を狙っていると考えることができる.このモデル化は,筆者がサービス学会に発表した事例研究(3)と同様のアプローチと考えられる.しかし,本モデルの場合,営業マンの能力および顧客の受注可否など不確定な要素が多く,現時点では実用的なモデル構築へのハードルが高い.

C社では,B to B製造業の提供するサービスについて,製品提供先の機能の価値を向上するためのサービス施策について検討中である.これは,サービス消費者の内部モデルを製品提供先の機能ととらえていると解釈することができる.

D大学では,サービス提供のための従業員勤務計画を立案する際に,サービス品質の向上(顧客満足度),従業員の要望(従業員満足度),人件費の削減(経営者満足度)を満足する計画の立案アルゴリズムについて研究している.これは,サービス提供者の内部モデルとして数学モデルを導入し,上記3つの相反する満足度の同時向上をはかる研究である.

E大学では,サービス提供者の内部モデル研究の一環として従業員満足度モデルを構築し,相関分析や共分散構造分析などを用いて,担当ポジションや属性の違いによる従業員満足度構造の差異を明らかにすることに取り組んでいる.

いずれの取り組みも,図1のサービスプロセスモデルの枠組みにて表現可能である.議論の中で,「人間の能力の定量化」が難しくモデル化のハードルが高いことも話題になった.しかし,モデル化を行うことで他業種・他業態への応用が可能であるとの意見もあった.このような議論を継続することが,サービス学の産業応用につながると考える.

3. おわりに

本稿では,前回報告以降のSIGの活動状況として,企業および大学からのサービスデザインについての話題提供と,議論内容の概要について述べた.今後,これらの定量的なモデル化とサービス生産・提供のサポートシステムについて議論を深めていく予定である.

著者紹介

  • 谷崎 隆士

京都大学大学院情報学研究科博士後期課程修了.1984年住友金属工業(株)入社.最適化システム研究と生産性向上企画に従事.2009年近畿大学工学部教授(表記職兼務).博士(情報学).

  • 藤井 信忠

神戸大学大学院自然科学研究科博士後期課程中退.日本学術振興会特別研究員(DC1),神戸大学工学部助手,東京大学人工物工学研究センター助手,客員助教授を経て,現在,神戸大学大学院システム情報学研究科准教授.博士(工学).

  • 新村 猛

筑波大学大学院システム情報工学研究科修了.現在がんこフードサービス株式会社取締役副社長,国立研究開発法人産業技術総合研究所人間情報研究部門客員研究員.サービス工学の研究に従事.博士(工学).

参考文献
 
© 2019 Society for Serviceology
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